だが、彼女は――エイミィ以上の天才が居ればどうだろうか?
今回の話は中身のないギャグ回だと思ってください。
不必要なパロも入ってますのであしからず。 評判悪ければ今後はパロネタはDBないだけにとどめるつもりっす。
では、37話です。
それは、孫悟空がデートから帰還して30時間たった頃であろうか。
「……ん?」
唐突に小首を捻って見せた彼はどこか遠くを見つめていた。 それを横目で見て、尋常じゃないと感じたフェレット姿のユーノは彼の足、膝、肩と登って頭の上に乗っかり揺さぶる。
「悟空さん、どうかしたんですか?」
「んん……なんか変なんだよなぁ」
「へん? なにがですか?」
「んーー」
腕を組み、しっぽをフリ、嫌でも周りにわかるくらいに象るポーズは、彼が本気で悩んでいるから。 ついに動いた眉が上下の運動を3往復する頃であろう。 悟空は、今度はいきなり立ち上がる。
「あわわ」
「よっと」
「悟空さん?」
「ちぃとよ、このままいくぞ」
「はい?」
人差し指と中指を立てた右手、その例のポーズを見たユーノは半ば条件反射で悟空のツンツンあたまの一角をちいさな“おてて”で握り、決してはぐれないようにと目をつむり……――――
彼らは、この世界から瞬間移動していくのであった。
「悟空君、ユーノくん、お茶菓子が……あれ?」
台所から出てくる、エプロン装備の桃子を置いて行って。
PM12時 ミッドチルダ一室。
「相変わらず不可思議な物よねぇ……硬そうでいて柔らかさがあって、天然ゴムくらいの硬度かしら?」
白い機械の部屋に数人の男女がいた。 それらは様々な色の髪を流して、たった一つの石ころを転がし、弄んでいる。 そう、彼等の手に余るそれは、確かに“もてあそばれている”と言えようか。
男女の内の一人、ミントグリーンの女がそれを持つ。 今まで防護ようの封印と刻まれたケースに入れられたのは、彼女達が独自にロストロギア級と指定した、いまだこの世界の住人ほとんどに存在を隠され、無いモノとされているモノ……
「ドラゴンボール……ねぇ。 ゴクウが言うには“イーシンチュウ”ってヤツらしいけど、こんなもんでホントに何でも願いがかなう龍っていうのがあらわれるもんなのかねぇ」
龍球……その名を口にするはオレンジの髪を持つ女性。 身長はおおよそ160センチ後半の女性にしては高身長。 すらりと伸びた背と、鍛えられ、均整な身体は彼女の職業を即座に連想させる。
――
それが彼女の役割であり、彼の最強戦士たちと同じ立ち位置でもある。 そんな彼女の背後には誰もいない、いないはずなのに……
「それが出てくんだよな」
「へぇ……いったいどんなもんなんだい」
「こう、ひげが生えててよ、とてつもなくデカいんだぞ? そりゃもう大猿になったサイヤ人以上にな」
「はぁ……あの大猿以上に大きいねぇ」
「そうだ」
なぜか成立する会話。 どんどん弾んでいくそれに、女性……アルフの背後から伸びるふさふさのシッポは大振りに振られていく。 いかにも気分いいですよぉ~なんて、耳を垂れる姿も、彼からすれば微笑を禁じ得ない幼子の姿に映るだろう。
「……」
「お?」
後ろを向き。
「にぃ!」
「……は」
片眉あげて……総毛立つ!!
「~~~~ッ!!? ゴ、ゴクウ!!」
「オッス! ”このあいだ”はあんがとな、いろいろ助かった」
『!!?』
アルフが叫び飛び跳ねる最中、やっと気づいた周囲もざわめきを解き放つ。 いつ、どこに! セキュリティーは!? 散々苦労して構築した防御壁も彼の前では襖(ふすま)程度の一枚戸に変わりない。 冗談ではない事態に、これを作り上げたエイミィは『へなり』と尻餅をついてしまっていた。
「相変わらずの神出鬼没っぷり……アンタ、もうなんでもありか!」
「まぁまぁ、オラだって驚かしたくてこうしたわけじゃねぇンだぞ? ただ、気になることがあってさ」
「?」
山吹色の道着が揺れ動く。 同時、彼が向かうのは赤い一番星の龍球、一星球である。 持ち上げ、見渡し、明かりに掲げる。
「悟空君?」
「孫くん?」
「あいついったい何を」
その姿がわからないと、彼に呼びかける声がいくつか。 この部屋にいる数名……アルフを最初に、リンディ、プレシア、クロノ、そして既に喋ることをやめたエイミィの四人が、この部屋で内緒話をしていたのである。
それを、聞くために来た彼ではないのだが……
「やっぱそうだ」
……ないのだが、ここで一つ、彼には話さなければいけないことが出来てしまったのである。
「どうかしたの?」
「実はな」
切り出したのはリンディ。 いつも通りの難しい顔で向き直る姿はさっそくの仕事モードだ。 揺れる前髪を治す仕草は、なんとも大人の雰囲気を醸し出している。
「オラ今、ここにいるみんなの気を探ってきたんじゃねぇんだ」
「……どういうことかしら」
その顔は、より一層鋭さを増していた。
「オラの瞬間移動が、場所じゃなくって人を思い浮かべんのは言ったよな」
「えぇ」
「そうなの!?」
「あ、そういやアルフには大まかにしか言ってなかったか。 まぁ、そこらへんはいいんだけど、今回は知らない不思議な気……それが付いたり消えたりして気になったから飛んでみたんだ」
『ついたり消えたり?』
「あぁ」
事ここに至っても見えない悟空の言いたいこと。 それがどうかしたのかと、耳を垂れるアルフは尻尾もたれる。 それは皆も同じであろう、悟空に向かって疑問の視線を飛ばすこと30秒。
「たぶん、オラいまここにある一星球を辿って瞬間移動できたんだと思う」
『なんだって!?』
「??」
悟空の声に、オオカミ以外が叫びをあげる。
「悟空さん! もしかして悟空さんはドラゴンボールのある位置がわかるんですか!?」
「……あぁ、そういうことか……なんだって!!」
「アルフ、おめぇおせぇぞ」
あたまの上にいる小動物にうなずき、驚くオオカミに頭をかく悟空は大きく笑う。 そんな彼に、いまだに声を掛けない人物は顎をさすって視線を流す。 冷たく鋭く、冬の河川のように冷静なそれは、目の前の宝を我慢するトレジャーハンターのようである。
「孫くん」
「……どした」
「もしかして、ほかのドラゴンボールの位置もわかったりするの?」
『――!?』
「…………」
彼女はやはり、かなり冷静だった。 今ある宝よりも、これから手に入る財宝を……そう、心で誓うかのように先を読む彼女は既に老練の域に入ったのであろう。 それがわからないリンディではなく、彼女の発言にそろって首を縦に振る。
……そんな彼女たちに。
「はは! それがよ?」
『……?』
「これがさっぱりなんだ! いやー参った」
『あらら――』
悟空は足元すくって転げさせてみせる。 片腕を後頭部に持っていった彼の、なんと明るい笑顔だろう。 完全にお手上げと、開き直った彼は底抜けの笑い声で誤魔化していく。
「まぁ、そんなに都合のいい展開は求めていなかったわ。 こんな極上のロストロギアがホイホイと――」
見つかるわけが、プレシアとリンディは頭を抱えようと恰好もよろしく佇もうとしていた。 のだが。
「ドラゴンレーダーがあれば半日でさがせるのによぉ……ちくしょう、困ったなぁ」
『……ふぅ』
彼の言葉に、既に疲れの色を見せ始めていた。
「どうしましょう。 今の声は流しておくべきだと思いますか、プレシアさん」
「そうした方がいいと言いたいところだけど、一応触れておくべきだと思うわリンディさん」
「なんだおめぇたち、こそこそと内緒話か?」
『えぇ、お気になさらず』
「そっか」
いきなりの現実逃避は心の安らぎを求めたモノ。 なんと都合のいいものが存在するのだろうと、漏らした声の後に襲い来る焦燥感。 そして……
「ねぇ、孫くん」
「どした」
「そのレーダーって……誰が作ったの?」
「ドラゴンレーダーか? あれはブルマが……いくつだっけかなぁ、オラが12のころだから多分、14、5の時に作ったって言ってたっけか」
「…………そう」
迫りくるのは己がプライドを傷つけられたプレシアの、深い溜息。
「この何の変哲もない水晶を判別する道具を……そう」
「お、おい?」
「たった15、6の生娘風情に作れて……ええ」
「プレシアさん?」
わなわなと振るえていくはプレシアの白衣。 纏うそれを宙に浮かせて、紫のドレスへと魔力変換した彼女は即座に研究者の顔となる。 彼女の、闘いの時が訪れる。
「仮にも大魔導師と名乗ったこの私に作れないのは――――頭に来るわね」
「あぁ……あの人に変なスイッチが入ってしまった」
「オラ、しーらねっと――うぉ!?」
逃げる者は許さない!! 忍び足でその場から消えようとしていた悟空の青い帯が強引に引っ張られる。 解ける方向ではなく締め付けられる感覚に悟空は一気に肺から空気を吐き出させられる。 苦しいと、愚痴る隙すらないままに……
「教えなさい、その装置!」
「お、……おう」
『……南無』
猛る女に紫のバインドで身を拘束され、それでもまだ逆らおうという気が起きない今日の悟空は、そのまま熱い眼をした彼女の言いなりになり、皆が両手を合わせる中で昔を思い出していくのであった。
「形はどういうの?」
「丸っこくてよ、手の平に……」
その風景が、どうしてだろう。
「ボタンはひとつしかないの……へぇ、なかなかシンプルなのね」
「そんで押すたびにさがしてくれる範囲が――」
とても彼女が楽しそうにしているのは……
「大体の範囲をカバーできて、尚且つこのボールが持つ独特の性質をキャッチできる……うーん」
「……オラ帰ってもいいか?」
「食事は用意してあげるから食べていきなさい。 もう少し聞きたいことがあるの」
「え、……お、おぉ」
困っているように見えて、戦時中の悟空のような笑みを浮かべているのは……
「……どうだ、出来そうか?」
「そうねぇ、もうあと一個くらいサンプルが欲しいところだわ」
「そっか……ん」
「アイツ、あんな顔もできるんだ」
「アルフさん?」
「あ、あ~~いや、つい数週間前だったら絶対にしない顔だったから。 なんだか見てていい気分になって来るっていうか……ゴクウみたいなんだ」
「……そうね」
きっと、やはり、間違いなく、気のせいではなかっただろう。 まるで日めくりの様に過ぎていく彼女たちの時間。
「いってきまーす……――――」
「いきなり出かけるってゴクウ……どこ行ったの?」
「さぁ?」
その間の事件後検証もコソコソと裏から手をまわしてやり過ごし、悟空が“ただのサイヤ系地球人”という説明を繰り返すこと3回、日数にして10日が経過した頃であろう。
「はぁ……出来ない」
「……ダメそうかい?」
「あぁ、アルフ。 そうね、孫くんが言っていた装置を作ったという娘はとてつもない天才よ。 とてもじゃないけどわたしにはこのボールを探すどころか、判別する機械を作ることすらできないでしょう」
「そっか……」
睡眠時間のほとんどを削った女が、あまり見ない組み合わせで部屋の中でため息をついていた。 足りない、なにか、自分には出来なかった発想があるはずだと、己の専門分野の狭さを呪うかのような彼女。
それを、持ってきたブラックコーヒーを差し入れながらに手渡すのはアルフ。 何となく機械の画面を見た彼女は、そのまま耳を傾けると――……
「ゴクウ?」
「お、最近反応が早くなったな。 瞬間移動に慣れてきたんか?」
「そんなもんになれるわけないだろうに、で? どうしたんだい」
風を切る音に、あいつが帰ってきたと振り向いた。 その姿が毎回早くなることを、別の意味で喜ぶ悟空は平常運転であろう。 さて、ここで悟空の手荷物があるのだが、それはちいさな袋がひとつだけという、激励にしてはやけにおとなしい装備であった。
「……どこに行ってたの? 御嬢さんの所かしら」
「それもあっけど……実はな」
『?』
どうしてか、悟空の顔が嬉しそうに見えたのは。 彼の持つ小さな袋、革製で紐でくくられた、一辺50センチ程度のそれは、プレシアに近づいたときであろう……
「え? なんだいそれ……光った?」
「こっちのイーシンチュウも光った……もしかしてあなたの……?」
「にしし」
いたずら小僧参上! 彼の衣服を見たリンディだけは何となく思いつく。 煤汚れに泥汚れ、なぜかところどころ汚い彼の姿はまるで探検家。 それが、そのことが意味することなど――ただ一つ。
「偶然、こっから何回か瞬間移動して見つけた世界にあった火山のふもとに転がってたんだ。 まさか地球上じゃなくって、『世界中』にあるってのはおでれぇたけど、何とか見つけてきたんだ」
「……はい?」
「はは、『ほしみっつです!』――ってやつだな」
『……お!?』
三ツ星の輝きが皆の視線を奪った。 その光は赤で、包む色はオレンジ、彼が携えた土産はもう、言わずとも知れた天下の秘宝である。
「三星球ゲットーー!」
「なんっ」
「です――」
「てええええええ!!」
「……あら」
掲げた右手に光る石。 三個目のドラゴンボールたるそれが、あるべき主のもとに還ってきていた。 淡く光るオレンジは、暗い研究室をほんのりと染め上げる。 その色が、どうにも気に食わなかったのだろう。
「なによ、自分一人で見つけられるんじゃない」
「……あ」
驚くクロノのその後ろで、プレシアが一人黄昏の風を吹かせていた。 見る者の目をそらさせるかのようなそれは、あまりにも色の無い瞳と相まって、言い知れぬ迫力を醸し出す……なかで。
「そんじゃ、これ置いておくからな」
「……はい?」
悟空は、何事もなく彼女に近づいていく。 机の上に置いたのは三星球、それがきらりと輝くと、先ほどまでの光りが急速に失われていく。 まるで、悟空がその場から離れると同時にも見えたのは気のせいか否か……だが、それを気にすることは誰にもできず。
「あなた、何してるの?」
「なにって、おめぇが言ったんだろ?」
「わたしが――」
「はう?!」
わからないと、眼光益々鋭いプレシアはどうしてか背後にプラズマを浮きただ寄せる。 それに触れてしまったクロノは既に喋らないのだが、母親のリンディですら気に留めていない。 それほどに、今のプレシアの姿が恐ろしくて――
「なにを……」
「もう一個あればって、おめぇが言ったんだろ? 四星球はじっちゃんの形見だからな、手元に置いておきたかったし、だから見つけてきたんだぞ」
「あぁ、そういう事。 悟空君、それで偶にいなくなったり……」
「……え?」
「んじゃ、後は任せた。 オラやることあっから行くな!」
危うく見えたから。 いつかのように無理をしているのでは、そう考えていたのは何もリンディだけではなかった……かもしれない。 悟空は、呆気にとられているプレシアの前に三星球を置いたまま、その部屋から出ていく。 まるで、後を託す先人のように。
「あの子……バカねぇ。 これじゃ目的と手段が逆じゃない」
「そういう子みたいですね、彼。 実は結構難しかったんだと思います、いたるところが汚れていたし」
「まるであの子みたいに探してきて……こっちはもう、返せるのが何もないのに」
「彼がもし見返りを要求するなら――きっと」
去る彼を誰も追わない。 キザッたらしいこの演出も、彼がやるからこそその匂いを醸し出さない。 その姿に“我が子”を重ね、見てしまったプレシアはそっぽを向く。 誰にも、今の顔を見られたくないから。
そんな彼女達が思い浮かべる悟空の言葉、シルエットだけが出てきて、動く口元を声を出してなぞっていくと自然、同じ言葉がリンディとプレシアから出されていた。
『つまんねぇ顔しねぇでわらってりゃあそれでいい……か』
……と。
子供みたいな青年の笑顔を幻視しながら、今日も研究室から雷光が鳴り響く。 試しては失敗して、それでも次へと挑戦をやめない。
「失敗が苛立ちにならないなんて……何年ぶりかしら、こんな感覚」
プレシアを少し、童心へと返す今月最後の週末であった。 時は、それからさらに10日ほど巻き上げられる。
高町家――リビング。
数日前、カレンダーを一枚切り捨てました。 桜の花びらが散ってしまい、緑色の芽が開く前のこの時期は、空気がジメジメし始めてなんだか嫌な気分。 こういう日は思いっきり遊ぶのがいいんですけど。
「はぁ……なんでいつもわたしだけ知らないんだろう」
心の中には二つの顔。 あったかい笑顔の悟空くんと、『あの時』初めて知った氷のように冷たいあのひと……今まで、もちろんこのあいだのデートの時にも時々思い出していたあのひとは……なんでかわたしの心を引きつけてました。
「こわいから? ああいう目をされたのは初めてだったから? ……でも、どうしても気になっちゃった」
全身が傷だらけでも、わたしの事を気にかけて、声をかけて、引っ張り上げてくれたその人の名前は聞けなくて、もちろん知らなかったのでした――このあいだまでは。
「とってもきれいな目をしてたなぁ……緑色で、外国人さんみたいに整った感じで……はぁ」
思い描いているのはあの金髪のお兄さん――だった人。 今はもう、その人はいません、え? 死んじゃった? ……それは誤解で、実はその人は今……
――――今日は帰らねぇ、メシはどっかで適当に済ませてくるからな。
「こんな置手紙だけ書いてどこ行っちゃったの? ……もう、怒ってないから」
この世界には、もしかしたらいないのかもしれません。
「4月のころみたいに突然いなくなっちゃうよりはいいかもしれないけど、これじゃみんな心配しちゃうよ。 悟空くんのバカ」
昨日あったちょっとしたケンカが原因で、悟空くんがいなくなっちゃった。 少なくともこの時のわたしはそう思っていたし、事態はそれほどにも重いモノだと思っていなかったのです。 ……あの子が来るまでは。
「ごめんくださーい」
「え? この声」
均整にそろったきれいな声。 静かで、それでいて強さって言うのを感じるこの声は、最近お友達になった……
「フェイトちゃん!?」
「はぁ、はぁ」
「どうしたの? 息、とっても乱れてるけど」
「――んく」
「あ、今お水持ってくるね」
えっと、お水よりお茶かな? あんまり火は使わないでって言われてるし、ポットのお湯でもいいよね。 確か茶葉が食器棚の一番下に……上だっけ?
「いいんだ――」
「……ほぇ?」
「それよりも……悟空、悟空はいない…よね…?」
「え、えっと」
いないよね? どういう事かな、それじゃなんだかここに悟空くんがいないって解ってるみたいな……どうしたんだろ?
「悟空が……悟空が……」
「悟空くん?」
「悟空がいないの!!」
「――え?」
……うん、ここにもいないけど。
「そうじゃないの!」
「ふぇ、フェイトちゃん落ち着いて。 何がどうなってるのかわたし、よくわかんないよ」
「あ、ごめん……」
これはどうにもとんでもない事態の様です。 悟空くんがフラッといなくなっちゃうのはいつもの事だけど、こんなふうにフェイトちゃんが動揺するのは見たことが無い。 いつも冷静沈着で、ターレスってひとと戦った時も心強かったこの子がこうも慌てるんだもん、きっと恐ろしいことが――
「悟空ね、今日がハンバーグだって知ってるはずなのに、晩御飯はいらないって言って飛び出したの。 もしかしてこっちでもっとおいしいモノが出るからとも思ったんだけど、だったらそういうはずだし」
「……えっと」
「もしかしたらとんでもないことに巻き込まれたんじゃ――それをわたしたちに悟らせないように気を使って……悟空の手助けを――!」
「……あ、うん…………」
……どうしよう。 フェイトちゃんの将来の方がものすごく心配になってきちゃった。
「大丈夫だよ」
「どうして! 悟空が心配じゃないの!?」
「悟空くんはもう、お子様じゃないんだよ? むしろ、わたしたちよりもずっと大人のお兄さんだし……そんな気はしないけど」
「そうだよ! そうなんだよ……でも、やっぱり心配だよ」
……う~ん。 こういうのを過保護って言うのかな? あ、家中を行ったり来たりし始めた、どうしよう、金髪と相まってお母さんがいない『ひよこ』みたいに見えてきて……その……とってもほほえましいな。
「う~~」
「…にゃ…はは」
あーあ、ついにアタマかかえて唸りはじめちゃった。 どうしよう、ホントどうしよう……悟空くん助けてぇ。
「お邪魔する」
「……もう、次から次へと誰!」
「え? あ、すまない、こっちにフェイトが来たかと思ったのだが」
「……あれ?」
今度のお客様はほんの少しだけ年上の男の子、クロノくん。 少しだけ怒鳴っちゃったからかな、ほんの少しだけ目が丸いや……悪いことしちゃったかな。
「クロノ?」
「キミは……母親がこっちに内緒に来たときに一緒に帰ったと思ったらまたこれか。 どうやってこっちに来たんだ」
「……えへへ」
「笑ってごまかそうとするな、僕だって怒るときは怒るんだぞ。 ほら、悟空は放っておけば帰ってこれるし、心配ないはずだからさっさと帰ろう」
「でも……」
「……そんな子供をさらわれた親みたいな顔をするもんじゃない。 というより、年齢的には彼の方が保護者の立場だろうに」
「けど」
「仕方ない」
あ、え? クロノくんバリアジャケットを発動したの? フェイトちゃんの顔色が変わった――
「見逃してくれないなら……」
「アイツ直伝、魔力版太陽拳!」
「ま、眩し――」
なに!? いきなりクロノくんのデバイスが光って……眩しいよ、何にも見えない。
「さぁ、捕まえた。 さっさと行こう」
「バインド!? クロノ離して――」
「断る。 悟空のせいで感覚がくるってはいるが、本来ならこうやって管理外世界に行き来すること自体マズイんだ、頼むから引き返してくれ」
「む~~む~~」
「すまない、邪魔をした」
「は、はぁ……お気をつけて」
段々と見えてきたころには、若干変な縛り上げられ方をしたフェイトちゃんを、川で魚を取った悟空くんみたいな感じで持ち上げているクロノくんがいました。 あ、フェイトちゃん逆さにされちゃって頭に血が上ってる。 ……もう少し気を使ってあげてもいいんじゃないでしょうか……わたし達女の子なんですけど。
「……静かになっちゃった。 こういうの、なんか久しぶりかも」
もう、いなくなっちゃったふたりはどこかに行ってしまったんでしょうか? 消えてしまった騒ぐ声は、すぐそばから寂しさを連れてくるのです。 あぁ、こんなに静かな日はいつ以来だったかな……お父さんが外国で大怪我して、みんながお店の手伝いでいなくなって……そして一人で――……一人で?
「あれ、もう一人いたような……?」
なんだかこんがらがってきちゃった。 ちょっとだけ嫌な気分が消えたのは悩んだせいかな、気分転換しようと思って、窓の外を見上げて――――夜になるまで一日をつぶしていました。
暗くなった周囲の景色は、まるで嵐の前の静けさ? そんな物騒なことなんて起こらないから、もう少しだけ騒いでもいいよ、なんてちょっと詩人みたいかな?
そんなことを思いながら、ちょっとだけ夜空を見ようとした……そんな時でした。
「……」
「――ひっ!!」
「た、たすけ……て」
そこには、人の死体が在ったのです。
「死んでない……まだ、生きている……虫の息だが……」
「そ、そうですか……えぇっと」
プスプス聞こえる焦げ付いた音は、それほどに高温で焼かれたという証明なんだと思うけど……なんだろう、こんな焼かれ方を前にも見たような気がするんですけど……
「……」
「えっと」
「…………ふふ」
「お、おそようございます……は、はは」
まさかのラスボス登場で、心臓が飛び出るかと思いました。
「いきなり庭の外に現れないでくださいませんでしょうか、プレシアさん」
「ごめんなさい、御嬢さん――ふふ」
「う、薄く笑うのもなしの方向で……」
「……そう」
外にいた人は最強の魔女でした。 わたしが知る限り、悟空くんの次に強いかもしれないその人は――あぁ、そっか、クロノくんは焼かれたんじゃなくて、感電したんだ。 ……なにしたんだろ。
「あぁ、娘の邪魔をする悪い子には
「……そう、ですか」
フェイトちゃんがダメな子になるのって、この人のせいなんじゃないだろうか。 家庭環境が良好って意味ではいい事なんだけど……どういえばいいのかわかんないや。
「……とりあえず、ユーノを呼んで治療魔法を僕に……かけてくれればいいと……おもう」
「ごめん、いま特訓中でいないみたい」
「……けほっ」
あ、とどめだったかな? クロノくんが喋らなくなっちゃった。 ……ごめんなさい、これ以上はかける言葉が見つからないんです。 だから……
「心安らかに――」
「だから死んでないんだよ――くぽっ!?」
「……ふぅ、やっと静かになった」
「……プレシアさん」
いま、なんだかあの人の右足が高速でクロノくんの顎をかすめたような……どうしよう、ここで何か言ったら確実に――されるんだろうな……怖いからこのままにしよう、そうしよう。 酷いヒトだと思いますか? でも、命はひとつしかないんだよ、ごめんなさい。
「なんて、無理やりこじつけてみたり」
「……なに言ってるの? あなた」
「なんでもないです」
えっと、取りあえずなんでこういうことになったんだろう。 悟空くん関連だというのは後ろで涙目になってるフェイトちゃんを見ればわかるんだけど。 というよりどうして涙目? 事ここに至るまでどんな仕打ちが行われたの!?
「よく聞くセリフだけど……」
「はい?」
「あなたが想像できる限りの仕打ちを思い浮かべてみなさい」
「……えぇ~」
感電、火あぶり、絶食に断水に……何となく鞭打ちとか、あとはうーん……なぶりゴロ――
「そんなものは生暖かいエデンと同じよ」
「なにがあったんですかあああ!」
「こわいこわいこわいこわい……ぶるぶる」
「ほら! 変なことしたからフェイトちゃんにおかしなトラウマが!? ちょっと前のユーノくんみたいになっちゃいましたよ!」
「……あとでケアはするわ」
「なにをどうすればこれが治るんですか……」
そんな方法があるんだったら、ぜひとも各医療機関とかに教えてあげてください。 きっとその副参事的な効果で、今の医学界が20年は進歩するとおもうから……はぁ。
「さてと、つまらないモノを弄ってしまったからつい昔を……と、関係なかったわ。 そうねぇ、孫くんを探しているっていうのは聞いたわよね?」
「……悟空くんですか?」
「あら、何か複雑そうな顔ね? ケンカでもしたの?」
うく!? このひと、やっぱりとても鋭い……まるで顔に字でも書いてあるかのように心の中を言い当ててくるみたい。 で、でも今回はわたしは悪くないもん、悟空くんがわたしにだけいろんなことを話してくれなかったのがいけなくて……
「はぁ」
「?」
「……くわしく、教えてもらいましょうか? そんな泣きそうな顔をしてたんじゃ、話のしようがないわ」
「……あ」
わたし、そんな顔してたかな……ちょっとだけ顔を触れてみるけど、うむむ…わからない…
「とにかく彼が私たちの前から姿を消したのは間違いないわ。 ケンカにしろ気まぐれにしろ、理由がわからないのは気味が悪い。 さっさと見つけて足の甲でも踏んづけてあげないと気が済まないわ」
「……はい!」
ちょっと乱暴な言いかただけど、芯の通った強い言葉……かっこいいなぁ、大人になるんだったら、プレシアさんみたいな人になってみたいかも。
「……やめときなさい、こんな偏屈な女になってはいけないわ――あなたはあなたになるべきなんだから」
「……?」
言われた言葉の意味は分からないかったけど、それはきっといつか分かることなのかな? ……わかる日が来るべきなのかそうじゃないのかはわからないけど……わたしは、プレシアさんに言われたとおりに、昨日あった出来事を話してみることにしたのです。
――30分後。
なのはと母さんの話し合いは、案外長いモノになった。 途中、言葉を詰まらせたなのはに、母さんがおかしそうに笑うのはよくわからなかったけど、きっとよくない事ではないと思うから、あんまり問い詰めることはしないでおこう。 なのはにも、人に聞かれたくないことの1つや2つはあるはずだし。
「……なるほど。 つまりあなたは今まで、孫くんが超サイヤ人になることと、なった時の姿も知らず、あまつさえ、超化した彼が孫くんだと気付かずに憎からず思っていた……と」
「……はい」
「しかもそれを知ったら知ったで、こみ上げた恥ずかしさで彼から距離を置いてしまった」
「……うぅ」
「そしてそんなことは当然わからない彼に、問い詰められて」
「……」
「きっと顔を思いっきり近づけたんでしょうね。 それで恥ずかしさが頂点になったあなたは……そうねぇ……叩いた?」
「……突き飛ばしました」
「そう、まだ軽い方じゃない」
「けど」
「ふぅ……」
なんだか、まるでその場に居合わせたみたいに細かい状況を言い当てる母さん。 正直、この人の前では隠し事が出来ない気がする。 やっぱり悟空が言ってた通り、母さんはすごいや、なんだってわかっちゃうんだ。
「初々しいを通り越して幼稚園児のような……あぁ、ごめんなさい、あなたたちはまだそれくらいの年だったわよね、ふふ」
「あ、え、そ、そうですけど」
あ……いまとっても優しい顔をした。 こういうときの母さんはかなり真面目に謝ってる時だ……最近わかるようになってきたこのやさしい顔、うん、やっぱりわたしはこの顔が好きなんだなぁ。
「フェイト?」
「え? な、なんでもないよ?」
「……? まぁ、いいわ。 それよりも、これではっきりしたのが、今回の悟空君の失踪がなのはさん」
「はい」
「あなたにはあまり関係ないって事ね」
「あっとと――そ、そうなんですか?」
「えぇ、彼がその程度であなたから距離を置くくらいだったら、そもそもターレスとの最終決戦後には、断固として周囲を寄せ付けない人間になるわよ。 それくらい、あの子はそういうことに無頓着なのよ」
『??』
どういう意味なんだろう。 それって悟空がわたしたちがこれからは足手まといになるから近くに寄るなって言うかもしれなかったって事? ……言われてみればそうかもしれないけど、そうじゃないからなんで今回の件とは無関係なんだろう。
「そのうち判るわよ……えぇ、その内」
「??」
いま、もしかして心を読まれたの? 先読みばっかりするのは反則で、ずるくて……でも、不思議と嫌な感じはしないかな。 どうしてかはまだわからないけど。
「えぇと、孫くんの行方……この中で思い当たる節がある子はいる?」
「……」
……ごめんなさい、分らないです。
「そう、手掛かりなし……ね。 まったくあの子、こんなかわいい女の子たちを放りだしてどこへと消えたのやら」
「かわいい」
「おんなのこ」
かあさん、そんなこと言ってないで……えっと、言わないで早く悟空がどこに行ったのか……あの?
「ん……わたし、どうしてこんなに彼を頑張って探してるのかしら」
『??』
「そのうち帰って来るとは思うけど……まぁ、退屈だし……それにアレも見てもらいたいし」
「あの……」
「え? あぁごめんなさい、こっちの話よ」
「はぁ」
急に寂しそうな顔で床を見て、そしてどこか遠くを見た母さんは、今までに見たこともないくらいな涼しい顔をしていました。 それがなんなのか、まだ子供のわたしにはわかるわけないんだろうな。 大人になったら、今の母さんの思いがわかるようになるのかな……おとな、かぁ。
「二人はどうしたい?」
「心配だし、すぐに会いに行きたい」
「……うん」
ゆっくりだけどなのはも後に続いてくれた。 なのはがついててくれるなら心強いいし、気持ちに迷いも出ない。 一緒に言ってくれるのは、ホントにうれしい。
「そう、なら、いきましょうか」
『え?』
「位置までは知らないわよ。 けど、ここ最近彼が瞬間移動していたという場所は聞いていたから、そこからあの子の気まぐれから性格までを計算して割り出した世界があるの」
「……すごいですね、そんなことができるんですか」
「さすがかあさん」
そういう計算――というより、悟空の気まぐれを計算式に組み込める母さんってどんだけなんだろう。 ああいうのって既に確立変動の域……つまり神の領域だからとらえようが無いと思うんだけど。
「ふふ、昔とった杵柄(きねづか)というやつよ。 こういう未知の世界を往く研究はお手の物――なのよ」
『はぁ……』
そうなんだ。 でも、これで何とか悟空への手掛かりが――
「さて、あの子がいるであろう世界は予測でも58か所」
「……ん?」
「そのすべてを探すんだから相当のモノよ、覚悟なさい」
「……ごじゅうはち?」
……うん、そうだよね、所詮予測は予測だし、次元世界を行き来できる悟空を追うのにむしろそれだけの数に絞れたこと自体褒められるべきだよね……この地球と同じ大きさの世界を時速100キロでぐるりと回ってもおおよそで400時間。 さらに縦横無尽に探して……無理だよね、どう考えても。
ちょっとだけ、うつむいたのはなのはも同じ。 だけど、答えはきっと同じだと思うんだ。 ……ほら――いくよ、なのは。
「帰ってくるのを待つ?」
『行きます!』
「いいでしょう、では――行きましょう」
……よかった、気持ちは同じだったんだ。 これで、一緒に探せる。 一緒に……
「まずはそうねぇ、適当に管理外世界に行きましょう。 修業好きが高じたかはわからないけど、厳しい環境を選ぶところがあるから」
「……え?」
「場所は見てからのお楽しみなんでしょうけど、そのあとに気にいったら何回か出入りするみたいよ」
「そうなんだ」
「でも気を付けて、この星で言うところの“ジュラ紀”と何ら変わりないところだから」
『……』
いま、なんとおっしゃいましたか。 じゅら? ジュラ? それって白亜とかの親戚みたいな――じゃなくって、ジュラ紀!?
「いっくわよぉ」
「ま――」
「またない」
「すこしだけ――」
「そんな時間も与えない……では、出発」
「後生ですからあああ―――― 」
――――そうしてわたしたちは、特に意図せずこの世界から消えたのです。 その先が、とてつもない道だとも知りもしないで。
獣の遠吠えが天を裂く。 いま、そこまで上り詰めてやるからと、強靭な血肉を持ち、あまつさえ、それすらもむさぼるほどの貪欲さを弄ぶ動植物が跋扈(ばっこ)した世界。 その中心から遥か遠く。 小さな河川に、この世界には不釣り合いなほどに小さな生物が居た。
「へっへ、なかなかスムーズにできるようになったかな?」
「ボクが何となく言ったことだけど、こうも迷わず実行するなんて……」
「なに言ってんだユーノ。 おめぇのその何となくが、オラの……なんて言うんかなぁ、闘志ってヤツに火をつけたんだぜ?」
「……はは」
それは男だった、それは少年だった。 親と子みたいな身長差のふたりは、しかし、あまりにも近しい物言いで語り合うのはまるで親友のよう。 彼らは、そんなことも気にせずに河川から水を汲んでいく。
「おめぇ随分手慣れてんのな、いままで山とかで暮らしてたんか?」
「え、まぁ、発掘の現場で、資材が乏しいときなんかは割と日常茶飯事でしたから、こういうのは結構……」
「ふぅん、そっか」
「はい」
ほんのりと浮かべる暗い顔は、さしもの悟空にですらこの話がマズイものだと感じ取らせる。 ここまで空気が読めるようになったよと、あの世とこの世の狭間で釜湯の管理をしている方が聞いたら感涙は禁じ得ないだろう。
さて、つまらない話はここまでと、悟空が何気なく手に取った小石を弄び始める。
「にしても、おめぇ師匠の才能とかあんじゃねぇのか? 結構、オラに足りてないっていうか、気付かなかったことを的確に言うもんなぁ」
「そ、そんな。 ボクはただ、思ったことを言っただけですよ」
「それでも――っよ」
「あ、すごい……38連続」
そうして投げた石は河川を昇り、滝を切る。 天まで届かんと、怪異の叫び声と共にあがる水しぶきは、その周辺を狐の嫁入りで潤わせていく。
「なるなって言われた超サイヤ人で、まさか成って修業しろだなんて、今までのオラじゃ見つけらんなかった筈だぞ? たぶん、このまま基礎力だけを上げて、地道にのんびりと修行してたかもしんねぇ」
「ど、どうも……恐縮です……あ」
嬉しそうなのは自分の修行の変化が面白かったから? わからないそれは、それでもユーノは彼の役に立てたからと優しく、うれしく笑っている。 その彼を、少年を見下ろす悟空はそっと、彼の頭を撫でていく。
「サンキュウな、ユーノ」
「……はい!」
日が昇ったかのような笑顔は、まさに悟空とうり二つ。 父子の様でいて対等な友人関係を築いていた彼らの関係はどうにも口では言えないモノであろう。 さて、少年をひと撫でした悟空は少し距離を取る。
「今日の成果の再確認だな。 これをもう少しぎこちなさを抜けばいい感じに『壁』に近づいて行けると思う」
「……」
「行くぞ!」
「うく――!?」
そうして彼は――“この世界”で何度目かの修行を開始する。
「はああああああああああああああああ――――――」
「ま、まず……『通常状態』の超サイヤ人ですね」
「くっ、くうう――」
「ご、悟空さん!?」
「大丈夫だ、気の大体を修行で消費してるだけで、ケガとかはねぇ」
「……」
「そして“次”……だ」
立ち上がる気の奔流、逆立つ髪に、塗り替えられる緑色の視界。 彼の持つ力の色が、最強の金色に染め上げられるとき……世界は、更なる恐怖に身を振るえ上げさせる。
「っ――!! はああああああああああああああああああああ」
「 !? 」
彼はいま、周辺の空気を震わせる。 上げる猛る声はそのまま武器になり、周りの岩石を粉砕していく。 河川は逆流し、うねる空は雲を切り裂いていく。 その光景に、理性無き獣たちはなにを思い悟ったのだろう、小さき争いをかなぐり捨てて、安息を求め巣に帰っていく。
「はああああああああ―――――だああああああああ――ッガあああああああああ」
そんな彼等を、凍えさせるかのように上げられる世界の断末魔。 それを聞き遂げることが出来た大地が感じたのは……異質の変化を遂げた重量。
「…………ギギ――ぐぅう」
逆立った髪の鋭さを増し、筋肉のすべてを肥大化させ、抑えきれない闘気を周囲へ放出していく。 確実に異質さを増した彼の超化、それは既に今までの発動時とは一線を越えるモノへとなっていた。
剛腕を誇る金色の戦士がそこに生まれるのであった。
「……! ぐ、ぐぐ――」
「30秒経過」
しかしそれはいまだ未完成。 さらにもうやめてくれと、近場の自然が叫び声を上げる中、ユーノは空中に出したウィンドウで何かを測っている。 それに視線をほんの少し向けた悟空は、そのまま気合を込め続け……
「悟空さん! 1分経ちました!」
「ああああああああぁぁぁぁ――――ふぅ」
「新記録ですよ!」
「へ、へへ……やっとこさ1分かぁ。 たったのそんだけで相当参っちまってんなぁ」
出された叫び声に、ふらりとよろめく彼は大地に背を預ける。 バタリと言う音と共に巻き上げられた石つぶての雨が降りしきる中、悟空は昼の空に手をかざす。
「いやぁ、やっぱりそう簡単にはユーノが言う“壁”ってのにはたどり着かねェみてぇだな」
「そうなんですか? 今のも十分にすごかったと思いますけど――もしかして今以上を狙ってるんですか!?」
「……まぁな」
「…………はは」
ある意味で笑いを禁じ得ないこの言葉に、思わず息すら飲んだユーノはその場にへたり込む。 どこまでも貪欲な、彼の戦闘思想に目がくらみ、足が震えたのはここだけの秘密。 彼は、少年は少しだけ空を見る。
「そんなに、強いんですか?」
「……たぶんな」
そこから出た声は、今までの穏やかさをかなぐり捨てた悲壮なもの。 どうしてそんな声とは悟空は聞かず、ただ、聞かれたことだけを淡々と答えていく。
「前に言っただろ? 未来から来たっていうやつの話。 実はそいつも、オラと同じ超サイヤ人になれんだ」
「!?」
「そして実力的にはそん色ねぇ……たぶんな。 腕試し程度だけど、実際にやりあってわかった。 あいつは、決して弱くはねぇ」
「……」
「そんなアイツが手も足も出せないって言ってたんだ、きっととんでもねぇパワーを持ったバケモンなんだと思う……」
その淡々さに、次第に熱が入るのはユーノにもわかる。 彼は今、ほんの少しながら『興奮』しているのだ。
「……けどな」
不謹慎な話、皆が、そしてあのベジータがやられたというその敵を考えると――腕が鳴るのが彼なのだから。
「それ聞いて、ものすげぇ楽しみになっちまうんだ、――困ったもんだよなぁ」
「……そうです……ね」
だから、そんな無茶ばかりを求める彼に、ユーノは心で叫びだすのを抑える。
「悟空さん」
「ん?」
「あ、あの。 悟空さん、このまま――」
「?」
このまま……なにを言い出すのかと分らないのはユーノもそうであった。 不意に上げた声も、表情と一緒でとても暗い。 何を言おうとしたんだと、落ち込むことすら出来ないで、彼は出そうとした言葉を……
「いえ、何でもないです」
引っ込める。
「なぁ、ユーノ」
「はい?」
「“今日”ってまだ終わんねぇのかな」
「……あ、まだみたいですね。 向こうは9時を回ったころだから――7時間ぐらいですか」
「そっか、まだそんなもんかぁ」
「……はい」
「……ん」
もったいぶって言葉を切る少年は、汲んだ水を河原に置いたままに悟空へ向き直る。 その心を汲むかのように、いいや、彼の事なのだからきっとそんな思いはなかったのだろう。 悟空は静かに、晴天の空の下に手のひらをかざして見せる。
「お?」
「え?」
そのときであった、悟空の視線は唐突に明後日の方向へのびていく。 まだまだ太陽が頭上で燃え盛る時間帯に、原生生物、植物諸々が大きく背伸びし風にゆられている。 その揺れがひとつ、激しさを増していく気がした。
「……アイツら、晩飯は勝手に食うって言ったのにな」
「はい?」
それと同時に、この未開の惑星へ降り立つ知っている”気”がいくつか。 強い子、優しい子、気高いヒト……どれもが当てはまる彼女たちの出現に悟空は笑い――
[ガアアアアアアア――]
[クキュルルルルルル!!]
「はは、あいつらを刺激しちまったみてぇだな」
「……大丈夫でしょうか?」
「大ぇ丈夫、死にそうになったら助けるさ!」
「……」
世界における強者たちは歓迎の雄叫びを披露する。 怪異も驚異も権威も何もかもを表す一声の数々は、この世界に湧いて出た弱者をひねりつぶさんと……襲い掛かっていくのであった。 ……もちろん、悟空がいる方向からは遠ざかるようにしてだが。
「……お、はは! そっちは谷だぞ、そのまま行くとおっこち――あ、落ちやがった」
「え?」
「フェイトの奴、さっさと変身しちまえばいいのに……お? プテラノドンに捕まったかな?」
「……」
「プレシアはすげぇなぁ、襲い掛かってきたレックスをもう手なずけやがった。 さすがだぞ」
「…………えぇ~~」
目で見ないで、耳をも使わず、感覚だけでこの世界の情景を瞬時に掴む悟空は正にお手の物。 散り散りになった女衆をいうなれば手玉に取るかのように、行われていく珍事を笑う彼はどこまで本気なのだろう。
「……うそ、ですよね?」
「なにがだ?」
「……ごくり――なのはがあぶない!?」
「あ、そういや崖から落ちてたんだよな……助けたほうがいいんかな」
「そりゃ――」
「でも、変身すりゃ平気なんだろ?」
「それは……どうなんだろう――でも、今はとにかく助けに行かないと!」
……実はかなり本気で会ったらしい。 戦慄と困惑を隠せないユーノは、即座に戦闘態勢を整えようと駆け出した……駆けださして……駆け出したかった。
「……えっと」
[……ぐる]
「そこをどいてくださいませんでしょうか?」
[……ふっ]
「恐竜に鼻で笑われた!?」
偶然横を通り抜けようとする“ジュラ児”に通せん坊を喰らってしまう。
「えっと」
引けば――
[ぐるぅ]
唸り。
「ここを……」
押せば……
[……だらーー]
よだれを垂らしながら待ち構える。 明らかにここから先には近寄りませんよという彼は、その実悟空の半径数メートル以内には入らないようにしていた。 なぜこのような事態が行われているかというと。
「こいつら、なんか昨日の晩飯あたりから妙におとなしいんだよな」
「そ、それは……あんなことがあれば誰だって」
「あんなこと? オラあいつらに“は”なんもしてねぇとおもったんだけどなぁ」
「は、……はは」
その秘密は悟空が前に食した“御馳走”に秘密があったのである。 悟空の後ろの河川、そのさらに後ろ……河川の向こう側には、目に余り、山のように気づき上げられた骨の山があった。 ……骨の山があった。
「にしても、ここの奴らは食いごたえがいいな。 まるでパオズ山にいるみてぇでオラ、思わず食いすぎたかもだしな」
「あれで……食いすぎ程度だったんですか」
大中……特大! まるでどこぞの狩猟ゲームかサバイバルゲームの中にあるかのような骨の山は、実のところたった一匹の怪物、つまり恐竜の成れの果てである。 彼はこの近辺では屈強と貫禄を持ち合わせていた猛者であった。
鳴きは恐れられ、歩けば大地が唸りを上げて地割れが起きるほどの“凶竜”であった――
「まぁな、最近はあんまし食えてなかった気がするし、何より久々の山いっぱいの肉だったしでオラとしたことがつい興奮しちまったな――はは!」
「……」
それが、それが――新参者だと蹴散らそうとしたちっぽけなフェレットもどき、その後ろのいる戦闘民族に会われ、憐れ、哀れ……だが勘違いしてはいけない、獣は考えなしではなかった。 本能で悟り、後ずさり……それが己がプライドを傷つけたことをも承知で後退をしようともした。
それでも、『にこり』と笑う彼がつぶやいた――
――――なんだ、パオズ山に居るヤツよりは“ちいさい”な……
この一言でキレてしまった。 たった一言で、いままでのすべてを否定されたと思ったのだろう。 息を巻き、無謀へと踏み込んだ凶なる竜は高らかに咆えて――
――――おせぇ。
これより先はもう、恐竜の記憶は途切れている。 まさかの幕切れ、強者を相手取ったその先は――無残な死。 だが、しかし……それに賞賛を送るものも確かにいたのだ。
「昨日のヤツはホントにうまかったなぁ、食いごたえに脂のノリ、……最高だったな」
「……え、えぇ」
彼の食物連鎖にささげる“供養”の言の葉は届いただろうか、きっと、届いていると思いたい。 ……なにを言いたいのかというと。
「……悟空さん気付いてないんだ。 今のいままで“テッペン”をとってた恐竜をポッと出てきて圧倒して、尚且つ骨を残して食べちゃったんだもん……そりゃあんな『ちいさい』恐竜たちが尻尾をまく訳だよ……」
「ん?」
「……はぁ」
野生の掟をただ、忠実に守っているのは恐竜達の方。 ただ、それだけなのである。 弱肉強食とはこうもおそろしいモノか、孫悟空、人類であって霊長類ではない彼は今日も元気に……
「うっし! そろそろ迎えに行ってやっか!」
「――はい……」
ユーノを引っ張り上げていく。
そのあとの彼は本当に早かった。
「きゃあああああ~~おちるぅぅぅ――」
「……?」
「あぁ……いままでの出来事がモノローグ調に……これが走馬灯っていうんだね。 早い、速いよ、馬が走る速度ってよくできたことばだよぉーーーー!」
「なに遊んでんだアイツ、とっとと変身しちまえばいいのに……ま、いざとなったら“れいじんぐはーと”が助けんだろ、次々――……筋斗雲だけでも置いて行った方がいいんかなぁ? 【どう思う?】」
[…………Oh]
高高度より今まで生きてきた9年分の過去を思い出して、一枚一枚ページを逆さにめくっていくなのはを……放っておいて。
「バルディッシュ! バルディッシューー……」
[…………]
「あーあ、フェイトの奴“ばるでぃっしゅ”を落としやがったなぁ?」
「うぇぇええん、もう駄目、無理だよおおお」
「仕方ねぇなぁ、ちょっとだけ助けてやっかな」
「たすけて……悟空――!」
「――波ッ!」
「ギャアアアア!?」
「きゃあああ!?」
[……――!?]
「あとはおめぇが助けてやってくれ、オラ、今度はプレシアんとこの恐竜“を”たすけてやんねぇと」
完全にいろんなものから踏み外すところまで追い込まれたフェイトを、ガシリと掴むプテラに掌底を遠距離から放ち、打ち落とし、零れていた黄色い三角形を彼女の方へと投擲して。
「遅いわ急ぎなさい、このままの速度だったら恭也くんの乗ってる自転車のほうが遥かにマシよ?」
「ぐわぁ――グワァ!!」
「そうよ、いい仔ねぇ。 ご褒美に――――電撃を5万ボルトにまで下げてあげる」
「グワァ……」
「あら、安心して速度が落ちたわ……喜びなさい、今までの10倍にしてあげる」
「がああああ!?」
「あ、あいつやりたい放題だなぁ。 恐竜相手にまるでタクシーみてぇに操ってんぞ……」
「さぁ、さっさと泣き叫んでるウチの子の所まで向かって頂戴。 ハリー!」
「ぐわぁ」
「ハリー!!」
「ぐわわぁ!?」
「…ごめんな、オラには何にも出来そうにねぇ。 あきらめてくれ………」
T-レックスに電撃の手綱を括り付ける女王様から、秘かに遠ざかったりしながら、結局彼は子供たちの所に……――
「――……ほい、まずは一人」
「ほぇ?」
瞬間移動して……――
「――……結局こうなっちまったか、無理はさせちゃダメだったなぁ」
「……あ、れ?」
少女二人を抱えて河原へ降りていく。
「賽の河原?」
「天の川だ……」
「なのは、それは違うぞ。 フェイトも、そう言うなら――えっと? たしか“さんずの川”ってんだぞ」
『あはは……うふふ』
「……ダメかこりゃ」
大きすぎたショックに、目の焦点を右へ左へかき乱していく少女達。 ヒラヒラと手を振る悟空の事なんか見えていないのだろう、半開きの口からは、悟空にとってなじみ深いような白い光がこぼれようとしていた。
それを見て、彼女たちを抱きしめ、小さな頭を包んだ両の腕に力を少しだけ――入れる!!
「破ッ」
『――きゃうん?!』
瞬間的に振るわれた手首のスナップで景色が揺れる。 遠のく世界へ強引に送還され、毎日ハンコを押してる赤い大男から彼女たちは潔く遠ざかっていくのであった。
「起きたか?」
「……」
「ご、空?」
「おっす!」
『…………』
お首をコクリ、横に傾けた少女たちは只今暗算中。 計算式は単純だ、異世界+危険+目標発見=……壮大な罠。 あぁ、と、呟いた彼女、特にフェイトはここで大きく距離を取る。
「だれ!?」
「オラだオラ」
「で、でも――ずっと探していなかったのに……こ、こんな簡単に見つかるわけ……」
「ほぇ」
「そりゃ、そんな簡単に見つからねぇ世界に引きこもってたんだしなぁ……なぁ?」
「あ、はは」
話しかけ、話し続け、やっと彼が放つ雰囲気に包まれた彼女達はどうしたのだろう、ポテリと尻餅ついて空を見上げる。 ――あぁ、今飛んで行ったのはさっきと同じ種類のかな……などと呟き捨てると同時、子どもたちは一機に走り出す。
「悟空くん!」
「悟空!!」
「お? なんだおめぇたち、泣いてんのか?」
『泣いてないもん!』
「……そっか」
足元に駆け寄り、抱きつき、引き寄せ、道着のズボンに顔をうずめていく。 顔を左右にさすること3往復、おえつが聞こえたかと思いきや叫んだ彼女たちに微笑みひとつ。 悟空は、それから1分のあいだはしゃべらなかったそうだ。
「にしてもおめぇたち、ここまでよく来たな? 結構“とおく”の世界だと思ったんだけどなぁ」
「そ、それは……」
「プレシアさんがどんどん行くから……その」
「はは、そっか。 アイツのおかげかぁ……そりゃ納得だ」
雨のち晴れ。 曇った表情そのままに、子どもたちと会話をする悟空は、聞いた事情に苦笑い。 なんで居なくなったのと、口をとがらせた少女達の機関銃のような猛攻を受けながら……やっと彼は理由を言う。
「実はな、もっかい修行を――」
「それで出かけたの!?」
「だったらあんな――!」
「あ、いや、な? それ以外にもちゃんと理由はあんだぞ?」
『……え?』
第一はやはりそれ。 具体的なことも、成果も教えては上げずそのまま反感を買いそうになった悟空は薄く目を閉じ、非難を背中で受けるのみ。 そして、ここからが今回のキモだと……彼はそっと空を仰ぐ。
「今日な、地球は満月の日なんだ」
「……あ」
「そ、そうか……今日だったんだ」
「……あぁ」
それは、忌まわしきあの日から1か月がたったという知らせ。 孫悟空が受けた異変の一番の弊害であり、代価でもある。 ……満月。 真円を描くそれは、平和なあの世界に置いて悟空をあっという間にイレギュラーに変貌させるキーアイテム足りうるもの。
「だからな、月がねぇとこをずっと探しててさ。 こんなおもしれぇとこに居ついたってわけだ」
「そっかぁ、悟空くん、月を見ちゃうと……その――変身、しちゃうんだもんね」
「あぁ、そうだ。 しっぽ切った方が早いとは思うんだけどな……なんだか」
「え?」
「これはさわっちゃまずいって、何となく思っちまってよ。 なんなんだろうな」
「……」
そのもう一つを握ると、力を籠めて……すぐに手放す。 どうしてそう思うのかは知りもしないしわかりたくない。 今まで、そんな思いはなかったはずなのに、まるで警告のように開け巡るそれに今はただ、悟空は従うだけであった。
「もし大猿になったら、シロウの家ぶっ壊して……そしたら今度こそ本気で殺されかねねぇぞ? ――がおーー! ってな?」
その警告を悟られないためだろうか? 悟空は足を上げて蹴りの態勢に“入っていた” 巻き上がる風と共に飛んでいく河川の水たちは、すぐに大地へ帰っていく。 そう、この晴れた空に、先ほどと同じくお天気雨を降らせるように。
「あ、ちょっと……悟空くん水しぶき上げないで……きゃあ!?」
「びしょびしょ……悟空、もう……」
「ははっ!」
笑い、くたびれ、大の字になる。 悟空は修行で、なのはたちは4の世界を廻った疲労で。 それぞれ今日の疲れを一気に解き放っていく。
「なんかもうこのまま動きたくないかな」
「うん。 今日はこのまま眠っていたい」
ずっとこのままで。 そう呟いたのはどういう意味なの? 少女達の告白は、いろんな意味でとらえられる自由なもの。
「そうか? でも、そんなことしたらオラたち、明日にゃ恐竜のクソになっちまってんぞ?」
それを、額面通りにしか受け取らないのがやはり彼。 そんなことはわかってる、そう帰って来るから言ったんだ。 まるで、語るかのように目を合わせたフェイトとなのはは……
「……すぅ」
「……んん」
「? おい、おめぇたち……」
若干濡れた身体を乾かさず、ほんのりと熱い天気のもとに、うたた寝をし始めるのであった。
「……もうしばらく、こうさせておくか」
最高の守り人に見送られながら。 …………今日は、幕を閉じていく。
――――同時刻。
「悟空さん! 悟空さんどこーー!」
「はっはーー! おそい、遅いわよ恐竜さん。 しょせんあなたの底なんてその程度だったのよ」
「ぎゃるるる!」
「ごくうざああん!」
「次の林で決める――イナアアシャルドリ………… 」
ユーノは晩飯まで悟空を探しつつ。 プレシア女史は目的と手段を完全に投げ出していた。
今日は、本当にここまでである。
悟空「おっす! オラ悟空」
ユーノ「ご、ごぐうざ……よがっだ……やっど……やっど――」
悟空「すまねぇなユーノ。 おめぇをすっかりおいていっちまって。 けど、結構鍛えられたんじゃねぇのか?」
ユーノ「冗談じゃないですよ。 暗いし、へんなT-レックスはいるし……プレシアさんが切れちゃってたしで最悪でしたよ!!」
悟空「……わるかった」
ユーノ「もう、いいです」
悟空「あれ? そういやドラゴンボールも3つ集まって、そんでそっから2週間くれぇたつみてぇだけど……次は何があるんだ?」
フェイト「……あのね? その、実は今度なのはの――」
プレシア「そこまでよフェイト。 楽しみは大事にとっておいて、自分の中で膨らませる物よ。 さて、私もいそがしくなってきたわ」
フェイト「え?」
悟空「おめぇなにかすんのか?」
プレシア「な い しょ……かしら?」
なのは「なんだろ。 とっても冷たい寒気が?」
リンディ「へっくち! ……んん! かぜ? --違うわね、この程度だと疲れかしら?」
なのは「今、次元を超えて何か悪いものが飛んで行った気がする。……えっと、とにかく次回!!」
悟空「魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第38話 転入生と父兄参観――孫悟空、一日学校訪問をする」
フェイト「あ、あのね悟空」
悟空「……どうした、フェイト」
フェイト「お、おに――」
プレシア「ふふふ……続きはまた今度ね」