もう少しゆっくり書けばいいのにと、何度反省したことか。
きっと二度とこんな速さで書くことなんかできないんだろうなぁ……
それはさておき。
高空から地面へと落下していった青年、そして心に湧き上がる不確かな感情でそれを追ってしまったリンディ。
彼女たちを見送ることしかできない手負いの局員たちを置いて、物語は、遂に地球から離れようとしていた。
佳境の始まりに、傷ついた戦士はどうなるのか――
りりごく22話です。
では。
PS――『あれ』の詳細知っている方はいますかー?
知っていたら教えてくださーい、すぐ訂正したいでーす(切実)
それと次回予告がネタバレ前回でーす(土下座)
地上560メートル上空。
既に時計の針が左の端からを登ろうかという時間帯。 戦場と化していた高空のその真下に位置する場所に、二人の男女が速度をそのままに落下をしていた。
重力のイザナウままに地面へ近づいていく彼……いいや、意識をいまだに保っている彼女は必死の思いでようやく青年の手を掴む。
「――けど、このままじゃ結局」
「…………」
だがそのあとはどうする?
残った魔力で飛行魔法でも使うか? ダメであろう、あの高さから落ちた自分たちの速度は、既に自動車の最高速度をとっくに超えているだろう。
迫る眼下の木々、そしてそれらが根付く大地。 その一つ一つを確認するたびに、リンディの中から生還という文字が薄れていく。 それでも。
「こうなったら残った魔力で障壁を――」
「……」
彼女は足掻くことをやめない。
せっかく助けてもらった命を、こんなつまらない『墜落』という事象で投げ捨てて堪るかと、強く結んだ口元が小さく吊り上る。
伸ばした手が弱々しく光る中、彼女のその精一杯の抵抗を――
「ここは……――ッ!!」
「え?」
「くッ!!」
包み込むかのように『引き継ぐ』彼。
唐突に目を覚ました彼は、状況判断もままならぬ状態で左腕で彼女を抱き寄せる。 このあいだおよそ0.2秒ほど、まさしく反射的に起こしたその行動、さらに彼は次の作業に入る。
「オラに残った最後の『力』……だあッ!」
「――うく!?」
空を叩くそれはただの掌底。
空間を伝わりゆくものではなく、制動を意識して行われるそれに彼らの落下スピードは大幅に減退していく。
それでも一般人であればこのまま落下していけば圧死は逃れない……だから彼は、リンディをより一層強く抱きしめる。
「目ぇ瞑ってろ! 息吸って、そのまま縮こまってんだ!」
「~~~~っ」
左手を背中に回し、右手は彼女の頭を包むように、そしてそのまま胸元まで引き寄せて、彼はぐるりと地面に背を向ける。
歯を食いしばり、落下への衝撃に備える青年……手段は他にもあったかもしれないが、そのほとんどが使用不可のこの状況では致し方なく。
「…………(気が残ってねぇからとべねぇし、筋斗雲を呼んでもたぶん間に合わねぇ)へへ……あとは界王様んとこに行かないように頑張るだけかな」
打てる手があまりにもない彼ができることなど、常人よりもはるかに頑強な身を挺して、自身の胸の内でうずくまらせた人物を守るだけ。
そうして彼は、背中に木々の当たる衝撃を受けながら――
「がはッ――!!」
「…………うぅ」
地面に数10平方メートル台のクレーターを作るのであった。
「かはぁ! うおぉ~あぶねぇ~ なんとか生きてたなぁ」
「あんな高さから落ちて、この程度の被害で済んだなんて……すごい幸運だわ」
「だな」
「……えぇ」
周りを見たリンディは、青年の腕に抱かれたまま一呼吸。
そうして起き上がろうとする彼女だが、彼の腕が丁寧につかんで離さない。 「ちょっと?」 などと呟く彼女はおもむろに振り向く。
「え……?」
「は……はは」
「ど、どうして!?」
「なんだよ……いきなり…怒鳴るなって………いつつ」
そこに居たのは見るも無残な戦士の亡骸。
その身体は生気がなく、力みなぎっていた輝きも見る影がない。 道着だけはきれいだが、袖がない腕から見える傷跡は生々しい。
普通じゃないキズを見たリンディは、起き上がろうとしたその身体を再び彼へと委ねてしまう。 別に離れるのが名残惜しいとかロマンチックなものでは断じてない。
ただ、自分が動いた瞬間に引きつる顔を見せた青年が、あまりにも痛々しかったからで。
「ご……ごめんなさい」
「え? あぁこれか。 そんな気にしなくていいんだけどなぁ」
「気にするなって……そんなこといって!」
「~~! だから耳元で怒鳴るなって。 まぁとりあえず」
「??」
「申し訳ねぇえけど、そこから勝手に起き上ってくれねぇか? 腕とか振り払っていいからよ」
「起き上がるったって……」
だから今の様な会話が聞けた彼女の心境は複雑だった。
明らかに全治半年クラスの重体患者を、よりにもよって敷き布団のように下敷きにしている状態だ、そこで身動きするのですら躊躇われるのに、それを通り越して振り払えだなんて……ありえない。
そういった単語が彼女の脳内に巡ると、彼女は青年に向かって逆に提案をしてみようとして。
「やっぱこの身体で超かめはめ波は堪えたみてぇだ。 腕が吹っ飛んじまったみてぇにいてぇ……それに界王拳の反動で指一本だってうごかせねぇ。 だからわりぃんだけど助け呼んできてほしいんだ」
「そういうこと……ね」
触れる指先は赤く濡れていた。
その感触に目をつむるリンディ。 これが、この傷の一つ一つが本来ならば自分たちが負うべきものであったはずだ。
それを自覚した時、彼女はそっと濡れた指先を握り締める。
俯き、口を結んで……後に立たないという後悔の念を胸に抱くと、そこで状況は――
「……物音?」
「誰か……いるな?」
大きく変わろうとしていた。
何かが近づいてくる感覚。 リンディは物音で、青年は感覚で気づき備えようとする。
「……どうすれば」「あいつら……こんなところで……」
「え?」
そして同時に出た言葉はほぼ正反対の言葉。
緊張を極限までとがらせた声と、見つかる安堵の声。 前者はリンディで、後者は当然青年のモノ。
目をつむりながら、口というより肺から呼吸するように「くく」と笑う青年の顔はとても朗らか。 古い知人に会ったかのような対応に、思わず思案気になるリンディ。
膨らむ不安と疑問……だが、それもすぐに消えてしまうのであった――彼らの前に現れたのは……
「人だ……父さん!」
「待ちなさい恭也! む?」
「はは……やっぱりおめぇたちだったんか……」
「…………誰?」
同時に上がる4つの声。 そのどれもがそれぞれの思いを乗せた色を持ち、見事に交錯してはその場で大きく広がっていく。
やっと出会うことができた『父子』 その彼らの性は高町――
「ひさしぶり……だな。 キョウヤぁ……シロぉ――ごほっ!!」
「い、いけない!」
彼らを見た青年はそっと全身から力を抜く……同時、鮮血が彼の口元から吹き出す。
まるで張りつめた糸がほぐれるように、弱々しく崩れていく青年の気概と身体。 「守る必要がなくなった」と言わんばかりに深く体を沈め、そっと息を吹いた彼は目をつむる。
いかにも衰弱していく青年に、恭也と士郎は駆け足で近づいていく。
「キミ! 大丈夫かい? ……っく、なんてひどい」
「打撲とかじゃない、まるで体に無理をさせて筋肉を引きちぎられたみたいに……どうすればこんなふうに」
「へへ……さすがだなおめぇたち。 そのとおり…だ………あぎぎ!!」
『無理をするな!』
「す、すまねぇ」
「…………なんで絶妙に息が合ってるのかしら」
青年の状態を目視で確認した彼らは顔面を蒼白に染める。
服装自体は目立った汚れはないのだが、引きつった筋とそこらに浮き出る内出血はケガの度合いをうかがわせる。
それを看破して見せた二人に、起き上がってみようとする彼は刺されたかのようにびくりと倒れ、その行動を見た彼らは一斉に叱る。 まるでいつものように『少年』にツッコミを入れるかのようなその動作は、なんだかいつものようであって。
「と、とにかくどこか落ち着いた場所に動かそう」
「ああ、そうしよう!」
『せーの!』
それに気づかないまま、というより先ほどから自分たちの名前を呼んでいるのにすらわずかな違和感も感じずに、ふたりは青年に向かい手をのばして……触れてしまう。
「ぎゃああああああああああああ!!」
『!!?』
上がる叫び声。
耳をつんざき、遠く離れた林ですら揺らすその叫び声に、士郎と恭也の2名は思わず後ろに跳んでいく。
「は、はは……か、身体に無理なコトさせちまってよぉ……全身ガタガタなんだ」
「なんだって!? ほんの少し指先で触れただけなのに……こ、これでそんな叫び声が上がってしまうくらいだと手の施しようが無い」
「どうすれば……」
ちなみにリンディは青年の胸元で横になっている状態を継続している。 というより、いまの出来事を見てしまった彼女に、彼を踏み台にしてまで起き上がろうという意思は無くなり、むしろこのままの態勢で治療ができないかと模索しつつも……
「……(ダメね。 魔力がほとんど底をついてるんじゃ、何もできはしないわ)」
その見当は出来やしないモノという答えにたどり着いてしまっていた。
「ははは……こりゃ参ったなぁ。 なんとかなんねぇかな」
『…………』
困り果てた青年の一言。
それに答えられるものなど居らず、沈黙が重くのしかかるその場に冷たい風が吹いていく、そう……冷たくも優しく吹き抜ける『風』が。
「……え?」
ざわりと、音がした。
気のせいだったかもしれない、だがどうにも気になるその音に青年だけが反応した。
「あれは……?」
それはほんの少し離れた場所だった。
自身の墜落により起きたクレーターが、周囲の雑草その他を根絶やしにしている中で“それ”だけが何の偶然か被害を免れていた。
落下による大地の波が、そこを避けるように行き届くその様は異様であり神秘的。 気付いてしまえばあまりにも目立つ其処は、ついに青年の視界に入っていく。
「……なんでここに」
「え?」
「どうかしたんですか……」
「?」
彼の言葉に、しかしその存在に気付く者はいない。
その中で青年はソレ……その『苗』を見て、今にも途切れてしまいそうな吐息を出しながら……恭也に向かって声を張り上げる。
「キョ、キョウヤぁ」
「……え?」
唐突の青年の声に身体ごと振り向く恭也。
その視線の先には相も変わらず仰向けになり、知らぬ女性の下敷きになっているこれまた名の知らぬ青年。 だが、彼から聞こえてくるその声がどうしても他人の気がしてならない恭也は、その青年の……
「すまねんだけどよ……そこに『木』があんだ……」
「き?」
「そ、そうだ……わりぃんだけどよ…そ…そこに実ってる『豆』見てぇなヤツをとってきてほしんだ」
注文の声に、そのまま視線を彼と同じ方角に向ける。
ついに向けられたその視線。 そこには、その場所には――小さな苗があった。
「なんだコイツは……見たことが無い形の苗だ……」
「……そうだろ。 オラだって『それ』以外にそんな形……うぐっ。 見たことねぇ」
「キミ!? 無理しないで!」
ごく普通の気の様でいて、その幹には細いツタの様なものが巻かれている。 身長176センチの恭也が見て、大体腰下くらいしかないであろう全長と、それに見合わないくらいにガッシリとした根と枝。
アンバランスであって、図鑑で見る植物の生態をある程度かき混ぜたかのような外見はまさしく不自然。
故に青年もひと目でわかり、『それ』に対して一掴みの望みを託すに至る。
「はは……すまねぇ。 と、とにかくさぁ…そこに出来てる『実』があんだろ…? それをオラに“食わせてもらいてぇんだ”」
「食う? こんな時に何を――?」
「…………は、はやく……!」
「……あぁ」
そして彼は願いを恭也に託す。
今まで度重なる激戦を秘かに支え、“ついこのあいだ”も高い塔にすむ『仙描さま』からもらったソレ。
まだ背が低かったころに行った修行中に見せてもらったというその木、その苗。
それは――――
「サヤエンドウ……なのか? でも実が『7つ』あるなんて」
「7個……やっぱ7つあんのか」
「え?」
木の苗からぶら下がっているモノとしては、酷くめずらしいモノであって。
三日月を思わせる『鞘』に入れられた『豆』たち。 それらが親指の爪くらいの大きさであり、横一列で均一に詰められているため、普通のモノよりもひときわ大きく見えるサヤエンドウと呼ばれたソレ。
恭也は丁寧に苗から摘み取ると、駆け足で青年のもとへと向かう。
これが何かはわからないし、この苗を避けるようにできていたクレーターも今は気にはしない。 だが青年の状態だけは今この場で何とかしなくては、常識で言えば命に係わるはずだ――恭也は、青年の言葉通りに豆を持ってきていた。
「そ、それをよ……一粒でいいんだ。 オラの口に押し込んでくれ……」
「押し込むって……」
「た、頼む」
「あぁ……(こんなんで一体どうなるっていうんだ)」
しかし恭也はいまだに半信半疑。
決して青年のケガが冗談や悪ふざけではないというのは初見でわかっているし、この一連の行動にも何か意味があるのだと、文字通り彼から“痛いほど”伝わってくる。
それでも……だ。 こんな小さな豆粒ひとつでいったい何をしようというのだろうか? 広がる疑問は波紋のように広がっていき、波が返すかのように心中へ集まっていく。
――――そうして恭也はついに、青年の口元にその『豆』を押し込んだのであった。
「……んぐ――うく」
「すごい音がしたんだが」
「なんか生のきゅうりを丸かじりにしたっていうか……」
押し込まれたモノを弱々しく咀嚼していく彼。
カリカリ――ゴリゴリ……とにかく『硬い』音はその場にいる全員の耳に届き、それぞれの胸中にある意味での不安の言葉を作らせる。
そして2回、3回と大きな音を続けていくと、やがて噛む音が小さくなっていき、『ごくり!』というこれまた大きな音が聞こえた。
それが口にしたものが噛み砕かれ、喉を通る音だと3人が気付いたときであろう。 青年の上で横になっているリンディは……
「…………え?」
彼の変化を感じ取る。
「なに……(脈が跳ねた――!?)」
「…………った――」
「ぇえ?」
青年の小さく弱く、今にも途絶えてしまいそうだった血流の音が、鼓動が――急激に上昇したことを。
人間の心臓は普段、大まかにだが1秒に一回程度、1分では60~70回ほどの運動を行っている。 今までギリギリで伝わっていたのだが、急にそれが常人よりも強く聞こえてきて。
「なにがどうなって――」
つぶやく彼女。 けれど驚いた表情は何もリンディだけではない。
高町親子、彼らも青年を見つめたまま……動けない。
「おぉ!!?」
「なんだ?!」
口々に出てきた驚愕の音は、やはりリンディとテンションを同じくするもの。
観て聴いて目を見開いて……そうした彼らのリアクションが一通り終わったときであろうか。
『彼』は、ついに叫び声を上げる!
「ぃぃいいいいいやっほーーーーーい!!」
「きゃあ!?」
『!!?』
飛び上がる彼。
彼とは……? などと申されることなかれ。
今このタイミングで、全身を使って喜びを表現するモノなどただ一人しかいないであろう。
宙に跳び、いっこうに降りてこない彼。 ちなみにこの時、今のいままで自身の胸元で転がっていたリンディは抱き上げた状態で一緒に空へと飛んでしまっている。
ひと一人の身体、おそらく4~50キロはあるはずのそれを、まるで『ない』かのように持ち上げる彼は本当に元気。
引きちぎれそうだった筋組織も、ガタガタだった各関節部も、何より砕かれていた右足も――すべてが元に戻っている。 青年の完全復活だ!!
それを見て。
「なんだ……?」
「なにしたんだいま」
「あ……あの――その……」
思い思いの3人。
方向性が多少違うが、途切れ途切れのその言葉に青年が気付くことはない、無いのだが彼はそのまま後方宙返り。 抱えられたリンディのミントグリーンの髪が円を描くと、ふっと地面に両足を着く。
着地の態勢からか、うつむいた青年の顔。 それが徐々に上へとあがっていき、彼らと視線を同じにしようとする。
黒いトゲの様な髪型がふわりと前後に揺れ、今までとは真逆の清々しい顔をすると、彼は「にこり」と表情を変えて……笑い出す。
「いやー! 一時はどうなるかとおもったぞ。 危うく閻魔のおっちゃんとこに顔出すとこだったなぁ」
「は、はぁ」
そこから出たのは“冗談みたいな一言” だが、誰が予想できよう? 今の一言がかなりマジな話であって、自身の経験談からくる言葉だというのを。
「にしてもまさかこんなとこにあるなんてなぁ。 ずっとめぇにカリンさまから何となく聞いてたけど、ここまで形がそっくりなんてな。 しかも効き目もバッチリと来たもんだ」
「えっと?」
そうして軽く天を見上げ、ちょっと昔を思い出す彼の顔はなんとも言えない。
別に悲しんでいたりしてもいないし、難しい顔でもないのだが、なんでだろう……どうしてかそう思ったのは最年長のリンディと士郎であった。
ついにそれに気づかなかった張本人の青年。 彼はリンディに「あ……」などとこぼすと、抱き上げていたために至近距離となっていた互いの顔の距離を取り、その細い身体をそっと地面へと降ろしていく。
彼の山吹色の道着に流されるように滑っていくミントグリーンはリンディのポニーテール。
それらがすべて青年の道着から零れ落ちるとき、彼女はようやく地面を踏みしめて。
「あぅ――」
「お?」
ふわりと、青年の胸元に崩れていった。
まるで足腰に力が入っていないようなこの動作。
「いけない……わたしも結構消費していたんだわ。 ……あなたほどではないのだけど」
「あ、そっか。 オラが来るまでおめぇたちだけで踏ん張ってたんだもんな」
その通り、体中に力が入っていかないからである。
寄りかかるように、青年の胸元に背中を預けているリンディ。 彼女は自身の態勢など気にする余裕もなく、彼から伸ばされた両手の感触に軽い安心感を覚えていた。
とても大きい訳ではないけど、普通より硬くて……なにより暖かい。
それが一番の理由なのだと気付いた瞬間、彼女の口元は軽く緩み、同時――
「え? ちょっと?!」
「ほら、おめぇもこれ食っとけ」
その開けられた口元めがけて、青年の空いた手が迫っていく。
人差し指と親指でつまんであるのはさっきの『豆』 彼はそれをゆっくりと、しかしどこか強引にリンディへと近づけると、一気に押し込んでいく!
ぐいぐい……所謂、むかしの新婚さんかなんかがやってそうな『あ~~ん』というモノなのだが、いかんせん色気なんてあったもんじゃない。
そしてその行為がなんなのかやっと理解したリンディは若干首を左右に振る。 振るのだが、まぁ……青年の怪力に敵うわけもなくあっさりと負けてしまうと、そのちいさく濡れた唇に青年の指が触れていく。
「んー! んーー!! …………~~っ」
「なにもたもたしてんだ? さっさと食っちまえって」
「……はい。 ――んぐ」
口内に入り込んでいく異物。
それを舌でなめとりながら形を確認し、すくっては味、奥歯に持っていっては小さく甘噛みする。
いつまでも終わらない咀嚼に、肩を叩きながら彼女をせかす青年はやはり女心がわからない……そして大雑把。
「……なんか変な気分だ」
「ゴホン! 恭也? ただ豆を食っているだけだぞ? マメを……」
「……え? ん――!? い、いや! そうじゃなくって!!」
「ん?」
すぐそばにいた父子も、いつの間にか見守る役に徹していたとか。
この時の恭也の発言は様々な意味でとらえられ。 受け取った士郎の言葉も、ある意味かなりおかしい語感を含んではいるが今はお互い追求しない。
――――ちなみに、彼らがこの後それぞれの伴侶に『ラリアット』→『首ギロチン』→『倒れたところを持ち上げてからのスクリュードライバー』を喰らったのは後にも先にも関係ないはなしである。
そうこうしている間に、リンディへの『治療』が終わろうとしていた。
「!?!?」
「おっし、これで元気になったろ」
「え、えぇ……とても信じられないけど。 体力はもちろんのこと魔力ですら全快……というより戦闘前よりも調子がいいくらいよ」
「そっか。 そいつはよかったな」
崩壊していく自身の常識に早口になってしまうリンディ。 若干ながら興奮しているのであろう。 残された5個のマメを穴が開くように見つめると、今度は青年に振り向く。
やっと会う視線。 ようやくマジマジと交わされる会話。
今のいままで言おうと決めていた一言。 『少年』と同じ色の髪と道着に、長い尾……更にはあの子よりも強大な砲撃を扱う『彼』に抱いていた自身の考えと気持ち。 そのすべてを込めて、彼女は今数分越しの礼を彼にささげることとする。
「本当に助かりました」
「え? お、おぉ」
他人行儀は丁寧な口調だから?
いきなり畏まった彼女に、やや頭部に汗模様を作る青年。 いきなりどうしたと眉をひそめると、そのまま聞こえてくる言葉に耳を傾けていく。
「もしあなたが来なかったら張られた結界は愚か、あの数の傀儡兵あいてに押し負けていたところでしたから」
「そうだな。 あいつ等、数だけはすごかったもんなぁ」
「えぇ」
『…………』
そのなかで置いてきぼりの高町sは何となくで会話を拾っていく。
この時点で魔法とかの守秘義務とかが破られてはいるものの、事態はそんなことを気にしている場合ではなくて。
とにかくリンディは青年に向かって会話を続けていく。
「それで……その」
「?」
「大変言いにくい事なんですが」
「なんだ?」
そこで若干伏し目がちになる彼女。 本当に申し訳が……そう呟いたリンディは青年と視線を合わせたり背けたり。
あっちこっちと動かすその目に時々映り込む青年は本当に何もわからない顔をしているのも絵面的に面白い。
「息子さんなんですけど……『ターレス』というサイヤ人の策略で……その」
「息子!?」
「……え? えぇ」
「んん??」
うまくかみ合わない会話。
リンディはそれを何となく掴んで見せると、今まで泳がせていた目を何とか一所に定め、彼へと会話を紡いでいく。
「だって……」
「だって?」
そう。 同じ容姿に同じ技。
そのどれもが『少年』と似通った『青年』をひと目見た時からリンディは思っていたのだ。 彼は3日前に行方を途絶えさせたあの子の――
「孫悟空くんの『おとうさん』……なんでしょう?」
という事を……
『え!? そうなんですか!!』
「…………へ?」
「あれ?」
その発言に驚く声が“3つ”ほど上がった。 ……リンディの予測していた声の数と勘定が合わない。
「あれれ? でも、だって――」
『えっと?』
なにか話がおかしい。
本当にかみ合っていない現在の会話に挙動不信となっているのだろう、ところどころで幼児化している彼女は片手を青年にブンブン振り回す。
キャラじゃない……そういった言葉は投げ捨てていたリンディである。
そうしながらも指された青年はここで意味をようやく理解していく。
最初は“自身の息子”が本当に何かあったのかと思い、次に出てきた単語で彼女の間違いに気づく。
つい数時間前にも友人たちにされたこの手の勘違い。 なんのイタズラか、彼ら彼女達との経験してきた日々が――過ごしてきた時間が大きく食い違っていると“思っている”青年は、その間違いを……
「なんだおめぇもか。 キョウヤたちはすぐわかってたみてぇだけどな」
「はい?」
『えっと……?』
正そうと試みる。
「いやだからよ? オラだって」
『…………はぁ』
「オラだオラ! 孫悟空だ」
『……………………――――!! なんだっ―― ~大変お見苦しい文章が羅列していきます、自主規制に引っ掛かりましたので、しばらくのあいだお待ちください~
「とまぁ、そんなかんじだ」
「そ、そうだったのね……あの『事件』から8年」
「そりゃそんなに背が伸びるわけだ。 俺と同じくらいなんじゃないか?」
「あぁ、そうかもな」
「なのはと同じだったあの身長が……ホントに逞しくなってしまって」
「ははっ! まぁな。 あれから死ぬほど修行したかんな!」
ようやく名を告げることができた青年……いいや、悟空。
そのあとの「……実際死んじまったしな」という小声は聞き取れたものはおらず、ただ悟空のつま先から頭のトゲまでを見渡すだけ。
いかにも武道家然とした彼の背格好に感嘆の息を吐くと、自然……話題はリンディの方へと移り変わっていく。
いかにも「さっきまで荒事の中心地に居ました」という風な彼女の格好。
服は破けた個所があるし、額からは血が流れた跡が散見される。 故に見たその女性、そしてここで士郎は顔を上げる。
「……あ!」
「――!?」
「ぁあ。 すみません……じゃなくって」
「はい?」
「あなたですよね? 前に内に電話してきたのって……ええと、ハラオウンさん!」
「え……ああ!」
わからない、あれ? なんだか……あぁそうだ!
徐々に互いの認知度を繰り上げていく彼等。 つい3日前……今はもう4日目だったか? 彼らは自分たちの会話を思い出し、それぞれが相手に指をさしては納得したように口を半開きにする。
「なんだおめぇたち。 会ったことあんのか?」
「え? えぇっと、そうね。 一回だけ電話で」
「はは、あの時はいろいろと……」
「え、えぇ」
「ん? なんなんだ。 キョウヤ、あいつ等様子がおかしくねぇか?」
「さぁな。 俺にはよくわからん」
肘で軽く脇をつつく悟空に、なんともそっけない返事をする恭也。
彼の胸中では急に背が自身と同程度になった彼と、大きく差が付いたであろう実力差というものと、見つかってよかったという安堵で複雑な心境が渦巻いていた。
そんなことなど知らず、リンディと士郎の会話は……しかし悟空の声が二人の間を割る。
「なぁ?」
『え?』
「いろいろ話してぇとこ悪いんだけどよ、オラたちなのはとユーノ達のとこに行かなきゃなんねんだ」
『なのはの?』
「ギク――」
そこから出てきたのは“リンディが避けたかった”話題。
この目の前に居る保護者相手に、仕方がないとはいえ自分がとった行動は『大人』としては最低であって……しかも民間人を現地調達するかの扱いだ、それこそどんなに怒鳴られても仕方がないであろうと彼女は予測して、やんわりと自身の武器である口八丁を駆使しようとした時である。
「実は――」
「アイツ等よ、いま『サイヤ人』っていうヤベぇ奴のとこに行っちまったんだ。 そんで今から追いかけるとこでさ」
「さいや……なんだって?」
「ヤバい奴。 キミほどに実力をつけた者にそこまで言わせるのか」
「まぁな」
「ちょっと……悟空くん……」
青年が“そんなこと”許すはずもなく。
無自覚に言い放たれた事実はどこまでも最悪さを醸し出し、高町なのはが今現在どのような危機的状況に放り出されたかを知らせるには十分なほど、悟空の表情は硬くなっている。
「正直、下手すっと今のオラでも敵わねぇ奴だ」
『なんだって!?』
「そう、なの……」
出される驚愕の発言。 今の悟空の実力はリンディは正確に、恭也と士郎は大体の感覚で把握しているつもりだ。
だからこそ、今の発言ほど信じられるものは無くて……
「でも」
そこで繋がれていく言葉、自身の発言を否定する言葉。
強い輝きに満ちた黒い瞳は彼が何を言いたいかを物語っており……
「わかったよ」
「え?」
士郎は、そんな彼の言葉を全て聞き入れないで……すべてを読み取って見せる。
わかったといった彼の表情は表現しずらいモノ。 でも決して諦めとか失望とかではなくて。
「やってみなくちゃわからない……そういうんだろ?」
「はは、まぁな!」
先読みして見せたその言葉。 あきらめたくないときにいつも悟空が発するそれは、たまになのはが――「やってみないとわかんないもんっ!」などと真似していた言葉。
それを微笑ましく眺めていた士郎は、まさかこんな時に使うなどとゆめにも思っていなかっただろう。 だが、そのときはもう来ていたのだ。
「悟空!」
「どうしたキョウヤ?」
そしてかけられる声は士郎だけではない。 長兄たる彼は、今はもう自身と対等な視線で話せる悟空に向かって、刀剣のように鋭く、しかしその温度は製造工程のように熱した鉄のようであった。
「……」
「……」
互いに語り合う言葉はない。
恭也は悟空の持つ力を知り、悟空は恭也の人となりを知っている。 故に『彼ら』が“この状況”で交わすのは特になく。
知り尽くした相手だからこそ、顔を見て空気を触れ合わせただけで次の行動がわかってしまう。
「行って来い」「行ってくる」
「……」
「――!?」
風が吹き、空を見上げる恭也。
その仕草はえらく自然であって、彼が天を見上げたその瞬間の表情など判らなかったが。その心は、きっと静かな水面のように澄んでいたであろう。
「行ってしまったね」
「そうだな」
気付けば消えていた悟空。
それは“かつての別れ”にも似た速さで、だけど喪失感を感じさせないのは、そこにまだ彼が居た痕跡があるから。
へこんだ地面、踏みつけられた草木、ぬくもりが残る残骸後。
そのすべてが今までの出来事を幻想ではないと彼らの心に訴えかけてくるようで。
「あいつが『ああいう顔』をしたときは、大体俺なんかじゃ手に負えない事態なんだ」
「恭也?」
長兄の独白。
それはこの数十日間を思い描く言葉の羅列。
「初めてアイツの本気を見た時も、大きな木の化け物が襲ってきたときも、あの『修行場』が出来た時も、いつもアイツの背中だけ見てきてさ」
「…………」
「それでいざ戦おうという時は、やれ空が飛べないだのなんだので、結局アイツに頼りっきりで……」
「あぁ」
拳を握る。
強く……ではなく、しかし決して力が入ってないわけでもない。 それはなにか言い表せない思いを込めているように見えて。
その姿、その光景を見た士郎は言葉だけを聞くことしかしない。
顔色も、心情も、今はただそっと伏せてくれればいい。 そんな父の気遣いを。
「悔しいよ――結局、こんな一番大事な時ですらアイツに頼り切ってしまうんだ……」
「……ああ」
歯を食いしばり、音を立てて噛みしめる恭也であった。
――――同時刻、上空。
「い、いきなりなのね」
「……まあな。 あれ以上居るとさ、キョウヤの奴がついて来るって“言っちまう”とこだったからな」
「…………?」
暗い空に冷たい風が吹きすさぶ中、その空気の層を切り裂くかのように飛翔する悟空。 それについて行く……ことなんか到底できないリンディを右手で引っ張り、そのまま船を目指す彼。
その彼に、自身の考えが及ばないことを尋ねるリンディは……ほんの少しだけ男心――いや、『戦士』の心構えというものがわかっていなくて。
「ホントはアイツも行きたかったんだと思う」
「あいつ……?」
「アイツはなのはのアニキだもんな。 やっぱりすっげぇ心配なんだと思う」
「……あ」
「でもよ、それ以上にわかってんだ。 キョウヤ自身、このまま行っても歯が立たない、それどころかオラたちの足手まといになっちまうってことをさ」
「そう……だったの」
言い渡されたのは答え合わせ。
そのどれもが、数日前の少年と比べてはるかに『大人』然としていて。 恭也の事、友の事をここまで理解しているのは、さすが悟空というべきなのだろうか。
やけに珍しい彼なりの配慮、それは今回、見事に的中するのであった。
「見えて……は、こないか。 とりあえず船の近くまで来たけどよ? この後どうすんだ」
「もう? ……いつのまに」
そこは何もない空、だが悟空は“そこにいる人物”たちを指折り数えると傍らに浮かばせたリンディにたずねる。
今の流れを見たリンディは、悟空が何かしらの探査魔法と同等の事をしたと睨むと、府には落ちないその思考を不覚に沈め、右手で宙に横一線。 青いウィンドウを出現させると。
「エイミィ、聞こえる?」
そっと誰かに語りかけていく。
[か、艦長!!?]
「こ、声……大きいわよ」
[艦長だ! ホントに艦長だ!! みんなー! 艦長が――]
「はしゃがないでったら……んもう」
「……はは。 よっぽど心配だったみてぇだな」
「少し悪いことしたかしら?」
「たぶんな」
そうして始まる大騒ぎに後頭部を掻く悟空と、舌をチロリと出したリンディ。 ほんの少しの団欒を味わう彼らは、その身体を青い輝きに包まれると委ね、霞のように消えていくのであった。
「よっと……へぇ、改めてみるとでっけぇなぁ」
「そうね。 わたしも最初に搭乗した時は度肝を抜かれたものね」
「そうなんか? オラてっきりこういうんがおめぇたちにとって普通なんじゃねえかって思ってたぞ」
「そんなこと……あるのかしら?」
2度目となるアースラ艦内の転送ポート。
そこに入る悟空は数年前を思い出すかのように周りに視線を巡らせていき、またも指折り勘定を始めていく。
「ひぃ、ふぅみぃ……ん~~こんなにでっけぇのに20人チョイしかいねんか。 なんかもったいねぇなぁ」
「ふふ、でも船の機能自体は全然――え? 20人?」
「ふ~ん、そっか。 よくわかんねぇけどすごいんだな」
「あ……れ?」
すれ違う言葉。
おかしいと思い抱いたのはリンディで、対して悟空は両腕を後頭部に組んでテクテク歩いていく。
鳴り響くブーツのような青い靴ははやてからの贈物の特典。
それを高い音色で周囲に広がらせていく彼はリンディを置いていこうとして……
「ま、まって!」
「?」
「悟空君、いまあなたこの船の人数を正確に把握してみたようだけど、何をしたの?」
彼女の疑問に答えていく時間がやって来る。
こういうのは悟空自身あまり得意ではなさそうに見えて……その実うまい方ではない。 彼のこれまでの行動は経験と感とナニカ導かれるようなものがあったからこそ、つまりは小難しい“方程式”なんて存在しないのである。 故に――
「どうって、ここに居るヤツの“気”の数をカウントしたんだぞ?」
「気……わたし達で言う魔力に相応するアレね? そういうこともできるの……」
「まぁな。 “自分の気を周りに巡らせて機微を把握し、相手の気を感じて次の動作を予測する”んかな? そういった修行を神さまんとこでやってたかんな」
「神……悟空君の世界にいるっていう……」
「あぁ、死んじまったけどな」
「………………えぇっと(神が……死ぬ?)」
聞くものが聞けば世界の終りを告げられたかのような話だって、いともたやすく行ってしまうのである。
それはリンディも同様である。 全知全能であり、すべての生きとし生けるものの父であるそれが存在し、あまつさえ死んでしまったと言われては……しかしなぜだろう。
「そんでよ? その死んじまった他のみんなと一緒に生き返らせてもらうためによ、今オラの仲間が本場のドラゴンボールがあるとこに行ってるんだ」
「本場?」
「そうだ。 もともと神さまは、前にオラが戦うって言ってたピッコロとで別れた“独りのナメック星人”だったらしくってよ? そんでその神さまがもと居た星にあるかもしんねぇドラゴンボールの神龍に頼んで、みんなを復活させてもらおうって腹なんだ」
「復活……なるほど。 たとえ死んだ者でも1年以内なら――」
「そういうこった」
「でもまさか神が異星人なんて……ううん、その星の人間に出来ないことができるなら十分、理に……?」
彼の世界……いいや、『彼』から聞かされる話……ちがうな。 彼の声を聞くだけでこうも安堵の気持ちに包まれるのは……
そうして語られた事実達。 だがここで一瞬だけリンディの顔色は青へとテンションを反転させる。
「ちょっとまって!? いま仲間が死んだって言ってたけど――あなたの世界で何が起こったっていうの?!」
「ん? ん~~」
「…………」
間延びする悟空の声。 それに「ちょっと?」なんて焦らしをかけようとするリンディは右足のつま先で冷たい床を鳴らす。
その音を目で追った悟空は、なんとかかんとか……一番わかりやすい言葉を選び、思い出しては……少し苦い顔をする。
「実は、オラの居た地球にサイヤ人が来たんだ」
「――!?」
「でもおめぇたちが知ってる奴とは多分違う“二人組”だ」
「あ、あんなのが二人!?」
リンディの顔面は白くなったように見えた。
あのターレスという男の凄みは画面越しでも十分に味わった。 そんなサイヤ人が二人もやってきたという事実は彼女をふるわせて――
「そんな驚くようなことでもねぇ。 まぁ、一人はすぐに倒せたんだけどな、もう一人……ベジータの奴には正直オラ、完敗だったけど」
「…………」
心象を白黒反転させていく。
一人をすぐに? 彼女の中では作り出すことはできないその光景。 あれを見たものは誰しも爽快という言葉を出すであろう。
皆が圧倒され朽ち果てていった相手を一蹴していった悟空の強さを、そしてそれを大きく上回って見せたあの……
「とにかくそん時にいろいろあってさ、なんとかベジータを追い返すことが出来た。 でも、オラが界王さまんとこから帰ってくる間にヤムチャ、チャオズ、天津飯にピッコロ、みんな最初にやっつけた『何とか』っていうサイヤ人に殺されちまったんだ」
「そう……だったのね」
そして重い風が彼女の周りに取り巻いていく。
彼の急激な変化が“何らかの時間移動”もしくは“次元転移時における時の流れの速さの違い”と見当づけたリンディは――自然、その一大事を片付けた彼に対する視線の色を変えていく。
……自身でも気づかないほどに些細な変化ではあるのだが。
「それでひと段落したからこの世界に?」
「え?」
「え? ――って。 一回向こうの地球に帰ったのよね?」
「ん? ん~~そのはずなんだけど……な?」
「??」
腑に落ちないというのはまさしくこの事か。
ここで悟空は自身の身体を見渡す。 “あの時”負った重症は、目を覚ました瞬間にはそれほどにつらいケガにまで変化していて、それを今のいままで気にはしなかったのだが、言われてみればこれまでの事はおかしいことが多い。
ケガ、時間の流れ、記憶の順序の矛盾。 ……そして何より。
「尻尾……たしかに神さまが――」
「どうしたの?」
「ん? いや……なんでもねぇ」
自身から生える茶色の尾。
戦闘民族の証しであるその長い尾は、其の昔2度と生えてこないようにされたのに……そんな考えが一瞬だけ脳裏に流れた悟空は、そこで思考を切る。
いま、自分たちがやらなければいけないのは――悩むことではないのだから。
「とりあえずこの話はまた今度な。 いまはなのはたちが優先だ」
「そう……ね。 じゃあ行きましょうか?」
「おう」
そうして区切った会話をその場に残し、彼らは歩みを……
「――む? 気がひとつ消えた?」
「え?」
またしても止まる。
それは悟空がつぶやいた一言。 艦内の人間から漂う微弱な気がひとつ……また一つと消えていくのである。
あたりを見渡す彼は、視線を動かしているのではない。 全身から出る多量の気、それを一種のソナーのように発信すると『異変』の正体を探っていく。
「これで4人……ん? ひとつはやい速度で近づいてくんのが……こいつどっかで……?」
「悟空君?」
「リンディ!」
「え?」
独り言が止んだそのときである。
振り向くことすらしない悟空は、背後にいるリンディ相手に声を出す。 大きく強く、決して次の一歩を踏み出させないようにとするそれは警告の声。
「しばらくさ、そこでじっとしてろ?」
「はい?」
【でああああああああっ!!】
「ふっ――」
暴風が襲い掛かる。
それは唐突に現れ、悟空の胸元に迫り、駆け抜ける!
これからというところ、もう少しだというところ――悟空はただ、“空のように静かに”構えていた。
眼の前の暴風を前に、青年の黒い頭髪が……揺れる。
悟空「おっす! オラ悟空!!」
???「ごろごろ……わふ~~」
悟空「おーよしよし……いい子だ」
リンディ「……えっと? いきなり現れた謎の影、それに向かい拳を構える悟空君。 彼に勝機は……あるに決まってるわよね?」
???「わふ!」
悟空「はっはっは! そんなに暴れたらぶつかるぞ? あぶねぇからおとなしくしろってぇ……はは!」
リンディ「くっ…………そして。 唐突にアースラオペレーターの16歳に迫る山吹色の青年。 彼は無言で生娘に近付き、その黒い瞳の中に赤く染まった……彼女の……? なんなのこれ。 ねぇ? エイミィ……」
エイミィ「ちょ!? わたしのこと!!? 一体全体何が――」
???「わふわふっ!」
悟空「お? もうそんな時間か? 次回! 魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第23話 お願いがあんだけどさ、後で何でもするからよ?」
エイミィ「なんでも? でもわたし何にもいらない――っていうより! 命が――!!」
リンディ「あら? どこに行くのエイミィ。 あなたはすこーしだけ、わたしと『作戦会議』をしなくちゃ……ね?」
エイミィ「い、……いやあああ!! ドアに! ドアにーーーー!!」
悟空「いっちまったな……なんだったんだ?」
???「さぁねぇ? アタシゃ知らないよ……ふふん」