魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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遂に、AS編も佳境。
明かしてしまった悟空の秘密と、それにショックを受けた子供たちのふれあい……は、とりあえず後です。
今回の主要登場人物の平均年齢はおおよそ40……孫悟空、きっと彼が一番……


何やらすぐにSTSにはいけなさそうな雰囲気のりりごく55話です。 では――




第55話 温泉に行こう

 空が赤く燃えていた。 当然だ、今は夕方の5時半過ぎ、子どもは帰るしカラスは鳴く、陽は沈みかけ最後の輝きを照らすのだから。

 

「う、うわああ!? ば、ばば化け物!!」

「ぎ、ギギ――」

 

 その中で蠢く機械は酷く歪な光沢をしていた。 紫で、赤くて、何より銀色で……でもその色も次第に銀から銅に変わろうとしている。 明らかな変化は、まるで金属がさび付き固着しているかのようでもあり。

 

「ギギ! サイヤ……ジ」

「来るな……来るな化け物……うわあぁぁあああッ!?」

 

 しかし果たして、固着しているのはどちらの方だったか。 銀か、赤か、紫か……その答えは――

 

「だりゃあッ!!」

「ギッ!!」

「は、……あぁ!?」

 

 実にどうでもいい些末事であろう。

 

 黄金がすべてを塗り替える。

 この土地全てを照らさんと、後光の如く光り輝くは太陽を彷彿とさせる。 でも、彼はそんな大層なものを背負ってきたつもりはない。 彼の目的は、生きる意味は実にシンプルなのだから。

 

「こんなところまで逃げやがって……」

「あ、あぁ」

「大ぇ丈夫か? おっちゃん、腰わるくしてんだから大人しくしてろ?」

「あ、え? あ、あんた――ん!? その逆立った金髪どこかで……アンタいったい」

 

 故に彼はその目的を……たのしいと感じたひと時を壊すものに拳を向け、涙を流した者たちの代わりに、力を持たぬ者の代わりに牙を剥き、爪で切り裂く。

 そんなどこぞのヒーローみたいな人物。 彼は、彼の名は――

 

「オラだ、おら。 孫悟空だ」

「……ご、悟空の……ぼっちゃん?!」

 

 超サイヤ人、孫悟空その人である。

 

 彼は自然に逆立った髪をなびかせると、目の前にある醜悪な機械を睨みつける。 ドスンという重苦しい音が響くと、それは急に上昇気流と共に海鳴の土地から消失してしまう。 残るのは、普段から高町桃子が贔屓にしている魚屋の店主の身。

 店主は今起こった事をアタマで考え付くだけ整理すると。 ひとつ、思い出した単語を口にしていた。

 

「…………こりゃあ、今夜は大盤振る舞いしてやらんとな」

 

 それは、青年が一番喜ぶお礼の形であった。

 

「これで30体。 どうなってやがる、あの闇の書からあふれたクウラの残骸は――」

 

 空を飛び、眼下の街並みを監視する悟空は口元をきつく締める。 この、穏やかが取り柄だった街に、今一度の厄災を振り掛からせてしまったことに腹を立てているのだろう。 拳を作って、そのまま小さく震わせていた。

 

「けど、そろそろ散らばったクウラの気がこの街から消えつつあるな。 いい感じに“あの場所”に集まって来てる」

 

 でも、と。 中々にうまく行っている作戦にそっと息を吐き、今この時に頑張りを見せている仲間たちを想い、彼は口元を緩める。 それに比例するかのごとく高まる飛行速度は、既に戦闘機がオーバーヒートをするまでの速度。

 彼は、この戦いの終結を急いでいたのだ。

 

「“夜天”が言うには、闇の書に喰われたっていうクウラがいきなり分裂してから10分程度。 街中に散らばったアイツを、被害が少なくあそこにまで吹き飛ばしてはいるがうまく行くのか?」

 

 最近仲間になった娘……リインフォースを思い出しては視線を鋭くする悟空…………――――

 

「これで32体」

 

 彼は空気の振動と共に姿をブラしたかと思うと、唐突に指折り数を数えはじめる。 1、2、……などと呟き、不意に視線を周りに向けると……

 

「お、フェイトになのはか? 随分と派手に行きやがる」

 

 上がる光の柱に、小さな称賛の声を漏らすのであった。

 輝く色は金と桃色。 そのどれもがいままでよりも比べ物にならないくらいに強い光を……強い力を携えているのは、悟空の感覚センサーによって明らか。 そのこと自体がうれしいかのように。

 

「あいつら、気持ちの方はまだまだだけど、頭の方はなんとか切り替えたみてぇだな」

 

 金色のフレアをまき散らし、彼は夕焼け雲を貫いていく。

 

「孫悟空!」

「ごくうーー!」

「ん?」

 

 マッハを超えて飛ぶ悟空に声が届く。 いや、正確には思念を伝える会話なのだが、そのあまりにも自然な聞こえ方から一瞬だけ悟空は我が耳を疑う。 けど、それも相手を見た瞬間に消え、一気に微笑むに至る。

 

「おー、なんだはやてに夜天じゃねぇか」

「ちゃうよ、ごくう。 リインフォースや」

「そうです。 あのときの漫才をそのまま持ってこないでください」

「おっとと、そうだったそうだった」

 

 止まった悟空は黄金のフレアをまき散らせると、そのまま待機モード……気を最小限の消費に抑えた姿に移行する。

八神はやては元の私服姿のまま、悟空の筋斗雲によって空を浮遊していた。 さらに横に付き添うリインフォースをセットに見ると、まるで普段通りの車椅子の女の子にも見えなくないのはなんとも不思議である。

 して、そこからまき散らばるリインフォースの小言を右から左に受け流し、彼はそっと――頭を叩かれる。

 

「悟空くん、女の子の名前を間違えるのは良くないんだよ」

「な、なのは。 いきなりイテェじゃねぇか」

「ホントは痛くもかゆくもない癖に……」

「そんなこと言うなって」

「つーーん!」

「ありゃりゃ」

 

 機嫌損う女の子にはさしもの超サイヤ人も勝てないらしい。 女の子はいつだってお姫様なのだ、ここで言葉を引いてあげなければ死刑もあり得ないこともない……だからこその撤退は、別段悟空の判断ミスではないのだが……けど。

 

「ま、いっか後で話せば」

「………………もう少しだけ気にかけてくれてもいいのに」

「ん?」

「なんでもないですよぉー」

「そっか」

 

 乙女の純真までは、その逐一測れない悟空さんであった。

 

 さて、ここまで何事もなく進んだクウラの後始末。 融合という名の捕食によって、闇の書と食い潰しあっている彼はいま、孫悟空をはじめとした彼にゆかりのある人物たちを狙って北に南に……街中をはびこっていたのだ。

 なぜこのようなことが起こったのか。 恨みの強さか、悟空を精神的に追い詰めようとしたかは不明だが、それでも彼には些かな不安すら与えることが出来ないでいた。 なぜなら。

 

「にしても良かった、襲われた奴が全員オラたちが知ってる奴でさ。 おかげで何かがあっても瞬間移動ですぐに駆けつけられるもんなぁ」

「不謹慎ですが確かにそうですね。 効率を考えても、あの法則性は逆に助かります」

 

 ……というわけなのだから。

 

 かくして、悟空がたった今蹴り上げた最後の一体で、クウラ分裂態、総勢70体様御一行は遠くの方……海へと消えていくのであった。 其の中でも悟空はまだ走り出さない、先走りのその先は誰よりも深く知り尽くした彼だ。 こんなこと邪魔だと、言わんばかりに焦りの色は出さないだろう。

 

「んで? これからどうすんだ」

「とりあえずあの闇の断片たちには消えてもらおうかと」

「…………なるほどな」

『???』

 

 大人二人の会話に疑問符が隠せない子ども三人。 闇の書の機能は既に八神はやてですらわかりきっている。 なんといっても恐ろしいのはあの転生機能、あれがある限り……そう思い、彼女たちは悟空の考えを掴みかねるのだが。

 

「あ、そっか」

「なのは?」

「……?」

 

 高町なのははいち早く彼の考えを看破する。

 そう、誰にも勝てないのだ、だれも。 勝てない……いや、打ち倒しても蘇るのだ、そう言うプログラムなのだ。 ここまで掴んだなのははもう、後はあの奇跡の話を思い出すだけだった。

 でも……それを実現するには時間がかかりすぎやしないか――彼女は不満とも取れない動きで眉を微動だにさせる。

 

「心配はいらねぇ」

「え?」

「おめぇが考えてる心配事な、きっと解決してっから」

「どういうこと?」

 

 分らない、わからない……彼が言っている意味が解らない。

 優先順位は隣にいる女の子の母親が一番の筈なのに。 それをまさかとっ替えるというのか? 高町なのはは今度こそ悟空の心意を掴みかね。

 

「あとになったら言ってやるよ。 今は……あのクウラが優先だ」

「……はい」

 

 納得いかないままに、今を駆け抜けるのであった。

 

「うっし、海に付いたぞ……ってうげぇ」

「これは」

「すごい……たくさん」

「まるでモズクみたい」

「わたし、最近台所の掃除中にあれと一緒の奴見たで」

 

 誰がどの台詞かは想像に任せるとして、女の子たちの気色が悪いという声が羅列する。 グショグショと、クラゲか何かを彷彿させる海はまるで腐界。 神聖とは真逆なそれを眼下に収めながら、皆は唐突にリインフォースに視線をやる。

 

「名は、特に設ける必要すらないでしょう。 あえて言うなら“闇” タダ、制御を外れた力の塊です。 ですが気を付けてください、制御がないという事は制限がないという事。 私が暴れまわっていた時よりも加減が効いていないはずです。 そしてあれですが、今の状態で攻撃すれば“最初の馬鹿者”と同じ結末を辿りますのでご注意を」

「う、うぐぅ」

「ご、悟空……」

 

 そんな彼女は悟空に対して氷よりも冷え切った視線を投げつけ。

 

「もう一度ひとまとまりになったところを一網打尽にする……できれば跡形もなく消滅させてしまうのが一番なのですが」

「こっちにはそんな武器は無い……ですよね」

「悟空でもあんなの相手はさすがに」

 

 いくらあんな弱り切ったものでも、あの悟空を圧倒したクウラの成れの果て。 今の消耗したであろう悟空では荷が重すぎるし、仮に全開で攻撃してもらったとしても、そもそも地球へのダメージが大きい。

 既に自分が何を考えてどういったことを口走ってるのか、感覚がZ戦士に犯されつつある常識人たち。 彼女たちの考えは確かに正しい……正しいのだが。

 

「なにいってんだ?」

「え?」

「悟空?」

「孫悟空……」

 

 悟空の疑問は大きくなる一方。

 何を変なことを……むしろ変なのはお前の方だという声はこの際シカトだ。 彼は自身の腹部に手を沿えるとにっこりと笑う。

 

「アレってあれだろ? いろんな結界やらなんやらが何重にも重なってるってやつだろ?」

「な、なぜそのことを――」

「シグナム達に教えてもらったんだ。 あいつ等、いろんなことを思い出したって言ってちぃと興奮気味なんだ、いま」

「あの子たちが……?」

『…………?』

 

 そして相談事を口にした彼は。

 

「だからこそ戦力を整えたのちにそれをひとり一枚ずつ……」

「オラならヤツごと全部ぶちぬける」

「そ、それは地球へのダメージを――」

「当然考えてるさ」

「ですがクウラに相当するあの化け物を貴方は……」

 

 出来るモノなのか……その疑問はなのはをはじめ、悟空以外の者すべてが感じていた。 しかし、しかしだ。 彼女たちは知るべきだったのだ、あの孫悟空が何の算段もなく、皆を危険にさらす選択などするわけがないと……

 

「…………わかってる。 変身していられるのはあと5分だけなんだな」

「ご、ごくう?」

「大丈夫だはやて」

 

 突然の独り言、そして根拠の無さそうな太鼓判は、それだけで皆を不安にした。 あの悟空がなぜここまでの虚勢を張るのか。 何かがおかしい――そう思わずにはいられなくて。

 その中で悟空は右手を開き、5本そろった片手をひらひらと見せびらかせて、にっこりと笑う。 この顔を見た瞬間、リインフォースの中にあるZ戦士たちの記憶が警笛を鳴らす。

 あの者は……そう、あの者はこれからとんでもないことを言うぞ……と

 

「5秒だ」

『ほぇ?』

 

 なんてことはなかった。

 タダの秒数の宣告だ。 あぁ、安心した、てっきりなにか爆弾発言でもするのかと……5秒? なんのことだ。

 

 今この時、皆の思考は一致した。

 多少の語感の違いはあるものの、悟空に対して同一の感想を持った女子たちは只、不思議そうに悟空の5本指を見つめ……

 

「アイツ倒すのに5秒もかからねぇ。 速攻でカタ付けてくる」

『…………はああああ!?』

 

 海鳴全土を、驚天動地の衝撃が襲う。

 

 もはや声だけでここまでの衝撃が出せるモノなのかと疑問に思うだろうが、まぎれもない事実。 スカートは乱れ、ツインテールがサイドテールに、赤い目からは痛烈な視線が飛び交い、筋斗雲は女の子とタップダンス。

 もう、何が何だかわからないこの騒ぎは――――――

 

「…………ぅぅぅぅぐううううううう――ッ だあああああああ!!」

「あ」

「え?」

「な――」

「に?!」

「馬鹿な!!」

 

 青年の一声にて、ものの見事に消えてなくなっていく。

 不安も、疑心も、暗鬼も、何もかもをぶっ飛ばす戦士の咆哮。 途方にもなく強く、途轍もないほどに強烈な戦士……彼はいま、自身の限界を遥かに超えた超越戦士へと変貌させる。

 だが変化は少ない。 髪型も、纏う気の色もそれほど多い変化じゃないのだ、……ないのだが、それ以上に感じる力の波動に、悟空の記憶を垣間見ていたリインフォースですら後ずさるのを抑えられない。

 

「まず、一秒だ」

「がるぅぅぅ ギィアアアアアアアアアアア!」

「ふ……効くかよ」

 

 憎しみ全開。 孫悟空目がけて飛んでくる金属、ワイヤー、鉄板、有機体、触手etc.……数々の暴力が渦巻く中、それに合わせて旋回する彼はもはや鋼鉄よりも視線が冷たい。 乾いたというよりは冷めきったその目は、ついに標的の急所……タダのどてっぱらへと到達する。

 

「2」

「が、がが――」

「いま、見えた?」

「ムリムリ……」

 

 拳を腰にまでひきつけ、明らかな“ため”に入る悟空の姿を、何とかとらえたなのはたち……であったが。

 

「ギィィィィィ!!?」

「3秒経過」

「打ち上げた!?」

「あんな巨体を!」

「結界ごと押し上げただと!!?」

 

 弾道ミサイルを思わせる急上昇。 一緒に舞い上がる海水が雨に変わるその刹那、孫悟空の両腕は煌びやかな乱舞を行う。

 1発2発なんてもんじゃない。 リインフォースの常人を逸脱した耳には既に、マシンガンが如く高速連射の振動音が聞こえていた。 その音が、いったい何がどこにぶち当たってるのかはわかりはしないが。

 

「4!」

「ぎぃぃ……ギギィィィ!」

「まだだ…………――――」

 

 脚を左右に振り、まるで往復ビンタのように巨体を揺さぶる。 その動きのなんと軽やかな事か。 もうすでに、大怪物を相手取る雰囲気ではない悟空に皆が口を閉じることを忘れ、其の人物が手の平に収めていた光に目を奪われる。

 

「――――…………じゃあな」

 

 そのあいさつと共に、孫悟空は五指を開いた手の平を怪物の直下にて差し出す。

 

【―――――――――――!?!?】

「きゃあ!?」

「あ、主!」

「すごい――」

「衝撃波!?」

 

 さらに打ち上げられようかと思ったときであった。

 孫悟空の放つ光に、皆がついに心を奪られたときであった。

 

 あの者は、今目の前に居たクウラの残骸を――――黄色い閃光の彼方へ消し去ってしまう。

 もう、何も見えない紅の空。 あの怪異も、クウラも、闇の書の残骸たちもすべてがこの街から……世界から消失した。

 それを見送り、肉片の一つもない大空を見上げると、性格に凶暴性が若干加味された穏やかな戦士は薄く笑う。 そして言う、どこまでも、この苦かった奇妙な戦いが終わったという事を、皆に知らせるために。

 

「……やったぞ、おめぇ達」

「か、勝った? ……あの残滓を相手に」

「それに悟空、その姿」

「超サイヤ人……だよね」

「ごくうが……金髪になってもうた」

 

 様々な感想は、既に戦いが終わったからこそ出る稚拙な物。 八神はやてはもちろん、なのはやフェイトですら今の悟空の在り方がわからない。 超サイヤ人を超え、其の力をさらに方向性を持たせることに成功した至極の力を。

 

「そうか、おめぇ達には見せてなかったか。 これが、オレが目指していた超サイヤ人の壁を超えた超サイヤ人ってヤツだ」

「超サイヤ人を超えた……」

「超サイヤ人」

「そうだ」

 

 一本だけ房を残した金髪と、蒼電迸るその姿。

 たったいま舞い上がった海水が彼らに襲い掛かろうとする時でさえ、まるで彼を畏怖するかのように雨たちが道を開ける。

 開いた天への空間は、いいや、今先ほどに彼自身が『只の気功波』で開けた大空は、ドーナツ状に周りの雲を押し広げて彼らに夕の輝きを降らせる。

 

 神秘的。

 そんな単語でしか飾れない自分たちの知識の無さとか、彼をそれ以外で例えられない狭量さだとかそんなものをひっくるめて、彼女たちは改めて思う。

 

――――あぁ、なんてきれいな輝きなんだ……と。

 

【孫】

「お?」

「念話?」

「この声……だれ?」

「む、これは」

「シグナム?」

 

 そんな輝きに呆ける中、彼の内側から女の声が聞こえてくる。 それがピンク色の紅蓮剣士だと思い、どこか表情を柔くするのははやて。 今まで見なくて、自分のせいで大きな傷を与えてしまった相手だ、こうも心配するのは当たり前と言えるだろう。

 

 そして。

 

【ゴクウ! こん中すげぇ狭いんだけど。 早く出してくれよ】

「といってもな。 オレにだっておめぇ達を出す方法なんて――」

【…………はい?】

 

 とうとう現れる。

 

【……ってことはまさかお前】

「そうだな。 下手するとずっとこのままかもしれねぇ」

【はあああああ!?】

 

 動乱タイムだ。

 

【おいおい! みんなして勢い任せだったけど、それはそれでなんか元通りになる算段があったんだろ!?】

「……ねぇな」

【無いな】

【この武闘派コンビ! なにダメなところで息を合わせてんだ! このままじゃ、このままじゃ――】

【安心しろヴィータ】

【ザフィーラ?】

【たとえ元に戻って悟空におぶってもらうことが出来ずとも、既にあいつとは――】

【ば、ばばば……バカヤロウ! そういうんじゃなくてあたしはだなッ!!】

 

 少女のツッコミ全開。

 ちょっとだけ自身の欲望を暴露されて気が動転しているモノの、それでも本体である悟空は至極冷静。

 

「なんだか随分とにぎやかだね」

「すんません、我が家のみんなが世話をおかけして」

「い、いえいえ」

 

 三人娘の世間話に花が咲く。 女三人集まってしまった『かしましさ』は、既に悟空は相手をしてられんとそっぽを向く。 その間にひらめいたことがあるとして、まだ、この場でやっていいものなのかと悩む刹那。

 

「まぁ、やってみないこともねぇか」

『悟空?』

 

 そっとぼやく彼は。

 

「おめぇ達、いまからとんでもねぇことするからよ、少し離れてろ」

『??』

 

 そっと拳を握る。

 脚を肩幅に。

 中腰となった姿勢は踏ん張りがきくように。

 閉じた目は全身の気をコントロールしやすいように。

 

「………………」

「なにが……!?」

 

 このときであった。 唯一気の存在を感知できるリインフォースの怖気が走る。 恐怖、畏怖、征服に調服。 ありとあらゆる感覚が、孫悟空から漂う雰囲気だけに支配されていく。

 

「……………ふっ!」

「あ、あぁぁあ!?」

 

 声を発しただけだ、それなのにこの制圧感はどういうことだ。

 主にするわけでもないのに、リインフォースは自然、彼に対して片膝をつこうとしていた。 明らかな自身の服従の姿勢……しかし恥じることはないはずだ。

 

「ぐぅぅぅぅぅああああああああああああ――――――ッ!!」

「ご、悟空……!」

「地震!?」

「いや、これはこのモノの気が――世界を、この星を震え上がらせている」

「な、なんでや!? もう敵はおらんのやろ」

 

 その者は最強にして究極。 いまだ未完で未到達、さらに発展途上とはいえ、彼女たちが知りうる次元世界で肩を並べることが許されない程に剛いのであるから。

 

 孫悟空の雄叫び。 それに呼応して膨れ上がる彼自身の気は既に今ある超サイヤ人の限界を超えようとしていた。

 それは中にいるシグナム達も同様。 彼に引っ張られる形で自分たちの残りわずかな魔力を爆発させ、内燃機関の様なあわただしさと精密さを兼ねそろえたような力の供給をさせられる。

 

「ぐぅぅああぁぁぁああぁぁあああああ」

 

 震える世界は既に彼の前に屈服している。 空が、海が、大地が――彼を前にして自身の理を捻じ曲げる。

 雲がさけ、気流に逆らい遠くへちぎれ飛び。

 海は其の流れを変え、渦潮があれば消し、高波は穏やかになり、彼に対する非礼をすべて取り消す。

 大地の脈動……マグマでさえ今は穏やかな清流のよう。 『プレート』の軋みすら穏やかになり、地震という現象を徐々に押さえていく。

 

 それなのに、世界の揺れは収まることはないのだが。

 

「はぁぁぁ――だあああああ――――ガァァアアアアアアア!!」

「悟空……くん」

 

 どうなるのだ、彼は。

 この場に集まる全員が彼を見守る中、ついに……遂に孫悟空に変化が現れる。

 

「あれ……な、なのは!」

「え?」

「悟空の髪……なんだかおかしい」

「かみ?」

 

 それは微弱な変化であった。

 いつもの逆立つ黄金の毛並みが、逆立つ強さを大きくする一方で、悟空のその頭髪はある変化を引き起こす。

 

「伸びていく……うん、悟空の髪が伸びてるように見える!」

「伸び……?」

 

 何を言い出すかと思うことなかれ高町の末子。

 今起こる変化は世界最強への足掛かり。 サイヤ人の限界、その果てを突き進み、地平を制した彼が天に顔を向けた時にいよいよ顕現する最強の変異。

 それを――それこそ――

 

「こ、これが……!」

「あ、あぁ」

「超サイヤ人を超えた……超サイヤ人の――――――」

 

 孫悟空のチカラの奔流が、嵐を伴い天へ反逆する。

 駆け上がる金の炎は誰にも止められず紅の夜空を明るく塗り替える。 力、気、魔力の輝きが世界を駆け巡る中。 孫悟空はついに…………

 

「はあああああああああああッ!!!! だああああああああああぁぁぁぁぁぁ…………あっ」

『…………へ?』

 

 ボフン。

 

 そんなかわいらしい音を立てると、彼は身長をマイナス60㎝アップさせる。

 クリクリの目、座高ほどに長い茶色い尾っぽ。 スーパーちびっ子孫悟空、再臨である。

 ……あるのだが。

 

「わわっわ! 気を全部使い果たして……飛べねええええぇぇぇぇ…………」

『あ、落ちた』

 

 …………あっけない世界の震えの終焉。 その最後を飾ったかわいらしい声は海鳴の商店街まで聞こえたとかなんとか。

 

「そ、そんなこったいいから、だれかたすけてくれぇぇ!」

「いけない!?」

「筋斗雲! ごくう助けて!!」

【…………】もくもく!

「わたしが居るから早く飛べへん?! そ、そんな!」

 

 騒ぎ出す周囲は阿鼻叫喚である。

 今現在、彼等は海上5000メートルにまで昇っている。 悟空の連撃による上昇を追いかけていたがためのこの高さ。

 

「あかん! いくらなんでもこの高さから落ちたら……いくら真下が海でも、落下の衝撃はコンクリートに当たった時と変わらへん――ごくう!!」

 

 嘆く……嘆くのだ、ただ一名だけ。

 

「……あーあ、悟空くん無茶するから」

「あとで拾っていこう」

「あの?」

 

 なんだか冷たい? いいや、彼だからこそされない心配は、実は結構的を射たもの。 以前の経験と、数々の修行で、悟空の限界数値をわかりきっているふたりこそできる放置であった。 あったのだが。

 

「ふ、相変わらず妙なところで後先を考えない……」

「ん? お、おぉ!?」

 

 それを、仕方ないと零す女剣士が居た。 髪の色、ピンク。 目の色は黒で、肌は白。 全体的に明るい色へ仕立て上げられし彼女は、力尽きた少年を抱え……空に佇む。

 

「シグナム! おめぇ出れたんだな!」

「久しぶりと言った方がいいのか……よくわからんが、孫。 よくやってくれたよ、お前は」

「はは、礼にはおよばねぇぞ」

「やりたくてやったから……か?」

「まぁな」

 

 交わされるアイサツ。 その間に悟空の心臓から腹部にかけての輝きから出てくる光が、赤、白、緑と、3つほど確認されると、そのまま彼らの周囲を駆け巡り……

 

「ヴィータ! ザフィーラにシャマルも。 よかったなおめぇ達も出れて」

「正直かなり焦ったけどな」

「まったくだ」

「あら、ザフィーラ。 あなたさっきまで――このまま奴の中で、戦場を見るのも良かろう……なんてつぶやいていなかった?」

「……まぁなんだ。 出れてよかったではないか」

「はは、さすがのザフィーラも今回ばっかしは頭が上がんねぇなありゃ」

 

 特大の団欒を迎える。

 やっと、やっとだ。 彼ら彼女たちが、本当の意味で向かい合うことが出来たのだ。 互いに隠し事は無い、全てをさらけ出した。 気高さも、孤高さも……醜さも、全部だ。 そこまで見せ合ったのだ、もう、彼らの間に立ちふさがる壁などなく。

 

「みんな、そんじゃあ帰ぇるか」

 

 ――――――ぐぎゅぅぅぅ。

 

「……ん。 ハラぁへっちまったしな」

『おう!』

 

 最後まで締まらない……どれほどのものがこう漏らしたかは知らないが、彼等はやっと同じ道を行くことが出来た。 同じ、変える道を…………

 

 

 

「おっじゃまっしまーーす」

 

 木で出来た玄関を、“シキイ”を跨ぎながら潜る。 闇の書の“とりあえずの”後片付けを終わらせたオラたちは、ひとまず全員そろってリンディたちのいるアースラに来ることになった。 ……なったんだけどよ。

 

「なぁリンディ。 おめぇどうして船ん中に家なんかあんだ?」

「ここ半年、なのはさん達の世界を見てたら、もともと在った和風趣味が……その」

「気にしないであげなさい孫くん。 この子、少しの職権乱用を覚え始めたところだから」

「ふーん……そう言うところなんだかプレシアに……ん?」

 

 急に、オラに話しかけるリンディの声。

 

「あら?」

「ん? ……ん?」

 

 振り向いても、なんも違和感ねぇしなぁ。 けどなんかおかしいなぁと思ったんだ。 背が縮んだオラは、そのままもう一回だけな、後ろ振り向いてみたんだ。 そしたらよ。

 

「……ふふ」

「お、プレシア! プレシアじゃねぇか」

 

 フェイトの母ちゃんが、小さく手ぇ振って笑いかけてきた。

 血色の良くねぇ顔に、少しやつれた感じの雰囲気。 全体的に減った気が、コイツの不調を嫌ってくれぇに教えてくれる。 ……おめぇ、寝てなくていいんか?

 

「心配は無用よ。 今すぐってわけじゃないし、それに問題の片方がようやく区切りがついたもの。 結末くらい、みせてちょうだい」

「わかった。 でも、絶対に無理すんなよ?」

「えぇ、誰かさんとは違うモノ。 大丈夫よ」

「ダレカサン?」

「そう、誰か……よ」

 

 誰の事だろうな……なんて、言うまでもねぇか。 そりゃあそうだよな、腕に穴開けたり、右胸に風穴開けたり、仕舞いにはあの世に行っちまう大馬鹿にくらべちゃあ、こんくれぇの無茶は許してやるべきか。

 

「ま、いっか。 とりあえず元気そうでよかった」

「ありがとう、心配してくれて」

「……む」

 

 あたまがなんか重ぇ……なにかと思ったらよ、プレシアの奴、オラの頭に手ぇ乗っけてぐりぐりと動かし始めたんだ。 ――オラ子供じゃねぇんだけどなぁ。

 

「今は十分に子どもよ。 フェイトよりも幼く見えるほどに……ね」

「えーー! アイツよか子どもなんか?」

「ふふ」

 

 今度の笑い声はリンディだ。 あ、あいつらオラの事バカにして……でも事実か。 身長なんかあいつ等より断然低いもんなぁ、オラ。

 

「でもどうしてオラだけココなんだ? シロウやキョウヤなんかは、なのはたちと一緒に医務室に行ったきりじゃねぇか」

「それはね、悟空君。 いまからあなたに重要なお話があるからよ」

「はなし? オラ腹ぁ減っちまってるから後にしてくれると――」

「…………」

 

 …………リンディの顔つきが変わった。 きっと、とんでもなくまじめな話になるんだろうなぁここから。 だったらこっちもそれっぽく身構えねぇと。 気を引き締めて、腰の帯を強く握る。 顔つきを相手に合わせて口を閉じると、オラなりのきく態勢ってのを完成させたんだ。

 させたんだけどよ。

 

「いちばん軽傷で、尚且つ見舞いの必要が要らなかったのが悟空君、貴方だけだったのよ」

「…………それだけなんか?」

「えぇ」

 

 どうやら本当にそれだけらしい。

 そんで、そっからいろんな話、聞かせてもらったんだ……なのはたちの事、図らずともリンディたちの事を知っちまったアリサやすずか、それに忍の事。 シロウ達は、はなからオラがバラしちまってたってことで頭数に入ってねェらしい。

 そんで、一番大事なんがはやての事だ。

 あいつは今回、事件の被害者で、共犯者の側面もあって、尚且つ最終局面は事態の収拾を買って出た協力者だ。 けど、やったことは取り下げられねぇ。 闇の書……いや、夜天と一緒にこの街滅茶苦茶にしようとしたのは事実だしな。

 

 結果だけ言うと、すずか達はこのまま何にもしないで行くそうだ。 少しの事情とかがあるらしいけど、本当にそれだけだ。 なんだっけかなぁ。 “ばいしょうナンタラかんたら”ってのをリンディが言い出したらしいけど、向こうが辞退したそうだ。

 

 そんではやては……アイツは結構きついらしい。 そもそも、闇の書をもって暴れたっていう事実がどうにもきつくてよ。 それ含めてもかなりの重い罪なんだと。

 けど、そこらへんはさすがリンディ。 きっちりと逃げ道を用意してたんだ。

 まず、クウラの存在。

 あいつはこのあいだの登場でしっかり姿と被害の現場をいろんな人間に見られてる。 そのおかげで、もしかしたら“八神はやてはアイツに操られていた……?” なんていう話が上がってきているらしい。 さらに、もう一つはなんとオラ自身だ。

 もともとがオラの世界から持ち込んだ戦い。 それが完全にリンディたちの居る世界の偉い奴らの腰を引かせているらしい。 もちろん、今回は“そう言った意味”でオラの全力戦闘を堂々と見せつけたんだと。

 

 それやこれやと、話し進んでな。

 最終的に、はやての問題はひとまず保留。 これから先、あいつがイイコにしてれば御咎めは無いように持ってこさせるそうだ。 どうにもそこらへん、“リンディ以外の権力”っちゅうのも働いてるとかなんとか……居るんだなぁ、この世界にも閻魔さま見たく気がまわる奴ってのも。

 

「感謝しねぇとな、そいつには」

「それは……いえ、やめておきましょう」

「ん?」

「なんでもないわ」

 

 ま、こいつらがイイっていうんだから、オラがイチイチ気にしてもしょうがねぇか。

 

 話を急に変えるんだけどよ、オラたちがこのアースラに来てから既に数日。 ……いや待てよ、数日で今の話に持ち込んだのかアイツ等。 いったいどういう強引さで引っ掻き回したんだ。

 

「それこそ孫くん、あなたが気にすることじゃないわ」

「お? ……おう」

 

 いっか。 こいつが言うんだから。

 

 いよし。 ホントに本当に、話し変えるからな。

 話の要点は3つあるんだが、どれも軽いからなぁ、どれから行くか。 まずはあれかな、オラの身に起こった変化ってやつだ。 やっぱり記憶の方がいろいろ戻ったらしくってよ、気が付いたら大界王星で修業中のはずだな、今のオラは。

 セルの奴と心中して、オラたちだけ死んじまったあの時から、大体5年の歳月がたってる。 というわけで、今のオラは35だな。 …………また、あいつ等との歳の差が開いたわけだ。

 ……でも、なんか重要なことを見落としてる気がするんだが、まぁ、気にしても仕方ないか。 

 

 2つ目。

 これもやっぱりオラの事。 そもそも、オラの中にシグナム達が入って、それぞれになにか変化とか悪影響はなかったのか? という話なんだが、結果は無害そのものだそうだ。 さっき言ったオラの変化はもう、リンディたちが言うにはやはりクウラの奴と同じ結論にたどり着いたらしい。

 呪い……アイツ等はオラの身に起きた現象をこう呼んでいるみてぇだ。 こればっかりはやっぱり対処の方法がまだ分かんないらしくてな。 あんまりに難しい顔するもんだから、あいつらには「暇なときにでも探ればいい」って言っておいた。

 ……そしたら本当に何の探りも入れなくなったのはどういう事なんだろうな。

 

3つ目。

 

 これはとっても重要だ。 

 

 

 ………………なんと、前にギルの奴と約束していた祝勝パーティーが3日後に控えているらしい。

 

 これはなんとしても行かねぇとな!

 3日もあればオラの身体も完全に治るし、そうすりゃメシ食い放題だぞ。 この身体だといつもの半分も入んねぇからなぁ、久しぶりにタラフク食うぞぉ。

 そんで場所なんだが、最初はどっかのホテルを貸し切るはずだったらしいけど、ギルの奴がリンディの和風趣味の理解者らしくてな、本人たっての希望で温泉旅館になった。

 

 ……図らないで、前に言った約束が果たされたってわけだ。

 ベジータとの初戦時にした悟飯との約束も、結局3年以上の月日が経ってようやく叶えてやれたし、オラにしては早く達成することが出来てラッキーだったかな。

 

「へへッ」

「孫くんよだれが……ほら、こっち向きなさい」

「ぐじゅぐじゅ……わりぃわりぃ。 でも、後3日もありゃあ飯をたらふく食えるって聞かされれば誰でもこうなるぞ」

「……あの人のお財布事情、大丈夫なのかしら」

「ん?」

 

 どこから取り出したか知らねぇけど、きれいなハンカチをオラに向かって取り出したプレシア。 そのままされるがままに口を拭かれると、あいつ、なんだかかわいそうな目ぇしてため息ついてんぞ。 なにかあったんか?

 

「これから起きるのよ」

「ふーん」

 

 知らぬが……知らぬが? なんだっけかなぁ、前にキョウヤの奴が教えてくれた“ことわざ”があったんだけどな。 ……あ、そうだ思い出した。

 

「知らぬがホットケだったな」

「う~ん。 それでいいのかしら」

「いいのよ。 あの人、今回の事件の原因の一つなのだから。 これくらい、馬車馬のように働いてもらわないと」

 

 

 何となくプレシアが元気になった気がした。 少なくともいまはそう思ったんだ。 この時のアイツの笑顔が、いったいどういう意味での微笑だなんて考えきれねぇままにな。

 

 それから、残りの2日を遠出の準備に当てたオラたち。

 1日目はシロウ達がクウラに負わされた傷の経過をみて、良好と判断されて皆で一息。 仙豆を使えば、とも言ったけど、最後の1個だと言った矢先にみんなが強く反対してきた。 ……あるんならさっさと使えばいいのにな。

 

 んで、旅行前日。 荷支度はオラの場合は服だけで済むから特にこれと言ってやる事はねぇ。 ……んまぁ、途中で小さな犬っころになったアルフだとか、それを追いかけてきたヴィータだとかが邪魔してきたのはビックリだったけどな。 なんだったんだアレ。

 

 

 …………そしてそして。 ついに、待ちに待った食事!

――ちがった。 旅行の日になったんだ。

 

 

「いやっほー!!」

 

 ずっと前、オラがターレスと戦う前に一回来たところもすごかったはずだけどさ、今回来たところもすごいなぁ。 この旅館の広さはそうだなぁ、天下一武道会の会場10個分……いや、もっとあるかもしれねぇ。

 

 中々いいところだな。 そもそも形がいいじゃねぇか……あぁ。

 青い空に黒いカワラが何ともいい雰囲気を……いや、まぁシロウが言ってたんだけどな。

 

 とにかくオラが言いてぇのは――

 

「悟空さん、大はしゃぎですね」

「あったりめぇだろ? ここんところ修行と闇の書……いや、夜天の書のごたごたでまともなもん食ってなかったからな」

「病院のアレはまともじゃなかったと……?」

「ん? なんのことだ?」

「い、いえ……」

 

 隣にいたユーノが、オラの足元から見上げてくる。 すぐさま裾を駆け上って肩まで上がってくると一息。 あいつはそのままゆっくりと身体を休めて息を吐く。 最近どうもユーノの奴が動物の姿になるとここに居る気がするなぁ。 ま、悪い気はしねぇからいいけど。

 

「悟空君」

「ん? お、ギル!」

「おはよう、息災で何よりだよ」

「おう、おめぇもな」

「今日はうちのがすまないね。 振り回すようなことを……」

「ふりまわす?」

 

 ま、いいか。

 とりあえずここで今日の主催者が登場だ。 後ろにネコの娘――今は耳としっぽが無いな、きっと変身魔法でも使ってんだろう――の、二人を従えたギルだ。 いつも見たく堅ッ苦しい服装じゃなく、ちょっとだけ軽めないわゆる普段着ってヤツに身を包んでる。

 なんだか、こうやって見ると……

 

「おめぇも、やっぱり普通のおっちゃんだな」

「お?!」

「お、お父さまになんてこと――」

「ははは! そうだね、これじゃ普通のおじさんだ」

『え!?』

 

 そうそう、そんな風に笑うともう、完全にそれじゃねぇか。

 なんか近所の公園でハトに餌上げて、そのままオラに“おかし”くれるおっちゃんみてぇだぞ、ギル。

 

「確かに、これくらいやればタダのおじさんだ。 ……そう、管理局も関係ないタダの一般人」

「……そうだな」

「これであの子に。 いや、こうしないとあの子と顔合わせできないからね。 情けないけど」

「…………まぁ、今日くれぇはいいじゃねぇか。 きっと、いつか知った“アイツ”も許してくれるさ」

『お父さま……』

 

 少し、しんみりした。

 けどそれもここまで。 だってよ、この近くに結構大勢の魔力と気を感じるんだ。 だから、今日の内緒話はここまで。 なんてったってオラが嘘ヘタクソだもんなぁ。

 

 お互い頷きあって、……あ、意図せず聞かせちまった奴にはすぐそこにいるネコの娘のアリア、ロッテのふたりが――あぁ、おめぇ達よだれを拭けって、わざとらしい。 ユーノが怖がってるだろ? さっきから肩がブルブルしてこまっちめぇぞ。

 

「もうすぐか」

「そうだ、もうすぐだ」

 

 ギルの顔に緊張が走る。 

 いままで、というか夜天が目覚めるまでのはやては、なんとオラと似た環境でな、ずっと一人でやりくりしてたんだ。 まぁ、オラみたく山で飯食って修行して――なんていうのじゃねぇから、当然お金が要る。

だけど、そこを……まぁ、闇の書の退治っていう下心があったにせよ、その援助っていうやつをギルの奴がしてたんだ。

 

 そう、ここまで言えば分るだろうけど。 決定して3日というのは、いままで隠していたギルの覚悟が冷めないうちにというのと、その覚悟を確かにするための期間でもあったんだ。

 だから、今日の裏の主役はギル……アイツなんだ実は。

 

「会ったらなんて言うんだ?」

「え? ……そう言えば考えてなかったよ。 ふふ、おかしいね。 いままでどんなスピーチだって事前の準備は欠かさなかったのに」

「……そっか」

 

 ただ、それだけだ。

 それ以上は聞かねぇ、聞いてやらねぇ。 困っていればいいんだ、今は。 そうやって困って困って、悩んで考えたうえで出した答えなら、きっとアイツは元気に返事ぐれぇはしてくれる。

 アイツ、やさしくて強いからな。 ……シグナム達が惚れちまうくらいにさ。

 

 それに、これ以上は当人同士の問題だ、オラがしゃしゃり出るべきじゃねぇって思うし。

 

「ユーノ、久しぶりに一緒に空飛んでみるか」

「どうしたんですかいきなり?」

「いいからいいから。 ……少しだけ付き合えって、な?」

「は、はぁ…………ぐぁぁああああああああああああああああああああ!!」

 

 だからオラたちは、ちょっとだけこの場から居なくなることにしたんだ。

 邪魔しないように、手を出しちまわないように……下手な、手助けをしないようにな。

 

「ご、悟空さん!? そそ、そくどーー」

「こんくれぇでもう参っちまうのか? そんな軟な鍛え方した覚えねぇぞ、根性見せろ」

「心の準備というモノががが……!」

「そんなもん一瞬で終わらせておくもんだ。 いつだって戦う準備は欠かせちゃなんねぇ。何にしても、真剣勝負なんだぞ? もちろん、寝るのも食うのもだ」

「……寝るのも食うのもですか」

「そうだ」

 

 朝焼けか。 うっすらと見える日差しがまぶしいな。

 

 このままこの“島”を……あぁ、なのはたちが住んでるやたらデッケェ島のことな。 こんな島初めて見んぞ。

とまぁ、とにかくこの“島”を周回しておけばいいよな。 こんくれぇなら5分とかからねェし、あいさつくれぇなら――――ん?

 

「悟空さん?」

「……いや、なんでもねぇさ」

 

 なんだ、今の。

 いつか感じた“あいつ”じゃねぇし。 それになんだか……いや。

 

「今日はそれどころじゃねぇよな。 気にはなるけど、まぁ、手ぇしたことねェしいいか」

「はぁ……?」

 

 それよか飯だ、めし!

 

 まずは旅館に行って、リンディたちが受付済ませてくれりゃあ、後は自由行動……かぁー、こうなるんだったら瞬間移動でとっとと連れてくるんだったかなぁ。 リンディのやつ、“風情”がどうとかっていうもんだから待ち合わせにしましょう――だなんて言って、オラを待たせるんだもんなぁ。

 

 約束は8時だって言ったのに、さっきユーノが見た時計はもう9時回ってたぞ……まったく。 あ、そういやギルの奴、さっき意味深いことを言ってたような気がするけど、何か企んでやがるのか……いったい何を。

 

 ……考えてもよくわかんねぇ。

 ――女心は秋の空、か。 つかみどころが無くって、オラの鼻でも探れねぇという事なら、確かにリンディたちはあの季節の空とおんなじだな。 だったら。

 

「考えても無駄か」

 

 高速で空を飛んでるところを急速転回!

 落ちそうになったユーノを笑いながら、そのまま進路を旅館にまで定めるんだ。 集中も何もいらない、ただ思った通りに自由なままに空を飛ぶ。

 

 風が気持ちいい、海に周りを囲まれているせいか潮の匂いが強いけど、それもまぁ悪くないな。 けどまぁ、こう寒いとやっぱりオラ、少しだけ参っちまうかな。

 もとから結構寒さには弱かったし。 スノたちが居た村なんか、最初死ぬとも思ったさ、あんときは村のみんなには感謝だな。

 

「……とと、すこし関係ねぇことを……」

 

 考えを少しだけ元に戻して、やっとオラは旅館に戻る。 スタリと地面に足を付けて、周りを見渡すと、やっぱりいつもの顔ぶれだ。

 

「悟空」

「悟空君」

「あ、おはようございまーす」

「おはよう、悟空君」

 

 キョウヤ、モモコ、ミユキ。 そしてシロウの4人がそろってこっちにアイサツだ。 みんなそれぞれ大き目な手提げや、あの……なんだっけかなぁ、ほら、カバンの下に車輪が付いててさ、そんで引きずりながら持ち運ぶ面倒くせぇアレ――

 

「キャディーバッグ……かしら?」

「そうそう、それそれ」

 

 今モモコが言った通りのものがずらりと……えっと? ひぃふぅみぃ……9個あるってことは――

 

「おはよう孫くん」

「おはよー」

「…………おはよう、悟空」

「プレシア、それにアルフとフェイト。 オッス!」

 

 フェイトの一家がそれぞれ到着してるな。

ちょっとした高速移動でアイツ等のいるところに着地。 100メートル弱の距離をさっさと縮めると……ん? でもこれじゃあ数が合わねぇぞ。 いくらか荷物が多い気がする。

 

「もう一個はクロノの坊やのモノよ。 あの子はついさっき到着して、先にチェックインを済ませるって言ってたわ」

「そいつは助かる。 さすがクロノ、気の利く良いヤツだぞ」

「それよりも孫くん、見てごらんなさい」

「どした?」

 

 いきなりだ、嬉々としたプレシアの声が聞こえると、そのまま前に押し出される奴がひとり……フェイトだ。 あぁあ、足ぃ引きずって余程抵抗したと見える、恥ずかしいのか? 特にこれと言って違和感はねぇけどな。

 

「どうしたフェイト。 気分でも悪いんか?」

「…………」

「馬鹿ねぇ。 おめかしした娘が居るのよ? 言う事はひとつしかないんじゃなくて?」

「……そうか」

 

 そうだな。 こいつもこいつなりに、今日のためにいろいろ頑張ったんだよな!

きっと緊張してんだ――――ギルに逢うのをな。

 

「大丈夫、バッチシ決まってんぞフェイト。 特に全身黒なのはイタダケねぇと思って、スカートをあかるい色にしたのはもしや、なのはの影響だな?」

「…………っ」

「あたりか?」

「……うん」

 

 隣にいるアルフは…………イヌころ状態だから評価のしようがねぇけど、何となく毛並みがよさそうだ。 なにかやったんかな? アイツもアイツで気を遣うところは使うし、きっと下準備ってのはやってたんだろう。

 

「……若干思ってたものとは違うけどまぁ良いでしょう。 それで?」

「なにがだ?」

「……わたしの方になにかないのかしら?」

「派手だな」

「えぇ」

「妖しさ満点だ」

「……えぇ」

「足元の切れ目……おめぇそれ寒くねぇンか?」

「…………これはスリットというの、決して切れてるんじゃないのよ?」

「あぁ、わざとか」

「……………………」

 

 この季節にドレスって。 おめぇあの建物と相まって大変なバランスに仕上がってんぞ。 ほれ見ろ、あんまりにおどろおどろしいから肩のユーノがまた震えだしたじゃねぇか……ん? コイツもしかして笑いをこらえてんのか? いや……ちがうか。

 さぁて、まずはこっちの一家がそろったことだし、後は……あれ?

 

「そういやなのはは?」

「……ふぅ。 あの御嬢さん……なのはちゃんは貴方の顔を見たくないのか知らないけど、さっさと旅館の方へ行ってしまったわ」

「え? ……ん、本当だ。 あっちの方になのはの気を感じる。 アイツ、ここ最近様子がおかしいけど、まさかここまであからさまに行動してくるとはなぁ」

 

 めずらしい。

 普段は言いたいことを口元で押しとどめるような奴だったのに。 それこそ、修行の時に辛いの声を出さず、休憩もいらないなんて言いだしオラを困らせ。 挙句ケガをしても隠そうとする。

 そんで最近じゃあ晩飯のから揚げを食いたいはずなのに、妙にオラに気ぃ遣って食わなかったりナントカ……あの、なのはがなぁ。

 

「変わったなって、喜ぶべきなのか……」

「にしてもアレはおかしいでしょ? 貴方、何かしたんでしょ」

「ん? ん~~まぁな。 すこし……いや、かなり酷いことしちまったかもしれねぇ。 ほれ、おめぇはフェイトから聞いてんだろ?」

 

 ん、向こうにいるシロウ達が一斉に移動し始めた。 もう手続きが終わったのか、そんじゃあここに居続ける必要はねぇな。 足元に転がってる3色の荷物をそれぞれ担ぐと、そのままオラは旅館に向かって歩き……出そうとして。

 

「オラが子持ちだってことをさ」

「             」

「…………わふ?」

「あ、悟空、まだみんなには――」

「ほれ行くぞフェイト。 この寒さは子供のおめぇには結構つれぇはずだ、さっさと入ってコタツでみかんでも食ってような」

 

 さっきの質問に答えて、フェイトを残った片手で引っ張っていく。

 歩幅の違いから若干駆け足にさせちまったけど、まぁ良いだろ。 急ぎ足、なんて思ったら肩に水滴が落ちてきたんだ。 雨か? 天気予報の娘っこは今日は雨降んねぇって言ってたんだけどなぁ。

 

「あ、悟空……雪」

「雪? そりゃあ寒くはなるなわな」

 

 そうか雪か。 オラがこっち来てからそれなりになるけど、初めてだな、雪を見るのは。 粒は小さくて、量はそんなにでもねぇ、コイツはきっと積もらなさそうだけど……

 

「風邪ひいちまうから、さっさと行くに越したことはねぇだろ。 行くぞ」

「うん」

 

 フェイトの手ぇ引っ張って、旅館の玄関をくぐってく。 お、かなりの高さだなこの玄関。 オラがくぐるのに苦労しねぇところを見ると、おそらく2メートルはあるな。

 シロウの家と同じく木製。 玄関は石畳っていうんか? ずらりと並んだ灰色の空間だ。 へぇ、結構中も広いなぁ、思ってた倍はあるぞこの敷地内。

 

 

 今日、え~と? 12月の23日。 ナンタラ誕生日のこの日は、みんなで揃って“祝! 闇の書撃退”と、“祝福の風降臨”のダブルパーティーを送るはずだ。 主役はもう中にいるだろう、気でわかる。

 あとから続くやつらも続々集まりつつあるこの温泉旅館は、きっとにぎやかになるだろう。 さぁて、久しぶりにハシャグぞぉ……食って、食って――

 

「食いまくるぞ――――ッ!!」

「悟空、そればっかり」

 

 最後にフェイトのお小言をいただいて、オラも靴を脱いで先に入ったあいつらを追いかける。 でもおかしいんだ、さっきまで一緒に居たはずのプレシア達の気配を背後に感じねぇ。 まるで気でも失ってる見てぇなんだけど…………

 

「そんなわけねぇか」

 

 気にしても仕方ねぇか。 子供じゃねぇンだ、勝手に入ってくんだろ。 ほれ、あのタバコっていうやつを吸うのかもしれねぇし、だったら引っ張ってきちゃまずいもんな。 アレってたしか、吸っていいとこと悪いところがあるっていうし。

 

 とにもかくにもだ、ようやっと温泉の約束を果たせるオラ……あぁそうだ、オラは、いや、オラたちはついつい気が付かなかったんだ。

 “ここ”に入り込んだ侵入者。 そいつが何をし、どういった目的でこの世界に来たのか。 このオラに、どういった用があったのかを……だ。

 

 

 

―――――――――あれが、孫悟空。 あの人…………なら。

 

 

 オラはまだ、“気に留めていなかったんだ”

 




悟空「おっす! オラ悟空」

フェイト「ご、悟空、大変! な、なな、なのはが――」

なのは「……ぶぅ」

フェイト「不良になっちゃった」

悟空「……あーあ、見た目はそのまんまだけどなんか雰囲気が鋭さを増してんなぁ。 ほぉら、なのは、少しでいいから機嫌治せって」

なのは「やだ……」

悟空「ダメだフェイト、こりゃあテコでも動かねー!」

フェイト「あきらめるの早過ぎだよ! もう、どうしたらいいの……母さんたすけてッ!」

おかあさん「……あ、はは」

アルフ「フェイト、ダメだねこりゃあ。 さっきのゴクウの発言でいろんなモンが吹っ飛んじまったみたいだよ」

フェイト「…………あ」

アルフ「こうじゃねぇあーじゃねぇ、そんなこんなで次回! 魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第56話」

悟空「悟空タジタジ!? 高町なのは、初めての反抗期」

なのは「いっしょにお風呂入ってくれないと、あばれちゃうんだから……」

ユーノ「お願いします、何でもします。 だから悟空さん――」

クロノ「この街の……世界のために彼女と風呂に入ってくれ……ッ!」

悟空「別にいいけど……いいのか?」

恭也「…………ゆるさんッ」

士郎「了承」

全員「…………え!?」

士郎「なるようになる。 せっかくの娘がする初めてのわがままだ、聞いてやりたいのが親心さ、それじゃあね」
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