彼女はそのままこの世界から消えてしまったのだろうか。 そして、どこかの世界で必死にボールさがしに奔走している者たちの成果は!? 悟空の容体は!?
時間が足りな過ぎるきつい状況で、いま、暗闇より鋼鉄が――――
りりごく51話です。
終わった……なんだかギャグチックに決まったなのはの最後の笑み。 片目に涙なんか蓄えて口元を引きつらせる姿はもはや笑い話である。
迫る極光。 音が聞こえないのは音速を超えたスピードで迫って来るからだろうか。 そんな静かな絶望の前に立ち尽くすだけの彼女は……
――――「なのは!!」
「ふぇっ!?」
「こっち!」
「むぎゅっ!」
不意に横合いから来た黒い影に、首根っこ掴まれて牽引されていく。
「ぐ、苦゛し゛い゛!!」
「…………っ!!」
誰かのうめき声一丁。 聞こえるか聞こえないかというトーンなどという意味ではなく、そのすぐそばを通り過ぎる轟音にかき消されたという意味。
高速の砲撃の後に巻き起こるソニックブームが魔法少女達を、渦巻く世界へと引き落としていく……落ちる? 巻き上がる? いや、もう上下が分らない程度にシェイクされた彼女たちに上か下だとかの感覚を問うのは酷であろう。
「かすってもないのに……はぁはぁ……この威力」
「悟空くんが全力で逃げろって警告した理由、やっと分った」
これからは年長者と師匠のいう事は絶対に守ろう。 そう、心に刻んだ魔法少女“たち”
彼女たちが見返した先は、たった今放たれた気功砲と思しき攻撃の傷跡……氷原は地面を露出し、肌けた大地は惨たらしく抉られている。
「……」
「…………ゴクリ」
この光景だけで、悟空がかつて自分達に気の修行を教えなかった理由がわかった気がした。 危険すぎるのだ、このちからは。 途方もなく壮大で、とてつもなく甚大な被害を見た彼女たちは、ついには息を呑んでいた。
そんな、今あった被害を確認したときであった
「……あ」
「え?」
目と目が合う。
実に1日ぶりの再会となるこの時、ついに彼女たちは言葉を……躱す。
『危ない!!』
「……ちっ」
不意に現れる銀髪の長髪を見ると、金のツインテールがなのはを弾く。
同時、弾かれた先で砲身を固定したなのはは――――
「避けて……」
いま現れた金の魔力を帯びた少女の名を……叫ぶ。
「フェイトちゃん!!」
「……うん!」
クロスアタック。
金色と桃色の魔力光が交差する。 互い違いに放った砲撃はおびただしい轟音を鳴り響かせながら、目前の闇に光を照らす。
「邪魔だぁぁ――!!」
「うそ……!」
「両手で……」
その光が屈折するのに時間はかからなかった。
気合の咆哮が響くと、そのまま娘が両手をぶん回す。 乱暴にまわされたそれは竜巻のように空気を唸らせると。
「せああ!」
『!?』
魔法少女達に閃光を弾き返す。
「……」
「強い」
フェイトは一歩さがる。
この後退が意味するのは警戒。 あまりにも異常で、尋常ではない戦闘応用力はかつて相対した少年期の悟空に酷似している。 こんな相手にはやはり……
「フェイトちゃん、お願いがあるの」
「なのは?」
やはり……
「とってもきついかもしれないけど……なるだけつかず離れずにいてほしいの」
「……な、なのは?」
無謀という策であると、フェイトは怖気を隠しきれない。
取って置きと言わんばかりに、薄く微笑んだなのはの顔。 彼女はそのまま背後に光をいくつも生成すると、フェイトに向かって念を飛ばす。
一瞬の作戦会議、それでもと、不安を隠しきれないのは当然だ。 ……だが。
「迷ってる暇はない……よね」
「ごめんね、一番危険な目に逢わせちゃうけど」
「大丈夫。 なのはが後ろについてるなら」
「……うん!」
こうして二人の覚悟は完了する。
「ふぅぅぅ……」
『!?!?』
しかしその間は、銀の娘に時間を与えることを意味していた。
唐突に吐かれた白い息。 暗闇から出でるそれが、彼女のチカラから這い出てきた残滓だと気付いた時には。
「――――レイジングハ―……」
爆炎が魔法少女達を包んでいた。
いきなり起きた爆発。 周囲はあまりにも激しい温度変化のせいで景色が歪み、気温は一時的には言え、極寒から温暖へと強引に改変させられる。 ここまでの威力、“並み”の魔導師ならば息絶えていたであろうその中で。
「あ、あぶなかった」
白いドレスの魔法少女が、桃色の障壁を霧散させていく。
あたりの温度変化は、纏うバリアジャケットが適応温度として装着者へと何事もなく伝え、今まで通りに無理のない運動を促す。
無事だった高町なのは。 しかしその横に金色の魔導師はいない……そう、彼女の隣には誰もいないのだ。
「ドウイウコトだ、もう一人……」
それに疑問を持つのは当然娘の方。 銀髪をあたりに振りながら、視力による単調な捜索を開始した、その刹那。
「はあああああ――――!!」
「な……に!?」
自身の真上から声がする。
「ハーケン……」
「 」
振りあげた金色の刃は、まるで夜空に掲げられた狼の牙。
それを死に仕える神が如く、少女の手にしたデバイスが、魔力の刃を銀の娘に振りかぶられようとしていた。
「あの爆風を回避した!?」
「…………っ」
距離にして80センチのミドルレンジ。 近接格闘者の記憶、さらにスラリと伸びた脚を持つ娘にとって、有効打撃範囲まで30センチといったところか。 息も詰まるタイミング、正確に、慎重に、お互いが自分達の距離を測っていると。
「セイバぁー!」
「ゼロ距離?!」
――豪風が吹きすさぶ。
「……」
若干遠くから見ている高町なのはの目をもってしても今の速さは尋常じゃない。
既に修行の時からは想像もつかないフェイトの、一歩も二歩も先を行く高機動。 銀の娘を大きく上回ろうとし、それでも速度の上昇は止まらない。
「フェイトちゃんはやい……途轍もなく速い」
風となり、疾風を切り裂き、空気の擦れた跡から電流が迸る。 自然現象すら味方につけて、フェイトの猛攻がとまらない。
金色の鎌を高速で掃い、バターのように目の前の影を切断する……と思いきや。
「残像……!」
「……速いですね」
影が少女の背後を取る。
気づくまでにコンマ2秒。 空気が唸るような、まるで件の瞬間移動を思わせる自然の変化を肌で感じると、鎌を大きく振り切る。
「――ちっ」
「……」
視線を交わすことなく一定の距離を取る女たち。
一斉に吹き荒れた風は、彼女たちの行動よりもはるかに遅い現象であったと明記しておこう。
そして、そんなことですらどうでもよく、銀髪の娘はフェイトの全貌をようやく確認する。 記録と同じ髪型、点在する金属製の装飾……だが。 あまりにも――
「先ほどまでとは装飾の数が……いえ、“質が落ちている”と言えるでしょうか」
「…………こっちも“早い”」
「あの爆風を逃れた理由が、その薄くされた装甲という事ですか……」
「もう見破られた……ッ」
守りが貧弱にされた姿であった。
フリルもなくマントもなく、なのは以下だった装甲もさらに肉抜きされたバリアジャケット。
身体にフィットするように生成された全身のスーツは、まるでタイツかスパッツのように彼女の身体に密着している。 それだけで空気の抵抗を減らす役割を見たし、フェイトの動きの抑制を防いでいる。
「なるほど。 元来、バリアジャケットというモノは魔導師が魔力を常時注ぎ込んでいるもの。 それは当然、魔導師から常に魔力を奪い去っていく謂わば足かせにもなりうる」
必要最小限のバリアジャケットは、ただそれだけで娘の言う足枷を解いたであろう。 だが、バリアジャケットと言うモノは、本来どういうモノのために使われているのか?
それがわからないものなどこの世に……とぼけたサイヤ人くらいしかいないであろう。
「それらを削ぎ落とし、すべてのプールを速度に回して極限にまで高めた。 いわば
いまだ続けられる高速戦闘。
其の中で銀の娘が手のひらを返すと、無数の、60程の短剣が出現……それを禍々しく発光させていく。
「……あかい……ナイフ?」
それを発見した時。
「その薄っぺらな防御。 あそこに居る高町なのはのプロテクションを破ったこの技を受ければ果たして……どうなるでしょうか?」
「マズイ!?」
少女の脳裏に電流が走る――投げの動作に入る前に、回避運動を取るのは当然の出来事であった。
「……はぁ、はぁ」
「おしいですね?」
少女の頬から、赤い液体が零れた。
全弾投擲。 しかし縫うような軌道で飛んだフェイトはなんなく躱したはずだ。
それでもわずかに掠ったのであろうと理解している。 だがそれでも、身体の感覚が訴えている。 あの短いナイフは、自分のバリアジャケットに直接攻撃を通していないと。
「かすってもいないのにこんな。 ここまでバリアジャケットが脆いなんて」
「…………」
確認した尖った性能。
その、あまりにもリスキーな性能に肝を冷やしたものの、それでも高町なのはは動かなかった。 下唇を、若干噛みしめていたという事を除いて。
そしてフェイトは……
「けど!」
「……来るか」
むしろ燃え上がっていた。
「その攻撃はもう喰らわない!」
「大見得を……切る!!」
向かって出たフェイト。 同時に巻き起こる撃鉄は瞬時に轟音を叩きだす。 飛び出る薬莢が雪原に堕ちると、フェイトの周りにプラズマスフィアが生成されていく。
「はああッ!!」
ハイスピードで空を翔ける彼女に追随するように、周りを漂うスフィア達。 それらが身体を一周すると、煌びやかに光って内より光弾を射出する。
「なけなしの弾幕……愚かですよ」
「……」
言うとおりだ。 わかっている。
苦い想いがフェイトの中で鳴り響く。 威力はおそらくなのはのシューターに及ばないだろうその弾丸。 きっと通じない、おそらく破壊される。 当然の結果だけが見る見るうちに思い起こされて。
それを。
「その弱点は!」
「わたしがカバーする!!」
高町なのはの一声が覆い隠す。
「アクセルシューター!」
「プラズマランサー……」
『シュート!!』
掛け声揃えて、極寒の空に、二色の弾幕が扇を広げる。
「……何時ぞやのスターライトへの時間稼ぎと思いましたが。 そう甘いものではなかったですか」
そう呟く娘は、手の内に隠していた仕込みナイフを霧散させると、視線をなのはのみの一直線から、広範囲ターゲットとして少女二人に切り替える。
「広域魔法で落すのもいいですが、この体では負担が大きすぎますね。 ……やはりむこうに合わせるべきか」
つぶやく彼女はそのまま拳を作る。
いまさらながらに、魔導師ではない。 あくまでも闇の書という道具のプログラムである。 つまり、魔導師という枠組みに収まらない戦法が取れるという事であり。
今一番彼女たちに有効な戦法を模索した時に、その身体は一層の堅牢と剛さを携える。
「どんなに速かろうと――」
「くぅ!?」
フェイトを右足で薙ぐ。
嫌でも薄い防御に叩きこんだ攻撃は強烈で痛烈。 こんなにあっさりあてられたことにおどろきつつ、何とか間に入れられたバルディッシュを持ち直す。
「どんなに硬かろうと――」
「きゃあ!!」
なのはにナイフを飛ばしていく。
ありったけのそれは雨というより河川のよう。 途切れないそれはひたすらにプロテクションの壁をガリガリ削っていく。 ……なのはの歯噛みが続く。
「問題ない、叩き潰す!!」
『あああ――ッ!?』
劣勢。 二人掛かりでも追随を許さないぐらいの戦闘能力。
あまりにも厳しいそれは、でも、彼女はまだ不完全なのだ。 それがわかっているからこそ、両陣営は勝負を焦る。
片方は本領発揮を。
もう片方は味方の完全回復を。
どちらが勝利条件を満たせば確実に勝負は決まってしまう。 ……故に、実のところ時間は本当に限られている。
だからこそ。
「まずはあっちの防御が薄い方を……」
娘は、技の範囲をひとつだけ増やす。
添えられるのは右手人差し指と中指。 そのポーズはなのはもフェイトもご存じのよく見るポーズ。 それを、それを知ってしまった二人の驚愕は……
「ま、まさかアレって!」
「悟空の瞬間移動?!」
「コレの速さに追いつけますか?」
一気に地を揺るがす。
「魔に沈みし異邦の旅人……」
集中させるは意識。 しかし集められるのはそれだけではない。
「貫けぬ思いは反逆の始まり……」
フェイトの攪乱と、なのはの補助は止まらない。 いや、勢いは増すばかりだ。 其の中で落ち着いて対応している娘の
「光の中、歩くために捨てた自分……」
残像拳での分身の数は6体。 それに目もくれず、神経と精神の集中を続ける娘の呟きを、ここで言の葉を耳にした少女達の背に、ようやく寒気が走っていく。
「殺してきた己を、今一度解き放ちたまえ……」
明らかにプログラムとは違うどす黒い声色。 まるで呪いにでも掛けられそうな迫力を携えたそれに、なのははそっと行使している呪文をキャンセル。 吸い込まれるように翔けだした。
「砲塔は我が手に。 さぁ、闇に堕ちろ」
どこに? 誰のために?
それはわからない。 けど、どうしても行かなくてはいけないのだと、遠い昔にみたとある少年の記憶が訴えかける。
「おかしいよ……そんなこと、わたしは“視てない”のに――でも!」
行かずにはいられない。
フラッシュバックするのは腹部に向こう側の景色をのぞかせてしまった二人組。 おぞましき光景はなんとも非日常的で……キミが悪い。
だけどその顔は見知ったもの。 ……なのはは、その見知った顔をもつ、もう命の輝きをかき消してしまいそうなほどに弱くなった青年に駆け寄るかのように。
「――――――穿て」
「 あぐぅ?!」
「フェイトちゃん!!」
フェイトを、突き飛ばしていた。
一瞬のことであった。 気が付くことさえもなかった。
なにか光の渦が在ったような気がして、でも、気のせいだと思ったそのときには真後ろから特大の爆撃音が鳴り響いていて。
「今何が起こったの……!」
「はぁ……はぁ……」
「な、なのは……」
それを突き飛ばされる形で回避できてしまったフェイトは、いまだに状況が呑み込めていない。
その後ろで息も絶え絶えのなのはに視線が向く。 当然だ、高速で動き回る自分に迫る螺旋の光弾を、まるで予知していたかのように庇い、突き飛ばしたのだから。
「まさか今の攻撃を躱すとは。 かの孫悟空を殺した大魔王の技だというのに」
「や、やっぱり。 いつか聞いていた生まれ変わったピッコロって人の……」
「悟空を、いまのが?!」
この流れを聞いて、どこか納得していたフェイト。 肝心なことを素通りしてしまったがそんなことはどうでもいいと首を振る。
「気を使っているような感じじゃない……でも、魔力を気の様な運用方法で使ってここまでできるモノなの?!」
「きっと悟空くんからジュエルシードの魔力を奪ったときになにかがあったんだよ。 じゃないと説明が付かない」
「悟空の推測通りって事……か」
互いに視線を合わせて情報を統括する。 その結果がかなりの辛い状況だという事はすぐさま彼方へ追いやる。 そんなものは知っている、今欲しいのはそれ以外の情報だ。 フェイトもなのはも、言葉に出さずに更なる情報を集め出す。
「何か弱点みたいなのは……」
「ないと思う。 強いて言うなら、コピー故の操作ミスを期待したかったけど」
「悟空くんの記憶も垣間見てるはずだし、それも期待できない?」
「うん」
それでもダメなものはダメ。
あまりにも隙がない布陣。 サイヤ人よりも強い、しかも自分達と同じく魔法関係者にここまで付けられた差というのは、少女達に内心ながら傷をつけるのはたやすい事だった。
「早くしないとこの世界が崩壊しちゃう」
「どうすれば……」
少々の不安は希望を取り払う隙となる。
それを見逃す銀の娘ではない。 彼女はかざした右手を握り締めると刹那、高町なのはの目の前に現れる形となる。
「――あ」
「まず、ひとり」
脱落者の確定。
なのはの目の前に、鋼鉄よりも娘の足刀が迫る。 それは当然鋼鉄よりも切れ味の増した闇色の刃。
先の
「うぐぅ!!」
「……っ? よけた……」
唐突に膝が折れ曲ったなのはは上体を反らす。 偶然だったろうか、本人ですら戸惑うタイミングでのスリップダウンは、幸か不幸か銀の娘に隙を作る。
振りかぶられた後の足。 それを戻す圧倒的な隙を。
「いまだ!」
「しま――」
見逃すわけないと踏み込むフェイト。
金の刃を振りかざし、今の状態で持てる限りの速度で間合いに侵入した彼女は、そのまま空気を切り裂く。
……切り裂いたはずだった。
「挟み込んだ!?」
「……惜しかったですね」
「くっ」
戻した途中だった足と、開いていた腕。
それを最速のタイミングでフェイトの攻撃に追随すると、右側からくる攻撃を、下から膝、上から肘で挟み込んでやる。 真剣白刃取り……このタイミングで成した芸当は、フェイトにとっては最悪の事態だ。
武器を掴まれ攻撃に移れない。
「はあああっ――」
「……ッ」
「フェイトちゃん!!」
残るのは左半身。
右側を防御に割り振っていた娘は当然のように全魔力を左半身に集中。 特に濃く光らせた左腕は、まさに奈落の底のように禍々しく光らせている。
当たれば壊滅は必然!
高町なのはの援護も受けれぬまま、防御を極端に減らされたフェイトの顔面に、娘のカウンターが唸りを上げる。 ……空に、漆黒の鳴き声が木霊する。
筈だった。
疾風のように突きだされた。
怒涛の如く貫こうとした。
打ち砕かんと確かに放った――――――…………それを。
「…………よぉ」
「……う」
掴み取る者がいた。
手には青いリストバンド。
足元も青く染め上げられ。
しかし身体は太陽の輝きに満ちた山吹を纏いしその者。
視線は交えない……恐ろしいから。 だってそうだろう、いま、銀髪の娘の中に浮き出る単語の数々と言えば「失敗」「最悪」「苦難」「苦痛」……「苦痛」「苦痛」――「激痛」――――そして、“万力”という聞きなれない単語。
なぜ万力? そう、自分でも一瞬だけ思った刹那である。 彼女はその広大な知識を総動員して、謎を一気にひも解いてしまう。
万力(parallel bench vices)……工具の分類に入り、ある素材を挟み、備え付けのハンドルを回すことで力を咥えていき、そこから変形、加工などの作業を行う際に使ういわば固定工具。
ただし、使い方を誤り、挟む力を強くし過ぎると素材を破損させる恐れがある。
「ぐぅう!?」
「…………なにやってるんだよ、おめぇ」
…………破損させる恐れがある。
「い、痛ぅ……!」
「こんなことして……誰が一番悲しむと思ってんだ」
………………破損させる恐れが、ある。
「あいつが何考えて、おめぇにどういった“願い”を言ったかは知らねぇ……けどな」
「……っ」
腕に、聞いたことがない悲鳴が上がる。
娘の腕は一向に動かない。
当然だ、この“男”のチカラはこの世界で並び立つことがないほどに無双であり、強靭なのだから。
まさに万力に挟まれたかのように微動だにしない娘の、そのか細いとさえ思える腕に、青年の右手が掴まれている。 男に緊張はない、だが、それとは正反対に彼女の顔は青ささえ見られるようで。
「もしもこのままおめぇたちがこんな馬鹿なマネを続けるなら。 ぶっ叩くじゃ済まさねぇぞ!!」
「うっ……!!」
嵐が吹きすさぶ。
不可視のエネルギーが、一陣の風となって全てを吹き飛ばす。 だがそれでも青年と娘の距離は変わらない。
……絶対に放さない。 そう感じるのは手の痛みが引かないから。
「離しなさい!!」
「…………」
痛みが続く中で振りきった右足。 当たれば岩をも砕くであろう強さと速さを兼ねそろえた必殺の一撃。 空気を裂きながら目指すは青年の胴。
身長差からこれ以上先を目指せない彼女は、そのまま体を真っ二つにする勢いで蹴りぬける。
「……」
「あぐ……あ、あぁ…………」
響き渡る……こえ。
聞くものに愁いすら与えそうになるほどの切なさは、彼女が本当に必死だったから。 そして、そんな必死さを真っ向から受けたはずなのに微動だにしない青年は……避けずにただ、娘の足を脇腹に収めていた。
「どうした? こんなもんじゃねぇだろ」
「……く」
防御すらとらないのか。 其の一言すら出てこない娘は、逆に痛む自身の足を見る。
「痛っ……」
「…………」
ジワジワと広がっていく痛みの波。 思わず歪ませた顔を見たなのはとフェイトも、似たような顔をしていた。 痛そう……そんな気遣いすら漂うのは当然だ。 あの戦士を蹴ったのだ、そう、ただそれだけで他にいう事なんかないであろう。
硬い、ただひたすらに硬いその身体には、目の前の小さき者の攻撃など飼い主に甘噛みする犬の戯れにすぎないのだから。
……その甘噛みが、必死の抵抗だったという点を除いて、だが。
「その姿になった途端、まるで上から叱りつけるようですね」
「……まぁな」
精一杯の皮肉だ、こうでしか反撃できないのは周知の事実。 それくらいに付いた戦闘能力は、娘が一番危惧していたこと。 だから先に叩き潰そうとしたし、こうやって追撃にでようとした。
「予測した時間とはかなり誤差がある……」
「計算だけで測れるもんじゃないんだ。 サイヤ人ってのはな」
「…………」
それすらも上回る孫悟空という男に、ついに戦慄を覚えた娘は悟る……
「終わりですか……しかし、貴方の手で葬られるのなら」
「……」
自分の死期。 昨日までとは違う、圧倒的な存在を前にして悪あがきすらしない……できない。
今までの進撃が嘘のような消沈振り。
無理もない。 彼女は蒐集の際に垣間見た記憶の中で確認した、今の悟空の戦闘能力が怖くて先制攻撃を仕掛けたのだ。 それを、あっという間に阻止限界点を超えてしまわれては気力もなくなるであろう。
「ずっと考えてたんだ……」
「…………え?」
そんな彼女を知ってか知らずか、山吹色の道着を揺らし、背に負った染め抜きの字が如く、彼は言葉を交えていく。
「あんなに生真面目で堅物でよぉ。 そんで、何となくだけどやさしい奴だったおめぇが、どうしてこんなことすんのか」
「……」
「……なにか妙なことでもされたんだろ」
話し合いをしよう……
しかしその目は彼女を見ていなかった。 真っ直ぐで、一本気で……それでいて遠くを眺めるかのよう。 彼の黒い目は、娘の赤い瞳――その奥深くを見事射抜いていく。
「そこにいるんだろ」
「……え?」
「悟空くん?」
「……悟空」
低音が、皆の心に突き刺さる。
あまりにも深みがかった青年の尋ねる声。 まるでたった一人だけで戦ったとある男のように、それは凄みを帯びていた。
「隠れていたって無駄だ」
手をのばす。
実際には動いてないのだが、そう錯覚してしまうほどに放たれる気迫。 これには堪らずなのはとフェイトも気後れと後ずさりを行う。
「いい加減、“おめぇたち兄弟”と関わりあうのはうんざりだ。 下らねぇことばっかりやって、それで他の奴に迷惑ばかりかけやがって、この――」
『…………?!』
悟空の声はさらに空間を鳴らす。 その行きつく先が、まるで物理を通り越した異次元的な物へと達するときであったろうか……
「……ふっ――――」
「なに?!」
「悟空くん!!」
娘の手が、悟空の側頭部を際どく切り裂く。
ハラリと舞い散る悟空の黒髪。 数本のそれは、彼がギリギリで回避を取れたという事を強く証明する。
その光景になのはもフェイトも肝を冷やし、彼等の第2ラウンドが始まると思考の中で予感して……
「今のは――か、カラダが勝手に!?」
「……く」
『え?!』
想像外の出来事に思考をかき乱される。
娘の見たことのない困惑顔。 怯え、竦み、今にも瓦解してしまいそうな感情の城壁。 彼女は確かに自身の行動に衝撃を受けたのだ……青年に対して、半ば降参の形を取ったはずなのに。
「あぅ!?」
「どうなってんだ――」
気づけば彼に胴回し蹴りを放ってしまう。
受け止めてしまった悟空は眉をひそめ、その感触に疑問を覚える。
「さっきまでとは威力が違う?!」
自身にめり込む彼女の力が、先ほどまでとは比べ物にならないという点。
いくらなんでも違いが過ぎる。 言うなれば、魔法を使えるようになったなのはと一般人くらいに広がった戦力差に疑問が消せない。 そうこう考えながらひたすら飛んでくる拳とケリを捌く中。
「……っ」
悟空の頬に、なにかぬめりとした液体が付着する。
「……ぐぅぅっ!」
「お、おい。 おめぇ!」
片手で拭い、リストバンドに付着した黒ずんだ染み……それを見た瞬間に悟空の表情は険しさを増す。 その間にも繰り出されてくる拳打の嵐を――
「ちっきしょお!」
「うく!」
『…………?』
苦い顔を作って“避ける”
「気付いた、なのは? 悟空の様子が……」
「う、うん。 なんだかとっても苦しそう」
魔法少女達も気が付いた。
悟空のとった回避行動の意味を、それに伴う相手側の変化と実態を――
「くぅ……っ!」
「あ! ……ま、まずい」
受け取る矢先に砲撃を打ち出すような音が響く。 同時に漏れる小さな悲鳴は娘のモノ。 苦しそうに、耐えるように、今すぐにでもつぶれてしまいそうなか細い声に、悟空はまたも戦闘力を全体的に下げる。
「そうか」
「フェイトちゃん?」
気づいた、そう声を出したのは金髪の少女。
悟空の動きの変化と、銀の娘が醸し出す独特な雰囲気を鋭く見つめていた事、数秒の後であった。 近接格闘に優れたフェイトだからわかる彼らの戦いかた。 そう、これはまるで――
「あの闇の書の人、まるで自分の持ってる以上の力をこう、無理やり引き出されてる感じがする」
「どういうこと?」
「人間っていうのは、普段から自分が使える全力を発揮できないようになってるんだ。 発揮しちゃうと身体がその力に耐えられないから」
「うん」
魔導生命……仮初の命とカラダを持った者に対して、それが当てはまるかはわからない。 其の一言を付け足すフェイトは、理解が半分だけしか追いつかないなのはを見ると、暗い顔で続きを述べていく。
「しかもそんな無理な力を出して、さらに悟空みたいに鋼のように鍛え上げられた身体に勢いだけでぶつけたら……どうなると思う?」
「あ!」
「答えは簡単。 ……撃ちつける方の自滅。 しかも躱しても勢い任せの攻撃はそのまま自分の身体を引き裂こうとする」
「……そんな」
フェイトの返答に、当てはまるかのように痛々しい音が飛んでくる。 何やら細い繊維を急激に引っ張ったかのような音が響くと、目をつむり、耳を塞ぎかける子供達が居た。
あまりにも一方的な、しかも本人たちにその気の無い……死闘。
繰り返される痛みの声が、悟空の胸元にぶち当たる中。 なのはとフェイトのふたりからは、この時より“敵”は居なくなっていた。
「悟空くん!」
「お願い! そのひとを――」
叫んだ。
闇雲に、何の解決策もない現状で、只必死に訴えかけた。 このままではあの銀髪の娘がかわいそうだと……痛めた拳を必死に堪えているあの子を思い、少女達は孫悟空に叫びを上げる。
その声に。
「…………ああ! オラだってそのつもりだ」
悟空は即座に返答。 行動にて示す。
彼が取ったのは回避と攪乱に特化した残像拳。 ワンフレーム以下でとった背後から、娘の脇の下から手を突っ込み、そのまま拘束する。 ジェットコースターの安全装置と言えばいいだろうか? そのような形にした悟空は――
「これで動けねぇだろ――っ!」
「う、く……ぁぁぁぁあああああああああっ!!」
「おい、何してんだおめぇ! 腕が引きちぎれちまうぞ!!」
叫んだ彼女の筋組織に、思わず背中に汗を流す。
まさに熾烈と言えばいいだろうか。 あまりにも必死が過ぎる娘に、悟空は判断を迷う……このまま捕えていては娘の生命にかかわるかもしれぬ、と。
「あああああああ――――」
「やばい……くぅ!」
あまりにも大きな悲鳴を聞いたとき、ついにその手を離してしまう。
「まさか操られてるのか? だとしたら汚ぇことしやがって――」
「はぁ……ぁぁあッ!!」
「オラが強くなってもこれじゃあよぉ」
ここに来て仕込まれていた搦め手。 これにはいかに強戦士でも戸惑いは隠せず、戦闘の手を止めてしまう。
それでも聞こえてくる娘が壊れていく音に、苛立ちすらわき起こして悟空は奥歯をかみしめる。
「あのヤロウ……」
「避けて――」
『あ!?』
悟空の首が大きく捻られる。
しかし視線はそのままで、意識も先ほどと同じ方向。 明らかに娘の拳を見ていない彼は、だけどその衝撃は双方に微弱な大きさでしか伝わっていない。
「痛みが……ない?」
娘が疑問に思うのは当然だ。
先ほどまでの壁をひたすら殴っている感覚とは違う。 まるで羽毛の如き包まれたその拳は、必要最低以下のダメージすら与えていないのだから。
カラダを捻り、首を傾け、向かってきた拳をギリギリまで車のアブソーバーのように和らげると、全身を包んだ気で彼女のチカラを霧散していく悟空。
その原理が分らずに、何がどうなって……そう呟く声は空気に霧散していき。
「なぁ」
「え?」
彼は、ついに娘と。
「どうすりゃあいい……」
「……あ」
言葉を交えることが出来た。
「オラはどうすりゃあいい?」
何かできることはないか? ……そう聞くこともできたけど、そうしなかったのは手を貸すことが確定事項だから?
そんな難しいことなど考えていないだろうが、聞かされた娘はいま――
「……すけてください」
事ここに来てようやく切りだせた正しき答え。
いままで分らなかったのであろう。
理解の範疇外だったのであろう。
困ったことがあって、それが自分の出せない答えだった時の対処法は決まっていたのに。 それが判らないのは彼女がプログラムだから? 知らないし、聞く意味もない。
なぜなら悟空は。
「私たちを、助けてください……!」
「あぁ、その言葉を聞きたかったぞ」
既に心を決めていたから。
「なのは!」
「は、はい?!」
悟空は目も向けず叫ぶ。
後ろにいる魔法少女達に、今やれるだけのことを即座に指示にして飛ばす。
「オラがこのまま引きつけておく。 その間に魔力をありったけ込めた攻撃でコイツを撃つんだ」
「ええ!?」
「悟空ホンキ!?」
言われた言葉は衝撃的。
救うのに攻撃とはこれいかにと……彼のやることが判らなくなる刹那であった。
「おめぇたちには“便利な攻撃方法”があるのを忘れたんか? アレをいま使わねぇでいつ使うんだ!」
「……非殺傷……モード」
「そうだ。 オラがやって気絶させても、下手すりゃそのまま襲い掛かって来るかもしれねぇ。 魔力を一気に消費させて、戦闘力を奪うんだ」
「そっか!」
「フェイトもいいな! ふたりで一気に決めるんだ。 なるだけこいつに負担を与えないよう、一瞬でカタぁつけれるようにな」
「は、はい!」
フェイトがつぶやき、なのはが大声で答える。 その場面で悟空がほんのりと笑う……一瞬だけ。
それがさざ波のように引くときであろう。 銀の娘の身体は、またも悟空を襲う。
「右です!」
「あぁ」
それを、精一杯の支援かのように己の行動を先に発する娘。 彼女は悟空と視線を交えながら、まるで踊るように武闘を繰り広げる。
「左!」
「……っ」
繰り出される胴回し蹴り。
交わさず防がず、いなすように威力を減退させる悟空はここでもまた笑う。 戦闘民族の気性が生き生きと発揮される瞬間であった。
「真上から――」
「カカト落としだな?」
「……はい!」
頭上で腕をクロスさせ、足の接触と共に交差点を下にずらす。 打撃をずらすことで上下にも対応させてみた悟空の驚異的な順応能力に、放つことを強要させられている娘も舌を巻く。
ここまで、出来る人だったなんて……と。
どこまでも続くと思われた舞踊。 いや、武闘はここで一旦の幕切れになる。
充填された二人の魔力。 もう、ダンスは終わりだと鐘が鳴らされる直後の事であった。
――――――おのれサイヤ人……
「いまの声……!」
「わ、私じゃないですよ!」
どこからともなく聞こえてきた鉄の音。 暗くて深くて、憎悪に満ちて。
どこまでも何もかもを見下し、打ち崩していくかのようなその声を聞いた途端。
「……この声は、クウラだな?」
孫悟空から朗らかな雰囲気が消える。
【邪魔ばかりしやがって……!】
「そっちこそ余計なことばかりしやがってよお。 邪魔すんな!」
【気に食わないんだよ……お前は!】
「気が合うな。 オラもだ」
いきなり話し込む二人。
姿は見えずとも空気でわかる。 だから悟空は娘に視線を配り――気を張る。
「その身体返せよ。 おめぇが好きにやっていいもんじゃねぇし、好きにさせる理由もねぇ」
【それは知らんなサイヤ人。 このオレを取り込んだのはこの小娘だ、むしろ被害者はオレだとは思わないか?】
「……そうか」
『ッ!!?』
身体がしびれた。
なのは、フェイト、そして銀の娘が背筋を伸ばす。 電流が走るかのよう衝撃は、操られていようが関係なく、その身体を震わせる。
「じゃあ出てけよ」
【……これは随分と――フン】
正面切ったセリフも、聞こえてくる声には何とも思わなかったのであろう。 余裕の仮面を揺さぶることなく、悟空に冷たい言葉を続けていく。
【それにしても貴様ら親子はつくづく我ら一族に楯突く】
「なに?」
【バーダック、ソンゴクウ、そして……ソンゴハン。 どいつも似たような目をしやがる。 そう、そこにいる餓鬼どもも丁度似ている】
忌々しい。 そう、誰もが取れる声色だったか。
【背丈も、表情も】
そんな感情を見せたクウラの声は……遂に――ついに地獄の釜を開けてしまう。
【貴様の息子にだ――ッ!!】
「あぁ、そいつぁ良い褒め言葉だな」
『……………………………………………………………………………………え?』
何かが、音を立てて亀裂が入ってしまった
「ご、悟空くん。 いまね? あのひとね? 何を言ったかキコエナカッタノ」
「なにって…なに言ってんだ、こんな時に…」
白いドレスが乱れた気がする。
なにか取れてはいけないモノが軽はずみに飛んで行って、暗い谷底へ落ちた感覚。 それを感じ取ったとき。
「おかしいよ……ね」
「!?」
「孫悟飯っておじいさんの名前だもんね? そんな、自分の祖父の名前を■■にあげるだなんて幸せ真っ盛りなことなんてしないよね」
ツインテールが解ける。
ロングの髪型は、ただそれだけで淑やかさを見せるはずなのに、その姿はまるで風に揺られることを許した心を表すよう。 ……彼女の気持ちがブレる。
「シナイヨネッ!!」
「フェイト……!」
懸念すら“されることがなかった”異変は、とうとう現実のものとなる。
「ま、マズイ!!」
なぜわからないのですか?!
貴方は今、このクウラがどんなに重大な地雷を打ち抜いたかわからないのですか!!
「なんだ!? なのはとフェイトの様子が?」
それは変にもなります! 今あの子たちはまさに崖から飛び降りてしまった猪と一緒なのですから。
走りきった後は落ちるだけ。 もう、あの子たちを救う手だてが……
【ほほう。 これはこれは】
「な、なにしたんだおめぇ!!」
クウラが怪しげに笑った……気がした。
いかにも全てが分かったというような下種な声。 聞くだけで心底を煮え切らせるには十分なそれに、怒りの目を向けるのは仕方ない事でしょう。 ……ですが今回だけは。
――――あなたが悪い。
「孫悟空」
「な、なんだよ……?」
そのような何もわからないという視線……これはやはりそう言う事ですか。
垣間見た記憶の中になかった時から思いついては、あまりにも非道だと思い使わなかった手段。
偶然にも今使われてしまったこの――最悪の事態をどう切り抜ければいいのでしょう。
いいえ、もしかしたら間違いの可能性も否定できません。
「一応の確認です」
「なんだこんな時に」
「あなた、あの少女達に自分が妻と子供が居るということは知らせなかったのですか?」
「…………?」
この顔……間違いないようですね。
「なぜ今まで黙っていたのですか!!」
「なぜって……そんなのいま関係ねぇだろ!」
そ、それは普通ならばなかったのですが……しかし!
「ふふ……むす、こ」
「…………あは……はは……むすこ……悟空……くん」
『!?!?』
なんですかこの負の波動は!? ありえない……人間が、それも気の修行を施されないただの魔導師がこんなものを背負うことが可能なのか!?
しかし見えてしまった物はどうしようもない。 ……ここは、悟られないように“彼に伝えなくては”
「孫悟空。 彼女たちを抱えて今すぐこの世界から逃げてください!」
「……?」
【…………ほほう】
いけない! クウラが彼女たちの異変に気づき始めた。
もしもアレを奪われでもしたら……最後のタガを外してしまったら……もう、私に出来ることはなくなってしまう――
「お願いだ孫悟空! 今すぐここから逃げてください!!」
「逃げるなんてできるかよ! あともう少しじゃねぇか!?」
「もう少しなのは彼女たちの心の均衡です! そしてクウラにはもう――」
ばれてしまっている……はやくはやくはやく――彼女たちを抱えて瞬間移動なりなんなりつかって退避をしてください!
でないと……あぁ、うでが……腕が!!
「あくぅ……は、はやく逃げて……」
「お、おい!?」
心配そうな顔。 当然でしょうけど今はそんな顔よりも早く……はやく“その子たちを私から遠ざけて”――ここから居なくなって!!
「………………………もう、こんなせかい」
「どうなってもいいや………………………」
「な、なのは!? フェイトもどうしたんだよ!」
ダメだ、それ以上はいけない……。 心が闇に堕ちていく。
深すぎる情愛が裏切られた今の彼女たちは空っぽだ。 その身に膨大な魔力だけを宿したただの魔力タンク。
身も心も……支配はたやすい。
「逃げて!!」
【いいや、その必要はない】
「だめだ!!」
【ははは!! これはいい餌が出来上がったじゃないか】
さ、最低で卑劣な奴め。 どうすればいい……孫悟空はまだ状況が呑み込めて無いようだ。 あ、今やっと動き出した。
まだあどけない動きですが、警告通りに彼女たちを背負って――くぅぅ、その前にわたしが。
「旅の……とびら――ぁ!」
【まだあと数十の“ページ”が埋まってなかったのだろう? ちょうどいい、あいつ等で終いにしてやる】
「なに言ってんだ……おめぇら……!」
開くなひらくな……魔法を発動させるな!!
あぁ……でも、勝手に詠唱されてしまう。 もう、自分でも抑えることが出来ない!
「ダメ……やめなさい!!」
「おい、何がどうなって――!!?」
【……いいぞ】
生成されていくのは緑色の円陣。 ひとつ、ふたつと私の両腕が入るものに形成されると、そのまま円が景色を映しだしていく。 見えるのは黒と白、あの子たちの背中だ……ここから先はもはや言うまでもない――
「止めてください孫悟空!」
「なにをだよ!?」
「コレは……クウラはあの子たちを――」
私の足りないモノをあの子たちから――
【もう遅い――貰った!!】
「しまった!」
「な……に!?」
感触はない、ですが暖かくて……温かい。 とてつもないほどの重厚感でありつつ羽根のように軽く……柔い。
そんな不可思議な感触はいつ以来だったか。 もう、数えきれないほどに過ぎ去った年月を思い出す中でわたしはついに把握する。
私の両の手平に――リンカーコアが握られてしまうという事実を。
【これで全て終わりだ! この純粋な魔力、すべていただき完全体になってくれる!!】
「やめなさい……やめて!!」
「なのは! フェイト!! ……おめぇ、クウラ!!」
きっとあのひとから見たら、とても凄惨な光景なのでしょう。 けど、痛みはないはずです……少しだけ苦しいかもしれないですが……あぁ、ダメですね――もう、いしき……保てない。
「…………」
【いいぞ……想像以上だ】
わかるのは感覚だけ。
視覚情報その他はすべてカットされている。 クウラが何かしかけてきたのであろうことは一目瞭然だ。 あぁ、負けてしまう。 このまま何もできず。
「…………」
やさしい睡魔、いつも通りにやって来る眠りの時間。
今私がやれることがなくなったと、ハードが要求するシステムなのだからこれは抗いようが無い。
「けど」
だがこれでいいのか? なにか、なにかやれることはないだろうか。
「そう……だ」
あの人はこういうどうしようもないとき、何をどうしていたのだろうか。
いつも私があきらめるときは、あの人はどうしているんだろう。
眠ってしまいそうになる、そのときに芽生えた疑問は酷く強烈だった。 気になると、一度思ったらあの黒髪が私の目の前で優しく揺れていて……つい、手をのばしてしまう。
「……あぁ、そうだ」
気になったというより、まるで
「そう、だった……」
あきらめないというよりは、意地が支えみたいで。
無敗というよりは、負けることを認めたくなくって。
最強というにはどこかぬけていて。
それでも、どこか孤高なところは私のいまの在り方に似ていて……
「は……は……こんなこと、この数百年間で……」
気づかないなんて。
「在り方はこんな簡単に……」
間違いの正し方はこんな近くに。 ……気付くのに長い時をかけてしまった。
「……な、ら」
私も、彼に見習ってみよう。 血を吐いてでも勝ちを追い求め、地を這ってでも価値を見出す戦いに身を投じて。
「……どうなっちまってんだ」
あの娘の行動がクウラに支配されて、そしたらなのはとフェイトのふたりがおかしくなっちまって……そんで腕があいつらの胸から出てきて――いや、違う。 あいつ等、きっと魔力を奪われてんだ。
このあいだオラがやられたのと同じことされて……ってことはまさか!?
「そうかわかったぞ。 クウラの奴、このまま闇の書を完成させるつもりだな」
いまさらあんなの完成させてどうするつもりなのかはわかんねぇが、それでもそんな下らねぇことになのはたちを利用させてたまるか。
全身に力を出して、舞空術でなのはとフェイトの近くに飛んで行こうとしたんだが……
【おっと、貴様はそこでじっとしててもらおうか?】
「すると思ってんのか!!」
あいつ等があぶねぇって時に動かない訳ねぇだろ?!
ちっ。 あの光ってる球みたいのがリンカーコアだとは思うけどよ。
……だんだん小さくなっていきやがる。 まずい、それに同じ勢いで気の方もドンドン落ちていきやがる。
こうなったら強硬策だ、瞬間移動で――
【言って置くがサイヤ人。 今このガキたちのリンカーコアを握っていることがどういう意味か分かるか?】
「……な、に?」
【このコアは魔導師にとって心臓と同じモノ。 つまりそれを直接握っているこのオレの意にそぐわないコトをすればどうなるか、幾ら知能の低いサイヤ人とてわからないわけないだろう?】
「こ、……この――」
このヤロウ! 人質だなんて汚ぇマネを!!
これじゃ引くことも責めることもできねぇ。 ……そう言ってる合間に、なのはたちの魔力も気も、一層低くされちまってる。 マズイ、どうすりゃいいんだ!?
言ってる合間に娘の魔力が一気に膨れ上がってく。 おそらくなのはたちの魔力を取り込んで完全復活をしようとしてるんだが……こ、こんなことでそれを許すなんて。 オラの誤算だ、あいつ等自身が餌になるなんて思ってもみなかった。
「ち、ちくしょう……」
もう、あいつ等の魔力を感じねぇ。 こんなに近くにいるのに、全くと言っていいほどだ。 ……もう、手遅れなのか? どうしようもねェのか……
「く、クウラぁ……」
おめぇ、そいつらが要らなくなって開放してみろ。 そしたらありったけのかめはめ波ぶち込んで粉微塵にしてやる。 ……さぁ、はやく食い終わっちまえ――
【――――と、貴様は考えるだろう】
「なに?!」
なんて言いやがった今!
も、もしかして……だが、このままってことはしねぇはずだ。 だったら……
【このガキども、掴んだままというわけにはいかない。 それは正しいが……考えが甘いな超サイヤ人】
「なんだと!?」
いちいちこっちの考えてる事を言い当てやがって。 だがどうするつもりだ、いま言われたとおりこのままってわけはねぇだろうし。 ……な、なんだ!!?
「なのは達の身体が……身体が!!」
黒い霧みたいのに覆われてく……姿が見えねぇ!!
どうなってんだ、いったい何が起こってる……気の方も今ので完全に見失っちまった……!!
なのは達を覆っていた霧が、その場から動き出す。 なんとか救おうとするけど、あれじゃ下手に手を出せない。 攻撃して、もしもあいつ等にダメージがいった時を考えると……手がだせねぇ。
【ようこそ……我が肉体へ!!】
「…………ッ」
まるでアイツの腹ん中に収められるように取り込まれちまったなのはたち。 ……やられた! これじゃあいつ等を救うことができねぇ。
つい、二の足を踏んでしまうオラだけど、ここに来て娘の方に変化が起きた。
「孫……悟空――ッ!!」
とっても苦しそうに、けど、力強く自分の意思で動き出そうとして。
「これを……これだけは――!!」
そう言って飛んできたモノがあった。
あの娘の周りに出来た光りがこっちにやってきて、それをなんとか落とさずに掴み取ると中身を確認する。
物は合計で3種類。 ちいさなおもちゃの剣みたいなもんと、指輪、それと腕に付ける防具みたいなヤツ。 ダメだ……こんなもん渡してどうしてほしいのかが見当つかねぇ。
「オラにどうしろっていうんだよ! なぁ!」
「……願い……ます……」
「おい! ……ちくしょうアイツまで」
消えたあの娘の意識。
もう、ここに残ってるのはオラとクウラしか……ん!?
「この気、オラ以外にも……だれだ!?」
【…………うぉぉぉぉぉおおおおおお!!】
「なんだ!?」
一瞬だけ見逃した奴。 それが致命的だったのかはわからねェが、とにかく、あいつが急に雄叫びを上げやがった。 甲高くってうるさい……どこまでも聞こえるってくらいにな。
「お、おい……アイツの身体がシグナム達みてぇに」
【ふは……ははははははは――――ッ!!】
うるせぇ。
【ついに、ついに手に入れたぞこの体。 自由だ……自由を手にしてやったぞ!!】
少し、黙ってろよ。
「……調子に乗んのも今だけだぞクウラ」
さすがのオラも限界だ……我慢、ならねぇ……
いきなりだが気を最大限にまで高めるんだ。 今の奴が持ってる気と魔力、それがどこまで膨れ上がろうと関係ねぇ。 ここまでやられて黙っていられる奴はいねぇだろ……一気に…一気に――ッ!!
「叩き潰してやる……っ!!」
「ほう、ついになったか。 ……超サイヤ人」
全身から金色の気を噴き出して見せる。 それだけで自分の力を把握して、今ある限界を理解する。
今のいままでやってきた修行で、おそらくだがフリーザと戦って来た時よりも基礎力はかなり上がっているはずだ。 それこそ、通常状態で5倍の界王拳を使ったときくれぇには力を上げたつもりだ。
そしてそのパワーを超サイヤ人になったことでさらに上げる……かなりのレベルにまで力は上がったはずなんだ。 だが……
…………正直、今の奴には届かないかもしれねぇ。
「それでも許せるわけねぇだろ。 こんなヤツ!!」
「……まだ上がる……戦闘力が膨れ上がるようだぞ!! ふははははあ――」
あの娘の姿をして、馬鹿みてぇに吼えるクウラ。 その身体が前に見たシグナム達みてぇに変わると、そのままいつか見たあの姿に……フリーザと同じ姿に変わっていく。
色は銀色、質感はおそらく金属と言ったところしかわからねぇ。 それに、姿が変わってさらに気が上がった感じだ。 ……手が付けらんなくなるぞこのままじゃ。
「このまま完成させる訳にはいかねぇ、一気にケリをつけてやる!!」
そう言って右手に気を集める。
見た目からして固そうな上に、相手はあのフリーザを超えるパワーを持ったヤツだ。 それになのはたちを人質にされてんだ、戦いを楽しんでる余裕もねぇ。
一気にたたみかける気で行かなけりゃ、こっちが先に殺されちまう……油断は、できねぇ!
「…………いくぞ」
「来るがいい、このオレが味わわされた苦しみ……その身体に刻み付けてやる」
『はああああああッーーーーーー!』
金と銀。 本来ならば交わることがなかった光たちが激突する。
闘うモノと使役していたモノ……その頂上に立つ者同士の激闘が始まったのだ。 その戦いは文字通り空を焦がし大地を割る。
既に崩壊しようとしているこの極寒世界の終末を、さらに拍車を掛けることは誰の目にも明らかであった。 ……星が、世界が、彼等の存在に追いつけない。
「……」
「…………なっ!?」
クウラの懐へ放った悟空渾身の一撃。
光り輝いていた右手はそのまま奴の胸部装甲に……接触して動かない。
「ぐっ!」
「効かんな」
鼻で笑われる事、一瞬の間であっただろう。 全身を深く据えた悟空はそのまま両足を軽く曲げる。 地に近づく屈伸運動を行い、力の流れを急速に増幅させる。 ……彼は、立ち上がると同時にケリを放った。
「だりゃあ!」
「……くくっ」
盛大な音と共に聞こえてくる嘲笑。
こんなに開いた力量はターレスやフリーザ以来だと歯噛みした悟空は、そのまま――
「なんだこの足は?」
「しまっ!?」
「へし折ってほしいのか?」
脚を掴まれる。
すね部分を相手の脇腹に当てた姿勢。 そこからクウラが体制を変えると、足首を掴まれ、身体ごと悟空の足の可動範囲とは逆の方向へ回転しようとする。
てこの原理で易々おられる――!!
即座に下した判断で、悟空はカラダを預けるようにクウラに投げ飛ばされることを選んだ。
「ぐぅぅぅ――!!」
「……こんなものか」
地表に激突し、積もっていた雪を大空へ舞い上がらせる。
すぐさま降り注いでくるそれらを気合で吹き飛ばし、彼はダイヤモンドダストと共に残像拳を仕掛けるのである。
煌びやかに、それでいて尖った彼の戦法は――陽動。
隙のある先ほど仕掛けた反対方向に位置する右側頭部へ拳を撃ちぬこうと、まるで撃鉄を起こすかのように腕を振りあげた……しかし。
「…………効かんぞ?」
「……これもダメか!?」
打ちつけた先には、冷たい金属音が鳴り響くだけ。
感触でもわかってしまうダメージの少なさは、そのまま彼我戦力というモノを見せつけるに至る。 悟空は……思わず額から汗を垂らした。
「いいぞ、大分身体が慣れてきたようだ。 動きにラグがなくなりつつある」
「へ、へへ……こりゃまいったな。 こっちの攻撃が効いてねぇ」
「……」
「しかもあっちはまだパワーが上がるみてぇだ。 ……どうすっかな…………はは」
落ちそうになる肩を上げ、砕けそうになる膝は叩いて起こす。 グラリと揺れた景色で一瞬の脳震盪だ気付くと……だったらまだやれる――そう思って悟空は薄く笑う。
「残念ながら貴様の相手はここで終わりにさせてもらおう」
「なんだと?!」
しかしここで聞いたのは……
「もう、貴様とはだいぶ力に差が付いたのは確認できた。 正直言って満足するほどにな」
「……く」
「そしてこのまま遊んで貴様にパワーアップの時間を取らせるつもりもない。 あのときもそれで失敗したことだ……このまま――」
「…………アイツまさか!」
何よりも恐れていた。
「この世界共々、消えてしまえ!!」
「このあいだの……させ――」
どうにもならない世界の崩壊。
不意に、そう、不意にあげたクウラの人差し指。 あっという間に生成された太陽と見紛う色のエネルギーの塊……“スーパーノヴァ”は、悟空が見ただけで冷や汗をかくほどの気を内包していた。
それをどうするか? 決まっている……当然投げるのだ。
「さらばだ超サイヤ人……ふふ……はははははは!」
「く、クウラぁぁ――っ!!」
避けることも許されなかった。
反撃だって出来るわけがない。
ただ、当てられて流されるだけだ……滅亡の奈落へ。
「ち、ちくしょお! こんなもの落とされたらこの星がもたねぇ……ぞ!」
逃げることは今からできるかもしれない。 しかしそれをするには足枷がひとつだけあった。
いま、この星には誰が居る? 悟空? クウラ?
誰か忘れていないだろうか……?
「た、たぶんこの気はアイツだ。 ドラゴンボールを探して二手に分かれたんだろうけど……どうすりゃいい!!」
其の人物を守るためだけに、悟空は回避の行動を消されてしまった。
スーパーノヴァを身体で受け止めること数瞬の所だ。 既に地表ギリギリで、いつ大地に接触してもおかしくないところを踏んばっている。
それはクウラが差し向けた死刑執行の余興だとも理解している悟空は歯噛みする。 ……鋭く、緑色に輝く瞳を唸らせながら。
「はははっ!! 良い眺めだ……さて、このまま星の爆発に巻き込まれればさすがのオレもダメージは免れまい」
「ぐぎぎ――」
「よし、それではこのままあの星を落とすとしよう……あのサイヤ人を慕うモノが多いあの星を……――――」
そうしてクウラはこの世界から消える。
悟空の最後を見送ることなく、彼の必死の抵抗が無駄だと決めつけて――――決定的な瞬間を見逃してしまう。
「クウラ……」
思い起こされるは走馬灯。
人生であまり見ないそれは、実は死んだ回数が複数ある彼ですら見たことがなかった光景。 それほどまでに追い詰められているんだなと、心の奥底で理解した時にこみ上げてくる感情があった。
「ク、ウラぁ……」
激突から星を守る刹那に聞こえてきた『あの星』とは、やはりなのはたちが住んでいる地球の事であっただろうか。
それを考えていると、身体の奥底からまたもなにか分らない感情がこみ上げてくる。 いや、この感情は知っているはずなんだ。 ただ、最近それに触れていなかっただけで。
「よくも……!」
消えていった教え子。
消されてしまった親友。
飲み込まれた……恩人。
そしてこれらの事が、今まさにあの地球で行われようとしている。 それを想像しただけで……
「させねぇからな……これ以上ッ!!」
悟空の――
「う、う……うおぉぉぉぉぉおおおおおオオオオオッ!!」
身体から……
「はぁぁぁぁ――――ッ……はあああああああああ!!!!」
蒼電が迸る!!
逆立ったはずの髪がさらに強く天を仰ぎ、彼の肉体がほんのわずかに膨れ上がる。
だがそれは前に見せた肉体操作の類いとは次元を超えていた。 一瞬、本当に少しだけ膨れたそれはカラダの動きを阻害しない程度のモノ。
先ほどのフェイトのように偏らせず、すべてのステータスを上昇させた“力を超えた力”
そこに“踏み込んだ”孫悟空は、今まで身体全体で抑え込んでいた球体を……蹴り返す。
「…………」
遠くへ飛んでいき、そのまま消えていくスーパーノヴァ。
見上げた先で爆発を確認した悟空は……
「はぁ、はぁ、――ぐぅ?!」
よろける。 元に戻っていく髪型は、いつもの通りの黒髪。
先ほどの変化はなんだったのか……気づくことすら出来てない悟空に聞くことは愚かであろう。 そして、そんな彼にはやはり時間がなかった。
「急げ――早くアイツをつれて地球に帰らねぇと」
手のひらに指を押し当て周囲を探る。
即座に見つけた気と魔力……包容力に満ちたそれを確認すると、彼は何の躊躇もなく……――――飛んでみせる。
【………………】
その傍ら、先ほど彼が娘から受け取り、スーパーノヴァの攻撃の際に投げ捨てた者たちがあった。
彼らはひとりでに動くと、とある指輪の輝きにより……“彼”を追いかける。
意思を持つように……彼に追いすがるように……
物語を、追いかけるように。
悟空「おっす! オラ悟空!!」
恭也「……なんだか変な風が。 忍、先に帰っててくれないか?」
忍「え? せっかくのデート中なのにいきなりどうしたのよ」
恭也「なにかとてつもなく嫌な予感がするんだ。 すまんが頼む」
忍「仕方ないわねぇ。 恭也がそこまで言うなら……」
アリサ「あ、こんばんわー」
すずか「あ、アリサちゃん、ちょっとダメだって!」
忍「ありゃ? なんだ貴方たちついてきたの? もう、大人の邪魔しちゃダメじゃない」
恭也「……ん、大人……ねぇ」
忍「何かしら恭也? 言いたいことでもあるの?」
恭也「……」
忍「私が子供っぽいって言いたいのかしら?」
恭也「!? い、いやそんなことは――ただその……」
女たち「あはは!」
恭也「…………はぁ」
士郎「まったくあの子たちは……。 久しぶりの談笑、だけどそれは次の困難を知らせる合図でしかなかった。 唐突に表れた風は、海鳴の街を切り裂いていく」
クウラ「サイヤ人の仲間は皆殺しだ!!」
士郎「サイヤ……誰のことだ!!」
恭也「なんだあの化け物!? 周囲も変な色になって……どうなってる!!」
士郎「僕たちの常識では計り知れない脅威を前に、その剣を折られていく御神の者たち。 絶体絶命のその時、僕は”あの時”に見た奇跡と再会する」
恭也「次回! 魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第52話」
士郎「奇跡へたどる軌跡」
悟空「お、おめぇたち……どうやって」
???「……貴様に言いたいことは山ほどあるが……やっておきたいことが先にある」
悟空「な……に?」
???「…………フ、すぐにわかるさ」