今回の話に”あの教室”は出ないんだ。 出せなかったんだ……あの踊りを……
だけど今日はきちんとあの人がカッコイイところを見せる。 だからそれで勘弁してください。
注意書き以上!
では、りりごく65話どうぞ……
戦闘民族サイヤ人。
彼らは地球人の、特に日本人に似た特徴を数多く持つ人種である。 黒い目、黒い髪……どれをとっても地球人とそん色ないそれは、一見しただけでは区別がつかない程だ。 だが、そんな彼等には我々にない外見上の違いがひとつだけある……尾だ、茶色く長い尻尾が彼等には生えているのだ。
さらに違いは彼らの習性と文化にまで見られる。
まず、人間で言うところの3大欲求の大きな違い……食欲は旺盛ではあるものの、性欲が果てしなく低い。 そこに彼らが少数民族という所以が隠されているのかもしれない。
では、その欠けた性欲の座に君臨する欲求とは何か…………それは戦闘欲である。 彼らは戦いというものこよなく愛し、それが無ければ生きていけない、言わば生まれ持ってのドランカー体質でもある。
中には例外があるらしいが、今現在生存しているサイヤ人にこの兆候が見られないため、確認の方は難しい……
――――――――――そう、生存した、たった二人のサイヤ人は、やはりどことなく似ていたのだ。
「ちゃああああああッ!!」
『!!?』
黒々としていた不気味な空。 それが突如として晴天の空へとなり変わっていく。 ……世界が震えれば大地が裂け、星が呼吸を乱せば風が巻き起こる。 この世界は、たった一人の人間に
青い衣服の男……ベジータが悪魔に向かって右拳を振るう。 当然、それを迎撃する悪魔は、左足で空気を切る。
「……ッ!!」
【ギィィッ!!】
裂ける空間と爆ぜる風。 二つがぶつかり合えば世界がまたも大きく戦慄く。 怯え、震え、様々な感情を自然現象で表すこの星は、有史以来いちばん忙しい位置に血を送っていることだろう。
其れは、少女達も同じことなのだが。
「は、ハルにゃん! ユーノさんと局員の人は――!」
「大丈夫です……けど、戦闘の余波だけでこちらの体力が消されそうになるなんて……うくっ」
「ぐ、ふぅ……」
「 」
爆風に長い髪をなびかせて、世界の終焉を見届ける二人の少女。 その子たちに守られるように、いま、命の灯火を消そうとしている男たちはこの現象を見届けることもできない。
時間は、どうやら多くなさそうだ。
「……ッ!」
突然、ベジータの右手が輝きだす。
その光を見た悪魔は右足を踏み出す。 つま先を相手に向け、踏み込み、そのまま力を上半身へ持ち上げていく。 背中を使った反動は力の増幅を行ない、大地から始まった力の経路を一気に下方向へ反転……軸足とは逆の足へと持って行く。
振りあげた脚が、ベジータの胴目がけて飛んでいく。 ――先手を取りながら、悪魔に速度差で負けているのが決定づけられた瞬間だ。
「…………ふん」
だが、ここで彼はなんと鼻で笑う。
そんなことくらいでいちいち騒ぐな……お決まり名台詞を顔に描くだけに留めると、彼はそのまま突撃してくる足に、輝く右手を差し出していた。
―――閃光が、アインハルトたちの視界を奪い去る。
爆発の大きさは、おおよそにして半径3メートルといった感じか。 その範囲は確かに小規模であったが、アインハルトにジークリンデは悟る。
『いまの攻撃、間違いなく魔導師の砲撃クラスはある……』
それをあんなお手軽に放ち、尚且つ掌底を決め込むタイミングで放つなどと……攻撃力のもともとの差があるとはいえ、あのような戦法を簡単にこなすあの男に、今やっと彼女たちは戦慄する。
「あの踊るように繊細、それでいて剛の雰囲気を見せつける戦い方……」
「まさしく師匠と同じ部類のファイター……いえ、グラップラーでしょうか」
男の正体見たり、その名はサイヤ人。
武の特性を見届けつつ、彼の残す影に山吹色の光りを見た彼女たちはそこで言葉をなくす。 ……なんて、なんて――
『出鱈目な動きなんだろう』
【グゲゲ!!】
「はぁッ!!」
拮抗して見せる彼らの戦闘。 純然たる力と力のぶつかり合いに、未熟な覇王と破壊者は只、言葉を忘れてしまうだけであった。
「……しかし、妙です」
「どないしたん?」
「いえ、……なんだかあのヒト、現れた悪魔の攻撃を見て躱しているというより……」
「あぁ……それはウチも思たで。 なんやろうあのヒト、なんだか違和感がするんよ」
「はい」
悪魔の右肩が動けば身体の重心をを左にズラシ、攻撃が来るころには胸元に腕が通り過ぎる。 そうだ、あのサイヤ人と思われる彼……ベジータの動きは躱すというより相手に合せて打点の位置を変え、攻撃を反らしているように思える。
……あくまでも、“見える範囲”での感想だが。
だが、そんなこと……
【…………ギヒッ】
「なに?!」
当の本人が一番わかっている。
笑みを浮かべる……歪な笑いだ。 悪魔が作り出したそれに、ベジータの背中を大量の冷えた汗が流れていく……
「――――ッ?!」
流れた汗が、はじけ飛ぶ。
唐突に背中へぶつかる何か。 内臓に与えられるダメージはそのまま気道を狭ませ、細くなった喉では呼吸が困難となり血流が乱れる。 思考の遅れ、それが示すのは……圧倒的な隙。
【ギヒッ!!】
「ぐぉぉぉおお――――!?」
その隙は当然突かれる――王子は、腹を進行方向に向けながら遠くの岩場へふっとばされていく。
「…………し、しんだ」
「あれは……」
それを見守る事しかできない彼女たちは、誰もが生存を疑う。 そのあとに来るソニックブームに髪を暴れさせると、視線の先にいるであろう男の生存を―――
「……………はぁぁぁぁぁ……」
『!!?』
知る。
だが知ったのはそれだけではない。 ……そうだ、彼はおそらくサイヤ人、なら、彼にもきっとあるはずだ――
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」
「く、来るでハルにゃん! あの……空ちゃんの時と同じ感覚や」
「はい! きっとあの変異が――――きゃあ!?」
大地が揺れ始める。 バランスを崩し、尻餅付くものなら世界の異変を見渡していく。 唸るような声、消え入りそうになる正気、崩れ落ちる……常識。
彼女たちは故あって気をほんの少し程度なら感じ、操ることが出来る存在だ。 ……けど、それが今回――
『はわはわ!!』
あだとなる。
わかってしまったのだ、今しがた行われていた戦いが、本当の意味で“舞踊”であったということを。 そうだ、彼等はまだ見せていないのだ、……真骨頂というやつを。
「ぁぁぁぁぁぁあああッ…………」
彼の叫びが一層激しくなる。 同時、岩場の方に異変が……
「あ、あぁ……」
「塵が飛んで……岩山が……弾けた!!」
其れは、地形を強制的に変える彼らの得意技。 見えずらい岩山の数々を、まるでロードローラーで踏み均したかのように整備していくのはきっとあの男だ。 そうに違いない間違いない。 ……それ以外の要因はもう、お腹がいっぱいだ。
だが、こんなにもタメが入るのはなぜ? ……それは。
「だああああああッ!!」
彼が超戦士だからだ。 ……赤茶けた世界が、今度こそ激変する。
変わる色は黄金色。 先ほどまで広がっていた死の大地は、まるで水を与えたかのように生命の色を取り戻していく……そう、それがたった一人の人間が作りだした物だとは知らずにだ。
世界は今、男の力により強引に法則をネジ曲げられる。
「あ、あれはさっき師匠が見せた……」
「金色の……戦士……」
見たモノはどれもこんなことしか言わない。 だってそうではないか、この、恐ろしいくらいに身体にぶち当たる力の波動が全てを物語るのだから。 言葉はいらない、ただ、そこにある驚異さえ分かればそれでいい。
金色に染められし男は、いま、戦場を再び駆け抜ける―――――――
「でぇぇぁぁあああアアッ!!」
速い、何よりも速いそれは、逆巻くフレアと相まって、日本古来より伝わる雷神を思わせる姿だ。 故にその攻撃は電光石火……撃てば火のごとし、駆け抜けるは雷のごとし……だ。
……しかし。
【ギヒ!】
「なに!?」
その雷を、まさしく涼風が如く躱す悪魔がそこにいた。 なんてことはない、只の拳だ……言葉をしゃべろうものならそんな風であろうか。 呆気にとられ、自身の拳を見送るだけしかできない王子の腹に――衝撃が走る。
「ぐぉぉ……!」
【グヒヒ……ギヒヒ……ヒィーヒャハハ!!】
「ぐ、ぐぉ! がッ!!」
右の頬、左の肩と鎖骨、さらに暴風のような蹴りを左わきに喰らうベジータ。 あまりにも絶妙な連携のカウンターに息をするのも忘れてしまう……動きを見切ったのはどうやら――――
「あちらの方が上……なのか」
見ただけでわかる相手の対応力の高さ。 早くもベジータの呼吸に合わせてきた奴は、まるで先を読んだ攻撃を彼に叩き込んでいく……ジークリンデは、見える範囲で総会咳を完了した。 ……そして。
「……このオレとしたことがなんて不様を……ぐっ!?」
「あ、ぁぁし、しっかり!!」
この場に転げ落ちてきた王子を担ぎ上げようとして……
「このオレに触るな!!」
「きゃあ!?」
「ジークさん!! ……貴様、いったい何を!」
金髪の彼に、逆に突き飛ばされてしまう。
味方ではないのか……咄嗟に上がる疑問は、そのまま彼女の視線の鋭さへ直結する。 上がる警戒心、しかし、それをものともしないのがこの男だ……奴は、誰の手も借りずに立ち上がる。
「また負けるというのか。 このオレが……サイヤ人の王子ベジータが!」
【……ギヒヒィ】
ひざを地面から離したばかりの男は、すぐさま奴を見る。 ……なんて人を馬鹿にした顔だろうか、見るだけで反吐が出る。 ……その、人を見下した、否。 王子を蹴落とすその視線がたまらなく……
「そんなことがあってたまるかぁぁああ!!」
『!!?』
あたまに来る。
心のイラつきはそのまま咆哮のボリュームを引き上げていく。 高く、どこまでも昇っていくその声は、正に昇龍が如く彼の強さを引き上げていく。
「はぁぁぁぁ――――でぇぇああああああッ!!」
『な、なんだ!!』
このオレの強さを超えるだと……ふざけるな!!
難度だって味わってきた屈辱の味。 追いついたと思えば素知らぬ顔で1歩も2歩も先を行く男……なぜあんな笑顔しかない奴がオレよりも前に行く! なぜサイヤ人の道から外れた出涸らしがエリートの自分を突き放す――
見つからない答えは、ひたすらに彼を苦しめ続けた。
「この、オレを……」
歩き出した道の険しさは気に留めやしない……けど、彼がつらいのは結果を出してもそれを追い抜いていくアイツの存在と――
「この……オレをぉぉ……」
いつまでたっても同じことを繰り返した……
「舐めるなぁぁァァア!!」
成果の出せない自分自身なのだから。
彼の雄叫びは、ついに世界をぶち破る。 黄金色に染まりし頭髪に、更なる色が加味される。 鋭く、激しいそれをあえて名づけるならば……蒼電。 稲妻が走ればより一層彼の身体は凄みを増す……
「な、なんなんだこの人は……どこまで強くなっていくんだ!?」
「ありえへん……こないな力、普通身体が持つわけあらへん」
「ぜぇぇぁぁああアア!!」
上げにあげた彼の気力。 どこまでも爆発していってしまいそうなそれを理性で縛り上げた時……気性の激しいはずの超戦士は、冷酷の名を持って新たな段階へ足を踏み入れていく。
「………………」
『……あ、あぁ』
蒼電纏いし黄金の戦士、ここに再臨……
「…………」
彼は……
「でぇぇああああ!!」
【!!】
拳を、悪魔の腹に突き立てていた。 ……見えない、何もわからなかった今の動作にさしもの悪魔も――――
【ギヒ……ギヒッ……ギヒヒ!】
笑いが止まらない。
見つけた、やっと出会えた強者……それがこんなに自身と拮抗しているのだ、これほど面白いことはない。 退屈凌ぎも終わり、準備運動もここまで……体が温まったところで繰り出された今の攻撃は……
「ち……薄気味悪い野郎だ」
【グゥ……グゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ――――――ッ!!】
ちょうどいい目覚ましとなったようだ。 怪物は、先ほどの返事をするかのように雄叫びを上げる。
悪魔は、その背から伸びる尻尾を……地面に叩きつける。
「!?」
「たったの1動作で……なんて殺気を」
その仕草だけで、思わず魂を持って行かれる寸前だった子供たち。 彼女らは相対していないはずだ、でも、そんな離れている者たちでさえ恐慌させるには十分な威力を持つ凶気を、一身に受けているベジータは……
「ついにやる気になったか……」
右手を、ただ強く握るだけだ。
「……奴の戦闘力は、“先ほど”見た時よりは大分落ち込んでいるとみていい。 倒され、再生したからかどうか知らんがこれはチャンスだ」
思考の高速回転。 戦闘マニアで在るからこそ策も巡らせる彼は、そのまま今の状態を再度確認する。 ……その、先ほどまで戦った相手を切り裂くかのように視線で射抜く。
「もう“あんなの”は御免だしな……丁度いい、バラバラに吹っ飛ばしてやる」
その視線は、届いただろうか?
「二度と蘇らんようにな」
自身が思い描く未来の姿に……
超戦士ベジータ、始動。 今ここにようやっと重い腰を上げた者たちが――――
「はぁぁあ!!」
【ッギ】
ぶつかり合う。
拳を三度放つと、相手はそれに対応して何やら不可視の攻撃をしてくる。 それを、気合砲などの類いと速攻で決めつけたベジータは、その場から忽然と消えていく。
【――ッ】
「ぜぁああ!!」
超サイヤ人が、悪魔の影を大胆にも踏む。 彼が現れたのは悪魔の真横、右足を振りあげ、蟀谷に向かって気を纏わせた渾身の一撃を放とうとする姿が皆の視界に入る。 ……攻撃が、決まろうとしていた。
『やった――――』
当たる。 インパクトの瞬間に身を屈ませ、来るであろう衝撃波に身体を地面に押さえつける。 ……確実に、それでいて胸の鼓動を抑えきれない観戦者たちは、ベジータの勝利さえ確信した。
【…………】
カタン……カタン……
「……え?」
異変に気が付いたのは、ジークリンデだった。
なにか、そう、まるでジグソーパズルや積み木を崩していくようなイメージを抱く謎の音。 それを耳にした時だ、彼女の目の前で信じられない出来事が起こる。
カタカタカタカタカタカタカタカタ……………――――
「か、身体が崩れた!?」
「馬鹿な! 今の攻撃を避けられた!!」
ブロック崩し……とも言えようか。
ベジータの渾身の一撃を、その攻撃から逃れるように消えていく奴の身体。 霞の様でも、蜃気楼の様でもない……そう、正に実態を持ちながら徐々に、そして一瞬で消えて行ってしまう。
「…………」
振りかぶった後に、嵐が巻き起こる。
小型の竜巻は、今の一撃の重さを見事に表し、遠くの方で聞こえる爆発音は今起こった衝撃の威力を正直に訴える。 惜しい……見たモノにこんなことを言わせるのには十分な今の動作も、この、油断のない王子からしてみれば……
「――――かかったな」
【――ッ】
『え?!』
ズバリ、計算通りの道順にしかない。 そうだ、彼の攻撃はまだ終わっては無いし、目的の半分も達していない。
「はぁぁ――」
掲げるは右手。
折り曲げた一本の指は、親指。 彼はその丁寧に向けた手の平を、何もない空間に添えると全身のフレアを一気に吹かしていく。
『――――』
ふたりの少女は、未だ“目の前で行われている”この一連の動作を思考で判断することができない。 それほどに速い行動の切り替えの中で、ベジータは一気に体中の力を右半身へと偏らせる。 そう、激しく燃え上がる気を一点に集めるために……
「ビッグ……」
その声はなによりも自信に満ちていた。
「バン!」
ふらりと伸ばされた手の平が一気に力強い形を作れば、そのまま彼の気力が炎のように燃え上がっていく。 だがその色は黄金ではなく、もちろん紅蓮ではない……そう、その色は彼のパーソナルカラー。
「アターック!!」
『!!?』
青色なのだから。
解き放たれた閃光。 それが赤茶けた景色を一変させるところであった。 来たる衝撃に身を屈ませていた少女達はそのまま歯を食いしばる。 身構え、地面に手を沿えていたところであろう……
「バカヤロウ! 後ろだ!」
『!!?』
【グギギィ!!?】
蒼き閃光が、少女達の“真後ろ”で爆発する。
背後に流れていく横風のなんと勢いの強いことか。 流されていく長髪のたなびく強さが、今起こった爆発の威力を思い知らせてくれる。 だが、今彼女たちの思考を埋め尽くすのはそんなことではない。
「……いま、あの怪物の……」
アインハルトの柔肌に、数多くの鳥肌が立つ。
奇行、気功……貴公……いったい何をやった、言葉が出せない彼女の心の内は興奮と疑問であふれかえっている。 ハイレベルの戦いと、明らかに戦力差があるはずなのにそれを機転と行動力でカバーするあの男の戦い方に。
彼女は、確かに目を奪われていた。
「けほ、けほ……でもなんて無茶な戦い方。 転送先が決まって、そっちに存在の固定が決まり今この瞬間にも転移先に行こうとして消えかけた相手に向かって砲撃を打つなんて。 しかも着地点ごと吹き飛ばしたんよ――発想が攻撃的過ぎる!」
隣で、やはり驚くジークリンデ。 彼女はなにより、ベジータの思い切った今の攻撃方法に目を奪われていた。 ……そもそも、転移云々を抜きにしても、もしも角度がもう少しあまかったら……汗がとまらないのは決して気のせいではない。
「ふん、やはり今の攻撃に間違いはなかったようだな」
こちらの命に間違いがあったらどうする!? おそらく出るであろうこの言葉は……しかし次の王子の一言で……
「
『…………ッ』
見事、封じられていくのであった。
垣間見られる、とある人物への執着。 それが誰かなんてわざわざ聞くことなんてしない……なぜなら、彼女たちも目指す頂は同じはずだから。 どんなに高くても、見てしまえば手を伸ばさずにはいられない。
そうだ、気が付けば目指すのは
「さぁ、こいつで止めだ――」
よろめく悪魔、対して王子の闘気は急激に膨れ上がっていく。 見た目で解る絶好調な気は、ただそれだけで攻撃的な性格を映し出していく……いま、彼の本領が発揮されようとしていた。
「……くる。 ジークさん!」
「みんなで避難や――巻き添え喰らう前に!!」
若干、もつれた足を気合で叩き起こす。 それぞれが一人ずつ担ぎ上げれば、後は足腰を全力で駆動させるのみ。 消耗したかどうかなんて知った事ではない……今は只……
「ぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁあああああーーーー」
『!!?』
「喰らえぇぇぇえええッ!!」
その衝撃から逃れることだけを考えろ!!
ベジータがビッグバンアタックの構えからさらに打ち出したのは……気弾。 その、あまりにも強い衝撃波は、圧倒的なまでに鍛えられたと自負していた足腰を持つアインハルトたちでさえも吹き飛ばしていく。
「はぁぁあああ――」
【ギギッ――!!】
転がる彼女たち、威力の違いを改めて思い知らされていく子供たち……視線は、自然と王子の手先に集中していく。 その輝きを見つめる中、開いた口から出てくる単語と言えば……
「すごい……」
たったそれだけ。 呆けると言っても過言ではないその様子に、しかし、王子の持つ光は終わりではない。
「でぇぇええぁぁああああッ!!」
一発が放たれればもう一つが……それが当たればもう二つ。
「あ、わわ……」
「はぁぁぁあああッ!!」
唸るそれはまるでガトリング。 しかし勘違いするな皆の者、あの砲身は55センチを凌駕した巨砲が如く圧倒的な武器なのだ。 それが一斉に、それも秒間に数十発ごとに打ち込まれる超兵器。
「す、すごい……これなら!」
「なんて火力なんやろう、空ちゃんだってここまでやらへんよ……」
「ウォォォォォオオッッ!!!」
……耐えられるものなど、いるわけがない。
『すごすぎる!!』
「フフ……ふはは…………はぁ――はっ!! くたばりやがれ死に損いが――!!」
輝く流星のように打ちこまれていくベジータの弾丸たち。 彼らは一層輝きを増すと、そのまま悪魔を姿かたちの分らぬ存在にまでかき消していく。 大地にぶち当たれば土煙を巻き上げ、焼けた空気から匂う硝煙は勝利者を酔わせる。
「すごく……強い」
「これがサイヤ人の王子を名乗る者の実力……さすがです」
「ハーハッハッ!!」
……足場なんかない舞台に立っているのも気が付かせずに…………―――――彼の悪癖は今ここに極まってしまう。
【――――――…………ギヒ……】
「……ッ」
風が、揺れる。
振るえる空気に、さしもの強戦士の身体に怖気が走り、背筋には少量の汗。 先ほどまで爆炎の彼方へと吹き飛ばし、烈火の如く燃え上がらせた大地に転がしていたと思っていた邪悪なる気配が、今まさに――
【――――ッ!!】
「!!?」
『あぁ!!』
彼の背後で、悪魔が死神の鎌を携えていた。
比喩ではなく実体。 そうだ、今しがた吹き飛ばしたはずの悪魔は今、何もかもを奪い去る死神となって彼と相対した。
『…………!』
凍りつく周囲。 目に見える情報も、まだ視神経を伝わっている最中であり、脳へとその姿を認識されることが無い。
【ハァッ!!】
「ぐぉ!!」
「な!?」
「にッ!!」
その姿、その攻撃をようやく身体が認識した時だろうか。 悪魔が携えた鎌は、そのまま一気に振り下ろされる。
動けない、王子。 けどそれは絶対的速度差が大きかったからではない!!
『…………うく』
「ちっ――――」
荒ぶる轟音、吹き飛ぶ……勝利からくる酔い。 切り刻まれるのは確実で、それが敗北につながるのは目に見えていた。
「……ぐぅぅ!!」
『あ、あぁ……』
彼に慢心は無かった……とは言えなかっただろう。 孤高とは高慢で在る事と表裏一体、己が優れているからという自覚があるからこそ、独りでいることを選んでいる……少なくとも何時ぞやの彼はそうであった。 でも、一度は大敗を決した相手、少なくとも油断をしていい相手ではなかったはずだ。
ではなぜだ、なぜ彼は――――
「べ、ベジータ…さん………」
「せ、背中が……!」
「五月蠅い……」
彼女たちを前にして――
「それ以上騒ぐな…………いいから黙ってろッ」
背中から大量の鮮血を流しているのだろうか?
暴言を吐かれ、でも、その血が誰のために流されたのかがわかる少女達に、これ以上の疑問の声など上げられるわけがなかった。
「はぁはぁ……」
荒くなる、呼吸。
ベジータが何とか態勢を整えようとしたのだろう、攻撃を受けた状態で腕、そして右ひざへと意識を集中した時である。
「~~~~ッ!!」
背中に焼き鏝を突き刺された感覚に、彼は声を押し殺せなかった。 食いしばられ、ギラギラと光り輝く前歯から唾液が大量に流れ落ちる。 飲み込むことができないそれは、既に彼が呼吸困難に陥っていることを証明する。
――それでも。
『あ――』
【ギヒッ!!】
「…………ッ」
悪魔の攻撃は終わらない。
手に持った鎌は、見れば見るほど何かに似ていて。 それを知っているアインハルトは黒き衣の少女……いいや、“雷光を纏いし黒き女性”の姿を思い起こさせていく。
「あ、あれは……フェイトさんの」
何時ぞや見たことのある彼女の武装、それにものすごく似通っているのだ、奴の武装は。
フォルムは当然同じだが、しかし後が続かない。 あの少女が持つ黒き鎌、それを悪魔に見合うサイズにまで大きくさせ、黄色い宝石が入るところには禍々しい紫色の物体が……中央は黒、瞳を連想させるに値するソレの周りには、複数の赤いラインがまるで血走る眼を思わせるほどに走っている。
そして、そのもっとも違う点を挙げるとしたら。
【グゲゲゲゲ!!!!】
鎌を持つ悪魔の腕に、極大の力が集まっていく。 それに呼応するかのように“脈打つ”鮮血の鎌。 腕から来て、手の平を伝わり持ったところからまるで意思があるように血管らしきものが蠢く。
見ただけでわかる気味の悪さに、さしもの小覇王も嘔吐感が払拭しきれず、破壊者は己の未来に死を見出してしまう……
「……クソ……ヤロウ」
【…………ギヒヒ】
只一人、孤高な男を除いてだが。
鋭い目つきは生まれてからのモノだ、変えようがない。 しかしその中であるものが、今までの人生を経て宿っていたのもまた事実。 変わらぬ外見に、組み替えられた己の本質……
彼は、いま……立ち上がるのだ。
自分だけのためではなく―――――偶然居合わせた、名も知らぬ者たちをかばうために。
「このオレにこんなことをさせやがって……」
其れは正義感? いいや、彼の根源は言うまでもなく唯我独尊を往くものだ。 それはこの10年間を持ってしても変わろうはずがなかった。
「この、オレに……!!」
けど、焼き付いて離れないのだ。
「がっ!!?」
【ギヒギヒ!!】
『ベジータさん!』
終わろうとした闘いの、それをひっくり返した存在が取った狂気の沙汰。
そのせいで世界が終ろうとしていたとき、もう、誰もが終わったと膝をついたときに聞こえた……穏やかな声。
其れは聞くたびに無筋が走る声。
其れは、いつまでも追い続けたムカツク野郎の静かな別れ。
其れは……それは…………
――――――――――バイバイ、みんな。
「――――ッ!!」
覇王と、破壊者の少女があきらめたそのときだ。 王子を冠する男の、透き通った碧の瞳が輝きを増す。 ……食いしばる歯からは血が流れ、焼けつく背中の激痛は…………
「オレは……オレはぁ…………ッ」
沸騰しそうになる、自身の苛立ちがかき消してくれる。
高ぶる感情に身を任せるなんて愚の骨頂。 けど、それはあくまでも理性で己を縛り付ける必要がある工夫を施すときの御託だ。 そうだ、この、強戦士が追い詰められたときはいつだって最後は――――
「オレはサイヤ人の王子……ベジータだ!! 舐めるなぁぁあああアアッッ!!」
『!!?』
「はぁぁぁああああッ!!」
底知れぬ意地とプライドが、その身を引きずってきたのだ。
眼の前の悪魔が、どれほどに高く死神の鎌を振りあげようと、下らぬあきらめの声などいまさら出すわけにもいかない!! ベジータは、黄金のフレアを一気に吹かす。
「……ッ!!」
【が――ッ!?】
振り下ろし際に、悪魔の背中に走る衝撃。 そこには白い靴がめり込んでいた。
「吹っ飛べ――!!」
気合一声。
ベジータが叫ぶとそのまま悪魔は数百メートルの弾丸飛行を、しかしすぐさま返ってくることなど判っているベジータに休息のひまはない。
「…………」
大地に足を踏みつける。 そこから一気に身体全体を大きくするかのように広げられる……腕。 その恰好が指し示すこととは一体ナンデアロウカ。
「これで決めてやる――」
広げられた両腕、その先にある手の平が激しく発光を開始する。
稲光を思わせるそれが、鋭く大気を引き裂いていく刹那。 王子の肉体は一際大きく膨張し始める。
「はああああああ――――」
唸る声帯、震える星。 まるで世界すべてが恐れ慄くかのような現象を前に、既に少女達は直立することすら困難。 ……尻餅ついて、観戦することを余儀なくされる。
「受けきれるものなら受けてみろ――――喰らえぇぇ!!」
その光は破壊の塊。 その力は王子が繰り出せる全身全霊の一撃。 これ以上は出せない……ここでダメならすべてが台無しだ。 力というチカラを全てかき集めし、サイヤ人の王子ベジータが必殺の業がいま、炸裂する。
光を発し、稲妻が駆け巡っては皆の視界を焼き尽くす――――
「ファイナル……フラァァーーーーッシュ!!!」
それが…………悪魔の見る最後の光りとなった。
ベジータの叫び声と共に、胸元へ一直線に閉じられた両の腕。 そこから放出される気の量は既に常軌を逸した威力を持っている。 それに指向性を持たせて放つ彼らの化け物具合と言ったら……考えを巡らせる前に、恐ろしいくらいの爆音が轟く。
「………あ…あぁ」
光は全てを奪い去った。
少女達の視力、聴力に感覚……さらに常識をもだ。 今まで様々な攻撃だの必殺の技などとのたまってきた自分たちの力の数々……それ自体が恥ずかしくなるほどに、今の攻撃は破壊に満ちていた。
「これが……本当の――」
――――殺し合い。
いや、敵を完膚なきまでに消し去ってやると言う思いまで籠もっているのだ、それは既に殺し合いと呼んでいい代物なのだろうか。 いまの必殺の一撃を、世界が吸収しきれないままに起こる地響きを前に、小覇王が力なくつぶやいていた。
「はぁ……はぁ……」
その間に肩で息をするベジータの疲労度は凄まじいモノだろう。 先ほどから続いてばかりのギリギリの肉弾戦と、大技の応酬、さらに足手纏いの存在が……いや、“守るべき物”が居ることで彼本来の戦い方をかなり制限させている。
どこか遠くに行け――――言ってやりたい気持ちがあふれそうになるが。
「…………」
アインハルトが診ている男の子、その、無残な姿をひと目見ると。
「………………ちっ!」
彼の表情に苦悶の色が駆けぬけていく。
きっとあの子と同い年程度の彼を見て、王子様はなにを思うのだろうか。 あんな歳の子が、死力を尽くしたであろうその姿に何を思うのだろうか。
其れは、王子たる彼にしかわからない心の機微であり…………――――
【――――――…………ギヒヒッ!!】
「なに――!?」
それを今、考えている余裕がないのもまた事実であろう。
パズルの組み換えがまたも行われていく。 崩れ去っては築き上げられ、なんの変化もない無傷な悪魔が再構成されていく。 ……その手に、今度は赤い鉄槌を携えながら。
「クソッタレェェエッ!!」
その武器変更を気にも留めず、正に獅子奮迅が如く悪魔に向かって拳を飛ばしていくベジータ。 身体の限界が近く、気の総量もかなり落ち込んでいるはずだ。 けど、ここで引こうものなら……
「デェェアアアアア!!」
己が
この瞬間にもまだ速くなるベジータの連打は、確かに悪魔の進撃を食い止めていた。 振りかぶろうとしていた態勢も崩し、攻撃に行おうとする姿勢を打ち砕いてはいった。 けど。
【……っ……っ………………ギヒ】
「く!? こ、こいつ――タイミングを計ろうとしているのか!?」
その嵐の規則性を、徐々に掴んでいく悪魔がそこにいた。
どの位置の筋肉が膨らめばどこに攻撃が来るかを観察し、それが実際に当たれば今後それにあたることは無く。
「ぐ、グォォ……っ!!」
どこの部位を攻撃すればどのような悲鳴が上がるのかを身体で感じて、その叫びが強ければ強いほど――――
【ギヒヒ……ギヒッ……ギィィヒャハハハハハ!!】
「おごッ、グハ!? ……………ちくしょうがぁ……」
其処だけに攻撃を集中していく。
手に持った鉄槌……やはり全面的に血走ったかのような見た目のそれは、鎚の部分が脈動しているかのように僅かに震えている。 だが、驚異なのはそこではなく、むしろ奴が支えている重量だろう。
おそらく見た目以上の重さを持ったそれは、なんてことはないという動作で繰り出そうものなら。
「ぐぁぁアアッ!!」
ベジータを防御ごと、彼方へ吹き飛ばしていく。
鮮血の赤色とは対照的な氷のように冷たい攻撃を前に、ベジータの左肋骨の6番に奇妙な音が鳴り響く。 ボディーブロウを喰らったボクサーのように、顔をチアノーゼで青ざめさせながら一歩、足を後退させてしまう。
「はぁ、はぁ……」
整えろ、呼吸を。
思考がそうやって命令していたとして、一向に従わない彼の身体はついにガタが来ようとしていた。 全身の骨が軋み、筋組織は限界だと悲鳴を上げ始めている。 いつ切れてもおかしくない腱は、そのまま彼の限界度数を見事に表していた。
【…………ギヒヒ】
だが、いや……だからこそ敵は待ってはくれない。
死力を尽くしているベジータに対し、本当に死をくれてやろうと歩き出す……既にその身は死体ですらないのにだ。
「チクショォォ!!」
【……】
それでも彼は拳を振り上げ――
【ギ!】
「ぐはぁ!!?」
叩き伏せられる。
地面に伏し、不様を晒される王子の末路。 気力のすべてを使い果たしたのだろう、力無く、もがくこともしない彼の身に、最大の変化が訪れる。
「……か、髪が」
「もとに戻ってもうた……」
それを見届けることしかできない少女達。 彼の変化がどういう意味かなんてイチイチ聞くまでもなく、この先の出来事を想像してしまえばおのずと声が出なくなる。 ……戦士の、敗北の瞬間が訪れた。
「……く、クソォ…………」
力無く、力及ばず……なにもできずにこのまま終わってしまう現実に、だけど悔しがることしかできないベジータは声も張れない。 そんな彼に落とされる黒い影は、悪魔の持った鮮血の鉄槌。 多大な重量、十分な破壊力、防御をとっても吹き飛ばされたそんな代物を今、何の抵抗もできない重体患者に振り落とそうというらしい。
逃げることもできず、救うこともできない観客をしり目に――――
悪魔が、微笑んだ。
鉄槌は………………振り落とされる―――――――――――――
「――――――――…………………ベジータ!!」
【!!?】
『なッ!!?』
死を撒き散らす音が、わずかにずらされていく。
響く空間の振動に、誰もが騒然唖然。 心を騒がせながらも、その身体は起こった事態に対応しきれていない。 無いにも関わらず。
「っく!」
『な、え!?』
訪れた“彼”はベジータを担ぎ上げると、高速の足さばきで観客席へと移動する。 視線を合わせることなく、傷ついたユーノを一瞥すると……
「……っ」
少しだけ眉を吊り上げる。 影の入った表情は彼にしては珍しい、でも、そんなことを言っている場合じゃないのは事実。 今まで見ることしかできなかった少女達は、だからこそここで状況を――
「悪いみんな、少しだけ乱暴にすっぞ」
『え?』
【グゲゲゲ!!】
「…………おめぇとはまたあとでだ…………――――――――」
この世界から忽然と消えて行ってしまう。 風が吹き荒れ、大地に静けさが帰ってくるとき……
【―――――――――――ギ】
悪魔は……
【グゲゲゲゲゲゲゲゲッ!!!】
ただ、叫ぶだけであった。
管理外世界 第■■■番世界のどこか。
「―――――――…………ふぅ、何とかなったか」
『…………あ、あぁ……あ』
先ほどとは打って変わって、緑の多い世界がある。 深緑と言ってもいいかもしれない。 木々が生え、生命が活き活きと己がサガに忠実となって生えそろっていく様は、この世界すべての生き物の力強さを証明する。
そんな、生命力に満ち溢れた世界に、彼等は静かな音とともにやってきた。
「おめぇ達、大丈夫か?」
「…………っ」
「空ちゃん……」
「どうやら大丈夫みてぇだな」
『…………』
山吹色の道着に身を包む、一人の男の手によってだ。
皆が呆ける中、彼は周りを見渡していく。 深い緑のこの世界、まるで日本にある富士の樹海を思わせるそこに、いったい何を見たのだろうか。 ……それは。
「みんな! とりあえず奴は追ってこねぇみてぇだ、もう出てきていいぞ」
「うん」
「……よかった」
「スクライアは! あいつは平気なのか!!」
『み、みなさん……!』
この世界に来てからできた仲間たち。 数にして8人いる彼らは、いま、この深緑の世界にて超戦士との邂逅を果たすのであった。 ……その数が、一人増えたことに驚きを隠せぬまま。
しかしその驚きを良しとする訳にもいかない。 悟空は彼らの顔を見て、そのままアインハルトに視線を流す。
「ユーノを」
「あ、はい!」
呼ばれたのはアインハルト。 彼女は抱き上げていた瀕死の少年を仲間たちへと連れていく。
「ユーノくん……っ」
「……スクライヤ」
その顔は恐ろしいほどに端正。 しかし身体は正反対なまでに傷つけられ、今にも崩れてしまいそうだ。 ……息など確認するのも恐ろしくなってしまいそうな彼を前に、皆が沈痛な面持ちになっていく。
「なにをしておる!!」
『?!』
そんな彼等を、一括するものが居た。
その声のなんと堂々としたことか。 退かず、顧みないという意思その物を体現するのは深き闇の盟主――ロード・ディアーチェその人だ。 わずか9歳という身体つきからは想像できない尊大な声と気迫は、皆の視線を釘付けにする。
「まだ黄泉の国へと旅立っておらぬ者になんという顔を向けるのだ! お主らがやらねばならぬことは別であろう、違うか!」
「ッ!!」
その言葉が、引き金だった。
皆は一斉にユーノを取り囲む。 そうだ、彼等にはチカラがある……孫悟空たちが戦うことに特化しているのならば、彼女たちは多様性を求めたその先に存在するもの達。 高町なのは以下、数名の魔導師は今、息も同じく鮮明な詠唱を唱え始める。
「攻撃特化の者たちは我に魔力を送るだけでよい! そのほかの援護が得意なものは各々回復魔法に専念せい!!」
『はい!』
輝く光はまるで虹色。 桃色から水色、さらには夕闇に差し込む影の色までが少年を包むと、彼の髪が朗らかに舞い踊る。
…………一方。
「す、すみません……俺なんかのために――」
「はいはい、弱音は全部が終わった後で言ってねぇ~~あ、そうだアリア、そっちの坊やのお友達の方おねが~い」
「ちょ!? 一番厄介そうなのを押し付けないでよ……」
「…………おい」
重症人ほか二名は、何となく駆けつけたネコの娘たちにわずかながら回復魔法をかけられていた。 隊員の方は、傷口こそ塞がりきってはいないモノの、その容体は良い方に向かっているようだ。
だが。
「…………あんた、一体どれほどやせ我慢が得意なんだい」
「うる……さい……黙ってろ……」
もう片方、そうだ、サイヤ人の王子の方がかなり不味いことになっている。
「肋骨は折れそうになってるし、右肩は脱臼……あーあ、アンタこれ無理矢理治したね? 関節がずいぶん痛んでるよ」
「……ッ」
「おまけにこの背中の切り傷……危うく背中の神経が切断されるとこだ。 普通、ここまでされたら立ち上がるのは愚か、喋るのだって辛いだろうに」
「~~~~ッ!!?」
アリアがその長髪を憂鬱に揺らせば、王子さまが声にならない叫び声を熱唱する。 狂おしいくらいに叫びだした背中の痛みに表情が歪み、傍にいた長髪のネコ娘に苛立ちを強調した視線を投げ飛ばす。
……なにをする!? …………さぁ、あんまりバカばっかりやってるもんだからねぇ
言外に語るその会話は、果たして誰と誰のものだったのだろうか。 しかしわかる事と言えば遠い世界の天才科学者が見てしまえば、同意せざるを得ない会話だったろうか。 ……その間にも、王子様の回復は進んでいく。
「……驚いた、大分楽になってきやがったぜ」
「さすがに、デンデには敵わねぇけどな。 でも、なかなかすげぇだろ?」
「フン、だが速度がイマイチだ。 もう少し早く済ませられんのか」
「無理言うなって。 それにおめぇの場合、肉体を与えられた死人な分、回復が早いはずだ」
「……」
ふたりの会話も、進んでいく――――――
「…………ん」
「お?」
「な――――!!?」
「ん?」
そのときだ、どこかで誰かが大きな物音を立てる。 何かが……大きく動き出そうというのか。 少しだけの安息に土足で踏み入れる騒乱……今、この世界に強大な力が働きかけられる!!
「カ、カカロット!? 貴様どうしてここに――――!」
「なんだおめぇ今頃か? オラてっきり気付いてたもんだとばかり……」
「……き、きさま……」
…………その騒動は、どうやら身内での小さな争いで済みそうだ。 彼らの邂逅が続く。
「………………まぁ、いい」
『あ、いいんだ』
「コイツに対して、こんな程度でイチイチ驚いてはいられん。 それよりもカカロット、こっちは聞きたいことが山ほどあるんだ、言われたことにはきっちりと答えてもらうぞ、いいな」
「あぁ。 けどあんまし時間もねぇ、かなり端折って話すからよく聞いてくれ」
「……いいだろう」
そのとき、ベジータの表情を覆う“シブシブ”といった色を、悟空はいったい何時まで覚えていることが出来ただろうか。 そこから語られる過去の出来事、ここにきて、ここで出会って、ここまで来た……道のり。
復讐にあったことを復習し、それを思い出すたびに……ベジータの顔色が深刻さを増していく。 見たことが無いその表情に、いったい彼はなにを秘めていたのだろうか。
語りあげること2分の時が過ぎ去った時だろう。 孫悟空は――
「とまぁ、そんなことなんだ」
「……」
「ベジータ?」
彼の返事を、聞くことが叶わなかった。
さて、こんなにも言葉少ない彼は珍しい。 いや、もとよりあまり不必要な日常会話をしない彼だが、こういう緊急時に際してまで口数が少ないのはやはりあまりないだろう。 むしろ、こう言う危機的状況の時こそ彼はそれなりに喋るようになるはずなのだが……
「…………なるほどな」
「え?」
だが、すぐさま彼は口を開いてくれた。
だが注意せよ孫悟空。 彼のその目の中に、何やら不吉な色の炎を灯したように見えるのはきっと気のせいではないのだから。
「その“ターレス”とかいう貴様に似た下級戦士のことなどわからん。 そもそもカカロット、貴様にそっくりなヤロウが居たとして、このオレが黙っているとでも思うのか?」
「……それもそうか」
「まぁ、出会ったタイミングにもよるだろうが。 最悪、貴様に出会ったとき以降ならばまず忘れはしないだろう。 ……おそらくないだろうがな」
当然と言えば当然であろう回答。
これには聞き耳をたてて居た皆も同感な様で、特に疑問に思うことなくその話を流そうとする。 そもそも、この話は5月付近である程度決着がついていたのもまた事実。 どうしても合う事のない悟空の経験とターレスが知りうる知識。
界王拳が使えて、超サイヤ人に成れない時期は、悟空はそもそも地球で戦っているか病院のベッドの上で注射を前に泣き喚いているしかしていない。 なら――――次元世界を跨ぐことのできる彼らが“別次元世界の住人”と判断するのに、そうそう時間はかからなかった。
…………だが。
「しかしだ」
「?」
「もう一方……貴様が最近やり合ったというクウラの事なら知っている」
『!!?』
これには皆が視線を集中させる。
回復魔法に専念していた者たちも、ベジータの背中を薄ら笑いと共に回復魔法の光りで照らしていたネコ娘も……更には闇の盟主だって目を見開いている。 故に彼女は此処で王子に向かって声を張り上げる。
「馬鹿な! なぜお主があの爬虫類もどきの事を知っておる! アレは知られざる可能性の世界から紛れ込んだのではないのか!?」
その発言の内容に、いったいどれほどの人物が理解を示しただろうか。 それなりに解りやすく、だけど彼女の性格を見せつけるが如く遠回しで解りにくい発言はしかし……
「…………ほう」
ベジータにとって、それなりに良い発現だったらしい。 小さく口元が綻ぶ。
「見た目は只のガキの様だが、それなりに知識があると見えて中々わかっているような物言いだな」
「当然であろう。 我は闇の盟主にして斉天大聖の行く道をこの
その笑みは、やがて小さき闇の王にまで伝染し……
「そうだろう? …………戦人の王子」
「フン……なにが王だ。 たかがチンチクリンな女子供の癖しやがって、王など名乗るのは片腹痛いんじゃないのか? ぇえ?」
「…………ほう、言うではないかデコッパチ」
その尊大さに、お互いなにか思うことがあったのだろう…………空間にひびが入る!!
「くくくっ」
「ふん……っ!」
『はーハッハッハ!!』
片方が笑えばもう片方が腹を抱える。 その姿のなんと愉快な事だろうか……世界もその姿に共感したのだろう、思わず遠くの山が震えて地盤沈下が始まってしまう。 ……なんと愉快で平和な光景だろうか。
「あわわわわ……!」
「お、王様たち落ち着いて……ね?」
平地で足を踏み外す!! 高町なのはが地面にスっ転ぶと、フェイトがこの先の運命を必死に変えようと両手の平を広げていく。 まぁまぁ……そんな声が聞こえてもおかしくない彼女の表情筋は現在絶賛引きつっていることであろう。
いつ爆発するかわからない核弾頭などだれも触りたくないだろうに、彼女の苦労人気質というか世話焼きというか……不幸であり気苦労の多そうな性格は、見るモノに涙を禁じ得ないだろう。
……そんな、オフザケの時間がどれほどに経っただろうか。
「…………まぁいい」
「あぁ、いまはそれどころではないからのぉ……」
『……ほっ』
彼らのほんの些細な衝突は此処に幕切れとなる。
「ちゅうかよ? ベジータはなんでクウラの事を知ってるんだ? いつ、あいつと会ったんだ」
『…………あ』
そこから、正に思い出したかのような会話が続いていく。 そうだ、孫悟空の知っている限りあのクウラはであったはずのない存在だ。 そもそも、超サイヤ人とさえ呼ばれていたのだ、なら、間違いなく奴はナメック星での死闘を終えた後の存在。
……ならば彼が知っていて自身が知らないはずはない。 そう結論付けていく悟空の表情は少しだけ硬かった。
だが。
「…………なるほどな。 何となくわかってきたぜ」
『…………あ』
王子様の顔は何となく清々しいモノへと変わっていく。 ニヤけているにしては子供っぽさが無く、微笑んでいるというならば邪悪さが強い。 まるでどこぞの黒幕を思わせる笑いは……
『どうしてこんなに悪い笑顔が似合いすぎるんだろう……』
「…………ふん、放っておけ」
なのはの世界の住人へ、強烈な第一印象を与えるに至る。
「さて、カカロット。 貴様の疑問だがおそらく一言で済みそうだ」
「どういうことだ?」
「忘れたのか? 人造人間での戦いの折、トランクスが言っていただろう……歴史にずれが生じた、とな」
ここでベジータは指を一本だけ差し出す。 天に向け、まるで指鉄砲のように小屋指を立てると、嫌でも鋭いその視線をさらに尖らせる。
「……つまり、オレと貴様は別の歴史を進んだ人間という事だ。 オレ達の居た時代で生まれたトランクスが、未来から来たトランクスとは別人であるようにな」
尖った目が綻ぶとき、彼の表情は少しだけ角が取れたかのよう。 その姿を見た時、どうしてだろうフェイトには彼が…………
「…………かあさんみたい」
「おいガキ、なにか言ったか?」
「い、いえ! なんでもありません……」
「そうか……」
其れは果たしてどう意味だったのだろうか。 “彼の変化”を知らない悟空はまだ、その言葉の意味を掴みかねてしまう。 でも……彼が言葉を紡ぐ前に、ベジータは栗毛色の髪の女の子へと向き直ると。
「おい、そこのお前」
「は、はははい!!」
「その死に掛けのガキはどうなんだ」
「え? あ、ユーノくんのことでしょうか……?」
「名前など聞いていない! ……そいつは助かるのかと聞いている」
「……助けます、絶対に」
「そうか……見た目は軟そうだが、あの化け物相手に一人で立ち向かったらしい……中々気骨のあるガキだ。 精々閻魔の所には送ってやらんことだな」
「…………はい!」
――女子供だと思えば、中々良い目をしやがる。 つぶやいた彼の声は、常人の身体機能を超越したものにしか拾えないモノであった。
なにか、そうだ。 やはりどこか風貌が変化している彼に思わず。
「…………?」
孫悟空は、首をかしげることしかできずにいた。
さて、ベジータがおおよその事態を把握してきた頃合いだ。
「もういい。 キズは大体治った」
「ちょっと待ちなよ。 いくらなんでも2分そこらで治る傷じゃ――」
「何度も言わせるな、治ったと言っている」
「いやだから……」
「貴様はもういらんと言った、さっさとそこで死に掛けているガキを治してやれと言っているんだ」
ユーノへ回される癒しの光りが数を増やし、それを見届けていく最中、王子の口元が……
「……ふん」
――――緩む。
小さな子だ。 本当にどこにでもいるような体型と、容姿。 なんの特別さを見せつけない、数年前の彼ならば見向きどころか気付かずに蹴とばしていたような存在だ。 そんな子をいま、彼は確かに見つめ……口元をほころばせたのだ。
それが意味することなど、孫悟空に果たしてわかるのだろうか。
「…………ベジータ、おめぇ」
その顔を見て、その言葉しか出せない彼等サイヤ人は、どこまでお互いをわかっていたのだろうか。 変化した彼をまだわからぬ悟空は、少しだけ戸惑い――
「……話しはかなりずれこんだが、そう言うわけだカカロット」
「?」
「このオレさまと貴様、お互いに居た世界が違うという事だ……微妙にな」
「そうなんか?」
「そのようだ。 ……大筋は似たり寄ったりみたいだが、そのあとがまるで繋がらん。 貴様、クウラを知らんと言ったな? それではボージャックの事も知らんのか?」
――――――その戸惑いは、すぐさま消え失せていく。
「ボージャック?」
「あぁ」
なぜなら、彼等は実に……
「オラ、そいつの事なら知ってっぞ。 天下一大武道会に乱入してきたやつだろ?」
「……そこは同じなのか。 悟飯の話では途中、貴様が助けに来た幻を見たと言うが――」
「――――何のことだろうな」
「フン」
微妙に似通った世界から来ていたと、思わせられたから。
続く質問に、悟空は一切の迷いなく答えていく。 その反応に何を思ったのだろう、片手を握ったベジータは、つまらなそうに視線を遠くに投げ飛ばす。
「しかしクウラのヤロウ、まさかあの状態から生き延びているとは思わなかったぜ。 確かにビッグゲデスターとか言う機械の核らしき物は粉砕してやったと思ったのだがな」
「へぇ、オラてっきりセルのときみたく倒し損ねてたんだと思ってたぞ。 一応、トドメまでは刺してたのな」
「当然だ。 あんな物騒な奴を生かしておくわけないだろう。 回復するたびに強くなりその上量産までされやがる。 あんなもの、二度と御免だ」
『…………』
物騒なのはどちらだろう。 生死を取り合ったことが無い者たちの沈黙があたりに響く。 その言葉が続く最中でも、何ら変わりようない悟空の態度を見て、彼が歩んできた道の険しさを改めて実感するのである。
そして沈黙。 黒い髪を逆立てた王子と、あちこちに伸ばした斉天の彼がお互いを見つめ合う。 ――ロマンチックなどという柔い雰囲気などではない、正に食うか食われるかの張りつめた雰囲気を全面に押し出せば――
「カカロット」
「……!」
「貴様、さっさとあのヤロウを倒してこい」
『!?』
彼の言葉に、どれほどの人間が驚いただろうか。
しつこいようだが、この中にいる数人は孫悟空の記憶を垣間見ているし、ベジータという人間がどういった人物なのかは先ほどの戦闘で十分理解できたはずだ。 そもそも、このような言葉が出るとは誰一人思っていなかったこの展開……
「無理だな」
「ナニぃ!?」
そしてこの言葉にも、皆は呆けずにはいられず言葉を失う。 だがその間にも、王子さまの説明が続いていく。
「あのヤロウは、先ほど戦った時よりも随分と戦闘力を落としてる。 いまこのオレが及ばないという事実は癪だが、そこのガキ、時間がないのだろう? なら、あの気に喰わん超サイヤ人3とやらでさっさと消し去ってしまえばいいだろう」
『…………っ!』
「それくらいには、奴との力の差は無くなっているはずだ」
―――――――いま、この男はなにを言っているのだろうか。
皆の瞳が○になっていく。 どれほどにまで呆ければそのような形に目元を緩められるのか。 教えてもらいたいが口を利けるものなど誰一人おらず、其の中には当然として孫悟空も交じっていて。
「な、なぁベジータ」
「……どうかしたのか? 急いでいるならさっさと――」
「いや、そうじゃなくってよ……」
ベジータの表情が少しだけ険しさを増していく。 まるで渋滞に巻き込まれた朝寝坊の会社員か、電車がダイヤ通りに来ないで3時間待たされた雨の日の高校生かのようなその視線。 解りやすく言うならば、途轍もなく気に喰わないと言った表情を取る彼は……
「貴様、このオレの口から言わせたいのか?」
「……あ、いやぁ……そうじゃなくってよ」
至極当然であろうか……だが。
「このオレとの決闘で貴様が出し惜しみした――――はっ!」
「ベジータ?」
「……しまった、そう言う事か」
激昂しかけた彼は、突如としてその顔を片手で覆ってしまう。 さらに深呼吸をすると己のリズムを整え、仕舞いには口元をきつく固めてそこから先を言葉に出すのをとりやめてしまう。
そんな姿を見てしまえば、心配になるのが常人の反応。 皆は一斉に彼へと視線を送りつけていく……
「貴様、先ほどセルとの闘いの結末を知っている素振りだったな?」
「あ、あぁそうだけど」
「死んでから何年経った」
「5年……かな?」
「…………なら、今現在貴様は大界王星で修行途中……そう言う事でいいんだな?」
「お、おう」
高まる不安は誰の胸中に巣食うのだろうか。 王子がらしくないため息を吐き出せば、闇の盟主もさすがに戸惑ったのだろう、少しだけ視線をユーノから逸らしていた。 何が言いたい? 同じく王を名乗るアインハルトも、この時ばかりは不安な表情を隠すことが出来なくて。
「おいカカロット、貴様さっきの戦闘を感じていただろう? どうだった」
「……すごかった。 オラでもあんな風に出来るか、正直言うとわかんねぇ」
「…………」
この回答がすべてだった。 今現在、ベジータの中に数多ある現状を把握しきるための素材の数々がきれいに纏まり調理されていく。 その、複雑に絡み合った式から生み出される回答。 今、それを心の中で書き記せば――
「率直に聞くぞカカロット。 お前は奴を倒せそうか?」
「無理だな。 力の差がありすぎる」
「やはりな」
『………………そんな馬鹿な』
出てきた回答はなんてことはない。 出来ないという絶望への片道切符だ。
全ての者が顔を覆い、弾けそうになる希望を逃がすまいと必死になって口を紡ぐ。 怖い……これ以上、彼等強戦士から否定の声を聴くのが堪らなく恐ろしい。 魔導師たちは、見えてしまったこの世の終わりに、口を紡ぐ。
そんな光景に、しかし白き衣を纏う魔導師が……
「けど二人で力を合わせれば……ううん、わたし達も一緒になればきっと!」
最後の希望へと歩き、足掻きだす。
その賢明さはあまりにも眩しかったのだろう。 そっと、視線を逸らした王子は、まるで太陽光の直射日光からよける動きにも見えてしまい……
「無理だな」
「……ッ!」
だけどその言葉に、無情な判決を下す。 その言葉を聞いて、栗毛色の髪が静かにたなびく。
「けど! ……こんなところであきらめきれないよ。 せっかく夜天さんもみんな元気で笑っていけると思ったのに……」
振りあげたのは自身の腕。 その先に携えた杖……レイジングハートの宝石部分がほのかに発光すれば、彼女の意思の強さを表すかのように輝きを増していく。 せっかく掴み取り、切り開いてきた幸せな世界。 それを切り裂く理不尽に、高町なのはは憤りを隠せず……
「あんまりだよ!」
「なにを勘違いしてやがる」
「…………え」
王子があっさりと切り捨てる。
絶望が覆い隠す? 未来が見えない……? そんな些細なことを、今になって慌てふためいてどうしたい。 今さらだ、たかが戦闘力で相手が自身を圧倒してきたことなど。
「勘違いするなガキ、誰があきらめると言った?」
「そうだぞなのは。 そんなもん勝手に決めつけるもんじゃねぇぞ」
「あ、え、でも……」
強戦士二人が、小さき少女をその目に収めると……やんわり笑顔を作りだす。 けど勘違いしてはいけない、この笑顔は決して親愛、ましてや色恋などという軟な物などではないことを。
言い表せる言葉は見つからない。 それほどに彼等は複雑な表情をしていたのだから。
それを、あえて例えようとしたクロノ・ハラオウンは気が付けばこうつぶやいていた。
「不敵……」
どす黒さの中にある微笑、険しき山の中に見つけた小さな湖。 夜天の子らならこんな抽象的に表現するかもしれないそれは、まさしく敵を寄せ付けない笑みに、子どもたちは当然として、使い魔であるリーゼ姉妹ですら背中に大量の汗を流し……
「…………さすがです、孫悟空。 ……ふふ」
星光の破壊者はほのかに頬を染め上げる。
見初めし彼はいったい何を考えているのだろう? 気になる彼の心内、それは……次の瞬間――
「さぁて、こっからどうすっかなぁ」
『………………はい?』
一気に不安へとなり変わる。
いや、策があるどうこうなんて闇の書関連の事件で大体わかるであろう。 この男、常に出たとこ勝負である。 ……圧倒的な瞬発力と状況把握力で難を乗り越え、奇跡的な領域にまで高められた決断力と行動力で突き進んでいるという常軌を逸した能力があるという点を除いてだが。
さて、そんな男に皆が驚き、王子の彼が何やら息を吐き出しているところだろうか。 その、軽くもなく重みを感じることもできるため息が、空の彼方へ飛んで行った時だ。 彼は……
「いいか、良く聞け」
「……」
「あの化け物は確かに強い。 それに今の貴様と、オレでは太刀打ちできんのも事実だ」
『…………ッ』
其れは、己が弱さを認めたある種の“別の強さ”に目覚めた男の一言。
「だがそれは今現在での話だ。 …………いつかは超えられるだろう、あれくらいはな」
「そうだな、超えてやるさ」
「フン」
他者を貶めることを喜び、踏みにじることに快楽さえ覚えてしまう血塗られた一族。 その族長がいま言うのだ。 今を歯噛みすることなら誰にでもできる――
「とにかく今はあの気に喰わん嗤い声を黙らせてやらんとな。 あの耳障りな声など二度と聞きたくない」
だが、未来を見つめて歩くことの重要さを……彼は一体、何時の間に手に入れたのだろうか。
「それに貴様を倒すのはこのオレだということを忘れるな。 例えそれが並行世界だろうがパラレルワールドだろうが、貴様とケリを付けられるのはこのオレだ! いいな!!」
「あぁ」
その言葉を聞いたとき、皆が思うことはひとつ。
孫悟空という男が、この粗暴でぶっきらぼうなサイヤ人の王子に及ぼした影響の大きさだろうか。 高町なのはでいうところのフェイトとの関係を、熱く激しく燃え上がらせたのがこれだろうか?
いいや、彼等はサイヤ人だ……なら、彼等が紡いだ絆は決して常人には理解できないだろう。 ……だから、彼は言う。
「あんな野郎に負けてもらっては困る……」
「ベジータ?」
小声だったそれは、いったいどれだけの人間に届いた警告だろうか。
気になる相手でなければ決してこんなことは言わない、いいや、言えない王子さまの心境は誰にも伺えない。 意地が支えのエリート街道を進んできた彼に、妥協と撤回の言葉など存在しない――
「本当に今回だけだ!」
「さっきからどうしちまったんだよ?」
王子がはめ込んだ、白い手袋がギチギチと音を立てる。 切れそうで、破けそうなほどに高い音は、正に彼がどれほどに追い込まれているかを表すには十分。
必死の抵抗だ、これから起こす自分が“ついさっき宣告した”ことを否定するのだから。 それでも、強過ぎる意地が今だけは邪魔なようで。
「…………しろ」
「え?」
言った言葉は本当に小さかった。 聞き取れる者はおらず、仕方ないから聞き返せば――
「何度も言わせるな! このオレとフュージョンしろと言っている!!」
『フュージョン!!?』
王子さまは完全にそっぽを向いてしまった。 だが、それにも増して大きなリアクションを取るのは、悟空が“こちら”にやってきて出会ったすべての人間。 目は大きく見開かれ、口は少しだけ開かれている。
何とも間抜けなその表情も、仕方がないだろう……なぜなら。
「なぜ貴様も驚く側なんだ!!」
「いやだってよぉ……なぁ?」
王子様にもわからない代物だったのだから。
少しだけ開いた……間。 その空白に耐えきれなかったのだろう、不屈を受け継ぎし白桃の少女がいま、その両目を見開いた。
「べ、ベジータさん。 あのですね……」
「なんだ? 今忙しい、要件はさっさと済ませろ」
「はい!! ……あの、そのフュージョンってシグナムさん達がやった悟空くんとの同期現象のこと……ですよね?」
ならばあなたも魔力を……持っている?
増えた疑問に対する回答は、“つい先ほど”までなら確かに優等生だったろう。 しかし驚け高町なのは。 貴方が思っているよりも、遥かに彼の世界はトンチンカンを極めてならない。
「…………なにを言っているんだ、貴様は」
『…………あ、あぁぁ~~』
だから真っ当な回答に首をかしげるのも当然だっただろう。
交錯しないお互いの常識。 それがすれ違いレベルにまで近づいたとしても、やはり理解しあうには遠い距離があるようだ。 眉を寄せたかのように見えた王子に向かって皆がそろって口を開く……落胆の色が濃い。
だが、時間は待ってくれない。
「そっちの事情や常識は知らん」
「そ、そうですよね……」
「とにかく何でもいい。 カカロット、さっさと用意しろ」
「お、おう……?」
王子は立ち上がる。 回復しきっていない肉体は、文字通り剥き出しの魂が補い引っ張っていく。 これ以上土を付けるわけにもいかない自身の生き様に、更なる汚点を付けるのだ。
よりにもよって…………呟いた言葉は、深緑の世界へと彷徨いこんでいく。
そうして彼らは、ついに約束の儀式を行うので―――――
「なぁ、ベジータ」
「なんだ……?」
「おめぇ、これから何をどうする気なんだ?」
「……………………………は?」
お、行い……たかった。
飛んできた疑問の声に、さしものサイヤ人の王子もついに呆れてしまう。 下らぬお惚けならここで焼き払ってしまえばいい……軽く流そうとした彼の顔に……
「――――まさかッ!!」
フッと影が突き刺さる。
「おい、カカロットまさか貴様――――知らんのか……っ!」
「だからよ、さっきから何なんだよ?」
「ば、バカな…………」
脚が震えれば膝が地面に突き刺さる。 振るえる横隔膜は、そのまま情けない声を生産し、消え入りそうな声は残念ながらこの世界にいるすべての人間に届いてしまう。
「この、オレがァ……」
口元からカチカチと音がすれば、なんてことはないと先ほどまで余裕を醸し出していた王子さまから完全に優雅さを取り払っていく。
「このオレ様が貴様に教えなくてはならんのかぁァァアアッ!!」
もう、巻き返しが付かないところまで追い込まれた彼を見て、皆が思う――――
「フザケルナァァァアアアア!!」
―――――――――何をそんなに驚いているのだろう……と。
深緑の世界で身を隠す魔導と武道を行く者たち。 彼等に残されたわずかな時間は、果たしてこの世界に希望をもたらす軌跡へとつながっていくのだろうか。 王子が叫び、地球育ちのサイヤ人が首を傾げる中……悪魔がゆっくりと忍び寄っていくのでありました。
気高き誇りと、不屈の闘志が混ざり合う瞬間――全次元世界が震撼することも知らずに、彼等は王子の次の行動を待つ……
「クソッタレェェエエッッ――――――!!」
顔を真っ青にしながら、金色のフレアを撒き散らす王子を世界が見つめる中、ときはただ、ゆっくりと過ぎ去ろうとしていくのであった。
「 こふっ」
「!!?」
魔導の少年に残された時間を、角砂糖を削るが如く消費していきながら…………刻限は、近い。
悟空「オッス! オラ悟空!!」
ベジータ「いいか! 良く聞きやがれ!!」
クロノ「あの……どうして僕が――」
ベジータ「口答えするな! 首の骨をへし折られたいか!!」
クロノ「なんで僕だけ……」
ベジータ「あの化け物がオレ達の戦闘力を勘付くのも時間の問題だ! いいからさっさと言われたとおりにしろ!」
クロノ「…………グスっ」
みんな「あーあ、泣いてしまった……」
フェイト「いやだよね。みんなが見てる前であんなのは――でも時間は待ってくれないんだ、頑張ってクロノ!」
クロノ(人身御供)「……じかい、魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~第66話」
なのは「悪魔と踊れ――地獄のワルツ」
ヴィータ「……くくっ!」
シグナム「笑ってやるなヴィータ。 あれはあれで真剣なんだ―――――ふっ」
シャマル「そうよぉ……失礼よヴィータちゃん。 ウフフ」
ベジータ「……………………殺してやる」
悟空「落ち着けってベジータ! と、取りあえずまたな!!」