魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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ついに来た『あの子』とのバトル回。
出来の方は……自信ないうえに、なんだかどっかで見たことあんだろ!

とか

こんなになるはずないだろ!!
などとおしかりを受けそうな……戦闘を文章にするってむつかしいです、はい。

先に謝らせてください……ごめんなさいと。

そんなこんなでりりごくは第7話ですね……ではでは!!


第7話 奇策!! 悟空、決死のかめはめ波!

 

 

 睨みつけるものがいる。 それは相手が憎いから? いいや違う。 それは彼女が幼いから……ただ願った思いをひたむきに貫こうとしているその姿は確かに立派だ。

 頼れるものは少なく、およそ味方と呼べるものはほとんどいない……さらにどこに敵がいるのかもわかったものではない。 故に彼女は気を抜かない、いつも肩肘を張っては心に深い杭を打つ――――かならず、目的を達成するために。

 

「だから……」

「ん? なんかいったか?」

「…………」

「また黙っちまった……変な奴!」

 

 だから彼女は武器を持つ。 目の前の子どもが何者かなんて興味はない、弱ければ蹴散らして強ければ抵抗するまで。

 だから………だからこそ………黒い装備を纏う彼女は、無表情のままに悟空を襲う。

 

「はあああ!」

「来た!」

 

 振るわれし漆黒の斧は悟空が掴んだ如意棒に阻まれる。 一見ただの棒にも思える悟空の得物は、しかし彼女の鋼鉄をも両断するであろう斧に引けを取らない威力を誇る。

 

「でりゃああ!!」

「――くっ! なんて馬鹿力……」

 

 少女の斧は弾かれる。 しかし悟空の追撃は無い……というより。

 

「いちちちぃ~~手がしびれちまった」

 

 攻撃に移れない。 あんな華奢な身体のいったいどこにそんな力があるのだろうか、悟空との打ち合いは彼女が若干有利を勝ち取る。

 さらに悟空はここに来て大声を上げる。 なぜならこの黒衣の少女は――――

 

「飛んでる……おめぇ空飛べんのか!!」

「飛行魔法……」

 

 自在に空を舞うからである。

 

「すげぇ……天津飯が使ってた舞空術なんかよりも動きがいいぞ……なんて奴だ」

「ぶくうじゅつ? よくわからないけど、あなたも魔導師ならこれくらい」

「??」

 

 感嘆する悟空。 しかし少女は首を傾げる、今自分と打ち合った少年は明らかに普通の物ではない。 ならば考えられるのはひとつだけ。

 自分と同じく魔法という『ちから』を扱い、操るもの……つまりは魔導師であると。

 

「なぁ! ユーノ!!」

「え……?」

 

 ここで悟空はまたしても疑問符を建築。 聞きなれない単語、知らない言葉……実際問題、彼がここに来てはいまだ本格的に触れなかったのだから仕方がない……

 

緊迫する戦闘中の今現在、彼は大声でユーノに叫ぶ。

 

「マドーシってなんだ! 食いもんか!!」

『あらら―――』

 

 緊張感……台無しである。

 いきなりの悟空の質問に、思わず『コケ』が入る魔導師3人。 敵も味方もごちゃごちゃに、引っ掻き回すが如くのこの展開……まさしく悟空である。

 崩れ落ちた三人、だがすかさず起き上がったユーノは茂みの向こうから大きく答える。

 

「魔導師というのは! 魔法の力を行使……使いこなしている人の事を言うんです! だから魔力のない悟空さんはー魔導師じゃないんですよ―――!」

「…………だそうだぞ?」

「……そう」

 

 ユーノの解説で心得た悟空と少女。 悟空が魔導師なんかではないのはわかった、だからと言って引き下がれるものではないのはこの場の全員が理解している。

 黒い少女がここで動く―――

 

「はあ!!」

「ちっくしょう! あいつ、オラが飛べねってわかったから飛んでいきやがったなぁ!!」

「ダメだ! 空を飛べない悟空さんが圧倒的に不利だ!!」

「そんな!悟空くん……」

 

 少女は飛翔する。 高く高く舞い上がっては大空に制止。 滑空でもなく、落下でもないそのさまは正に彼女が空を飛べることを証明している。

 その高さはおよそ地上100メートルほど…………そう。

 

「よし、あんくれぇなら――――」

『え?』

「そこを動くなよぉおお!!」

 

 悟空にとっては、たかが100メートルなのである。

 

 かつての戦いを経験した悟空。 そのとき彼は気功砲から逃れるために、およそ雲が浮いている上空まで“跳躍”したことがある。

 大体、雲があるのは低いところでは2キロメートルからで、最高は地上10キロメートル以上……つまりは旅客機が飛ぶ高さにある。

 彼が実際に跳んだ高さはわかりはしないが……いま、漆黒の少女が居るところなど…………

 

「―――――!!(飛んだ! ちがう……まさか只のジャンプ!!)」

「いっくぞおおお!!」

『えええええ!!』

 

 裕に届く距離である。 まさかの事態、甘く見積もった相手の身体能力……彼女に大きな隙ができる。 そしてそれを逃す悟空ではなく。

 

「久々に行くぞーーー! ジャン……拳!!」

 

 追撃に出る。 それは会心を込めた重い一撃。 強く握られ腰まで引きつけた右こぶし、それを包み込むように添えた左手――――悟空の『ジャン拳』の態勢が見事に整う。

 

「――――くっ!」

 

 悟空の発した言葉の意味を理解するまでもなく、防御の態勢を取る彼女。 もう回避が間に合わない……自身の武器……相棒を信じて悟空に向かい構えを取る。

 

「グーーーーー!!!」

「―――!!」

 

 少女は――――吹き飛ばされる。

 

 車の衝突音にも似た、とても重い音を鳴り響かせながら飛んでいく彼女。 なんと重い攻撃か、防御も踏ん張りもしていたのに10メートルは吹き飛ばされていく。

 

「受け流してカウンターを打ち込むはずだったのに……「そう来ると思って、オラちゃんと(りき)込めて打ったんだ! とうぜんだろ!」――――え!?」

 

 まさか考えを読まれていたとは……悟空の指摘に思わず後ろに下がる彼女。 だが悟空の追撃はまたも行われない。

 それもそのはず…………

 

「また飛んでくっからな! 待ってろよおおおぉぉぉぉ―――――」

「降りてった……の?」

 

 滞空時間の限界である。 翼もなければ“相棒”も使わない悟空に、空を自在に翔ける能力はない。 ジャンプで跳んでいく距離からして、地形適応【空B】という判定であろうか。

 さらに滞空時間を伸ばす方法があるのだが……

 

「あれは身体中の力がなくなっちまうかんなぁ。 あんまり使えねぇ……よし! 地面だ!!」

「わ!? 悟空く――」

「もう一回! それーーーー!」

「…………行っちゃった」

 

 今は使いどころを間違えてはならない。 普段の悟空からは想像できもしないこの計算の高さ……それはおそらく彼の天性の才からくるものなのであろう。

 

 地面を両足で叩き、空に向かってUターン。 悟空は2度、黒衣の少女に肉迫する。

 

「―――――また来た! でも!!」

「あ! アイツ移動しやがった!!」

 

 だが少女は動く。 当然だ、自在に動けない相手に遠慮してやることもないのだから。 そしてそれは悟空もイヤというほどにわかっている。

 天津飯との戦い、そしてピッコロ大魔王との戦い……彼らはともに空を飛んで悟空をピンチに追い込んだ。 そして目の前の少女は、なんと彼等よりも空の飛び方がうまく――速い。 その圧倒的ピンチを前に、悟空のやることはただ一つである。

 

「にがさねぇぞ!」

 

 背中に手をのばし、紅の棒を手に取る。

 

「伸びろ――!!」

 

 例の合言葉を空に響かせ。

 

「如意棒おおおお!!」

 

 圧倒的な速さをもつ少女に向かって、彼は力で圧倒して見せる。

 

 振りかぶり、打ち下ろされた悟空の武器……如意棒。 その威力は昨日の怪物を倒して見せたことからもかなりの威力がうかがえる。

 

「え……ええ!? 武器が伸びた!?」

 

 そしてその武器の有り様に大声を上げる黒衣の少女。 悟空と彼女の距離はおおよそ8メートル足らず。 そんなものは如意棒の有効射程圏の前ではないも同然。

 迫りくる赤に対して、黒い少女は無防備となり…………その頭に棒の直撃を貰い受けてしまう。

 

「ああああ!!」

「やったー!」

 

 思わずガッツポーズをとる悟空。 如意棒片手に地面へと急降下していく彼に――

 

「ま、まだ―――!」

「ぃい!!」

 

 黒衣の少女は手のひらを向ける。 そこから生成される黄色い魔力光――――フォトンスフィアは、彼女の手のひら大まで大きくなると輝きを強くし。

 

[Photon Lancer]

「ファイア!」

「やべ――!!」

 

 悟空に向かって、電気を帯びた魔力の槍を射出する。 

 

「あばびばばばぶばばばば――――!!」

「やった……」

 

 痺れ、至る所を焦げ付かせる悟空。 これにより彼らの立場は逆転。 しかもダメージ的には悟空の方が深手を負っている。 その訳はというと彼女が着こむバリアジャケットにある。

 

「そうか、悟空さんがダメージを直接喰らうのに対して、あっちの魔導師はバリアジャケットがある分、悟空さんの攻撃にいくらか……いや、ほとんどダメージは通ってないんだ!」

「そ、そんな!」

 

 墜落してくる悟空を見ては、ユーノは冷静に分析をする。 悟空の耐久度は遠距離からの狙撃、または至近距離から拳銃、もしくはマシンガンで撃たれても「イテェ!!」で済む程度である。

 だが彼女の防御力はいちいちそれらを上回り、威力に関して言えばおそらく……

 

「痛ちちぃ…………ちっくしょ~~ あ……あいつ、なんて攻撃をしてくんだ!! ピッコロよりも強ぇんじゃねえか!?」

 

 あのピッコロ大魔王よりも上であろうか、それがこの戦闘における彼女に対する悟空の第一感想である。

 

「このまま落ちてくるのを……迎え撃つ!」

「悟空くん!」

「悟空さん!!」

 

 そうこうしてる間に悟空の旗色は怪しくなる。 先に地上付近まで降下していった黒衣の少女は手に持った斧を振りかぶり待機している。

 いつでも仕掛けるという気迫と共に、只落ちることしかできない悟空をまっすぐに捉え……叫ぶ。

 

「これで……終わり!!」

 

 確信した勝利の瞬間。 それは悟空の敗北を意味し、なのはたちですら悟空の勝利はもう無いと見え……彼を見る目に光がなくなっていく。

 無防備に落ちてくる悟空、迎え撃つ少女。 その構図にいまだ何ら変化はない――当然だ、悟空は空を飛べないのだから。

 

 決着まで残り6メートル。 もう感覚的には目と鼻の先という距離。 何もかもが間に合わない、そう誰もが思い――しかし……だからこそ悟空は……

 

「すぅぅぅーーーー」

「なに? なにをしようとしてるの……?」

「息を……吸い込んでる?」

「悟空さん……」

 

 まだあきらめない。 こんなに強い相手との戦い……普通の者ならば身震いする場面でも、彼がするのは武者震い。 高揚する心を溜めこむように肺の中いっぱいに空気を吸い込んだ悟空は、今フルスイングを決めようとしている彼女に向かって一声を――

 

 

「    わっ!!!   」

 

 

『~~~~』

 

 発するのである。

 その声に耳をふさぐなのはとユーノ。 少女の方はなんとか耐えたようだが、やはり目を白黒させる程度にダメージらしいものを受けている。

 だが、そんなことより何よりも。 ここで一番重要なのは…………

 

「しまった――――」

「え!? 悟空くん――」

「空中で止まった……」

「へへ……」

 

 それはほんの一瞬。 落下してきたはずの悟空の速度は確かにゼロとなる。 なぜ? どうして? 皆が疑問に思う刹那――悟空は少女に向かって後方宙返りを繰り出し。

 

「でりゃあ!!」

「ふぐぅ!」

『あの態勢から蹴った!!』

 

 勢いそのままに、悟空は黒衣の少女の顔面に自身の青い靴をめり込ませる。

 そして着地。 左右の手の平を広げ、指の隙間を埋めるように閉じてピント伸ばす、さらに指先は下に向けたままにそのまま腕を上げ、同時に片膝も上げる。

 

 それは亀の姿を模倣したかに見える構え――――“残心”と呼ばれるそれは、武道などで技を決めた後に取るという身構えに対する心構えの一つ。 攻撃をあてた相手に気を張りながらも次の攻撃に対して必要最低限の準備をするのが残心である、つまり。

 

「今のはそんな効いてねぇはずだ……ドンドン行ってやる!」

「え? 今のが効いてないって……」

 

 今の悟空に、ほんのわずかな隙もない……つまりはそう言うことである。

 自身の蹴りの感触からそこまでわかるものなのだろうか、黒衣の少女が蹴り飛ばされた先を鋭い目線で見据えて、そう呟く彼になのはは驚く。

 今のは確かに『入った』ように見えた、彼の攻撃は強烈であるのも理解している、だからこそ今の発言が信じられずに――

 

「えっ!?」

「…………」

 

 おもむろに立ち上がり、飛ばされていった茂みからゆっくりと出てくる黒衣の少女にひどく驚くのである。

 

「ちぇっ! ばっちし決まったと思ったんだけどなぁ。 おめぇ見た目よりうんと頑丈でオラびっくりしたぞぉ」

「そう言うそっちこそ、今のを喰らって反撃までしてきた……」

「ん? そりゃ隙があったんだしなぁ……するだろ?」

「…………そういう意味で言ったんじゃない……」

 

 その中で交わされる会話。 どこか練習中のスポーツ選手がするような互いを褒め合う感じの会話に聞こえなくもないそれは、戦闘中の今現在ではいささか場違いなものであろう。

 だがそれでも彼らは……悟空と黒衣を着た少女の目は鋭いまま。 互いの一挙手を警戒し、一投足を見逃さない。

 混じりあう視線、片方は無言で鋭く冷たくて……刀剣の様な切れ味を思い起こさせる目をしている――そして……

 

「…………にぃ!」

「…………なに……?」

 

 もう片方は……もちろん笑っていた。

 

「ユーノにはわりぃけど、石ころ集めがだんだん面白くなってきたと思ってよ」

「???」

 

 その笑顔の持ち主は悟空。 その彼を見たなのはたちは後にこう語ったという――――晩御飯前とおんなじ顔をしていた……と。

 要約すると、とてつもなく『わくわく』しているのである。 それがどんなに不純な動機であろうと、それをわかっていながらもなお悟空の胸の高鳴りは止まらない。

 

「おめぇみてぇに強ぇ奴と戦えるんだからな! オラもうたのしくてよぉ!!」

「……戦うのが……たのしい?」

「それにおめぇ……」

「……え?」

「なんだかわりぃ奴じゃねぇみてぇだしな」

「……」

 

 さらに付け加えた悟空の言葉は只の本心。 それもそのはずだ、彼が今までこういう奪い合う戦いをしてきた相手は大体悪い奴なのだから。

 砂漠のヤムチャに始まり、ピラフ、レッドリボン……そして――――悪者退治のエキスパートと言ってもいいほどの戦績を残す彼だからこそわかる。 彼女自身に決して悪意があっての行動ではないことを……

 

「……? ちがうんか?」

「……」

 

 まぁ、本能的にだが。

 

 口数がなくなっていく彼女。 いつのまにか俯き加減に下げられたその幼い顔の表情は、垂らされた金色の前髪で閉ざされ見えはしない、わずかに震えている肩は何を意味しているのか。

 それは彼女にしかわからない。 遠いところから二人の事をのぞいているなのはとユーノも、もちろん悟空にだって。 彼女の思いも……願いも……わかりはしない。

 

「――――!」

「ん?」

 

 突如として振りあげられた顔。 その顔に変化はなく、先ほどまでと同じく冷たい印象を相手に与えるその目は悟空を再度捉える。

 そんな彼女に悟空は、しかし反応が一瞬だけ遅れる。 後ずさることもできないままに彼女の“信念”を映し出すかのような強い光は悟空に向けて放たれる。

 

[Photon Lancer]

「…………」

「――――!?」

 

 それは先ほどと同じ光。 彼女の魔法……フォトンランサーが悟空を射抜く。

 電撃を帯びたそれは普通の魔法の弾丸よりも威力があり、さらには相手に感電の追加効果を与える……いわば一石二鳥な攻撃である。

 その槍が悟空を確かに貫い――――『ええ!?』

 

 貫いた……皆は確かにそう見えたのである。

 

「へっへ~~ん」「じゃーーん!」

 

 雷の音に続いて森の中に響く二つの声。 その声の主は声も姿も同じで、けれど同一の場所には存在していない。

 いいや、逆である。 違う場所に居るのに――彼らは姿かたちがまるで同じ……まったくの同一人物なのである。

 

「ご、悟空くんが…………」

「…………ふ、増えた……!」

「なに……? どうなってるの……」

 

 驚く彼らはわからない。 これが“彼等”にとっては使い古された時代遅れの技術であることを……

 しかし効果は上々。 ホログラムのように実体のない幻影に目を奪われながら、持った武器は中段構えから下段となっては地面に着く。

 一瞬の戦意の喪失。 彼女の中にある知識を総動員してもなお、この少年……悟空が使っている技を理解できない…………

 

「――くっ!」

「すごい……こんなことができるなんて」

「忍者が使う分身の術みたい……」

 

 黒衣の少女に続き、感嘆の声を上げるユーノとなのは。 それとは裏腹に焦りの声を上げる少女の表情(かお)は硬い。

 そんな彼女に、悟空はさらに追い打ちをかけようとし…………

 

[Scythe Form]

「はあ!!」

「げっ!? 全部消されちまった!」

 

 横払いに薙いだ彼女の鎌状に変形したデバイス――――バルディッシュのサイズフォームによる斬撃で残像が一瞬のうちに消失し、悟空本体が姿をあらわにさせられるのである。

 そしてその悟空はというと……

 

「え! 後ろ!?」

「ばれちった――めぇ……」

 

 少女の背後に回り込み――――

 

「あ! あの構え――――」

「昨日の…………!」

 

 腰を深く据え――両手は腰の位置までひきつけ、何かを包み込むように添えられ。

 

「――――まさか……砲撃!? この距離で!!」

「はぁ…………めぇ……」

 

 その両手からは、急速に青白い輝きが漏れ始めている。 急ごしらえで作成されていくのは悟空の十八番(おはこ)――――かめはめ波。

 

 それは先ほどの少女が行った不意打ちに対するお礼と言える光景。 得物を大降りした後に出来た圧倒的な硬直時間の最中に姿をあらわにする悟空。

その悟空の丁重なお礼は彼女の隙を、意表を突き……光は解き放たれる。

 

「破ああああッ!!」

「!!?」

『わっ!?』

 

 ほぼゼロに近い……クロスレンジから放たれる悟空のかめはめ波。

 それは木々を根絶やしにせぬように、やや上方に向けて放たれ――少女を光の中へと沈めていく。

 

 数メートル離れているなのはたちですら、その衝撃に身をかがませ、閃光から目を守るために腕で顔を隠している。

 それほどの衝撃、そこまでの強さ。 不意を突いたうえでこの攻撃力だ、少女の方は只では済まないであろう。 誰もが悟空の勝利を信じた――そのときである。

 

「…………ありがとう、バルディッシュ」

[…………]

「な……!」

 

 光の中、悟空のかめはめ波を切り裂くように彼女がそこに居た。

 青白い輝きの前に立ちふさがる金色の光。 壁のように現れては少女をかめはめ波から完全に守りきっている。

 

「な、なんてやつだ! オラのかめはめ波がまったく効きもしねぇなんて……」

「……危なかった。 直撃を受けてたら無事でいられたかどうか…………」

 

 それは彼女が持つ斧……今は鎌だが――――バルディッシュと呼ばれたその武器が起こした連携。 自動詠唱と呼ばれる、武器の持ち主の意図せぬ魔法の発動。

 いわばオートで行われる防御。 それが悟空のかめはめ波……彼らにとっては砲撃というものだろうか……の発動を感知したバルディッシュが、主を守るために自らの判断のもと障壁を張って見せたのだ。

 

 次第に消えていく光り、染め上げられた周囲の青は元の風景に戻っていき、緑あふれる森へと場面を転換していく。

 そしてそれは、彼らの戦闘を次の場面へと移行させるものでもある。

 

「今度は……こっちが!」

「やべっ! 身体がまだ――」

「あ……だめ!」

 

 かめはめ波の発射体制から通常の構えに戻ろうとする悟空に、今度こそと黒衣の少女が動きを取る。 それはまたしても片手を前方に向けたあの構え、その構えを悟空は只じっと見ているしかできず。

 

「――――ランサー!!」

「くっ!!」

 

 作り出された黄色い電気の槍を、少女は無防備をさらす悟空に打ち出した。 それを――

 

「だめ……ダメ!! お願い! レイジングハート!!」

 

 なのはは今度もその身を投げ出す。

 輝きだす身体、全身が宙を舞う感覚に内心驚きつつも、彼女は今度こそ戦いの場に割って入る。

 

「え!?」

「~~~~っ!」

 

 悟空に向けられたフォトンランサーは、間に入ってきたなのはに命中する。 しかしなのは自身はまったくの無傷。

 しかも数メートル離れた距離ですらもあっという間に翔けぬけて、悟空の前に颯爽と現れていた。 まったくの無意識、危ないと思ったから……助けなきゃと思ったらこんなことになっていた。

 

 昨夜と同じ白い戦闘服(ワンピース)姿となっては、黒衣の少女と同じように目の前に桃色の障壁を張ったのは、なのはではなくレイジングハート。

 それを表すかのように、いまだ心が迷いという足かせをさせられている少女は、無自覚なままに戦場へと“飛び込んで”行くのである。

 

「増援……まさかあの子の方が魔導師だったなんて」

「え? その……わたし……!」

 

 そして向けられた敵意の目線。 悟空は今のいままであんな目で見つめられながら戦っていたのかと、『闘い』というものに恐怖心を駆り立てられていくなのは。

 

「…………」

「う……」

 

 玉状から杖の形へと変形したレイジングハートを握るその両手は、自然と込める力を強くする。

 しかしそれは眼の前の少女と戦うためなどではなく……

 

「…………(ど、どうしよう。 割って入っちゃったけどこの後どうすれば……」

「…………」

 

 怯えて竦んでいる自身の心と体が戦っているからで。

 人を傷つける、それを実際に自分がやると思っただけで彼女は全身を強張らせる。

 ケンカをしたことが、決してないわけではなかった、でもそれは互いに傷つけ合いたいからではないからで。

 

「~~~っ」

「…………?」

「なのは……だめだ、やっぱり恭也さんが言ってた通りに……」

 

 彼女はそこから動けないでいた。

 

――――――そんな彼女に。

 

「なのは――」

「え? 悟空くん……?」

「悟空さん……」

 

 彼は静かに声をかける。 きっと震えを隠そうとする彼女を見ての声だろうと、ユーノはこころにあたたかいものを感じ取る……

 追い詰められて彼を助けるなのはという、心が熱くなる展開。 協力し合い、強敵を倒していこうとするのは決して悪い展開なんかじゃない……そう、ユーノは思う。

 

――――思うのだが。

 

「なのは! オラいま、アイツと一対一でたたかってんだ! ジャマしねぇでくれ! いいとこなんだ!!」

『えっ!!』

 

 悟空はその誘いをひと蹴りする。

 若干だが機嫌が悪そうにも思える悟空の声と表情。 それは遊んでいる途中で親に呼ばれた子供の様な不機嫌ささえ垣間見え。

 

「な、なんで! だって悟空くん、いまとっても危なかったんだよ!!」

「そうですよ悟空さん! 今なのはが助けに入らなかったら……」

 

 なのはとユーノは大きく非難する。 手助けに入ってこの仕打ち、これでは何のために心を震わせ、勇気を振り絞ったのか判らない。

 プンスカ! と、音を立てそうななのはを置いておいて、悟空は構えを……『解く』

 

「おい、おまえ!」

「え? わたし?」

 

 少女を呼ぶ。 眉を吊り上らせつつも、その声はどこか……本当にほんの少しの謝罪の声が込められた呼び声。

 

「いまの攻撃、オラに撃たせてやる!」

「いまの攻撃……?」

「そうだ! いま、なのはが邪魔した分……さっきの変な黄色い玉っころ、オラに撃たせてやる!!」

『ちょっ! 悟空くん(さん)!!』

 

 そこから持ちかけられたのは、なんと再攻撃の相談。 しかも自身は何の防御の構えもせずに、ほとんど隙だらけという体裁を取っているのである。

 その相談事……というより、なかば強制さえ感じさせる悟空の声に。

 

「え……え? なんで……だって…………」

「ほら! 撃てよ!!」

 

 攻撃する方が逆に面を喰らってしまっている。

 せっかくのチャンス、この好機に手を出さないわけがない!

 

…………ないのに。

 

「はっ!」

「――!? あいつ、また飛びやがった!!」

「悟空くん!!」

 

 誘いを蹴るようにまたも大空に舞いあがる少女。 それと同時に構えを取り直す悟空は三度の跳躍姿勢を取る。

 

「でああああ!!」

「――――悟空くん……」

 

 またも空へと跳んでいく悟空。 それをただ見上げることしかできないなのは……彼女は飛び去っていく悟空の小さな影を見つめながら、ひとりそよ風に仰がれるのである。

 

 

 ――――はるか上空

 

「見つけた……今度はえらく高いとこに居んだなぁ」

「もう追いついてきたの!? 結構な高さまで飛んでるはずなのに……」

 

 そこはおよそ雲が漂う下層よりも下の上空。 地上から大体900メートル程度のそこに、悟空と彼女は相対する。

 

「おめぇ! なんでオラに撃たねんだ!」

「別にあんなの気にしてない……それより!」

「――――わかった! さっきの続きだぞ!!」

「…………」コクリ

 

 さぁ、仕切り直しだ!!

 そういわんばかりに笑顔となる悟空。 そして……そして、それにつられるように硬かった表情を崩すのは黒衣の少女。

 彼女はこのタイミングで、悟空に向けて『素』の表情を見せる。

 燃え上がるようなこのとき、彼女は心の底から戦いに集中しているのである。

 

「でりゃあッ!!」

「はあ!!」

 

 振るわれた赤と黄色。 悟空の如意棒と、バルデッシュの黄色い魔力刃は互いに傷つけ交差する。

 一回、二回……数度にわたり大空へと響き渡る激突音は激しさを増していく。

 

「伸びろおおー」

「アーク……」

 

 今度は互いに振りあげる。 近接戦闘から中距離へと離れては互いに繰り出す大きな“溜め” それは限界を振り絞るための待ち時間。

 たったの数瞬だけの時間の中、悟空と少女は互いの武器を振り下ろす。

 

「如意棒―――!!」「セイバー!!」

 

 悟空は物理的な方法で距離を稼ぐのに対して、少女のとった行動は『投擲』

 黄色い半物質的な魔力の刃がある、その黒い本体の鎌から放たれた中距離攻撃は悟空の如意棒を……切り裂く。

 

「げ!? しまった!!」

「こんどこそ!」

 

 叫び声が上がる中、何度も何度も少女の手ごたえからくる期待を裏切ってきた悟空に迫る黄色い刃。

 ブーメランのような形と刃、さらに軌道を描いて飛んでくるそれを、今の悟空にかわすことはできない。 もう少しだけ遠ければ……そうすればギリギリで交わせたはずなのだが――しかし、そんな思考もいまは後の祭りであり。

 

「ぐああああ!!」

「…………決まった……」

 

 刃は悟空に直撃する。

 落ちる悟空。 彼に飛行の手段はない。 どんどんと近づいてくる緑色の大地に、悟空はそっと神経を集中する。

 

「くっ! やっぱあいつやるなぁ。 かめはめ波も効かなかったし……」

 

 回想を始める彼にあきらめた様子はない。 いつの間にか態勢を立て直した彼は、着地の態勢を……取らず。

 

「こうなったら“あんとき”みてぇに、(りき)をめいいっぱい込めたパンチで……」

 

 あの時を思い出す。 大魔王を仕留め、激闘に幕を下ろしたあの“拳”を――――さらに。

 

「でもたぶんあれだけじゃあの変な壁みてぇのは破れねぇ……うっし! アレもやってみっかぁ!」

 

 悟空はとっておきを“2個”披露することとする。

 

「――――なに……? こえ?」

 

 上空で悟空が落ちるのを見下ろす少女。 それは先ほどまでの、また来ることを待ち構えるものではなく、今度こそ決まった自身の技と手ごたえを実感しているものであり。

 それ自体が大きく間違ったことであり、まったくの隙と言えることがわからないのは、彼女自身もおそらくなのは同様、こんなにも実戦らしいことをやったことがないからであろうか。

 

 だから―――だから―――彼女は気付かなかった。

 

――――かあああああ!! めええええ!!!

 

 下方に落下していく、尾の生えた山吹色の少年から響き渡る、いまだ勝利をあきらめない雄叫びを。

 輝きだす空。 それは先ほどと同じく青白い閃光。

 爆発的に大きくなるその輝きに……やっと彼女は気付く。 あの子は……あの男の子は……

 

「まだあきらめてない……? でもあの砲撃は……」

 

 さっき自身が防いで見せた。

 自分自身、防御の魔法があまりよく使いこなせないとはわかっているが、それでもかなりの硬度があると自負している。

 だからであろう。 だからなのであろう。 彼女は完全に失念していた……彼が、悟空が――――

 

「はああああ!! めぇぇえええええ!!」

 

 誰もが考えもしない奇抜で大胆な事をやってのける、荒ぶるほどの破天荒さを持ち合わせていることを。

 

 少女の遥か下方。 地上まで100メートルを切った箇所に悟空は居た。

 ぐるぐると乱回転している自身の態勢をそのままに、悟空が考えているのは昨日の事。

 

――――御神流……!!

 

 戦った恭也の最後の一撃はかなり効いた。 まるで『撃ち抜かれるような』感覚を覚えたあの“攻撃方法”はえらく鮮明に覚えている。

 アレなら……きっとあれならば……だから悟空はまず。

 

「破あああああああああああああ!!!!」

 

 あの少女が待つ大空まで、打ちあがることにしたのである。

 またも放たれたかめはめ波、だがそれは少女に向けたものではない。 しかも――――

 

「――――また来た!? でもなんだか様子が…………!!!」

「見つけたぞーーーー!!」

「そ、そんな!! 砲撃が――――」

 

 それを見た黒衣の少女は硬直する。

 本当に常識外。 最初からおかしいとは思っていた少年の奇行の数々はここに来て一気に爆発する。

 焦る少女の表情は驚愕の一色。 なぜ彼女がそんなに驚いているのか……それは。

 

「あ、足から……足から砲撃が――――」

「だああああ!!」

 

――――ロケットの様だ。

 

 それを見たものの第一感想はそれだけだろうか。 膝の屈伸運動をするかのような態勢の悟空は、なんと足の裏からかめはめ波を放出……少女に向かってまさに一発の弾丸の如く突撃していくのである。

 

「バルデッシュ!」

[Defensor]

 

 間に合わない、どう見積もってもよけたりできる距離ではない……迫りくる悟空はまさに弾丸飛行を敢行し、彼女に圧倒的速さを見せつける。

 それを見た少女は今度こそ自身から防御に回る。

 砲撃の威力を殺さず、その反動を利用してくるバカがまさかいようとは思わない彼女。 ここに来て、悟空の本当の恐ろしさを肌で感じ取ったからこその防御。

 下手な小細工をすれば逆にこっちがピンチに回る……彼女は正面から悟空に向かっていった。

 

「次も……防いで……見せる!」

「今度こそ……貫けええええ!!」

 

 そしてそれは悟空も同じ。 引きつけ、強く握られた小さな手に集められていく全身の力。 それは蒼く発光していくと悟空の“気”合と共に硬度を増していく。

 しかしこれだけでは足りない。 何かが足りない……かめはめ波を防いだ彼女相手に、これではまだ『ちから』が足りない――だからこそ悟空は思い出す。

 

「キョウヤ! 技を借りるぞおおお!!」

「!!?」

 

 捻れられた右腕。 それは独特な回転を攻撃に伝えるための下準備。

 見よう見まねで不完全なそれは……しかし悟空の力によって巨大な武器の礎となっていく。

 

「はああああ」

「だああああああああ――――」

「――――!!?」

 

 交錯する子供たちの叫び声。 しかし少女は見る、悟空の背後に現れるナニカ……形容できないちからの塊が彼の全身から吹き出すようで……

 

――――グオオオオオオオ!!

 

「な……あれは……!?」

「――――ああああああ!!」

 

 それを知らない悟空の高速の拳は、少女の『守り』を一気に撃ち貫き“徹す”―――

 

「――っ! くぅうう!!」

「いっけぇーーーー!」

 

 瓦解したのは少女の黄色い盾。 さらに勢いが若干落ちた悟空の右こぶしが彼女を吹き飛ばす。

 

「こ、これでどうだ……」

 

 気力少なく黒衣の少女の方を見る悟空。 やるだけやって、出せる限りを出し尽くした。 着いた戦闘の行方に……だがそこに一つの影が少女を拾う。

 

「な、なんだあいつ……女か……」

「…………」

 

 それはオレンジ。 やけに運動的な服装のオレンジ色の長い髪をした女性がそこに居た。 年は大体、美由希と同じくらいかというところ。

 その女性は……

 

「――――きっ!」

「!?」

 

 いまだ落下中の悟空を見下ろし、人ならざる牙を向けている。

 あまりにも鋭くとがった其の犬歯は今にも視線の先の人物を食い殺さんと唸りを上げている……しかしそれもすぐ止み。

 

――――あーー! ジュエルシードがなくなってる!!

 

「え……? なのはの声?」

 

 地上から聞こえてくる大声に悟空は反射的に上空の女性を見上げると。

 

「……フン!」

「あ、あんにゃろう! オラたちが戦ってる間に石っころ盗ってきやがったな!!」

 

 少女を抱き上げる腕の反対の手には蒼く輝く小さな石が握られていた。

 

「ま、待て―――!! ちくしょお! 力が……」

「…………フェイト、行くよ!」

「……うん、いこう……アルフ」

 

 何かをつぶやいた二人、すると悟空を背にして飛んでいき空の彼方に消えていく。 それを見上げるだけで、悟空に残された手は…………ある!!

 

「に、にがさねぇぞ!! 来てくれーー! 筋斗雲!!」

 

 そう、ついに先ほどまで使わなかった、あの悟空の相棒を呼び出すのである。 彼はなのはたちがいるところを通り抜けてはひとっ飛び。

 素早く悟空を空中で捕まえると――「悟空さん!!」

 

「え? ユーノおめぇ乗っかってたんか……?」

「えぇまぁ……じゃなくって!」

「??」

 

 呼び止めるのは小さいフェレット。 強い眼差しで悟空を見つめると、一気にまくしたてるように叫びだす。

 

「そんなボロボロなんですよ! 今追撃しても……きっと返り討ちになってしまいますよ!」

「でもよ……おめぇの石っころ……」

「そんなことはどうでもいいですから! 悟空さんが大怪我するくらいだったら……どうだっていいです!!」

 

 叫んだ声は止みそうにない。

 そんなユーノをみて、悟空の表情は戦闘的な笑顔から力が抜けた朗らかなものとなる。 昔に亀仙人の忠告を無視して、勝てる相手であったピッコロの手下に惨敗を喫したからか……きっと違うだろう。

 目の前のユーノが浮かべる、自身の身を案ずる賢明さを伝えるその真っ直ぐな目に、悟空はナニカ“遠い昔”を思い出すように……でもそれは思い出せなくて……

 

「…………わかった」

「……ふぅ、よかった」

 

 ただただ、ユーノの言葉を汲んだ悟空であった。

 

 

 

 地上、一際高い木の真下

 

「悟空くん……」

「ただいまっと!」

 

 地上に一人取り残されていたなのはのもとに、筋斗雲と共に地上に降り立った悟空。

 彼の姿を見たなのはは、一安心の声と共に悟空に近づき……

 

「あ……あの子は?」

「逃げられちまった」

「そうなんだ……」

 

 なぜか彼女の身を案じていたなのは。 悟空は悟空で心配だった……だがなぜかあの女の子が……とても寂しそうな眼をしていたあの子が気になって……

 

「でぇじょうぶだ!」

「え?」

「アイツもあの石っころ集めてんだったら……またどっかでオラたちにケンカ吹っかけてくるはずだかんな。 その内会えるさ!」

「……え? 悟空……くん?」

 

 しっぽを振りながらも、なぜか少女の心情に直接語りかけるような、ほんの少しだけ“おとな”な雰囲気を醸し出していて……それでも。

 

「そうしたら、また今日みてぇに戦うんだ! ……ははっオラすっげぇ楽しみだぞぉ」

「…………悟空くん……えぇ~~」

 

―――――やっぱり悟空であった…………

 

 

 

 

『ただいまーーー』

 

 月村家――玄関

 ここでは先ほどの大騒ぎを鎮静化させた女子供4人が、息を切らせて各々テーブルの席についていた。

 その中に一人、さっき悟空が思い浮かべた人物が紅茶を片手に笑いを浮かべていた。

 

「あ! キョウヤ! キョウヤじゃねぇか!!」

「お? 悟空……それになのはも。 お前たち今までどこに……ん? 悟空お前……」

 

 其の人物は、昨日のジュエルシード騒ぎでケガを負いながらもなのはを守りきり、悟空へとバトンを渡しては、ユーノの回復の魔法により後遺症を避け。

 さらに行きつけの病院にて、精密な検査を受けてきた高町家の長男……高町恭也その人である。

 その恭也は、いたるところが破け、焦げ付いている悟空の道着を見て神妙な顔つきに変えていく。

 

「…………なにかあったんだな?」

「なにか? おう! すんげぇ強ぇ奴がいたんだ!!」

「馬鹿! 声がでかい……それでそいつがどうしたんだ?」

「そいつな、ユーノみてぇに“じゅえるみーと”を探してるみてぇでよ。 しかもオラたちが持ってるやつを奪おうとケンカ吹っかけてきたんだ」

「…………なるほど。 それでそいつと……」

 

 恭也と悟空による現状報告……ぶっちゃけなのはに聞いた方がなどと思いもするが、そこはかとなく隠そうとしていた我が妹の素振りを察知した恭也は、口が軽そうな悟空に軽く聞くと……結構な情報を彼にもたらす。

 

「そいつすんげぇ強くってよ、空も飛ぶ上にオラのかめはめ波も効かなかったんだ」

「かめはめ波……昨日出した光線か? あれが効かないって……!」

「そだ、なんてったけかなぁ……“ふぇいと”ってやつと……ん~~“あるふ”って名前ぇだった気がすっけど。 たぶんあいつら、なのはと同じだぞ?」

「なのはと……おなじ?」

 

 ここで悟空の考察。 聞えてきた単語を名前と判断、さらに彼女が魔法というちからを行使してくる者であることを恭也に報告する。

 しかしそれらを聞いた後の恭也の表情は重く暗い。 悟空にこれほどまでの苦戦をしいた少女の出現は、確かに驚くべきこと……ことなのだが。

 

「悟空、さっきの話……」

「さっきの?」

「あぁ、さっきの戦闘でお前がその女の子に使った俺の技……“徹”の事は美由希には内緒だぞ! いいな!!」

「ミユキに……? なんでだ?」

「なんでもだ! いいな?」

「よくわかんねぇけど……わかったぞ」

 

 それは悟空が終盤、とっさに使って見せた恭也たち御神の技……徹。

 それをたったの一度見ただけで使ったという悟空に、驚愕し、愕然となるのは恭也である。

 ちなみに、その(くだん)の美由希氏であるが、彼女はここ最近やっと習得の目途を見ようというところ。 その修練の期間にして、ざっと1年は重いだろう。

 これを考慮してみると、悟空がいかに異常かがうかがえる……そんな恭也であった。

 

「…………悟空くん」

 

 そんな中で無言となる少女が一人……「…………あの子……」否、ふたり。

 そのふたりは立場も環境も違うが、たった一つだけ悟空と共通する点がある……それは人ならざる『ちから』を持っていること。

 だからこそ悩み、故に彼女たちは悟空を見る。

 周りと違うのに周囲と同じように接し、笑い。

 ちからを持っているのに、それを本当に使いたいことのためだけに何の迷いもなく使っているその男の子の事を……

 

「……? なのは、すずか、そんな顔してどうしたのよ?」

『え? な、なんでもないよ?……え?』

 

 アリサに指摘されるまで、彼女たちは悟空をただ――じっと見つめていたのである。

 

「お? おぉ!? はは!! やめろっておめぇたち……くすぐってぇ――あはは!」

『にょ~~ん』

「あら、悟空くんモテモテねぇ?」

「なぜかあの絵がよく似合うな、悟空の奴」

 

 帰ってきた悟空に引き寄せられるかのように、ぞろぞろと部屋の中に入ってくる猫たち。 彼等彼女達は悟空の近くによると……一気に飛びつきじゃれついて行く。

 まるで猫で出来た山。 その中心で笑っている悟空は先ほどの戦闘など感じさせないほどに日常的な雰囲気を醸し出している。

 

 今日の非日常はここまでと、そういわんばかりのこの光景の中で……悟空はそっと窓の外を見る。

 そこには銀色にも金色にも見える三日月がひとつ。 周囲の星の輝きを寄せ付けずに大きく輝いていた。

 強すぎる光は視界を奪うだけで、周りのものを寄せ付けない……そんなことを暗示している光景。 そんな難しいことなど悟空は思いもしないのだが、その月を見てはなぜか……

 

「ふぇいと……フェイトか……」

 

 今日の強者(つわもの)をおもいだし。 小さくしっぽをふるう悟空であった。

 

 




悟空「おっす! オラ悟空」

なのは「悟空くん、けがは大丈夫?」

悟空「大ぇ丈夫だぞ、それにしても強かったなぁ! オラつぎに会うんがたのしみだぞぉ!!」

なのは「…………戦うのがたのしみなの?」

悟空「え? そりゃあな。 だってよ――」

恭也「すまんな悟空、時間切れだ。 なのはとの話はまた次回やってくれ」

悟空「もうこんな時間か? よし、次回!! 魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~ 第8話」


恭也「固まる決意! なのはが起つとき!!」

なのは「わたしはどうして戦うんだろう……ユーノくんの手伝い? うんん、ちがう……わたし――!」

悟空「……またこんどな! じゃあな~~」

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