お急ぎ展開……かなぁ
それと戦闘力に関して、感想でちょこっと触れていましたが。 この作品……というより、これからの悟空さんの関係上、ある程度うやむやに(おもにリリカル勢)しておかないと大変なので。
結構納得できない描写が目立つかもです………特に次回。
では、りりごく第6話です
わたし、高町なのは……9歳―――以下略!
実は今日はすずかちゃんの家に行くことになっていたのですが、うっかり寝坊をしてしまって……なので昨日からうちで寝泊まりするようになった男の子――孫悟空くんにお願いして送ってもらうことになったのです。
「う、う~~ん……あれ? ここは……」
「なのは、気が付いた?」
「え? ユーノくん……? わたし……」
ですが目が覚めるとそこは木々が広がる林の中。 でもどこかで見たことがある気がするのはどうしてだろう?
必死になって思い出そうとするわたしだけど、やっぱり思い出せなくて……そんなわたしにユーノくんは、取りあえず事の成り行きを説明してくれて……
「悟空さんが上昇時に思いっきりスピードを出したせいで、なのは、ブラックアウト現象で気を失ってたんだ」
「…………そうなんだ……」
そっか、急に目の前が真っ暗になったと思ったけどアレって脳に血液がまわんなくなったからなんだ…………わたし、実は結構危険な状態だったみたいです。
「あれ? そういえば悟空くんは?」
「悟空さんは、ちょっと……う~~ん結構? 取り込み中で……」
「取り込み中?」
女の子ひとり気絶させておいてどこ行っちゃったのかな? 後でいろいろと問いただ――聞いてみないと。 ねぇ悟空くん、ちゃんとお話してみれば答えてくれるよね?
「あれ? ユーノくんどうしたの?」
「な、なんでも……なんでもありません! ないでございます!!」
なんでだろう、急にユーノくんが小刻みに震えだしちゃった。 寒くはないと思うんだけどなぁ……
「―――! あれ? なにか音が」
「はじまった!」
「え? ユーノくん?」
急に聞こえてきた何かがぶつかり合う音。 これどこかで聞いたことがある……どこだっけ?
あ、そうだ! 毎朝お兄ちゃんたちが稽古してる時に聞こえてくる音にそっくりかもしれない……でもどうしてここでそんなものが聞こえるの?
「悟空さん……がんばって」
「ユーノくん、さっきからいったい……」
とりあえず“ここ”から降りて状況を確認してみないと……えっとぉこの子の名前って……
「あの~筋斗雲さん? ここから降りたいんですけどぉ」
[…………]ぷかぷか
「えっ? だめなの!?」
[…………]ぷかー
悟空くんが友達だって言ってたこの雲さん、何となく意思の疎通ができるみたいだけど……どうもわたしを悟空くんがいるところに近づけないようにしてるみたい。
少し様子が知りたいだけなのにな……う~ん、どうしよう。 あ、そうだ!
「じゃ、じゃあ危なくないところまでこのまま近づいて……もらえないでしょうか?」
[…………]ぴきぴき~~
「あ、うごいた!」
茂みの向こうに近づいていくみたい。 すごい、ちゃんとこっちの言葉がわかるんだ……悟空くんのお友達かぁ……きっとこの雲さんよりももっと驚くような人がいるんだろうなぁ。
「とまっちゃった……」
「なのは! あれ!!」
「悟空くん……それに……あれ!?」
少し考え事がそっぽを向いてしまったわたしは、その光景を見て呆然としてしまいました。 そこには赤い棒……如意棒を斜めに構えた悟空くんと、その対面になにか構えを取っている女の人がいて。
白いヘッドドレスにひらひらと揺れるこれまた白いドレス、それに合わせるかのようにたなびく長い髪……すずかちゃんが青紫っぽい色なら、あの人は藤色に近い色かな?
きれいに整えられた涼やかな表情と相まって、とってもきれいに映る人……その人はわたしがよく知っている人でした。
「え!? なんでノエルさんが―――!!」
そのひとは、すずかちゃんの家で働いているメイドさん……ノエル・綺堂・エーアリヒカイトさんだったのです。
どうして? どうして二人がそんな目で睨みあっているの…………
――――なのはが目覚める10分前の時間軸。
出発後ほどなくして気絶したなのは、彼女の身を案じ……「なんだ、なのはの奴、目ぇまわしちまってる」……ることもなく。 一応桃子に教えてもらっていた目的地に向かって只まっすぐに筋斗雲を走らせていた悟空。
彼は知らない。 この世には用心には用心を、そして迷惑な新聞勧誘を撃退するためだけにゴム弾を打ち出す機械を発明、自宅に装備するとんでも女子大生がいることを。
「うわあ!!」
それは突如として襲い掛かる。 低空飛行をしつつ、木々の間を自在に潜り抜けていた悟空のすぐ横をかすめるように飛んできた黒い物体。
直径にしておよそ15センチ程度だろうか、それが時速換算でおおよそ140キロで飛んできたのである。
「あっぶねぇ! なんだいまの?」
ちなみに今現在起きているのは悟空だけ。 なのははもちろん、ユーノも例のブラックアウト現象にやられて安らかな夢に浸っている。
だからであろうか……
「確かめてみっかぁ!」
誰も知らない……彼がいま、月村邸不法侵入による威嚇射撃を受けていることを。
「よし、おめぇたちはここで隠れてんだぞ? すぐ帰ってくっからな!」
近くの茂みに筋斗雲ごとなのはたちを“安置”する悟空。 別れの言葉をひとりつぶやきながらも、筋斗雲にそっと手を置き前後にさする。
同時にユーノが一瞬だけ夢から帰還したのだが、それに気づかず彼は行く……すべては眼の前の不可思議を確かめるため……の筈である。
「ん~~こっちのほうから飛んできたよなぁ…………あ! これか?」
歩くこと10メートル少々。 そこで見つけたのは黒い筒のようなもの。 ツンツンと如意棒で小突いてみては様子を見て。
「せーの!」
ばっくり! 一刀のもとに両断するのである。
そこに邪魔なものがあるならどうする? 答えは簡単だ、どかせばいい。 まるでそれを実践するかのように器物破損を実行する悟空に迷いはない。
先にけしかけてきたのはむこうだ! まるでそう言わんばかりに尻尾を振り、なのはたちがいる茂みの向こうに行こうとすると――――
「お待ちください」
「ん?」
凛とした声がひとつ響く。
それは涼やかでありつつも、どこか憤慨を感じ取らせる熱さを備え、さらには眼の前の不審者に対する警戒の色を持った声。
きっと悟空の行動を見ていたのであろうその人物は、無駄なく静かに佇んでいる……そんな彼女に――
「なんだおめぇ? はは! すんげぇヒラヒラした服だなぁ」
「――――」ぴき!
悟空は無自覚に挑発する。
きっと気のせいではないだろう。 一瞬だけ右の後頭部付近に青筋を作った女性は、一歩だけ悟空に近寄る。
徐々に詰める間合いは、彼女の“手の届く”範囲を計算に入れた末の距離。 しかしそれは常人から見ればいささか遠い気がしなくもない……だが、これこそが彼女の狙いである―――のだが。
「ん?」
「……」
「んん?」
「…………えっと」
ほんの少しだけ、迷いが生じる。 只のいたずらボウヤなのでは……そう思うのも一瞬、彼女は思い出す。 そう、この敷地内にただの子供が侵入できるわけがない。
「…………(無駄な考えでしたね、この敷地内……しかもここまで屋敷に近い位置まで、どのセンサーにも感知されずにやって来ることはまず不可能の筈)」
「なんだアイツ、全然喋んねぇぞ」
「…………(見かけだけならすずか様と同じくらいの男の子……ですが一挙手一投足に、どこか恭也様たちに近いナニカを感じてしまう。 気のせいでしょうか?)」
その思考は真実に大体近づいている。 ここまで来るのに、まず悟空は敷地のなかに足を“踏み入れていなかった”し、立ち居振る舞いはどうかわからないが少なくともここにいるどの人物よりも実戦経験は豊富であろう。
故に女性……メイド服を着込んだ彼女は戸惑う。 今日は大事な来客が来る日、余計ないざこざはきれいすっぱりと片付けてしまいたいもの……だからこそ。
「あなたに、質問があります」
「わ! しゃべった!!」
「……ふぅ、いけませんね、どうにも調子が……こほん。 あなたはここに何しに来たのですか?」
「え?」
慎重さを見失わなかった。 確認、それはとても大事なことである……正体不明をそのままにしておくことを良しとしない彼女は、“現状”を維持したままに悟空を見つめ、声を出す。
急に喋りだした彼女に、飛び跳ねつつも驚く悟空は質問の答えを考える。 別にむずかしいことはない、ただ正直に言えばいいのだ――――
「オラな? ここに来るように頼まれたんだ」
「頼まれた……?(どういうこと? もしかして何者かの依頼……?)」
――――――言い方が、まずかった。
今の一言で、女性が纏う緊張の空気は一気に温度を下げる。 鋭く、鋭く……どんどん研ぎ澄まされていく彼女の警戒心は悟空を突き刺すように鋭さを上げていく。
子供……使い捨て……施設の破壊……背に負った赤い筒状の不審物――――自爆テロ。彼女の思考が組み上げていく、その物騒な単語のパズルは徐々に完成の目途が付いていく。 それはあまりにも答えとはかけ離れている不思議な事象で。
「なんだ? また喋んなくなっちまった……」
「――――あなたを」
「ん?」
普通ならここでこの子供を保護するなり、確保するなり……何となく穏やかに事を進めることができるであろう。 そう、柔軟な対応をすることこそが物事で一番大事なこと。
自身の与えられた“仕事”を若干なりとも曲げつつ、のらりくらりと進んでいくことも時には必要なのだ……そうなのだが。
「これ以上先に行かせるわけにはいきません、ここで排除します…………」
「……じょ?」
彼女は、生真面目だった――――そのあまりにも硬い主に対する忠誠心は、ここで間違った方向へと彼女を進ませていく。
対して、これ以上にないってくらいに平然と……呑気に首を傾げている悟空は、彼女から発せられた言葉の意味を考え―――
「ん~」
考え…………
「らいぎょ? オラをらいぎょするってどういう意味だ? オラそんなもんになりたかねぇぞ!」
「えっと……」
もう……めんどくさいの一言であろうか。 意味が通じず話が進まず、若干だが衣服の肩口がズレてしまったように見える女性からは気の抜けた声が聞こえてくる。
端正に整った涼しげな表情を崩した彼女、近年稀に見ることもないとんでもなくボケボケとした悟空のアクションに辟易し、警戒のレベルが自然と2ランクほど落ちてしまう。
「…………機械の故障はないはずなのですが………どうしたものでしょうか………?」
やっぱり只の子供なのか……あまりにも無邪気な悟空に対する対応を考え直し始める彼女、仕舞いには厳重なはずのセキュリティの方を疑いはじめるこの始末。
しかし彼女は見る……というより気付く。 彼、悟空から伸びる茶色い物体、気持ちを代弁するかのように自由気ままに宙を漂うそれは、悟空の尾っぽ。
「…………申し訳ございませんが、あなたのそれは?」
「……それ?」
「その、しっぽに見えるそれです」
ここで彼女の目つきが変わる。 だが勘違いをしないでいただきたい、この目は警戒をしている目ではないのである。
それは何かを思い出す目、それはもしかして……と呟く仕草。 主から、正確には主の将来の伴侶である“あのひと”から言伝を承った内容。
――――――――――来客の人数が増えるかもしれない。
「……たしか、オレンジ……いえ、山吹色の派手な道着に」
「ん?」
「青いリストバンド……」
「お?」
ここで、やっとここで彼女は本当の意味で現状の確認をする。 悟空の頭のてっぺんに視線を配ると、そこからゆっくりと首を縦に振っていく。
胴、手、足。 それらを包むオプションと聞いていた特徴とを照らし合わせ……後頭部に大きな汗マークを作り出す。
「重ね重ね申し訳ありませんが、お名前の方をうかがってもよろしいでしょうか?」
「ん、名前ぇか?」
「は、はい……」
そして最終確認を取る彼女の、その口調はいつの間にか来客に対する丁寧なものとなり、表情は依然として無表情でありつつ、しかも構えを取ったままというなんともシュールな絵面となっている。
決して名前を聞いている雰囲気には見えないその風景は、しかし悟空は何事もなく彼女を見つめる。 その視線が若干眩しくも見えるのは、彼女が間違った対応をしていたからか……そんな彼女の不安を決定づけさせるべく、悟空は元気に質問を返すこととなる。
「オラ、孫悟空だ!」
「ソン……ごくう……――――!」
聞いた、聞こえた、聞いてしまった……彼の名前は聞き覚えのあるもの。 間違えなくあのひと……恭也から聞いたその名前。
どことなく中国の方とも取れるその名前はとても有名な名前である。 こんな名前の人物が他にそうそういるわけではない、故に――だからこそ……
「これは大変申し訳―――」
「む!」
謝罪を急いで行おうとした女性に、しかし悟空はそっぽを向く。 機嫌を損ねた? そう彼女が思うのも一瞬のこと、今この場にいる二人の前に彼女はついに飛び出してくる。
「おねがい! ケンカしないでーー!!」
「なのは様!?」
「あ! おめぇ!!」
その者は、つい先ほどまで筋斗雲で眠っていた少女。 栗毛色の髪を短いツインテールに結んだ小学3年生のその子の名は――――高町なのは。
筋斗雲の上から飛び出し、ケンカしている(ように見えた)悟空とメイド女性のあいだに割って入るかのように宙を飛ぶ彼女。 その姿はさしずめ天翔ける天使のよう――――そんな彼女は……
「ん? なんだ? 『ぴー』って音がすんなぁ」
「――――え?」
「この音は!」
防犯センサーに大胆に触れる。
・もうこれ以上ないくらいに大声で叫んだ彼女―――音声センサーに引っかかり。
・無駄が多すぎる、いかにも一般人な行動―――防犯カメラに写りこみ。
・いまだ宙に浮いたまま、地面に向かって落下途中の彼女―――恰好な的とみなされ。
彼女はこの3点を保ったままに、10メートル程度離れているこの邸宅の家主自称、防犯用自動銃の銃口と目が合い。
「ロックのアラートを確認……いけない! なのは様!!」
「ふぇ!?」
「なんだアレ? 『てっぽう』みてぇな形してんなぁ……?」
――――――ダン!
耳をつんざく大きな音が、硝煙のにおいをただ寄せながらあたりに響くのであった。
『――――!!』
音だけに反応したのは、なのはとメイドの二人。 打ち出された弾丸など捉えるこなど叶わない彼女たちは、次に起こるであろう事態を予想してはそれぞれ別の行動をする。
なのはは目をつむり、メイドは間に合わないのを承知で地面を蹴る。 ただそれだけ、それ以上は何もできないしそれらは決して最善ではない。 そう、それが彼らの限界である――――だが。
「――いよっと」
『!?』
彼は、彼だけは違った。 彼は打ち出された銃弾を“目で追う”
本来それは不可能なこと、だが人間の常識レベルをはるかに超える力を身に着けることこそ彼ら――――亀仙流の修行なのである…………故に。
「おぉ痛ちち~~少しだけ失敗しちまった、はは!」
「アノ速度の弾を……」
「手で掴んじゃった……」
たかが鉄砲の弾丸くらい目で追えない悟空ではない……つまりはそう言うことである。
やすやすと銃器となのはの間に割って入った悟空は、その場で『ジャン拳』の態勢に入る。 そしてそのまま広げた右手を大きく振りかぶると、まるでコイントスで打ち上げたコインを掴み取るように、発射された銃弾をキャッチするのであった。
見事に助けられたなのは。 彼女は呆けながらも、自身を身を挺して助けてくれた悟空にどこか焦点の合わない視線を向けつつ、お礼の一言を言おうとし――――
「ご、悟空く……」
「なんだコレ? やらけぇなぁゴムみてぇだ……はは! よぉし、とんでけー!」
「あ……投げちゃった……」
結局言えない彼女であった。
「先ほどは、大変申し訳ありませんでした」
「え! そんなあやまらなくても。 全然気にしてないですよ――ね? 悟空くん」
「…………飛んでいっちまった」
事が済んで早や5分。 緑の芝生の上で立ち尽くしている3人は、猛省するように頭を下げているメイド……ノエルにむかって、なのはが手を振ってはたしなめて。 近くの木にとまっている小鳥を悟空が眺めては、そっぽを向いているという構図が出来上がっていた。
「ですがなのは様、どうやってここまで来られたのですか? 監視カメラには映らなかったと思ったのですが……」
「え!? えっと……わたしは……その」
「?」
気絶してたから――――そう言うわけにもいかず口ごもるなのは。 全ての原因はここまで意図せず迷い込んできた悟空にあるのだが、彼に任せてしまい……
――――どうって……空飛んできたんだぞ?
「あはは……はは……(なんて言われたら大変だもんね……)どうしてでしょうかね?」
「???」
そんな最悪の事態を想定しては、わかっていながらも自分らしくないヘタクソな言い訳すらも用意できず、あたまを斜めに傾けるなのはである。
ちなみに悟空、彼はなのはに言われ、筋斗雲を片付けてはユーノを迎えに行く作業のために茂みに入っていったようだ。 下手に喋られるよりは――――そう思ったなのはの頭は現在、かなりの高回転をキープしているようである。
「悟空様、おそいですね?」
「え!? そ、そうですね……(どこまで行っちゃったんだろう……もう……)」
「またせたな」
「キュウ!」
「あ! 悟空くん……それにユーノくんも」
待ちぼうけを喰らうこととなりおよそ2分。 ここに来てようやく10分が経過した頃だろうか、ここで招待客は一応全員そろうこととなる。
イレギュラーはあったものの……なのは&ユーノのブラックアウト現象とか……一応は“いまのところ”流血沙汰とか物騒なものは起こってない点だけを見れば、それなりにいい出だしなのであろうか。
「それでは、行きましょうか」
「はい!」
「おう!」
「キュ!」
そんなこんなで、3人と1匹は月村邸へと向かって歩き出すこととなるのである。
「どうぞ、お入りください」
「おじゃましまーす!」
「ひぇーでっけえなーー!」
ついにたどり着いた月村邸。 広さにして―――例えるのが億劫になるため省くが、目安としてはここの長女の部屋で、高町の家の庭一つ分はあるらしい。 飛んだ化け物屋敷である。
「なのはちゃん! いらっしゃい!」
「ずいぶんギリギリねぇ……まぁ仕方ないわよね、ここまで遠いし」
そんな中で迎える声が2つほど、そのふたりはなのはと同じくらいの背丈で、ひとりはブロンドであり、もう一人は青紫色の軽いウェーブがかかった女の子たち……
「あれ? あなたは確か……昨日の……」
「悟空! それにこの仔―――ケガ治ったのね?」
「うん……まぁ……」
「ん?」
彼女たちはなのはの隣にいる彼らを見て、一気にはしゃぎ始める。 おそらく年下であろう悟空と、その彼が拾ったというユーノをちやほや……騒がしさを増す女の子たちにしかし悟空は……
「ああ! おめぇたち!!」
「え?」
「なによ……?」
頭上に一つ、白熱球をこさえる。
「おめぇたち、あんときに“びょういん”までオラたちを連れてってくれた――――」
「なに、いまさらなの……」
「…………」
そうそうあんときの…………だが、言葉はそこで詰まる。 あんときの……あんときの……そう言っては俯き、言葉を発さなくなり――――後頭部を右手でひと撫で……すると。
「はは! 誰だっけ!」
『だああっ!!』
女の子三人とメイド一人は盛大に地面にダイビングをかますのであった。
「あ、あんたねぇ! それ昨日なのはにもしでかしたでしょ!!」
「ん? そうだっけか?」
「そうよ! 大体、こんなかわいい子3人もいて名前を覚えられないって……あんた一体どういう神経してるの?」
「あ、アリサちゃん。 かわいいは関係がないかと……」
「アリサちゃん……」
起き上がり、ブロンドを盛大に振り回しては獅子舞が如く騒ぎ始めるアリサ。 それに対して動じもしないのは、おそらく悟空が旅した道程においてあのわがまま16歳(当時)が居たからだろうか。
両腕をあたまの上に組んでは見事な聞き流し……まではいかないが、アリサの必死な叫びもこの少年に深くは突き刺さらないであろう。 そんな彼女を――
「うるさい奴だなぁ、まるでブルマみてぇだぞ」
『ブルマ?』
悟空は独り、旅の仲間を思い出すのであった。
「じゃ、じゃあ改めて自己紹介だね? わたしは月村すずかって言います」
「……アリサ。 アリサ・バニングスよ」
「あさり?」
「アリサ!!」
「ご、悟空くん……」
ここで始まる自己紹介の時間。 かなりいまさら感がある中、そして悟空の約束が再び炸裂する中で彼らは名前を交換する。 それはこれから友となるならとても大事なこと、そんなことは言われるまでもなく、だからこそのこの行動である。
いまだ収まることのない騒ぎの中、奥の扉がゆっくり開く。 とても重そうに奥に構える装飾過多なそのドアを開くのはこれまた女性。
その女性があらわれると同時、悟空は首をひねる。 どうしてかその人からは……
「……キョウヤだ、キョウヤのにおいがする」
「え……?」
昨日たたかった“彼”と同じにおいが、かすかに漂ってきてしまうから。
「い、いらっしゃい……」
そんな悟空を知ってか知らずか、なぜかこっそりと入室してくる彼女。 容姿で言うならばいまアリサの横にいるすずかを幾分か成長させたと言えば分るだろうか。
年にして17~9というところだろうか、おそらく高~大学生程度の彼女は悟空を見て、なのはを見ると――――
「ごめんなさーい!!」
『え?』
「ふぇ?」
「なんだ?」
一気に駆け寄る。 まるで残像拳を使ったかのような……そんな風に消えては現れるような移動方法でなのはに詰め寄る彼女。
そしてなのはの頭をひと撫ですると、今度は悟空の目の前でしゃがみ込んで彼の手を握っては胸元まで引き寄せる。
「なにすんだよ?」
「痛かったでしょう? まさかあんな風になるなんて思わなかったから――」
「あんな風……あ!」
めずらしく困惑している悟空と、女性の一言で何かを察するなのは。 そんななのはを見た彼女は小さく舌を出して片目をつむる。
「うん、そうなんだ……さっきの見てたの、全部。 だから――」
「そうだったんですか……でも、悟空くんが助けてくれたから心配ないですよ――――忍さん」
そうしてなのはは彼女の名前を声に出す。
ちなみに、恭也とは“いいなか”でもあったりするのだが……いまは関係ないので割愛しよう。
「話はおおむね……恭也から“聞いてる”わ。 とっても強いんだってね?」
「え……? おめぇキョウヤの事知ってんのか!」
「あれ? 恭也から聞いてない?」
「オラしらねぇぞ」
「…………そう」
この先の恭也の展開も割愛だ!
「私は忍。 月村忍」
「シノブ?」
「そう。 ほら、アリサちゃんの隣にとってもかわいい子がいるでしょ? 私はあの子のお姉さんでもあるの」
「おねえちゃん!?」
「おねえさん? ミユキみてぇなもんか?」
「えぇ、そういう感じで思ってくれてもいいのかな?」
あいてが子供だからかどうだか判りはしないが、とてもオープンな正確な彼女はすずかの姉だという。
そんな忍とすずかを見て、悟空は何となく正反対な性格……などと思いながらもすぐにそんな思考はどこかへと流れていく。
「――――! なんだ……」
「悟空くん?」
突如として表情を鋭いものへと変化させていく悟空。 引くつく鼻はそのものを捉え、黒い
「お、お茶菓子を~~」
それは銀色の大きなトレーに乗せられた食事達。 おそらく茶菓子のようなものであろうそれらは悟空の下に近づいていく。 それを見ては振るわれていくしっぽにきらめく笑顔……悟空の御機嫌はうなぎ登りとなる。
「きゃっ!」
『あっ!』
「あ……」
しかしそれらは悟空の下にたどり着く前に最大の試練を迎えることとなる。 いきなり……そう、いきなりである。 何もないところでつまづいたトレーの持ち主は、その場で茶菓子たちを空に放逐する。
皆が呆け、驚きの声を上げる中――――悟空の集中力は最大限発揮される。
「~~~~!」
「いよっと!」
左手で食器をひとつ……
「この!」
若干離れたところに落ちていくのは右足で……
「もういっちょ!」
その隣にあるのは左足で……
「きゃーー」
「最後にもひとつ!」
『おーー』
悟空にむかってスっ転んでくる女の子は右腕でキャッチ。
そし完成される曲芸のようなポーズ。 既に四肢のすべては使っている悟空に残された最後の支え――しっぽが、現在彼の態勢を支える柱となっている。
何とも器用に、なんとも絶妙に。 まるで一輪車に乗る子供の様な風な悟空の態勢に思わず皆は感嘆する。
「あ、ありがとうございます……えっと」
「気をつけろよ、もう少しで食いもんが全部ダメになるとこだったぞぉ」
「あ……はい……あれ?」
抱えられた少女を除いて……
少年が自分を助けに回ったと、若干妄想入り混じったことを思っていた彼女。 しかしそんなことはありはしない、悟空が彼女を助けたのはおそらく“ついで”である。
少女が軽くピンチ<食事が食えない――――そんな方程式の下で動いた彼に『狙い』なんてものはもちろん存在しない。 この点はさすが悟空と言ったところだろうか……伊達に昨日の美由希の件をスルーしたわけではないというかなんというか。
「……コホン! えっと、遠いところから来てくれたからからね、飲み物を用意させたんだけど……いらなかったかしら?」
「あ、そんなことないです! ありがとうございます!」
「ははっ、サンキュウな! シノブ」
「どういたしまして――――ファリン」
「はい」
…………少しして。 軽く咳払いをしたのは忍。 彼女は先ほどトレーをぶちまけた少女――ファリンを呼ぶと、二階に移動し、テーブルに皆を集め座らせる。
さぁお茶会の始まりだ、そんな雰囲気が部屋中を巡らせる中で悟空は思い出す。 そう、あいつがいないことを……
「なぁなのは?」
「え? 悟空くんどうかしたの?」
「ユーノが居なくなっちまった」
「…………え?」
そうなのである、イタチ≠フェレットの彼がいないのである。 既に種族としてはどっちに属しているかなんてどうでもいいのだが、取りあえずこの場で彼がいないのは結構危ない状況下である……なぜなら。
「ニャアーーー!!」
「キュウ~~」
この家の
彼は数匹の猫たちが後ろで追走する中で、今を必死に生き残ろうと奮闘していた。
「なんだユーノの奴、すっかり仲良くなっちま―――」
「キュウ――――(悟空さん! たすけてー!!)」
「…………なんだ、ちがうんか」
誤解する悟空。 だがそれはすぐに違うものと理解し、ユーノの前に立ちふさがってはしゃがみこみ、抱え、持ち上げる。
すると頭の上に乗せてやり、『にかっ!』と笑って腰に手をつく格好を取る。
「これでいいんか?」
「…………(すみません)」
「ゆ、ユーノくん……」
堅牢な城の完成に一息つくユーノ、そんな彼を追ってやってきたネコたちは悟空の前で右往左往。 やがて足元まで近づくと、悟空の道着に鼻を近づけ引くつかせながら……
「…………にゃぁ~~」
「ん? どうかしたんか?」
ゆっくりと悟空にすり寄ってくる。 どこか大自然を呼び起こす――もとが野生児であり都会とはあまり縁がないから仕方ないが――そんな匂いを嗅いだ彼等は警戒心というものを投げ捨てる。
あからさまにこの家の主人以上になつき始めた猫たちに、忍は驚きすずかは目を白黒させる。
「わ~~悟空くんすごい……何にもしてないのに手なずけちゃった」
「もとからそんな感じとは思ってたけど……なんなのアイツ?」
「このままウチにいる猫たちが籠絡されちゃったりして……大丈夫かな」
なのは、アリサ、すずかの3人は悟空に関心しつつも、その謎の魅力を理解できず……
「にゃ~~?」「にゅ~」「にゃあ!」「にゃ!!」「ゴロゴロ~~」
あっという間にネコの集落が完成されてしまっていた。 悟空を中心に展開されていく謎の動物王国に困惑しつつ、その中で囲まれ……もとい、完全包囲されたユーノはもう恐慌状態である。
小さく丸まり、悟空の頭の上で“携帯電話”になりながら事が済むのを待つ作戦にシフトしている。
「にゃにゃ!」
「どうかしたんか?」
そんな中で一匹の猫が悟空になにかを差し出している。 まるで“お近づき”と言わんばかりのその行動は人間社会にも似た行動で。 あんまりにも稀なその光景に見とれつつも、しかしなのはとユーノの二人は……
「――――あれ?」
「キュウ!(こ、これって!)」
それがなんなのかを見て驚愕する。 猫が悟空に差し出したのは“石” その石はとてもきれいでいて、どこか禍々しく見え、されど青く澄んだ輝きを放っている。
それはつい最近、というより昨日見たのと同じ形をしていた。 色も大きさも酷似しているソレの名を、ユーノは心でなのはに伝える。
【間違いない! なのは、あれはジュエルシードだ】
【ユーノくん? え? 頭の中に声が……】
【念話……というんだけど、今は詳しいことを説明してる時間がない。 アレが変なことを起こさないうちに早く回収しないと!】
【わかった】
阿吽の呼吸……まさにそんな意思伝達の速さで事を実行しようとする二人。 ユーノは自らの使命に燃える眼差しでその石を見ると、一気に駆け出す――――地獄の中へ。
「ユーノ! おめぇ……」
「…………にぃあ~~」
「あっ! しまったッ!!」
自身が置かれた立場というのをすっかり失念していた彼は思う――――もう少し落ち着いて動いていれば長生きできたのかな……などと。
それはともかく、とにもかくにもそこに着地してしまったユーノは、目の前に居る石を咥えたネコと目が合い……息をのむ。
想像してもらいたい。 およそ自身の倍以上ある獣を前に怯ます接することができるのかと、故に彼を笑わないでいただきたい。
今にも泣き出しそうに、そして勝手に閻魔界にでも行きそうなほどに震えあがっている彼の事を――――
「ははっ! 怖いんなら降りちゃダメじゃねぇか」
(そ、そんなこと言ったって!)
まぁ、悟空は笑うのだが。
「にゃ!」
「――――ひっ!」
そして運動会の始まりである。 一気に駆け出す獣の群れ、ぞろぞろとうごめきつつも中には悟空から離れようとしないものもいるのだが、それでもユーノを追う数の方が断然多い。
「に、逃げ場は! そこだ!!」
「にゃう!」
ユーノの急転回。 自由に開け放たれた窓を見ると同時に、彼の全身を巡る血液が“たぎる” ここだ! 今しかない!! まるで映画のスタントのように彼は風となる。
「ユーノくん! ここ2階――」
「キュウ……(え……)」
「おーアイツやるなぁ」
彼が思いもしない意味でだが。 ひっかるテラス突き抜けFly Away〈Fly Away〉――――二階からユーノが飛び出した瞬間である。
そして、ネコ。 さらになのは――「遠回り、とおまわり……」――は無理として。
「オラ様子見てくるーーー!」
「あ! 悟空くん!?」
「ちょっと!? アンタまちなさいよ! ここ――――」
「悟空くん!!」
コトモナク、あっけらかんと悟空もテラスを翔けだしていく。
なのはの姿も見あたらない。 彼女は既に玄関から外に飛び出しているからである。
「ファリン! 急いで庭の防犯装置を解除して! またさっきみたいなことになったら大変だから!」
「わ、わかりました! ノエルおねぇさまーーー」
忍のとっさの判断、それは正解である。 悟空やユーノはともかく、なにせ運動音痴がひとりついて行ってしまったのだから……まぁ、誰とは言わないが。
そんな彼女たちはいったいどこまで行ってしまったのか……心配しても、防犯カメラさえ同時にオフにしてしまうのだから探しようもなく。
「恭也ぁ、お願いだから早く来て~~」
忍の、そんな愛しい彼を求める……深刻なツッコミ役の不在を嘆く……声が、部屋の中に木霊するのであった。
「お! いたいた!! おーい、ユーノーーー!!」
午前の日差し、木々を照らすあたたかな日の光はとても眩しく。 そんな輝きの中で軽快なリズムを保ちながら、木から木へと移動している悟空はターゲットを見つけ出す。
逃亡者ユーノは狩人からの執拗な追撃で精神をひどく摩耗しているみたいだ……たぶん。
「ご、ごぐうざ~~」
「あーらよっと」
「にゃあ!?」
木から木へ、その点と点を結ぶ中間地点にいる猫に向かって飛び降りた悟空は猫を抱きかかえる。 最初は暴れたネコも次第に落ち着きを見せ、すぐに悟空の成すがままにされていく。
顎をぐりぐりとなでられては至福の声を上げるそのすがたは、とてもじゃないが今日初めてであった仲とは思えないほどであり。
「か、怪物が……手なずけられている……」
ユーノはあらためて悟空の偉大さに心を弾ませるのであった……大げさである。
「ごっ……はぁはぁ……ごくっ―――ふぅ…ふぅ…悟空っ――くん……」
「やっと追いついたんか、おめぇ足おせぇぞぉ」
「そ、そんなこと……言ったって…………はぁはぁ……無理だよ!」
さらに追いついたなのは。 彼女は息も切れ切れに脇腹を押さえながら悟空の下に到着する。
そんな彼女に呆れた声を出す悟空。 しかしそれは無理というものであろうか? なにせ50メートルを7秒出せればすごいと言われる小学生たちと、100メートルを加減した上で5秒6で走りきる亀仙人の修行に耐え、さらにその上を行く実力を身に着けた悟空を比べるなど愚かにも近い行いであるのだから。
抱えられた猫がひと鳴きする中で、悟空はまたしてもそっぽを見る。 それはここより遥か遠く、月村の敷地内にある一際大きい木の真上…………
「なんだ? アイツ」
「え? 悟空くん?」
「悟空さん?」
そこに彼女は居た。
遠くでよくわからない、わからないが……悟空の目にははっきり映りこむ影。 なぜかこっちを睨みつけるように佇むその影はいまだ動かない。
「…………いよし!」
「え?」
「わ!」
「にゃ!?」
掛け声をひとつ、そして猫を右手に抱えたままに悟空は一気に駆け出す。 その時の顔は少しだけ笑顔。
また新しい冒険を前に胸を弾ませた冒険家のように、彼は森の中を突っ切っていく。
「悟空さん!? ジュエルシード封印しないと……なのは!」
「また走るの~~待ってよぉ~~悟空くーん!」
ただ後をおっているだけで既にピンチを迎えている、小学三年生のなのはを置いていったままに。
「なにモンだあいつ……オラたちの事、“さっきから”ずっと見てたみてぇだけど……まぁ、行ってみりゃわかっか! おめぇもそう思うだろ?」
「にぃ?」
走りながら独りごちる悟空。 今回は本当に言葉のわからない相手だが、それでも会話をしているように見えるのは彼の有り様が自然すぎるからか……
そうかな? なんて返事が聞こえてきそうな猫の素振りは悟空にも届き……
「もっとスピード出すからな、ちゃんと捕まってんだぞ! それー!!」
「――――!」
自分が言ったことを証明するために、悟空は進行速度をさらに上げることとした――――そして。
「ついた!!」
「――――え!?」
あっという間に到着。 そこは開けた土地であり、まん中に大きな気がそびえ立っている以外は他の場所とあまり変わり映えしないところ。
しかし緑あふれるその場にそぐわない色が一点だけある。
「おーい! そんなところでなにやってんだーー!!」
「…………」
それは黒。 全身を黒で染め上げ、ピンク色のパレオでアクセントを取りつつも、どこか軽装で身軽さを意識した“装備”を施している少女が居た。
そんな彼女は、悟空の掛け声に答えることはない。 ただ見下ろし、彼の様子を探っている。
「なんだアイツ? 黙ったまんまで喋んねぇな……」
「にぃ……」
「…………!」
一行に動きを見せない少女、だが猫の一声と共に彼女の目つきが変化する。 別に猫が原因ではないのだが、それでも彼女の視線はただ一点――猫が咥えた“石”に向けられている。
「……あんなところに…………」
「ん? おめぇ、アイツと知り合いなんか?」
「にゃ?」
「ちがうんか……なんなんだろうなぁアイツ」
その視線は悟空も気付いている、自分にではなく猫に向かって向けられたその視線に、悟空は彼に質問するも、その仔の返答は否定。
故に悟空は測りかねる。 木の上に突っ立ったままに動こうとしないそのものの目的を……
「ご、悟空くーん」
「ん? あ! なのはおめぇ、やっと追いついたんかぁ」
「あれ? あそこにいるのって」
そして合流しだしたなのはとユーノ。 そこで彼らは悟空が見ている者に視線を向ける……のだが。
「よく見えない……変人さん?」
「…………」
彼女はただ、思ったことを口にするにとどまる。 確かに見えない、男とも女とも判別がつかないくらいにぼやけて見える高さだ、当然であろう。
むしろあれを目視で来た悟空が異常なだけで、そしてその悟空はここで一つの結論を生み出していた。 高いところ――喋らない――動こうとしない……そこから導き、叩きだしたのは―――――
「わかったぞ! おめぇそこから降りられなくなったんだろ!」
「え? あの……わたしは……」
ちいさい猫がよくアレである。 上ったはいいけど~~なんていうフレーズが浮かぶ中で、『あぁ、昔やったなぁ』なんて頭を縦に動かすのは悟空に抱えられた猫。
その悟空の大声に、若干反論の声を上げようとしてついに声を悟空に向けて投げかけた彼女。 それはどこか儚い印象を与える細い声……それを聞いた途端に、なのはは一人の女の子の事をもいだす。
「あの子……」
其の昔、まだ自分たちが一人だったあのころに……大事なものを取られ、今にも泣きそうだったあの子の事を――――
「いまオラが助けに行くかんなーー! よっこいしょ……おめぇはそこで待ってろよ?」
「え? だからわたしは―――」
なのはが昔を思い出す中、悟空はその場でストレッチ。 困惑している少女を余所に、勝手に話を進めていくのは悟空の悪いところだろうか。
勝手な少年、そんな彼を見下ろしている少女はそれを見る。 彼が抱えていた猫が持つその石、それを悟空が受け取っている様を…………そして。
「待って!」
『―――?』
呼び止める。 それは黒衣を羽織る少女の声であり、どこか力のこもった闘いを知っている者の声。
急に雰囲気が変わる彼女に、ユーノは気付く。 彼女のあの恰好は、昨日なのはが着込んだあれと同質なものであると。
「なのは、あのひとが着ているの、たぶんバリアジャケットだよ!」
「え? それって昨日の……確か魔法で作った……?」
「そうだよ」
「ということは……」
気付いた彼女の思考は一発正解。 彼女は間違いなく自分と同じく魔法を行使するものであろう……と。
「あなたが持っている“石”を渡してほしいの」
『え!?』
「オラが持ってる石……? コレの事か!」
「そう! それのこと……お願いだからわたしにそれを――」
明かされた彼女の目的。 驚愕するはなのはとユーノ。 なぜそれを? それはユーノが探しているものであり、あの少女はこちらと面識がない……つまりは向こうは独自の目的をもってして行動していることとなる。 それを知ってか知らずか……
「おめぇコレが欲しいんか? でもよぉ……こいつはさぁ……ん?」
『?』
悟空は言葉を詰まらせた。 この先の言葉が出てこない、確か……えっと……と呟いては……答えに至る。
「そだ! “じゅえるみーと”はユーノの奴がばら撒いちまったからって、自分で集めてんだぞ? なんでおめぇも集めてんだ?」
「じゅえる……」
「みーと……」
答えは若干間違てはいるが……とてつもなく美味しそうな肉の名前と勘違いしては、けれど悟空の言ったことはひどく的を射たもの。
ユーノの頑張りは悟空にだってしっかり伝わっているのである。 そんな彼の行いを、もし手伝ってくれるならばありがたい話なのだが。
「あなたには……関係ない」
「なんでだ!」
「…………」
「また黙り込んじまった」
少女の答えは否定的。 明らかに悟空たちとは違う目的を秘めたその態度に、悟空の警戒心は上昇する。
それは少女がいきなり武器を構えだしたから。 すらりと構えられるは、少女と同じく黒いボディーの斧。 黄色い宝石のようなものが埋め込められており、それはどこかなのはのレイジングハートと似た印象を彼らに与える。
「…………あまり手荒なことはしたくないけど……それを渡さないのなら―――」
宣戦布告の声。 最初に何やらつぶやいたが、あまりに小さい声は悟空でさえ聞き漏らす。 迫る緊張の空気、それは悟空の肌に伝わり、後ろにいるなのはたちに声をかけさせることとなる。
「おめぇたち、どっか茂みに隠れてろ……コイツ――――」
拳を握る。 構えては尾をゆらりと振って、“戦闘態勢”を悟空に取らせる。 なぜかはわからない、どうしてかはわからない。
だが”今の悟空にも”わかる、この少女の気迫は間違いなく―――
「強ぇえ!!」
『え――――!』
――――本物であると。
邪魔をするなら切って捨てる! 彼女が持つ斧から伝わるその心意気。 それは悟空に混戦の予感を張り巡らせる。
かつて大魔王を倒した少年をここまで警戒させる戦いが……いま、切って落とされようとしていた。
悟空「おっす! オラ悟空!!」
なのは「始まった戦い。 それをただ見守ることしかできないわたしたち――――あ! 悟空くんあぶない!!」
悟空「へん! こんくれぇの攻撃、天津飯に比べたら何ともねぇ! それよりなのは、手を出すなよ!!」
なのは「え? で、でも……」
ユーノ「次回、魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~第7話」
悟空「奇策!! 悟空、決死のかめはめ波!」
???「その砲撃は……効かない!」
悟空「だったら……これでどうだーーー!」
全員『えーーー!?』