魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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ついに来た悟空の第二ラウンド。
その力は四日前とは天と地ほどの差が付き、たまりにため込んだ見つからないことへの鬱憤は、そのまま振るうこぶしの威力を上げる。

青年が叫ぶとき。
夜の世界に赤い炎が燃え上がる!!

りりごく、21話です。





今まで書いてきて、ここまでネタバレする題名があっただろうか……?




第21話 悟空爆発! 世界の王を名乗る拳

  高度5千メートル上空

夜の暗闇が支配するその中を、天上からほのかな光を照らした月下のもとで光たちが交差していた。

 一つが二つとぶつかれば、二つの光が激しく発光し消えていく。

 そんな光景がどれほど続いただろうか。 いや、実はそれほどの時間はたってはいないのではないかもしれない。

 

「はぁ、はぁ――まだっ!」

 

 リンディ・ハラオウン、以下『数名』の武装局員たちには判別などつきはしなかった。

 

 唐突に彼らを襲った『傀儡兵』と呼ばれるそれらは、所有者の意のままに操ることができ、地球の西洋の鎧と武器を装備した文字通り機械の兵であり戦闘能力もそれ相応にある。

 その傀儡兵、数にしておよそ『1214機』がアースラに突如として襲い掛かっていく。 戦力差は8倍、それほどに圧倒的な窮地を前にして、アースラ乗組員は最低限のオペレーターと操縦士を残して全員が出撃するという異例の事態に陥る。

 『子供たち』に追いつこうとする者、彼らの帰るべき場所を必死に守ろうとする者……局員たちは必死に抵抗した。

 

「くっ――――この!! あの子たちに……追いつかないと!」

 

 アースラ艦長、リンディ・ハラオウン。

 魔力判定AA+評価の彼女、一般よりもそれなりに高い数値の彼女は艦長という役職にもかかわらず、状況いかんによっては自身が戦場に赴き直接現場に指示を出す、戦略家と武闘派のちょうどバランスのとれたスタイルを取っている。

 

 その彼女は……奮闘していた。

 

「はぁ、はぁ……はあっ!」

 

 遠くの傀儡兵から放たれた槍を障壁で受け流し。

 

「せぇえい!」

 

 接近してくるものには出の早い魔法の弾丸で牽制。

 

「これで――はぁ……127機……目。 くぅぅ! かはっ………」

 

 隙あらば敵機を迎撃する、ただひたすらにこれらを繰り返していた。

 たとえある程度の強さがあろうとも機械は機械、一定のパターンさえ見切り、対応策さえ構築してしまえば勝てない相手ではない。 そう――

 

―――――――単騎であればの話だが。

 

 所詮は機械、だが機械だからこその強みである数による圧倒的な劣勢は。

 

「ぐあぁ!」

「アレックス!」

 

――――ひとり。

 

「艦長! 逃げてくださ――ぐはぁ!!」

「ランディ!」

 

―――――――――またひとり。

 

 リンディの周りから人を削り落としていく。

 

 本来はオペレーター職であるはずのアレックス、ランディの二人。 そんな彼らは後衛につき、武装局員たちのサポートを行っていた。 そう、すでに『後衛にいるはずの二人が倒されてしまった』のである。

 

「たったの……たったの十余人の編成であの数を相手によくやったほうよね……敵戦力3割減ってとこかしら」

 

 敵機いまだ900機あまり。 この状況でリンディは笑う。

 それは不敵な笑みではなくあきらめの色の濃い表情。 

 大気圏内での戦闘において、この魔法が未発達の世界で派手が過ぎるアースラの武装を使うわけにもいかず。

 そんな中で打てる手は尽くし、考えられることはすべて実行した―――つもりだった。

 血に塗れた右腕と、もう動かすこともできない左手、右目はもう見えず、左目は額から流れる血のせいで視界は真っ赤に染まっている。

 その目で見える世界はまるで――

 

 「この世のものとは思えない光景って…………こういうのを言うのかしら」

 

 血で赤く染まったその光景は、それだけでリンディの気力と精神力を削り取っていく。

 もうここまで、意識を手放してしまおうか? 握っていた拳は……力を失う。

 

 

 あきらめ――

 その単語が心中で渦を巻き、リンディの思考は段々と弱くなっていく。 十分だ、わたしは存分に戦った。 もう心残りは――……心残りは……ただ心残りがあるとすれば。

 

「ごめんね、みんな」

 

 つい先ほど見送った子供たちと。

 

「クロノ……」

 

 愛したあの人との間にできた我が子、クロノを残して逝ってしまうこと。

 

「―――――ごめんね」

 

 肺に残された最後の空気を振り絞って出された……諦めの言葉。

 吐いた途端にそこで彼女の思考は中断させられる。 ほんの少しの、しかし致命的なまでの油断。 その隙を見逃す傀儡兵ではなく、目の前に接近してきた三体の西洋甲冑を纏った機兵達は――彼女に向かう。

 

剣を。

 

『艦長!!』

 

矛を。

 

『逃げて! おねがいですから!!』

 

槍を――

 

 アースラのブリッジから聞こえてくる声。

きっとエイミィだろうか? 彼女の必死の叫びの中で……

 

――――――その身を両断するべく、すでに虚ろな目となっているリンディの脳天へと

 

    

              振り下ろす―――――――

 

 

 

 

         「そこぉ動くんじゃねぇぞ!!」

 

 

 

 刹那。

 蒼い輝きが三機を『消し去った』

 

 

「…………………………え?」

 

 それは誰がつぶやいただろうか。

 不意に光る景色と、魔力を失い墜落しそうになったはずの自分を束縛……否、包む何か。 そのすべてが今のいままでとは正反対で、この寒空の下でリンディの消えかけた冷たい目の光に、そっと灯火(ともしび)を分け与えたのだ。

 

 それは誰の仕業? 今この場にいる者すべてがわからない。

 そう、今“リンディを抱き上げている青年”が何者なのかなど、この場の誰にもわかりはしないのだ。

 

「……だれ……なの…………」

「……」

 

 リンディは問う。

 いまだに己を抱き上げ、文字通りに救い上げて見せたこの人物に、疲れを伴っているのが手に取れるくらいの音程で彼女は青年の目を見て声をかける。

 だが彼は無口。 一向に開かないソレと、リンディと合わさることのない視線は鋭く……強く。

 

「……」

「あの……(いったい、このひとは……)」

 

 徐々に戻りつつある赤い視界、その世界が映す色がもとの暗闇に戻ろうかという時、彼女はここでやっと彼の色を知る。

オレンジ……いいや、それが遥か高みに“昇華”され、山々を照らし、吹きすさぶかのような太陽の輝きと言われるその色を!

 

「どこかで……?」

 

 思った言葉はそれだけ。

 口に出すことができないのは疲れかどうなのか。 だがリンディはまだ気づかない、見とれたその『道着』を着こなす青年が、今現在、鋭い視線をなげうっては彼女に向かって笑っていることなど。

 

「あなたはいったい……――!」

「よっ!」

「あえ? ……えっと」

 

 気付いた時には彼女からは悲壮感が消えていた。

 彼女の視線のその先、そこには只、おっきな笑顔があって。 なぜにただの笑顔でこんなにも心が軽くなるのか、思ったところで答えなど出ないと知りながら彼女は考えることをやめられない。

 

「ずいぶん久しぶりだなぁ……と、おめぇたちからしたら三日しか経ってねぇんだったよな。 いや、それでも久しぶりかな?」

「ひさ……しぶり?」

 

 先ほどから疑問符が取れない彼女、そんな彼女に、しかし青年は答え合わせなどする気はなく、あたりを見渡し、『彼等』に目をつけると……

 

「おめぇたち。 ちょっとの間だけさ、こいつ頼むな」

『!?!?』

「え……? え!?」

 

 いつものコマ送りのように、ほんの少し離れた局員の男たちに、まるで手荷物を預けるホテルの客が如く、リンディを軽く投げてやったのだ。

 ぽ~ん、という効果音が鳴り響く中、彼女を数人がかりでキャッチして見せた男たちは驚愕を隠せない。 地上5000メートルだぞ? 手元が狂って掴み損ねたら、既に魔力切れの兆候が見られるリンディなど墜落してしまうところだった――そう男たちは青年を見返すのだが。

 

「男ってのはよ、女を守るもんだっていうだろ? そんじゃまかせたぞー」

『あ……ええ?!』

 

 ほんのりと真理を突いた言葉に何も言い返せず、青年が“瞬間的な速さでの高速移動”をする様をただ見送ることしかできず。 彼らは、大きな手荷物をかかえたままに、決してその場から動けない……動かないのではなく。

 

「さってと。 おいっちにぃさんしぃ……」

 

 膝の屈伸から始まる、悟空のよくやる戦闘前の下準備。

 昔を遡ればマジュニアとの決勝時にもこのようなことをやり、自身の気持ちを切り替えたりもした……はずである。

 膝、もも、肩と、次々に柔軟を仕上げていく彼は唐突に機械の兵達を見上げる。

 多い、圧倒的に多く強そうで……けれどその実彼は。

 

「数はてぇしたもんだけど」

 

 あんなものなど――

 

「あんま強くなさそうだな」

 

 眼中にはないのである!

 

[グギギ――!!]

「ッ!」

 

 唐突に始まった第二ラウンド。

 助っ人の起こした惨状に、今のいままで動かなかったのは状況を正確に判断するため。 亡くなった同じ装甲を持つ同型機の行方を検討し、『消失』したと判明した彼らは、今度はその原因を探り当て、そのイレギュラーを排除するべく動いたのだ。

 

「まずは10体――」

[    ]

『!?!?』

 

 そうして彼らは、その動作を最後にこの世から完全に消えてなくなった。

 

「なんだ!? 何が起こったーー!!?」

「いま一瞬だけあの人が消えたと思ったら……」

 

 そのときの光景は彼女達には理解どころか識別不能。

 光ったと思ったら激しい爆発音が夜空に響き、大きな風が全身に痛いくらいにあたっていたのだ。

 奇妙奇天烈なこの現象は、しかし彼にとっては予備動作でしかなく。

 

「おめぇたち! 遠慮することねぇ、時間がねぇからまとめて一気にかかってこい!!」

[グギイイイーーーー…………    ]

 

 残る敵は十機減り921機……いままた更に消滅したので909機。

 その光景たるや、アースラで戦況を見ているエイミィは既に言葉を失っている。 映し出された空域の見取り図に敵機の輝きがあるのだが、その尋常じゃない数が直線状に消えていく様は落書き帳のお絵かきを消しゴムでまっすぐになぞったかのようで。

 その光景は圧巻であり、どこか爽快である。

 

 目視による気合砲と、差し出した右手から放たれた青い気功波が夜空に一直線に伸びていき、青年は機兵をまるで部屋の片づけのように掃除していく。

 その様は本来整理整頓がヘタクソの彼でも簡単にできる“おそうじ”であるかのようで、自身の出せる力を再確認していくかのようでもある。

 

「だあああだだだだだだだッ! だりゃあああ!!」

「ば、爆発が……爆発が止まない」

「たった一人で……あの軍勢を」

「回避と攻撃がひとつの動作で収まってる……まるで踊るみたいに――」

 

 右こぶしで相手の胴を打ち貫き、空いたもう片方を手刀の形にするとそのまま横に薙いでいく。

 切り裂かれていくもう一機を見下ろすことなく、休むことなく彼はひたすら前進していく。 一撃一撃が常に必殺の威力。 サイズだけなら木枯らし程度の旋風は、その実威力は台風を超えてハリケーンと形容できようか。

 迫る敵の攻撃に避けるのではなく躱しつつ、カウンターに片腕を相手にねじ込んでいく……正直、リンディ以下魔導師連中には到底できないインファイトである。 それはもちろん、今この場に居ない近接特化のフェイトも例外ではない。

 

 拳打によるゼロ距離と気功波でのロングレンジの使い分け。

 なのはとフェイトのいいとこ取りの様な戦闘風景に、彼女たちの事を知るリンディたちはすでに動くことを忘れている。

 戦時中の最中で、戦闘現場にいることすら忘れそうなほどに、彼の強さは圧巻なのであった。

 

「傀儡兵達が集まって……? あ!」

「!」

「…………」

 

 ここで状況は変化を見せる。

 急に集まりだした傀儡兵……その数およそ75機。 それらは巨大な円陣を描くかのように陣形を作り出すと、そこから環状の魔法陣を描いていく。

 

『結界魔法!?』

「……結界?」

 

 それはなのはたちが消えていったという次元の『ひずみ』がある場所、そこを覆い隠すかのように現れた暗い色の球状結界。

 それがあらわれると同時、青年の顔色は急に暗くなる。 何か都合が悪いことが……そう尋ねずにはいられないリンディに、彼はそっとつぶやく。

 

「なんなんだ? アレが出てきた途端、『アイツ』のデカい気を感じなくなった……」

「……え?」

 

 苦い顔の青年は上空に展開された結界を見つめると、まるで障害物でも見るかのように目を細める。 これが無ければ……そう呟き、彼は構えようとしながら――局員の一人が大きく叫ぶ。

 

「危ない!」

「よっと」

「……はぇ?」

 

 叫ぶのだが、周りの者がそれに反応する前に首を斜めに傾ける青年。 するとその後方から鋼鉄の槍が飛来し、耳元に騒音を鳴らしながら通り過ぎさっていく。

 ホントに涼風のように、傀儡兵の必死とも思われる抵抗を躱していく彼、今度ばかりは戦慄を隠せない局員の男は、気付けば手に汗を握っていた。

 

――――あれは、我々とは立っている次元そのものが違うのだと。

 

「む」

「傀儡兵が……」

「囲まれた!?」

 

 そうこうしてる間に彼らを囲い始めた傀儡の兵隊たち。 ドーム状に彼らが青年とリンディたちの計5人を完全包囲する。

 それに戸惑う彼等管理局勢に、青年は静かに彼らの近くに寄って行く。

 

「おめぇたち、後ろに向かって『盾』みてぇな奴でめいいっぱい踏んばって自分の身だけ守ってろ」

「あ、あなたは……?」

「…………」

「あ、あの……?」

 

 ただいうだけ言って、彼はそこから無言。

 そうして気づいたことと言えば、今現在、自分たちが大きな足枷になっている事実。 誰かが唇をかむ。 それは悔しさからくる衝動的なもので、本来闘うべきものが知らない誰かの重荷になっているのだ。

 その心境は計り知れないもの……だが。 傀儡兵の攻撃はまってはくれない。

 

[グギィ!!]

「来る……!」

「くっ! 全員、この人の言う通り障壁を後ろへ――」

『!』

 

 結界を張ったモノ以外の834機の兵達が手に矛を持った機械がそれを振りあげる。

 一斉に武器を青年に構え、細々と光を灯していく。 それは射撃の態勢であり、その全方位からくる攻撃手段はおよそ回避不可能。

 青年の後ろで魔法の障壁を張っている男三人ですら、いいや、三人がかりでもこの軍政を相手取ることは不可能だろう。

 重なる不可能。 できるわけがないとつぶやいた管理局員の誰か……その一言が――

 

[ギギィイイイ!!]

「はあああああああ!!」

『――――っ!?』

 

 回線の合図となってしまった。

 激しく後悔した彼。 しかしその手から光らせる魔力、障壁の強さは青年に言われたとおりに“めいいっぱい”に出力を上げていく。

 

 同時に上がる雄叫び……そして爆発音!

 

「……うく! な、何が起きて………………うそ」

「だだだだだ! はあぁぁぁあああ!」

 

 その中でリンディは見る!

 彼の……青年の起こした魔法よりも奇怪な事象を――

 

「そ、そういえばクロノから報告が」

 

 彼の手足は高速で動く。

 目にも留まらず、風を切り、音に追いつく速さで振り抜け、打ちつけていく。

 

 リンディが思い出す衝撃と言わざる得ない事実。 其の昔、つい一週間前程度遡るその出来事。

 初めてこの地にやってきて、そこでクロノが受けたとびきりの『洗礼』の事だ。 彼の、クロノの砲撃呪文を、魔法も使わずに防いだことがあるという人物の起こした出来事を!

 

「でも……でもこれって……!」

「だだだだだだだ――!!」

「両手足で……射撃レベルとはいえ呪文を弾き返すなんて!?」

 

 そう! 青年が行ったのは防ぐことではなく“弾く”こと。 手刀の形をした両腕を、相手の光弾との距離、そして振りぬくタイミングを見極め、構え、日本刀の抜刀が如く振りぬくことで、傀儡兵の攻撃を別の方向へと飛ばしていったのだ。

 

「しかも飛んでいった方向には……」

[グゲエエ!!]

「別の傀儡兵がまた――」

 

 攻防一体。

 青年の弾き返した光弾はそのまま別のモノに当たり、弾いた時の威力と速度がプラスされたプレゼントを受け取った傀儡兵は小さな音を立てて爆散する。

 正直言って青年は狙いをつけて打ち返してはいない。 定めることをしないでもどこかしらに居るヤツにあたってしまうほどに相手の数は膨大で、密集しているのだから。

 

 そうしてしばらく、彼等とのキャッチボールが続いていき……

 

「これで……最後!」

[    ]

「何てことなの……あんなにいた傀儡兵が見る影も……」

 

 気付けば周囲を覆っていた敵機は焼け焦げた装甲板と、ねじ山が『ばか』になっているボルトにまで分解されており、それらは誰もいない公園へとバラバラと落ちていくのだった。

 

 止めの足刀によるピッチャーライナーをぶち当てた青年はそのまま上空に顔を向ける。

 そこにいる残りの機兵75機、それと邪魔なあのドーム状の結界。 いったいどうやって消えてもらうかと、一瞬だけ思考を張り巡らせた彼は……

 

「なんだ? あいつ等が集まって……?」

「こ、これは!?」

『あ、ああ……』

 

 その異変に気が付いた。

 結界を生成し終えたのだろう、機兵たちはそれぞれ構えを解き青年を敵と認識しているのだろう、最優先に向かっていこうとして空中で制止する。

 

 そこからだ、彼らの一体が何やらノイズ混じりに号令らしきものを発声すると、彼らはいきなり“分解”する。

 分解と言っても細切れとかではなく、きちんと一つ一つのパーツとしての分解、つまり分離したと言えるそれは次々と周りの機兵たちも行い、夜空に無数の機械部品が宙を舞っていく。

 

 そうしてそれらがひとどころに寄せ集められると、[彼ら]は一機の[彼]になる

 

[グギギ……グギ……ガガガガガガガガガ――――]

「な、なにがどうなってんだ!」

 

 青年の驚き。

 めずらしく狼狽えて見せた彼は夜空を覆い尽くす異形に汗をかく。 巨大、そういうしかないくらいに大きく、下方で浮遊しているアースラという戦艦の半分に届くか届かないかというくらいにまで変貌したその機兵……いいや、いうなれば巨兵は青年を只見下ろしている。

 ついに完成したそれは彼を見下ろし、不遜で不気味な機械音声を夜空に響かせるのであった。

 

「で、でけぇ」

「そんな!? 傀儡兵の大体は知っていたけど、こんな“おはなし”みたいな機構は聞いたことがないわ!」

 

 巨兵、それは青年が以前に遭遇した大猿と呼ばれた強戦士程度に巨大で、その腕、其の巨躯、すべてが『アレ』を連想させるには十分で。

 そして何よりも彼らの力が足し算ではなく――

 

[グオオオオオオオ!!]

「くっ! おめぇたち離れてろ――がっ!!」

「!!?」

 

 ざっと見積もっても、75機分が『かけ算』された強さであったのだから。

 

「つ、強え!! べ、ベジータよりは大したことはねぇんだろうけど……」

[グオオオオ]

「くっ! オラ自身が弱くなっちまってるんじゃ関係ねぇよな――」

 

 巨兵の大振りされた腕。

 それが青年を見事捉える! 遠くに吹き飛ばされた彼は空中で急制動。 全身に受けたダメージを確認して敵の戦力をあたまでイメージする。 そこから出てきた答えと言えば『結構強い』というものであって。

 

「出来れば万全の状態でやりあいたかったけどな、でも、そうこう言って――らんねぇ!!」

「あ、危ない! 後ろ――!!」

「わかってる!!」

 

 巨兵のまわりこむ様な大きい蹴りに、右ひじと右ひざを合わせるようにして咄嗟に防御してしまった青年。 『ズドン』というわけがわからないほどの音量が夜空に響く瞬間、彼は顔面を青ざめさせる。

 

「~~ッ!! あ、足! 怪我――わすれてた! ぐぅ痛ってーーー!!」

 

 ビキリと響く鈍痛に顔を歪めた青年。 

 大きくのけ反ったと思ったら、今度は右足を数回さすって『ふーふー』息を吹きかける。

 

「わかってるっていったのに……」

「へへ……自分のケガは忘れちまってた」

「……けが?」

 

 全身を駆け巡る激痛の波に、これでもかというくらいな我慢の声を上げた彼、それにジト目となっているリンディに、しかし青年はそれ以上語らない。

 またも切られた会話はいまが忙しいからで、それをわかっている彼女もこれ以上探りを入れない、敵は、待ってはくれないのだから。

 

[ggggggっがあああああああ]

「来たな。 来い! デケェ相手は、オラ何度も戦ったことあっぞ!!」

「何度も……?」

 

 巨兵を前に、青年はさしずめ小人の様か? それでもそんなもの『あいつら』に比べればなんてことはないはずだ!

 そう啖呵を切って、向かってくる相手の右こぶしを――

 

「ぐううう!!」

『!!?』

 

 思いっきり喰らってしまう。

 吹き飛ばされた青年。 その先に居るリンディたちを避けるように全身から気を放出する。

 色などないそれは不可視の力をあたりにまき散らし、彼女たちに当たらぬよう空中で弧を描くようにあさっての方角へ彼は飛んでいく。

 

「あ、あっぶねぇ~~ 今完全に捉えきれてなかった」

 

 頬からジワリと汗が浮く。

 それが顎をめざし垂れ流され、そっと彼の道着に落ちて染みを作る。

 

「まさかこんなにすげぇとは思わなかった……正直参っちまったぞ」

「……参ったって……」

 

 聞こえてくる単語は管理局の人間からしてみれば、唯一の希望が断たれたにも等しいセリフだろう。

 

だが。

 

「――――へへっ」

『え? わらった……?』

 

 彼を知る仲間たちが、今の青年の顔を見ればきっとその正反対の思いを抱くだろう。

 呆れ、頭を抱え……そして。

 

「ちぃとばっかし――無理しねぇといけねぇみてぇだな……」

『……?』

「無理……あなたなにを――」

 

 “またその顔か” そう言うであろう。

 

 イイ顔。 少々の妖艶さを含んだ風に見えるそれは、よくよく見るとナニカ楽しいものを見つけたような顔。

 着こなした山吹色の道着が小さく揺れる。 ふわりと風にゆられ、その吹き抜けた空気が遠い夜空に消えていった。 そのときである。

 

 

「リンディ!」

「!? は、はい……?」

「こっちに来んな! そこでじっとしてろ!」

「え? でも……」

 

 青年に“呼ばれた”リンディは思わず目を白黒させる。

 どうしてこの人は自分の名前を知っていたのだろうか? そしてなぜ今ここで――

 

「あれを倒すならみんなで……」

 

 総当たりの方が……彼女が思いついた作戦はこれだけで、破損したアースラに、負傷の多い局員の全員でも、何かしらできることはあるはずだと、そう思っての思考だが。

 

「むしろその逆だ。 今から無茶な技を使う。 だからおめぇたちは巻き添え喰らわねぇ様にあの船のあたりまで離れててくれ」

「巻き添え……?」

「頼む」

「わかりました……」

 

 聞かされた言葉の意味はあまり実感できない。

 だが、今この数分間での彼の行動は、彼女たちに与える信憑性を十分にあげていき、そっと青年の後ろから遠ざかっていく。

 いなくなっていくオーディエンス。 そうだ、『彼ら』の戦いは本来大勢の人間に見られるようなものではないのだ、だからこの戦場の雰囲気もいつもと変わらなくって。

 

「…………ぁぁぁぁぁ」

 

 彼はやはり、いつもの様に無茶をする。

 据えるのは腰、構えるのは左腕、引き寄せたのは右のひじ。

 引き寄せたそれを脇腹の方まで引っ張るとそのまま据えて、左腕は裏拳の要領で握り、相手に向かって突き出すかのように構えている。 気合の入れよう、それが尋常ではないレベルにまで達した時それは起こる!

 

「はああああああああああ――――――」

『!?!?』

 

 大気が……振るえる。

 唸る彼の声はまるでサイレン!

 轟々と鳴り響いては、警告音のようにあたりに響いていく。

 

「ぐああああああああああああああ――!!」

「叫び声……それだけで世界が震えているとでも……!?」

 

 その警告音は訴えている。

 この先にある青年の力の強さに対する異常さを。 目の前の怪物に――

 

「ああああああああああああ!!!」

[グガガガガ!!]

 

これからおこる凄惨な出来事を警告するかのように。

 

「――――――!!」

「震えが止まらない……むしろさっきよりもひどく――」

「だあああああ!」

 

 ついにそれは起こる。

 青年の身体に見られる変化は、まずはある程度の筋肉の膨張。 そしてガタガタと震えている手足はその音をやめ、体中がその力を制御下に置こうとしている。

 全身をくまなく流れる力をコントロールし、それを一気に解き放ち爆発的な力を得る肉体強化の極限!!

 

――――その名も!!

 

「界ぃぃいいいい王おおおおお拳!!」

 

「きゃっ!?」

「うぉお――!」

「なんだーーーーー」

 

 雄叫びと共に唱えられたその名。

 聞こえたと同時、彼は炎のように燃え上がる!!

 

「あ、あの人の身体が燃えている? いいえ、燃えてるのではなくて輝いているの?!」

 

 炎の化身。

 そうとっても差支えがないくらいに熱く、激しい彼の姿はまさしく戦う者。

 燃え上がるかのような輝きは彼の闘志を表すように強く……美しい。 その言葉を出させることもなく、完全に視線を奪われたリンディは彼の揺れる黒い頭髪から帯から道着から、すべてを見上げると。

 

「だあッらあああ!!」

[    ギギ?  …………ギ!?]

『な……!?』

 

 青年は、巨兵の右腕だった残骸を掴んでいた。 猛攻が始まった時である。

 その第一撃は誰にも捉えられず、ただ全身を襲ってくる衝撃波に目を閉じることしかできない。

 

「はやいなんてもんじゃない……それ以上の何か――」

「次は左腕いただきッ!!」

[ゴオオオオオ!!]

 

 続いて出てきたのはカカト落とし。 その異様な威力は踵というよりは斧、もしくはギロチンの様だ。 尋常じゃない音量を奏でながら切断された巨兵の左腕、それを掴み取ると彼は――

 

「こんのぉおおおお」

「振り回し始めた!?」

「ジャイアントスイング!? たしかに得物は巨大だけど……でも!」

 

 腕を掴んだままに盛大な時計回転を始める。

 それを5回繰り返した彼は一気に両手を……離す。 その先にあるのは巨大な胴体であり、そこに必殺の一撃と言わんばかりに放り込んで見せる!!

 

「受け取れー!」

[!?!?]

「く、クリーンヒットして……飛んで行った?! あの質量相手になんて……」

 

 後方へ退く巨兵、西洋甲冑の様なその身体と頭部の兜をグワリと揺らすと、大きくわな鳴く。 100メートル程度の撤退に、しかし青年の追撃は止まらない!!

 

「――――はあああ!!」

[グガ――ガガガッ――]

 

 一瞬の爆発。

 青年を包む赤い闘気が大きく揺れると、その炎の勢いは激しくなり加速器が作動したかのように彼は飛んでいく。

 目的地は当然眼前の巨兵。 その距離を数センチまで縮めると、彼はまたも闘気を『吹かす』

 

『曲がった!』

「くっ――」

[ガ……ガ?]

 

 青年の急カーブは大きくも荒い弧を描く。

 吹き出る闘気と相まって、赤い三日月に見える軌跡を作りながら巨兵の背後に回り込んだ彼は、その勢いを殺さずに左足を振りあげていた。

 集まる気力、唸る風。 しかしかかる時間はほんの一瞬のモノ……それほどにリンディたちと彼では感じている時間に差があるのだ。

 誰かが息をのんだそのタイミング、彼は大きく叫びを上げ――

 

「だあああああーーりゃあッ!!」

[ガガガガガガッ――!!??]

 

 一気に……振りぬける。

 

 爆散する巨兵の兜、そこから覗くメインカメラが火花を吹くと巨兵の動きは止まる。

 そのまま流星が如くリンディ達の方へと飛来していく青年。 着いた決着、そう誰もが思うときであった。

 

[――――――――]

「なにをする気だ……」

 

 その姿を見た青年はいまだ飛翔をやめず、リンディには濃い焦りの色が出る。

 変形していく機械の身体、胴体から針のようなものが突き出たと思えば、そこに紫色の魔力が集中していく。

 ひと目でわかる何かを撃ち出そうとするその姿、さらに相手は視界が無いのであろう、照準が向かう先を見てリンディはハッとして思い切り叫ぶ!

 

「みんな逃げて! こちらに向かって砲撃魔法が飛んでくる!!」

『――!!?』

 

 警告はした、確かに間に合った。

 誰よりも早く放ったその言葉は正確なものであった……しかしそれでもその声は、砲撃の発射と、回避のタイムラグを埋めることなどできず、動かない局員たちに向けて紫の奔流が関を切ったかのように流れ、飛んでいく。

 

「……だめ、まにあわない」

 

 なのはのディバインバスター以上の威力と速さを含んだその砲撃、ついぞや発射されたそれを前に、リンディの脳裏に今まで起こった数々の出来事が浮かんでは消えていき――

 

「え?」

「…………ふぅ」

 

 目の前には、青年が居たのだ!

 いつの間に……そう思う時間さえ今はなく、ただ不意に現れた紅い拳士の背中を見つめることしかできずにいた。

 振りかぶられる青年の右腕、それは拳を作ると自身の左肩まで引き上げる形をとる。

 そして次に赤い発光が大きくなる。 爆発的に、まるでガスコンロの火力を中火から強火に上げたかのように大きくなったその光は彼の力の“増幅”を意味するかのようで。

 

 リンディたちが様々な出来事に置いてきぼりを喰らう刹那、巨兵の放った閃光は青年に着弾する。 

 

「――――ふん!」

『な!? なんだって!!』

 

 ……着弾したのだ。 そう、確かに身体には触れている。

 だがそれは――

 

「はああああああ!!」

『!?』

 

 青年の気合の咆哮と共に振りぬかれた腕により進路を変え、遠い海面へと落下していくのであった。

 

「今の攻撃、確かにAAクラス相応の威力の筈なのに……これが前にユーノくんが『彼』から聞いていたっていう“気合で跳ね返す”というやつなの!?」

「…………」

 

 赤く輝くフレアをまき散らしながら佇む彼。 その雄々しい姿に視線を奪われ、自然と肺の中の空気を絞り出されるようについたのはため息。

 圧倒的な彼に、皆は戦慄していたのだ。

 リンディ・ハラオウンは今この時、いつかの時のクロノと同じ驚愕をしたのだ。 自身とはかけ離れた技術体系の戦闘。

 

 道具も使わずやってのける、おそらく人が持つ可能性の体現。 全ての者に内在的に備わるそれは確かに“やる気”さえあればきっと誰もが空を飛ぶくらいはできるようになるのであろう。

 だが果たして全ての者が今の彼の位にまで行くことができるのであろうか?

 苦しい鍛錬をいったい何年繰り返してきたのだろう、そこにたどり着くまでにどんな苦難があったのだろうか。

 

 わからないことは多いし、見えてこないモノばかりだが――――

 それを知ることができるのは、きっと近い未来の筈である。

 

「…………ぐうっ!?」

「あ――!? き、キミ!」

「ま、まずいな……」

 

 リンディが様々な思いを走らせる中、青年はふらりと態勢を崩す。

 今まで堅牢さを誇っていた“張った”肉体も、轟々と燃えるように噴出していた赤い気流も今は見られない。

 そして聞こえてくるうめき声に近寄ろうとする局員たちに、彼は片手をあげて押しとどめる。

 

「はぁ……はぁ……界王拳が解けちまった……だけだ」

「それだけなの?」

「……まぁな」

 

 嘘だ。

 リンディはそれを一発で見抜くが、だがそれで青年をどうにかできるわけもなく。

 

[……グゴ――グゴゴ、ギギ!]

「あいつまだやんのか……はぁ…はぁ…――ふぅ……」

 

 だからであろう、彼がこれからとる行動を見抜くことなどできなかったのである。

 

「魔法っちゅうのはよくわかんねぇけど、アイツとあいつのうしろにある変な“結界”ってのが邪魔してんのはわかった」

「……?」

 

 ここで青年は構える。 両腕を横に広げたかと思うと、右手を上に、左手を下に持っていき、その手首を顔の前で合わせる。

 

「と言っても“ただの界王拳”なのに、オラ全身……ふぅ……ガタガタだ。 だから――」

「あ、あぁ……あの構えは――もしかして!?」

 

 おもいきりよく引きつけて、そこから作り出される攻撃の構え……いいや、『必殺の構え』を見た瞬間、リンディの中に激しいサイレンの音が鳴り響く。

 

「とっておきを食らわせて、一気にカタぁつけてやる!!」

「いけない!? 総員退避!!」

『!!?』

 

 腰に両手を添えたソレは『あの少年』が作り出す輝きを連想させる。

 

「そうよ、なんで気づかなかったの――あの髪型にあの色の道着……そしてあの長い尾!」

 

 黒いつんつんあたまをゆらりと動かす彼に、思い当たる節を総動員させる彼女。 そこから行きつく答えは簡単で、とてつもなく嫌な予感がして。

 

「久々に行くぞ! 『超かめはめ波』だ!!」

「ちょう……?」

「かめ? なんだって……?」

 

 彼の発した言葉の意味を掴みきれない局員たち。 当然だ、こんなふざけた名前が果たしてどれほどのモノなのかなんて想像つく訳ないし、ついたとしてもそんな人物はまず『彼らの世界』には一人もいないだろう。

 

 しかし。

 

「みんな逃げて!!」

『??』

 

かぁぁぁあああああ――――!!

 

 彼女だけは把握していた。

 あの闇夜を切り裂き、空を覆い隠す暗雲に大穴をあけ、夜空に月光の輝きを呼び出した少年の構えと技の事を。

 亀の仙人が開発したという、潜在エネルギーを己が肉体ひとつで『凝縮』『増幅』『収束』という自分たちで言うレアスキルの連続をやってのけるそのことを――そしてそれが……

 

「なのはさん以上の砲撃……いいえ! 『艦砲射撃』が来るわ!!」

「艦……」

「砲?」

 

 めぇぇぇえええええ――――!!

 

『なんだって!!?』

 

 これから尋常じゃない事態を引き起こす前準備だという事を。

 リンディの発声の後、管理局の男3人の行動は速かった。 よほど“なのは以上の攻撃”が恐怖心を刺激したのか、彼らの顔は引きつり眉がけいれんを起こしている。

 ひとり腰を抜かして動けないモノが散見されたが、それは別のものに尻を蹴られてまで一緒にアースラが張る障壁へと退避していく。 ……この時、当然リンディも彼らに運ばれる形で一緒に逃げていくのだが。

 

はあああああああああ――――!!

 

「2、300メートルは離れてるはずよ?! それなのに振動がここまで来るなんて――【エイミィ!】」

【ふぇ!? ど、どうかしましたか……?】

【アースラをもっと後方へ退避させて! 巻き添えでこっちが全滅する羽目になるわ!】

【――!? は、はい!!】

 

 めぇぇぇえええええ――――!!

 

 光が放たれるカウントダウンは既に残り『1』を切ろうとしていた。

 約束の合言葉を咆哮のように唱える青年は、そのまま手の中に輝きを作り出す。 神々しい、そう呟いたのは誰?

 力強くもきれいなその青い光は、あの『少年』のモノよりもはるかに強く、眩しい。

 

「もう第4詠唱まで終えている……来るわよ! 特大の砲撃が!!」

「第4……? そんなのあったっけ……ううん、そんなことより――アースラ結界出力最大!!」

 

 リンディの意味深な単語に疑問符を浮かべながら、手元のコンソールのキータッチを速める。 手遅れにならないうちに、早々と来る衝撃に身構える彼女達。

 それを知ってか知らずか、ここに来て青年の発光現象は最大となる。 この夜に現れた閃光はまるで地上に降りた星々の輝きの様で。

 大きさこそ敵わないものの、その光の球は、なのはのスターライトの輝きを思い起こさせるのだが……威力は果たしてそれに比例するのであろうか?

 

――答えは。

 

「波ああああああああああああああああああああああーーーーーー!!」

 

 次の一撃でわかるだろう。

 

「きゃあ!! 空に居るのに……まるで地震みたいに」

「か、艦長!」

「どうしたの!?」

「巨大な傀儡兵が……傀儡兵が――」

「……!! やって、くれたわね……彼」

『うおおおおおお!』

 

 上がる大勢の声。 歓喜と驚愕が見事なバランスで織り交ざっているそれはどうして起きたのか?

 

 簡単だ、なにせ今のいままで自分たちを苦しめた傀儡兵の、その集合体である巨兵を砲撃一発で見事消し去ってしまったのだから。

 断末魔さえ許さない彼の一撃は、海鳴市の夜空に航空爆撃機が通過したような轟音をいまだ響かせている。

 

そして、敵が居なくなった後も彼の攻撃はまだ終わらない!

 

「敵が居なくなったのに砲撃の威力が収まらない? ……まさか!?」

「こ、このまま一気に『あれ』もぶっ飛ばしてやる!!」

「結界を打ち破ろうというの!? そんな無茶な!!」

 

 目指すは敵がいたその後方。 いまだ健在な結界に向かって、彼の超かめはめ波は流星が如く夜空を翔けていく。

 昇る、登り詰める!!

 そうして翔け抜けていったその先に待ち構える結界にあたる瞬間、誰もが固唾をのみ込んで、自身の口からすべての音を消し去っていく。

 瞬間だけ静かなその場に、次の瞬間、けたたましいほどの炸裂音が轟く!!

 

「はああああああああ!!」

「わ、割れない! やっぱりだめなの……?」

 

 結果は互角。

 相対した矛と盾はお互いを突き合わせたままに、進行を停止した。 効いていないわけではないだろう、破壊できないものではないだろう。

 それでも足りない力は、彼がまだ本調子ではないからか。 それを一番わかっている彼は、ここで――

 

「――――あああああああ!!」

 

 最後の一押しに打って出る。

 傷ついた身体で、既に界王拳は使用不可、故に全身から集められるだけの気をかき集めたこの超かめはめ波に出来るのは……

 

「だあああああああ!!」

 

 ただ気合を上乗せしていくぐらいである。

 青年の咆哮。 それに押し負けるように「バキン」と音をたてはじめた結界。 まるで地震が起きた後のアスファルトのように広がる亀裂は加速度的に大きくなる。

 その線が全体を覆う時、ついにそのときがやって来る!!

 

「行った!」

「や、やった……ついにやった!!」

「結界が崩壊していく――!」

 

 ……だが。

 

「ぜぇ……はぁ……!! ぐうっ!?」

 

 青年の態勢が大きく崩れる。

 

「……やっぱ、体に無理がありすぎた……な――――」

「……え?」

 

 そうして彼から『気』が消えていく。

 それを感じ取れるものはこの世界にはいやしないのだが、その顔色はまるで生気が抜けていくように見えて……

 その光景が、消えてしまいそうな彼がどう映ったのだろうか。

 

『な!? 彼が落ちてく!』

「――くっ!」

『か、艦長!?』

 

 彼女は気付けば、地上に落下していく彼の背中を追いかけていったのである。

 もう、そう長く飛べないとわかっていたはずだ。 自身に残された魔力がいかほどかも把握している。

 

 しかしどうしても浮かんできたのは『あの子たち』と一緒に笑っている『少年』の顔で。

 

 その光景をフラッシュバックさせた途端、急に“子を助ける母”の様な思いがこみ上げた彼女は、自身の行動に待ったをかけることなどできなくて……

 

「待って! ……おねがいだから!!」

「…………」

 

 地上5000……幾ばくか上昇していたから5500メートルからのスカイダイビングが始まったのであった。

 要救助者1.5名。 気を失った彼と、半分救助者の扱いであったリンディは、暗い林の中へと消えていくのであった。

 

 

 

 

 




悟空「オッス! オラ悟空!!」

恭也「父さん! 空が……空になにか!」

士郎「いったいなんなんだ? さっきから落ちてくる鉄塊といい……む! 恭也!!」

恭也「!? くっ! 頭上に――」

士郎「――――虎乱」

恭也「お、おぉ……3メートル大の鉄塊が真っ二つに……さすが父さん」

士郎「この年にして益々健在……ってね」

恭也「は、はは……(もう引退したくせにこの腕前。 昔の父さんの実力って……)えぇと、とりあえず次回!」

士郎「魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第22話」

悟空「戦士よ立ち上がれ! それは彼の世界にあるはずの秘宝!!」

リンディ「こんなひどい身体で……お願い、しっかりして!」

悟空「は、はは。 こ、こんなところに――うぐッ!! あるなんてな……」

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