魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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長く……なったな。

えっと年末年始はともかく。 その前と後は大変なことになるので、もしかしたら今まで以上に更新速度が落ちるかもです。

さて、どっかで見たことがある3人組を相手に、若干起こった悟空の“リハビリ”が始まろうとしています。
そしてアリサは? さらにすずかは?
悟空はこのお姫様たちを無事救うことが……できるでしょうね。


今回、悟空の難敵出現です!! こうご期待!!


第18話 大猿男と吸血姫

 

 ラフな運動靴が鋼板を叩く。 冷たいそれは徐々に暖められていき、彼の靴の温度と同化していく。 そうなるまでのあいだは相応の時間があっただろう、そうなるまで彼は決してそこを動かなかったのだろう。 なぜ動かない? どうしてそこにいる?

 

「なんだ、変な気ってすずかの事だったんか。 にしてもあいつら……なにしてんだ?」

 

 答えは案外簡単、彼の考え事が長かったからである。

 古い友人ふたりと見知らぬ……いいや、どこかで見たことがあるかもしれない三人と、やってきたこの場が妙に懐かしくって。

 

「むかし、レッドリボンの奴らとドラゴンボール取り合ったときに似たようなとこにきたっけかな?」

 

 本当に遠い昔の事を思い出した彼は次に聞こえてくる大声に……

 

「ちょっとあんたたち―――!」

「ははっ! アリサの奴、なんかブルマみてぇだな」

 

 やっぱり懐かしさを胸に抱く。

 なぜか目頭が熱くなるような感覚。 彼はそれすら気づかないが、例えるならば遥か悠久の時を懐かしむ異邦人の心境。 もしくは数十年来の友に再会した老人の心の様を移しているかのようで。

 

「…………みんな、今なにしてっかなぁ」

 

 望郷の念――遠くに居るであろう彼らを、悟空はそっと思い出していくのである。

 その思いはおかしくもあり……正しい。 本当ならばかなり無茶をしているであろう親友と息子、だがなぜかその記憶はあいまいで……悟空はほんのりと頭を傾げるが。

 

「いい加減にしなさいよ!!」

「ぐぬぬ!!」

「……はは、こりゃ大きくなったらブルマよりも怖くなるかもな」

 

 がおー!! そんな効果音付きでキャンキャン喚き散らすアリサを見て、一番最初に仲間になったあの人物を再び思い出す。 じっちゃんの形見を奪いに来たやつだと思い、如意棒をふるったのは今ではいい思い出だ。

亀仙人のじっちゃんに引き合わせてくれたのは運命を感じさせ、途中で出会ったウーロンから誘拐された村娘を取り戻す際に使った奇策も懐かしい――「ん?誘拐?」

 そんな昔の出来事を思い出していた中で悟空は……

 

「あり?」

 

 やっとそれに気づく。

 両腕を組み、頭を右に傾け、眉は逆ハチの字に曲がっている。 ここまで考え抜いたその先、悟空の健康的なピンク色の脳細胞の限界を超えた思考の先で……彼はついに真実に到達する!

 

「あいつら……もしかして誘拐されてんのか!?」

 

――――あまりにも、あんまりな悟空であった。

 

「ん、あれはちぃとばっかし不味そうだな」

 

 そんな能天気顔もすぐさま変わる。

 まさに一瞬で変わった彼の顔は季節で言うなら春から梅雨。 雷雨を伴う嵐の季節に立ち入ったそれは彼の心内を反映していくようで。

 

「…………」

 

 彼は、雷のように空へと消えていくのであった。

 

 ~~時間は、元の時間軸へと戻る。

 

 

 怖かった。ただそこに誰かがいるのが怖くて、家族以外の誰かが私のことを『知って』しまうのが恐ろしかった。 ……ちがう、本当は『知られること』ではなくて

 

 

―――――――――こわい

 

 

 嫌だった。 仲良く遊んでいるみんなの姿がまぶしくて……その輪に入れなかった自分の境遇を何度も呪ったこともあった。 ……そうだ、ほんとに恐ろしいのは……

 

 

―――――こわい――――こわいよ

 

 

 だから嬉しかった。 向こうから差しのべられた『あの子』の手が! 例えそれがどんな理由でも。 とられてしまったカチューシャは大切なものだったけど、誰かと追いかけっこなんてしたことなんてなかったわたしはオドオドしながら……でも決して追いかけるのをやめなかった。 ……あの優しい笑顔が。

 

 

――――――――いたいよぉ――――つめたいよぉ

 

 

 すぐに『あの子』を引き止めてくれた子がいた。 『その子』はとても強い目をした子で、わたしなんかとは正反対でとっても強い意志を持った目をした子。

……わたしの前から……

 

 

―――――――――――――――たすけて――――だれかぁ――――たすけてぇ

 

 

 言い合いもした、ケンカもした、最初なんて取っ組み合いから始まった。 そんな『わたしたち』は今ではとても仲良しで。 ……みんないなくなってしまうこと。

 

 

―――――――――――おねがいだから『わたしたち』をたすけて

 

 

 ふるえた身体でできることなんて、ただ祈ることしかなかった。 ……それがとても怖かった。

 

 

 

でも。

……でも。

 

 

 ―――――――おめぇらよく泣かなかったなぁ、もう大丈夫だかんな?

 

「え?」

 

 そんなちっぽけな祈りに、ホントに簡単に答えてくれたヒトがいました。

 

「にい!」

『ほぇ?』

 

 その人の笑顔はとてもやさしくて、まるでお日さまのようなあたたかさでわたしを抱きしめていて……

 もう、わたしはその人から視線を外すことが出来なくなって……

 

 

 

「とっとと帰ぇれ!!」

「…………」

「すずか?」

 

 颯爽と現れた彼。

 稲妻が如く唐突に、そう、音よりも速く空気を貫いていた鉄の塊をその手で掴むと、いらないとも言わないで放り投げ、今度は少女達を掴んで抱きしめる。

 ちから加減は極わずかにと引き絞り、ガラス細工のような身体に一辺の欠けすら許さないようにしている彼は内心冷や冷や。 それほどまでに今の彼は……“今いる”彼は力のコントロールが不十分なのだ。

 

「ね、ねぇ! いまあんたなにしたのよ!?」

「ん? いまか? “気合”でおめぇたちの紐にちょっとばっかし、ちからこめて千切ったんだ」

『…………ほぇ?』

 

 聞こえてくるアリサの疑問の声にありのままを言う青年の姿は、年下の女の子と話すというよりは友達に技の説明をする男の子。 その態度、その説明の理解の難度に小首をかしげる少女達。

 いつの間にか声から震えがなくなっている少女たちは身体でわかっていた。

 

「ちょっとだけそこで待ってろ? あいつ等、二度と悪さできねぇように、オラがきつくぶっ飛ばしてくっから」

『は……はい……』

 

 もうすでに、この青年が自分たちを救い出してくれるという事実を。

 

「お、おい貴様!! いきなり現れてなんだ! いったいなにもんなんだ!!」

「なにモンも何もなぁ。 ん? おめぇたちどっかで見たことあるような?」

「なに? ……いやいや。 そんなもん知らん!! 周! 米! 一斉射撃だ!!」

『はい!!』

 

 見たことがある出で立ちの誘拐犯一味に、またも懐かしさを感じるが、事態が事態だ。 少女達があんまりに寒そうにしているその姿に、悟空は一瞬で片を付けると心に決めて気合を込める。

 

「フッ!」

『ぐおお……おろ?』

「え?」

「外した……?」

 

 だがそれはまさかの不発。

 一味の真上から聞こえてくる小さな炸裂音。 それは天井に穴をあけた音、だがそれによって彼らが何らかの痛手を負うということはなく、この結果が意味することはただ一つ……悟空の失敗。

――そう誰もが思うだろう。

 

「は、はは! 格好よく現れておいてとんだへなちょこじゃないか! 奇妙なトリックを使ってこんなもんだとはな。 ぐはははっ!」

「そう焦んなって。 こうしておけば……」

「ん?」

 

 そう、悟空の攻撃はまだ始まってはいないのだ――!!

 天井を見ていた悟空は腰を落とす。 それはあの必殺の構え……ではなく。 空手などによく見る正拳突きの構え。

 彼はそこから息を吸い、小さき男に向かって話の続きを言い渡す。

 

「おめぇたちが吹っ飛んでも、それで押し潰れちまうことはねぇだろ?」

『なに?』

 

 それは、余裕の一言であった。

 告げる勝利宣告は悟空の微笑と共に出される。 見る者が見れば何でもない……ただの弱い者いじめと映るだろうが、そこは悟空。 彼はちゃんと加減をしようと……

 

「はぁァァァ」

 

 力を抜いて、大きく息を吸い込んでいる。

 構えた手は右が引手で左はただの構えるだけの手。 正面に据えるように置いたその左手を、悟空は自身の身体を軸にして、腰を滑車が如く、勢い付けて右手と一気に入れ替えた!

 

「だあッ!」

『~~~~~ッ――――』

 

 吹き荒れる突風。 それは青年の正面突破の拳が生み出した拳圧であり、何の気の付加もないシンプルな突き……ただ威力が並の人間では到達不可な代物であることを除いてであるが。

 吹き飛ばされていく一味の三人。 呆け顔になる少女二人。 この場にいる誰もが、今起こった超常的な現象に言葉をなくし。 その華奢ともいうべき身体を風が包み、邪魔者を退き、静寂をこの船内に引き込んでいく。

 風が止み、小うるさい三人組はもういない。 そこには少女ふたりと最強の青年が一人佇んでいるだけで。 つい先ほどまでの危険だった空気とは正反対のあたたかな雰囲気の中、悟空はそっと彼女たちに振り向く。

 

「さってと」

「え?」

「あ……」

 

 その後ろ、悟空の背後から現れたもう一つの超常現象を見た彼女たちは目が点となる。 それは『尾』 今のいままで気が付かず、心が静かになったからこそ分かる真実。

 

「な!? え? あ、あんたに『も』しっぽがある……なんで!?」

「も、もしかして――」

「ん?」

 

 驚く彼女達。 それに今一つピンとこない悟空は小首をかしげて、おもむろに尾を動かしてみる。 それを目で追う彼女たちは例えるならば猫ジャラシを前にした子ネコ、もしくはボールを放り投げた時のアルフ――もとい、子犬のような仕草であったと明記しておこう。

 

「あ…ああ! あんた!!」

「なのはちゃんの家に住んでる――!!」

「……?」

 

 そこまで行き彼女たちは答えを導き出す。

 何となく『少年』が着込んでいた道着と同じ色のジャージ、寝癖のような普通じゃない髪型に先ほどの尻尾……これが当てはまる人物はもう、彼しかいない!

 

 そう、彼は――――

 

『悟空(さん)のおとうさん!!』

「へ?」

 

 …………彼女たちの答えは、ちょっとだけスライダーがかかっていた。

 

「おとうさん?」

「だってそうでしょ! こんな奇怪なことができるのって、アイツの関係者ぐらいしか思い浮かばないし、知らない!」

「……あ、アリサちゃん……」

 

 的確なのだが見当違いな答えに、若干肩口をずらす悟空。 そんな彼を余所に、自らの答えを確信付ようと、言葉尻きつく人差し指を突き付けるアリサにすずかはタジタジ……

 助けてくれたんだからと、両手の平で『まぁまぁ』と言っているすずかは本当に苦労人気質であろう……そして。

 

「?? おめぇたち」

『え?』

「さっきから何言ってんだ?」

『……はい?』

 

 後頭部を2、3掻いている悟空はゆっくりと前かがみとなり、彼女達へと話しかける。 それは嫌でも差がついてしまった彼女達との身長差を考えての行動であり、旧友である彼女達と対等に接しようとする彼の、無自覚な配慮でもある。

 そんな彼に、すずかは――感じ取る。

 

「…………え?」

「お?」

「……なんで(悟空さんとまったく同じ匂い……?)」

 

 それは、あの猫屋敷の住人……否、在住猫たちを魅了したものとまったく同じモノ。 それを“嗅ぎ取れる”すずかは再度悟空に向かって視線を飛ばす。

 触れ合う視線、合わさる目と目。 そこまでして、悟空はやっと……

 

「なんだおめぇたち。 もしかしてオラの事忘れちまったんか?」

『……?』

「前ぇに何回か会ってるじゃねぇか?」

「まえに?」

「何回も?」

 

 彼女たちの疑念を読んで取ることができたのである。

 

「最初はよ、ユーノを拾ったとこで会ってさ。 そんで病院にまでオラたちを連れて行ってくれただろ?」

「……うそ」

 

 まずはすずかがここで思い至る。

 青紫に近い黒髪がゆったりと動き、心のざわめきを代弁していく。 それほどまでに彼女の中の衝撃は強く……

 

「次が……? あ! そうだ。 すずか! おめぇんちでよ、菓子食いに行ったよな! そんで次が温泉だ」

「も、もももも……もしかしてホントに?!」

 

 ここでアリサもゴールする。

 刺した指先はそのままケータイよりも高速なバイブレーションを披露して、ひびくダメージを視覚化していく。

 どちらもショックは甚大で、だからこの後の喧噪は……

 

『うそおおおおおおお!!!!』

「おわっ!?」

 

 仕方がないと言えるだろう。

 

 

~少しして~

 

「そっか。 この3日間なのはが“がっこう”をなぁ……」

「そうなん……です。 悟空……さん、なにか知ってますか?」

 

 彼ら彼女たちは、ほんの少しの話をしていた。

 悟空の何でもない一言……「なのはは今どこに居んだ?」という言葉を皮切りに展開していったこの会話。 しかしそれはあまり成果のあるものではなく、ただなのはたちが普段の生活を送っていないということを悟らせるだけで。

 

「あんた! あ……えっと、悟空さんはなのはと一緒に居たんでしょ? だったら――」

「え? オラか?」

 

 一向に動こうとしない現実に、まるでしびれを切らせたように言葉を投げかけるアリサは、やはりどこか遠慮がち。 それもそうだろう、先週までは年下扱い、ついさっきまでは背の小さなバカの子で……気が付いたら見上げるほどに立派な青年なのだから。

 

「わりぃな! オラよ、八年間(ちょっと)だけ余所に行ってたからわかんねェや」

「そう……なんだ」

 

 だから、この青年の回答の裏までは読み取れなくて……そこに。

 

「ま、取りあえずはここからでねぇとな……よっと」

『きゃあ!』

 

 おもむろに両手を広げた悟空。

 すると子供たちを抱き上げ、上がる声をそのままに、『相棒』を視線で近くに引き寄せていく。

 黙々と寄って行くのは筋斗雲。 彼はそのまま少女たちの真下まで行くと、着艦準備が整ったと言わんばかりに制止する。 そこに悟空は、まるでガラス細工の置物を扱うかのように、彼女たちをそっと乗せていき。

 

「わぷっ!?」 「きゃあ!! いったーい!!」

「あり?」

 

 金髪が一人、冷たい鋼板の上に落ちていく。

 

「と……突然何すんのよ悟空!!」

「ありゃ!? わ、わりぃ……おっかしいなぁ? なんですずかが“乗れる”のに、アリサはダメなんだ?」

「え? え?」

 

 またしても奇行を取る青年に、「悟空!」と怒鳴り散らすアリサはもういつもと変わらぬ元気な姿。 遠慮がちだった戸惑い気味な態度もどこ行く風か、彼女はいつもどおり獅子が如くの咆哮を上げ、それにあやまる悟空は浮かない顔。 

 ほんの少しだけ考え事をするそぶりを見せ……

 

「アリサおめぇ“よいこ”じゃねぇんか?」

「そんなわけないでしょ!!」

「……あはは」

 

 とっても失礼なことを吐いてみたのである。

 これにカンカンなアリサはさらに咆える。 ボルテージは焼きつく寸前にまで高められ……

 

「でもよ? 筋斗雲は良い子じゃねぇと乗れねんだ。 おめぇなんか悪ぃ事でもやったんじゃねぇか?」

「――――う゛!!」

「…あ………」

 

 ほんの少しだけ、昔を思い出してしまったようだ。

 

「う~~ そりゃちょっとだけ昔はホントに嫌な奴だったかもだけど……」

「アリサちゃん……」

 

 悟空のほんのわずかな指摘に、心動かし目を動かし、とっさにすずかの方へと目配せしたのはきっと悟空が知らない“いさかい”が彼女達との間にあったからで。 それを知らない悟空は首を傾げたまま――

 

『あれ? (いま、一瞬消えた?)』

「おっとと、コイツ忘れちまったら、今度こそはやてにドヤされちまうとこだった」

 

いつの間にか右の肩口に買い物かごを引っさげ、それを筋斗雲に乗せると、こんどは唐突にアリサへと――

 

「わわっ! また!?」

「これで……よし!」

 

 腕をのばしたのでした。

 それからはとてもきれいな流れ作業。 アリサの脇の下に手を差し入れると、まるでからの段ボール箱でも持つかのようにスムーズな動作で彼女を自身の頭上まで持ち上げる悟空。

 所謂“たかいたかい”の態勢を取る彼に、幼少扱いに文句があるアリサは小さく暴れつつも、そのまま彼の肩にストンと落とされ、姿勢が固定されると喧噪の鳴りを収めていく。

 

「かた……車?」

「これなら、アリサも“いける”よな?」

『え?』

 

 もう、今ではテンでやってもらうことなどないソレに、若干ながら頬の温度を上げたのは照れか憧れでもあったのか……借りてきたネコのようにおとなしくなっていく幼子に、悟空はもうひと押し、彼女たちにビックリをあげることにする。

 

「よ……と」

「あっわわわ!! う、うい――」

「悟空さん!?」

 

 ゆらりと動く髪。 だがそれは自然の風にゆられたわけではない動き。 その証拠に髪は横になびくのではなく、立てに“舞い上がって”いるのだ、故にこの風は上へと翔ける流れを持つモノ。

 

 それらが悟空を取り巻いていくと、彼はやがてつま先立ちとなり、今朝はやてが持ってきたその真新しい運動靴にもブーツにも見える独特な靴を鋼板から――

 

「悟空さん! 空飛んでる!!」

「へへっ! 結構できるもんだな」

 

 離す。

 陸から完全に離れる……つまり離陸を完遂して見せた悟空は見渡すかのように首を動かす。

 

「結構、陸から離れてんのな。 あっちの方からキョウヤたちの気を感じるから……」

 

 何かを探す仕草はすぐに終わり、彼は浮いた身体の高度を上げていく。 5メートル、10、30、100と、グングン上昇していく彼らに潮風が吹きつける。 時間はもう夕方、空が赤く燃え上がるように照らされているその光景は、青年が着ていた道着に似通っていて……

 

「わぁ……きれい」

「すごい。 特等席ってやつね」

「…………うし」

 

 それに目を奪われていく少女たちは思わず感嘆の声を上げていると。

 

「いっくぞー! 舞空術――――!!」

 

『キャア―――!!』

 

 突如開始した弾丸飛行に、肺の中の空気を一気に出させられるのであった。

 

 

 

「とりあえずここでいいんか?」

「えぇ、ここまでっていうか、玄関前までくればあとはセキュリティが厳重だし。 平気よ」

「そっか」

 

 あ――っと言う間に着いたのは、あの洋上から一番近いという理由で訪れたバニングス邸。 その玄関前に着地して見せた悟空は、あたまの上で丸まっていた(しがみついていた)アリサを引きはがすかのように地面に降ろす。

 とりあえずはひと段落。 これであとはすずかを送っておしまいなのだが……

 

「あ、いっけね」

「え?」

「どうかしたんですか?」

 

 悟空は、忘れ物を思い出す。

 それはこの世界に来てからの初めての使い。 足の不自由な少女に頼まれ、軽快なふたつ返事で返したその依頼。

 

「オラ買い物してたんだ……なぁ? 豚肉をよ、10キロ売ってる場所って知ってっかな?」

『10キロ……?』

 

 そう、まるでカレーか肉じゃがの材料に思える食材たちの確保。 その最後の一個を探していた途中だった彼はここで思い出す……しかし何かが足りないのはご愛嬌である。

 

「ウチは今夜、牛肉だって言ってたっけ? もしかしたら無いかも……」

「そっかぁ、ねぇんか」

 

 お決まりの困り顔を披露した悟空に、やや申し訳ないと腕組みしながら答えて見せたのはアリサ。 ついさっきまで誘拐されていたはずの彼女は、いつの間にか恐怖心どころか緊張感も消え失せ、逆に助けてもらった彼の心配までし始める。

 困るふたり、だが、そのふたりを前に、いまだ雲の上で女の子座りしているすずかが両手を『ぽん』っと鳴らして見せた。

 

「ウチだったらあるかも! 今晩は中華にしようってノエルが言ってたから……たぶん」

「――――ホントけ!!」

「あわっ! きゃあ!!」

 

 そこから出された自身の無さをうかがわせる返答に、しかし悟空は大喜び。 すずかをアリサにして見せたように持ち上げると、そのままクルリくるりと三回転。 スケート選手のように軽やかに、その場で滑り出した悟空は気分ハツラツ。

 ちなみに、滑っているのではなく舞空術の低空飛行版だということを追記しておこう……余計だが。

 

「よっし! そうと決まればすずかの家までひとっ飛びだ!! ここからそんなに離れてねェし、すぐ着いちまうぞぉ――――『ぐりゅ』……あり?」

「悟空さん、おなかの音……」

「あっれ? おっかしいなぁ、特に腹は減ってねぇんだけど……まぁいいや」

「ええと、というよりここからうちって10キロくらいは離れてるんですけど……」

「大ぇ丈夫大ぇ丈夫! オラその何万倍も飛んだり走ったりしたことあっからな!」

『あ、はは……(万?)』

 

 そんなこんなで次なる目標が出来た悟空は筋斗雲に『コイコイ』と手を振ると、引き寄せ、すずかを持ち上げ、乗せて……「あわわ……」小さな声を響かせて――

 

「そんじゃすずかの家に行ってくる! またなーー!!」

「ひゃあーーーー!! またこれーー!!」

 

 ロケットのように飛んで行ったとさ……

 その場に取り残されるような形になっているアリサ。 実際には違うのだが、ぽつりと佇む彼女はそう表現できよう。 そんな彼女は消えていった彼らを見送り終えると、やっと終わった今日という日をほんのりと思い出して……想う。

 

「アタシ……誘拐されてたのよね……」

 

 不思議な気分。 もっと暗い感じになってもいい夕暮れ時なのに、決してそうならない彼女の心の内。 その原因なんてわかりきっているし、自分がこれからどうするかなんて悟空に肩車されたときにはもう考え付いていた……はずなのに。

 

「まったく、なのはが言ってた通りだわ。 ホント変よね……アイツって……」

 

 今日という日を、まだ終わらせたくない。 どこかほんのりと、そう思ってしまったアリサ・バニングスであった。

 

 

 同時刻~月村邸周辺~

 

 茜雲がコガネ色に太陽の輝きを照り返させているこの時間。 悟空とすずか、彼女たちの距離は本日この時で一番の最短距離となっていました。

 いったいなにが、ぜんたいどうして? それは聞くもワライ、語るは赤面のこっぱずかしい出来事があったのです。

 

 

「いよっほ~~」

「まって悟空さああぁぁぁ…………」

 

 それは数分前の出来事。 アリサという追加パックを取り除いた悟空は身軽だった。 そう、徐々に気のコントロールをモノにしつつある彼は、その飛行スピードを文字通り加速度的にあげていくのである。

 

「――――」

「あり? 筋斗雲とすずかがいねぇ」

 

 そしてついには点ぐらいにしか見えない距離にまで開いた時には悟空は急停止。 振り返っては筋斗雲に乗ったすずかに平謝りしては彼女を持ち上げる。

 そっと添えられた両の手は、彼女の脇の下をくすぐるかのような刺激を与え、若干あやうい箇所に触れるか触れないかという状況は、すずかの肺から空気を捻りださせ……

 

「これでいいな!」

「あわわわわわ~~……うぅ~~」

 

 ストン……と、すっぽり何かがはまる音がすると、そこには筋斗雲にあぐらをかいた悟空と、彼に抱きしめられるかのような……まるでぬいぐるみの様に硬直したすずかが居ったそうな。

 

「これならおめぇたち置いてかねぇで済むな」

「………はう…」

「お? 変な声出してどうしたんだ?」

「なんでも……ないです」

 

 その中で漏れる嘆息はいいモノ? 悪いモノ? 良くはわからないが背筋を伸ばし、あからさまに緊張してますよといった風なすずかに、持ち前の無神経さを存分に発揮している悟空。 そんな彼はここでひとつ思案する……3秒半で行われた思考で導き出した答え、それは――

 

「落っこちねぇ様にしっかり捕まってんだぞ?」ぎゅっ――

「     」

 

 彼女をそっと、抱きしめること。

 これに堪らず声に成らない悲鳴を出そうとしたすずかは咄嗟に両手で口を押える、ふぅふぅと唸るかのように手の隙間から吐息を漏らす彼女は限界の様だ。

 あたたかな吐息に、鍛え上げられた胸板、感じたことがない男というものの体温にぬくもり……そのどれをとっても、すずかの顔面から火が出るのは時間の問題で。

 

「  ぅ、……だめかも――」

「ん?」

 

 それを知らない悟空は、静かに筋斗雲の飛行速度を上げるのであった。

 

 

 

~10分経過~

 

「着いたーー!!」

「……ついた~~」

 

 なんだかんだで到着した目的地。 その白い豪邸を数年ぶりに見た悟空は深呼吸をしてみる。 庭に生い茂る草木は悟空の実家に生えているソレと顕色ないほどに伸び伸びしていて、それらが風で揺れては木の葉が舞い、心地よい景色をこの場にいる者へと見せていく。

 

「いやー、久しぶりなぁ!」

「え? そうですか?」

「ああ! そうだ。 なんていっても……――――!!」

 

 木の葉が……吹きすさんだ。

 その音、空気の乱れるさまに過敏な反応をしたのは悟空。 彼はすずかを抱えると、その場で後方宙返り。 『奴』との距離を大きく開ける。

 

「あっぶねぇなぁ。 もう少しで当たるとこだったぞ」

「あ……え?」

「…………」

 

 それは装飾少ないエプロンドレス。 頭に装備したヘッドドレスともに純白なそれは、悟空の昔馴染みを連想させる……させるのだが、彼女の色は『蒼』

 それは彼にはなじみがないようで……

 

「お嬢様から離れなさい。 さもなくば――」

 

 やはりどこかで見たことがあって。

 佇む悟空に氷よりも冷たい視線を向けるモノ。 それはすずかの方が悟空より詳しく、そして馴染み深く親密である人物。

 

「の、ノエル!? なんで!」

「……お嬢様。 今お助けします」

 

 ノエル・綺堂・エーアリヒカイト。 彼女は悟空に対して、確かな戦意をもってそこにいた。

 

「あり? こんなこと、前ぇにもあったような……?」

 

 その正面に対峙する男とは正反対な思いを胸に抱き……

 

「いきます――」

「おっと」

 

 彼女の先制攻撃。 姿勢低く、手に『装備』した片刃のブレードを横払いに悟空へと繰り出すと、そのまま右足で地面を叩く。 掌底の形をしたその手は、荷重をかけた重い一撃。

 それが空気を切りながら悟空に迫る。

 

「そこまでだ」

『――――!?』

 

 迫る……いいや。 “迫っていた”が正しいだろうか?

 

「いい加減おちつけって。 な?」

「…………くっ! (いったい何が?! センサーの類が追い切れていなかった……? というよりいつの間にこちらの背後に)」

 

 ノエルの追っていた獲物は、今度は自身を捉えた狩人となって彼女の背後で右手を拳銃の形にして佇んでいた。

 一瞬前まであった彼の姿が残像であったということすら気づかない……認識できないノエルは振り向くことはおろか、その場で指一本動かせない。

 

「戦況不利。 お嬢様を人質に捕られ、さらには背後を――」

「いやだからよ。 落ち着行けよ? おめぇ前にもオラにおんなじようなことしただろ」

「…………は?」

 

 動かせなかった身体が、全力で振り向くことを実行した。

 どこかで聞いたような声。 それにあまり聞かない東北訛り、そして彼女の中でそれらが合致する人物など1人しかおらず。 まさか……などと漏らして振り向いたその先には……

 

「よ!」

「――――あ!! えっと、悟空様? ……の、お父さまでしょうか?」

 

 良く知った顔があったとか。

 

「なんだよ、おめぇもか?」

「やっぱりそうなるよね……」

「???」

「オラだオラ! 孫悟空だ!」

「…………?」

 

 いまだ戦闘態勢のノエルは、手にしたブレードの鋭い刃とは正反対の目……つぶらな瞳へと変え、それをフラフラと揺らし――

 

「    ――――ぴーーひょろろろぉぉ~~」

「ぁあ!! ノエルの頭から煙が!!」

「わわ!! なんだどうしたんだ!?」

 

 数年前に活躍したFAXという機械と同じような電子音を口から鳴り響かせると、突っ立ったままに目をまわすのでありました。

 

 

 少しして。

 

「ごめんなさいねぇ……ほら、ノエル立てる?」

「申し訳ございません、忍お嬢様。 それに――」

「ん? オラの事は気にしなくていいぞ? すずかの事、守ろうとしたんだもんな」

「……すみません」

 

 孫悟空という男を再び向かい入れた月村邸。 その家主たる月村忍は、いきなりぶっ倒れたノエルを介抱すると、そのまま別室へと彼女を連れていく。

 ちなみに、今現在悟空が居るのは一階大広間。 そこまで彼がノエルを担ぎ上げてきた際の態勢は秘密である。 特に白黒少女達には……だが。

 

「ん~~」

「どうかしたんですか?」

 

 別室へと運ばれていくノエル。 それを見送る悟空の顔は若干曇り、暗い。 なにか大きな違和感を見つけ、それがまったく解決の兆しを見せないという風な彼は、しかしそれもすぐに消え。

 

「んいや。 なんでもねぇ」

「……?」

 

 心配するすずかに、ほんのりと明るい笑顔を見せてやる。

 

「さってと。 これですずかも無事に家に帰ってきたことだし」

「え?」

「早ぇとこ肉貰わねぇとな。 家でみんなまってっかも……」

「みんな?」

 

 ついに来た約束の時間。 それは悟空が“今いる”家へと帰る時間であり、すずかが悟空とお別れをする時間であり……

 

「…………ん?」

「悟空さん?」

 

 その『異変のかけら達』が、悟空の中で結晶となりては表面に浮かび上がる時間である。 ……約束の時は来たれり!!

 

「――フグッ!!」

「悟空さん!!?」

 

 くの字に折れる!! 悟空は突然膝をついた!

 いったい何が! あの戦士の身体に起こった突然の変化は、この居間に大きな振動音を響かせ、さらには周囲の空気を振動させる。

 

「なにが!? 悟空さん!!」

「が……ぐああ」

 

 抑える。 まるで自分自身と戦っているような彼は、必死に『ソレ』を押さえて見せようとする。 鍛え抜かれたその鋼鉄よりも鉄壁さを誇る肉体に、まるで似合わぬ鳥肌を立たせ、悟空は全身全霊をもってこれを対処しようとして……

 

「おねぇちゃん! おねぇちゃん来て!! 悟空さんが……悟空さんが――」

「ああああああーーーーー!!」

 

 耐え切れず、堪えきれずに戦慄をも感じさせる雄叫びを上げる。

 唐突に起こったこの事態。 彼の、悟空の身にいったい何が起こったというのか……事態は風雲急を告げるのであった…………

 

 

 

 

 ~またも少しして~

 

「えっと、『胃潰瘍』ですね」

『……は?』

「いでで……」

 

 悟空の変化は、結構カルカッタ。

 緊急として即座に手配したとある病院のとある女医。 白い長髪で、小動物を感じさせる容姿と雰囲気は見る者に思わず頭を撫でさせるという考えに至らしめるモノがある……らしい。

 そんな彼女が悟空の様子を見て、腹部を触診、そして自身の経験と相談して導き出した結果は、以上の症状であって。 それを聞いた月村邸の面々は気が抜けたのか呆然と悟空を見て、しかしすずかは床にへたり込むようにゆっくりと全身の力を抜いたのであった。

 

「えっと、正確には胃潰瘍というのは語弊なのですが、他に例えるモノがないのでそう呼んでいてですね」

「は、はぁ」

「所謂『食中毒』ともいえる症状なんですよ……たぶん」

「えっと?」

 

 少女のように幼い容姿をした女医から聞かされるのは幾分と自身がないと思われる症状の内容。 それもそのはず、これは病気ではなく『    』が原因であるいわば故意の事故ともいえるものだから。

 

「は、ハラがぁ……なぁ、なんとかなんねぇのか……うぐぐ」

「あ、おちついて。 大丈夫です、これはつい『一週間前』にもおんなじ症例の方が居まして……たしか、若干薄めの赤? ううんピンクっていうのかな? 変わった色の髪の毛を後ろで結ったきれいなヒトでしたっけ……その方から得た経験で、ちゃんとした解決方法があるんです!」

「そ、そいつはありがてぇ……ぜ。 いでで!! は、はやく頼む……」

 

 女医が言う解決の策に、何のためらいもなく実行を要求する悟空。 彼の即決は当然だろう。 この痛みを口で説明するならば、まるで胃の中に焼けて溶かされた鉄の液体を流し込まれ、そこから雑巾絞りのように締め上げられているような感覚。

 つまりは地獄のような痛みなのだ。

 

「わかりました。 それでは少し痛いかもしれませんが、しばらくじっとしていてください」

「……?」

 

 痛みを伴う。 それを聞いた悟空は、けれど疑問に思うこともあまりできず、腹部の痛みに顔を歪めるだけ。 早く何とかしてほしい、そんな彼の願いを聞き入れた女医は、持っていた大きめのバックから、黒いケースを取り出した。

 長さ14センチ、横幅6センチ弱のそのケースは、あまり頑丈そうでも厳重そうでもなく、あっけらかんと彼女の手で開かれると、その中身をゆっくりと取り出されていく。

 

「飲み薬はそもそも胃が弱っているからダメ。 点滴は対処法としては完全に外れていて、手術は大げさ。 だから結構直接的な手段なのですが……」

「…………ゴクリ」

 

 流れるような説明を聞いていく月村の面々は一向に喋らない。 彼女の邪魔をしてはいけないという配慮の表れとも取れるそれは正しいモノ。 それは悟空も同じなのだろう、彼も静かにそれを聞き――――瞬間的に全身を強張らせる!

 

「意外と皆さん平気でいらっしゃるんですが、中には本当にダメな方もいて……今日は『これ』しか用意ができなかったんですけど」

「あ、わたし、ソレちょっと苦手ですね」

「わたしは平気だけど……」

「………………」

 

 苦手な忍に、気にしないというすずか。 そしてこれしか手段がないと宣戦布告してきた女医に、逃げ場をふさがれた男。

 男って誰の事? などと申されることなかれ。 この女の園と化した月村邸に居る男などただ一人。 優しさと強さを併せ持ち、堅牢な肉体と健全な精神、さらには高い志を携え、持ち合わせた『戦士』の事である。 そんな彼は……

 

「………………わわ」

 

 小さく、うろたえた!!

 

「よかったですね! 悟空さ……ん?」

「え?」

「あれ?」

「…………」

 

 異変が起こった。

 彼は静かだった、 そう、とてつもなくおとなしく、一切の動作をやめ、さらには一言もしゃべらない。

 表情を伺おうにもボサボサ頭が垂れ下がって見えないし、その影がなんともシリアスを醸し出すのもなんとも言えない空気を作り出していて。 その彼を注視する女性陣は疑問に思い、彼に何となく顔を近づけていき……

 

「ぃぃいいいいいいぎゃあああああああああ!!!!!!」

 

『――――!!?』

 

 一斉に散っていく。

 

「イヤダああああああ!! うああああああ!! うぎゃあああああ!!!!」

「な!? クランケが暴れ出した?!」

「先生! それ意味が――ちょ!? 悟空さん!」

「あわわわわ」

 

 そして揺れる……震度3強というところだろうか。 その衝撃が月村邸を襲い、家中の猫たちをびくつかせ、置物を2、3個床に激突させる。 この時点での被害総額は250万はするらしい。

 混乱する人々をかき分けるような大声はいまだ轟いたまま。 轟々と鳴り響くそれに必死な思いですずかは悟空に呼びかける。 そして――――

 

「嫌だあああ!! オラ『注射』だけは――ダメなんだあああ!!!」

『…………えっと』

「ぁぁぁああ……あり? なんだ?」

 

 部屋は再び、静寂さを取り戻していったとか。

 

「…………みんな」

「はい」

「わかりました」

「悟空さん。 ごめんなさい!」

「え?」

 

 上がる号令は『忍の者』もとい、忍のモノ。 それに賛同した瞬間、女性人たちの目の色は激しく変わる。

 

「シノブ! それにすずかも、おめぇたちどうして目が赤く――」

「それは後で言います。 全員! 一斉にかかれ!!」

『おーー!』

「うぎぃ!! は、はなせーー!!」

 

 物理的に……ではあったが。 そうこうしている間に忍、すずか、そして再起したノエルと付き添いで入ってきていたファリンも混ざっては、悟空のその逞しい身体に触れ、大きく歯を食いしばっては――唸る!

 

「動かないで!」

「暴れたらだめですよ!」

「……どうか、そのままで」

「申し訳ありません……」

「やめろ! はなせーー! はなしてくれーー」

 

 彼女たちの算段に気付いた悟空は舞空術による逃走を敢行し、墜落する。 というよりも浮くことすら許されなかった彼は、そのまま彼女たちによってベッドに貼り付けにされる。

 悟空が弱っているのが原因か、それとも彼女達の力量が十分に人並み外れているからなのか? 10倍の重力があるあの星で修業をしてきた彼を、こうもあっさりと拘束し続けることできるのはまさに驚異的。 嫌だと全身を硬直させる悟空に、しかし女医は見事な手さばきで悟空の右腕に狙いを定め、部分的に筋肉の筋を見極め、弱い箇所をコンマ単位で見切り、思い切りよく彼へと……

 

「せーの!」

「ふっぎゃあああああ!!」

 

 小さな針を突き刺したのである。

 

「というか、注射刺すのに掛け声出すなんて……聞いたことがない」

「押さえているわたしたちが言うのもなんだけどね」

『あはは……』

「ふげ……」

 

 怪物退治完了である。 女医の勤務時間は1時間ほど、交通費支給、送り迎えもありに特別手当アリ……中々に良い内容だと思った今回の仕事の中身。 中々にハードだったと後に語ったそうな。

 

「悟空君……えっと、さん?」

「お? どうした?」

 

 騒動もひと段落。 一息入れようとキッチンへとティーセットを取りに行ったすずかと女医と従者たち。 そこで部屋に残された悟空と忍は、唐突に会話を始める。

 

「あの……えっと」

「なんだ?」

 

 少しだけ遠慮がちなのは相手との距離感が掴みきれていないから。 ほんの数日前までは妹と同じくらいの子で、そのあとが自分の2個下で、次に会ったら恭也と同じくらいの身長の男性で。

 しかも中身はほとんど変わらずやかましいというか……

 

「……?」

「あえっと……」

 

 でも、そこはかとなく感じる大人の雰囲気に忍はさらに戸惑い、悟空に対する扱いに困る始末。

 それでも言わなければならないことがあるのも事実で、だから彼女は話しかけることをやめようとせず。

 

「ありがとう……ございます」

「??」

 

 それから出たのは、はにかむ様なお礼の言葉。 その意味を掴みかねた悟空は先ほど忍がやったような表情を取り、そのまま首を傾げる。 この行動、この仕草、どれをとってもおかしくて……まるで自分が何もやっていないというその行動は、彼が本当に、ただ当然のことをするようにすずかを助けたからであって。

 

「…当然のことを、当然のように……か…」

「さっきからなんなんだ?」

 

 だからであろう。 その姿に恭也の言葉を思い出していく忍。

 根が真面目、一本道で全力で。 たまに頑固なところが散見されると言われていた『少年』は、確かにそうなんだと彼女の心に深く染み込んでいく。

 だからだろう。 彼女は……悟空に話してみることにする。

 

「実は悟空さんにお話があるんです」

「お……どうかしたんか」

 

 ツンと伸びた目尻と、輝きと色合いの深さを増したきれいな眼差し。 そのすべてを悟空に向けた忍は大きく息を吸う。 持ち上がる肩に上下する胸、それらが数回繰り返されると、彼女はついに意を決する。

 

「すずかの……いいえ。 わたしたちの事についてです」

「おめぇたちの?」

「はい。 本当ならあの子が直接あなたに言うべきなんだけど……」

「……ふーん」

 

 話をしよう。

 そういった彼女との視線をわずかに反らし、木製のドアを見た悟空。 そしてふわりと笑うとすぐさま真剣な表情を忍に送る。 それはこの話の重さを十分に理解したからこその行動であり……

 

「オラもいろいろ気にはなってたんだ。 話してくれ」

「はい、実は――――」

 

 そのときの悟空の声は“小さな女の子”に話しかけるような声だった。

 彼女たちとの会話の時間が、始まろうとしていた。

 

 

 




悟空「おっす! オラ悟空!!」

シグナム「はぁ! せいっ!!」

ヴィータ「随分気合入ってるよなシグナム。 何かあったのかよ?」

ザフィーラ「今朝あった悟空との小競り合い、アレにいい具合に刺激されたみたいでな」

シグナム「次こそはあの“多重残像拳”と“気合砲”というのを破って見せる!!」

二人『はぁ~~ダメだありゃ、完全に闘志に火が……』

悟空「ん? なんか変な感じが……」

忍「風邪ですか?」

悟空「んいや。 オラ病気したことねェからな、たぶん違うと思うけ……ど?」

すずか「悟空さん?」

悟空「なんだかなぁ……なんかなのは達以外にやり残しがあるような? ま、いっか! 次回!! 魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第19話」

???「約束」

悟空「あれ? この声どっかで……まぁいいや。 じゃなーー!」

???「…………」

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