魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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愛情 それは人が生きる上で一度は味わったことがあるであろうもの。
大なり小なりあるそれは、人に多大な影響が出る大きな力でもある……そう、それがたとえ正しくても、間違っていても。

今回はなんと悟空が出ません。 残念ながら。

りりごく16話 どうぞ!


第16話 そのころの強戦士と魔導師たち

 

 暗い部屋、その中で二つの影が寄り添っている。

小さな影とそれを抱き寄せる大きな影、その影たちはお互いに微笑みを交わしていた

 

「ねぇ■■?」

「なぁに?」

 

 小さな影。

 金色の髪を腰まで伸ばし、あどけない笑みをこぼしている年端もいかない幼い少女……は聞く。 その瞳に、微笑んだ表情とは正反対の色をただ寄せながら。

 そんな姿に、灰色の髪を少女と同じく腰まで伸ばした女性は優しく微笑みながら……答える。

 

「お仕事……いそがしいの?」

「……ごめんね■■■■」

 

 そう呟いた女性は少女をそっと抱き寄せる。 ちからはそれほど強くはない―――けれど、その内に込めた『想い』は強く、大きく。 替えがたい繋がりを確かめ合うように彼女たちは互いを抱きしめる。

 

 

―――――――――――――――――――――――――くく......

 

 

「いまのお仕事が済んだら……おやすみをもらえるわ、だから……」

「ホント! ピクニック……行ける?」

 

 休息と言った女性の言葉……それを聞いた少女の瞳は輝く。 大切な……大好きな■■と一緒に幸せな時間を過ごせると。 いつもの一人の時間じゃない、誰かがではなく、『このひと』と一緒に居られる。 そう思ったら胸の鼓動が早くなる。

 だから約束をしよう。 一緒につくったお弁当をバスケットに入れて、晴れ渡った空の下、きれいに生えそろった芝生の上を歩いて。 それで、それで――――

 

 

――――――――――――――――――――いつまで眠っている。

 

 

 少女と女性はお互いを抱きしめるようにそっと腕を伸ばす。 その姿は誰が見ようとも■と■であり、否定の声が上がろうはずがないその光景は、そんな二人の幸せな時間は……

 

 

―――――――――――――――貴様の出番だ! さっさと起きろ!!

 

 

「――――――ッ!!」

 

 目覚める。 今この瞬間に『プレシア・テスタロッサ』は『ひとり』暗い部屋で目を醒ました。 まるで引きずり出されるかのように、虚構(ぬるま湯)の世界を打ち崩された彼女。

 

「―――――」

 

 その視線はただ黙って、誰もいない自分の横を見下ろしながら。

 

「―――――シア……」

 

 芳醇さを含んだワインを飲んだ後の様な、甘美な夢から無理やり現実へと引っ張られた彼女はその身を起こし、声の主。 あの『化け物』の声のする方へと歩き出す……その白く生気が抜けて行っている顔を自嘲と嘲笑に歪める。

 

「なにを……いまさら……」

 

 もう、遠い昔なのだと嘲って…………

 

 

アースラ艦長室

ユーノを含めたアースラの主要乗組員数名が、先ほどの戦闘について話し合いをしていた。

 

「とりあえず、以上のことを踏まえると当面は悟空君の捜索と『アレ』への対策……」

「音信不通らしいフェイト・テスタロッサの母親の目的と状況」

「……最後に悟空さんを圧倒したという“サイヤ人”と名乗る、黒い鎧の男ですね」

「結構やることがいっぱいですよねぇ」

『はぁ~』

 

 フェイトからの情報提供により判明した3つの事実。 2つ目については話すのをかなり渋ってはいたのだが、それでもなんとか話してくれたフェイトの話はどれも衝撃的だった。

 一難去ったらまた一難。 いや、この問題の多さは果たして『一難』などとひとくくりにしていいモノなのだろうか? 誰かが漏らしたそんなつぶやきに、答えようなんて思う人間など居らず、鬱屈とした空気が口々から吐き出されると、桜の花が舞い散る室内に充満していくのである。

 

「それにしても、まさかあの怪物の正体が悟空さんだったなんて……なのは、大丈夫かな……」

「……本当なら喚くなり泣き叫んでくれるなりする年齢だと……いいえ、してくれると助かったのだけれど」

「なのはちゃん、独房に入る前には逆に笑いかけようとしてましたもんね。 あれ、相当無理してますよ」

「…………そう、よね」

 

 自身が放った言葉。 その行動を無理矢理取り上げ、あまつさえ『鳴く』ことさえも許さなかったのはいったい誰だったろうか。 少しの後悔、だが後には立たず……リンディはため息にも近い生返事をエイミィに返してしまう。

 

「艦長……あ、そういえばなんで独房なんかに入れちゃったのクロノ君?」

「……うん、あのフェイトという子はケガもよくなってたから形だけなんだけど、なのはの場合は少し冷静になってもらうという意味であの子と一緒に入ってもらった」

「そっか。 たしかにモニター越しで見てても、すごい勢いだったもんね、なのはちゃん」

 

 

エイミィの言うあの時、それを思い出したこの場にいる全員の表情は一気に暗いものになった。 あれほどに幼い少女が、知らなかったとはいえ背負ってしまった重い十字架。

そのあまりにも酷い責め苦に、周囲の大人たちはただ、時間が解決するという選択肢を取ることしかできず……歯噛みする。 わかる、解るはずなのに――大切なものを失った痛みは誰よりも知っているはずなのに。

 

「わからない……なんてこえをかけてあげればいいのか……」

「かあ……さん?」

「――――ッ!! え? あ、なんでもないわよ? ……えぇ」

 

 かみ合わない自身の言葉と態度、感づいた息子にでさえその全容を知られまいと、知らず知らずのうちにとった行動は、本人も気付かないだろうがなのはが使った微笑に似てしまっていて。

 

「……わかり、ました」

「ごめんなさいね……」

 

 故に気付かれ、気を遣われていた。 子供に、あまつさえ息子にこのような顔をさせてしまった自分にいい加減『区切り』をつけるべく、彼女は右手の平で顔を覆い隠す。

 まずは目を、そこから下にスライドさせていき、口元にまで持ってい行くと小さく息を吐く。 まじない、呪いと書くこともできるそれを、半ば意識的に行うと、彼女はそっと……

 

「もう、大丈夫よ……」

 

 仕事の顔へと切り変わってっていくのであった。

 徐々に終息しつつあるあの夜の出来事。 だが課題は決してなくならない……いや、失くしてはいけないのだ。 だからこそ、この場で全ての責務を全うするものがいちいち立ち止まっていることなどできないし、そのような甘えは許されない。 それを嫌でもわかっている彼女は、やはり強い(ひと)なのである。

 

 そこに……

 

「あら? 艦内コールどうしたの、いまは会議中よ?」

「いえ、それがどうしても話があるって彼女たちが」

『…………』

「……そう」

 

 沈黙を破るかのようにならされた電子音。 それに対応するべく、リンディは宙に指を走らせると青枠のウィンドウを開き応答する。 そこにいる二人、なのはとフェイトを見た彼女の目つきは……若干だが変わった。

 

「どうしたのかしら二人とも?」

『……』

 

 まるで品定めをするような、だが決してそれを悟らせない表情で質問するリンディに、目の前の二人の表情は変わらない。 いいや、変える必要がない。

 

「わたしたちにも手伝わせてください」

「このまま……ただ落ち込んでいるだけでいたらきっと後悔するから」

 

 目元はまだ赤いまま、だがその瞳は力強く……3日前とはまるで別人の、決意を秘めた眼差しでリンディを見るなのはとフェイトの姿がそこにあった。

 

『おねがいします!』

 

 なんの躊躇もせずに頭を下げる彼女たち。 只落ちこむのが反省なんかじゃない! 落ちている時間はもう終わりだ、もう顔を上げなければならないのだ。 数時間前まで、暗い部屋で座り込んでいた二人の少女はいま、確かに立ち上がった。

 

「もう、いいのね?」

『はい!!』

 

 リンディの一言。 その意味は問うまでもない。 彼女が聞きたいのは薄く脆い言葉などではなく、気迫に満ちた返事ただそれだけであった。 そしてそれを彼女たちは……

 

「わかりました……部屋まで通してください」

[はい]

『ありがとうございます!!』

 

 リンディの期待に、応える形で返ってきたのだった。

 

 

 

「じゃあこれからについてなんだけど....まずは今回主だった悟空君の謎の変身?についてからかしら」

 

なのはとフェイトが簡易独房室から出てきて10分後、新たに二人を入れた艦長室では先ほど議題に上がった行方不明の悟空について、詳しくまとめようとしていた。

 

「フェイトちゃんが言うには、暗くなった空を、鎧の人に無理やり見せられたら突然様子がおかしくなったらしんですけど」

「空……か。 夜空になると変身するとか?」

「夜空……ねぇなのは? いままで悟空さんって結構夜も外に出てたけど、そんなことにならなかったよね?」

「うん、初めてジュエルシードを封印したときも夜だったけど、そんな風にはならなかったと思う」

『う~~ん』

 

 フェイトからの情報を、改めて見つめなおし整理する一同だが、悟空のいままでの行動と今回の変化で『悟空自身』変わった行動なんて特になく。 クロノの『夜空』という回答も、なのはたちの悟空と一緒にいた『いままでの2週間』の裏付けにより白紙に戻されてしまう。

 

「原因がわからないと今後の悟空君への対応と、例の鎧の男についての対策も何もできないわね」

「なのは……悟空がキミの家に来たのは2週間ぐらい前と言っていたが、他に何か情報はないか? もっと詳しいなにかを」

「他、ですか? ん~~」

 

 わからない。 今になって思い知らされる悟空に対する認識の浅さは、思った以上に大きく、深い。 いかに自分たちが彼の事を知らな過ぎたかを思い知り……

 

「……そういえば」

『え?』

 

 それほど短慮だったかを思い知ることになるのである。

 唐突に声を出したのはフェイト。 彼女は3日前の出来事をやっと思い出す。

 

「なのは、あの日、わたしは悟空と待ち合わせをしていたよね」

「え? あ、うん……」

「あの日……手紙に書いてあった日……」

 

 それは悟空が居なくなり、鎧の男があらわれた運命の日。 その時に悟空が言っていたことをやっと思い出したフェイトは、その表情を徐々に強張らせていく。

 

「その時、悟空におじいさんがいるって話を聞いたの」

「おじいさん?」

「ボク聞いたことある! 確か『孫悟飯』っていう名前の――」

「うん。 悟空を山で拾ったって言う人」

「え?」

 

 一度動いた歯車が、その勢いを加速させていくかのようにかみ合っていく情報の羅列。 その中で共通の情報を持つフェイトとユーノはお互いにうなずき……だが、そこでなのはは言葉を止める。 いま、ふたりはナニヲ言ったのだろうか?

 

「ひろった? それって……」

「あ、え? そ…そっか…悟空さん、なのはには言ってなかったんだ」

「なに……を?」

 

 まさか自分が知らないことがまだあるのか? そして話の流れが決して明るいモノではないということを感づき、けれど彼女は聞くことをやめられない。

 

「悟空さん、赤ん坊のころに山で捨てられていたのを拾われたらしいんだ」

「………そんな…」

 

 ユーノから聞かされたものはやはりつらい話。 自分事ではないのに、その話を聞くだけで、少女の小さな胸の内は『ギュッ!』っと、締め付けられるようだった。 言ってくれなかった、そんなそぶりすらなかった。 巻き起こるのは気付いてあげれなかった自責の念と……

 

「そ、それだけじゃないんだ……」

「どういうこと……?」

 

 段々と組みあがっていく悲劇の絵面である。

 たったの一言。 フェイトが言い放った『続きがある』という言葉に、艦長室に居る全員が感じ取る。 ここからが、この話のキモなのだと。

 

「悟空はね、こう言ってたんだ」

「……」

「……『じいちゃんは大猿の化け物に踏み殺された』――って」

『!!?』

 

 事実は、徐々に終息し始める。

 大猿の化け物。 その単語だけで今、ここにいる全員の脳内に思い浮かぶのは3日前の生産たる光景である。 黒い体毛に巨大な体躯、さらに深紅の眼は地の色よりも赤く感じられ……

 

「ま、まさかそれって――」

「……たぶんみんなが考えてる通りだと思う」

 

 その影が『彼』と重なることで、なのははついに事態の深刻さに気付く。

 

「悟空は……自分を拾ってくれたおじいさんを――意識の無いままに……」

「そんな!!」

『…………』

 

 酷い。 あまりにもあんまりな事実はその場の全員に響き渡る。 落ち込んでいく視線は前を向くことができない証明、それはわかっていても治せるものではなく、まるで重荷を背負っていくかのように体までもが重くなる。

 

「そうか……そういうことだったのか……」

「スクライヤ?」

「やっとわかった」

「??」

 

 その傍ら。 一人解決の糸口が結ばれてしまったのはユーノ。 彼は悟空から聞いた話とフェイトが言っていた事象を重ね合わせ、彼等……サイヤ人と名乗る者が起こす変異のからくりに気付く。

 

「まえに悟空さんが言ってたんです! 悟飯さんという方には“満月の晩には大猿の化け物が出るから決して外に出てはいけない”って言われてたって!」

「ま、まさかッ!」

「知っていたんだ! 悟飯さんは!! 悟空さんが満月の晩に大猿になるっていうこと。 でもそれを引き起こさないように何とかしてきたけど、なにかの拍子で月を見てしまった悟空さんはそれで……」

「変身して……自分のおじいさんを……」

 

 出来上がったのは悲劇の上塗り。 事実はただ残酷で冷酷で、それでもただ受け入れることしかできないそれを前に、同情の声をかけることもできない自身のふがいなさすら……持つことも許されず。

 

「そう、だったのね。 それが今回悟空君の身に起こった事の真相」

「……だと思います」

 

 状況の確認はこれで終わりを迎える。

 出来上がったそれはひどいことの連続で、本人のいない間に築かれていくその事柄は線を引き、環を書くようにつながっていく。 ようやく見つかった答えはなんともシンプルで……難しい。

 

「オオカミ男というものがこの世界に伝承としてあるのは知っていたけど。 今回は言わば『大猿男』ってとこかしら? 戦闘民族…ね…まさかこんなことになるなんて」

「そう……ですね。 とてつもなく巨大で、手が付けられないのが難点ですが」

 

 ここで管理局の親子が同時にため息をつく。 聞いたことも見たこともない話は実在していて、この話が本当ならば……いいや、事実として考えれば残された時間は次の満月が来るまで。

 

「あの日から3日が経ったから、つまり残りはあと――」

「28日。 長いように感じて短い」

「その間に悟空くんを見つけて」

「あの鎧の男……サイヤ人をどうにかしないといけない」

 

 リンディ、クロノ、なのは、フェイト、彼女たちがつぶやいた言葉はいま、どれだけ困難な物なのかは想像の上でしか理解できない。 サイヤ人に会ったことがないなのは達はもちろんの事、実際に戦闘に陥ったフェイトですらその想像は生ぬるいであろう。

 戦闘民族と、彼等がそう呼ばれる所以を本当の意味で理解しているのは、この世界において只……ふたり。 やはりそれは『彼等』だけなのだから。

 

「ふぅ、なんだかとても長い時間話し込んでたみたいね。 お茶でも――」

 

 ここで一息。 そう言ったリンディはエイミィに目配せし、『いつもの』を催促しようと息を吸い……

 

「か……艦長!!」

「なにかしら……?」

 

 そんな彼女に――『奴』は更なる仕打ちを実行するのであった。

 

「通信――いいえ! 外部からハッキングを受けてます!!」

「なんですって!?」

『!!?』

 

 唐突に叫び声をあげたのはエイミィ。 彼女は眼の前に浮かび上がらせた半透明のコンソールを操作しながら、浮かび上がっていく文字の羅列を目で追っていく。

 

「こ、こんな簡単に……せっ、セキュリティーが!?」

「何が起こっているの……」

 

 次々に潜らせてしまう自身のテリトリーを、歯噛みすることでしか対応できない彼女の手は、いまだにキーを叩く音を鳴り響かせていく。 後手……どうあがいてもせき止められない相手の侵攻を、エイミィは咄嗟ながらも懸命に抗い――

 

「え、なに? 通信回線に接続……? ダメ! 勝手にひらいちゃう!」

 

 それでも、事態は無情に……

 

[ほう、なかなか持ちこたえたじゃねぇか]

『!!!?』

 

 物語を、先へと進めてしまうのであった。

 展開された中空ウィンドウ。 その大画面は四方1メートルほどの大きさを誇り、その中に映し出された人物に、この場全ての人間から言葉を喪失させては目を見開かせる。

 

「あ、あ……あぁ」

「ご、………悟空さん…?」

[……くくっ……]

 

 静寂が支配する艦長室で落とされた3つの声は本当に小さかった。 感涙の想いをおおきく膨らませようとするものと、それを嘲っては見下ろすかのような声を落としている男……それを。

 

「なのは、ユーノ! 違う!!」

「……え?」

「声と姿に騙されないで! あれは悟空じゃない!!」

『え!?』

[くくくッ……なるほど、変な目で見ていたのはカカロットの奴と見間違えていたのか。 無理もない、オレたち使い捨ての下級戦士はタイプが少ないからな……]

 

 笑う。 フェイトの忠告を聞き入れ、ようやく真実を見出した二人は拭くものがない目を拭い、男を葉面から見据える。

 

「違う……悟空くんじゃない」

 

 なのはの答えに賛同するかのようにうなずくユーノも気付く。 目の前の男、彼が――奴こそがこの事件の元凶であるものなのだと。 光を灯す彼女たちの瞳、それを見て、薄く笑った奴は冗談めかして……

 

[まったく、カカロットいい貴様らと言い……]

「…………」

[そんなに睨みつけるんじゃねェよ]

『――――ッ!!』

 

 ……遊んでみる。

 画面越し、それも相手はただ“睨むな”と警告しただけなのにこの迫力! まるで全身が突風に押し負け、2、3歩後ずさってしまいそうになるこの寒気にも似た気迫。 怒気がなく、凄みもないその顔はただ冷たく笑っているだけなのに。

 

「なんてことなの」

「こ、こんな!」

「画面越し……なのに!?」

 

 リンディ以下、管理局の面々は相手の冷たい気迫に完全に飲まれていた。 それを見た男は肩を上下させる。 着けた鎧のショルダーが小さく音を立て、若干伸縮しては小さくうねる。

 

[おいおい、この程度の遊びでもうダウンか? カカロットの奴は“あの成り”でもまだオレの事を見返してきたぜ?]

「うく……」

 

 落胆を隠そうとしない男の、その挑発的な言葉はなのはたちに突き刺さる。 いない、確かにこの場に居ないあの『彼』ならば、このような事態でも果敢にも食って掛かるだろう、皆の心の支えになるであろう。

 けれど居ないものは……いないのである。 そして――しかし――――

 

「ちがうもん!!」

[ほう?]

「悟空くんは悟空くんだもん!! 『カカロット』なんて名前じゃない!!」

 

少女は、なのはは叫ぶ。

孫悟空という男の子の有り様を、ここにいる誰よりも感じ、『みていた』この娘には一切の疑念はない。 この目の前の男は、決して悟空とは違うものなんだと。 そしてそれ自体が、彼女を突き動かす原動力となり……

 

「あなたなんかに、負けないんだから!!」

 

 一気に爆発する。

 

[なかなか……]

「?」

[面白い顔をする]

「――くッ!!」

 

 それすらも男にとっては些細な変化。 取るに足らぬと吐き捨てるかのようにほくそ笑むと、一呼吸……画面の向こうで何やら思考を開始していた。 いったい何を? そう思うも数瞬の間だけ、男は悟空とは正反対の『いい顔』をすると、右腕を動かし“引っ張る”

 

[貴様も……そう思うだろ]

『えッ!?』

 

 それを見た、見てしまった。

 男が掴んだのは人だった。 外見にして30は超えているであろうその女性は、紫の危ういドレスの上から、白衣だった上着を身に着け、虚ろになりつつあるその目を横流しにしてはその場で佇んでいる。

 

「…………なんで」

 

 落ちた言葉はフェイトからだったろうか? 小さく……本当に小さく漏れたその言葉は今にも消えてしまいそうなそれは、彼女の心象を正確に反映している。 彼女は、心を酷く乱されていた。

 

[…………フェイト……かふっ!]

「なんで……かあさんが!!」

[くッふはははははははは!!]

 

 何たる非道、何たる仕打ち。 それは、この時のために用意されていたのではないかというくらいに、この場に見合ってしまった言葉。 男は嗤う、画面越しで肩を震わせて失意の底に沈んでいく少女を『面白い』と指さすかのように大きな声で。

 

「かあ……さん? もしかしてあのひと――」

「そうか、もしかしてと思っていたが、やはりあの人が……」

「クロノくん?」

 

 男が耳障りな笑い声をあげているさなか、なのはは苦い顔をし、クロノはようやく思い出す。 テスタロッサ……その名を遠い昔に聞いたことがあると。 それはこの場面で遅まきながらにやって来る。

 

「プレシア・テスタロッサ。 ずいぶん昔にある事件で行方不明になっていた科学者だ、彼女は高位の魔導師でもあって、その腕は僕たちを遥かに凌駕していたらしい」

「そのひとが……フェイトちゃんの?」

「…………そのはずなんだが」

 

 どうにも歯切れが悪いクロノ。 だがいまは時間がないのもまた事実、だから男は……いや、なのはたちも話を進めたいのだが。

 

「かあさん!」

[…………]

「かあさん!!」

[チッ!]

 

 叫ぶ彼女を放っておくことが、果たして彼女たちに出来たであろうか? 母をと叫ぶフェイトの声も、通信機越しではただの雑音でしかないのであろうか。 男は右の眉をわずかに動かすと、その舌を敢えて聞こえるかのように打ち鳴らす。

 

[耳障りだ、いちいち喚くな! 出来損ないの操り人形風情が]

「――っ!」

[……フェイト]

 

 男の叫び。 そのあとに続く憐れむ音を乗せた罵倒は少女に突き刺さる。 この男は、何を言っているのであろうかと……

 さらに聞こえてくるのは母の声。 それは避けたかったと、どこか触れてほしくない傷跡を見られてしまったかのように、細く……小さい。

 

「どういう……こと……」

『…………』

 

 なのはの疑問の声に答えられるものはおらず、管理局の面々はそろって彼女から視線をそむける――なのはからも、もちろんフェイトからも。

 

「あやつり……『人形』?」

[まさか貴様……くくっ、そうか知らないのか]

[……やめなさい]

 

 にたりと笑う男、それを呼び止める母の声はとてもじゃないが気丈とは呼べず。

 後ろめたさ。 どこか正面切って言えない彼女に対して、やはり男は薄く笑う……滑稽だ、本当に滑稽な生き物であると。

 

[オレたちサイヤ人は、力があれば“子が親を殺す”が……貴様らは逆か?]

「なん……ですって……」

[技術(ちから)があれば……]

[やめなさい……]

[親は子になんだってするのだな! これはさすがにオレも驚いたぜ]

「なにを……いって……」

[く……]

 

 おどけるようにこの世界の人間全員を笑い出す男。 彼は右手で掴んだプレシアの襟首をさらに上げる。 つま先が地面に着くかつかないかというキツイ体制のせいか、彼女の言葉はそこで終わり。

 

[知りたいって顔だな?]

「え?」

[ならば教えてやろう。 貴様はこの女の実の娘だ、それは本当だろう……だがな]

「なにをいって……だって、わたし記憶……ちゃんと――」

[コイツの娘は23年前に既に死んでいる。 この意味が解るか?]

「    」

 

 少女の声もそこで終わる。

 

[貴様はこの女に作られたただの複製。 死んだ娘の“代わり”というやつだ]

「    」

「そんな……」

[今から数年前に作られた貴様はコイツの死んだ娘そのものだった、だがナニカが違う。 それはあたりまえだ、幾ら同じ部品で作ろうが死んだ野郎が生き返ったわけじゃない]

「もう……やめてあげて」

[オレの仲間には双子が居たが、あいつらがいい例えだ。 たとえ同じ者から生まれ、姿形、経験すら似通っていようとも別人は別人。 その奇妙な感覚に引っかかったこの女に偽物(いらないもの)扱いされた貴様は今までどんな扱いをされたか……オレが言うまでも無かろう]

「    」

「もうやめてよ!!」

 

 フェイトはもう喋らない。 今まで確かに疑問にあった自身の記憶の矛盾点。 それに気づいてしまった彼女の糸は切れ、男が言う動かない木偶へと変貌する。

 

「  たし……   でも    」

「フェイトちゃん!!」

 

 気はもう確かではない彼女は、なのはの声に耳を貸すことができない。 自分が本物じゃないという事実、偽物、紛い物、出来損ない。 様々な単語が彼女から存在意義を消失させていく。 なぜ今まで頑張ってきたのか……どうして生きてきたのか。

 

「    なんで      うまれてきたの…………」

 

 失意……そんな言葉で言い表せない感情渦巻く中、まるで走馬灯のように走る彼女の過去。 幸せな時間を母と過ごすソレは確かに与えられたものなのだろう――だけど。

 

 

――――おめぇそっから降りられねんだろ? オラが今そっちに行ってやっからな!

 

「    あ……」

[ん?(なんだ? 小娘のようすが……)]

 

――――立てよ! 今のはそんなに効いてねぇはずだ!

 

「あ、あぁ……」

 

 彼、彼らと歩んできた道は、本当にまやかしだったのだろうか? 記憶の奔流に流されていこうとした自分が引っかかった小さなとっかかり。 それは小さく見えづらかっただろう、気付けなかったモノであろう。

 今のいままで自分を支えてきたアルフに、対立さえした不可思議な男の子……あの子はなんという名前だったか?

 

――オラ! カカロットなんて名前じゃねぇ!!

「悟空も……わたしと……」

 

――オラ孫悟空だ!!

「わたしとおんなじ……でも――」

 

 自身を否定されたのは自分だけではない。 彼も、あの少年も同じ痛みを受けながら、そして一蹴したほどの強さを見せたではないか! 思い出す、思い出してしまったフェイトの目に色が戻っていく。

 

 戸惑いは一瞬だったと、その場にいた誰もがそう思うだろう。

 既に彼女は平常心を取り戻している。 顔色も呼吸も全身を流れる脈拍も、すべてが平時の時と何ら変わらないものを見せていた。

 

 彼女の迷いは、ここできれいに両断されたのである。

 

「わ、わたしがたとえどんな生まれかなんて――『関係ない』!!」

 

 それは、かつて『とある青年』が実の兄に向かって絶叫した憤慨の言葉。 偶然だろうが、自分の出生すべてを切って捨てて、あまりにも非道が過ぎる兄に拳を向けたその時と今回は状況が似ていて。

 

「わたしはフェイト・テスタロッサ! それは本当の事なんだ!!」

[ふん……]

 

 そのどこかで見たことある姿に、男はつまらなそうに鼻で笑う。

 

[せっかく面白そうな顔を拝見できるかと思ったが、どうやら当てが外れたらしい]

「面白そうって――あなたは!」

 

 まるで漫画を見ているような感想を吐き出す男に、ひどく心を燃やしたのは他ならぬリンディである。 彼女も母と呼ばれる人物だ、故にこの事態を静観できるほど人間が未熟でも、できているわけでもなく。

 

「人をなんだと思っているの!?」

「かあさん……」

 

 男に向かって叫ぶ。 一人の少女に対する仕打ちは酷いモノ、なのはも含めたすべての者がそれに賛同する中、男は冷静に返して見せる。

 

[貴様ら、やってみたことはないか?]

「なにを――?」

[自身より力が劣るモノにそれを振りかざしたり、脅かしたり。 そういった時の怯える顔を見るとなんとも言えない喜びを感じるだろ? そうだな、貴様ら風に言えば柵の中にいる犬猫を脅かしたり、水槽の中にいる魚をつついて反応を見たり。 それとおんなじさ]

「そんな……感覚って」

 

 それは異常ともいえる発言であった。 ここで、この発言がすべてを物語る――この男とは、決してわかりあうことなどできないと……

 

[おっと、こうして話していられる時間も限られているんだったな。 要件……は、言わなくてもわかるだろう]

[うくっ!]

「かあさん!!」

[オレからの要件はただ一つ。 貴様らが持っているジュエルシードをすべて引き渡してもらうこと。 ただそれだけだ]

 

 思い出したかのように、締め付けているプレシアの首元に力を込める男。 そのたびに彼女からは小さなうめき声が聞こえてゆき、ろうそく炎のように揺らめくその吐息は彼女の限界を表すかのように消えそうで。

 それを見たフェイトの気丈さは激しく揺れる。

 

[オレが貰いに行ってやることもできるが、それだけじゃつまらん。 貴様ら自身が決めるがいい]

「なんですって?」

[場所はここ、『時の庭園』でいいな? 時間はいつでもいいが……]

「…………」

[精々月夜には気を付けることだ、特に月が真円を描くときは……な? くく!]

「なんて……ことを」

 

 これ以上ない脅迫。 ただの比喩表現がここまでおそろしい想像を掻きたてるモノなのか? 今現在リンディの恐怖心を掻きたてるのはあの時あの瞬間の光景。

 

「まさかあなた自身が……」

[なかなか察しのいいことで何よりだ。 そうだ、ここでいまいち踏ん切りというものが付かない『貴様ら』に重要な知らせがある]

「知らせ?」

 

 男の知らせに耳を傾けるのは『リンディたち』時空管理局の面々。 彼らは男の宣言から、今回の事件に若干の戸惑いを隠せずにいたのだが。

 

[この世界の地球、ここが『終われば』次は“ミッドチルダ”にオレは行くつもりだ]

『――――なっ!!』

[おーうおう、焦ったお顔になったな? ついさっきまでの他人の星が襲われているときとは違って、自分の家が危なくなったら途端に血相を変えやがった]

「あ、……うく」

 

 男の一言は局員の動揺を誘い、リンディの心に大きなゆさぶりをかける。

 

[まぁ、無理にとは言わん。 精々このオレがカカロットと同じように凶暴な姿にならんうちに決断するんだな]

『…………』

[ターレス]

「え?」

 

 さらにもう一声。 それは悟空のもう一つの名前にどこか似ているような語感を感じさせる類の名前。 それを口にした男は空いた手でこぶしを作る。

 

[いつまでも名前を知らないのは不便だろう。 いずれ貴様らを支配する名だ! 精々覚えておくがいい……]

 

――――ブツリと、通信回線が遮断される。

 

そしておとずれる沈黙。

アースラの乗組員は選択を迫られていた……否、もう『この道』を選ぶ以外考えはない。

 

「―――行こう! フェイトちゃんのお母さん、ほっとけないよ」

『―――――――――――』

 

 静かにつぶやくなのはの言葉に異議を唱える者はだれ一人いない。 『彼』の『帰還』を悠長に待っている余裕などもうない――――だから早く帰ってきて……時間は待ってはくれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【警告】 

 

 これ以上先はあまり見る必要はなく、この時点ではあまり意味の無いモノだ。 だから早急に引き返したほうがいい。

 

 

…………

 

【警告】は確かにしたぞ。

 

 

 

 

――――『彼』が海に沈んだ直後の出来事。

 高町家 リビング

 

「ん……来たか……」

 

 この家の主、高町士郎は顔を上げる。 唐突に鳴り響いた機械的な呼び鈴……それは電話が鳴る音だった。 じりじりと打ち鳴らしていくその音に、内心苛立ち、けれどどこか待ち遠しかったという相反する想いを生じさせ、彼は電話の前にまで駆ける。

 

「…………」

 

 けど出ない。

 

「…………」

 

 呼び鈴は一向に鳴りやまない。

 

「………………っ!」

 

 いつまでも鳴り響く呼び声、それを只見て聞いて……それしかできなかった彼は、息をのむ。 なぜこれほどまでに戸惑うのか、どうして待っていたものを拒むのか。 それは彼が見てしまったから。

 突如現れた怪異、鳴り響く咆哮に、闇をも引き裂くような深紅の眼差し。 偶然だった、ただ稽古の合間のランニングで外に出ていただけなのに。 かれは、『アレ』に出会ってしまったのだ。

 そしていつまでも帰って来ない子供たち。 その一つ一つの情報が、士郎に焦りの色を引きだしていく。

 

「くっ! (落ち着け! 何も『そういった』連絡というわけではないだろう。 ……だが)」

 

 『アレ』を知っているのはおそらく自分だけ。 姿を確認したと思ったら唐突に消えていたあの異形、だから知っているのは自分ただ一人。 なぜいきなり現れたのか、どうして消えたのかもわからない事実も、士郎の混乱に拍車をかける。

 

「と、とにかく出よう。 話は……それからだ」

 

 けど彼は賢明で、聡明だった。 短い自問自答で回答を導き出し、それをさらに確かめ算をするかのように反復し、彼は受話器を右手で握る。

 

「ふぅ……すぅ――」

 

 吐いては吸う。 深呼吸を一回行うと視線は一直線、口は一文字に閉じ、勢いよく後腐れなく、彼は一気に受話器を取り上げる。

 

「たっ! 高町です!!」

 

 少しだけ噛む。 声は裏返り気味で、背中に水滴が走る……これは、脂汗である。 はたから見ればラブコールを待っていた初心な学生にも見えなくない士郎のこの態度、それは……

 

[夜分おそく申し訳ありません。 わたくし、リンディ・ハラオウンと申しますが……こちら、高町なのはさんのご自宅で間違いないでしょうか?]

「あ、え?」

 

 若干、間違いなどではなかったようである。

 

「はぁ……そうですが」

[よかった。 お恥ずかしながら、こちらに連絡する前に番号を間違えてしまって……]

「そう……なんですか……」

 

 聞こえてきたのは女性の声。 年にして妻である桃子と同じか下くらいか、おそらく自分と同年代と今の掛け合いで判断した士郎は、ここで気持ちの切り替え作業を行う。

 

「えっと? ハラオウンさんで大丈夫でしょうか?」

[えぇ、構いませんよ]

「こちらに、どのような用件で連絡を……?」

 

 士郎はこの時点で何となく感づこうとしている。 どの国でも聞いたことがないファミリーネーム、おそらく偽名か、はたまた本当に自分が知らないだけか。 どちらも可能性としては低くないが、やはり前者が一番高いかもしれない……次の発言を、聞くまでは。

 

[わたくし、そちらに御厄介になっている『孫悟空』くんの知り合いの者なのですが]

「悟空……君の?」

 

 ここで彼の考えは揺らぐ。 悟空の知り合い、つまりはおそらく自分が知らない世界の人間である可能性が浮上したということ。 それは先ほどの考えを覆し、彼女に対する不信の心を深く埋没させていく。

 自然、彼の右手は強く受話器を握る。

 

「悟空君の知り合いの方ですか……では悟空君は今そちらに?」

[えぇそうなんですよ。 それとなのはさんも一緒になんですけどねぇ]

「なのはもですか?」

[久しぶりに会ったものでしたから、話に花が咲いてしまいまして。 気付いた時にはこんな時間でしたもので、夜道を子供二人で歩かせるなんて真似は出来ないものですから。 今日はこちらで預からせてもらおうかと思いまして]

「…………そうですか」

[はい]

 

 士郎の声から、朗らかな色が消え失せる。

 何かあったかはいまだに不鮮明だが、確実に何かがあったのは“今、受話器の向こうの女性が言った一言”で確信を持たされてしまった。

 女性の感じからして、悟空とそれなりに交友があるのは間違いないだろう。 元気でハツラツとした彼だ、きっと昔を懐かしんで勢いづいてしまった……というのもあるだろう。

 

「まぁ、悟空君がいれば安心ですかね? 彼はSP数十人分の働きは軽いですから」

[ふふっ、そうですね]

「あはは」

 

 この女性は悟空のことをわかっている。 感じも雰囲気も、なにより強さも……だが見えてはいなかった。 いいや、正確にはそこまで知る由がなかった程度の付き合いなのであろう。

 だから彼女は“子供ふたり”などという言葉を使い、あたかも『悟空がなのはと同年代』かの様な会話をしてしまっているのであろう。

 

「あぁそうだ」

[はい?]

 

 だから士郎は、最後にこれだけを確認したかったのである。

 

「きっとなのはがいろいろと迷惑をかけるかもしれませんので、もし何かあったら、申し訳ありませんが、よろしくしてもらっても大丈夫ですかね?」

[……あ、はい! もちろんです]

「すみません」

 

 娘の行く先と……

 

「それと……悟空君。 彼は強い子ですが、平然と無茶をする『きらい』があるようなので、彼のこともお願いします」

[…………わかりました]

 

 少女と一緒に居るであろう、力以外の強さを持つ少年の事を。 気付けば何か深刻な色を含んだ会話、それをどことなく感じ、あまつさえ相手の言葉の合間から事態の深刻さを読んでしまった士郎は、頬に筋の汗を零す。

 

「では、夜も遅いことですし。 そろそろ――」

[あ、はい。 ではこちらも……]

 

 握った受話器はわずかに震え、空いた手は宙を握っては開くを繰り返す。 言うべきか? 士郎の心によぎるその単語は、放ってしまえばどうなるかわからない爆発物であり、それでもいつかは起爆してしまう時限爆弾でもある。

 知ってどうする? 追いかける場所も知らないで走ってどうなる? ここは、下手に動いていい場面なのか?

 

 思っていないはずの単語、考えたくもない事実。 足掻いたっていい、それでも何とか力になりたい彼は……だが、彼は知っているのだ。 自分の力ひとつでは動かせない強大な力を、それに対抗しうる『ちから』を持つ存在を……だから。

 

「……子供たちを、よろしくお願いします」

[はい]

――――ガチャリ……

 

 だから、彼はそれ以上言えなかった。

 故に、彼女は真実を伏せた。

 

 切れてしまった通話の線は儚い機械音を残して、もう手元には無い。 後の祭りと言わんばかりの懺悔の念が士郎を襲い、それに歯を食いしばりながらも彼は想う。 何が起こったかわからない、どうしていいかもわからない、それでも、変わらずやれることがあるとすれば――

 

「無事でいてくれ……」

 

 ただ、祈ることだけなのだから。

 

「……もし、もしもまだこの世界に居るのなら」

 

――――そして、彼は想い、浮かべる。 『あの日』に起こった運命の出会い。 今この時以上の困難が彼を襲ったとき、閃光のように現れては、疾風が如く敵を凪いでいった最強を纏う人物の事を。

 

「どうかあの子たちを守ってあげてください……」

 

 氷よりも冷たい緑色の視線。

それとは対照的に陽光が如く照らしだす輝きを持ったあの青年を。 自身を救ったあの強者に頼りきりにし、なおかつ当てにしようという自身のふがいなさに歯噛みをしながら、それでも士郎は思わずにはいられない。 そんな思いが脹れあがった彼がつぶやいた彼の名前は――――

 

 

 

「――――――カカロットさん……」

 

 それは、やはり最強の者の名前であった。

 




悟空「おっす! オラ悟空!!」

リンディ「最悪の宣戦布告、 それを受けたアースラの面々の士気はそれなりに落ちているみたいね」

クロノ「ターレス。 あんな邪悪を煮詰めた人間がいるなんて……」

なのは「悟空くんとおんなじ星の人……悟空くん、どこに行っちゃったの?」

悟空「お? いま誰かに呼ばれたような……?」

シグナム「孫、何をしている? 朝稽古の続きを――」

悟空「あ、いけねぇ! いつもの奴やんなきゃな!」

シグナム「……むぅ。 ではこれが終わったらすぐに再開だ! いいな!」

悟空「わかったってぇ、だからえっと……? レバー? タレ?」

シグナム「…………レヴァンティンだ。 誰がレバタレだ! だれが。 焼肉じゃあるまいし」

悟空「ははっ! すまねぇ。 そんじゃ次回! 魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第17話」

シグナム「孫悟空、八神家で働く」

みんな『え!!?』

悟空「そんな大したことはしねぇ……よな?」

はやて「それはどうやろ?」

悟空「え!?」

シグナム「ふぅ……また嫌な予感がする……ではまた」

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