気付けばいろいろと足してばっかりで……こんなペースでネタが持つのだろうか。
そんなこんなの第3話
サプライズゲスト? を引っ提げて、悟空は今日も飛んでいく!
りりごく第3話……どうぞ
第3話 呼ばれた気がして
一日の始まりとはなんだろうか。 それは朝日を浴びて目を覚ますところから? それとも顔を洗って服を着替えてから?
きっとどれも正しいはずの選択肢。 でも朝と言えば――――『おかわりーー!』―――朝食である。 朝だからこそできることであり、朝の食事だから“朝食”
パン派、ご飯派、ゼリー派など。 様々な派閥が見られる中で、彼らが手に取るのは『おかわりーーー!!』―――茶碗。
白く、柔く、ホッカホカ……噛みほぐすと、ほんのりにじみ出てくる薄い甘みがこれまた『おかわりーー!!!』――おいしく。 何度食べても飽きが来ない、そんな食事の主役たちが『おかわりー!!!!』…………絶賛活躍中である。
「…………」
「…………いまので何杯目の“おかわり”だ?」
「茶碗で2回……どんぶりで6回目……だっけ?」
「「………はぁ~~」」
そんな中であきれる声がいくつか。 『ソレ』に向かってジト目となっている恭也と、質問に答えながらその視線を追っていく美由希。
あらためて目の前の珍事を確認すると、高町家の若い衆ツートップはそろって眉間を押さえていた。
「……すんごい食べっぷりだなぁこれは。 あれだけの料理がこの子のいったいどこにはいってくんだ……」
「あはは……やっぱりおなかの中じゃないかな?………たぶん」
重ねられていく皿の山、それが双子から三つ子になっていく様を見ることしかできない士郎となのは。 父子は製作途中にある皿の山を見上げ――軽く感嘆する。
どう見たって小学生の……一般成人男性の腹にだって収まろうはずもないその摂取量……いいや、吸引量は既に高町家の冷蔵庫に痛烈なダメージを与えていたりもする。 『もうでねえっす! あとは氷ぐらいしか出せねえっす!!』なんて声が冷蔵庫から上がるのも最早時間の問題。
「んぐっんぐっ!―――ん~~ふへぇー!! ももほーおぼをうぃーー!!」
「はーいはい! ちょっとまっててねぇ~~」
「んぼーーーーーい!!」
高町さんちの人数――5人。 ただいま、その家族の三日分の食料が底をつこうとしていた。
「……なぁ美由希?」
「なに? 恭ちゃん」
「いま、悟空が何言ったかわかったか?」
「ん~ぜんぜん」
「…………『かーさん』ってすごいんだな」
「「「うん」」」
右手に箸を、左手にどんぶりを。 それを持つのは山吹色の道着に、両腕につけた青のリストバンド、そしてご機嫌にふわふわとゆられている茶色い尻尾が特徴的な少年。 孫悟空は“そこ”にいる。
そんな悟空と桃子の不可思議なやり取りは、高町家全員に改めて母の偉大さを再認識させるには十分で。
平穏な……とても平穏な朝を迎えては、その周囲のヒトたちを巻き込んでは大騒ぎ…とはいかないまでも、やはり全員笑顔。
いまだに打ち鳴らされている食事の音……食器に景気よく叩かれる箸の音はいまだ止まず、それは食事が終わらないことを意味し。
「……いかん、なんだか見てるこっちが胃もたれしてきた」
「うん……いつも通りに食べたはずなのに、満腹感が尋常じゃない―――うっぷ……」
「わたしも……あんまりごはん食べてないのに胸焼けっぽいかも」
3兄妹に深刻なダメージを負わせるには十分であった。
悟空が食器をドラミングが如く打ち鳴らす中、朝のさわやかな時間帯はドンドン浪費されていく。 気付けば数十分が経っていただろうか、しかしそんなことも気付かぬままに居た3兄妹のうち、末っ子であるなのははそれを見る。
「あ、あれ……?」
短針が7~8のあいだを差そうかというリビングの時計、そして自分たちが家を出なければならない時刻は7時40分過ぎ。 特になのはは送迎バスがあるために、遅刻はご法度……そんな少女の表情は―――
「―――――っ!! ぁぁああああ!!」
一気に青ざめていく。
「むぐっ! ん~ん~……ぐふっ!んふっ! なっ、なのはおめぇ。 急に叫んでどうしちまったんだよ?! オラぁ食いモンが詰まっておっちんじまうとこだったぞぉ」
「あっ、ご、ごめんなさい……じゃなくって――時計! もう行く時間だよ!!」
「あっ!! ほんとだ、もうこんな時間!? 大変―――お母さん」
叫ぶ声とむせる声。 そこから始まる喧噪は普段では考えられない理由からくるもの。 喧噪の原因たる少年は、切っ掛けたる少女の声にむっせっ返すもなんとかそれを切り抜け。
今度はなのはたち学生諸君が、遅刻という名の危機的状況を脱するために行動を開始する。
「はいはい。 これ、お弁当ね」
「「ありがと―――いってきまーす」」
「気を付けていってくるのよ~~」
「「はぁーい!」」
時間にしてわずか30秒。 あらかじめ準備ができていたとはいえ、ここまで機敏に動けたのはひとえに火事場の馬鹿力のせいか……
始まった騒動に置いてきぼりを喰らい、ポツンという単語を打ち鳴らしている悟空をしり目に、桃子から弁当を受け取るや颯爽と玄関を駆け抜けていく女子二人。 彼女たちはいま、自分の限界に向かって通学路を激走していったのである。
「ふぃ~~食った食ったぁ~~」
食事が終わり高町姉妹がそれぞれ学校に行った後、リビングにはソファーに腰を掛けている士郎と、片付けを終え、洗濯物を干そうとしている桃子に加え、結局あの後もガッツリと食事を堪能し腹を風船のようにふくらませるまでに至った悟空が、士郎の横でテレビを見ていた。
「さて悟空君、改めていろいろと聞きたいことがあるのだけどいいかい?」
「ん? オラに聞きてぇこと? なんだ?」
そこで唐突に、しかし至って慎重に話を切り出した士郎、だがやはり何を聞けばいいのか戸惑い一瞬の沈黙。 そして顎に手を持っていくとわざとらしく咳払いをしつつ、悟空に目線を合わせ第一の質問を発する。
「まず、悟空君が居たところかな? いままでキミはどこに住んでいたんだい?」
それはとりあえず無難な質問。
「オラか?オラぁ最初は『パオズ山』ってとこに住んでたんだ」
「「パオズ山?」」
まったく聞いたことのない山の名前に士郎と桃子は怪訝そうな顔をする。 やはりどこか秘境の地出身なのか、そう考えた士郎は一瞬だけ首を捻り。
「おうっそうだぞ! そこでじっちゃんと一緒に暮らしてたんだ」
「えっ!おじいさんとふたり?ほかにご家族の方は?」
じっちゃんと二人という言葉に驚いて―――
「ん? オラ家族いねぇぞ、オラが赤ん坊のころ山に捨てられてたのを、死んだじっちゃんが拾ってくれたんだってよ?」
「…………え?」
「あ…………」
―――続いて発せられた言葉に2人は凍り付く。
あまりにも軽い口調で発せられたその言葉は、しかしその内容はとてもじゃないがニコヤカに話せるものではないし、軽く相づちをうてるものでもなく。 こんな無邪気な子供にこれほどまでに―――さらにはそれ以上に重い十字架が背負わされているなんて、いったい誰が予想できようか……
ついには押し黙る2人。 けど―――
「ん? あ、そうだ。 そんなことよりさぁ、なのはたちどこ行っちまったんだ? 急に外に行っちまったけどよぉ……なんかあったんか?」
「……そんなことって」
「あ、えっと……」
悟空は、笑っていた。
ただそんだけだろ? 口にもしていないはずなのに聞こえてくるその言葉は、なんとも明るい色を乗せたもので。 その声を聞いた高町夫妻を前にしつつ、先ほどそろって出かけた高町姉妹の行方を気にしていた。
そんな『なんでもない』様子の悟空を見て、二人はお互いにパチクリ――次に互いに見やると、桃子はそっと動き出す。
「悟空くーん、ちょっとこっち来て~」
「……? どうかしたんか―――お、おわぁ~何すんだぁ……ははっ! くすぐってぇぞモモコ」
悟空を自分の膝の上に座らせ、微笑みながら頭を撫で始め
「…………よし!」
それを見た士郎は意を決したように声を上げると
「悟空君、今日から君はうちの子だ!!」
そう高らかに告げたのであった。 かねてからの思案通り、この不思議なくらいに気にかかる子を自身の家で引き取る―――それを実行に移すことがようやくできた士郎はいよいよもって意気込みを強くし。
「……ふふ♪」
悟空をぬいぐるみのように抱きかかえた桃子は、そのつんつんと自由に伸ばされた悟空の黒い髪をそよそよと撫でつつ、士郎にそっと笑いかける。
それは夫の発言に対する肯定とも取れる微笑み。 納得いかないことなど何もない、そういわんばかりにただ……「あのよ?」
「「―――え?」」
しかし、そんな“締め”に入りつつある会話に、一石を投じる声がひとつ。 その声の主は、いまだに桃子の膝の上で仔猫か仔犬のように抱えられた少年。
真ん丸に据えられた黒い瞳で、ただまっすぐに士郎を見つめるそのすがたは、本当に見た目相応の“コドモ”に見える。
「えっと……悟空くん? どうしたの?」
「あ~~と。 やっぱりイヤだったかい?」
無垢な瞳に気圧されて……まさにその言葉が似合う表情をする大人二人。 少々強引だったか――そんな思考が脳裏によぎり。
「ここに住むのも別にいいんだけどよ? でもオラさぁ、ずっとここにいるってわけにもいかねんだ。 さっき言ったろ? オラ3年後の天下一武道会に向けて神さまんとこで修業しなくちゃなんねぇって」
「…………あ」
「そういえば…………」
一気に引き戻される。 せっかく“止めて”“引く”ような演出で終わりそうだった話もここで一旦停止。
悟空の現在の目的……それを完全に失念していた夫婦はそろって間抜けな声を上げる。 恭也との試合ですっかり飛んで行ってしまったその話。 魔王が~~神様が~~というトンでも話なのであるが、悟空が言うとえらく信憑性があるのはやはり、既にこの少年の特異性を感じ取れているからであろうか。
だからと言って、目の前の問題が解決するとも限らないのだが……
「ん~~だからよ? オラ、もう少ししたら神さまんとこに行かねえと…ここに住むんなら、そうだなぁ…3年経ったらだな!」
「そ、そっか~~あっはっは。 それはそれは―――」
「あなた、ありえないくらい棒読みになってるわよ。 ん~でも残念ねぇ、せっかくなのはと同い年のかわいい男の子が出来たと思ったのに」
残念…そう言いながら、自身の頬に手のひらを持っていく桃子。 もう片方の手でそっと悟空のあたまを一回だけ撫でては、名残惜しそうにその手を引く。
一方、桃子に抱えられたままの悟空は士郎に向かって『にっ!』っとひと笑い。 ゆらりと尻尾を振ると右手で後頭部を掻きだし。
「ははっ! わりぃな」
「あ~まぁ、その、こっちこそ勝手に盛り上がって…悪かったね」
「……あなた」
にこやかに伝えられる謝罪の言葉。 3年後……確かにそういった彼の言葉を胸にしまいこむと、申し訳なさそうに笑っていた士郎の
「―――いよっと」
「あら……」
それを見た悟空は桃子の膝から跳ねる。 悟空はウサギのような仕草でそこから飛び降りるとリビングの入り口まで歩いていく。
勝手も知らない家だが、玄関までなら何となくわかる。 もうすぐ出口、そこまで歩くといったん振り返り、その黒く輝く瞳を士郎に向ける。
「行くのかい?」
「おう! めし、あんがとな」
「……そうか」
たったのそれだけの挨拶。 できれば年が近いであろうなのはが帰ってくるまでは居てほしかった士郎だが、それでも悟空を引き止めることができないのは…
「…………お?」
「……(強い目だ、こんな歳の子がこれほどまでに迷いのない目をするなんて……余程の事があったんだろう……)」
悟空の『つよさ』を感じ取ったから。
その揺るぎなき想いを秘めたる黒い瞳は、士郎の口からそれ以上の言葉を出すことを躊躇わせ、押し黙らせる。
きっと誰にも想像つかないであろう。 この純朴な“少年”に生み出された激しい怒気を、吐き出された怨嗟の声を。 失くした友と師の仇を取りたい、ただそれだけの思いから成された文字通り“必死”な決心を――
「んじゃ、またな!」
「あ、あぁ…」
「気を付けるのよ」
「おう! 気ぃ付けていってくる。 シロウにモモコも元気でな」
そう、今はまだわからない。
それを|理解する≪わかる≫ために、また今度会おう。 一度は家族と誘ったその少年の背中を、士郎と桃子はそっと―――「あっ! そうだ――」
「「え?」」
見送ることもできず。
「なぁシロウ?」
「え? なんだい、悟空君」
「あのよ? こっから“カリン塔”ってどっちに行けばいいんだ?」
「「か、かりんとう…?」」
ここでまたしても巻き起こるひとつの難題。 悟空から投げられた聞きなれない単語は士郎と桃子の首を傾げさせ、その脳裏にとてつもなく甘い茶色の駄菓子を連想させていく。
「そだ、カリン塔だ。 すんげぇ高い塔でよ? その上に神さまの神殿があるんだ。」
「たかい……とう……あ! 『塔』か! え? でもそんな塔なんてあったっけかな…? 昔仕事でいろいろ外国とかに飛び回ってたけど、あったっけかなぁそういう名前の塔って」
悟空の拙い説明に、ようやく会話の受け答えが正常になっていく。 しかしそれもほんの一瞬だけ、すぐさま自身の体験に基づく知識の数々を総動員しては悟空の言った『塔』についての情報を選りすぐんでいき……あたまを掻き始める。
「あ~うん、やっぱり聞いたことないなぁ。 悟空君、その塔には行ったことがあるんだよね?」
「ん? そうだけど、それがどうかしたんか?」
「なにか特徴とかってないかな? 天辺の形とか、どれくらいの高さとか」
そして始まる情報収集。 聞いたことはないが、それでもこの広い世界だ、どこかにそんな秘境がないとは決して言いきれない。 足を踏み入れることができない樹海に、絶えず雲に隠され衛星では確認できないetc.……そんな特殊な環境だってあってもおかしくはない―――筈である。
「え? “とくちょう”か?……ん~~とんでもなく高くってよ、オラでも最初によじ登ったときなんか、カリンさまがいるところまで丸1日かかったもんなぁ。 そんくれぇでけぇんだ」
「丸一日か……――っ!! って悟空君、いまキミよじ登るって言わなかったかい? まさかそんな塔の外壁を一日中引っ付いて登ったんじゃ」
「ん? そうだぞ。 というよりよ? あんなの、ひっつかまって登る以外に方法なんかなかったぞぉ。 ズルするとカリンさまに怒られちまうしなぁ」
「そう…なんだ…」
しかし出てきた情報はあまりにもあんまり。 階段…というより足場すらないという奇妙奇天烈な塔の存在は士郎を悩ませ。 おそらく恭也を圧倒して見せた、いまだに“底”というものを見せないこの少年ですらも1日かかって―――「まぁそのあとに登ったときはそんなにかかんなかった気がすんけどな」―――かかったらしいその塔の全容を、空想することすら出来ずにいた。
「ねぇ悟空くん? さっきから言ってる“カリンさま”って、その塔にいる人の名前かしら? いったいどんな人なの?」
「あ、そうだねぇ。 それは僕も気になるかな?(悟空君が“さま”付けするくらいなんだから、相当にすごい方なんだろう)」
「カリンさまか?」
「「……ゴクリ」」
話はいったん逸れる。 塔の主はどんな人? 行き成り大人である自分たちを呼び捨てにして見せた悟空が『さま』をつける人物。 きっとかなりの達人であり、人格者なのであろう。 同じ武道を嗜むものとしては知っておかねばならない。 そう思い、期待に胸をはせようとした士郎に、悟空はその“正体”を言い放つ。
「………………猫だ」
「「……………………へ?」」
「そういや、神さまはいたずらネコなんていってたっけかなぁ。 それでもすんげぇ強ぇんだぞ? オラなんか最初はどうやって壺を取ってやろうか必死だったもんなぁ」
「……そ、そうか(つぼ?)」
まさかの正体と、あまり要領を得ない詮索結果。 ここまで話してもらってなんだが、士郎のキャパを軽く超越し始めた奇想天外話はそろそろ切り上げたいところ。
でないと士郎の常識は完全に崩壊してしまうだろう。 逸れに逸れた会話の軌道を修正してみよう……士郎は右手を握り、口元に持っていくと咳払いをひとつ。 会話を最初に戻すことにする。
「とりあえず悟空君が教えてくれた塔は、たぶんこの辺……というよりこの国には無いはずだね。 どこか外国かと思うんだけど――」
塔の外観から今度は地理へ。 悟空がいた場所のおおよそを掴んでみようと行った質問は……
「がいこく? そういや“ここ”ってどこだ? 『西の都』じゃねえみてぇだし……あっそうだ! 西の都だ!! あそこのブルマんちにまで行ってみりゃいいだ。 なぁ! 西の都ってどっちだ?」
「「…………西の……みやこ?(もしかして……この子……)」」
この夫妻をダンダンと真実へと近づけていく。 聞いたことのない塔、これまた聞き覚えのない都市の名前。 尾の生えた少年を見る二人の目に変化はない…変化はないのだが。
「悟空君」
「どうかしたんか? シロウ」
「たぶん……なんだけどね?」
「……お?」
思いもよらないであろう。 まさかこのような事実だったとは……いや、あの龍を見た時から何となくそうなのではないかと思いはしたが。 恭也との一件でそんなことはすっ飛んでしまっていた士郎は、ここで『現実』を直視する。
士郎の心境は……大きく変化する。
「“ここ”は……悟空君が居たところとは別の世界なのかもしれない」
「……え? あなた?」
ほのぼのムードが瓦解する。 気付いた真実はたったのそれだけなのに……しかしそれはとてもじゃないが自分達にはどうしようがない問題。 どうしたって解決できそうにない問題を前に、高町夫妻の表情は徐々に暗くなってゆき。
問題の当人である少年……孫悟空は当然――
「ん~~?」
…………よくわかってなかった。
首をひねりつつ、しっぽもくねらせながらも眉を八の字に……どう見たって宿題がわからない小学生みたいなその仕草は。
「オラよくわかんねぇぞぉ」
「あ……はは……は」
「ご、悟空くん……」
案外すぐに終わってしまう。 かなりの大問題を前に、これまたかなりの他人事な態度。
「ん~、とにかく“ここ”がオラが知ってるとこじゃねぇってことだろ? だったら――」
しかしそれは……
「いろんなとこ見てって、探しゃいいんだろ? だったら別にどおってことねえぞ。 オラよく探し物してさ、いろんなとこ飛んでったかんな。 なんとかなるさ!」
「あ………あぁ(まったく、この子は……何も考えてないっていうか)」
「……ふふ(前向き……というか)」
俯くことをしない、それは少年のいいところ。 そんな少年のありざまに夫婦は若干呆れの声を上げつつも。
「「…………(とにかく前に進んでいく……か……)」」
関心、そしてなにか言葉では言い表せれない感情がこみ上げてくる。 まるで心が暖められていくその感情は、けれどそれに振り回されずに士郎は最後の質問をする。
「悟空君。 キミはこれからどうするんだい? おそらくだけど、どこをどう探しても……というより子供だけではどうしても、もの探しは限界があるはずだよ」
人間ひとりができる限界などたかが知れている。 どう足掻いてもできないものは出来ない、情報収集に路銀の調達、そして極めつけは移動手段。
自動車もなしでは、県道に出るのも一苦労だろう。 それにもちろん素性の知れない彼はこの国から出ることすら出来やしない……それを本当にこの子はわかっているのかと、まるで問いただすようにややキツイ口調で言い放つ士郎。
「出来れば僕たちも協力してあげたいけど、さすがにできないことの方が―――「大ぇ丈夫だぞ」―――え?」
「言ったじゃねぇか、オラ探し物は得意なんだぞ? ボール集めよりもむずかしいかもしんねェけどさ。 なんとかなるさあ! それにやってもみねぇうちからあきらめたくねぇしよ」
それでも、悟空の考えは何一つ変わらない。 なんとかなる……根拠のないその言葉は、しかしなぜか自身に満ち足りているように見えるのは、士郎たちの目の錯覚だろうか。
「そんじゃあ、さっそく行ってみっかぁ!」
「あ! 悟空君!! 行くって―――すこし待ちなさい!」
「悟空くん……」
右手を『ぐっ!!』と握りこんだ悟空は、すかさず玄関へとまっしぐら。 後から聞こえてくる士郎の声に気付かないまま、その扉を引くと晴天の青空が悟空を見下ろしてくる。
すでに朝の渋滞の時間帯を過ぎたころであろう、門前の道には人っ子一人として歩いている物はなく、当然ながら人の目はない。 悟空自身は特に気にはしないのだが、自然と『あれ』を呼ぶには絶好のタイミングである。
「来てくれっかなぁ…………すぅ――――」
「悟空く――」
「あ、あな……た?」
息を吸う。 大きくおおきく膨らませた肺には、精一杯の声を轟かせるための空気が充てんされていく。
両手の平を口元に持っていく。 山びこを響かせるようなその仕草は、これから起こることを士郎と桃子におおよその見当をつかせ、悟空を追いかける二人の足は自然とその歩みを止めていた。
悟空から発せられる空気の吸われる音が止む。 そこから一瞬の間、悟空たちを囲むまわりの音が消え―――― 一気に爆発する。
「筋斗雲やーーーーい!!」
「「―――!!」」
振るえる空気に揺れる木々たち、木の葉が舞っては風に乗り、小さな池の水面は静寂さを失う。 小さな背に反比例するかのごとく発せられた声は、大空に響き彼方へと届く。
「…………ん~~来ねぇ。 どうしちまったんだ?」
「「??」」
しかし、『あれ』はやってこない。 徐々に不安そうな顔を見せる悟空、彼にしては珍しく、けれど“つい最近”失ってしまったばかりだからであろう。 その感情は何ら不思議なことでは――「あ!! 来た――!!!」―――だがそれは、杞憂となって霧散していくのである。
「なにかしら、黄色い……雲?」
「――!! あ、あれは!?」
「え……あなた?」
霧散した不安とは裏腹に、突如生まれる驚愕の声。 士郎は見る、広い青空に映る黄色い点。 それはつい先ほど自身と自身の息子が『あの子』とともに出会ったもの。 グングン迫ってくるそれに、士郎の手にはいつの間にか汗が握られていた。
そんな士郎の心境も知らず、悟空は小さく飛び跳ね……
「筋斗雲! ははっ“久しぶり”だから来てくんねぇかと思ったぞ――あはは! やめろって、くすぐってぇよ」
歓喜の声を上げる。 自身の発した言葉に何の疑問を持つことはない、間違ってはないが矛盾のあるそれは、悟空がわからなければこの場にいる誰もわからない。
しかし今はこの再会を祝福しよう。 そういわんばかりに筋斗雲は、悟空に身を寄せ、引っ付き、もぞもぞ動く。
「悟空……君、それは……いったい」
「ん? 筋斗雲っていってよ、オラのともだちなんだ」
「悟空くんの…ともだち…?」
「そだ」
「「………はあ~~」」
ふたりの戯れをながめる夫婦に言葉はない。 まさに常識外と呼べる悟空と雲のやり取りの、しかしあまりにも心が暖められるその光景に視線を奪われ、近づくことを憚らせる。
雲が言葉など喋ろうはずもない、それでもきちんと意思の疎通ができるあたりはさすが悟空と言ったところか。 そんなこんなを過ごすうち、なのはたちが家を出てから既に1時間以上が経った。
「筋斗雲も来てくれたことだし、これならカリン塔まであっちゅうまだぞ」
「あ、いや悟空君そうじゃなくって。 そもそも――」
屈み、伸び、跳ね、飛び乗る。 黄色に飛び乗った山吹色は、茶色い尻尾を振りながら士郎に手を向け。
「んじゃ、行ってくる!」
「…………悟空君」
挨拶をひとつ。 どう考えてもうまくいきっこない、そしてそれでも行こうとする少年を強く止められない自分に若干の苛立ちと焦りを募らせる男の横で、桃子は手を振りかえし。
「気を付けていってくるのよ!」
「――え?」
見送る。 ―――なぜ!? 士郎がそんな目をしたのも一瞬。 その目は桃子を見た瞬間に、一気に落ち着いて見せる。
ただただ微笑んだその表情は“母”のもの。 そこから発せられる優しい空気は悟空まで漂っていき――――それと同時に桃子は、対悟空必殺兵器を使用する。
「もしその『塔』が見つからなかったら、ちゃんとお夕飯までには帰ってくるのよ? 悟空くんが食べたいものを用意しといてあげるからね♪」
「ホントか!? 来るくる!! オラちゃんと帰ってくっぞ!!!」
「あらら」
母の籠絡にすぐさま気持ちが傾く悟空。 朝めしうまかったもんなぁ~~などと漏らしながらもその口元はだらしなくよだれが垂れている。
そんな二人の会話を見て、うつむく男が一人。
「こんなことで引き止められるなんて……恭也の言った通りだ。 かーさんはすごい」
何をいまさら――そんなツッコミが来ることはないが、まさにそんな言葉を脳裏によぎらせては、先ほどまで決意の塊に見えていた少年を見る。
迷いがなく一直線、そうだ確かに迷いがない。 だから|進路変更≪よりみち≫をすることになんら迷いがない……自分の様な立場のものがこの子のように振る舞っていたら、きっと周囲はほとほと困ってしまう、この子の将来はおそらく女房泣かせになるのであろうか。
「………いかん(ちょっと思考がずれたかな?)」
「晩飯はいつにすんだ? オラそれまでには絶対かえってくっからさ」
「えっとねぇ、だいたい7時過ぎくらいになるかもね? 何しろ悟空くんが満足するものを作るんだからそれくらい――」
「わかった! 7時だな。 んじゃとりあえず100キロぐれぇ見てきたらまた戻ってくっぞ」
「あらあら、随分と長い旅ねぇそんなに遠くに行って帰ってこれるの?」
「大ぇ丈夫だ。 筋斗雲はすっげぇ速ぇから、そんぐれえの距離ならあっという間だぞ」
既に当初の目的を見失いつつある悟空と、勝手に思考をずらしていく士郎。 一方で、そんな悟空の手綱さばきをマスターしつつある桃子は終始笑顔。 ここまで純朴な子は本当に珍しいかもね……なんてつぶやきながらも、筋斗雲に乗ったまま近づいてくる悟空のあたまを撫でている。
「ん~ほんと……すごい」
それを見ている士郎は、たった一言だけつぶやくのであった。
「「いってらっしゃーい!」」
「おう、いってくる! いっけー筋斗雲ーー!!」
ついに動き出した物語。 筋斗雲の背に乗り、浮上し、大空へと翔けてゆく。 その背には紅の棒を、右手の“センサー”は今回はないけど、探し物が違うから別にかまわない。
とりあえず上に、そして今度は太陽を背にして、とりあえずそのまま筋斗雲で飛行機雲を造っていく。
「行ってしまったか……なんだかいろいろと振り回された感がすごいけど」
「目的地、見つかってほしい?」
「え? …………それは」
見上げる夫婦。 士郎は背を曲げ、若干疲れた顔を見せ、そんな士郎に桃子はちょっと意地悪な質問をする。
普通ならわかりきった、けれど――どこかそうあってほしくない矛盾。 士郎は右手で頭をかくと、取りあえず自身の心境だけを伝える。
「あの子が無事なら、なんでもいいかな」
「……そう」
それは、心から吐き出された一つの思いであった。
「いやっほーう!」
高町の家を出てから、およそ5分が過ぎた頃。 悟空を乗せた筋斗雲は最高速度の半分もない速さ……時速200キロをマークする勢いで青空を飛行していた。
「よっほー」
空を翔け、雲を突き破り
「きゃっ!」
「な、なんだいいまの!?」
「いやっほーい!!」
黒い服を着た少女とオレンジの髪の女性を追い抜いて、悟空は晴天の下を疾走する。
「あり? いまなんかぶつかったような……ま、いっか!」
細かいことを気にしないのも彼のいいところである。 呆然とするその者たちを追い抜いて、上空700から2000メートルを行ったり来たりしつつ、悟空はこの町を見下ろしていた。
「やっぱりシロウの言った通りだ。 オラが居たところとも、西の都なんかとも違う……山の近くに海があるし、建物なんかも結構ちげぇ……のかな?」
眼下の町、『海鳴』というこの町は非常に稀有な作りをしている。 町は山に囲まれつつも、その一辺は海に面し、気温はやや温暖傾向。
寒さが苦手な悟空にとってはなんともありがたく、そびえる山々はまるで悟空の到来を歓迎するかのように揺れ動き、輝いて見える。
「でもおっかしいよなぁ、たしかに神さまんとこで飯食ってたと思ったんだけどなぁ―――ん?」
そのなかで飛行を継続する悟空。 思い出すのはここに来るまでの記憶に出来事の一部、どこもおかしいことはないし変なところもない。 筋斗雲はともかく、如意棒が手元にある理由と矛盾に思い至らないのは、ひとえに彼の人柄からくる単純さのせいだからか。
ちょっとだけ首をひねり、眉をやや八の字にしつつも……
「…………ん?」
悟空の耳に……正確には頭の中に、誰かの声が響いてくる。
いたいよぉ―――――すけて…………だれかぁ
「―――!? だ、だれだ!? どこに居んだ!!?」
あたりを見渡すも、周囲は青い空だけ。
「どこだ? なんかとっても辛そうだぞ……いまにも死んじまいそうな声だ。 おーい! どこにいんだーー!!」
筋斗雲を呼ぶときよりも大きく張り上げられた声に、帰ってくるものはない。 あまりにも弱々しい声も今は聞こえない。
気のせい……にしては置けないのは、ついこの前起こった重大な出来事のせいであろう。 友が殺されたときの虫の知らせに、今の状況はあまりにも似通っていて。
「…………ん、あっちか!」
あのときの光景を
「間に合ってくれよ!」
振り切るように
「クリリンみてぇなことには……させねぇかんな、まってろよ!!」
悟空は筋斗雲を走らせる。
少し離れた森の中、人気のあまりにもないこの地に悟空はたどり着く。 確証があるわけでもないし、絶対にここにいるとか言われれば首を縦には振らないであろう。 だがそれでもここに来たのは。
「こっちからだ、こっちから血のにおいがする」
悟空の超絶的な嗅覚をもってしての技のため。 決して感などではないそれは、しかし猟犬並に優れたそれは、悟空にこの道を示すのである。
「おーい! ここに居んだろー! 居るんなら返事してくれよーー!!」
木々をすり抜け、小川を飛び越え、筋斗雲に乗った悟空はドンドン奥に突き進んでいく。 徐々に濃くなる血の匂い、それに比例するかのように流れる悟空の汗。 彼は珍しく焦れていた。
「こういう時………こういうとき……」
こういう時■■■■が使えれば―――言葉にならない単語が悟空の脳裏に一瞬だけよぎるも、霞のように消えてしまう。
ナニカタイセツナコトを忘れている、そんな不安を抱えている暇など今の悟空には無い。 彼はただ、助けを呼ぶ声に向かって翔けるだけである。
「…………キュウ」
「あ!? なんか聞こえた! ど、どこだ!?」
「キュウ……」
「どこだ……どこだ……」
またも聞こえた声に急速反転。 足元の茂みに向かって筋斗雲から飛び降りると、悟空は草の根を分けていく。 たどってきた匂いが一気に強いものとなり、ここに探し人がいることを断定付させていく。
そして、それはそこにいた。
「きゅ、キュウ……」
「あ! いた!! ひでぇケガだ……待ってろ! オラがなんとかしてやるからな!」
傷つき、倒れ、うずくまっているものが居た。 淡い黄色の毛に包まれたそれは悟空の片腕ぐらいの大きさであろうか。
「たしか怪我した時に使う薬草は……じっちゃん何て言ったっけかなぁ。 ん~~いそがねぇと」
「キュウ……」
擦り傷と打撲、さらに血を流してる箇所が見受けられるそれは……イタチ。 振るえ、冷たくなっていこうとするそれを、悟空はそっと抱きかかえ。
「筋斗雲に乗ってもうしばらく頑張ってくれ。 えっと、やくそう……やくそう……」
あたたかな黄色い雲に乗せる。 そして一目散に林の奥に駆けていく悟空、形を思い出せない彼は別の手段であたりの野草を“視て”回る。
「スンスン……これじゃねぇ……うげぇ! こりゃ毒草だ。 ん~~こっちは……ぺっぺ! 苦っげぇ!!」
嗅いではむせて、なめてみては吐き出す。 シンプルながらも難しく、さらに危険が付きまとう方法だが今はこれしかない。 そして……
「こ、これだ! まちげぇねぇ!! じっちゃんが言ってた奴とそっくりだ!」
見事に見つけ出す。 捜索時間にしておよそ5分であろうか、知らない土地でこうも早く見つけ出した悟空はすかさず筋斗雲のいるところまでまっしぐら。
とび乗り、上昇し、そして飛んでいく。
「えっとぉ水があるところは……あ! 川だ、あそこがいいや!」
道着の懐に潜ませた小動物の震えが止まっている。 それは悟空のぬくもりのためだろうか、だがそれでも危険な状態なのは変わらないそれに、悟空は急いで処置を施そうとする。
「これをこうして……水かけて……すりつぶして……このこの! はやくはやく!!」
適当な石に薬草を乗せ、水を数滴染み込ませ、その上から手のひら大の石で押し付け、すりつぶし、ペースト状に仕立てていく。
出来上がったそれをこれまた適当な大きさの葉っぱに塗りたくると、それをイタチに巻いていく。 このとき、汚れを落とすことも忘れない。
「ふぅ~、これでなんとかなるはずだぞぉ。 にしてもなんでこんな怪我したんだ? この辺にでっかいイノシシでもいんのかなぁ」
「…………」
処置が効いてきたのか、はたまた助けられた安心感か、すやすやと寝息を立てていくイタチ。 それを見た悟空は額に浮き出た汗をリストバンドでひと拭い、眠っているイタチを筋斗雲に乗せると……
「あれから結構時間が経ったんかなぁ? オラ腹減ったぞぉ」
目の前の川をながめる。 じゅるりと口からこぼれる雫をふき取ると、道着を脱いでいく。 帯を解き、ズボンを下ろして、上着を脱ぎ、トランクスを蹴っ飛ばし。
「それーー!」
あたりに衣服を散乱させながら、“狩り”の態勢に入っていく悟空は川に向かってダイビングを敢行する。
「とったぞーーー!!」
川魚を捕獲、お約束を披露、火をたく、調理、いただきます!! 取りあえず移動、近隣の林を通過。 眠くなってきた―――そんなこんなで時間は…………数時間経過する。
「―――は!? ここは……」
そのものは目を覚ます。 暗い淵に居たと思っていたのに、いつの間にかあたたかいナニカに包まれては心地よい眠りについていたことに驚愕する。
ここはどこ? 自分は確かあの怪物に……それはあたりを見渡していた。
「なにこれ? すごいフカフカして……あれ? あそこにいるの……だれ?」
「むにゃむにゃ、んが~~」
いまだ状況がつかめない『それ』は筋斗雲から飛び降りる。 若干名残惜しそうに見えるのはあまりにも乗り心地が良かったからであろうか……
その甘い誘惑を振り払って、自身の状態を再確認する。
「たしかボクは結構なケガをして…………でいられないからとりあえず―――になって。 あれ? この葉っぱ薬草かな? とってもぶきっちょだけど手当されてる……この人がやってくれたのかな?」
「ん~~ははっ! オラそんなには食えねぇぞぉ……いただきます……んん」
「起こしたほうがいいのかな……お礼もしたいし、それにここがどこかも知りたい。 どうしよう」
あたふたし始めるそれは、大の字で寝っころがる悟空の前を右往左往。 ゆかいな寝言を披露する彼を起こすべきか立ち去るべきかを悩みに悩みぬき。
「――!! 誰か来る! ど、どうしよう……」
人の気配が近づいてきて、彼は若干パニックになる。 頼れそうな人はいないし、下手に行動して“自身の事”を知られたら大変なことになる……またも湧き上がってきてしまった問題に、彼は悟空を見てとっさの行動に出る。
「か、隠れよう。 ――――あわわ、こっちに来た!? はやくはやく――とりあえずこの人の懐に入って」
物陰に隠れることもできたろうに……咄嗟すぎるその行動は仕方がないと言えば仕方なし。 とりあえず声の主たちが去ってくれるのを待とうと、彼は悟空の道着の中に身を潜める。
「にゃはは、それでその子お兄ちゃんに――」
「え!? 恭也さんと試合してたの? わたしたちとそんなに変わらない歳なんだよね?」
「なのはのお兄さんって結構な達人なんでしょ? うちのSPなんかじゃ歯が立たないくらいって忍さんが言ってたと思ったんだけど……ホントなの?」
「ん~~わたしも終わったくらいに少しだけ覗いただけだからよくわかんないけど。 お兄ちゃん、ほっぺたから血を流してたかも……」
「「……うそ、あの恭也さんが?」」
声が近づいてくる。 3人くらいだろうか、歳にして10歳にも満たないであろう女の子が林を通り抜けようとしていた。
「…………(よかった、おとなしそうな子達で。 お願いだからこのまま通り過ぎ――)」
『それ』が小さくうずくまり、祈りを唱えようかというところ。 彼女たちは……
「あれ?」
「どうしたの?なのはちゃん」
「あそこ、誰か倒れてる」
「「え!?」」
悟空を見て、近づいてくる。
「………!(こっちに来た!? ど、どうしよう。 もう逃げれないよ……)」
焦るものと、寝息を立てる者。 もぞもぞ動くこともやめ、ただひたすら置物の様に硬直するソレ。 傷は大分癒えたようで、なかなか元気なそれは内心ビクビクしながら、この激流のような展開に身を投じた。
「あれ? この子……この子だよ! さっき話した子!!」
「え? この子が……? でもなんでこんなところで倒れ―――「ん~~もう食えねぇぞ……おかわりい!!」―――えっと……眠ってるの?」
「ていうより、いまどきこんな寝言を言うやつがいるなんて。 あたしはそっちの方が驚きよ」
「…………(え? このひとと知り合い!? まずい、何が不味いのがよくわかんないくらいにまずい! ど、どうしよう……)」
聞こえてくる会話を必死に聞き届ける小動物は焦る。 このままでは見つかってしまう、別にそれでもいいかもしれないけれど、できれば他者との不用意な接触は避けたかった彼は悩む。
「…………(いっそのこと、このまま見つかってしまおうか――でも)」
悩む、下手に接触を持ってしまい、危険に近づけてしまうことを彼は何よりも恐れる。 こんな平和な日常を生きる彼女達を果たして―――「んん? なんだよさわがしいなぁ……」―――其の迷いは。
「あ、おきた? えっと……悟空…くん?」
「ん? なんだおめぇ……」
目と目が合う、重いまぶたを擦って少女を見上げる少年が一人。 ぷっくりと不自然に膨らんだ自身の道着に気付かずに、少女に向かって声を上げる。
「あ! おめぇは!!」
「うん――」
2度目の邂逅。 お互いにあたたかな微笑みでそれを向えると、一転。 悟空は不思議そうな顔をして、少女を見つめたまま首をひねる――そして
「だれだっけ?」
「「「だぁ!!」」」
お約束である。 あんまりな出来事にズッコケる少女達。 感動の対面は? 不思議な雰囲気は? 何となく甘い雰囲気になると予想していた少女たちの考えを、真っ向からたたき折る悟空の天然に少女たちはそれぞれ地に伏せる。
「なのは! なのはだよ!」
「なのは? ん? ………ああ! さっき道場にいた奴か! なんでおめぇここにいんだ?」
「それはこっちが聞きたいんだけど。 ねぇ悟空くん、どうしてこんなとこで寝てたの? 家でお留守番してたんじゃ……」
「留守番……?」
ひとり起き上がるなのははすかさず悟空に訂正を求め、ここにいる理由を聞く。 学校に行っている間に、悟空は家で留守番をしている……などと勝手に思い込んでいた彼女は、あたまに疑問符をひとつこさえる。
それは悟空も一緒、留守番と言われた悟空も首を傾げてなのはを見る。 一向に進まない会話は、金髪の少女のしびれを切らせることとなる。
「あんたはここで何してたのよ? こんなとこで昼寝するために出かけたの?」
「オラか? オラ、カリン塔を探してたんだ。 でもよ、なっかなか見つかんなくてよ……」
優雅にひるがえるは腰まで届くブロンドの髪。 それを片手で掻きわけると、そのままその手を悟空に向けて、一気に言い放つ。
何となくどこぞの天才わがまま娘にも似たその言いざまに、しかし悟空の返答のおかげで伸ばした人差し指は、力なく折れ曲がる。
「「カリントウ?」」
「なにあんた、お菓子でも探してたの?」
「お菓子? オラそんなもん探してなんかねぇ!!」
「「「…………えっと」」」
そしてこの状況を余計にややこしくさせ、数時間前に士郎たちが行った勘違いをするなのはたち。 それでもお構いなく立ち上がろうとした悟空に、なのはは疑問の声を上げた。
「あれ? 悟空くん、おなかのあたりが膨らんでるけど……どうしたの?」
「――――ぎく!!」
「ん? なんだこれ……あ! そうだ、すっかり忘れてた」
「「「???」」」
それは不自然に膨れた腹部、正確には道着の帯の真上くらいにこさえたへんな膨らみ。 それが気になる3人と、さっきまでの必死さが嘘のような態度の悟空。
すっかり―――などと言っている彼の様子から。 よほどどうでもいい事などではと高をくくっていた彼女たちは。
「ほれぇ! こいつすっげぇ酷いケガだったんだ。 もう少しで死んじまうとこだったんだぞ」
「「「え!! なにそれ!?」」」
『それ』をみて、驚愕する。
緑の葉っぱに包まれたそれは、悟空の手の上でぐったりしている小動物。 しなやかで長い胴体をもち、なおかつそれに反比例するかのような短いあんよを持つ、黄土色の毛に包まれたもの――その名は
「かわいい……もしかしてフェレットさん?」
「すごい、わたし初めて見たかも」
「でも怪我してるじゃない、もしかしてアンタが手当てしたの?」
イタチである。 なのはが言うように、フェレットにも見えなくもないそれは、悟空の手のひらの上でぐったりしている。
「ん? なんだおめぇ、ずいぶん元気がねぇなぁ」
「…………(ダメだった、抵抗する隙すらなかった……どうしよう)」
それを見つめる4人の視線。 本来動物は観察されるのを嫌い、そのときのストレスのせいで、寿命を減らすものも少なくないらしい。
まぁ、この小動物に限ってはまた別の理由でストレスを受けてはいるのだが……
「悟空くん、この仔どうしたの?」
「ん? おらコイツに呼ばれたんだ」
「「「よばれた……?」」」
「そだぞ、最初はどこにいるかわかんなかったけどよ、コイツの血の匂いを辿ってったら見つけたんだ」
「…………キュッ!?(このひと……もしかして)」
悟空の簡単な説明に驚く4人。 動物に呼ばれた、などと本気で言いのける悟空に、けれどなぜかバカにできないのは、悟空があまりにもまっすぐに言い放ったからだろうか。
両手で持ち上げたイタチを見上げながらも、のびのびと自身の尻尾をふるう悟空。 ピコピコと動くそれは彼のご機嫌さをうかがわせる。
「あ、あんた……」
「ん? どうかしたんか?」
「えっと……悟空…くん? もし間違ってたらごめんなさい。 その…あのね?」
「……? なんだよ、言いたいことがあんならはっきり言えよ」
そんなご機嫌な悟空に一石を投じるアリサ。 彼女ともう一人、緩いウェーブがかかった青紫の長髪を揺らしている女の子、月村すずかの二人は呆然とする。
突如として目を丸くし、悟空の発言に疑問を呈したアリサもただ黙るのみ。 その視線は悟空のでん部に釘付けとなっている………そう、彼が動かしている『しっぽ』に指さし。
「それ、なに?」
そう発するので精一杯であった。 震える指、かすれる声、しかしなぜか恐怖はない。 ただ目の前のそれに吸い込まれるような感覚が二人を支配する。
そんな中で、悟空となのははいたって普通……若干なのはも硬直ぎみだが、アリサやすずかに比べれば、幾分かはマシなので割愛しよう。
とにもかくにも呆然自失な二人に、悟空はあっさりと返答する。
「なんだよ、見てわかんねぇのか?」
「えっと、よくわかるから聞いてるんだけど。 ねぇ? すずか」
「うん、悟空くんのそれって……ほんもの?」
「ホンモノも何もなぁ、生えてんだからそうなんだろ? 変な奴らだなぁ」
「「変って……アンタ(あなた)には言われたくないわよ(ですよ)!!」」
「え? そうか? ん~~そっかぁ」
「にゃはは…は…」
「キュ……」
その答え、その素振り、あまりにも軽くあっけないそれに頭を抱えながらも悟空を中心に集まった者たち。 いつの間に“のほほん”とした雰囲気になりつつあるその場で、二人ほど悟空に対して普通じゃない視線を向ける者がいた。
「………(しっぽ……あとでおねぇちゃんに聞いてみなくちゃ)」
「キュウ……(ボクの声が聞こえた?……このひと、もしかして――)」
それは正体を疑う眼差し。 でも、誰にも気づかれずに悟空を射抜くそれはアリサとなのは、そして……
「……ん……まぁ、いっか」
悟空には……悟られることはなかった。
今だに正体の知れない物同士、少女と少年達の物語は……まだ始まらない。
皆が笑い、微笑む中、同じく笑っているはずの悟空……しかし彼はいまだに
“眠っている”最中である………来るべきときは、まだ来ない。
悟空「おっす! オラ悟空!!」
なのは「悟空くん、すごくあっさり行くんだね……これからわたしたちがすっごく悩むことを……」
悟空「なんだよ、どうかしたんか? そんな暗ぇ声なんかだしてよ?」
なのは「だって悟空くん、しっぽのことをあんなあっさり――」
悟空「え? そのことか? しかたねぇじゃねぇか、あるもんはあるんだからよ。 それよか次の話だぞ」
なのは「え! もうこんな時間!? 2度も遅刻なんてできないよ~~次回! 魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~第4話」
悟空「イタチの恩返し」
???「お願いします、お礼もします。 だから『コレ』を!!」
悟空「なぁ? こんな玉っころでオラに何しろっていうんだ?」
なのは「え? 悟空くん!? それって――――」
アリサ「また見なさいよ」
すずか「アリサちゃん! そんな言い方……えっと、また見てください。 ばいば~い」