魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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久し振りの管理局回。
そして動き出した彼女たちと、悟空の進んでいく道はきちんと交わることができるのか?

少女が進むとき、青年は立ち上がる。


悟空、発進回です!!

PS――――小3の身で町一つ破壊できるってすごいですよね。


第20話 先延ばしは無しだ! なのは、決意の次元転送!!

 次元航行艦。 それは、この無数にある『世界』を行き来するための装置であり、その間に起こる長い時間を過ごす家であり、作戦の要となる拠点になるもの。

 故に、この船が次元間航行をすること自体は何らおかしい事ではなく、いったん地球を離れ、次元と次元の合間にある『通路』の様な空間で彷徨うことも何らおかしい事ではないのである。

 

「ま、また出た。 これで三回目」

「こんな頻繁に……エイミィ、周辺世界への影響は?」

「ありません。 ですが最初の時よりも揺れ幅が増大していってます。 もしもこのまま大きくなりつづけるとしたら」

 

 あの男からの通信からおよそ3時間以上が経ち、時刻にして20時のアースラ艦内、その管制室で観測された『あの日』から『4回目』の次元振のデータを見てエイミィ、クロノ、リンディの3人は苦心する

 周りの次元世界に今のところは悪影響を与えてはいないその次元振は例えるならば。

 

「まるで池に小石を投げ込んだようだ……」

 

 クロノはつぶやく――――時の庭園、そこからまるで一石を投じた水面(みなも)のように広がっていくそれは日を追うごとに小石から石に、石から岩にと、投げ込まれていくものの大きさを変えるようにその波の『振れ幅』を増大させていく。

 

「いまは只のさざ波程度だからいい、でもこのまま日数が経過していったとしたら」

「さざ波が、大きな津波になるってことね」

「はい。 5日後には今のおよそ8倍の次元振が予測されると思います。 願いをかなえるっていうジュエルシードの特性ってのがいまいち把握しきれていないけど、たぶん間違いないですよ」

「たぶんか。 できれば外れてほしい『たぶん』だよ」

 

 気分は最低、状況は最悪。 こちらの手札は4枚、しかも切り札(ジョーカー)は山札のなか。 革命(きせき)が起きなければ到底ひっくりかえせない今現在。

 

「この反応はフェイトさんから聞いた話から推測して、ジュエルシードを呑み込んだっていう『鎧の男』と思って間違いないわね」

「そしてこの日増しに大きくなるところを見ると『取り込む』個数は1日1個まで、あっちのジュエルシードの数は」

「たしか7個、そこから4日分引いて残り個数は3個だね。だからあと3回は反応が増大するっ……と」

「まだ強くなる…………でも」

 

 しかし相手(鎧の男)の挑発(レイズ)は止まらない、こちらの掛け金(ジュエルシード)をすべて持ち去ろうとあんな『景品(プレシア)』まで用意したのだ。

 

「僕より年下の彼女達があんな顔して必死に『たたかって』いるんだ、ここで向っていかないわけにもいかないじゃないか」

 

―――――――時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンは腹を決めようとしていた

 

 

~数分後~

 

 艦長室に集合するよう報告を受けたなのはたちは、数少ない休息の時間を切り上げ、リンディたちの待つ艦長室に行くことに。

 そこで待っていたのはリンディたちを含む10数人の武装局員の人たち、そこでなのはたちは簡単な説明を受ける。 これからの事、自分たちに時間がないこと、それらを再確認するための……ブリーフィングが始まる。

 

「わたしたちアースラ乗り組員は、敵本陣と思われる『時の庭園』に突入することに決定しました。突入方法は協力者のフェイトさんから」

「協力者のフェイト・テスタロッサです、まず――――――」

 

 突入方法はまず、いったん『なのはのいる』地球に転移、そこから次元境界線があいまいになっている『とある地点』にステルスを張ったアースラで突入。

 ステルスを張る理由については、やはり魔法文明がゼロである彼女たちの世界に悪影響を与えないようにとの配慮である。

 

 そしてフェイトから教えてもらった次元座標。 “海鳴市のとある公園上空”に生じた次元境界がばらついている地点に『アースラごと』突っ込み、強行突破という……女性艦長にしてはかなり荒っぽい作戦となった。

 

「……本気か?」

「本気だ……そうだ」

 

 それを聞かされたユーノは隣にいるクロノに小脇をたたきつつ尋ねる。 その顔を例えるなら……初めてドリアンを見たそれ、もしくは牛の解体ショーを見てしまった時のそれ――――わかりにくいが、とにかく『マズイ』表情である。

 

「しかたないだろ……次元空間、通常空間ともに今現在『庭園(むこう)』に飛ぶことはできないんだし」

「そこだよ。 どうしてこのままフェイトの母親が居る時の庭園にまで飛べないんだよ?」

「わからない。 なにか強力な力で押さえつけられているような……もしかすると、鎧の男が取り込んだというジュエルシードが関係するかもしれない」

「……そうなのか。 理由は分かったけど船ごとなんて――」

「いいや、次元境界線が不安定な場所での強制転送だから、逆に人間数人だけで『飛ぶ』のは危険が多すぎる」

 

 だからこれしか手がない。

 切れる札のあまりにも少ない今現在、ユーノとクロノの男コンビは何となく天を、室内なので天井を見上げる。

 

(悟空さん……もしも無事なら、早く帰ってきて!)

(でないとここの女性陣が無茶ばかりしてしまう。 僕たちじゃ止められない)

 

――――――念話を使わずともすでにその呼吸はピッタリであった。

 

 届けこの想い。 どうか無事であるはずのあの人まで……それは、きっと届くであろう。

 

「ねぇ、フェイトちゃん」

「え?」

 

 少年達が重い息を吐き出している刹那、なのはは隣でミルクティーの入った紙コップに口づけていたフェイトに話しかける。

 突然かけられた声に反応した少女は驚いたのであろう、その小さな口元からわずかに紅茶を零し、それが頬、顎と流れていくと、ゆっくりと手のひらでふき取る。

 

「……零しちゃった……えっと」

「あ、ごめん。 これ……使って」

「……ありがとう」

 

 渡された真っ白なハンカチ。 それで口元と右手を拭くと、フェイトはそれを丁寧に畳むとそれをふわりとバルデッシュの中に収納する。

 

「あとで洗って返すから」

「あ、気にしなくていいのに」

「え? そうなの?」

「そう……だけど?」

「ごめん」

 

 ほんの少しかみ合わない会話と距離感。 ふたりとも気持ちの整理がついた彼女達だが、そこはやはりつい最近まで敵同士だった彼女達。 弾む会話があろうはずもなく……いいや、あるとすればやはり『彼』のことだろうか。

 

「その……やっぱり居づらい……かな?」

「……うん。 知ってる顔がないっていうか。 いつもアルフと一緒だったし、それになんだかあなたのそばに悟空が居ないのも落ち着かないっていうか……」

「……悟空くん?」

「うん」

 

 物足りない感覚は、フェイトのモノだけじゃなくって。 この場にいるほとんどの子供たちはおんなじ感覚にとらわれているはずだ。

 戦いにおもむいて作戦とかを立てるような人間でも、統率を測ろうっていう考えを持った人でもなかったが、そんなことをしなくても“ただいるだけ”で周りに良い刺激を与える彼の存在感はこれほど大きかったのだと、なのはたちに思い知らせていた。

 

「そうだよね。 わたしもいつの間にか悟空くんについて行くような形で戦ってた節があったから……ちがうかな?」

「え?」

「悟空くんが戦ってたから……それで一緒に居たかったからなのかもしれない」

「……そうなんだ。 ねぇ、もうすこしだけ――」

「え……うん、いいよ」

 

 彼女たちは壁際へと後ずさっていく。 そのまま寄りかかると天井を見たり足元を見たり……とかくなのはに至っては、遠い昔を思い出すような仕草が子供らしくなくて。

 

「悟空くん、見た目も性格も言動もホントに幼いのに、だけどここぞって時には信じられないくらいに大人びててね」

「……それは何となくわかるかもしれない。 初めてたたかったときなんか、こっちの行動が筒抜けになってた時もあったし」

「あ~言ってたっけそんなこと。 あのとき悟空くん嬉しそうにしてたよ? 『ひっさしぶりにすげぇ奴と戦った』――て」

「……そ、そうなんだ」

 

 彼女たちは、ほんの少しだけ昔話を講じてみた。

 振り返るというその行動は決して逃げではない。 何かと余裕のない彼女たちに残された時間はわずかなもの、だからこそここで身体だけでなく、心の養分……たのしいひと時を過ごすことをするのであろう。

 

「戦いかたを教えてもらったときに思ったんだけど」

「教わった? え? なの――あなたは悟空に戦いかたを?」

「うん、基本的なことだけどね。 あとの魔法とかは全部ユーノくんやレイジングハートからだけど」

「もしかして『雷のように』……とか、そういうことを?」

「あ、しってたんだ。 うん、空のように静かに構えて、雷のように鋭く……これを教えた人ってすごいって思いながらずっと聞いてたかな?」

 

 一度端を切ってしまえば、あふれるように思いかえしていく彼との時間。 そりゃあ悪口だって言われたし、足手まといだって置いてきぼりにさえされそうにもなった。 だけどなんだかんだで引っ張っていくのが彼のいいところ。

 

「なんか……ずるい」

「――え?」

「え……?(わたし、今何を……)」

 

 それをどこかで知っていて、だけどはっきりと自覚にまで至っていないからだろう。 つぶやいたフェイトのつぶやきは、なのははおろか、彼女自身にも把握できてなかったとか。 無意識の一言である。

 

「ごめん、なんでもないんだ」

「そうなの?」

「うん」

 

 引っ込むかのように視線を地面に降ろすフェイト。 その表情は赤くなっているわけでも、当然青くもない。 「わかんない」 そういった風貌の彼女の態度も表情も、年相応であるのだから仕方ない。

 

 何となくその様子をうかがっていたのは年上の女性たち、リンディとエイミィ。 彼女たちはやや距離を取りながらも、今の会話をばっちりと聞きつけ――

 

「エイミィ。 今の会話は……」

「ばっちりですよぉ。 永久保存、過去ログ管理、シーンのタイトル順に整理整頓etc.……完璧です!」

「……べつにそこまで頼んでいなかったのだけど」

「いいじゃないですか。 『彼』が帰ってきたらみんなでばっちり見て、そしたらあの子たちの赤い顔を……」

「悪趣味よ……あとでちゃんとデータを消しましょうね。 私が確認したうえで」

「はぁい……え?」

「ふふ」

 

 ほんのりと、イタズラ心を刺激されてしまっている彼女達。 大事な作戦前だというのに、なぜこんなにもフザケタ態度でいるのだろうか? いいや――

 

「そう、この戦いが……おわったら」

「……艦長」

 

 緊張を悟らせたくはなかったのだ。

 いつも以上……否、今までに体験したことのない事例の数々、そして実力を測りかね、いまだ事態の深刻さすらどこまで重いのか予想すらつかないリンディ。

 故に彼女の胸中は不安が押し寄せていたのだろう、心が震えていたのだろう。

 

「あの孫悟空くんを圧倒する使い手よ、みんなが無事でいられるとは到底思っていないわ……もしかしたら今回の戦いで――」

「そこまでです」

「……エイミィ」

 

 吐き出されそうになる弱気を、すんでのところで止めるエイミィ。 彼女はそこでリンディにあるものを差し出す。

 緑色の『湯呑み』に、角砂糖が数個入った容器、さらにティーセットなどによく見るミルク入れ……これは、リンディの紅茶セットである。

 

「……そうね。 まだ始まってもないのに、実際に言葉にしてしまったらそこでいろんなものが崩れてしまう……あ、砂糖はいつもより多めにね? 気合、入れなくちゃいけないもの」

「え? あ、はい……どうぞ」

「んく……ん~~おいし」

 

 ひとつ、ふたつ……数えていくこと11回。 手のひら大の湯呑みの中にある緑色の飲料……抹茶と“呼ばれていた”液体はその苦味を素早く甘味へとクラスチェンジさせ、さらには練乳という薄い甘味の幕を張らせると、それらをゆっくりとかき混ぜる。

 マーブル模様に溶け合っていくその色はなんともきれいなのだが、やっている行為のえげつなさやなんとも……和菓子屋さんが怒るか、別の何かに目覚めるレベルである。

 

 気が付けば、過去の事象から甘味ものに抵抗がある恭也あたりが見たら、普通に家出するぐらいには凶悪な代物が完成していた。

 

「…………(いつもおもうんだけど、よく平気だよねぇ。 まぁ、ミルクティと扱いが一緒って、成分分析では……)」

「まぁとにかく」

「はひ?!」

「……なに変な声を出して? どうかしたの?」

「なんでもないです……それでどうかしたんですか?」

 

 劇物っぽいなにかを半分くらいまで飲み干していった彼女。 リンディはそこで一拍置いて深呼吸をし、引き締まった顔を見せると席を立つ。

 

「そろそろいいかしら?」

『…………』

 

 ざわりと、部屋の空気が動き出す。 その動きはすぐに成りを潜め、あたかも最初からそうであったかのように静寂さが周りを支配する。

 

「わたしたちはこれから、次元振発生の中心地点である『時の庭園』へと向かうことになります」

「……もう、じかん……」

「……」

 

 唐突に変わる空気に身構えるなのはとフェイト。 冷たくて鋭い……今まで味わったことのない緊張感が彼女たちの空気にまとわりつき、重しとなって身動きを鈍くさせる。

 

「こんな時に……いいえ。 こういった時だからこそ言うのだけど」

「え?」

「なんだろう……」

 

 少しだけ勿体ぶるような言いかた。 悟空が居たら「さっさとしねえかぁ」などというのだろうが、この場に流れる雰囲気が、それを誰にもさせてはくれない。

 身震いすら起こすこの雰囲気を前に、なのはは腕で自信を抱きしめ、フェイトは持ったカップを握り締める。

 

「はっきり言って戦場よりもつらいところの筈よ? 敵はたったの一人だけ。 それでも戦力的にはわたしたちで言うところの……“Sランク以上”の化け物――いいえ、もしかしたらそれ以上の怪物かもしれない」

『――――ッ!?』

 

 その発言に、管理局の人間が総毛立つ。

 汗をかき、表情から明るさを消して、あるものは足元を、またあるものは視界全てを拒絶するかのように目をつむっている。 その中でわからないという顔をするのは……なのはだけ。

 

「ランク……フェイトちゃん、それって……?」

「うん。 今あのひとが言ったのは多分“魔導師ランク”って呼ばれてるものだと思う」

「魔導師……ランク」

「ランクは基本的に、最高クラスのSSS(トリプルエス)から最低ランクのFまでの11段階あって、その中でもさらに『+』とかついた詳しい区分があるんだ」

「そうなんだ……」

 

 それは彼女にとってなじみのない単語が出てきたから。 今回の解説はフェイトにやってもらうこととなり、またも彼女たちの会話が続いていくことに。

 

「……聞いた話だと、AAAランク相当で街ひとつ消し飛ばせるって認識が一般的らしい」

「ぇええ!? そんなに!?」

「ちなみに、なの……あなたが使った『スターライトブレイカー』っていう技。 あれは威力で言えばそのAAAクラス相応の魔法だって、この船の艦長の人が言ってた」

「……う゛! そ、そうなんだ……わたしってもしかしてとんでもない化け物さんなのかな」

「……かも」

「うぅ」

 

 その中で知ったのは、聞く人が聞けば「なにをいまさら」なんて返事が来るものばかり。 そして彼女自身が平気で化け物の領域に片足を突っ込んでいたことに、ふたりは苦笑い。 さらにその威力を凌駕した“砲撃魔法まがい”の攻撃を皆が知っているのだが、その話題には決して触れようとはしなかった。

 

 話は、リンディ達の方へと戻っていく。

 

「はっきり言って底……というか天井知らずの人外魔境の部類の筈。 そんなのが敵に回った今回、正直言って――命の保証はできません」

「…………」

「……うく……」

 

 皆の気概を切り崩すかのような発言。 挫き、うつむかせ、後退させる。 まるでこの先にはいかせまいとするリンディの発言に、皆は確かに退こうとした耳をふさぎたいとも思った。 だが、そうするものはただの一人もおらず。

 

「愚申します!」

「……ええ」

 

 名も知らぬ管理局員が一人声を上げた。 その男に皆の視線が集まっていく。 このタイミングだ、決していい事ばかりの発言ではないだろうとリンディは手のひらを丸める……のだが。

 

「今この場に、退却という選択を取る者などいないと思われます!!」

「…………」

「我々はこの世界の秩序と平和を守り、存続させる存在です! しかも……」

「え?」

 

 堂々一声。 男が言い放つ言葉に何の気後れもない。

 そして男が一呼吸すると、その間視線はフェイトに向かう。 厳しくも優しく慈しむ様な目は、その青年の心の在り方そのものにも思え……

 

「この少女の母親を『自分達』は助けたい、その元凶を許せないと思い、こうやって武装を施し、募っているのです!! そんな自分たちにいまさら帰れなどとは言わないでください!!」

『…………!!』

 

 名も知らぬ男の奮起は、その周りに見事伝染していく。

 どこかで聞いたようなことを……そんなことをつぶやいたものもいたが、それが逆に彼らを強く燃え上がらせていく。 敵は強い? そんなものは先刻から知り得た情報だ……それに。

 

「そうだ、ここで引くのは僕たちが今までやってきたことを否定するようなものだ」

「クロノ……」

「うん。 それにまだできないって決まったわけじゃないもん。 きっとうまくいく……今はそう思って進むしかないと思います」

「……なのはさん。 皆の気持ちはわかりました。 ……ホントに、ありがとう」

 

 人命、それをいつの間にか握ることを強いられたリンディに賭けられていく声。 決断を迫られたのは自分だけではなかった……そんな簡単なことさえも忘れてしまっていたリンディは、ついにその言葉を轟かせる。

 

「これよりアースラは敵本拠地へと強襲をかけます! 総員、発進準備!!」

『おおおーー!!』

 

 戦陣へと向かう。 この船にいる者の気持ちが今、ホントの意味で一つとなった時である。

 次元転送……開始。

 

 

~~なのはたちの地球 とある公園上空~

 

 空が“うねる”

 ついに日が沈んだこの夜空。 輝く星々は小さくも力強い光を地上に降り注いでいく。 その中で空間が歪曲し、周囲の空気が――分子たちが激しく振動し、プラズマを作りだしていく。 それはこの世界になにか異物が入り込んでいくことを意味し、同時にこの世界に異変をもたらすこととなる。

 いまだ何もないその空間、しかしそこには既に“居た”のだ。

 若干ながら周りの景色とはちがう配色の黒と、白い点たち……まるで周囲の色に溶け込もうとする爬虫類が如く、それはこの世界に不自然ながらも存在しようとしていた。

 

「――――ッ!! て、転送完了!」

「場所は……目的地の真下1200メートルってとこね」

「帰ってきた……わたしが居たところに……?」

 

 それは船だった。 壮大とも取れる大きさを誇るその船、中に居る人間は驚くほどに少数だが、それでも機能するその船はこの星の科学の数十歩も先を行くロストテクノロジーとも言えるだろう。

 それに乗る彼らは、そんなことすら自覚しないが。 とにかく、いま彼らが目指すのはただ一つ……

 

「あ、あれ! 今までは気付かなかったけど、ずっと上になんだか『渦』みたいのが見える!!」

 

 なのはが指差したその先。 そこにある黒と紫の歪な色合いで混ぜ合わさっている『いかにも』というような力場……次元のうねりである。

 

「そこの周囲300メートルが干渉ポイントになっているのね。 なら……本艦はこのまま高度を上げ、再度の転送を――――キャ!!」

「ぐぅう……な! なんだ!?」

「すごい揺れ……」

「なにが……」

 

 高く上げられた命令は、しかしいとも簡単に崩されていく。

 大きな揺れ、縦に揺れたかた思うと今度は何やら落ちていく感覚を皆に襲い掛かる。 内臓が持ち上がるような……とにかく気味の悪い感覚に、クロノはエイミィの方へと視線を飛ばす。

 

「嘘……直撃!? 右翼スタビライザー部破損……魔導炉、出力8パーセント低下!!」

「案外大したことはないみたいね……でも――!」

「敵襲か! クソッ! 自分から招いておいて門前払いか!?」

「状況……確認っと!! 映像出します!!」

 

 まるで横合いから……いいや、文字通り横合いから突かれ始まった戦闘。

 急いで状況の確認と、彼等への対処をと図るリンディ、エイミィのペアは指示を飛ばし、キータッチの音を激しくさせる。

 そうして映し出された映像には――――夜空が映し出されることはなかった。

 

「な……なんだよこれ」

 

 クロノは戦慄した。

 そこに映る“景色”は夜の闇よりも心の不安を駆り立てていく。

 

「こんな物量……どうやって!?」

 

 それはエイミィも同じく。 自身で開けたチャンネルだが、今の彼女は酷く後悔した。 こんなものを見るのならば……開くのではなかったと。

 

「さ、最悪よ……こんなこと」

 

 船頭もここで思わず毒づく。

 見たものはあまりにも圧倒的な――――

 

「空が4、敵影が……6割!?」

『…………くっ!!』

 

 機械人形の群れ。 

 使いまわされた言い方をすれば、空を覆わんばかりの光景は見たものに現実を否定させるものであり。

 いま、エイミィが口走ったのはスクリーンに投影される色彩の割合であり、目に映る大半が敵の群れだという事なのだ。

 

「こうなるのは大体予測はつけていたけど……こ、こんなことになるなんて……」

 

 思わずついて出た言葉は希望を感じさせないモノ。 こんなこと、そう呟いた彼女は、だけど歯噛みをしつつ席を立つ。

 

「総員戦闘配備! 出られるものからすぐに敵傀儡兵を迎撃!」

『はい!!』

 

 全員の戦意に撃鉄を打つ。

 振りかぶって広げたその右手は、眼前に広がる『傀儡兵』と呼ばれたものたちの掃討を命じる。 その中で、彼女はなのはたちを見る。

 

「…………!」

「え?」

「どうかしたんですか……?」

 

 一瞬の歯ぎしり。

 苦悶と取れるその仕草に気付くなのはとフェイト、そして部屋を出ようとしたユーノはこの場に残る。

 なんだか呼ばれた気がしたから……それは、正しい判断だった。

 

「クロノ……」

「わかってます。 そのために先陣を他の者に任せたんですから」

『??』

 

 親子の会話。 行ってきますと言った風態ではないのだが、どこかそう見えてしまうそれに周囲は腑に落ちない顔をする。

 そんな彼等をながしながら、クロノは『母』から視線を外し、大きくも小さい声をなのはたちにかけていく。

 

「みんな、冷静に聞いてほしい」

「……どうしたの?」

「いま僕たちは敵襲を受けている」

「え? ……うん、それはわかっているけど」

「……(まさか?)」

 

 語りだしたクロノは、持った杖を軽く握る。 いいや、見えたのは表面だけ……その強さたるや、まるで深く悔いる息子殺しの親の様で。

 

「いま、この船の機能に必要な人員を残して大半の人間が傀儡兵に向かって“陽動”を仕掛けている」

「……陽動? ……――!!」

「わかってくれて何よりだ。 それで――「ちょっとまってよ!」……なんだい?」

 

 広がる波紋はナイフのように鋭く、冷たく。

 それをかき乱すかのように上がるなのはの声に、だが……だがクロノは表情を変えない“ように”彼女へと返事をする。

 

「こうなるのはみんなわかっていた。 さっき奮起していた局員もこの事をわかっていたからこそ、あんな風にみんなに向かって叫びをあげたんだ」

「そんな……」

「キミはもう少し自分の力をわかっておいた方がいい。 キミたちは切り札なんだ、そして今はそれを切るタイミングではないし戦力の消耗は比較的避けておきたい」

「だからって!」

「……言いたいことはわかる……でも――――これしか方法がないんだ! 今ある戦力では敵陣の中央を突破し、中枢を一気に叩く以外……ないんだ」

「く、クロノくん……」

 

 歯ぎしりが聞こえた

 重く、耳障りにも思えるそれは、その分彼の気持ちを代弁するかのようで……それを見てしまったなのはに、言い返すことなどできず。 彼女は、視線を斜め下にずらして口を閉じていく。

 

「……なのは」

「…………」

 

 見守るフェイトもユーノも、気持ちの整理がつかない。 つかないものの、クロノ達の言っている作戦が至極当然だという事を理解できてしまうから何も言えずに……

 

「みんな……ごめんなさい……」

『いこう……!』

 

 画面の向こうで始まった戦闘に、頭(こうべ)を垂れるしか、できないのであった。

 

「クロノくん! なのはちゃん! フェイトちゃん! ユーノくん! みんなお願い!!」

『はい!!』

「アースラから直接、あの『歪み』の干渉空域にまで転送するから。 そしたら今度はバックアップ付のクロノ君の転送魔法でみんなは庭園に! 水先案内はこのエイミィさんにまかされた!」

『わりました!』

 

 転送ポートにたどり着いたなのはたち。 そこからは自称水先案内人のエイミィに言われるがままに走り抜けるだけ。

 気負い、震え……奮わせる。 彼女達の心はいま、確かに熱く燃焼しようとしていた。

 

 

「転送……開始!!」

『――――』

 

 同時……海鳴の大空に、耳をつんざく爆音が鳴り響く。

 

 

 

――――その頃。

 

「シャマル」

「…………」

「なぁ! シャマル!!」

「…………うぅ」

 

   八神家 一階リビング

 

 突如感じ取った『なのはたち』と『あの男』の気。

 ついに見つけた悟空であったが、前よりも格段に増したあの鎧を着込んだサイヤ人の男の『気』に悟空は焦っていた。

 柄にもなく、彼らしくもなく……強いモノを前にした昂揚感よりも、今の彼には失いたくないものが心を大きく占めていて。

 

「はやく――」

 

 かつて大敗を喫したサイヤ人の王子 『ベジータ』よりも強いそれは悟空にあるイメージをフラッシュバックさせるに至る。

 

 地面に埋もれた『ヤムチャ』

 肉片の一つも残らなかった『チャオズ』

 片腕を断たれ地に伏した『天津飯』

 息子をかばい、息絶えた『ピッコロ』

 

 その4人の姿になのはたちが重なり―――彼らの後ろでは不愉快な声をあげながら笑うベジータと『あの男』

 それをかき消したとしても、悟空の息はだんだんと不規則になり、全身からは油のようにぎとつく汗がにじみ出ていた。

 

「―――――!」

 

 そしてまた一つの変化が訪れる、それは悟空をさらに――

 

「な……なんでだ……!」

 

 焦らせた。

 

「ご、ごくう?」

 

 そんな悟空を不安げに見つめるのは八神はやて。

 

「孫……」

 

 見たこともない姿の悟空に戸惑うのはシグナム。

 

「ゴクウ、しっかりしろよ……」

 

 はやてと一緒に悟空を見つめるのはヴィータ。

 

「……ううむ」

 

 ただ後ろで伏せるのはザフィーラ。

 

――――――――――そして。

 

「おねがいクラールヴィント、悟空さんを」

 

 その額に汗を流し、今も悟空の回復に全力を注ぐシャマル。 八神家は一家全員で悟空の力になろうとしていた……だが。

 

「くっ……なのはたちの『気』が……消えた……――!!」

 

 唐突に失われていく彼らの感覚。 いきなり、そして突如として合い成ったその消え方は不自然すぎるのだが、それをも分析することができない悟空の焦りはそれほどに大きいモノなのであろう。

 目は開かれ、広げられた口からはただ力の限りに食いしばられた歯がのぞいているだけ。 今の彼に、何ら打つ手は残されておらず。

 

「悟空さん!?」

 

 彼は拳を握る。 この世界にきて初めて『友』となり、一緒に笑いあった『彼女達』のもとに翔けつけるために。

 手段なんかなくてもいい! やれることをやらなければ後に一番困るのは自分だ!!

 彼は、座っていた椅子を大きな音を立ててひっくり返す。

 

「無理させてすまねぇなシャマル、おかげでもう治った」

「治った……って!? そんなのウソです!! まだ骨のひびは塞がってないし打ち身だって――」

「そんなことねぇ、オラもう――!」

「ダメです! 大変なとこに行くんでしょう?!」

「でもよ――!!」

 

 悟空の完治の声にシャマルは思わず絶叫する。

回復魔法などのバックアップのエキスパートである彼女、故にわかる。 彼の、悟空の傷が全快などしていないことを、常人ならばいまだに寝込んでいてもおかしくないはずの身体の状態を。

 そんな彼をいま戦いの場に送り出すことなど、彼女にはできない。

 

 せめぎ合うかのようにもつれる会話の糸、それは彼女たちの中が良ければよいほどに、お互いを思っては相手を縛り、針のようにさしていく。

 針のむしろ――ソンな単語が浮かぶ最中、見かねたのかどうしたモノか……

 

【…………ka? n goku―― 】

「――え?」

「ごくう?」

「孫?」

「声? いまこえが……」

 

 聞こえてきたのは声。 しかしどうにもぼやけていて聞こえづらいそれに、悟空は【声】を張り上げる。

 

【だれだ!? も、もしかして界王さまかーー!?】

 

 もしかして。 本当にそんな願いが込められた問いただす声。 悟空が知る中でもおそらく3本の指に入るくらいに広大な知識と力を備えた頼れる人物。

 たまにでてくる『ダジャレ』はどこも面白くはないけれど、力になってくれるいいヒトで。 彼ならば今の現状をどうにかできるとおもい、希望を胸にかけたその声も……

 

【ソン…ゴクウ………よかった、きこえて】

【女の……声? なんだ界王さまじゃねぇんか……】

【…………?】

 

 やっと聞こえたその声は胸中の人物ではない別人のモノ。 それに気づいた悟空はため息をついてあからさまな『がっかり』という態度をする。

 その嘆息に思わず言葉を止めた女性の声。 姿が見えるのならばおそらく首を傾げ「どうかしたのですか?」と丸い目で聞いてくるような感じになるであろうが、今はそれを見ることは叶わない。

 

「……孫?」

『……?』

【おめぇが誰かはわかんねぇけど、わりぃ! いま取り込み中なんだ! 話は後で――】

【待ってください……あなたは……このまま行ってはいけない】

【でも行かずにはいられねぇんだ! せっかくあいつ等を見つけたんだぞ! だから――】

 

 呼び止める声に思わず絶叫で返す悟空。

 いつもの『のほほん』とした彼からは想像もつかないそれは、それだけ彼女たちが大切で大事な存在だから。

 邪魔をするなと言わんとする悟空に『彼女』はため息をついて……

 

【落ち着いてください】

「そんなこといってもよ!」

『――――!?』

「あ、すまねぇ……」

『??』

【あなたには……まだ助けとなる存在が居るはずです】

【なにを……?】

 

 悟空に、ほんの僅かだけ『力を貸す』ことにしてみた。

 

【半月前に彼女達と共に現れた『あの存在』が置いていったもの……きっとそれが役立つはずです】

【さっきから何言ってんだ……おめぇ】

【いいですか? まずはこのままあなたが感じ取っている仲間たちのところへ行って、思う存分力を振るってみてください。 けれどそのまま『敵』のもとにはいかないで……】

【……なんでだ?】

【その下で、あなたが来るのを待つモノが居るはず……この世界  来た………は……なただけでは………りゅうが――――】

【お、おい!? 声が聞こえねぇぞ!】

【    】

「消えちまった……」

 

 貸した力は物理的なものではない。

 傷ついた身体はそのままだし、なにか決定的な打開策が講じられたわけではない。 それでも、この数秒だけの会話は悟空の心から、若干の焦りを払拭させていた。

 

「…………」

 

 引いていく汗、静まる心。 状況は変わらないのに……

 

「なんだろうな……やけに気分がいい。 まるで気持ちのいい『風』が吹いた後みてぇだ」

「ごくう?」

「みんな、怒鳴っちまって悪かったな……でも、オラやっぱり行かなきゃなんねぇ」

「でも怪我が――」

「こんくれぇならどうってことねぇ、ほんとだぞ? だから……行かせてくれ」

『…………』

 

 彼の内心は酷く穏やかなものに戻っていて。

 やらなくちゃと思っていたところから「だったらやってみればいい!」と言われた彼は、なぜか逆に熱が冷めていくようだった。

 開き直ったと言っても語弊ではないそれは危ういモノ? いいや、こうなった時の彼は……あとがなくなるほどに彼の本領は発揮していくのである。 崖っぷちのそのさらに先、『淵』から登り詰めるときが彼らの力が増すときなのだから。

 

「頼む……」

「なら……しゃあないな」

「え?」

 

 静かに、だが決して譲れないという顔ではやて達を見つめる悟空……できれば行ってほしくない。 けど、そんな思いを胸に秘めて、少女が一人、悟空の背中を後押しする。

 

「これな、ホントやったらごくうが快復したら渡そおもてん」

「……! これは……」

 

 それは山吹色だった……

 

 堂々輝くその色はとてつもない鮮明さを持ち、太陽の輝きにも似た眩しさを周囲へと放ちだす。

 まぶしい。 ただの服に……『道着』に、そんな思いを抱くこと自体おかしなことなのだが、どういうわけか、悟空にはそれがそう見えてしまったのだ。

 

「やっぱはやてはさ、なんでもできんな……よっと!」

 

 脱ぐ――!

 両腕を下方向にクロスさせ、上着を掴むとそのままたくし上げる。 ズボンをおろし、それが隠していた鍛え上げられた脚とその右足に刻まれたケガをも露出させ、それは上着と共にバサリと椅子へと投げられる。

 

「将来……いい嫁さんになるんじゃねぇか――なっと!」

「……うん」

 

 羽織る。

 それは今までの『寝間着』ではなく『戦装束』である道着。 数々の戦場をこの服と共に歩み、駆け抜けていった彼はここでようやく“目を覚ました”のである。

 ほんのりと浸かっていた今までの平和な日常ではない。 戦う時、気たる時が来たこの瞬間に、ついに彼はその服を着込み……

 

「うっし! 元気全開だ! やっぱこれじゃねぇとなッ!!」

「……ごくう、似合っとるで」

「へへっ、あんがと」

 

 びしり! と、勢いつよく青い帯で気持ちごと引き締める。

 背に刻まれた文字は『亀』ではないし『界王』でもない。 それは彼が今この瞬間になにかを『悟』ったからなのか……そこまではわかりはしないが。

 

「孫、どうしても行くのか?」

「ああ、幾ら怪我しててもあいつらほっとくことなんかできねぇ。 それにたぶん、まだリンディっていうやつが――」

「戦っているのか?」

「……たぶんな」

 

 何をやるべきかをわかっている彼の背には、『悟』の文字が強く、大きく刻まれていたのであった。

 

 そして彼は……

 

「ありがとな、そんじゃ――――」

「ごくう」

「孫……」

「ゴクウ!」

「悟空さん!」

「…………悟空」

 

「行ってくる!」

 

 彼らにあいさつをするのである。 また、『彼ら』の前に帰ってくるために……

 

 

 先ほどの爆音から、急に静けさが訪れた海鳴の夜。 静寂なる大空に上がる叫ぶ声、それがこの戦いの幕開け……にはならないが、スタートラインに立たせる号令にはなるようで。

 夜の闇を黄色いラインが駆け抜ける午後9時、孫悟空は『始まりの場所』を目がけて――

 

「いっけええーー! 筋斗雲!!」

 

 相棒を弾丸が如く翔けさせるのであった。

 ――――接触の時は……近い。

 




悟空「オッス! オラ悟空!!」

リンディ「この決断は本当にあっていたんだろうか。 実はとんでもないことをあの子たちにしてしまったのではないか? 高鳴る心音は緊張? それとも不安?」

エイミィ「それでも迷う時間さえない私たちは、みんなを送り出すことしかできなくって。 そして始まる戦闘はこちらの予想を大きく上回る事態を生じさせ……」

リンディ「もうだめ――その言葉がよぎるとき、風のように現れる者が居たのでした」




悟空「次回! 魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第21話 悟空爆発! 世界の王を名乗る拳」

リンディ「赤い……炎……」

???「はああああああああああああああ!!」

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