魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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 史上最強、空前絶後、一騎当千、英雄豪傑……この世にはあらゆる言葉が在れど、世界を震撼させる男にはどれもがきっと小さき賛美だろうか。 そうだ、男はそんな肩書きだの理屈をごねた称号などは欲していない。

 その手に掴み取るは“最強”
 その手で握りしめるは“勝利”

 いつだって彼は信じた道を、不器用ながらに突き進んでいった。 何の迷いもない彼の歩みはまさに進取果敢と称えられるべきだ。 常人には真似ようがない、頂への研鑽……彼は、いつだってそれを行ってきた。



 そんな彼が教える奥義とは一体…………りりごく66話どうぞ。


第66話 悪魔と踊れ――地獄のワルツ

 鍛え上げた腕は鋼鉄すら両断し、引き締まった脚は海面を切り裂いてしまうだろう。

 

 そんな馬鹿なと、誰もが口にしてしまうほどに磨き上げられた武器は己がカラダ。 研鑽し、血潮を拳にくべて闘志を燃え上がらせてここまで来たんだ。 ならば当然全てを越せない訳がない。

 

 想ったのは理想、突きつけられたのは……現実(敗北)

 何度拳を大地に叩きつけただろう。

 幾度あの光景を見ていたんだろう。

 

 いつだって……いつだって……そうさ、其の光景がある限りきっと彼は死んだとしても己を痛めつけることをやめることはないだろう。 

 

 

――――――――――例え、何が起ころうとも……それが、男が生きる道なのだ。

 

 

 

「い、いいか貴様ら!!」

「…………ベジータ」

 

 そんな男は…そんな男は!! 

 

「いまからこのオレが教えることを決して御遊びなんかと思うなよ!?」

 

 ……ダンスを教えているのであった。

 

 

呼吸を整え大きく叫ぶ。 完全に声が裏返り、額からは汚い汗がにじみ出てしまっている……脂汗だろうか。

 

「なにを教える気なんだろう」

「……さぁ?」

 

 その場にいる誰もが思う事。 この想いを代表して口にするのは黒い衣に身を包む二人組だ。 クロノとフェイトは、いまだ目を開かない重体患者に魔力を削ぎ落しながらに事の展開を見守っていた。

 

「……」

『??』

 

 だが王子は動かない。

 白い手袋をありえないくらいな音量でまるで雑巾を引き絞るように、いや、引き裂かんばかりの音が皆の鼓膜を直撃する。

 

「お、おい」

 

 そんな姿を見せられて、黙っていられないのは当事者である孫悟空。 彼は王子さまの刀剣類を思わせる視線に刺されながらも苦笑いを禁じ得ない。 見たことが無いのだ、あんな姿の彼を。

 

「さっきからどうしたんだ? オラに技、教えるだけなんだろ?」

「……」

 

 だったらどうして?

 言外に語る悟空の表情は至極自然体である。 当然だ、何も知らないということは幸せなのだから。 彼は此処で思い知るべきだったのだ、王子が今、どれほどに自身の中で渦巻く思いの嵐を。

 

「いいか、此れから教えることはなんとしても覚えろ。 一回しか教えてやらんし、オレ自身何度もできるモノでもない!」

『……そ、そんな技をッ!』

 

 その嵐を一身に受けたのは悟空だけではない。 たった一度、そう出された言葉に皆が固唾をのんでしまう。 この達人をして、数回のチャンス……一体自分たちはこれから何を目撃するのだろう。

 管理局勢から一般人にまで緊張が走る。

 

「…………」

 

 息を吸えば肺を満たし、膨らんだ胸元が収縮していけば口から空気が抜けていく。 これを数回繰り返したことだろう。 王子はついに動く!!!

 

「―――――っ」

『…………?』

 

 耳鳴り、そして次に感じたのは視界の違和感。 

 とてつもないナニカ巨大な物体を見た様な? そんな、気のせいにしか思えない程度の違和感が皆の心を通り過ぎたところだろう。

 

「ベジータおめぇ」

「言うな、それ以上」

「いや、けどよ」

「言うな!」

「……ベジータ」

「…………言うな」

 

 サイヤ人が二人とも黄昏の彼方に居た。

 その、体中を覆う雰囲気のなんと濃い哀愁だろうか。 見るモノに思わず涙を禁じ得ないほどに線が細くなっているのは、先ほどまで自信と高慢とが服を着て戦闘をしていた王子さま。

 

「何が起きたんだいま……」

 

 クロノが目を丸くしながら、事の真相を探ろうと彼らの元へ近寄ろうとした。 そのときだ。

 

「う、うぐぅ?!」

 

 疾風が彼の進行を阻止する。

 身体を吹き飛ばさんとするそれは、まるでこの世界が怒りに――いや、実はこの現象は世界が恐れているのかもしれない。 何しろこれを引き起こした張本人と言えば。

 

「……なぜこのオレがこのようなことを……っ!」

 

 彼は天に逆らった髪の毛を悲しく揺らすと、そのまま悟空とは正反対の方向へ視線を投げ捨てる。

 

「いまあのお二人はナニカなさったのでしょうか?」

「したんだと思う。 悟空もベジータ……さんもおそらく、超高速の域で何らかの行動をやったはずなんだ」

「……んーなんだろう」

 

 高町なのは、フェイト・テスタロッサの両名ですら今の動きを目で捕えることは不可能。 視力特化の高町恭也、並びに士郎がいれば今起こった事の真相を窺い知ることはできただろうが居ない者はいない。

 

「さて、やっか!」

 

 なら、話しを前に進めるしかないだろう。

 

 王子さまの沈黙が続く中、孫悟空がおもむろに両足を肩幅に広げる。 

 

「こうやって、こうッ」

 

 ビシィ――っと決め込むその姿は、どことなく特撮の変身ものを彷彿とさせるポージング。 両腕を手の平ごと左側に伸ばして、そのまま視線は自身の正面に持って行く。

 

「……孫悟空?」

 

 それを見て、疑問に思わないものなどいないだろう。

 なのはと同じ表情(かお)を持つ少女、シュテルが怪訝そうに悟空を見つめている。 当然だろう仕方がないだろう。 なにせ悟空のいままでを知る彼女だ、あんな構えなど見たことが無いし聞いたこともない。 彼は、いったい何をやっているのだろうか?

 

「右手がこうだったろ?」

「違う、最初は手のひらを握るな、広げて伸ばせ。 ……そうだ、両腕とも片方に伸ばして、指先はそうやって手刀の形で留めるんだ、いいな」

『…………?』

 

 いまだ全容を掴めない悟空の行動。 皆の脳内に広がるのは数々の単語だろうか? たった二人のサイヤ人、可能性の世界から来た者同士、そして――地上最強、天上天下唯我独尊を貫くものにしかわからない奥義。

 いったいこれから何が起こるのか、皆の心はどこまでも期待に膨れ上がっていく。

 

「そんでこうだったな」

「違う! いきなり振りかぶるな! その前に腕を頭上に持って行って――そうじゃない!」

「なんだよ、おめぇが“あんなに早く”するから分らなかったんだろ?」

「それでも貴様の目では追える速度だったはずだ! それで理解出来ん方が悪い」

 

 しかし、だ。

 徐々にこじれていく二人の掛け合い。 気のせいだろうか、王子の方からは目に見えていないはずなのに火柱が立っているようにも思えるのは。 それが堪らなかったのだろう。

 

「あ、あのぉ~~」

 

 高町なのはが声を上げる。 ただし仔猫のような小さな呟き程度でだ……それが気に喰わなかったのだろう

 

「………………なんだ、なにか文句があるのか……?」

「ひぃ!!?」

 

 仔猫に鬼が睨みつけた! 大人気ない、なんと大人気ない。 時空航行装置を作ったあの人が見れば説教もあり得るだろうこの事態は、さすがの不屈持ち魔法少女も目尻に光るものが浮かんでくる。

 

「ご、ごごごっ……!」

「おいベジータやめとけって」

「ちっ」

 

 何となく、兄弟げんかの仲裁をする感じのトーンな孫悟空。 しかし驚くことなかれ、今現状の孫悟空にとって、自身の子供などたった一人だけなのである。 ……そもそも、そんな彼等も兄弟げんかの一つもしない良好な関係だとは思うが。

 ともかく、本当に大人気ないサイヤ人の王子兼、元宇宙の地上げ屋に向かって、今度こそ眉を吊り上げるのであった。

 

「わ、わたしなんでこんなに怒られてるの……?」

「まぁ許してやってくれよ、あいつも色々とあるんだ。 ……それにあれはなぁ」

『??』

 

 一転、孫悟空の表情が苦みを帯びていく。 少しだけ笑みをブレンドしたそれは、おそらくベジータに向けたモノだろう。 その意味が解らなく、皆が首をかしげている中。

 

「時間がない、急いで今のを形にしてもらうぞカカロット」

「わかってる」

『…………』

 

 彼の言葉を遮るように、ベジータが先を催促する。 もう、限られた期間しかないというよりは、刻一刻と時間制限が削られている心境。 皆はここにきて更なる緊張感に身を引き締められていく。

 

「そう言えばさ、斉天さま」

「ん? どうした、レヴィ」

 

 そのなかで、更なる疑問を持つモノが一人。

 水色の髪の毛を左右で縛った彼女は、天真爛漫をそのままに孫悟空へと声を投げかけていた。 何も考えていない、というよりかは、なんでこうしないの? という提案を持ちかけるような声でだ。

 ……そしてそれは。

 

「結界、張らないの?」

『…………あ!?』

 

 管理局と一般魔導師連合にとって、かなり盲点を突いた言葉であったようだ。

 

「なんてこった!!」

 

 クロノが声を荒げる。 そうだ、馬鹿正直にもほどがある。 なぜ自分たちはこんなに解りやすいところでビクビクと敵を待ち構えていなくてはならないのか。 ……隠れることができる術があるなら積極的に使えばいい。

 

「いまからでも遅くない……いくぞっ」

 

 気づかされた瞬間に、一気に術式をくみ上げていく彼はしかし。

 

「待った、クロノ」

「悟空?」

「それはやらねぇ方がいいかもしんねぇ」

 

 遮られる。

 穏やかでありつつ、どことなく冷淡。 見たことがあまりない彼の表情は、恐ろしいと思えるくらいには真剣みを帯びていた。 少なくとも、クロノにはそう映ってやまない。

 

 どうして? そう聞くよりも先に、孫悟空は腕を組んで口を動かしていく。

 

「おめぇ達がつかう結界は確かに便利だ。 気を遮るし、何よりあれ解いた後に被害が何もなかったみてぇになったのは驚きだしな」

「そうだ。 封時結界……あの術式は通常空間から特定の空間を切り取り――」

「そう言う細けぇのはまた今度な。 結論から言うと、あれを使うと“アイツ”がオラたちの事を完全に見失う。 それがダメなんだ」

 

 今回悟空たちがしなくてはならないのはかくれんぼではなく、鬼ごっこ。

 

「さらにあいつはオラたちの技を使うかもしんねぇってのはディアーチェが言ってただろ? なら、気を探る術も当然持ち合わせているはずだ」

「瞬間移動で追いつかれるか……」

「それともほかの世界を滅茶苦茶にするかだな」

 

 しかも相手が完全にこちらへの興味を失わないようにしつつ、事態を打開する策を管制させなくてはいけないという跳んだジレンマ付である。

 そのことを、ようやく思い知らされた皆は事の難解さに……

 

「ど、どうするの悟空」

「……」

 

 彼を見つめる。

 フェイトは生まれてかれこれ数年。 見た目相応の人生経験ではないモノの、そもそもこういった魔導に対する知識はなのはの倍以上は持ち合わせている。 だからこそわかる。 自分達にはこの状況を打開するための便利な術など持ち合わせていないということを。

 

「どうにかなるさ! なんとかなる、いや、しなくちゃなんねぇ」

 

 それでも彼の返答には力があった。 自身に満ち溢れ、その顔には一切の曇りがない。 なぜ、こうも絶望的な状況で笑っていられる? 皆は疑問を胸に作り出していきながらも……

 

「は、はは……」

「さすがだね、悟空」

「そうだよね。 みんなが居るんだもん、きっとどうにかできるよ」

 

 クロノ以下数名も、なんでか表情をあかるくしていってしまう。 つられて? それとも自然と……? わからないのは彼等も同じ。 だって仕方がないではないか、彼が、孫悟空があきらめないと言ってしまえば、それだけで体中に力が湧いてきてしまうのだから。 心が、くじけてくれないのだから。

 

「それに今回ばっかりはいつもと違う。 そうだろ? ベジータ」

「フン」

「おめぇアイツの事、一回は倒してんもんな?」

『!!』

 

 軽く言う悟空は本当にどこまでもあっけらかんである。 なぜこの男はそんなことを軽々しく言うのだろうか? 皆はまさしく目を点にしながら、悟空の言ったことに半ば興奮を隠しきれずに聞いていく。

 

「倒した、そう言っていいかは微妙なところだがな」

「なんだベジータ、謙遜なんかしちまっておめぇらしくねぇ」

「……フン」

 

 腕を組み、鼻で息を吐き出した彼はどことなく表情が曇って見える。 目を閉じ、少しだけ鳴らした喉からは不機嫌を伺わせるには十分だ。

 

「そんなことはどうでもいい。 今はオレが教えたフュージョンをさっさと完成させることだけ考えろ」

「あぁ、わかってる」

 

 出された言葉はぶっきらぼうを絵にかいたような物だ。 皆がその発言に少しだけ眉を動かす中でも悟空だけはわりと素直に、いや、何の抵抗もなく王子の言葉を呑み込んでいく。

 

「……というか、あいつは一体なにをやっているんだ?」

 

 その姿はさすがに疑問の塊だったのだろう。 クロノが首を傾げれば、そのまま悟空はなんでもないと言い放つ。

 

「なにって、ダンスだ」

「ダンスって悟空くん……」

「こうやって、こう!」

「違う。 最初の時点で腕がやや下に下がりすぎだ」

「……こうか?」

「今度は上げ過ぎだ。 もう少し落せ」

 

 すかさず行われるダンスの指導は一向に進まない。 けど、それを疑問に思う者はこの世界から消えて行った。 見てしまったのだ、彼の……孫悟空の真剣な表情というやつを。 いつもニコヤカを体現した彼の顔に射しかかった影。 それが何を意味するのかは最早言うまでもないだろう。

 

「悟空、くん……」

 

 高町なのは、彼女はもう見守る事しかできない。

 

「カカロット! 貴様ふざけているのか!!?」

「んなこといってもよぉ」

 

 例え何が起ころうとも、いつも彼が助けてくれていた。 ……そのことに疑問を感じないほど平和な頭をしているわけではないが、それでも、彼はいつだって自分たちの窮地を切り開く刃となって進んできたのだ。

 

「このオレがあんな恥ずかしい恰好をしてまで教えたんだ! さっさと覚えてしまわんか!」

「……ちぇ、一瞬で終わらせちまったくせに」

 

 それに今回も賭ける。

 高町なのはは、ただ、彼の手振り身振りを見つめながらに、そう思う事しかできないでいた。

 

「なぜそこで手足が同じ方向にいく!? 『ジョン!』の時には両手は拳を作って片側に逸らして足は“コウ”だ!」

「……あ、あのぉ」

 

 そう、思う事しかできなかった筈なのに。

 

「こうか?」

「コウだ!」

「こうだ!」

「違う!!」

『え、えっと……お二人とも?』

 

 ふたりの絵。 正確に言えば互い合わせになった状態で……つまり向き合った形になった彼らは全く同じポーズをとる。 そうだ、例のポーズである。

 

「いいか! 腕の角度に気を付けろ!!」

「お、おう」

 

 差し出したのは両腕。 自身から見て右へと伸ばされたそれは大地と水平一直線! あまりのきれいさは、さしものクロノを黙らせつつ、悟空をも呑み込んでいく。

 

「フュー……」

「…………」

 

 

 掛け声とともに行われるのは、なんと、がに股歩行。 なんだか砂浜で子カニが走っているところを思い浮べたのは誰だったろうか。 けれど決して口に出せないのは、先ほどから涙目になっている高町なのはがいい例だろうか? 彼に指導は続いていく。

 

「この時に移動するが、そのときの歩数は3歩分だ! 其処を間違えてくれるなよ!」

『……』

 

 円を描くように上げられたそれは、頂上を昇りきれば今度は下っていってしまう。 半円を描いたベジータの腕は一気に振り抜かれていく。

 

「……」

「ジョン!!」

『…………』

「手は握り、一気に反対側へ振り抜くように戻す! この時、今オレは身体の右側に手を突き出しているな? なら、脚は振り抜いた方とは逆位置、つまり左側へ膝をつきだすようにしろ! 間違っても腕と同じ方向には曲げるんじゃないぞ!」

『……………………』

 

 つま先立ちとなった左脚は、少しのブレもなく力強いラインを描きながら大地に根を張る。 その逞しさは彼が持つ肉体から相まって大樹と形容されようか……その恰好が奇妙奇天烈だという点を除いてだが。

 

「破ァ!!」

『…………………………』

 

 完成した……奇跡の踊りが。

 

 その最後の格好のなんと鋭角な事か。 先ほどまで半分ほど浮いていた左足も、今では重心を掛けられた大樹が如く軸足に。 ケリのように突き出していた右足は地面に降ろされ、そのままなんと爪先を地面に付ければ斜め45度を保ちつつ、きれいな斜線を描いている。

 芸術的。

 “そこだけ”見れば確かに綺麗なポーズだったろうさ。

 

「おい」

「馬鹿、いま喋りかけるな!」

「……ですけど」

「た、確かに気になるよね」

 

 黒衣の少年、闇の盟主、雷光の少女、そして白衣の少女が口々に感想を述べていく。 なんというか、なんとも言えない雰囲気の中で彼らが出せる精一杯の気遣いがこれだった。

 

「……………………………っ!!」

『……あ』

 

 その気遣いが、いま、激しい前触れと共に瓦解していく。

 振るえるは王子、顔を苦くするは孫悟空。 彼等サイヤ人の奇抜で珍妙なダンスを目の当たりにしたすべての登場人物が今、この後の嵐を前に身を縮こまらせる。

 

「ぐ、ぐぅぅ!!」

「べ、べジ――」

 

 心配で、少しだけ辛そうだなと感じた悟空は片手を伸ばそうとして。

 

「なぜオレがこんな真似をせねばならんのだ!」 

 

 弾かれる、右手。

 物理的に触れたわけではないように見えたのはおそらく気合砲か何かだろう。 “気”分が大分すぐれないように見える彼は、そのまま悟空へ詰め寄っていく。

 

「カカロット! そもそも貴様がいけないんだぞ!」

「い゛!? お、オラ?」

「これでもしも実は知っていましただなんて言ってみろ!? そのときは貴様を地獄に引きずりこんでやる!! いいな!」

「知らねぇモンは知らねえぞ……」

 

 兎にも角にも完成させた例のポーズ。 それを伝授したぞと息を巻く彼は、実は一つだけ忘れ物をしていた。 しかし心配することなかれ。 その事実はいま、彼自身の手で掘り返されることになる。

 

「いいか、今の珍妙なポーズ。 つまり“フュージョンポーズ”を体格、気が大体そろった二人の人間が左右対称で全ての手順を踏めば『融合』が始まる」

「融合……だからフュージョンなのか。 ということは、例のユニゾンとは違って二人は完全に別の人間になるって事なのか?」

「察しが良いガキだ、説明が省けたぜ。 そうだ、カカロットでもこのオレでもない、全く別の人間が“生まれる”ことになる」

 

 クロノからの質問を、すこしだけ肩から力を抜きながら答えるベジータはようやくフュージョンポーズ説明からくる羞恥心から抜け出せたと言ったところか。 もう、無駄に恥をかくことが無い。

 そう思っていた彼は。

 

「なぁ、ベジータ」

「なんだ」

「左右対称ってのはどういうことだ?」

「…………………………そんな馬鹿な」

 

 酷く滑稽だったそうな。

 

 抱えた! ここで王子様はついに頭を抱えることになる。

 右手で遮った自身の視界は、これ以上現実を直視したくないことの彼なりの表現だったのか。 もう、戦いよりも困難な敵を前に、彼の堪えは限界を突破しそうになっていく。

 けれど彼は大人。 王子たる彼は此処で少しの天啓を授かることになる。

 

「え!?」

「…………ふん」

 

 見た先に居るのは、管理局所属の黒い男の子。 彼の人となりは何となく掴めているのかいないのか。 そこはかとなく、自身の息子の“13年後の姿”を幻視した彼はそのまま口元を歪めていく。

 

「おいそこのガキ」

「は、はい!」

 

 その顔のなんと凶悪な事か。 映画にでも出てくるギャングか何かと間違えそうになる目の前の顔に、金髪の少女が小さくも張りつめた声で反応する。

 

「違う」

「え?」

「お前じゃなくてそこのガキ、貴様に言っている」

「ぼ、僕?!」

 

 しかしどうやら今回の主役は彼の様で。 誰にも見つからないように、少女は一人心の中で胸をなでおろす。 さて、そんな少女を置いておきながらも進んでいく王子様の会話と指名。 明らかに常軌を逸した視線を前に、黒い衣の“男の子”は今度こそ震えを隠せない。

 

「…………いまのは、理解できているな?」

「いまのというと……?」

 

 ゴクリ。 飲み込んでしまった生唾は、そのまま彼の胃液と混ざり合って気味の悪い感触を与えていく。 何かが一個でも噛みあわなければそこまでと、誰も強要していないのに自信を追いこんでいく男の子――クロノは、そのままベジータと視線を合わせながら。

 

「フュージョンポーズの事に決まっているだろう」

「…………まさか」

 

 バリアジャケットを着込んでいるはずなのに、自身の地肌に汗が湧き上がっていくのがわかる。 何となく肌触りの悪いそれはおそらく脂汗なのだろう。 全身を流れるように行き渡れば彼の脳内に一つの可能性が浮かび上がっていく。

 

「実は――」

「まさかこの期に及んでトボケルわけではあるまいな。 見ていたぞ? オレがフュージョンを実践している最中でも貴様はじっとこちらの動きを追っていたことを」

「……ウグ」

 

 それに嘘など言えばどうなるかわかるだろう?

 どことなく背景に浮かび上がっていく暗闇を纏いながら、ベジータの微笑はクライマックス。 もう、後には引けないところまで追い詰められたクロノはついに言ってしまう。

 

「…………なにをすればいいのでしょう」

「良い答えだ」

「……チクショウ」

 

 地獄も、二人で堕ちれば怖くない。

 そうさ、この儀式には相方が必要なのだ。 そして孫悟空はまだ理解が不足している、なら、この先に行うことなど決まっているだろう。 見せればいいのだ、彼に、王子が見せようとしている踊りの全容を。

 

「手を貸せ」

「は、はい……」

 

 一緒に堕ちる相手が見つかったことによる安堵が在ったのだろう、少しだけ声のトーンに余裕が出来た王子。 対して地獄に足を引きずり込まれた少年というと。

 

「クロノ……」

「が、がんばってクロノ君!」

「もう、どうにでもなれ……ハハ」

 

 気分は急降下のジェットコースターだ。 もう、上がることのないそれはもしかしたらフリーフォールかもしれない。 少年の苦悩が続く。

 

「こうなりゃヤケだ! 悟空! 頼むからさっさと覚えてくれ!!」

 

 そうして揃う足並みは儀式の前段階。 ふたりの歩幅で7歩分あるかどうかという底は、これから行われる舞踏を前に確かな静寂を与えられていた。 並び立ち、そろって眼前を見据える彼らの目は少しだけ血走っていた。

 

『フューー』

 

 動き出す、二人の人物が。

 彼らは両手を上げるとすぐに地面と水平の位置に持って行く。 その間に刻まれる歩数はお互いに3歩分。 彼らは引き合うように近づいて行った。

 

『ジョン!!』

 

 気合一声!!

 過剰な声量で上げられた雄叫びは正に獅子奮迅が如く。 目の前に仕事を終わらせたいという一心が皆に伝わっていく。

 

『ハッ!!』

 

 腕の出し具合、膝の曲り具合、脚の角度……ヨシッ。 最後に合わさった指先は、寸分の狂いなくベジータとクロノを繋いでいた。 彼らの儀式は、形だけなら見事に成功していたのであった。

 

「オラ、これからコレやんのかぁ」

「それはこちらの台詞だ! なんで僕が――」

「……なにか文句があるのか」

『え! あ、いやぁ……ハハっ!』

 

 迫力全開の凄みは、正に鬼か悪魔のような印象を周囲に与えるには十分すぎた。 暗い地の底から迫るように鳴らされた喉は、既に悟空への威嚇を始めようとしている。

 

「あんな恥ずかしいポーズを踊らされたんだもん。 と、当然かも」

「そうだよね。 わたしだって嫌だ」

 

 なのは、フェイトのふたりは遠巻きながらに状況を呑み込んでいく。

 けど、王子の心内までは推して測ることはできず。 ただひたすら苦笑いと怯えと励ましとが混ざり合った訳のわからない表情で彼らを見守る事しかできない。 男たちの苦悩が続く。

 

「いいかカカロット、いまのが左右対称だ」

「あ、あぁ。 さすがにここまでされちゃオラだってわかる。 けど、なんで今のでおめぇ達は融合しなかったんだ?」

「言っただろう。 体格は大体でいいが、気の方はまったく一緒に合わせる必要がある。 オレと貴様ならば少しの調節で済むがさすがにこのガキとだと差がありすぎる。 だから融合が成立しなかったんだ」

「そうか……気を合わせんのか」

 

 無理に平静を装う彼の背中はなんだか哀愁が漂う。 20年後の未来から来たばかりの青年が見れば驚愕を隠せない彼の変貌は、それだけ王子の角が取れた証拠足り得る。 そのことを果たしてわかっているのだろうか? 孫悟空は少しだけ首をかしげると。

 

「……そんじゃやっか」

「フン、言っておくがカカロット、このフュージョンポーズは失敗するとそれ相応のデメリットがある。 本番で間違えてくれるなよ」

「大ぇ丈夫。 さすがにここまで見せてくれれば大体わかるし、動きももう見切った。 今度はしっかりやって見せるさ」

 

 そう言うなり悟空とベジータは互いに距離を測る。 目線だけ動かして見せたそれは、お互いの歩幅を数える動きである。 1,2,3、少しづつ開いていく彼らの空間に、皆がいよいよ息を呑む。

 

「距離はこれくらいでいいだろう!」

「次は気をまったく一緒にするんだな?」

「そうだ! 普通のサイヤ人状態でやる、着いて来いカカロット!」

「よぉし!!」

 

 ―――――――――――ハァァァァアアアアアアッ!!

 

「うぉ!?」

「くう!!?」

 

 ふたりが気合を高めていく。 発声による振動が一瞬で通り過ぎると、彼等の全身からくる力の波が世界を震え上がらせていく。 しかしその身体になんら大きい変化は訪れない。 皆が予想した頭髪の変異も見当たらぬままに、彼等は腕を互い違いの方向へ伸ばしていく―――――――…………

 

「な!?」

「に……!」

 

「ギヒヒ……ッ」

 

 居た。 遂にそいつはここにやってきてしまった。

 

 紫色の体色を持ち、その手に赤銅色の剣を携えた地獄の鬼が――

 

「よりにもよって!」

「オレ達の間に瞬間移動してきやがって!!」

「ギヒ!」

 

 そろえた腕を一気に振るう。 しかしその先は鬼が居るところではないし、そうとも言って無意味な動きではない。

 

『だぁあ!』

「……!」

 

 蹴りだ、二人が放ったのは。

 腕を振り、反動をつけた右足での同時蹴り。 挟み込むように蹴りぬくと言ったその攻撃は最速で全力の一振りであった。 しかし。

 

「ちっ」

「ダメか!」

「悟空くん!!」

「ベジータさん!」

 

 それぞれの蹴りは鬼の腕によって阻まれてしまう。

 至極当然の流れと言わんばかりに、冷や汗も流さず、それどころか薄ら笑いすら浮かべるヤツの顔を忌々しげに見つめていくベジータは。

 

「はぁぁああああッ!!」

 

 その髪を金色に染め上げていく。

 全ての能力値が50倍にまで引き上げられるソレは、俗にいう壁を超える前の姿。 黄金のフレアを撒き散らせながら、彼は即座に距離を詰める。

 

「カカロット! とにかく応戦しろ!」

「それしかねぇのか……!」

 

 放つ言葉に、しかし悟空はすぐに動けない。

 そうだ、彼にはあるのだ。 この場で全力を出せない事情というのが。 其れは、その理由は彼の身体の奥深くに結びつく宝石から聞こえてくる。

 

【孫……孫!!】

「シグナム……」

 

 それは、烈火の騎士の叫ぶ声。 警告のように、訴えかけるように強く激しい彼女の声に、悟空は念じることも忘れて口を動かしていく。

 

【わかっているとは思うが、不必要な全力戦闘は避けろ】

「……時間は後、どれくらい残ってる」

【普通の状態の超化で20分。 あの雷を纏った姿だと5分が限界だ】

「5分……たったそれだけなんか」

【お前は先ほどまで子供の姿になり、それを無理矢理我らの魔力で戻ったに過ぎない。 それなのにさらに魔力を消費する行動を取れば強制的に我らは弾かれ、おそらく再度の同期には1日の回復が必要になるはずだ】

 

 時間的余裕の無さ。 それが今悟空にのしかかる。 いままでなら気にしたことのない戦闘時間は、ここにきて仇となって彼を襲いはじめる。 それでも。

 

「やるしかねぇ」

【けどゴクウ、おまえどうすんだよ!】

 

 赤い少女も同様に悟空の無理を止めるかのように声を響かせる。 彼女たちの制止は当然だ、ほとんどギャンブルに近い彼の超化は、ここぞという時のために取っておかないといけないのだから。

 だけど。

 

「アレなら気は使っちまうけど魔力の消費はねぇはずだ」

【あれ……まさか悟空、お前!】

 

 ザフィーラは此処で脂汗を流す。 なぜなら彼が行おうとしているのは、その昔途轍もない無理を彼に背負わせたのだから。 強者に対して、技巧を凝らすという作戦の究極――

 

「はぁぁぁぁ…………」

 

それを今、孫悟空は実戦に移す。

 

 

 吸え、息を。

 唸れ大気、轟け大地。

 この世全てを震撼させる彼は、その身体を異常なまでに発達させていく。 今ここに現れるは金色よりも燃え上がりし、爆熱の拳士也――――

 

 

「界イィ王ォォォオオ拳――――」

 

 

 そう、世界の王を名乗る拳。 彼は今、その身体を豪炎に焼き尽くす。

 

「ご、悟空!」

「フェイト、なのは! おめぇ達はそこで見てろ!」

『でも!!』

 

 その技はいつだってあなたを傷つけてきた……

 表情を悲痛に染め上げた子供たちに、それでも悟空は震えも後ずさりもしないで正面を見通す。 その先に居るのは歪な笑みを隠すこともしない悪魔が、今か今かと手に持った剣を肩にかけている。

 

 その姿に余裕の二文字を見出した悟空。 彼は、ほんの少しだけ眉を吊り上げた。

 

「すまねぇけど訳有ってな。 超サイヤ人にはおいそれと成れねぇからこれで勘弁してくれ」

「訳だと? ……まぁいい」

 

 素早い了承。 普通に考えればここで質問攻めなはずなのだが、そんなことは悟空の顔を見れば済んでしまったのだろうか? ベジータは此処で、彼に対する視線をとりやめ鬼に向ける。

 その、刹那だ。

 

「――――――はぁぁあああああああッ!!」

『!!?』

 

 魔導師の面々は、久方ぶりの豪炎をその目に刻み付けられる。

 大気を震えさせ、燃やし、埋め尽くす烈火怒涛の力。 孫悟空の唸る声が世界に響けば、その分だけ更に炎が高く舞い上がる。 力という力、彼の中に駆け巡る気力が、まるで爆音を打ち鳴らすジェットエンジンのようにその回転数を上げたときだ。 ついに――

 

「界王拳――20倍だぁぁあああ!!」

『20!!?』

 

 彼の猛りは咆哮となって世界を破壊する。

 

「ぎ、ギギ――!!」

 

 鳴り響く彼の歯ぎしりは、そのまま身体中のダメージを代弁していく。 同時、陥没していく彼の足場はその身に起こった異常な事態を周囲に知らせる。 しかし。

 

「でも、いまさら20倍程度の界王拳なんて」

 

 クロノが口から出したのは、あまりにも冷静な分析結果である。 

 

「そもそも、悟空が戦闘で超サイヤ人を多用してきたのはなんでだ?」

「え? そ、それは……」

 

 その方が強いから。 答えを出すのに時間はかからなかった。

 見た目のインパクトもさることながら、その戦闘力の上昇率とそれに伴う身体への負担は界王拳と比較にならない。

 

「調整のしやすさなら界王拳の方が確かに上かもしれない。 けど、戦力の上昇というか、力を“上”まで持って行くなら超サイヤ人の方が断然効率がいいはずだ」

「え、え?」

「……たとえば、水道の蛇口があるとして。 それを捻って水圧を上げていき水を出していくのが界王拳だ」

「う、うん」

「それに対して超サイヤ人は蛇口ごと取り換える。 そもそもの規格を変えてしまう現象だと思うんだ。 一般家庭用の蛇口から、散水車のホースに使う蛇口に変えてしまえば威力は断然強い。 気だとかそう言うのにはまだ理解が及んでいないからこう言っていいかはわからないが」

 

当然、その分だけ水圧も変えなくてはいけないけどその辺はたとえ話だから流してくれ。

 

 こう言ったクロノの説明に、ダンダンと状況が呑み込めてきたのだろう高町なのは。 彼女は隣にいるフェイトと共に悟空の姿を再度、目で追う。

 

「け、けど今の悟空くんだったら基礎的な力がかなり上がってるはずだし。 ターレスと戦った時よりも強くなってるはず」

「だと思う。 けどそれでも微々たる変化だろう……彼等にしてみればだが」

 

 それ故に今悟空がどれほどに彼等にくらいついて行けるかは想像が出来ない。 そもそも、自分達の理解を超えて行っているのが彼らの常識だ。 なら――絶望的な観測のなかでも、クロノはどこか希望を捨てることが出来ずにいた。

 

 そしてそれは……

 

「だりゃッ!!」

「ギギッ!!」

 

 孫悟空が見事、答えて見せる。

 

 鬼の腹にめり込む右腕。 豪炎を纏い、今にも全てを焼き尽くさんと彼の身体を駆け巡り、今も尚、力の増幅を行っていくそれは、見事に敵へダメージを与えていく。

 

『き、効いた!!?』

「はぁあああッ!」

 

 その光景に誰もが驚き目を見開く。 叫ぶ声があたりに響けば、砲弾を打ち付けたかのような衝撃音。 間違っても人体から発してはいけない音量は、皆の鼓膜を揺さぶっていく。

 

「でぁぁあああッ」

 

 掴み取る、足を。

 鬼の一瞬の隙をついた悟空は、そのまま奴の右足首からふくらはぎの間を鷲づかみ。 遠慮のない握力をいかんなく発揮すると、そのまま身体ごと回転をする。

 

 一瞬、彼等の真横に真空波的なものが通り過ぎれば。 ……雑木林が爆発し、散っていく。

 

「ほ、ほぇ……?」

 

 何があったか……視力だけでは追う事が出来ない子供たちは、身体全体で状況を整理する。 目の前にいるのは傷だらけの男の子、その先に居るのは少しだけ苦い顔をしている王子様。 では、“彼”はどこに行ったのだろう? 探そうとして……

 

「だだだだだだだッ!!」

「ギ!?」

『うわっ!!』

 

 振り向くことさえ叶わない。

 疾風怒濤を体現した高速の打撃は、孫悟空の両拳が鬼の身体にぶつかっていくことを意味していた。 その姿をようやく確認できた思った時だ。

 

「かぁ――!!」

「ギヒッ、ギッ!?」

 

 右腕が奴を打ち抜き。

 

「めぇ――!!」

「ガアッ!」

 

 左脚が奴の足を払えば。

 

「はぁ――――!!」

「ギッ、ギギ!!」

 

 浮いた奴の目の前で……孫悟空の……

 

「めぇ――――!!」

 

 紅蓮の炎が一気に燃え盛る。

 その姿をみたベジータは息を呑む。 別に先を越されたから機嫌が悪くなっているわけではない。 その脳裏に蘇る光景があるから、こうやって目の前の光りを目に焼き付けてしまう。

 唸る紅蓮が蒼く煌めくとき。 孫悟空は世界を穿つべく叫ぶ。

 

「波――――!!」

 

 ――――――20倍界王拳かめはめ波。

 蒼き閃光が鬼を塗りつぶせば、その光の余波が皆の視力を奪い去っていく。 けど、其の中でも視界を、いや、自身の周囲の状況を見失わない人物が居た。

 

「……カカロット、アイツ…………」

 

 そのZ戦士の一人は、彼の納得のいかない強さにただ、疑問を口にするしかできずにいた………………―――――そのときだ。

 

「――――――…………ギヒッ!」

「……な!?」

「か、カカロット!」

 

 悟空の背中に凶刃が走る。 背中の悟の字が裂かれ、肉を切られる感覚を感じた時にはその場から飛び退く。 

 

「やっぱ超サイヤ人無しはつれぇか……」

 

 ヒタリ。 地面に赤い斑点が作られて行けば、悟空の表情が比例していくように曇っていく。 ゆっくりと背中に手を沿え、そのままぬめりとした感触を手の中に収めると、彼の腕がゆっくり地面に降りていく。

 

【無事か、孫!】

 

 脳内に響く声。 其れは烈火の剣士たる、ピンク色の頭髪を持つあの人物の声だ。 今しがた自身に警告し、それでもと走り抜けた結果に悟空は少しだけ奥歯をかむ。

 

【へへっ、やられちまった】

【その様子なら問題なさそうだな。 だがどうする? 奴との戦力差は……】

【あぁ、思った以上にデカイ】

【だが20倍の界王拳で追いすがれるとは思わなかった。 孫、おまえよほどの修行を――】

【あのヤロウ、オラがあんまりにもよわっちぃもんだから遊んでやがる。 悔しいぜ、全くよ!】

【……そ、そうなのか?】

【あぁ。 あいつはまだまだこんなもんじゃねぇ】

 

 シグナムの表情は見えない。 だが、そんなことせずにわかるくらいには、彼女の声は震えが入っていた。 今の攻撃はかなりの好感触、其のはずだった。 だがそこは魔導師と戦士とが持つ感覚の違いだろう。

 まだ追いつけている……否、遊ばれているのだと言われて頬に汗が流れ始める。 ……実体のない状態でだが。

 

「ちっ。 なに遊んでやがるカカロット! そんな余裕などないことは分っているだろう!」

「遊んでるつもりはねぇ。 けど、こればっかりはどうにもならねんだ」

「なんだと? ……なら」

 

 白いブーツが音を鳴らせば、青いスーツが一回り張を強くする。 頭髪を黄金色に染め上げたベジータが体中に蒼電を纏い歩き出す。

 

「貴様はそこで指をくわえながら見て居ろ! 奴の相手はこのオレがする!」

「よせベジータ! 無茶するな!」

「うるさい! 戦力外は黙ってろ!!」

 

 悟空の声など聴く耳持たない。 自身の格下へと成り下がり、わけのわからんことばかりほざく奴など相手にもしない。 網膜の奥に映る最強を体現せしあの姿を幻視しながら、いや、思い出しては歯ぎしりが周囲に響く。

 彼は、いったい何に苛立ちを募らせる?

 

「聞けってベジータ! おめぇ死んじまってるだろ、もしもそんな奴がもう一回死んだらどうなるか知ってるか?」

「…………」

 

 それでも。

 放っておけないし、このあとの展開なんて読めない訳ではない孫悟空は彼を引き止める。 そして出てきた言葉は、彼の師からの深い忠告である。

 

「なくなるんだぞ! 存在自体が! もうこの世にもあの世にもいねぇ、生まれ変わることもなく消えちまうんだ!!」

『…………え?』

 

 その言葉の意味を、真の意味で理解できるものは“あちらの世界”にはだれ一人いなかったであろう。 当然だ、世界の裏の、そのまた最奥にまで顔を突っ込んでは大声で空腹を訴えるくらいの人間ですら、つい最近知った事でもあるのだから。

 というより、“とある経験”をこなさなければどんなに頑張っても理解が出来ないのもまた事実である。 だから。

 

「奴とやり合って今度こそ分かった。 ありゃあオラたちが束になっても敵う相手じゃねぇ」

「……」

「あのすげぇ超サイヤ人に成ったとしても、おそらくだがオラたちに勝ち目はねぇ」

 

 だから、このまま闘うのは死地に行くようなものだ。

 無駄死や犬死をさせるくらいなら。 ……片手をかざし、ベジータの行動を抑止しようとするが。

 

「孫悟空!」

「く、クロノ……?」

 

 黒い衣。 それを硬く、強く練り上げていく少年に呼び止められていく。 練り上げられしそれは魔力の塊だ。 故に込める力を上げていけばそれだけで硬度を増す便利な盾となりうる。

 ……ただし、何事にも限度はあるが。

 

「僕たちで時間を――」

「それこそ無茶だ、わざわざ殺されに行く様なもんだぞ!」

「だが、しかし!」

 

 それ以外何がある?

 いま、この時この瞬間を打開するには“ここにいる人間”では全くの力不足であることは、悟空自身が発したものだ。 だったら――この願いは……

 

「例えここで僕たちの誰かが死んでも、この後ドラゴンボールで生き返らせてくれればいい! そうだろ!」

「クロノ、おめぇ……!」

「それにこれは、なのはやフェイトの発案だ! 彼女たちの決意を無駄にするのか悟空!」

「……っ」

 

 苦い顔だ。 子供の彼女たちにここまでさせることへの精神的な重みと、自身の力の無さからくる不甲斐なさを噛みしめれば、彼はそのまま姿を…………――――

 

「―――……チクショウ! おめえの相手はこっちだろ!」

「ギヒヒ!!」

『!!?』

 

 ほんの数センチ先に確認することになる。

 唐突に切り替わる景色は山吹、そして赤。 染まる世界はクロノから平衡感覚を奪い、思わず片手を口元にやりかける。 だが。

 

「オラとこっちに来てもらうぞ…………―――――」

「ご、悟空!?」

 

 その手が口部を覆い隠す寸前。 鬼と青年らは子供たちの目の前から消えて行ってしまう。

 

 と、思った時である。

 

「――――……ベジータ!!」

「今度は外さん!!」

『?!』

 

 またも現れる青年と鬼。 それらは先ほどまで黄金色を纏いし王子の眼の前へと姿を見せていた。 その行動を、彼がもつ固有技能だと看破したクロノ。 そして、青年を見つけた途端。

 

「……マズイ」

 

 クロノ・ハラオウンの口元から余裕の声は完全に消え、表情筋は完全に引きつっていく。

 

 何が起きた? などということなかれ。

 先ほどまでクロノ達が待機していた場所から戦闘開始の瞬間に300メートル程度離れていた悟空たち。 だが、そんな彼等は次の瞬間には自分たちの目の前に現れ……身構えた途端に今度は600メートルくらい先に瞬間移動をしていった。

 

 そのめまぐるしさに耐えかねたのだろうか?

 

 いいや、違う。 彼が引きつるのはその高速戦闘だけではない!

 そう、クロノはその目にしかと焼き付けてしまったのだ、いま、目の先にある青い光源その姿を。

 

「はぁぁぁぁあああああッ」

 

 唸る声は、完全に仕留める気迫をクロノにうかがわせるに至る。 地の底から唸るような雄叫びを、発せし金色の戦士は差し出したその手に破壊の光りを作り出す。

 

 

「ビッグバン……アターック!!」

 

 

 今一度訪れる大爆発。 しかし、その内包された破壊力に比べると爆発の範囲は驚くほどに狭い。 いや、爆発の規模を抑え、その威力を殺さないで効率的に相手へ浴びせているのかもしれない。

 巻き起こった煙幕は、皆の姿を隠し始めると思われた。

 

「いまだベジータ!」

「オレに指図するなァ!」

「ギッ!!?」

 

 そのとき、二振りの足刀が鬼を強襲する。

 不意に現れる攻撃は、雷光のように目を眩ませ業火が如く身体を燃え尽くさんと鬼へと迫り……

 

「――――ッ!!」

『だあああああッ!!』

 

 吹き飛ばす。

 遠くへ。 地平線の彼方へと吹き飛ばさんと振り切ったのだからこの結果は予定調和。 なんだか見ている方は既に冗談に思えてくる光景でも、当の本人たちは至極真面目で死にもの狂い。

 世界の果てで感じる奴の気を肌で感じながら――――悟空が叫ぶ。

 

「クロノ!!」

「わかってる!」

 

 答える少年の周囲に幾何学の意味を持った線が走れば、そのラインはやがて力を持って彼らを世界から切り離す。

 

「結界……起動!!」

 

 そのとき、世界は大きくずれる。

 

 

 

「この結界はしばらく発動させていられる。 悟空! すまないが僕は――」

「わかってる。 ユーノを頼んだぞ!」

 

「なんだこれは……!」

 

 悟空がクロノに少年の命を託したところである。 サイヤ人の王子、ベジータは思わず目を見開く。

 目の前が不意に暗闇に染まると、そう思えば一転して元の緑の世界に戻っていく。 だが、その視界だけなら元の世界の中でも、確実に起こった変化が今ベジータを動揺させるのだ。

 

「戦闘力を感じない……さっきの奴はどこに行った!?」

 

 世界から、凶悪な気の塊が消えてなくなった事。 それが一番重大な事項だろうか。 先ほどまでの圧迫感も、死に対する抵抗すらも薄れて行ってしまいそうな……落差を確かに感じたのである。

 

「コイツは、クロノ達魔導師っちゅう奴らが使う“結界”ってやつだ。 外と中の空間そのものを遮断しちまうらしい」

「……魔導師? 魔導師だと!?」

「どうしたベジータ? 血相変えちまって」

「いや……」

 

 少しだけ荒げた声。 その姿は彼にしては珍しいモノだったろう。 その様を確認した悟空は当然として疑問の声を上げたのだが。

 

「最近魔導師というやつに手痛い目に逢わされただけだ」

「……?」

 

 彼はなぜか話すということをしなかった。 会話は、そこで一旦の終わりを迎える。

 

「さてと、ここなら少しの間だけ時間が出来るはずだ」

「そのようだな。 まさかこんなモノを隠してやがるとは抜け目のないヤツだ」

 

 互いに立つのは数メートル離れた場所。 そこで互い違いに手を伸ばせば、彼等は少しだけ深呼吸。

 目に見えぬ力の均衡を水平にさせれば、空気がうねり、彼等の間を駆け抜けていく。

 

「まぁな。 ここ最近いろいろあったし、何よりオラ自身こいつには何度も苦戦させられてきたかんな」

「……戦闘力を感じなくなるからか?」

「そうだ」

 

 言葉は段々少なくなる。

 キッ――細めた瞳はいったい何を見るのか? 悟空とベジータは各々あげた腕をそのままに足を広げ、そろって口を開きだす。

 

『フュー…………』

 

 そう、彼等がやろうとしているのは最強の、否。 最凶への儀式。

 狂った世界をも捻じ曲げ、元の法則へと強引にねじ伏せることすら出来るであろう伝説の戦士へ至る舞踊。

 おかしいと、笑うことなかれ。 その踊りこそはヘンテコを極めた道化だが。 ……その、踊ったあとに起こる現象は―――――――――――

 

 

 

 奇跡をも凌駕する。

 

 

 

 

 だが。

 

 

 

 

 

 

「ユーノ……」

 

 クロノ・ハラオウン。 14歳というもうそろそろ少年と呼べなくなる年頃の彼は、非常に責任感の強い子供である。

 幼少期に父親を亡くし――闇の書に喰われたと後に判明する――そこからまるで父親の歩いた道を行くかのように彼もまた、管理局へと身を投げ打つ。 そんな彼は、今まで本当に近しい友が少なかった。

 

 

「遅いぞ小童! 斉天のを手伝うのはあそこまででよいだろう、それよりも早く此奴に魔力を送るのを手伝え!」

「わかってるそれくらい! とやかく言う暇があるならそっちも加減しないで全力で当たってくれ!」

「く、くろすけ……アンタ……」 

 

 

 年の近い友人というか、同僚というか。 そんな曖昧な立ち位置の人物ならば2つ年上の元気が有り余っているオペレーターが一人いなくもないが、やはり彼は男の子。 同性の“友”の一人くらい……それは、母親であるリンディも思うところでもあったかもしれない。

 

 

 そんな折に出会ったのは悟空、そしてユーノの“背丈だけなら”近しい人物たちである。

 

 出会いこそは最悪だっただろう。 なにせ悟空は謎の封印により背丈は縮み、だけど“タガ”が外れかけていたのか、超サイヤ人の片鱗を見せつけ、圧倒的な暴力でクロノを精神的に追い詰めたからだ。

 だけど、紆余曲折を経て彼らは何となく仲間と呼べる間柄になっていき。 ……そこからは半年で二つの事件を解決するに至る。

 

 仲は、決して悪くない3人の男子。

 一人は深い事情により既に母、リンディよりも歳が上になってしまったが、もう一人は相変わらず“ふぇれっともどき”などと呼んでカラカウ対象ではある。 その、近しい人物は中々に面白味があって……

 

「しっかりしろ……いま、助けてやるからな」

 

 半年前。 自分たちを遥かに超える強大な敵との邂逅、そして自身の力の無さに血の涙を呑んだ彼は、己が未熟さを思い知らされる。

 一時は現場を離れてしまおう、逃げてしまおうとも思ったかもしれない……けど。 けど、それでも逃げなかった少年がいた。 その背中は徐々に逞しさを帯びていき、表情を見るまでもなく、彼が心に刻んだ決意というやつを見せつけていた。

 

 その姿は、心の炎を再び燃焼させるには十分すぎて。

 

「死ぬな……死ぬな…………皆! もっと魔力を――コイツが失った分以上に注ぎ込んで、なんとか持ち直させるんだ」

『!』

 

 それを思い出したときだ。 ディアーチェやアインハルト、この世界に来た複数の魔導師が懸命に少年の命の灯火へ、己が持つ魔力を注ぎ込んでいっているにもかかわらず。

 

「いままでやったことを無駄にする気か……お前にはまだやり残したことがあるだろう……っ」

 

 もう、青年の顔へと変わろうとしているクロノ・ハラオウンが合流し、更なる光で少年を包もうとも。

 

 

 

「        」

 

 

 

「ユーノくん……?」

『…………っ!?』

 

 その手の中にあった少年は、確かに呼吸をしていたはずだった。

 あたたかな光で照らしだし、それでも足りぬ力は皆で抽出して見せた……はずだった。

 

「おい、スクライヤ…………?」

 

 背丈はほとんど変わらない。 昨日までさっきまでつい数時間前まで、同じ目的を掲げて走り抜けてきた男。 そんな彼が今、目の前で命の火を消そうとして……否、消されてしまった。

 聞こえない呼吸音。

 途絶えた心音に、徐々に失せていく生気。 真っ青になっていく整った顔は、普段から口争いが絶えなかったクロノが見る機会の少ない種類の顔で。 ……あ、コイツって大人しくしているとこんなにきれいな顔立ちなんだなと、どこか場とそぐわない思考が駆けぬけて行った時だ。

 

 

「スクライア……」

 

 

 その手は、彼のボロボロの衣服を掴み取り。

 

「おい、おい……!」

 

 揺さぶって、もう、動かない頭を振って。

 

「起きろ……フェレットもどき!!」

 

 いつものように悪口を言ってやれば…………

 

「ユゥゥノォォオオオオッ!!」

 

 その現実に、とうとう気が付いてしまう。

 

 

「よくも……アイツ……」

「く、クロノくん……?」

 

 震える声。 だが、それを聞いた高町なのはには、どうしてだろう。

 

 

 

 

「やりやがったな……!」

「クロノ!?」

 

 

 

 握りしめ、血がにじむ手の中。 だけどその姿は悲しみには見えないと、フェイトは思わず口を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 少年とも言えず、青年にもなれない男の子の慟哭が鳴り響く中。 それでも孫悟空たちの儀式は止められずにいた。

 

 天へ伸ばし、そこから降ろして水平へ持って行こうとしている両腕。 その手がピンと伸ばされていくところである。

 

 

―――――グゲゲゲゲゲゲゲッッ!!!!

 

 

 バキリと、何やら枝を折るような音が聞こえてくる。

 それがだんだんと地割れのように各方面へ伸びていけば、堅牢であったはずの結界が大きく戦慄く。

 

 ――――まずいぞベジータ。

 ――――言われなくてもわかっている、集中しろ!!

 

 ふたりがその場の空気だけで会話をすれば、その分だけ結界の耐久度はすり減らされていく。 そうだ、思い出してみればこう言った展開は読めない訳がなかったのだ。

 この手の結界が有用なのは、孫悟空の瞬間移動阻害と、気の探知の妨害。 けど、そこにいるとさえわかってしまえば、いつもどのような末路を辿って来ただろうか?

 

――――あ、あいつ叫び声だけでコレ壊す気だ!

――――いいから黙ってろ!!

 

 下ろされた腕が、そのまま平行に移動していく。

 たったこれだけの動作の筈なのに、彼等の中での時間は既に何分も経ったかのように長引き、焦れてしまう。

 早く速くと言っても、さすがにこの踊りを焦って行うには練度が足りない。 そのことを熟知しているだけにベジータは歯茎を見せながらも心を落ち着かせ、踊りの終着点へと歩みを進めていく。

 

――――――ギィィィィヒャハハハハハッ!!

 

 その先に地獄の鬼が居ようとも、彼等の進行は止められるべきではない。

 

 結界が、ついに崩壊する。

 

 

 

 

「ギヒィ……」

「き、さま……………っ!!」

 

 

 悪魔の微笑を見てしまえば、食いしばる歯茎は鮮血に染まる。

 噛みしめ、にじませるその赤は果たして血の色だけであったのか? クロノ・ハラオウンはいま、その心に悪鬼羅刹を宿らせる。 彼は、手の平に一枚のカードを取り出していた。

 

「テメェーーーー!!」

「クロノ!」

「クロノ君!?」

『クロすけ!!?』

 

 様々な者達が止めた。 無理だ、引き返せ! いろんな声が轟く中、それでも少年の足は止まらず、心は張り裂けんばかりに慟哭をやめない。 口にしたキタナイ言葉が空気を揺さぶる中、そんなことを気にしない男の子はいま、確かに戦場へ走り抜けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

『ジョン!!』

 

 決死の行進曲が続く。

 その後ろで悲劇が上塗りされていることに、“気”が付いているにもかかわらず、彼等の儀式は続いていく。 そう、この瞬間を逃せば、今起こった悲劇は只の無駄になってしまうのだから。

 

「グゲゲゲゲゲッ!!」

 

 奴が来る。

 破りたての結界。 その残滓を身に振りまきながらも、男たちの行進を寸断せんと手に持った刃を光らせる。 鈍い輝きはやがて熱をもち、姿も相まって地獄の業火を連想させる。

 炎熱携えし地獄の鬼……その姿の背景には、いま、独りの女剣士の姿が映り込む。

 

「ギヒ、ゲハハハハッ!」

 

 振りかぶる。

 そうだ、何も近づく必要などないのだ。

 届かない、訳ではないこの距離を何も近づいてやる必要はない。 その距離を数百メートル程まで残した鬼は、既に攻撃態勢に入っていた。

 

 剣に溜められた炎が、その熱量を圧倒的にまで高めれば――――

 

「ギィヒャハハハ!!」

 

 空気をも焼き尽くす炎熱が今。

 

「デュランダル、かき消して見せろ!!」

『――ッ』

 

 その熱量をゼロへと還らされる。

 

 もう、後1動作程度で完成するはずの儀式を寸断しようとした鬼。 その行動はまるで先の戦いを“理解”しているようにも思えてならない。 けど、そんなことを考慮している余裕がないベジータは、一刻も早く完成させてしまおうと先を急ぐ。

 

 急ごうとしたのだ。

 

「――――ぐぅぅッ?!」

「クロノくん!!?」

「クロすけ!!」

 

 絶対零度を誇る最強の氷結系魔法。 それを一瞬とは言え限界まで酷使したツケが早くも周り、廻ってきてしまう。 折れた脚、笑うひざ。 それに結界の構築とユーノへの魔力供給とで急速に失われた力。

 普通の人間で言うところの酸欠状態に陥ったクロノは、そのまま攻撃の手を緩めてしまう。

 

「くッ……こ、こんな場面でさえ半端に……」

 

 悔やんでいようが、己を奮い立たせることが出来なければ只の自己満足。

 そして今現在、立ち上がることができないクロノに挽回の余地などどこにもない。……無残にも大地へ膝をつく。

 

「ギィィヒャハハ!!」

『!!』

 

 あと一歩。 もう、後20フレームもない時間で完成するはずなのに。

 鬼の拳がベジータへと迫りくる。 先ほどの続きだ、相手になってくれよ? 言わんばかりの嬉々とした叫び声に、王子の表情筋が引きつる。

 

 

 もう駄目だ………………誰もがあきらめ、大地に視線を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――同時刻。 知らない世界。

 

「……あれ?」

 

 少年はそこにいた。

 先ほどまでの苦痛も、悩みも、双肩にかかる重圧もなくなってしまったこの世界に、少年は地に足を付けて佇んでいた。

 

「ここ、どこ?」

 

 でも、自分がどこにいるのか判らないのは不安だから、取りあえず声だけでもあげてみた。

 それと同時、動かす視線で周囲を探る。

 目に見えるだけの風景。 色は黄色、そして幾何学の意味のない羅列をもって浮き上がるどこかで見た様な雲は、かれの“ともだち”を思い起こさせる。

 

「キントウンみたいだ」

 

 ぼんやりとそれだけを思い浮べれば、其れだけ。

 もう、何も出来ないとわかってしまったのだろうか? 彼は今立っている“道”に腰を落ち着けると何も考えず何も言わずにぼんやりと、薄目を開けながらこの世界を見渡していく。

 

「………………」

 

 何も、言わない。

 彼の役目はもう終わったのだ。 少女が戦乱に足を踏み入れる理由を作り、彼女を鍛え、彼女を少年と出会わせ、そして……そして?

 

「…………………」

 

 もう、どうでもいい。

 終わったことにあれこれ言ったところで、時間は帰ってこないし消えたモノはそのままだ。 自身の命でさえ。

 

 帰れない、ところに思いをはせて何になるというのか? 無駄なのだ、全部、何もかも。

 

 

 

 少年の目から光も、色もなくなっていく。

 いよいよもって彼の物語は幕を下ろそうとしていた。 ……そのときだ。

 

「逃げるのか?」

「え?」

 

 声を投げかけられる。 どこに居たのだろう? この、何もない世界のどこに人なんか? 分らぬ答えを、知りたいとも思わず少年は声を受け流してしまう。

 

「クソガキが、シカトしてんじぇねえよ!」

「痛い!!?」

 

 その頭にしこたま飛んでくる拳。 硬く、冷たい印象の中にも込められる熱いナニカ。 それは前にどこかで味わった者にそっくりで。

 

「消えるのか? このまま」

「え?」

「このままおめおめと、仲間の危機を知りながらテメェは逃げおおせるのかって言ってんだ」

「そ、そんなこと――――」

 

 つい、反射的に言ったのは否定の意味を持つモノだった。

 姿は見えない。 少年が振り向くことをしないから。 だってそうだろう、この先だけ見ていればいいのは変わらない。 振り向き、手を差し伸べても手遅れは手遅れ。 なら今更どこを振り返ればいいのだ。

 無いのだ。 振り、“かえる”ところなどどこにも。

 

「逃げるだろうなぁ、こわいよなぁ。 ……てめぇのようなクソガキには御似合いのブザマな格好じゃねえか、ぇえ?」

「…………ッ!!」

 

 無様……その言葉、その声、どこかで聞き覚えのある声だった。

 忌々しく、自身の超えるべき黒い影。 でもおかしいそんなことはないはずだ。 なぜならそれは少し前に己が師が打ち砕いた存在なはずなのだから。

 

「こんなあやふやな世界でいつまでも寝転がっているような腑抜けには所詮、出来ることなどはじめからないんだよ……なぁ?」

「…………」

「……ちっ。 期待外れめ」

 

 声。 ……男の声が落胆に沈む。

 まるで生まれたばかりの赤ん坊にかけられた失意の声にも似たそれは、突き放し置いていく厳しさを隠さない言動。 こんな子供にそんなことを……聞いたものなら誰だって思う言葉を掛けてやる存在は誰もいない。

 そう、いまここに、優しさなど必要ないのだ。

 

「……が、う」

「ん……?」

 

 そう、甘やかすことなど赦さない。

 其れは、少年が運命を受け入れた時から胸に刻み付けた一種の呪いだ。

 

 失敗した、巻き込んだ、また失敗した。

 関わらなければ誰も傷つかずに済んで、自分だけの被害で収まったかもしれない。 だから、これは天罰だと思ったし、そうすることで自身が救われるとさえ思ったのは嘘ではない。

 けど?

 

 だけど、本当にそれだけなのか?

 

「ボ、ク……」

「なんだ、言いたいことがあるならハッキリ口に出したらいいだろうが!」

 

 男がまるで苛立つように先を促す。

 ウジウジとした態度を、文字通り蹴り飛ばす勢いで少年の背中に怒気を発する男の無作為さは聞いてあきれを催すくらいに酷い。 それでも、男はその怒気を取り下げることはしない。

 

「ちが、うんだ……」

「…………ほう? どう違う」

 

 否定ないったい何を意味している? 生き方? 生き様? それとも……なんだか男の声が弾んだように聞こえたのは、果たして気のせいだったろうか。

 

「救われたんだ、ボクはあの時すでに……悟空さんに」

「……」

 

 独白に入れる茶々はない。 既に静観を決めたのだろう、男の声は聞こえなくなる。 少年は、少しづつ声を吐き出していく。

 

「戸惑ってばかりのボクを引っ張って行ってくれて。 間違った方向に進もうとしたら叱ってくれて」

「…………」

「いつからだろう。 思ったんだ、あのヒトを見ていたら……」

 

 俯いてしまったのはほんの一瞬のことだ。

 すぐさまあげた顔は、しかし、頬には一筋の水滴が流れ落ちる。

 

「………………おとうさんって、こんな感じなのかなぁ……って」

 

 其れは、記憶の彼方へ消えて行った思いで。

 生きてきた9年間。 だけどその中に存在する親とのつながりは本当に薄いモノだった。 少ない時間、少ない接点。 彼の過酷な生き方に対して、その存在の濃さは決して適量とは言い難い。

 だから、彼は知らなかった。 頼れる背中の大きさを、その意味を。

 

「声をかけてもらうたびに心が弾んだ。 教えてもらって覚えて、たまに褒めてくれたときは泣きそうになった」

「…………」

「いつか、あんな人みたいになりたいとも思った」

 

 だから頑張ったんだ。 ……少年の目に、少しばかりの光明が差しこむ。

 

「でももう終わってしまったんだ。 ボクの役目も存在もここまでだ……あとは悟空さんが何とかしてくれる」

「…………………」

 

 いつだって何とかしたのは最強の戦士。 最後まで立ち上がり、強敵を打ち砕いてきたサイヤ人の遺児。 これ以上戦いが激化すればこうなるのは必然だったのかもしれない。 ……なら、なら…………

 

 

「そう、思っていたんだ」

「……っ」

 

 男の眉が動く。 少年の背中に、何やら見えざる力の流れを感じると、そのまま腕を組んで状況を見守る。 ……軽く、目を閉じはじめる。

 

「そうじゃないんだ、悟空さんは確かに何とかしてくれるけどそれだけじゃなかったはずなんだ」

「……」

「今回のボール探しだってそうだった。 悟空さん一人じゃ無理な相談だった……だけど、周りにいるみんなが力を合わせてなんとかやったんだ」

「……あぁ、そうだったな」

 

 けどな。 男は続けようとする。

 

 其れはあくまでも補助程度。 そんなちまちまとした行いなどほかにいくらでも替えが効く。 なら、いまお前が頑張る必要はあるのか?

 

 言葉に発せずとも聞こえてくる質問は問答となり、少年の心へ深く切り付けてくる。 だけど。

 

「ボクはいつまでも弱いままじゃない。 悟空さんに鍛えてもらった力は、決して無駄にはならないしするつもりもない!」

「フン、どうだか」

 

 握れ、拳を。

 その手の中に光を握れば、彼の瞳の中にも同じく光が宿りだす。 蒼白だった顔色は生命力にあふれ、朽ちたはずだった体中の力もどうしてだろう、イズミのように溢れ出す。

 

「この力は守るためのものだ! ……この世界で、ボクを助けてくれたあのヒトのようにみんなを笑顔にするんだ!」

「できねえさ、世の中にはどうしようもないことがある。 現に今のお前に何が出来る? この世界を超えられないようじゃあ、ここから先、進みようがあるわけがない」

「…………それでも!!」

 

 立ち上がる、ついに。

 少年が全身の力を結集して作る光はそのまま拳へ集まっていく。 心と、その言葉の重みをそのまま表すかのような輝きは、一瞬だけ男の視界を奪い去る。

 

 

「ボクは……ぼくは――――」

 

 駆けだした、走り抜けてきた道を今一度行くために。

 

「暗闇に落ちたボクをあの人は何も言わずに助けてくれた……あのヒトが困っているというのなら今度はボクが助ける番だ――それが出来るならボクは……」

 

 投げ捨てるのではなく賭けるだ。 そうして手にした勝利を分かち合ってこそ、本当の勝利だというのなら。

 

「何度だって立ち上がってやる――!!」

「…………なら、証明してみせるんだな。 貴様の言葉を」

 

 風が吹きすさび、この世非ざる存在が小さく呟けば……少年の姿は消えてなくなる。

 後に残りし男の顔はどことなく晴れやか。 なんてことはない、ほんの少しだけ後押ししてやっただけだと、表情をすぐさま戻してやると……呟く。

 

 

「お前は、手遅れになるんじゃねえぞ……このオレのようにな」

 

 

 その言葉の意味は誰もわからない。

 この、誰もいない世界の誰にだって……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゲゲゲゲッ!!」

『ダメだ!!』

 

 握った拳が、悪魔の嗤いと共に放たれた。

 誰にも止められないその攻撃が矢となって放たれればこの世界全てを担う希望が打ち砕かれる。 誰にだってわかるその結末に、思わず目を逸らした未来組のふたりは……信じられない光景を見た。

 

「…………ウソ」

「こ、この緑色の光り――!」

 

 其れは、暖かくも涼やかな癒しの力。

 光とも形容できるチカラが、目の前の少年を包み込めば――――

 

「ギ!? ギギ……っ!!」

『と、とまった!?』

 

 悪魔の腕に緑色の鎖が巻きつけられる。 その光のなんと眩い事だろうか……まるですべての穢れを消し去ってしまう、そんな神々しささえ見いだせてしまう光の鎖を見た皆が、口をそろえてその名を叫ぶ。

 

『チェーンバインド!!?』

 

 其れは、命の火を消した少年のチカラだった。 だけど……誰もが思う、その力はありえないと。

 

「此奴の息も心の臓も止まっておったはずだ……それになぜあの小童程度の術で悪鬼が止まる、なにが起きたというのだ!」

 

 ディアーチェの言葉にシュテルも、リーゼの猫姉妹も同じく頷く。 たかが魔導師の力如きではあの悪鬼羅刹には敵うはずがない。 では今起きているのはなんだというのか? 再び、彼女たちは気配のない少年へ視線を送る。

 

「      」

「……先ほどと変わらない……全身に魔力を帯びさせていること以外」

「な、何が起きたのですか王よ」

「この子……ロッテ」

「わからない。 き、奇跡……奇跡が起きたとしか言いようがない」

 

 誰もが事態を疑うこの展開に、皆の混乱は深みに嵌っていく……ばかりではなかったようだ。

 

『…………………』

 

 動き続けたモノが居た。 それらは歯を食いしばりながら今まで耐え。 例え奴が誰を傷つけようとも必死に堪え。 限界が来ようとしても踏み出すことをしなかった。 故に今起きた奇跡を見た瞬間、彼等は驚愕よりも先に想うことがあった――――――

 

『――――――――破!!』

 

 其れ等はまだ、言葉にすることが無く。

 其れ等は只、2本2対の指を重ね合わせた瞬間に世界を変え。

 “其れ”はもう、この世に新たな命として降臨する。

 

 想った言葉を、口にしないままに彼らはついに重なる。

 

 

「う、うわ!?」

「な、なんだ?!」

「はじき出された……!」

「悟空さん!?」

 

 その命の誕生に、不純物が在ってはならない。

 孫悟空だったものから弾き飛ばされたのは4つの光りだ。 赤、桃色、緑に白。 そのどれもが今起こった事に驚愕を隠せず、自分達が出てきてしまった意味を探そうとして――

 

「いかん! 孫の魔力は回復しきっていない……!」

 

 だがそれは、杞憂に過ぎない。

 

「もど……も、ど」

 

 なぜなら孫悟空という存在は既に全世界から消えてしまったのだから。 故にここに存在するものは、魔力の枯渇によって子供になるという欠陥を抱えるなどということもない。 

 

「……もどる……ぞ……」

 

いらない心配だろう。

 

 放り出されたシグナムの見た先。 子供の姿になってしまったと思い込んでやや下に降ろした視界の中には見慣れない衣服があった。

 白いズボン。 ただしそれは膨らみを帯び、どことなく遠方の民族衣装を彷彿とさせる形状だ。 一般的なパンツスタイルではないそれは、彼女の常識に少しだけ波紋を巻き起こす。

 

『……』

 

 皆が息を呑みこんだ。

 なぜならそこにある人影はたった一つ。 先ほどまで見えていた永遠の好敵手たちがどこを探してもいないのだ。 ……戦士たちの消失に、しかし、新たに見えたたった一つの影はどうしてだろう。

 

「…………悟空くん?」

「ベジータさん……?」

【…………】

 

 なのはとフェイトは彼等の存在を思い浮べずにはいられない。

 衣服を再確認しよう。 そう思い、今まで向けていた足元から視線を上げれば黒い帯が顔を出す。 孫悟空はいったい何色だったか、思い出す前に視線をもう一段上に持ち上げる。

 

【………………】

『は、裸……?』

 

 しかし、見えてきたのは健康的な素肌。

 そのあまりにも生気に満ち溢れた健康美は、だけど状況が彼女たちに余裕を与えない。 すかさず次に見たモノはギリギリ服と言えなくない“上着”だろうか? 其れは、やはり先ほどのズボンと同じく異形の民族衣装を思い浮かばせるものだ。

 フロントは全開。

 羽織るかのように着たそれは、ノースリーブのジャケットともギリギリ言えなくない。 そんな露出の多い彼は……ひたすらに無口。

 孫悟空、ベジータの特徴だった黒い髪の毛を逆立て、一房だけ垂らされたそれはなんというか……

 

「悟空くんと」

「ベジータさんが……」

『合体しちゃった!!?』

 

 理解した時、彼等は一斉にいま生まれた男を見つめる。 全体的に見ても、普通のサイヤ人サイズの彼は“見た目だけなら”なんともない、ただ服装が派手になった人間だろう。 背中から見え隠れする尾はベジータにないモノ。

 だが、その持ち主である悟空の影が重なればなんとも違和感が抜けてしまう。 ここで、ようやく事態を呑み込んだ魔導師たちは……叫ぶ!!

 

「グゲゲ!!」

『危ない!!』

【…………】

 

 悪鬼が足刀を振り抜いたのだ。

 あまりにも早く。 手に持った刀剣と比べても遜色がない威力を持った“遊びの無い”ケリ。 それがいま生まれた戦士の右側頭部へ迫る。

 

【…………】

「ギヒ……ィ……」

 

 決まる、攻撃が。

 

 爆弾に火をつけたかのような音を轟かせると、そのまま戦士の衣服が揺れる。 あまりの衝撃に皆が目を瞑っている中でも、垂れ堕ちた腰の帯は風鈴が如く揺れていく。 ……涼風を、やり過ごす夏鳥のように。

 

「……ギ、ヒ……?」

【………………よくやったユーノ】

 

 言った、思いのこもった心からの賛美を。

 儀式の終盤に見せた奇跡に対する精一杯の礼。 刀身以上の鋭さの目つきを、ほんのわずかに和らげていた男を皆は見る――――――自分たちの目と鼻の先でだ。

 

「い、何時の間に……」

「みて王さま……あの悪魔も驚いてる……」

「これがサイヤ人同士の……いえ、手を取り合ってはいけない好敵手同士の……共闘」

 

 闇の子たちは静かに驚く。 騒ぐことが出来ないのは、目の前に佇む戦士が発するプレッシャーに負けているからだろう。 力の歴然とした差はわかるはずなのに、こうして目の前で観ないと理解が出来なかった。

 

 ……風景に溶け込むような強大さだということに。

 

「あ、あれが……伝えられることさえなかった師匠とそのライバルのユニゾン……いいえ、フュージョン!」

「よく強さを表す時に壁だとか言うけどアレはそう言うんやない。 壁だとか、山だとかなんてモンじゃ説明できへん。 あえて言うならそう――――天そのもの」

 

 壁なら打ち崩し、山なら昇ればいい。

 雲の上の存在ならその雲を消してやればいい……だが、それらが存在するすべての源……土台たる位置、すなわち“天”にはどうやって追いすがればいい?

 

 風の息吹は天には届かない。

 林は足元のざわめきで。

 火は地上を照らすことしか知らず

山は天に見下ろされるだけ。

 

 

 超えられる、そう思うこと自体が愚かしい思考だと思わせる存在が今、この世界に降り立ってしまった。

 

【…………】

「ぎ、ギギィ……!」

 

 お前は一体なんなのだ……顔をゆがませる悪鬼には伝わっているのであろう。 この男が放つ、未だ奥深くに秘めた力のすべてが。 その表情を難なく読み取った男は不敵に歩き出す。

 

【オレは孫悟空でも――】

「ギィ!!」

 

 ケリ。 疾風の如く放たれたそれも彼には届かない。

 

【ベジータでもない】

 

 背後を取った悪鬼はそのまま手に持った剣を振り下ろす。

 打ちつけた先に真っ二つとなった戦士の姿に口元をゆがませれば…………背後から聞こえる声に足を止める。

 

【オレはお前を倒すものだ――――何度でもな!】

「はぁ……はぁ……ギギィ!!」

 

 

 

 

 天上も天下も、唯我独尊すら許さない存在――――その男、無敵也。

 

 

【ユーノ! 仇は取ってやる!!】

 

 

 サイヤ人の誇りと怒りが混ぜ合わされた最強の戦士はいま、全てにケリをつけるべく悪鬼羅刹を睨みつける。 

 

 




悟空「オッス! オラ悟空!」

クロノ「遂に幕を下ろそうとするこの戦い。 終わりを見たそのとき、皆に衝撃の事実が」

なのは「どうすればいいの!? あの中には――」

フェイト「誰も手の出しようがないなか、それでも拳を握るあの人は言うのでした」

???【これで、全てを終わらせてやる…………】

なのは「ま、まって! おねがいだからーー!!」

クロノ「叫ぶなのはを余所に、最強の戦士は断罪を始める……次回!」

フェイト「魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第67話」

???【魂の断罪者】

クロノ「一体……どうするんだ悟空」

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