魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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最初に一言

なげぇ

分割しようにも切りどころを見失い、そして勝手に動いていくキャラ達。
おぅ……気付けばあのキャラがこんなことに。 いったいこの先の展開どうするんだ!?

なんていう第4話です。 ではではどうぞ


第4話 イタチの恩返し

第4話 イタチの恩返し

 

「病院に行くんか?」

「そうだよ、悟空くんが手当してくれたみたいだけど、やっぱりちゃんとお医者さんに診てもらった方がいいと思うし……ね?」

「そっか、おめぇもそれでいいか?」

 

 あれから数分が経っただろうか、悟空と遭遇した下校途中のなのはたちは、林の中を歩いていく。 桜の花を散らし、そろそろ青い芽を開き、緑の風景を彩ろうという木々たちのあいだを歩んでいく姿は、これから春から夏へと移り変わろうとしている季節を連想させるようで。

 

「ねぇあんたまだそいつに話しかけてんの? フェレットが喋るわけないんだから、いい加減やめときなさいよ。 変な人に思われるわよ!」

「あ、アリサちゃん…悟空くん、あのね?」

「………」

 

 しかし、季節の変わりには必ず困難が待ち受ける。 春から夏に変わるとき、それは長く険しい梅雨の季節の到来を意味し、それがもたらす大雨は決して恵みの雨とは一概には言えないもの。

 

「ん? そんなことねぇだろ? 現にコイツはオラを呼んだんだしよ、それにオラの仲間にもしゃべるブタとかネコとかいんだぞ? だからコイツだって」

「「「………」」」

「……キュウ」

 

 疑心という冷たい雨は、悟空に向かって降り注いでいくのである。

 

 しかしそんな中でも事実しか言わない悟空……なのだが、内容がないようなだけあってアリサを筆頭にすずか、そしてなのはの彼を見る目は訝しげなものとなる。

 なんてホラ吹き少年だ! そう罵倒されてもおかしくない少年の言は、しかし彼女たちはどうも攻めあぐねる。 どう考えてもあり得ない……ありえないのだが。

 

「?? どうしたんだコイツ、さっきから鳴くだけで喋んねぇぞ……ハラ減ってんのかな?」

「きゅっ! キュキュウ~~」

「あ! ダメだよ悟空くん。 その仔、怪我してるんだから」

「おわとと……わりぃな、大ぇ丈夫か?」

 

 どうも見栄や虚勢を張ったふうには見えない少年の、そのあまりにも自然体な姿はアリサの懐疑心を角砂糖のように崩していく。

 

「アイツが言ってる事、なんか嘘とは思えないのよねぇ。 会ってそんな時間経ってないけど、なんでかそう思う……ん~~あいつが変だから?」

「あ、アリサちゃん。 そんなヘンって……失礼だよ…」

「へぇ~~じゃあ、そういうすずかはアイツのことまともだって言えるの?」

「そ、それは……その……」

 

 まともだとは、決して言い張れないすずかさん。 それもそうだろう、見たことない、知らないわからない……それらを凝縮して見せたような子だ、そんな彼を『まとも』だなんて誰が言い切れようか。

 アリサとすずかはお嬢様である。 故にそれなりに|見聞≪けんぶん≫は広いつもりだ、しかしなまじ広いそれは今回に限っては邪魔になってしまうのだろう。 非常識の塊である悟空に対して正常なリアクションが取れずにいた.………答えなんて、案外簡単な公式で出て来るのに……

 

「ねぇ、悟空くん?」

「なんだ?」

「この仔、名前ってわかる? いつまでも『こいつ』呼ばわりじゃかわいそうだよ」

 

 そんなお嬢二人を置いていくように、なのはは悟空に質問する。 お話ができるという前提での質問であるこれを鑑みるに、どうやらなのはは悟空の言ったことを信じようと決めたようである。

 そんななのはの質問は、しかし悟空は浮かない顔。 眉は八の字……を通り越して、頂点がループしたジェットコースターみたいになってしまっている。

 

「そういやオラもわかんねぇな。 なぁ? おめぇなんていうんだ?」

「えっと……」

「キュ、キュウ~~」

 

 あくまでマイペース。 おそらくこの中で一番年齢が低いんじゃないかってくらいに周りを引っ掻き回す彼は、ここでもまたその力を発揮する。

 自身に投げかけられた質問を、おそらく返すことのないはずの者へと強引にパス。 いかなるサッカー選手でもトラップできないそれを前に、全身から汗を拭きださせる小動物。

 いつまでもプーアルやウーロンに話しかけるノリでいる悟空、でも実は案外……

 

「キュウ……(……どうしよう、なにか返したほうがいいのかな……えっと)」

「ん? おめぇ名前ないんか?」

「キュッ!? キュキュッ!!(あ、え? その……!!)」

 

 間違ってなかったりする……はずである。 その光景を見守っている少女たちは、まるで腹話術を見ているような錯覚に陥る。 別にフェレットが喋っているわけではないし、悟空と会話をしているわけじゃない、そうではないのに。

 

「なんか意思の疎通ができてる……のかな?」

「なにこいつ……本当に会話してるの? マンガじゃあるまいし」

「でも本当に意味が通じてるみたい。 この仔、賢いんだね」

 

 なぜか男の子が悟空としゃべっているように見えてくる。 それもあながち間違いじゃない……かもしれないのだが。 いまはそれを論議している場合ではなく。

 

「いつまでも名前がないのはかわいそうだよ。 悟空くん、何か考えてあげようよ」

「え? こいつの名前ぇか? ん~~ん~~~~」

「キュ、キュウ……?(え、あの……ちょっと!)」

 

 なのは主導の下、悟空によるフェレット命名の会が勃発していた。

 

 あーでもない、こーでもない。 その内『何面白そうなことしてんのよ』などと金髪お嬢様も混ざって大混乱。

 その中でアリサに突如、神が降りてくる。

 

「ねぇ、あんた悟“空”っていうんでしょ? だったら……ごて―――」

「ぶえっくしゅん!! ふぃ~鼻がムズムズすんぞ」

「きゅ、キュウ~」

 

 まさに“天”啓、まさに“天”命、そう思ったアリサに先んじて盛大にくしゃみをする悟空。 まるでなにか|拒絶反応≪アレルギー≫を起こすかのようなそのタイミングは、ご都合主義と言わんばかりな勢いで……しかし悟空に罪はない、そしてこのタイミングでイヤイヤをするフェレットも同じ。

 だがそれはすぐに黙る。 まるでこれ以上騒ぐと、どこかの誰かみたいにその名前が気に入ったと思われて、その名前に決められてしまうことがわかっているかのような態度。

 黙り、伏せ、時をうかがう。 良くできた状況察知能力である。

 

「……なによアンタ? 気に入らないの?」

「なんだよ? オラなんもしてねぇだろ」

「あ、アリサちゃん! 押さえて……ね?」

「えっと、それよりみんな、はやくその仔を病院に連れて行かないとダメなのでは……」

 

 まさかの企画倒れに、何気いちばん気に入らないといった表情をするアリサ、それを抑えるすずかと、いつの間にか置いてきぼりを喰らっているなのは。 女三人寄れば……とはよく言ったものであろうか。

 そんな中で唯一の“男”である悟空はというと。

 

「ん~~そうだ! ぴょんき―――」

「ちょっと悟空! 話聞いてるの!?」

「悟空くん……それはちょっと……」

 

 秘かに思い浮かんだ名前を付けようとしていたり。 悟空のネームセンスはふり幅がある……今はそう思いたいと願うなのはであった。

 

 

 

 

 

 時は流れ、あれからすぐに町内のとある小さな病院にたどり着いた悟空一行。 そこから獣医でもない普通の医者に、子供たちは寄ってたかっての大奮闘。 少し離れたところに突っ立っていた悟空はフェレットを頭に乗っけながら、その様子を見守っていた。

 

 そして勝利をもぎ取ってきたなのはたち。 そんな彼女らはフェレットをあたまに乗せた悟空の周りに群がり、飛び跳ね、事の結果を祝う。

 

「よくわかんねぇけど、よかったな」

「……キュウ」

 

 そんな彼女たちに付いていくようにフェレットに一言、さらに両手で持ち上げ、自身の頭から降ろすと持ち運び式のケージに入れる。

 若干ながら悟空に向かって不安げな視線を送ってきた彼に、悟空は当然のように笑い返してやる。

 

「そんな顔すんなよ、大ぇ丈夫だって、“おいしゃさん”がちゃんと治してくれるって言ってんだからよ?」

「……キュキュウ~~」

「元気になったら、今度オラの友達に合わせてやんぞ。 そうすりゃおめぇも―――」

「キュウ……キュッ」

 

 交わされる会話、結ばれる約束。 するとどこか引き締まったかのような顔をし始めるフェレットに、悟空は満足したかのように尻尾をふり歩き出す。

 そして迎えた別れの時間。 ほんの少しのあいだだけ……そう呟いたのは誰だろうか? 彼らは帰り路につこうとしていた。

 

 

「じゃあよろしくな! おめぇも早く治すんだぞ、じゃな!!」

『よろしくお願いします』

 

 太陽が空と大地の狭間で紅に輝いている中、高らかに響く音は子供たちの声。 カラスがなき、道を歩く人影も徐々にその数を減していく。

 もう子供が出歩くには遅い時間だ、だから帰ろう自分の家へ。 アリサとすずかには車の迎えが、そしてなのはと悟空は……

 

「ん~~バスに乗りたいけど、二人分は払えそうにないかな? 悟空くん、お家まで歩いて帰ろ?」

「ん? 歩くんか?」

 

 一緒に帰ろうとしていた。 ガサゴソと通学鞄をあさり、小さなサイフを取り出しては所持金を確認するなのは。 足りない、あと少しだけ足りない所持金とニラメッコすること3秒半、仕方がないので歩くことを提案したなのはは悟空を呼ぶ。

 自然に、本当になんの抵抗もなく“一緒に帰ろう”と発した自分に疑問を浮かべることなく、ひとり佇んでいる悟空に彼女は優しく声をかけていた。

 

「あるくんか……」

「悟空くん、歩くのイヤ?」

「そんなことねぇぞ? でもよ、どうしても歩くんか?」

「え? だってバスにも乗れないし、ここからだとすずかちゃんとアリサちゃんたちとはお家が反対方向だし……それに15分くらい歩けば着いちゃうもん。 ね? だから行こ?」

 

 なんだか乗り気じゃない悟空に、若干おねえさんっぽく振る舞うなのは。 家では一番の年少さんな彼女は、ほんの少しだけ背伸びをしてみたかったのかもしれない。

 悟空の言っていることに含まれた意味など分かるはずもなく。 彼女は気付けば、悟空の手を引っ張っていた。

 

「おわっとと……んまぁ、おめぇが歩きたいってんならいいや。 それに歩くんは足腰を鍛えんのにいいかんな!」

「え? ………うん!」

 

 歩幅同じく歩き出す二人。 ボサボサでツンツンな髪の毛のせいで、すこしだけなのはより大きく見える悟空の背は、実は彼女より低かったりする。

 それがなんだかうれしい気がして、なのはの歩調は楽しげにはずんでいく。

 

 高町なのは――9歳。彼女はいまだ|等身大≪ありのまま≫な只の少女である……だからだろうか? 彼女は気付かない。 ついさっき出した『ソレ』が自身の背負っている細い通学カバンに入っていないことを……彼女は、玄関をくぐるまでそのことについには気付かなかった。

 

 

 

 

 PM6時30分 高町家――玄関

 

「ただいまーー」

「たっでぇまーー!!」

 

 元気よく、力強く、精一杯のあいさつ。 朝の騒動には遠く及ばないが、それでも敷地内を響き渡ろうかというくらいに出された声に……

 

「うを!?」

「きゃッ!!」

「あ!? かーさん! 鍋!なべ!! う、うおおおぉぉぉ―――ぐわっちゃー!!」

「大変!! 恭ちゃんの頭に圧力鍋が!?」

 

 響く轟音(おもに悟空のモノ)に驚き、おののく4人が居る。 彼らはキッチンで盛大な盆踊りを繰り広げては、持っていたものすべてを宙に放り投げ、しかしそれらをそのまま落とすわけにもいかず常人離れした俊敏さと動体視力により、桃子を除いた3人はそれらを見事にキャッチ。

 中にはとんでもないものが降ってきたために顔面アウトとなった者もいたのだが、残念ながら詳細を書くにはあまりにもひどい惨状なので割愛しよう……

 

「…………にゃはは……は……」

「…………わりぃことしちまったかなぁ」

 

 その風景を音だけで判断したなのはと悟空はしばし、家に入るのを躊躇うのであった。

 

「おかえりなのは、それに……悟空君も」

「帰ってきたってことは『塔』の方は……」

「見つかんなかった。 けどそんかわりに、おもしれぇやつみつけたんだ」

「「おもしろい……やつ?」」

 

 あれから5分、速攻でシャワーに向かった恭也と入れ違いでリビング身入ってきた悟空となのは。 

2人はそれぞれ手を洗い、持っていた荷物をすぐ近くに置き、リビングとキッチンの間に備えたテーブルとイスに腰をおちつける。

 そのなかでも、士郎と桃子の悟空を見る目はなんだか安心したようなそうでないような、どこか言い知れない感情を移しているように見えて。

 だが、そんな二人の様子に構うことなく、というより気付くことなく、悟空はさっきの出来事を話すことにする。

 

「あんな? オラが飛んでった後なんだけどさ、変な声が聞こえたんだ。 そんでいろいろ探してたらよ、“イタチ”が血まみれで倒れてたんだ」

「「イタチ?」」

「えっと、何となくフェレットみたいな仔だったかな? その仔を悟空くんが手当てして……いまは病院に泊まってるの」

「へぇー悟空君、そんなことができるのかい? すごいなぁ」

 

 そこで上がるのは一連の出来事で、おそらく上位に食い込むであろう隠された事実…悟空の応急手当である。

 祖父が生前に教えた様々な事柄は、何も武術や棒術だけではない……悟空が野生に在りながらも、きちんと人間らしく生活できたのはひとえに彼のおかげ。

 その辺を大体把握したかのようにふるまう士郎と桃子は、よだれを垂らしている悟空の顔を視ては感心そうにうなずいていた。

 

「じゅるり……そだぞ。 ずっと前ぇにオラが大怪我したらしんだけどよ? そん時に使った薬草とかの話を覚えてたんだ。 モモコー! 飯まだかー!!」

「大怪我? 悟空君が? けっこう酷かったのかい?」

「ん? ん~オラよくわかんねぇけど……ほら、ここんとこにキズが残ってんだ」

 

 そういって自身の頭を士郎に差し出す悟空。 特徴的な黒髪に隠れてしまってよくわからないそれを、士郎はまるで草木をかき分けるように探ってみる。

 

「う……これは……」

 

 そこで見つかる頭頂部付近に入った無数のライン。 まるで強化ガラスをハンマーで無理矢理叩き割ろうとした感じの傷跡がそこにはあった。

 こんな子供に付いていいような傷では断じてない、それは士郎が見た第一感想である。

 

「……わたしにも見せて?」

「あ、いや。 なのははやめておきなさい」

「え?」

「悟空君も普通に座ってていいからね」

「ん? もういいんか?」

「うん、ありがとう」

「おう!」

「………ふぅ(この子は……おじいさんの事といい、こういう“おもい”ことをなんともあっけなくしゃべってしまうんだから。 今後気を付けないと)」

 

 自身が見たもの、それに興味を示したなのはをやんわりと抑え込み、悟空には食事の準備ができるまで――の流れで待ってもらうことに。 この歩く優しい地雷原という矛盾の塊な男の子の今後を心配しつつ、そんな優しさで出来ているような彼をこれまた優しい目で士郎は見つめている。

 

「はいはーい、ちょっとだけごめんねー はいなのは、これをみんなに配ってね」

「あ、はーい……あ、そうだ。 ご飯の前にお弁当箱、水につけとかないと……カバンはっと――」

「メシか! よぉし、いっぱい食うぞ!!」

 

 そんな士郎を知ってか知らずか、大量の料理をもってやってくる桃子は笑顔、花のようなその微笑を周囲に振りまいていく。 癒し……彼女はまさに、武闘派ぞろいのこの家でただ唯一の清涼剤である。

 運ばれてくる食事、滝のように流れるよだれ、激しく振るわれる茶色いしっぽ。 悟空の胃袋が臨界に達するところでまたも、彼女は大声を上げる。

 

「あーーーー!!」

「ぐぇっ! ――――なんだよ! またおめぇかぁ……今度はなんだよ?」

 

 それはおもむろに足元のカバンを開けていたなのは声。 ガサゴソと中身をかき分ける焦ったなのはに対して、ムスッとした悟空はなんとも対照的で。

 『ごめん』と舌を出しつつあやまるなのはだが、あせった心は静まらない。

 

「ない、どうしよう……」

「あら? どうかしたの? なのは」

「うん、お弁当箱を出そうと思ったんだけど……」

「忘れてきちゃったの?」

「えっと……お弁当はあったんだけど………」

 

 ない! ない! ない!! いくら探っても出てこないのは小さな入れ物。 きっと万人が大事に抱えて持ち歩くであろうそれは――「え? 弁当より大事なもんか?……なんなんだ?」―――それは――

 

「お財布……忘れてきちゃった」

「え!」

「どうしちゃったの? めずらしい」

「えっと、病院を出るときまでは確かにあったんだけど……どうしよう」

 

 それは現金入れ……つまりは財布であった。 しっかり者として周囲に知れているなのはの、そのあまりにも珍しい失敗に驚く母と、心配する姉。

 挙動不審になっていくなのはの頭にある、両側で結ばれた短い髪の毛は、結構な感じで揺れ動いていて。 2回、3回と前後に揺れたかたと思うと、今度は激しく上下する。

 

「よし、取りに行こう!」

 

 思い立ったが吉日、しかし外はもう暗く、時計の短針も7を過ぎたというところ。 子供が独りで歩くにはあまりにも……

 

「ダメだなのは、お財布は明日にしなさい。 こんな時間に出てってもし……」

「そうね、変質者が出ないとも限らないし…変わりの財布を用意しといてあげるからまた今度にしておきなさい」

「……はーい」

 

 あぶないの一言に尽きる。 故に却下された自身の発言に、納得しつつもしょぼくれるなのは。 しかしそこで上がる声がひとつ、それはなんでもない顔をして見せ、風呂場から出てくる青年。

 

「俺がついてこう、忘れ物はなるべく早めに回収した方がいいしな」

「……おにいちゃん」

 

 やっと出てきた青年の名は恭也。 まだ微かに濡れている髪をバスタオルでバサバサと拭きながらリビングに入ってくる彼。

 そこはかとなく微笑んだような風に見えるのは、しっかり者の妹がおこした粗相を手伝うという珍しい作業に、何となく胸を弾ませているからか。 この兄、ほんの少し意地悪である。

 

「恭也か…もういいのか? 随分と派手に熱湯をかぶってたみたいだけど」

「あぁ、すぐに水をかぶったのがよかったかな? 服ごといったから全部洗濯行きだけど」

「でもどうせお風呂入るんだから一緒だもんね?」

「美由希……」

「あはは、ごめん恭ちゃん」

 

 家族仲は良好でのようで……ちょっとだけジト目の恭也と、両手の平を前に突き出している美由希。 それをながめる悟空は、一瞬だけそっぽを向いたと思うと恭也に向かって口を開く。

 

「おめぇたち仲いいんだな」

「そりゃまぁ兄妹だしな」

「ふーん、そうなんか?」

「?? なんだ悟空、お前だって家族ぐらい――」

「――恭也、なのはと一緒に行ってきてくれないか」

「え? あ、あぁいいけど……?」

 

 でてきた言葉はなんでもない……ように聞こえるものばかり。 しかしそのどれもがこの団欒をぶち壊せるほどの威力を持ったものと知っている士郎は緊急回避。

 まるで綱渡りなこの会話を切りあげるべく、とっさに放ったは苦し紛れは……士郎を少しだけ後悔させることとなる。

 

「なんだなのは、おめぇどっかいくんか?」

「うん、さっきの病院に行ってくるね」

「そっか……オラも行った方がいいんか?」

「え? う~ん……大丈夫! お兄ちゃんがついてきてくれるみたいだし」

「そうか? ……わかった」

 

 なのはと悟空、ちょうど隣り合わせに座っていた彼らはここで一旦の別れ。 ほんの少し――そういって席を立ち、恭也とともに玄関から出ていくなのはを見送る悟空は、そのまま箸も持たずに座ったまま。

 少しだけ聞こえてくる腹の音は、悟空の限界値を示すかのように段々と大きくなっていく。

 

「悟空くん、先にご飯にしてもいいのよ?」

「ん~いいや。 オラ恭也となのはが帰ってきてからにする」

「……そっか」

 

 桃子の勧めを、しかしやんわりと断る悟空。 

 

「…………食事が終わってから行かせればよかったかな」

 

 どんどん膨れ上がっていく悟空の空腹は、その盛大な音をもって部屋中に嫌というほど知らしめる。 それを耳を押さえながら聞き届けさせられる士郎は、ボソリと一言だけ漏らすのであった。

 

 

「ねぇ、おにいちゃん」

「どうした? なのは」

 

 暗い夜道。 半分に欠けた月が白銀に輝くその下で、兄妹はひたすらに歩みを進めている。

 

「悟空くんって……」

「ん?」

 

 そこであがったなのはの声、今日という日に出会った彼はとてもわかりやすいのだが、どこか掴みどころがないというか……そんな感想を悟空に抱いている恭也は、なのはがする質問を……

 

「変な子だよね?」

「……え! ああぁ、そう……だな……」

 

 予想できなかったりする。 

 

 

 

 

「ん~~そうだなぁ」

 

しかし言われてみればそうであろうか、朝のアレで悟空が父さんの言った通りに『死線』を潜り抜けてきた|強者≪つわもの≫であるのは間違いないし。

しかもそうであるにもかかわらずにあの性格だ…はっきり言って異常だと思う者も、もしかしたら居るかもしれない。

 

「まぁ、俺はそうは思えんが」

「え?」

「ああいや。 なんでもない、なんでもない」

 

 けど、そんな自身の考えを否定するのもまた自分。 まだほんの数時間しか過ごしてはないが……しかし“ケン”を交えて分かったものもある。

 

「そうだなぁ、あいつは……」

 

 裏表のない……ただの自然体がアイツのすべてで。 だから笑っていることが多いアイツは、本当にいつも何かに喜んでいて。

 

「きっと俺の勘違いかもしれないけど……な」

「おにいちゃん?」

「ははっ、すまない。 さっきから独り言が多いよな」

「う……うん」

 

 だからであろうか、あんな不思議なことがあった今日は―――アイツと出会ったあたりから、それほど俺の心を揺さぶらないで“いつも通り”に居ることができた。

 

「なのはのいう通りだ」

「え?」

「あいつは……悟空は変なヤツだな」

 

 だから俺は、こんな人を小馬鹿にした言葉でも、とても清々しく口に出来たんだろう。

 

「おにいちゃん、ほら! あそこ」

「お、あれか? なるほど、結構近場にあるんだな……ん?」

 

 やっと見えてきたな診療所。 はー、それなりに小さいけど結構見栄えのいいところなんだなぁ。 こんなものがあったなんて、今度診察を受けてみようか……あ、動物を預かってんだから動物病院なのか?

 

「ふーん……と、そうだなのは、財布を探しに来たんだろ? 残ってる探し場所はあとここらへんなんだから、ちゃんと探し――――」

「え? おにいちゃん!?」

「く、なんだこの感じ……空気が……震えてる?」

 

 なんだか背筋が冷やされていく。 肌にまとわりつく気色の悪い空気、それに比例するかのように粗ぶっていく俺の警戒心。

 

「何かいる……近い、どこだ?」

「あわっ、お兄ちゃん急にどうしたの?」

 

 身体は自然となのはを近くに寄せ“こと”が来るのを待ち受ける。 武器は無い、当然だ、こんな平和なご時世に武器を常に持ち歩くバカは……

 

――――はは! なんだキョウヤ、如意棒しってんのか?

 

「……いたな、そういや」

 

 とにかくほとんど丸腰だ、もし本当に危ない奴だったらこっちもそれ相応に覚悟を決めておかなければ。 来るなら来い、御神流がただ小太刀を振り回すだけの流派ではないことを教えて――――

 

「…………は?」

「え?」

 

 意気込む俺は途方に暮れる。 それはそうだろう、なんせこんな緊迫した空気の中で出てきたのはとても小さな……

 

「あの時のフェレットさん! 逃げてきちゃったのかな……?」

「はぁ、なんだ…脅かすな――――ん?」

「キュー! キュキュー!!」

 

 なんだこのフェレット。 まるでここから逃げるように俺たちに訴えかけてるみたいだ。

 

「待てなのは、どこか様子がおかしい」

「え? 具合でも悪いのかな?」

「そういうのではないみたいだ、これはきっと―――ッ!!」

 

 おおきな……爆発音がした。

 

「は……な……?」

「きゃあ!!」

「キュッ!!」

 

 あまりにも大きい音、その音量に鼓膜がしびれて『キーン』と耳鳴りを引き起こしている。 いったい何が起きた!? 俺は周りを見渡す、道路……よし。 民家……問題ない。

 

「病院は……なん――だと!?」

「え? え?」

「キュウゥゥ」

 

 ない。 そんな馬鹿な……さっきまでそこにあったはずだ、なぜない。 いや、正確にはまだ“ある”んだ。 だが、しかし……この惨状は果たして建っていると言っていいのだろうか。

 

「出入り口を残して……全壊してやがる」

「え? ええ!? どうして!? なんで!!」

 

 やばい、これは予測の遥か上だ。 あまりにも今の装備……丸腰だが……では相手に出来ない。 これほどの威力を持った武装をした“人間”あいてに果たして無事にやり過ごせるのか?

俺は全神経を集中する。 よし、まずやることは――

 

「なのは」

「え?」

「そのフェレットを連れて敷地の外……10メートル離れた先に電信柱がある、そこまで全力で走るんだ」

「……うん」

 

 よし。 さすがなのは、いい子だ。 こんな状況でも足は竦んでないな、あとでほめてやるか……けどそれは。

 

「お兄ちゃんは……あの“化け物”を倒したら行く、なのははいま言ったところまで行けたら、その次は隙を見て父さんの所まで走るんだ…いいな?」

「は、はい……」

 

 この窮地を、切り抜けてからか……

 

『グオオオオオオオオ』

 

 化け物の叫び声があたりを激しく揺らす。 さぁ、化け物退治といくか――

 

 

 

 

――――高町家

 

「……あいつら遅ぇなぁ。 シロウ、もう30分経ったろ?」

「ん~そうだね、確かにちょっと遅いかもしれないかな?」

「……ん~」 ぐぐぅ~~

 

 なのはと恭也がリビングを出てから30分を過ぎた頃、悟空はいまだに箸を取らないでいた。 皆揃ってからと、どこかそう物語っている雰囲気とは余所に、その腹からは非常に大きな腹の虫が喚き散らしていた。

 

「悟空くん、先食べちゃいなよ? おなかすいたんでしょ?」

「そうだけどよ……けどよぉ」ぐりゅりゅ~~

「あらあら、悟空くんったら……」

 

 腹を空かせて尻尾を力なくダラリとぶら下げている悟空を見て、美由希が心配そうに声をかける中、士郎は少しだけ浮かない顔をする。 確かに遅い、けどなのはの言っていた病院からここまでだったらもう少し時間がかかるはずだろう、だから問題はない……ないはずだ。

 

「ん…………(なんかやな感じがすんぞ)」

「………胸騒ぎがする(虫の知らせでなければいいけど)」

 

 しかしこの心臓の不規則な鼓動はいったいどうしたものか、別に士郎の体調が悪いわけではないし今日は至って健康だ。

 それでも……なぜか……

 

「悟空君?」

「…………………………」

 

 前を見る。 士郎の目に映るのは、料理に目もくれず首をひねって窓をじっと見つめる悟空。 彼はさっきから一向に喋らないし、朝から散見された慌ただしさの欠片もない。 どう見たって様子がおかしい悟空は―――

 

―――――――――来て……おねがい……

 

「―――!!」

「悟空君?」

「「……?」」

 

 音を立てて立ち上がる。 盛大に椅子を倒しては右を左をと首を振り、何かを探す悟空。

 確かに聞こえた、自分を呼ぶ声。 それは朝にも聞いた声だ、けどあの時よりも必死さをうかがわせるその声は……

 

「ん!」

 

 悟空に如意棒を持たせる。

 

それを見た士郎の胸騒ぎはピークに達する。 なにかおかしい、何かが起きている。 この平和が取り柄の様な街に何かが起こっている……その不安な心を

 

「お、オラ行ってくる!!」

「あ! 待ちなさい!! 悟空君!!」

 

――――筋斗雲やーーーーい!!

 

「ダメか……もう行ってしまった」

「悟空くん? お父さん?」

「………まぁ」

 

 蹴っ飛ばすように走り出す悟空。 それを呼ぶことでしか止めれなかった士郎は歯ぎしりする。 ここまで気持ちがざわついたのは“あのとき”以来だ……自身が遠い昔に死にかけて―――

 

「“あのひと”に助けられたとき以来……か」

 

 その時のことを思いだし、さらに不安に駆られる……自身が駆けつければいいのだが。

 

「場所もわからないのに下手には動けない……な」

 

 物理的な問題が士郎を縛っていた。 今出ていった悟空を追いかけようにも、きっと筋斗雲という悟空の『ともだち』のせいでもはや追いつけないところまで行ってしまっただろう……だったらいっそ。

 

「ここで、帰りを待つしかないか……」

 

 待つことにする。 そりゃこの胸騒ぎが杞憂であればいい、けどどうにも腑に落ちないその不安は、自身の息子と――

 

「悟空君……」

 

 あの子が何とかしてくれる。 そう思い、静かに席に着く士郎であった。

 

 

 

 

 

 

 

「なのは! あぶない!!」

「きゃあ!」

「キュ!」

 

 それはいきなり襲い掛かる。 恭也でもなく、フェレットにでもなく、遠く離れようとしたなのはに向かって飛びかかる。

 もちろん、それを簡単に許す恭也ではなく。 常人離れした身体能力を駆使しては、落ちていた建物の残骸……先のまがった鉄パイプをひっつかんでは化け物を迎撃する。

 

「はぁぁああああ!」

 

 打ち鳴らされる金属音……ではなく。 それはまるで生ハムを切り裂くかのような小ぎみ良い斬撃音。 化け物と恭也の影が交差し、お互いに離れていくと――化け物の身体は二分割され、地面に醜い音を立てながら倒れていく。

 

「……なんだあっけない。 なのは、けがは――」

 

 “虎乱”を放った恭也の手に残る確かな手ごたえは、確実に仕留めたという情報を彼に伝え、それを何の疑いもなく受け取った恭也はなのはのもとに駆け寄ろうとする。

 だが彼女の表情は硬い。 そして一向に合うことのない視線、いつまでもワナワナと震える指先は恭也の向こうを指していて。

 

「おにいちゃん! あぶない!!」

「な!? が―――」

 

 分断されたはずの黒い影が、恭也の背中に飛んでいく。

 

 なのはの表情と声、そして自身の瞬発力でなんとか直撃を免れた恭也は、しかし態勢を崩した彼に向けて怪物の攻撃が迫る。

 

『ガアアア!!』

「こいつ――!」

 

 相手の攻撃を薄皮一枚で受けつつ決めた恭也のカウンター。 乗せた技は今朝悟空にも使った“徹”である。 切って駄目なら貫いてやる……そんな考えで放たれたこの技も

 

『グルル』

 

 奴は自慢の再生能力でなんなく立ち直る。

 

「くっ! 足が……!」

「キュウ!!」

 

 そんな怪物とは反対に、今のカウンターで脚に若干のダメージを貰ってしまった恭也、そのせいで自身の本領である速度と技を出しきれなくなってしまう。

 そうでなくても目の前の怪物は切り落とそうが、切り刻もうが、尋常じゃない速さで再生していくのである。 このまま消耗し続ければ、勝ちは無い……それどころか。

 

「――――来る!」

『グルルゥゥゥ………アアァァアアアア!!』

 

 打開策を講じる暇もなく響く怪物の咆哮。 今度は恭也に狙いを定め放たれた黒い塊はまるで砲弾の様で……それを当然のように構え、打ち落とそうと手に持ったパイプを振りかぶる恭也。

 

「すぅ……」

 

 呼吸を怪物の挙動に合わせ、血の脈動は|得物≪パイプ≫の呼吸を助長させ、まっすぐに据えられた眼光は迫る砲弾を狂いなく狙い……定める。 到達まで3メートル、2、1と相成った瞬間――恭也は目を見開き……叫ぶ。

 

『―――――』

「なっ!?」

 

 ありえない、こんなことが――と……恭也に迫る砲弾は、その勢いを殺さずに花火のような炸裂音を打ち鳴らす。

 近距離でいきなり散弾銃が如く散らばりだした砲弾。 無数と言っていいほどに分裂したそれは恭也を通り過ぎようとし、背後のなのはに迫る。

 

「こ、こいつ! ――――なのは!!」

「え!」

 

 打ち落とす――打ち落とす―――撃ち漏らす……その身で受ける。 おもむろに、しかし必死な思いで発動した“神速”

 全てをやり過ごすことならばできた、かわすことも不可能ではない、自身を守るべく必要最低限に打ち落とすことだってできたはず、だが……

 

「ぐぅ!! がは! だめだ、アバラが……(お、折れてはないようだが、これじゃ――)」

「おにいちゃん! おにいちゃん!!」

 

 彼は今、“守る”べくして傷つき、膝を―――叩く。 折れそうだった膝はその場で踏ん張りを見せる。 ここぞというばかりの食いしばり、せめて……せめて…… 

 

「く、来るな! いいから隠れてるんだ!!(せめて、なのはだけでも)」

「――! で、でも!」

「大丈夫だ、こんなもの……忍のビンタに比べたら――くっ!」

 

 さらなる怪物の攻撃が恭也を襲う。 黒い鞭状の物体による攻撃は腹部と背中に深いダメージを負った恭也を遠くに吹き飛ばしていく。 だが、それでも壁際で何とか着地をしてすかさず構えを取るその姿は、いまだあきらめの色を見せず。 恭也は空元気を振り絞って、なのはを押しとどめる。

 

「―――はぁぁぁぁぁ………」

 

深く……深く。 意識的に行われた呼吸は只の呼吸、しかしそれは鬼気迫るものを眼前の怪物に与える。 本来ならば最初の一撃で沈んでいるはずの展開だったが、まさかここまで窮地に立たされるとは……だが自分の甘さを悔いることはしないし、恭也の膝はいまだ折れもしない。

 

「ふっ! はっ……このぉ!!」

『ガアアアアア!!』

 

 一撃、またも一撃。 飛んでくる怪物の腕を手に持った鉄パイプで撃ち落としていく恭也。 しかし左手で抑えた腹部の痛みは、この間にも容赦なく恭也を苦しめていく。

 歪む顔に力の入らない足、追い込まれていく自身……そして。

 

『グルル……――ガアアア!!』

「な!? しまった!」

 

 ここで怪物のリズムが変わる。 “押し”の攻撃だけしかしなかったアイツは、ここにきていきなり搦め手を使ってくる。

 今まで攻撃を捌いていた恭也の足元に、横払いに打たれた黒い鞭。 それをバックステップで躱すこともできず、恭也は怪物の攻撃をもろに受けてしまう。

 

「がはあああ!」

「おにいちゃん! ……フェレットさん、ここでまってて」

「キュ!?」

 

 足払い、そして浮いた身体に迫る巨木にも似た黒い影。 それは怪物の持つ触手が幾重にも重なり螺旋状に混じりあい、一本の腕と化した巨大な武器。

 見事な“ワン・ツー”を決められ、放物線を描きながらも壁にぶち当たる恭也。 そんな光景を見せられたなのはは堪ったものではない、兄の下に駆け寄り身体を揺さぶる。

 

「ど、どうし……て、来た! ぐぅぅ……あれほど――来るなと言ったのに……」

「そんなの出来ないよ! だってお兄ちゃんが!!」

「ち、ちくしょう……守るべき妹に、心配……されるなんて」

 

 全身から力が抜けていく、今の衝突のせいだろうか? 背後のコンクリート製の壁には大きく亀裂が走っている。 それほどの威力で叩きつけられた恭也のダメージは推して測れないだろう。

 そして近づいてくる怪物。 |弱った獲物≪キョウヤ≫が動かなくなったことを確認するかのようにゆっくりと近づいていき、距離が残り3メートルと相成ったところで一時停止。 

 

「……とまった?」

「くっ、いかん―――なのは離れ――――!!」

 

 それはまるで狩人の舌なめずり、それはいかにも追い詰めた側の態度。 言葉もしゃべらない、思考もわからない怪物相手に……しかし恭也はこれだけなら把握する。 自分たちは……アイツに殺されると。

 

『ガアアア!!』

 

耳をつんざく咆哮と、唸りを上げる黒い触手。 高く振りあげられたそれは、怪物の名の通りに力任せの勢い任せに、恭也をかばうように覆いかぶさったなのはに向かって振り下ろされる。

 

「っ~~~~!」

「ちくしょう――――!!」

 

 絶望の瞬間……恭也の周囲全ての音が消え、目の前が真っ暗になる。 死の淵に立たされ、無意識に使われた“神速” しかし今はすべてが無意味。

 立つことすら困難な状態の恭也にとっては、死ぬまでの体感時間が伸びたに過ぎない ―――――――――――――だが

 

 

「――――――だりゃあ!!!」

 

 

『グギャアアア!! ガアアア!!』

「「……え?」」

 

 そのときは、いつまで待っても訪れることはなかった。

 

 代わりに響く獣の咆哮……その前にあがった聞き覚えのある声は、二人の耳に届くことはなかったけれど。 それとは別に、恭也となのはの耳に届いた大きな衝撃音。

 硬く、鈍く、そして斬撃にも似た鋭い音。

 

「…………え?」

「お、おまえ……どうして……」

 

「…………」

 

 目を見開く。 暗闇でも見えるほどの輝きを見せる紅い棒、それを握るのは青いリストバンドを付けた短い手。

 宙を漂う茶色の尾は、不規則に動いては本体の気持ちを投影しているかのようで。 そしてその者を包み込む山吹色の道着、さらになのはたちの視線を奪う、円に囲まれた『亀』という字は……そこに“少年”がいることを証明する。

 

―――――――――孫悟空は、そこにいた。

 

「キョウヤ、おめぇケガは大ぇ丈夫か?」

「え? あ、あぁ…見た目ほどひどくはない…が、足を痛めたらしい。 これじゃまともに動けない」

 

 気付けばずいぶん遠くに吹き飛んで行った怪物は、地面を抉りながらもバタついて態勢を整えようとしている。 不意を突いた……にしてはあまりにも大きく思えるそのダメージは、悟空が持った如意棒の一刀によるもの。

 

 ざっくりと開いた……人間でいうと肩口から真っ二つにされたような感じと言えば分るだろうか。 それを修復しようと怪物は唸る。 傷口から伸びてくる細い触手はひきつけあい、絡み合い、互いを補うように開けられた空間を埋めていく。

 だが、その間動くことをしないそれをしり目に、悟空は恭也に振り向き膝をつく。

 

「そっか、だったらそこでじっとしててくれ。 オラがすぐに片付けてくっからさ」

「!? 片付けるって……悟空、そいつは――」

「悟空くん!!」

 

 呼び止めるふたり。 しかし彼女たちの判断は正しくあるものの、間違っている。 確かにあんな怪物を前に子供が立ちふさがるべきではないのだ……そう。

 

「おめぇ、よくもキョウヤとなのはをこんな目に合わせたな! ぜってぇ許さねえぞ!!」

『ガアアアッ! グアアア!!』

 

 それが、只の“こども”であるならば……

 

「「―――くぅっ!!」」

 

 悟空の怒気、おそらく初めて見るであろうその猛る姿は、なにに例えるか戸惑う姿と恭也は思う。 こんな顔もできるのかと、いつも笑っている印象しかない彼に対する見方を改めると共に。

 

「だぁりやぁあ!!」

『グギャアアァ!!』

 

「……なんて奴だ」

「…………すごい」

 

 この少年を、この者の“つよさ”を再認識させるのである。

 

 初撃、構えた如意棒を横に薙ぐ。 これで歪な十文字が完成。 狂うように叫ぶ怪物は、それと共に大きく後退をする。 まるで理性がない振る舞いをする奴の、その本能的なものを感じさせる後退を……

 

「だだだだだっ! だりゃあ!!」

『―――ッガアアア!!』

 

 さらに超える速さで追撃する悟空。 持っていた如意棒を曲芸のような扱いで尻尾に持たせたと思うと連打、連打――連打!! 強く握られた両の拳による激しい乱打が始まる。     

その一つひとつが身を裂き、打ち砕いていく様はまさに圧巻。

 

 悟空の気会いに比例するかのように放たれる拳の雨、既になのはには手が8本あるかのように見えるそれは………八手拳と呼ばれる他人の技である。

 

「「………」」

 

 恭也たちはそれを見守るだけ、そんな彼らに――

 

『ォォォォオオオオオ!!』

「「なっ!?」」

 

 獣は悪あがきをする。 放たれる触手の束、5本10本と増えていっては既に外野となっていた高町兄妹を強襲する。

 突然の事に身動きが取れない二人に避ける選択肢はあろうはずもなく、ただされるがままにその攻撃を受けるしかない……そう、彼が居なければの話だが。

 

「こんにゃろ! きったねぇマネなんかしやがってぇ―――のびろぉぉ!!」

 

 それを許す悟空ではない。 あまりにもアンフェアな怪物の選択肢に更なる闘志を燃やし、両手で掴んだ如意棒をおおきく振りかぶる。 天にまで届けと言わんばかりに振りあげたその棒は。

 

「如意棒おおお!!」

 

「な!? 棒が――」

「のびた!!?」

 

 文字どおり、天まで届くかのように伸長した。 暗い夜を赤く照らしだしたその棒は悟空を定規にして8人分以上はあるだろうか。 そんな自身の8倍まで伸ばした如意棒を、重力の助けも含めた全力で………一気に振り下ろす。

 

「でぇりゃあ!!」

『―――――ッ!!』

 

 それは巨大なギロチンのごとく、ブチリという音とともに触手たちを切断していく。 

 

「うおっ!?」

「きゃっ!」

「こいつは、キョウヤの分! 覚悟しろよぉ、次はなのはの分だ!」

 

 壮大な地響きとともにひび割れていく黒いアスファルトは、悟空の持っている如意棒の形に添うように沈殿している。 その威力はおそらく生身の人間に向けていいレベルをはるかに超えているであろう。

 悟空の優勢、それは火を見るより明らか。 だが恭也は安心できない……なぜなら奴は

 

「――ッ! 悟空! うしろだッ!!」

「え?―――ぐああ!!」

 

 不意を突かれる。 ここにきて急に速度を速めたその再生能力、それにより最初の時と同じような形に戻った怪物は3度悟空に襲い掛かった。

 避けようとした悟空は、しかし一瞬だけ怪物が早く悟空の右足を絡め捕り――投げまわす。

 

「うわあああ!!」

「悟空!!」

「悟空くん!!」

 

 そして弾丸のように打ち出された悟空。 さっき恭也がぶつけられ、ひびの入ったコンクリ製の壁に激突すると、壁は一気に崩壊する。

 崩れる壁、積まれていく瓦礫。 悟空はそれらすべての下に生き埋めにされる。

 

「ご、悟空くん! うぅ……」

「くっ……なんてことを」

 

 この光景に竦んでしまうなのは、それに相反するかのように歯を食いしばる恭也と……

 

「キュキュ!」

 

 瓦礫に向かって走り出すフェレット。 それは瓦礫の山のふもとまで行き――いきなり短い脚が突き出る。

 その色合から何となく畑に生えているニンジンにも見えなくもないそれは、一気に瓦礫を突き抜け空を舞う。

 

「くっそぉ、あんにゃろーやりやがったな!!」

「ぎゅっ!!?」

「な!?」

「えぇ!!?」

 

 突如として這い出てきた悟空に驚き、わななくこととなる3人。 山を掻き崩し、自身についたほこりを払い、打った顔面をさすりながら出てきては怪物を睨んでいる。

 しかしその目は怖いというより、近所の子供が鬼ごっこで負けたぐらいにしか見えない……どう見積もっても迫力なんてものは微塵もない表情であった。

 

「ご、悟空さん! 無事だったんですね!! よかった」

「あの速さでぶつかってケガひとつしないなんて……」

「なんて頑丈な奴なんだ」

「そんなことねぇぞ、ほれ! ひざのところすりむいちまった」

「「「……そ、そうですか…………」」」

 

 そんな悟空に影響を受けるかのように、どんどん緊張感が抜けていく3人。 そろってツッコミを入れることもなく、ただ悟空に困った視線を送ることしかできず。

 

「あ! そういやおめぇ今喋ったろ、話せるようになったんか?」

「……あ、しまっ――、いやいまはそんなことより……」

「……そんなこと?」

「結構重要なことだと思うんだが……」

 

 立ち上がり、近寄ってきたフェレットに向いあう悟空。 足元で若干あたふたしている小動物は、しかしそんなことよりも伝えたいことがあるらしく。 なのはと恭也のツッコミを流しながらも“あるもの”を取り出す。

 

「悟空さん、これを」

「なんだこの玉っころ? あめ玉か?」

「ち、ちがいますよ。 それは『デバイス』といって悟空さん、あなたの中にある……」

「オラの中?」

 

 取り出した赤い宝石、それを悟空に持たせると口早に説明を始めるフェレット。 しかし突然その饒舌が止む。 額には滝のような汗が流れゆき、そして小動物は突如として震えだす。

 

「―――あれ?」

「なぁ? オラの中になにがあんだよ?」

「え? なんで! こんなことって……デバイスが反応しない!? まさか魔法の素質が……でもボクの“念話”は通じたはずなのに」

「「??」」

 

 そしてまくし立てていく小動物。 こんなはずではと膝をつき――つくほどの大きさの膝はないが――大きくうなだれていく。

 絶望にも近い空虚な感情が小さな体の身動きを縛り付けていき、焦りとともにフェレットの息遣いはドンドン荒くなっていき。

 

「だめだ……もう、おしまいだ――――うぅ」

 

 どこぞのエリート戦士と同じようなことをボヤく。

 

「ん~そんな落ち込むなよ、な?」

「で、ですけど……」

『ガアアアア!!』

「お?」「あ!!」

 

 しかし遊んでいる場合ではない、仕留めそこなった獲物にとどめを刺そうと怪物はやって来る。 伸ばされた触手をうねらせながら数を増やしていき、10……20となったぞの手を悟空に向かって伸ばす。

 

『グオオオオ!!』

 

 月夜に吼える怪物。 それはまるでこの小さな少年を確実に仕留めてやると言わんばかりに力強い咆哮。 苦しく、繰るい、狂うように飛んでくる触手たち。

 

「にげろ悟空!」

「悟空くん!!」

 

 なのははもちろん、すでに動くことができない恭也もその動きを捉えることは今は出来ない。

それほどの速度、それほどの威力が押し迫るなか。 悟空は―――

 

「―――――いまコイツと話してんだ! 邪魔すんなよ」

「「「え!?」」」

『グル……ル!?』

 

 視線をユーノに向けたまま……なんと片手でそれらを捌いていく。 叩いては落とし、払っては跳ね返し、拳を撃ちつけては粉砕する。

 そして訪れる静寂、恭也は言葉を失う。 この少年の戦いかたに、異質ともいえる実力に。

 

「こいつ、いま相手をまったく見ないで打ち落としやがった……何をしたんだ!」

 

 御神の“心”にも思える雰囲気だがまったく違う悟空の戦いかた。 見てもいないのに明らかに場所が分かってるようにすべての攻撃をねじ伏せた悟空。

 しかし一番驚いてるのは……

 

「ん? オラ今どおやって防御したんだ? 何にも考げぇてなかったぞ」

 

 会話中にほぼ無意識にそれらを行った悟空であろうか。 しかし彼は思い出すべきである、“現在”修行中であり目指している高み……空のように静かに――を確かに実践して見せたのだ

 

「どうやってって……」

「……知るかよ、そんなこと」

「す、すごい……」

 

 段々と崩れていくシリアスを前に感嘆する3人に対して、よくわからん! という顔をする悟空。

 

 ほぼ無意識だから当然であろうが、彼は困った顔をする……しかしそれはほんの一瞬である。 彼は……フェレットに向かってにこりと笑う。

 

「あ、そうだ。 まだ晩飯の途中なんだ、コイツかづけたらよ? おめぇも一緒に食おうな! モモコのめしはさぁ、すんげぇうめぇんだ」

「は……はぁ……」

「うっし! そんじゃとっとと終わらせっかぁ! とっておき……いくぞ!!」

 

「「「とっておき?」」」

 

 ここで場の空気が変わる。 怪物と悟空の距離は4メートルにも満たない、そこからあまりにも近くにいるなのはと恭也。

 そしてフェレットは……

 

「だめですよ悟空さん! そいつは普通にやったんじゃすぐに再生してしまうんです!」

「そんなんわかってるけどよ、でもほかに…」

「アイツはジュエルシードっていう『石』が元となった怪物です! だからその石を封印できれば何とかなるはずなんです!」

 

 悟空を呼び止める。 物理的に……常識的に考えてできないと言い張る彼はここで口ごもる。 ―――さえつかえれば……そんな“内なる独り言”は悟空には届かず。

 

「え? どうしたの?」

「あ、いえ……なんでも……?」

 

 少女の耳にだけ届く。 彼はハッとする、いま彼女は“自分の心の言葉”を読み取ったのだろうか……? しかもはっきりと聞こえた風にも見える。

 その少女を見て、フェレットの目に光がともる。

 

「この子ならきっと……すみません! こ、これを」

「なにこれ、あたたかい」

「押し付けるみたいで本当に申し訳ないんですが―――けど、あなたにしか頼める人がいないんです!」

「え? ええ?」

 

 それは赤い宝石、ビー玉のように小さくて……けどほんのりとあたたかく、しかも脈を打っているような感じがする。

 生きている――彼女の第一感想である。 恭也が倒れ、悟空が若干手を焼いている状況下で渡された彼女の“可能性” それは微かに光っては彼女を誘う。

 

「悟空さんだけじゃ、あの怪物は倒しきれない……けどあなたの――魔法の力があればきっと!」

「ま、魔法!? なにを――」

 

 その誘う言葉に恭也は疑心を持ち。

 

「わ、わかりました」

「……よ、よかった」

 

 なのはは信じてみることにする。

 

「目を閉じて、心を澄ませて僕の言うことに続いて!」

 

赤い宝石を受け取ると言われたとおりに目を閉じるなのは、そこに

 

「おぉ~いまだかぁ~」

 

 もたもたしているなのはに悟空は両手のひらを口の横に持っていき呼びかけながら

怪物の攻撃を右に左に避け、隙あらば懐に潜り込み拳を2,3発当ててはまた離れる作業を繰り返していた

 

「こいつ、やっぱり殴ったところが元に戻っていきやがる」

 

 怪物の身体が液状に変わったかと思うとまた元に戻るとまったく無傷の姿に戻っていた、これを見た悟空は後ろに飛び跳ねて

 

「よぉし、今度こそオラのとっておき見せてやる!」

 

 孫悟空は、“あの”構えに移ろうとしていた。

 

 

「よし、いくよ!」

「うん」

 

「我、使命を受けし者なり」

「われ、使命を受けしものなり」

 

「契約の元、その力を解き放て」

「契約のもと、その力をとき放て」

 

呪文を唱えると渡された宝石に鼓動が走り、赤い光が漏れ始める。

 

「「風は空に星は天に」」

 

 そろい始める声、それは少女とフェレットの二人が奏でる二重奏。 その声とは別に、とても重く力強く、高らかに上がる声がひとつ。

     

     かぁ

 

「「そして、不屈の心は」」

     

     めぇ

 

「「この胸に!」」

     

     はぁ

 

「「この手に魔法を!レイジングハート、セットアップ!!」」

[Stend by raedy Set up]

 

       瞬間、夜空に桃色の極光が駆け上る

 

 少女を包み込む光は桃色。 それは彼女の持つ力の色であり、彼女の象徴。 それが自信を覆い尽くしたと思うと、不思議と自身の内側から力がこみあげてくる。

 次に少女を包み込むは純白のワンピース、その縁を青で型取り、胸元の赤いリボンでアクセントをつけている。 パッと見、制服と見まがうそれは、しかし立派な戦闘服である。

 

――――バリアジャケット。 闘うための武装服……先ほどまで非戦闘員であった彼女はいま、たしかにそれを装備した。

 

「あれ?服が!それにこの杖」

「それは君のイメージが具現化したものなんだ、それより早く悟空さんを」

「う、うん!」

     

     めぇ

 

なのはが手にした杖、レイジングハートは強く握りしめられると。 まるでうなずくように光る。 そして二人は悟空のほうへ向かう、すると。

 

「悟空君が光ってる!?」

「な、何をしようってんだ!? 悟空の奴は!」

「あ、あれは砲撃呪文!?」

「「砲撃!?」」

 

 目の前にいる少年は両足を曲げ踏ん張りがきく態勢になり、両手は何かを包みこむように後ろにいるなのは達のいるほうに持っていき腰の位置で固定している。

 青白い光が手の中に納まりきらずあたりを眩しく照らしていくと、両手を一気に怪物の方に向け――――打ち出す。

 

「波ぁぁぁああ!!」

 

「なに!?」

「きゃぁ!!」

「わわ!」

 

 あふれ出る光はまさに閃光、轟く爆発音は人体が打ち出してはいいレベルをとっくに超えている。

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』

 

 夜空に上がる断末魔。 今まで散々苦戦した怪物は輝く光に溶け込んでいく、その光景、その勇士、その力強さは決して万人が到達できるものではない。

 

 亀仙流が奥義――かめはめ波

 

その技は、この異世界の夜空を大きく塗り替えていくのであった。

 

「…………すごい」

 

 残るのはぽつりとこぼれたその言葉。 自身が出張るまでもないと、いつの間にか尻餅をついてしまったなのは。

 だがそれは仕方ない、なぜなら武道の達人である恭也ですらも驚き、動揺している始末なのだから。

 

「そうだ、早くジュエルシードを封印しないと」

「あ、うん」

 

するとなのはを先ほどまで怪物のいたところまで行くフェレット。 がれきの中を探っていく姿を悟空たちが静かに眺めると、やがて青い宝石が掘り起こされる。

 

「これがジュエルシード、いまはむき出しになってはいるけど早く封印しないとまたさっきみたいな怪物になってしまうから気をつけて」

「うん、わかった」

「へぇ~そんな石っころがあんな化けもんになっちまうんだなぁ」

「こんなものが……なぜこの町に――」

 

 フェレットの説明を聞き終えた3人は落ちているジュエルシードを見つめた、こんな小さな石があんな化けものになってしまうなんて不思議ではならず。 そんな物騒なものがこのような何もない街にあることを疑う恭也。

 だがいまはそれを議論している場合ではなく、知ってか知らずかフェレットは話を進めていく。

 

「じゃあさっきみたいに僕の言葉に続いて?」

「あ、はい!」

「「ジュエルシード、シリアル21封印」」

 

[Stend by raedy]

 

 唱えるとレイジングハートから桃色の光がジュエルシードを包み込む。 すると激しく発光した青い宝石は、しかしすぐさま元の光度に戻ってしまう。

 不思議な現象……しかし今回何より不可思議だったのは――

 

「え?」

「ん? どうかしたんか?」

 

「「な、なんでもありませんよ?」」

 

 この二匹のケモノであろうか。 言葉はしゃべるわ、手から光線を打ち出すわ……キャパを超えつつある二人の常識は。

 

「ん? なんかうるせぇ音が近づいてくる」

 

「「げ、マズイ!」」

 

 迫るパトカーのサイレンにより、正常値まで引き下げられる。 全壊した病院、亀裂の入ったアスファルト、瓦礫の山となったコンクリ製の塀。

 

 こんなところを見られてら……間違いなく補導以上の何かを喰らってしまう

 

「も、もしかしたらここにいると」

 

大変なのではと思ったのはフェレットも同じ、だが急に全身をを引っ張られる。

 

「うぉ!? おい、悟空!!」

「悟空くん!?」

「よっくわかんねぇけど、いつまでもここに居ちゃまずいんだろ? だからちゃんと捕まってるんだぞ?」

 

 恭也をおぶり、なのはの腕を取る。 そしてまとめてみんなで少しその場で跳ねると――

 

「いっくぞぉ―――きんとぉぉん!!」

「えっなに? え? え!?」

「な!?」

「ええ!?」

 

 遠い夜空からアイツがやって来る。 音に追いつく速さで飛行してくる彼の名は筋斗雲。 そのものは悟空の足元にスライディングすると、全員まとめてダイビングキャッチする。

 速度はもう50キロ前後にまで急激に落ちてはいるが、相も変わらず速いその雲に乗った女の子はというと。

 

「きゃぁぁぁぁあああ」

 

海鳴市の夜空に小学3年生女子の悲鳴を響き渡らせていたりする。

 

 欠けた月が銀色に輝く今宵この時。 出会うべくして出会い、傷つけあうべくして戦いあう。 それを宿命つけられた者たちの“最初の出会い”は、空に上がった2色の閃光の光と共に終わる。

 

 その光を、これから出会う者たちが目撃しているなど、露にも思わず……今日の物語は幕を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 




悟空「おっす! オラ悟空」

なのは「えっと……なにあれ?」

恭也「武道……武道かぁ……武道ってなんだっけ」

なのは「お兄ちゃんが……」

悟空「ん?? なんだよキョウヤ、おめぇさっきからぼうっとしちまって―――お? どうしたおめぇ」

???「悟空さん、いまはそっとしておきましょう」

悟空「……? おめぇたちがそういうならそうすっけど……ま、いいや」

なのは「にゃはは……えっと次回! 魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~第5話」

恭也「~~~~~~」

なのは「お兄ちゃん……えっと、次回!!『突入! 月村家!!』……アレ? どうしよう、明日すずかちゃんのお家に行くことになってたの忘れてた」

悟空「また寝坊か?」

なのは「し、しないもん!!」

恭也「……はぁ~~また、こんどな」

???「さ、さよなら~~」 


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