魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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約束ってのは結ぶもんだ。
約束ってのは守るもんだ。
約束ってのは大事なもんだ。

普段何事もないことを、意識してみたら急に難しくなって。
約束っていうのは、簡単にできる物から「これはダメだろ?」なんて口をついて出てきそうなものまで千差万別あるのだろう。

だから大切にする人も、すぐないがしろにするものもいろいろ出てくる。
だが、決して忘れてはいけない。 約束っていうのは、破った分だけ自分から『厚み』を取っていくのだ。

常日頃から堂々と居られるように、どうかこれからも厚みのある人間でいられますように……そんなことを思いながら、今日も要らんことまで言ってしまう作者です。 


りりごく第20話……どうぞ!


PS――悟空の道着って、なんとなく少林寺の道着に似てるような……気のせいか!


第19話 約束

 ――八神家 一階リビング――

 

 悟空が去った後の時間。 そこから数時間の暇な時間が出来てしまった八神の面々は、ひとりひとりが自身のやりたいであろう行動を、気が済むままに行っていた。

 

「ふーふーん♪ ふっふふーん……」

 

 そのなかで、細い針をチクリチクリと縫っている者が一人。

 家事が上手い彼女は裁縫も得意であって、それを駆使して今現在、自身の中に強く焼きついたあの光景を思い描き、鮮明さを蘇らせながら『それ』を形にしている最中である。

 

「ふぅ……やはりイメージトレーニングのシャドーに孫を乗せると、上達の具合が――ん? どうかしましたか主?」

「ふーふーふ ふっふーんふーふ ふーふふ……あ、シグナム。 どうしたん?」

「え? あいえ、何やら熱心に縫物をしていたものでしたから気になって……見たことがないデザインですね?」

「そやな、でもおかげで細かいとこまで覚えとる」

「はぁ……?」

 

 それは服のようにも見えた、しかし袖と思わしきものがないそれに思案気となるシグナム。 いくら暖かい季節だと言ってもまだ梅雨入り前。 朝は寒いし夜は冷える……そもなれば、これは若干季節はずれなのでは? そう思った彼女だが。

 

「えっと後は文字やね。 ……なんて書いとったかなぁ?」

「?? ……まぁ、主が楽しんでおられるのならば私は――」

 

 それでいいと、ひとり納得したシグナムは、バスタオルをもって浴室のドアを……

 

「すこしシャワーを浴びます。 何かあればお呼びください」

「ええよ~~」

「失礼します」

 

 ぴしゃりと、静かに閉めるのであった。

 

 

 

「そっか……“夜の一族”かぁ」

「はい……」

 

 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。 5分? 10分? そう長くはなく、しかしとても濃厚な時間の中で悟空の中に残る単語は“夜の一族”という単語。

 それが今回の事件の原因であり、犯人の彼らがすずかをさらっていった最たる理由……

 

「でもよ? 子供一人さらって行って何しようとしたんだろうな」

「えぇ、そこなんです……え?」

「ん?」

「あの、えっと?」

 

 まぁ、悟空にはピンとこないモノであったらしいが。

 

「なんか変なこと言ったか?」

「あぁ~なんていうか……(う~ん。 やっぱり『悟空君』なのかな?)」

「ん??」

 

 若干ながらずれた会話。 その軌道を修正しようとする忍は崩れた表情を引き締める。 それを見て、雰囲気が変わったと気づいた悟空も眉を寄せる。

 いい加減に聞かないぞ。 そんな態度を滲み出させて彼女の言葉に耳を傾け始める。

 

「普通じゃない。 それは、ただそれだけで周囲の興味を引きつけるわ」

「……」

「あの子も、もちろんわたしも普通の人間じゃない。 いまいった通り、人の血を吸うし身体能力とかも常人のそれを凌駕してる。 条件さえ整えば切断された腕の自然癒着も可能よ」

「そ、そうなんか? 切れたうでがなぁ……ピッコロみてぇな奴だな。 あ、おめぇたちがどことなくみんなと違うんは『気』を探ってみて何となくわかったぞ? ガキん頃に初めてすずかを見た時も変な感じがしたしな。 ま、あんときは『気』の事なんてよくわかんなかったけど」

「え! あの時から?」

「はは。 まぁな」

「そっか」

 

 それは自分たちの出自にまつわる『不幸』の話。 どうあっても他人よりも秀逸で異常な身体の作りは、生理的なものを考えても隠し通せるものではなく、故にある程度の距離を置くことを迫られる彼女たちは、常に孤独と戦ってきたのだ。

 

「いつもなのはちゃん達に遠慮がちなのもきっとそれが原因だと、わたしは思ってるの」

「……ん」

「あなたも……うんん。 悟空さんは最初から人の目なんて気にはしてなかったでしょうけど、人間っていうのは、本当にそういう『珍しいモノ』に目がないのよ。 だからあなたやわたしたちみたいな人外なんてものは格好の標的になるの」

「ん~でもおめぇたちはイヤなんだろ? そういうの」

「えぇ。 きっと快く思う人はいないはずね」

「そっとしてやりゃいいのにな」

「……ええ」

「でも――」

 

 暗くなる話。 徐々に強張っていく忍の表情に腕を組んでは首を傾げる悟空。 どうしようにもできない人のサガ……しかし彼には立ったひとつだけ、それも絶対に断言できる言葉があった。

 ――――それは。

 

「きっとなのはたち、おめぇたちの事知ってもさ、そんなヘンな風にみねぇと思うぞ?」

「……それは――」

「おめぇもわかってんだろ? あいつ等『良い子』だしよ……あ! アリサの奴は筋斗雲に乗れなかったからわかんねぇか。 でもよ」

「?」

 

 でもよ。 ここで言葉を切った悟空は視線を忍から大きく外す。

 そして向かうその先は出入り口である木製のドア。 そこに大きく微笑むと、ちょこっと息を吸って『少女』へと飛ばして見せる。 その少女とは……

 

「あいつ等良いヤツだもんな? すずか」

「あわわっ!!」

「いひゃあ!」

「あ、あなたたち!?」

 

 月村すずか、その人であろう。

 彼女は悟空の声で飛び上がるとそのままドアに体当たり。 くるんと一回転してきた彼女たちはそのまま自由落下を敢行し。

 

「おっと」

「……あ」

「……~~っ!」

 

 コマ送りのように現れた悟空にとっ捕まり、見事に御用となったのでした。 若干、彼女たちの表情筋が緩み、体温が2度ほど上昇し、脈拍が数テンポ加速したのは内緒である。

 

「それにな、夜の一族っちゅうのが吸血鬼のことを言うんなら、きっとそう珍しくもねぇぞ?」

「……はい?」

「たしか占いババんとこに居たしなぁ。 あ、そういえば悪魔とかミイラとか……それに透明人間もいたっけか?」

「……なんですと?」

「クリリンの奴。 あんときアタマからかじられてさぁ、はは! そういや真っ青になるまで血ぃ吸われてたなぁ。 ん? おめぇたちもしかして――」

「頭からって……そんな品がない吸い方はしないですよ!」

「そ、そうですよ!!」

「え? そうなんか?」

『そうです!!』

「血を吸うっていうのは、もっと相手と雰囲気と気持ちを配慮するものなんだから」

「……そうなんか」

 

 そしてやっぱり消えていくシリアス。

 もはや恒例行事でワンパターンで。 でも、それでも暗い話を退けることは決して悪い事ではなくて。

 アタマまるかじりの時点で、忍とすずかの両名からは険しい顔も暗い表情もどこかへと消えていったのであった。

 

「まぁとにかく。 今度あいつ等に言ってみりゃいい。 不安ならオラが一緒についていってやる」

「え?」

「ともだちなんだろ? それなのにいつまでも隠し事すんのは辛ぇもんな」

「あ……うん」

 

 いつもみたいな丁寧な口調も今はなく、年相応な甘えた返事をしていたすずか。 けど……

 

「……うんん。 ダメ」

「え?」

 

 彼女の否定の声。 だがそこには『意思』があった、強い芯のようなものがあった。 そう、ちがうのだ……

 

「え、あっその! 逃げるわけじゃないんですよっ!」

「…………」

 

 あわあわと両手を振りだしたすずかは慌て気味。 言い方が不味かったと思い、すかさずフォローを入れる中で悟空は只静かにそれを見下ろし。

 

「わ、わたし一人……ひとりでなのはちゃんとアリサちゃんにお話ししたくって! だから!」

「…………ん」

「すずか……」

 

 勇気。 彼女の中には確かにあったのだ。 とても小さくて儚げで……それでもしっかりと根付いたその心根は確かに立派なもので。 それを見て、感じて、彼は静かにうなずく。

 

「そっか。 おめぇすげぇな」

「…そんなこと………」

「あるさ! ……オラは『あんとき』関係ないって全否定だったしな」

「え?」

 

 感心したのは青年の方であった。 自分よりもはるかに年下で、身体だって小さくて、それでも今振り絞った勇気は眩しさすら感じてしまう。

 そして思い出す。 あれは確かにすずかとは状況が違っただろう、否定する理由も明らかに非道な者たちと一緒にされたくなかったからで……

 

「オラもな、自分がみんなと違うって知ったときは思わず叫んじまったし、『関係ない!!』――って、怒鳴ったりしたしな。 その点で言うとオラ、おめぇにあんまし偉そうなことはいえねぇかもな」

「え? どういうことですか?」

「悟空さんもそういうこと……あったんですか? でも、前に合ったときは……」

 

 小さな頃の彼は、そういうことを確かに気にしていなかった。 そう記憶している忍は思案気な表情をし始める。 何かがある? そう思っては少し間を開け、悟空が話せるようにこの場を整えようとして……身構える。

 

「いろいろあってな。 ちょっと前に知ったんだ」

「ちょっと……まえ?」

「そだ。 オラよ? 地球人じゃないらしいんだ」

『へぇ……そっか。 宇宙人さんなんだ~~―――――!!!?』

 

 構えたガードを弾き飛ばされた!

 忍とすずかはその場で目を見開く。 いや確かに他人とはどこか違うし、尻尾もある、きっと自分たちと同じく人外の類だと予想づけてはいた、いたのだが。

 

「ま、まさか宇宙人だったなんて……わたし達とは悩むスケールが違いすぎて……」

「あはは……は……」

「いやー、ホントびっくりしちまったなぁあんときは。 はは!」

 

 これほどまでに壮大だとは。 思わず半笑になってしまう二人と悟空。 乾いた笑いは虚しさを感じさせない不思議さがあるものの、決して冗長にしていい話でもなくて。 だからだろうか? ここでやっと悟空はすずかとファリンを床に降ろし、スッとしゃがんでは視線をすずかに合わせると。

 

「そんじゃ約束な。 おめぇはなのはたちに、いつか……いつでもいいや。 自分の事いうんだぞ」

「はい!」

「そんでオラは……ちゃんと決着(けり)つけて来るからよ。 そしたら、またおめぇたちに会いに来る」

「けり?」

「ああ」

 

 それは何に対してなのだろうか? 決して少女達には理解しがたい胸の内、その中にある力強い想いはあの強敵に対する心構えと……

 

――――待ってくれ!!

 

「オラも、おめぇみてぇに認めなくちゃなんねんだよな」

「え?」

 

――――たった一度だけのわがままだ……

 

「――人だってことをさ」

「さ……え? 悟空さんいまなんて……」

 

 思い出されるのはベジータとの激闘を終える間際の出来事。 自身が持つサガにあらがいきれず、どうしてもと言って頼んだ生涯初めての『他人に迷惑をかけるわがまま』

 そのときに自覚したのはやはり自分もどこか『彼等』と似通っている事と、それを認めた自分がいたという事。 その姿を、どこか今のすずかにダブらせて……

 

「なんでもねぇ。 『全部』が終わったら、ちゃんと話す。 オラの事も、それ以外の事も……な?」

「はぁ……」

 

 笑顔を作る。

 決して作ったものではなくて、本当に心から笑っているその姿。 だからだろう、すずかも忍もファリンも、皆がつられて表情を崩していく……部屋の温度がわずかに上昇した気がした。

 

「ま、もしもさっきみてぇに変な奴らに絡まれたらよ? またオラが助けてやるさ! おめぇたちの気は特別わかりやすいし、地球に居ればどこに居たって見つけられる自信はあるかんな!」

「は、はい……」

「あ!」

「え?」

 

 壮大な宣言。 見様によっては赤面物の言葉は、決してそのような意味合いを持たないのだが……その言葉を発したすぐ後であろう。 悟空は忍を見て、ハッとする。

 

「シノブ、おめぇはダメだぞ?」

「え!?」

 

 それは否定な意味の言葉。 しかしその発言は大事な意味を持ったものであり……

 

「おめぇはほら……キョウヤが守ってくれるもんな?」

「あ~~そうです……ね」

「おめぇたちが“そういうの”はさ、幾らなんでもオラにだってわかっからな。 ブルマとヤムチャみてぇにケンカはしてねぇようだけど」

「え!? え、えぇ……その、仲は睦まじいほうで……ありがとうございます」

「おねぇちゃん……」

「ははっ!」

 

 ほんの少しのこそこそ話。 それを聞いた忍は若干視線を下げて、思い人たる彼を思い出し、そんな場面は想っては若干赤面してしまう。 その行動は彼女がいまだに“子供”と呼ばれる年齢であるいい証拠であろう。

 

「悟空様、こちらが御所望のモノです」

「お! サンキュウ、ノエル。 さってと、そろそろ行かねぇとな。 とりあえずはやてのとこに帰らねぇと」

「え? なのはちゃんのお家じゃないんですか?」

「んいや、ちょっとわけありでよ。 今は別んとこで厄介になってんだ。 ケガの治療とかもそこでやってもらわなきゃなんねぇしな」

「ケガ?」

 

 締まりつつ話題、結ばれた小さくも大きい約束。 それらが丁寧にそれぞれの心にしまわれると、まるで時間を知らせるかのように入室してきたノエル。 その彼女のわきに置いてあった大きい発泡スチロールを見ると、悟空はそっと歩き出す。

 やることがある。 そういった彼の目の色は強く輝いている様で。 だからであろう、ケガという単語の意味を聞くこともままならず、そのまま悟空が部屋のドアから出ていくのを見送るだけしかできず。

 

「そんじゃ行ってくる! もっかい死ななかったらまた会おうな。 じゃな!!」

「え!? 悟空さん――――」

 

――――筋斗雲ーー!!

 

「行ってしまわれました……」

「ノエル? いまあのひとなんて言ったか記録は?」

「バッチリです。 『もっかいしななければ』 そう、たしかに……」

『…………』

 

 去り際の一言に、彼女たちは大きな不安を残し……

 

「あれ? さっきの男性は?」

「え? あぁ先生」

「もしかして出かけたんですか!? あんな重体で動けるなんて……精々見積もって普通なら全治4か月以上の重症なのに!」

『ぇえ!?』

 

 ひょこっと顔を出した女医の一言に軽い鮮烈を受けつつ。

 

「どうしたらあんな怪我を負うんだろう。 怪獣と戦ったりでもしたんでしょうか……?」

『…………悟空さんって……』

 

 残された女医の、案外的外れではない一言に最大級の不安を心に残していくのであった。

 

 

 

「おっし帰ぇるぞ! 筋斗雲ーー!!」

 

 軽快なリズムを打ち鳴らす靴の音。 タップダンスの様な音で地面を蹴る悟空は月村邸のドアを大きく開けると、夕焼け空に吼える。

 すかさず空に跳んだ彼は、空を飛ぶ筋斗雲に乗っかり帰り路へとつく悟空の表情は何やら難しい顔でいて。 ワクワク? そわそわ? そんな擬音と共に段々と真剣な表情をしだす悟空が思うのはさっきの事。

 

「すずかの奴、いつかホントのこと言えっかな? でもアイツの顔、いつかの時のなのはとおんなじ顔だったモンな。 あれなら大丈夫か……それに、今度はオラが――」

 

 普段から戦う事しか頭に無いような彼が、ここまであの子の悩みに親身になる……やはりそこまでに自身の出生の秘密が衝撃的で、その思いをわかっているからこそ、悟空はひどく優しく、最良の選択を与えることができたのかもしれない。

 そして今度は自分の番。 悟空はそう呟くと……

 

「よっし! 今はとにかく身体を治すぞぉーー! いっけー筋斗雲!!」

 

 第4の帰る家に向かって、筋斗雲のアクセルを上げていくのであった。

 

 

――で。

 

「忘れたんだな?」

「お、おい……ヴィータ?」

 

 鬼が居た!

 身長120センチ強。 7~9歳程度の外見をした人外魔境は、屈強なる男に膝をつかせていた!!

 

「えっとよ。 いろいろあってさ……」

「わすれたんだな?」

「……はい」

 

 小人の筈なのに、50ほどの身長差があるはずなのに、その者、その少女が放つオーラは身長175センチの悟空を圧倒するかのように大きく……(つよい)

 だからだろう、彼は言いかえすことをやめ、審判が下るのをただ待つことを選び取ってしまう。

 

「おまえが食って! おまえが買ってくるって言って!! それでずっと待ってたんだぞ!」

「あ、あぁ……」

 

 震えるような声で、相手を振るわせるかのような叫び声を上げる彼女に、悟空の委縮は止まらない。 日本古来の座り方、正座というものを実践し、反省していることを全身を使って見せしめる。 ……それでも。

 

「どうするっ!?」

「どうすっかな……あはは」

「~~~~ッ!!」

「いい!?」

 

 彼女の怒りは収まらない。

 収集が付きそうにないこの騒動。 そこで口を滑らせやがった悟空に、更なる闘志を燃やし始めるヴィータ。

 もう、戦闘力数なんて関係なく、異様な世界がこの場を支配する中で、彼女はどこからか鉄の塊……もとい、鉄槌を取り出したのである。

 

「ア イ ス~~~~」

「おめぇいまどっからそれ出したんだ!? てかよ! そんなに『りき』あげたら大ぇ変なことに――」

「う る せ えーーーー!!」

「あわわわ……」

 

 弾丸射出!!

 円を描くかのように、文字通り撃ち出されたその鉄塊は悟空に迫る。 癇癪起こして完尺玉のような盛大な攻撃を撃ち出された悟空はたまったものじゃない。

 しかも背後は他人の家。 いつものように構わずに戦闘というわけにもいかず……

 

「くっ!!」

「はーー! ……あ?」

 

 彼は、ほんの少しだけ……力を出してみた。

 

「イッテテ! やっぱ無理あったなぁ……この身体じゃ気のコントロールがまだ不十分か」

「え? ええ!?」

 

 出した力は些細なもの。 しかし、その身体は、全身は、鋭く眩く『赤』に輝いていた……そう、輝いていたように見えたのだ。

 

「なにを……(いま、ゴクウが一瞬だけ光ったような……?)」

「よっこいせ……へへ、これな~んだ?」

「え?」

 

 いつの間にかヴィータの背後を取った悟空。 彼は右手を振りあげると、手に持った『モノ』を見せつけるかのように振ってやる。

 それを見て、視線を引いて、自分の手の中を見たヴィータ。 彼女は……大きく口を開いた。

 

「なんで――!?」

 

 ない。 ない……そう、ないのだ。 ついさっきまで自分の手の中に納まっていた自慢の武器が相棒が、どこにもなくて、目の前の男が持っていて。

 

「買ってこなかったんは悪かったけどよ? でも、はやてんちを壊すくれぇに力こめちゃマジィだろ」

「え? あ、おう……」

 

 何が起こったんだろう? 気付けば床にへたり込んでいるヴィータに、悟空は軽く謝りながら手のひらを差し出す。 捕まれよ? なんて薄く笑って彼女を引き上げると、手に持った鉄槌を彼女に放り投げてやる。

 

「さってと。 アイス売ってるおっちゃんはもう帰ぇっちまっただろうしなぁ……どうすっか」

「……いいよ」

「え?」

「他は全部買ってきたんだろ?」

「……まぁな。 いま外の筋斗雲に乗せてあるけど……」

「だったらそれでいい」

「え?」

 

 それでいい。 その言葉を聞いた悟空は思わずしゃがみ込んでしまう。 そしてヴィータと視線を交じらせ、互いに目の光がわかるくらいにまで近づくと。

 

「なにすんだよ!?」

「いやよ? 今朝見てぇに拗ねてんじゃねぇかと思って……」

「ダレも拗ねてねェよ! それより早く買い物袋をはやてに渡すぞ!」

「わかった、わかったから引っ張んなよ……来い筋斗雲!」

 

 パッと後ずさる少女が一人。 そこから展開されるのは痴話喧嘩にも親子喧嘩にも見えるナニカ。 どれもが当てはまるかもしれないし、そうでもないかもしれないが、心が温まる……ハートフルと呼ばれるジャンルに大別できるその光景は、『彼女達』にはなじみがなく……眩しくて。

 

『ただいまーー!』

「おかえりーー!」

 

 帰ってきたと知らせる声に、元気な車椅子少女の声が山びこしていくように返ってくる。 なんと心地のいい事だろうか? 気持ちが温まり、どこか強張っていた心の紐を緩めるかのようで……安堵する。

 

「帰ったか、孫」

「悟空さん、お帰りなさい」

「遅かったな……」

「はは、すまねぇ」

 

 そこからぞろぞろと現れる家族たち。 それに手を振ってこたえる悟空は筋斗雲と共に家の中に入っていく。

 もくもくと進んでいくその雲に、興味津々といった面々を差し置いて、悟空はそっと息を吐く。 今日の事、昨日の事、ここに来てからもう24時間が経とうというこのタイミングで、彼が思うのはやはり“やり残し”の事であろうか。

 

「あいつら……ほんとにどこ行っちまったんだ……」

 

 心配で、不安で……探しても見つからなくって。

 わかってはいる、今の自分ではどうしようもないという事と打破できない現状。 それらに歯噛みするかのように俯いた彼は本当にらしくなくて――そんな彼に。

 

「孫、帰りが遅かったみたいだがどうかしたのか?」

「……! ん? いや、ちぃとばっかし急用が出来ちまってな」

「そうか。 あまりに遅いからまだかまだかと……ヴィータが――」

「わー! わーー!! おいコラ! シグナム!」

「ヴィータが? どうしてだ」

「な、なんでもねーよ! ただアイスが…その………」

「ふふ……」

 

 彼女たちはあたたかく迎えていて。

 余計な詮索も、変な勘繰りもしないのはひとえに彼らの性質か。 それに気づかないながらも、悟空の肩からほんの少し『荷』が下りたのもまた事実で。

 

「いやー今日はいろんなことがあったなぁ。 買い物したり誘拐されたアイツ等助けたり……急に腹ぁ痛くなったり」

『…………え?』

「え?」

 

 そこで告げられた本日最大の異変たる出来事。 謎の食中毒を思い出した悟空の表情は辛い。 もう二度と、できればお目にかかりたくもない“対戦相手”であったと思いかえす彼の顔、その表情に皆は……『まさか!?』という顔を作り、悟空はそれを見て――

 

「え? どうかしたんですか……?」

『……』

 

 心静かに“彼女”を見る。

 アイツ、アイツなのか? と心で訴えかける周囲の面々。 その声は聞こえないけれど、先ほど白髪の女医が言っていた言葉を思い出す悟空は、そこで何となく覚えていた単語を……

 

「そういや先生は“食中毒”とか“いかいよう”とかって言ってたっけか……?」

『……そうか』

「えっとみんな? どうしてそんな目でわたしを?」

 

 つぶやいた。

 彼から聞こえてくるのは数日前にも聞いたような単語であって。

 

「そうや。 シグナムも確か……?」

「え? シグナム?」

 

 思い出したはやては、そのことを語ろうとして……

 

「主、先にキッチンの方へと行っておいてはくれませんでしょうか? ……ヴィータ、頼む」

「いいけど……あんまヤリ過ぎんなよ」

「わかっている……案ずるな」

「……その言い方が怖いんだけど」

「えっと? なんやようわからんけど先いっとるわ」

「はい……」

 

 やや崩れた敬語を使うシグナムに促される形でその場を後にしていき、そこに残ったのは悟空とシグナム、ザフィー……「少し夜道を……」は筋斗雲とともに消えていき、最後の一人はもちろん――

 

「あのぉ……?」

 

 騎士科 湖目に分類されるであろう彼女……シャマル先生であろう。

 彼女はわからない、いや、解っていない。 自身がしでかした“事”の大きさと、被害者二人の想像を絶する痛みと苦悩を。

 

「おいシャマル」

「っ! ……どうかしたの?」

「貴様、いい加減自覚しろよ……」

「えっと?」

 

 苛立つ! そのとき確かにシグナムの右眉が引きつった!!

 握る拳。 そのあまりにも強く、悲しみを乗せた『右』は語っている……

 

「貴様はもう台所に立つな!!」

「え?!」

「このあいだ! 私がどんな目にあったかもう忘れたのか!!」

「それは……」

「44時間……だ」

「う゛!」

 

 おまえは間違っている、と。

 

 目の前の人物への圧倒的な拒絶。

 さらに出された数字はキリが悪い上に、どこか不吉を感じさせる並びの数。 その偶数の並びは漢字変換すると……やはり不吉で。 その数字、その意味、それは――

 

「44時間! 私は生死の境を彷徨っていたんだぞ!!」

「い゛い゛!? 44時間!!」

 

 彼女の苦闘の時間であった。

 そのときの想い、重い、思い……それらすべては推し量ること叶わず。 故に悟空はその表面だけ受け取ると表情を驚愕に染める。

 ありえない。 そんなつぶやきさえ聞こえてきそうな彼の顔を「わかってくれるか」などと目を光らせるシグナムは若干涙目。 そのときの経験が余程に苦しかったのだと、見たものの涙を誘う表情だ。

 

「まるで熱された鉄の塊を胃の中に入れられ、そこから雑巾絞りのように締め付けられる感覚……うぅ! 今思い出しても不快極まりない……」

「お、おい?! シグナム!」

「す、すまない孫。 と、とにかくシャマル! おまえはそれ以上フライパン……いや! 包丁……まだぬるい!! まな板に触ることすら許さん、いいな!」

「そんな?! 悟空さんもなんとか言ってください……よ……?」

「なんとかって……オラおめぇたちが何言ってるのかよっくわかんねんだけど」

 

 孤立無援とはこの事か? ついに終止符を打たれようとするシャマルの不敗神話。 そのときを思い起こしたシグナムがよろけると、悟空はすかさず肩を貸し彼女を支える。

 一見華奢な彼女の身体も、いざ触れてみとやはりそれはふくよかとは言い難い……逞しいともいえるモノを感じさせる身体。 それに『タジタジ』……ではなく「……さすがだなぁ」なんて言葉が出るのは悟空だからであろうか。

 そして……

 

「いいかよく聞け孫。 おまえが患った腹痛、あれはシャマルが作った料理が原因だ!」

「え?」

「私も被害者だから間違いない! あのときはたったの一口で昏倒したんだ」

「そ、そうなんか……」

「だが今朝のおまえの様子から随分改善されたと感心した……そんな私が甘かった」

「……はは」

 

 つらつらと述べられていく真実。

 症状の出が若干違ったが、それは悟空だからある程度抵抗されたのか、それともこれがホントの改善点……時限爆発式とも言えばいいだろうか? そんな彼女の手料理に。

 

「味は良かったんだけどな……はは」

「私はそんなことすら思う余裕がなかったよ」

「くすん」

 

 酷評の連続なシグナムであった。 そんなこんなで、いろいろとショックを受けるシャマル。 なのだが。

 

「まぁ、おめぇが料理ヘタクソなのはよっくわかった」

「うぐっ!?」

「お、おい……け、けどさぁそれも頑張って修業すれば何とかんなるとおもうんだ」

「……修行?」

 

 落ち込むシャマル。 それを見て後頭部に右手を持っていくいつもの仕草で言ったのは……激励の言葉。 励ますのではない、強くなればいいというその言葉にシャマルは悟空を見つめる。

 

「でも……」

「え?」

 

 でもという言葉。 そこに隠された意味はおそらく『疲れ』

 それを正面に解き放つか如く、悟空は彼女へ即座に明け渡すこととするのだ。

 

「しばらくは勘弁してくれ……な?」

「うくぅ」

「……とうぜんだ」

 

 まったく、身もふたもない話である。

 

~~1時間後~~

 

 団欒が始まった。

 はやてが悟空から受け取った材料たちは、それぞれが的確な大きさと流麗な形へと切断、整えられていき、次第に均等に分別されていく。

 まずは肉たち。 薄く切り口を開けておき、そこにスパイスを振りかけておいたそれは芳醇な香りをあたりにただ寄せる。 それらが薄い狐色にまで焼かれると、ステン製のザルにあげて油をきる。 この時に切った肉汁はとっておき、後のスープの出し取りにも活用する。

 次は野菜を放りこむはやて。 彼女はそれらを軽く炒めていく。

 ニンジン、ジャガイモ、そして最後に玉ねぎを軽く火を通すと、今のいままで火を通していた鍋にそれらを入れていく。

 さらに肉を入れ、数分間経ったら2種類の市販カレールーをいれ、火を一気に弱めては「くつくつ」と空気を吐き出す音を聞きながら車椅子の上で汗を拭く。 流れるような作業。 足が不自由というハンディをものともしないのは、彼女の計画性とそれにまつわる下準備がなせる業である。

 

 そして、悟空がその匂いに『ぐぅ』の音を出している合間に、今夜のメインが出来上がるのだった。

 

「梅雨入り前やけど、たまになんとなく食べたくなってまう。 上手に出来たやろか?」

「おーー! カレーだ!! すっげぇなはやて、おめぇこんなうめぇモンできるんか!?」

「……えへへ」

 

 水道で手を洗っていたはやては、後ろから『ふらり』と浮いて出た悟空の一言にうつむき加減で答える。

 その具合は恋する乙女……ではなく、テストでいい点数を取ってほめられた娘のようであって。

 

「あんがとな」

 

 頬の温度が無制限に上がっていく彼女の心は、それに比例するかのように温まっていく。

 

「さってと。 せっかくのはやての飯だ、さめねぇ内に食わねぇとな……おーーい! ごはーん! ゴハンだぞーー!!」

「??」

「あいっけね。 つい癖で……みんなー! ゴハンだぞーー!!」

 

 叫ぶ悟空。 それは普通にゴハンの合図なのだが、それを失敗したという悟空に若干の困り顔を見せたはやて。 けどすぐに成りを潜めたそれは、逆の表情……笑顔へと変わっていく。

 

「みんなーゴハンやで~~」

 

 そうやって、暖かな空気をもたらす食卓を、悟空と一緒に作り上げるのであった。

 

「んめ~~!!」

「んぐんぐ……さすが主」

「やっぱはやてスゲー!! 激ウマだぜ!!」

「ばう……」

「どうやったら……こんなふうに……ん~~」

 

 巻き起こる歓声。 それは多種多様でありながら、行く出口は同じという統一性のある言葉たち。 なかには悟空の影響で“見稽古”なんてやっていた者もいるのだが、其の人物の努力が開花するのはきっと遠い未来であろう。

 そんなことより、とにかくすごいのが悟空の食欲。 彼の勢いは止まること知らずに、次々と食事達をその胃袋へ葬っていく。

 

「んぐんぐ――ん~~んめんめ! ……ん?」

「お、おい孫! そんなにかき込まなくても……?」

 

 その中で起こる些細な異変。 それは悟空に深く突き刺さるようでいて……

 ちなみに、いま彼らの配置はというと、長方形のテーブル、その長い辺にふたりずつで座り、傍らにザフィーラが彼女たちを見守るように座った配置を取っている。

 はやてと悟空、それに対面するのがヴィータとシグナム、そういった感じの配置である。

 

そんな彼等……というより、あまりの勢いである目の前の人物に、落ち着けと言わんとするシグナムは悟空の真ん前に座っている……座ってしまっていた。

 

「――ッ!!」

 

 そのときである。 悟空の脳裏に、稲妻のような規模の電流が走る――――

 

 抑えきれそうにない欲求。 変えれそうにない発射方向と仰角。 それらすべてが偶然で、しかしタイミングも物量も、そして彼の肺活量も――――

 

「ぶえっくしょん!!!」

『!!?』

 

 圧倒的に最悪だったのだ。

 

 轟く咆哮は悟空のモノ。 それは、一つの山を震わせるのでありました。

 

「は、ははは。 すまねぇシグナム」

「…………ふ」

 

 ぽた、ぽた……と、黙り込んでいるシグナムの整えられたピンク色の髪の毛から滴れるのは、カレーと麦茶と悟空の○○○の混合液。

 それは音だけなら鍾乳洞の中で聞こえる鍾乳石から滴れる水滴の音とも取れ……取れないな、どう考えても違う。

 

「し、シグナム?」

「ふふっ」

 

 笑う。 そのとき彼女は確かに軽く息を吹きだした!

静かすぎる吐息、それは何に対してだろうか? 声でしか判断できないシグナムのため息にもおもえるそれは。

 

「おーい、シグナ――」

「……孫、貴様」

 

そして嗤う、だがその表情はいまだわからない。 『物理的に』見ることのできないシグナムの表情は推し量ることなどできず、それがより一層皆に不安と恐怖を駆り立てていく。

 

「お……おいシグナム大丈夫か?」

 

 横にいたヴィータはその姿にたまらず声をかける鉄槌を名乗る少女、しかし目の前の『彼女』は鉄槌よりも冷たく、そして。

 

「よくも……」

 

――――右手を広げて手のひらを顔面に向ける

 

「やったな……!」

 

―――それは触れる。 いまだ自身の顔面を覆かくす『元はやてが作ったもの』に!

 

「ゴクウ」

「ん? ど、どうしたヴィータ」

 

 その間にかわされる会話。 ヴィータは悟空をうるんだ瞳で見つめている……それは女の最大の武器であり凶器、しかし目の前の孫悟空(トウヘンボク)には何の意味は持たない―――今回の『ソレ』の使い方はそんなもののためではないのだが。

 

「生きろよ……」

「へ?」

 

「ふふふふふふふふ」

 

―――――触れた.....その右手は2重の意味で触れた、そこからゆっくりと『覆い隠すもの』を掻き落とし。

 

      ぼた!

 

 床に重たい『なにか』が落ちる、それは肉であり、野菜であり、穀物で『あったものたち』―――それらが覆い隠していた『恐怖』を……シグナムの素顔をさらす。

 

 

 

―――――――――――――同時。

 

「くたばれコンチクショー!!」

【explosion】

「シグナム!?」

「あかん! シグナムが壊れてもうた!?」

「おちつけよシグナム!」

 

 いっきにドタバタ騒ぎを巻き起こすシグナムは速攻で相棒――――レヴァンティンを展開、一気に振り下ろす! やりすぎ、なんて言葉は最早通らない。

 

 彼女の弁護のためにも想像して見てほしい。 主とのささやかな夕食時に……幸せな瞬間に! いきなり自分の顔面に誰かさんの人知を超えた量の吐瀉物がぶちかまされるところを!!

 

―――――――――――判決は……斬殺刑でも文句は言えまい。

 

 その斬撃は達人の域。 故にすべてを切り裂く必殺の剣、使い手と一体となり『呼吸』が合わさったその一撃は『彼』をとらえる。

 

(しまった! 力が入りすぎ―――――)

 

 ここ数時間で完全に悟空にペースを乱され続けたシグナムは珍しく『力加減を誤った』

 

 はずだった。

 

「あっぶねぇなぁ……さすがのオラもこの威力は只じゃすまねぇぞぉ」

『え!?』

 

 しかし『それ』は本当に誤りだったのだろうか――――

 

 

「―――なゅ!?」

 

 

 

かみかみのシグナムさんには『まだ』わからないことであった。

 

 真剣白羽取り、実践において無手の者が刀を持った相手に行ういわば最終手段。 彼、悟空はそれをいともたやすくやってのける。

 

「せっかくシャマルに治してもらったのに、またケガなんてしてらんねぇしな――――!!」

「おい、孫? どうし……」

「見つけた!」

 

 両手はいまだにシグナムの愛剣であるレヴァンティンを取ったまま、しかしその目線は八神家の天井……ではなく、もっと遠い『だれか』を見つめている

 

「間違いない! なのはたちの『気』だ、それにこのでけぇ『気』は!?」

 

 苦虫を噛む……元来この言葉は誤りであり本来は『かみつぶす』が正解である、しかしいまの悟空の表情は『苦虫を噛む』と言った方が適切ではないか?

 

「ごくう、どうしたん?」

 

 まだほんの少ししか一緒に居ないはやてだが、それでもいまの悟空が普通ではないことがわかる。 その目は鋭く研ぎ澄まされ歯は強く食いしばられている。

 まるで『敵』を睨みつけるようなその目に、心優しき少女……はやては怯えを隠せずにいた。

 

「――――くっ!(なんで今まで気づかなかったんだ!? やべぇ! この大きさ、ベジータよりもでけぇ気だ!)」

「え!?」

 

 一瞬だけ足元に行ったその鋭い視線はすぐにシャマルの方に向く、射抜かれたシャマルの身体は硬直し、悟空と目線を合わせたまま動けない。

 

「悟空さん?(このひと……こんな鋭い目ができ)「頼むシャマル!」え!?」

「いますぐオラの身体を治してくれ! このままじゃ……」

「ゴクウ、いったい何がどうしたんだよ」

 

 咆哮のように放たれる声、それにヴィータは動揺しつつも悟空に問う。

何が起きたのか。 『わたしたち』には何も感じないこの空気のなかで彼は何にそんなに警戒しているのかと。

 

「詳しいことは説明してらんねぇ、たのむ! 早くしねぇとなのはもユーノもフェイトも! みんなアイツに殺されちまう!」

『こ、ころ!?』

 

 ついに見つけた探し人。

 しかしその喜びもつかの間、自身を圧倒する実力を持った存在に気づき、正体を知るや右手で拳を作る悟空。

 大きさだけではない。 殺気と狂気を混ぜ合わせたかのようなおぞましい『気』の質に、彼は戦慄を隠せはしなかった。

 唐突に蘇り、脳内に駆け巡っていくあの言葉――

 

まずは、あの小娘から……

「――くっ!」

 

 それを思い出させられた悟空は、困惑する八神家のなか、ついとっさに声を張り上げるのであった。

 

 




悟空「オッス! おら悟空!!」

シグナム「……」

悟空「どうすっか!?」

シグナム「…………」

悟空「どうすればいい!」

シグナム「…………唐突に大汗をたぎらせる孫。 ナニカが起こったという情報しか入ってこない我らに、アイツを手伝ってやることなどできず――すまない孫! 我らは誰にも気づかれづにこのままで居たい――――……だが、しかし―――!!」

ザフィーラ「戸惑うアイツの心は揺れる。 だがシグナムと我らが知りえぬところで、事態は風雲急を告げていく。 ……どうなっている」

なのは「次回魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第20話」

フェイト「先延ばしは無しだ! なのは、決意の次元転送!!」

なのは「キャ――なに!? 敵襲!!」

クロノ「ここは局員のみんなに任せて僕たちは――」

なのは「そんな?! 出来ないよ!!」


???「…………また、です」



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