魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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第78話 サバイバルはヤダ! 地獄の林間学校開始……

 

 

 

 

 新しい朝が来た。

 

「ひっぐ、えっぐ」

「…………」

 

 さわやかな風の吹く青空の下、正反対に少女が表情を雨模様に変えていた。 この天気のどこが不安なのだろうか、”少年”がそっと言葉を投げかける。

 

「うるさいから泣き止めよ」

「うぇ!?」

 

 ……優しさとは何だったのか、少女はしばし哲学に没頭した。

 

「ねぇおじさん」

「なんだ?」

「いつ元にもどるの?」

「もどる? おめえ何言ってんだ?」

「…………あ、う」

 

 何回目かの質問だが、これもあっさりと轟沈。 そもそも悟空自身に覚えはなく、スバルにしてみれば原理不明の謎現象なのだ。 くしゃみしたら性格が変わったり、変化って叫んだらラーメン持った機械兵になるくらい訳のわからない仕組みである。

 なぜこんな事になったのか。 それはこの場にいる誰もがわからない事象だ。

 そんな恐怖にも似た感情を持っているスバルが、堪らず悟空にすがるように聞いたのだ。

 

「お、おじさん。 どこに行くの?」

「ん?」

 

 首だけ振り向いた悟空は特に表情を変えない。 何ら考えを持っていないのだろう、背中から見えるしっぽをゆらりと気持ちよく動かすと、にこやかに答えてみせる。

 

「ハラ減ったからな、メシとってくる」

「めし? でもお店なんてどこにもないよ?」

「そんなもんいらねえだろ? 食いモンなんかそこら中にあるんだからさ」

「ふぇ?」

 

 少年のあまりにも良い笑顔。 だが少女の疑問はつきない。

 この荒野しか見えないような場所で何をどうするというのだろうか。 母が以前連れてってくれたスーパーも、デパートも何もないこの地平線で、悟空はいったい何を用意するのだろうか?

 解決しない問いに、しかし”向こう”から正解をもってやってきてくれたようだ。

 

「わ、わわわ――」

「うっし。 アレなんかいいんじゃねえか?」

「お、おじさん!? でも、あれ……」

 

―――――――――――――――――Gruuuuuu!!

 

 前方500メートルあたりに見えてきたのは大きな岩の塊であった……と、スバルはそう思いたかった。

 あまりにも硬質で、堅牢。 どう見たって岩山にしか見えないソレだが、しかしコレは確かに生命活動をしている。 というか動いた。 二足歩行の圧倒的猫背、尻尾は大木のような太さで荒々しく地面をなでている。

 そうだ、少年は今確かに、この存在を見て”メシ”とのたまったのだ。

 

「図鑑で見たことある……ような気がする」

「二人分ならあんな感じだな。 よし、いくぞ!」

「……ふぇ?」

「何やってんだスバル。 おめぇも行くんだぞ?」

「え!!?」

 

 さて、この子はいったいなんと申したであろうか。

 この図鑑にしかお目にかからないような古代生物然とした難敵を前に、4歳児が何を出来ようか。 気づけば狩人に仕立て上げられた彼女は、悟空に非難の声を上げた。

 

「できっこな――」

「んじゃおらは回り込むから、おめぇはその後からとどめさすんだぞ」

「あ、あ、おじさん! ムリだよ!」

「よーし、いくぞ!」

「おねがいだから人のはなし聞いてよ、おじさーん!」

 

 少年の身勝手に少女がまたも泣きじゃくる。 その間にあっさりと恐竜とエンカウントした悟空は奴を見上げたまま動かない。

 

「グルゥゥゥゥ」

「おっす! はは! でっけえ口!」

「ガアアア!!」

「おめえちょっとうるさいな」

 

 なんだ貴様は? 無礼者!!

 恐竜が吠えるも悟空の表情がゆがむことはなかった。

 

「ガアア!」

「ん?」

「おじさん!?」

 

 踏みつけた。 全高8メートルを超える恐竜の、岩のようにゴツゴツとした脚が悟空を踏みつけた。

 消えた彼の姿にスバルの悲鳴が響くと、余裕を持ってたたずむ恐竜が彼女を睨む。 次は、お前の番だ――

 

「あ、わわわわ……」

「ガウ!?」

「え?」

 

 そう思っていた奴は実に滑稽であった。

 馬鹿、とは言わない。 愚かともいえない。 なぜなら今ので決着はついていたはずなのだから。 小さき身体しか持たない人類が彼らに挑んだのが間違いだ、ソレはいい。 本当に目の前の人類が小さな身体しか持たないというのならば、なのだが。

 そうだ、いま恐竜が踏みつけたのは人類であっても普通の分類には決して入らない。 ……入れてはいけない存在なのだ。

 未だ身体が震え上がっているスバルを余所に、恐竜の片足が浮いていく。

 

「いよっと」

『!!!!?』

 

 その場に居る全生物が常識を覆された。 言葉もない空間の中で一人だけいつも通りのペースで恐竜の脚を持ち上げた悟空。 身体どころか衣服に埃すらついていない姿はすでに怪奇現象である。 すでに物語内の物理法則が乱れていた。

 

「なんか前に居たところの奴らより弱っちいな」

「が、あ、アアア」

「…………」

 

 恐竜の強さ吟味を始める少年を前に、獣は目玉を飛び出させ、スバルは尻餅をついていた。 確かに、あの男は本当に強くたくましい身体をしていたが、少年の姿でもソレが出来るとは到底思っていなかった4歳児の驚愕は大きい。

 

 

 

 

 そんなこんなを放っておいて、少年の調理実習が始まる。

 

 

 

 

「だりゃあ!」

「――――――!!?」

「た、たおれちゃった……」

 

 まず、うるさい声を黙らせます。

 このとき素材を傷つけないように一瞬でけりをつけるのがコツです。

 

「よいしょっと」

「持って行っちゃった……」

 

 調理場へ移動します。 500キロを優に超える材料ですが、根性を出して運びましょう。

 

「ふんふふーん」

「あわわ」

「おーい! なにやってんだ? 焼くから火ぃ用意してくれよー」

「火って……え?」

 

 適当に縛って、適当な火でこんがり焼いていきます。

 このとき大事なのは火加減です。 大きさが大きさなのでまんべんなく超強火で焼いていきましょう。 焦げても気にしてはいけません、中身までしっかり火を通しましょう。

 

「ガウ、ガウ!」

「ひ!? オオカミ!?」

「なんだおめえ! 横取りするつもりか!?」

「ガオー!」

「これ全部おらのだ! てえーい!!」

「ぎゃん!!?」

 

 ……ハイエナらしき物には容赦してはいけません。 食べ物を守るのも料理人の仕事です、降りかかる火の粉はさっさと払ってしまいましょう。

 

 そうやって焼くこと50分。 中まで火が通り、滴る肉汁が炎の勢いを増していく頃には食べ頃です。 手早く火を消して、鮮度の良いうちにかぶりつきましょう。

 

「いっただっきまー…………がぶっ!!」

「……おじさん、すごい」

 

 子供心に孫悟空のシッチャカメッチャカを理解したスバルは、このときより彼に着いて行くことを固く決心したそうだ。

 彼女は、わめいて泣くことをやめた。

 

「ごっそさん!」

「……けふ」

「はは! スバルおめえ随分でっけえゲップだな!」

「だっておいしかったんだもん」

「あはは!」

 

 などと戯れる中、彼らの昼食は終わろうとしていた。 遭難開始から5時間の頃、スバル・ナカジマは一つ強くなっていた。

 

 

 

 一方その頃。

 

 

「――――悟空さんでウチの子が行方不明なんです!!」

[ちょっと、落ち着きなさいクイント。 それで悟空君はそっちに居るの?]

「そ、それがわからなくて」

[はぁ。 全くあの人はどこでどうしているのやら]

 

 焦りのためか言葉の配置がおかしいと指摘したのは電話相手のリンディ・ハラオウン。 それでも情報をまとめて、彼とクイントの娘が一緒に消えてしまったと判断、そこから彼の行動を洗おうとするのだが――――難航していた。

 というよりクイントの言い間違いはあながち間違いでも無いのは当人たちもよくわかっていない。

 

[でもまさかあなたのところに転がり込んでいるなんて驚きだわ。 てっきり管理外世界でひっそりと修行に明け暮れていると思っていたから]

「昨日子供の姿の悟空さんにスバルがお世話になって、ウチに来てもらったのですが」

[……よくもまぁそんな古典的な]

 

 子供同士で意気投合したのね、などとつぶやいた彼女の判断は正しい。 というか、子供心をいつまでも持ち続けている彼に子供がなつかないわけがない。 思い描かれた光景は鮮明に過ぎた、リンディのため息は尽きない。

 

[まぁ、元気で良かったわ。 それでスバルさんなのだけど]

「ど、どうしたら良いですか!?」

[……放っておいて良いと思うわ]

「はい? え、でも!」

[次元世界最強のボディーガードがついているじゃない、何も心配ないわ]

「ですけど!」

[ゆっくり待っていれば大丈夫よ。 ソレよりクイント、今度あなたに正式な辞令が届くと思うけど――――]

「あ、え? それって………………」

 

 あっという間に話をすげ替えられた彼女。 そこから先を聞いてしまったクイントの頭にはすでに、先ほどまでの焦燥は失せてしまったのだった。

 

 

 

 ところ戻って孫悟空。

 彼が張ったおなかを幸せそうに叩いた頃合いだ。 気持ちよさそうなゲップをはき出すとちょっとだけまぶたが重くなる。

 

「スバル」

「どうしたのおじさん」

「おら、寝てもいいか?」

「……だ、ダメだよ! お願いだからやめておじさん」

 

 今現在、この荒野で悠々としていられるのは彼の存在が大きい。 もしも彼の守護がなくなればスバルなど一瞬で踏みつぶされてしまうだろう。 ソレを先ほどの狩りで把握した4歳児はここで悟空を強く引き留める。

 というか、先へ促した。

 

 さっさと帰りたいのもそうなのだが、このまま二人で遭難するというのも別の恐怖が待っていると思ったからだ。

 

「おじさん、これからどうしよう」

「うーん、とりあえずクイントのところに行くしかねえだろ? なぁ、スバルは道わかるか?」

「わかんないよぉ。 だっておじさんが連れてきたんだもん」

「おらが? おかしいな、そんな覚えねえんだけどな」

 

 道案内なし、地図もなければ土地勘もない彼等。 しかし、そんな状態でも一つ、頼れる物があった。

 

「ま、なんとかなるだろ」

「どうしてそんなことわかるの?」

「おらな、いままでずっとこんなこと繰り返してたんだ。 こんくれぇどうってことねえぞ」

「……ふあん」

 

 今までの経験が悟空を支える力になる。 そう信じて疑わない悟空に、だけどスバルは浮かない顔だ。 散々引っ張られてやってきたところがこのような廃墟で最悪な状況なのだ、ムリもない。

 しかし、その不安を振り切るように彼等に好機がやってくる。

 

「ん? 誰か来るぞ」

「どこどこ?」

「ほら、あっちだ!」

 

 そう言って右手で指した先には無人の荒野が広がっていた。

 誰も居ないじゃないか。 そう文句を垂れようかと思うスバルだが、不意に今までこの世界に居た中で聞き覚えのない声が響いてきた。

 

「おーい!」

「え? だれ!」

「ほれ、あっちに居るぞ!」

 

 ソレはタイヤが路面を走る音。 回転するゴム材質が荒れ地に削られる音だ。

 そう、つまり自動車がこちらに近づいてくる音。 エンジンは静かに、だけどタイヤと路面の衝突音だけは削減できないと足回りだけが暴れ回っている。 とにかく大きなクルマが彼等の前に現れたのだ。

 窓が開くと手が出てきて、彼等に向かって大きく振るわれていく。 どうやら、こちらに向かって何らかのアクションを起こしているようだ。 悟空がいち早く反応した。

 

「おらたちのメシ奪いに来たんか?」

「ち、ちがうと思う……」

「じゃあ何なんだろうな?」

「……」

 

 少しだけズレの生じている悟空に対してどんどん大人になっていく感があるスバルはついに突っ込みに回っていた。 彼女の精神的成長がうかがえる瞬間だ。 ……なにか、悲しい。

 スバルの成長など梅雨とも知らず、大きなクルマは彼等の前で停まる。 ドアが開き、中から人が下りてくると、少し混和公家中尾を悟空達に見せていた。

 

「君たち、このあたりの人かい?」

「おら達か?」

「ちがうよ!」

「そう、だよね。 こんな辺境世界に人が居るわけがない。 だとしたら異世界渡航者か何かだろうか……」

『???』

 

 子供には少しだけ難しいお話である。 中身の年齢がともに15にも満たない彼等にはついて行けないようでそろって首をかしげていたりする。

 そんなことは承知の上なのだろう。 下りてきた人物が膝を曲げてかがむと、表情を一気に変えて見せた。

 

「とにかく安心してくれ。 俺が絶対に君たちを元居たところに帰してあげるからね」

「ほんと!!?」

「ふーん、そっか」

 

 スバルは喜び、悟空は両腕を後頭部で組んでどこかへ視線を投げ飛ばす。 だがコレは仕方がないだろうか。 彼には帰る家が”今のところ”ないからだ。

 

 男がなにやら車の中においてある機械に向かって声を上げている中、悟空とスバルはそれぞれこの世界を見直していたりする。

 本当にどこまでも広がる荒野。 点在する木々はあれど河川などは見られず、オアシスのような水たまりが近くにある以外水気は無いに等しい。 こんなとこに1週間も居れば飢餓で苦しみ倒れるのは幼いスバルにもわかることだろう。

 だから少年達は彼の言葉に従ってみた。

 

「ここからしばらく北に向かうと、俺たちが使ってきた転送ポートが設置されてる。 そこまでこの車両で行こう」

「ふーん、そっか。 連れてってくれんなら付いてくぞ」

「やったー!」

「それじゃ二人とも車に乗って。 2時間もすれば目的地だ」

『はーい!』

 

 元気よく乗車。 シートベルトを促されるも言葉の意味がわかってない悟空にスバルが教えてあげる一幕があったのを見て、男が微笑むまでがテンプレであろうか。

 なんとなく笑って済ませて、特に気にもせずにエンジンを起動、そのまま道なき荒野を走り抜けていく。

 

「ねぇ、おにいさん!」

「どうしたのかな? えっと……お名前なんだっけ」

「スバル!」

「じゃあ、スバルちゃん。 で、どうしたのかな?」

「おにいさんってなんなの?」

「な、なんなのって……職業のことかな?」

「何やってるの?」

「えっと、一応時空管理局に勤めてるんだ。 今日は管理外世界の調査が仕事でね、凶悪な生物やロストロギアの調査が主な任務かな」

 

 そしたら狼煙のように煙が上がっていたのだから急いできたと彼は言う。 それはまぁ当然だろう。 強大な爆発音もなく、ただ静かに煙が上がっているのだ、自然に発火したととれなくもないが、誰かが人為的に火をおこしたとも考えられる。

 だから急いだし、必要な装備も持ってきた。 だが、待っていたのは予想外の客人であった。

 

「まさか君たちみたいな子供が、こんなところで迷子になってるなんてね。 つらかっただろ?」

「うん。 でもおじさんが居たから平気だった」

「おじさん? 君たち以外にも誰かいたのかい!?」

「ううん。 居ないよね? おじさん」

「おう、居なかったな」

「へ?」

 

 スバルと悟空のやりとりに疑問を持ちつつも、そうか、こういうあだ名をつけるのが流行りなのかと落ち着いた男は思考を切り替えていた。

 そうだ、彼は時空管理局員。 ”とある男”の影響で世界を守るために今日も働き続ける善良な人間なのだ。 だから、急いで子供達に安心させたいと思うのは仕方が無かった。

 座席でくつろいでいる少年の背中から尻尾が生えているのに気がつかなかったのは、本当に仕方が無かったのだ。

 

 車に揺られること15分が経過した頃だろう、突然悟空が叫んだ。

 

「あぶねえ!」

「え?」

「きゃあ!?」

 

 同時、いきなり車体が大きく揺れる。 悟空にしがみつくように難を逃れたスバルだったが運転席に居た男は暴れるハンドルに悪戦苦闘。 どうにか横転だけを免れるが、ソレと同じく強引に踏み込んだブレーキにより車体はその場で停止してしまう。

 

 何が起こった? 急いで状況を確認するべく、男は即座に外に出る。

 

「……な、どうしてこんな」

「かべだぁ」

「ひぇー! こいつはすげえなぁ」

 

 端的に言えば、車の目の前には壁があった。

 灰色で、でも、しわのあるゴツゴツとしたソレは配分を間違えたコンクリートにも思えた。 だが変である、男は決してよそ見をしていたわけではないのに、どうして進路上の壁を見落とし、あまつさえ急ブレーキを踏んだのか。

 

「こんな壁、さっきまでは確かになかったはずなのに」

「ほぇー」

「…………こいつ」

 

 ソレは悟空だけが知っていた

 

「でけぇ足だな」

「え? いま、なんて?」

「あ、し……? おじさん、いまあしって言ったの?」

「そうだぞ。 コイツ、とてつもねぇデカさだなぁ」

『…………』

 

 これが物ではなく生物だと言うことを、悟空はわかっていた。

 あまりにも巨大で壮大な姿に耳を疑い眼を背ける男と少女、それに対して悟空はどこまでも自然体である。

 

「みんな落ち着いて、ここは何もせずに通り過ぎるべきだ」

【…………ブモ】

「おっす!」

【ブモ……!】

『!!?』

 

 やりやがった! 男の背中に汗が噴き出る。

 穏便に隠密に、今までの人生の中で最大限の慎重さを持ってこの場を去ろうとした矢先の出来事だ。 この子のお粗末なまでの行動に彼の身体は硬直を通り越して感覚を手放していた。

 

 時空管理局、それは彼が魔導士だと言うこと。 ランクはどうアレ、戦うと言うことを理解している側の人間なのだ。 そんな彼がひたすらに隠密をはかろうとしていたのにこの始末、少年の失態は大きい。

 だけど、だ。

 

「…………」

【ブモ】

「な、南無三……」

 

 管理外世界には様々な生命体が存在している。 見たことない希少生物から見たくもない凶悪生物まで様々だ。 そして今回は運悪く後者を踏んでしまった。

 誰もが恐怖し、運命を呪うタイミングであろう。

 

「すこし邪魔すんぞ。 おら達こっから先に行きたいんだ」

「き、きみ! こんな現住生物に会話なんて――」

【ブモ!】

「くっ!!」

 

 それでも、だ。 この少年だけはやはり”いつも”通りなのだ。

 

【ぶも!】

「あ、く!」

 

 壁が浮き上がる。 ソレと同時日光を遮り、彼等の上に大きな影を落としていく。 あまりにも巨大なソレは昼夜の逆転を思わせるほど壮大。 管理局の男はせめてものあがきで魔法による障壁を展開した。 ……しようとしたのだ。

 

【……ぶも】

「…………あれ?」

「かべがなくなっちゃった……」

 

 男とスバルがあっけにとられた。 何事もなく通過した危機、それはあるだろう。 だが困ったことにソレが主な原因ではない。 問題は、やはりあの人物にあった。

 

「じゃますっぞ!」

【ぶも!】

「きょ、恐竜とおはなししてる……」

「……なんなんだこの子」

 

 恐竜のまるで朝の挨拶をしたかの対応は、人間社会にも立派に通用するのではなかろうか? ソレを引き出し、あまつさえ意思疎通をやってのけたこの少年に管理局員の男は開いた口が閉じることを拒否している。

 だがずっとこうしているわけには行かない、彼等には目的がある。 だから少年は先を促した。

 

「何してんだ? アイツせっかく道譲ってくれたんだ。 早く行くぞ」

【ぶもも!】

『は、はーい……』

 

 怪物ふたりに促されるように車に乗り込み、そのまま走り出す。 2分たった頃、管理局員の額から汗が噴き出たのはスバルにだってわからない出来事だ。

 かなりの騒動を通過した彼等はしばらく道なき道を走り続けていた。 赤茶けた大地がタイヤを削り、荒れた岩肌がサスペンションを軋ませる。 順調なドライブで先ほどの恐怖心が薄れていった頃だろう、彼等はようやく目的地にたどり着く。

 

「――――って、なんだこれは!?」

「なにこれー」

「すげえなぁ、全部こわれてらぁ」

 

 たどり着いた先には、ただ廃墟しかなかった。

 

 散乱した機械の塊、その破片達。 良い感じに上から圧壊しているところを見るに、どうやら何者かに踏みつぶされた可能性がある。 呆然と立ち尽くす中でも情報分析を欠かさない職員は、声も小さく少年達に真実を話した。

 

「すまない、帰れなくなった」

「えーーー!!」

「ふーん、そりゃ困ったな」

 

 自然体に過ぎる悟空に対して残り二人はもういっぱいいっぱいである。 でも、そんな二人を悟空は決して慰めたりはしない。 というか、今現状の彼にそんな気遣いなど出来るはずもない。

 しかし、そんな彼もやはり強者であって。 決して弱い生き方などしてきてない。 今こそ、こんな時だからこそ野生児の本領が発揮されるのだ。

 

「なぁ」

「どうしたんだい?」

「いつまでもこんなところに居ないで移動しちまうぞ。 おらさっき、あっちの方で川が流れてるとこ見つけたんだ」

「それは本当かい?」

「おう。 ばっちり見えたからな、間違いねえ」

 

 悟空の提案をゆっくりと受け入れる局員。 普通ならば参考程度にする子供の言葉だが、この少年だけはすでに普通の存在とは思っていないのだろう。 ついさっきの実績もある、彼が言葉に従うのも無理ない。

 一行は再び車にて移動する。

 

 延々と思えた荒野を走ること2時間。

 悟空の指さす方角を頼りにひたすらエンジンを回し続けた彼等の前に、赤茶けた荒野とは真逆の緑色の世界が映り込む。

 

「……こんなところがあるなんて」

 

 局員の男はソレしかいえなかった。

 まるで違う次元世界に迷い込んだみたいに生命力にあふれた深緑の景色は、男から様々な言葉を奪い去る。

潤う大地に力強い大木。 様々な生命が謳歌するそこは、まるでここだけ世界の仕組みがちがうよう。 壮大な光景に、思わず息をのんだのは幼いスバルも同様だった。

 

 そんな世界に、孫悟空はなんの気後れも無く踏み込んでいく。

 

「周りに変なのがいねえみてぇだしな、ここならしばらくは平気そうだぞ」

「そう、なのかい?」

「おう、たぶんな」

 

 絶対とは言い切らないところが自然界の恐ろしさである。 それでも、先ほどの何もない状況に比べれば数段ましだ、ここで男は息を飲み込むと、新鮮すぎる空気に若干むせつつもようやく事態を受け入れた。

 

「救援が来るまで、しばらくここに居よう」

「おう!」

「はーい!」

 

 この素晴らしい景色の中で数日のお泊まり。 それに対してあまり抵抗がないのかそれとも数時間のパニックで耐性が付いたのか、スバルもご機嫌に返事をする。 その姿に局員の男は胸をなで下ろす。 救うと思った者を取り落とすところだった、ある種の恐怖心から解放されたのだ、男の脱力感は大きい。

 腰を落とし、大地に背中を預けると盛大なため息をはき出した。

 

「お? 寝るんか?」

「いいや、そう言うわけじゃないけど、ただなんというか……」

「疲れたんか? んじゃ、スバルとゆっくりしといてくれよ」

「え? いいけど、キミは?」

 

 少年の申し出に、だけど局員の男は質問する。 別にいやというわけではないと付け足す彼に、悟空は何でも無いように答えてやった。

 

「おら少し修行してくっからさ」

「シュギョウ? キミが?」

「あぁ」

 

 その意味を理解するのに数秒の時を必要とした。 なぜ、こんな男の子が修行? 男が悩むなか、悟空はその尻尾を揺らしてふと、消えてしまった。

 

「え……?」

 

 一瞬だ、ほんの少しだけ意識を余所に向けてしまった時には彼の姿はなく、残された男性はここに来てようやく彼の特異性を理解した。

 普通じゃない、のだろう。 今までなんとなく彼を特別視してはいたものの、それは超自然児だとか、どこか常識の中にある感覚であった。 でも、今のでわかってしまう。 彼が、普通ではない何かとんでもない存在なのではないかと。

 

「どこに、いってしまったんだ」

 

 そんな言葉を出すだけで、男は何も出来はしなかった。

 

 

 …………そこから先、それ以上の思考が許されることがなかったからだ。

 

 

「なんだ……?」

 

 背後の草木から異音がした、気がした。

 すぐさま体勢を整える彼は身につけていたであろうデバイスを構える。 いままで見たことのない、杖ではなく銃のデバイスだ。 ハンドガンサイズのソレは彼の手に収まるやいなや淡く発光していく。

 

「来るなら来い……」

 

 正体のわからぬ物に、人は潜在的な恐怖心を抱く。 ソレを飲み込み己の物にするか、拒絶して震えるかはその人間の度量で決まる。 果たしてこの男はどちらなのか? ソレはこの後のアクションで決まる。

 

[キシャアアア!!]

「く!?」

 

 獣だ。 恐ろしいまでの俊敏性を備えた4足の怪異が男を襲う。

 その、荒ぶる野生を極限にまでとがらせたかのような牙を突き立ててやろうと男に襲いかかるソレはまるで古代に生きた生物のような風貌である。

 地球で言うならばサーベルタイガーのような体格を持つが、その体長はソレを優に超える。 6メートルはくだらないだろう。 それに対して男は、横飛びで初撃を回避する。

 

「く! 速い!?」

[シャアア!!]

 

 すぐさま立ち上がり、しかし男の身体が動くことはなかった。

 

[グルルゥ……]

「あ、く?!」

 

 見てしまったのだ、奴の眼を。

 野生に塗りつぶされた、人間同士とはちがう、真の意味での殺意の眼。 己が欲求に忠実に、古来より当然とされてきた狩猟の眼光。 弱きを食らい強きが生き残る弱肉強食の世界を体現する存在は言葉もなく確かに告げたのだ。

 

――――――貴様は、このオレよりも弱い。 だから…………喰われろ。

 

「う、く……この!」

[ガアアアア!!]

「畜生! この! そう簡単に喰われて堪るか!!」

 

 いい知れない殺気を振り払うようにあげた声は、男の硬直を見事に解いた。 同時に駆けだした彼はすかさず照準を奴に合わせ、トリガーを引く。

 

「―――く!? 当たらない!!?」

[キシャアアア!!]

 

 命中したのは地面。 奴は健在で、衰えることのない俊敏さで男を翻弄していくばかりだ。

 

「この!」

[――]

「当たれ!!」

 

 振り回すように銃を向けトリガーを引くものの、その弾丸は一向に当たる気配がない。 焦るように銃を振り回し、幾度も発砲を繰り返す。 10や20では収まらない数の弾丸が空を切れば、それだけ彼の魔力が消耗されていく。

そう、この銃は実銃ではなくデバイスなのであって、彼が打ち続けているのは魔力による弾丸だ。 だから弾切れの心配はないものの、その根源たる魔力が尽きればその銃は只の飾りと変貌する。

撃てばそれだけ力を失うのは自信が一番わかっている。 だが彼は獣の動きに翻弄されてしまうだけで、体力がすぐ底をついてしまうのは時間の問題であった。 彼の腕は力なく崩れ落ちる。

 

「……………………」

[グゥゥ……ガアアア!!]

「う、うわあああああっ!!!!」

 

 絶好のチャンスだ。 

 獣は舌なめずりをすると即座に脚で地面を蹴った。 跳躍、そのまま男に覆い被さり牙を突き立てた。

 

[がう、がう…………ぐっ?]

 

 そう、獣が思ったときにはすでにソレは作戦を終えていた。

 

「どうだい? 魔法で作った幻影の味は」

[が、ぅぅ!?]

 

 草葉の陰から男が出てくる。 先ほど確かに獣がむさぼった存在が、獣の背後から顔を出したのだ。 訳もわからず無防備な背中を見せている獣に彼は銃口を押し当てた。

 

「安心しろ、ただ眠ってもらうだけだからさ」

[ギャンっ!!?]

「……もともとお前の住処だろうしな、すぐ、出て行くから勘弁してくれ」

 

 そう言うと彼は獣に背中を向けて歩いて行く。

 

 

 

 

「あれ? どこに行ってたの?」

「……よかった、無事だった」

「ふぇ?」

 

 いつの間にか離ればなれになっていたスバルと合流できたことに安堵。 ソレと同時にあの少年の所在がますます気になってしまう男。 たぶんとは確かに言っていたが安全と言われた矢先にあの出来事だ。 少しだけ文句の一つも言いたくなるが、それ以前に男は心配していたのだ。

 

「あの子、無事ならばいいけど」

 

 全くもって気の優しい男なのであろう。 こんな場所に連れてきた元凶に文句どころかむしろ心配をするのである。 

 

 

 ……そして男はすぐに後悔した。

 

 

「おーい!」

「噂をすれば。 どうしたんだい――」

 

 遠くから”あの男の子”の声が聞こえてくる。 元気よくこちらに手を振り、駆け足でまっすぐにこちらへ向かってくる。

 

「はは! しくじった!」

【ギィィアアアアアアアアアアッ!!】

「…………は?」

 

 その後ろからみえてはいけない存在を連れ込みながら、だ。

 赤い体色に黒い瞳、どことなくわかるのは危険な存在だと言うところだろうか。 それにおそらく喧嘩をふっかけたであろう男の子が、男性目指して短距離走を慣行している。

 

「おめぇも速く逃げた方がいいぞ?」

「あばばばばば!」

【ギャアアアアア!!】

 

 咆哮だけで地面が揺れる。 見上げなければ頭頂部が見えない時点で十分規格外。 おとぎ話に出てくるような怪物相手にたかが魔導士の端くれが相手できるはずがない。 その場で硬直して奇声を上げるしか出来ない。

 そんな彼と、声のしないスバルに救いの手が――悟空がそっと持ち上げる。

 

「なんで逃げねんだ?」

「む、無茶言わないでくれ! さっきまで戦闘で、それが終わったと思ったらいきなりあんな――ムチャクチャだ!!」

「わーん! おじさんのバカーー!!」

「そう騒ぐなって。 死にたくねえだろ?」

「そりゃそうだけど!」

「じゃあ早く自分の脚で走ってくれよ。 追いつかれちまう」

「……くっ」

「ん?」

 

 尋常ではない状況の中で、ついに少年に大声を出してしまう。 それでも様子の変わらない少年のどこまでも自由なことか。 振り向いて「おー……」なんて怪物の大きさを確認し直すところなど、おもちゃ屋で玩具を見定める子供と変わりない。

 ただ、その玩具が怪物という点を除けばだが。

 

「そもそもキミはなんなんだ!? コレといい、さっきの怪獣といいキミはトンでもない物ばかりを引き寄せてる!」

「そうか? だとしたら悪い事したなぁ。 でもおら悪気はねえんだ」

「だろうね、そうだろうさ! けど今回ばかりは文句を言わせてもらおう! なぜ! こんな事になったんだ!!?」

「おらハラが減っちまってさぁ……」

「あいつの食い物を横取りしようとしたのか!」

「いや、3人前ならあれくれぇかなってさ、そんでアイツを晩飯にしようと思ったんだけど、勝てなかった」

「あ、がが…………」

 

 なんてこと無い、弱肉強食のしっぺ返しだった。 男は盛大に頭を抱えてしまう。

 少年としては気遣ったのだろうが、いかんせん手段と結果が最低だ。

 

「だけどどうする! このままだと晩飯を用意どころか俺たちが晩飯だ!!」

「はは! うめえこと言ったつもりか? やるじゃねえか」

「うれしくないし! うまいこと言ったつもりもない!!」

「うーん……」

 

 魔法による肉体強化と、自前による全力疾走は続く。 悟空が無い知恵絞って考えるさなか、ふと、脳内にある出来事が浮かぶ。

 

「そうだ! あんくれぇのヤツだったらもっとでけえ火がいるよな?」

「……そろそろいい加減にしないと本気で怒るよ?」

「おら結構真剣なんだけどなあ」

「いいから! 早くここから脱出する方法を考えないと!」

「なぁ」

「な、なに!」

 

 その声は少しだけ重みのあるトーンだ。 だが、走るので精一杯な男には今の変化がわからない。

 

「少しだけ時間稼ぎしててくれねえか?」

「え?」

「おらさ、いまからとびっきりをお見舞いしてやる」

「策があるのか?」

「おう、とびっきりのな」

 

 走る彼はいきなりの三段跳び。 すぐ近くの木に飛び乗ると弾み、空高く飛んでいく。

 

「わぁ!?」

「スバルのことちょっとまかせたー!」

「おい! まって――見えなくなった……どんな脚力してるんだ」

 

 すでに空と一体化した彼に、男はすでにあきらめムード。 仕方ない、そうつぶやいた彼は手に先ほどの銃を召喚する。

 

「まったく、とんでもない子だ」

「……うん、おじさんってすごいよね」

「キミも大変だな。 あんなのに振り回されて」

「うん。 でも楽しいよ!」

「……だろうね」

 

 少しのやりとりで、彼に対する彼女の評価を理解した。 ソレは、男が思っていたことでもあったからだ。

 こんな混乱に突き落としながら、なぜか憎めないずるいヤツ。 そう言うのをカリスマだとか、天性の才能だとでも言うのだろうか。 男は今度辞書で探すことを思いつつ、デバイスに呪文をたたき込んだ。

 

「これで幻惑できればいいけど」

 

 使うのはやはり幻影。 自身と同じ影を作り出し底に色を通してやればあっという間に分身のできあがり。

 だが、それだけでは不安である。 だから彼はまず単純に数を増やしてみる。

 

【!!?】

「お? ……驚いてる驚いてる」

 

 いきなり獲物が15人の群を成せば、それなりのリアクションをとらなくてはならない。 怪物が後ずさりすると2発、彼はデバイスから弾丸を撃ち出す。

 

「さぁ、どうした来ないのか!」

【……?】

「さぁさぁ!」

【…………!!】

 

 言語が通じ合う間柄ではないのは百も承知。 だが、それでも通じてしまう態度(もの)がある。 強者に向かって弱者が小石を投げたのだ、当然、怪物(強者)は怒りに狂い、吼える。

 

【ガアアアアアアアアアアアアア!!】

「想像以上の効果だ」

「だ、だいじょうぶなの……おじさーん! はやくー!!」

 

 作戦の順調な滑り出しに、当然ながらスバルは不安を隠しきれない。 あまりにも規格違いな巨体から発せられる咆哮は木々を揺らし、大地を振るわせる。 足踏みすらしないでこの状況だ、彼が怒りにまかせて暴れれば並の魔導士では歯が立たないのはわかりきったことだ。

 だが、それでもどうしてだろう。 局員の男にはどうにも不安らしい不安を感じない。

 

「……本当に不思議な子だ」

 

――――かぁ

 

「きっと妹とそう変わりない年齢だろうに、あんなにたくましい生き方をしていて」

 

――――めぇ

 

「文句はたくさんある。 けどどうしてか、あの子の言うことを否定できない自分が居るんだ」

 

――――はぁ

 

「会ってまだ数時間だけど、体感的には数ヶ月を共にしたようだ」

 

――――めぇ…………

 

「本当に、不思議な子だ……彼は」

 

 男が感慨に浸る中、彼の真後ろに青い太陽が輝いていた。 ソレに気がつかないのは仕方が無く、ただ、彼の事でそっとため息をつくばかり。 だが男よ、そのままそこに居ると危ないから、速く逃げてはくれないか。

 なぜなら、あの少年は手加減を知らない。

 

「いくぞー!」

「ん? 作戦決行か? ……よし、なら俺も加勢――」

「波ああああ!!」

「う、うお!!?」

 

 

 

 熱く、とても熱く炎を通したフライパンをお使いになられたことはあるだろうか?

 少し目を離した、火加減を間違えた、料理に慣れてない。 理由はなんだっていい、ただ熱せられたフライパンを見たことある人は想像力を働かせてもらいたい。

 油もしかず、ただ熱々とあぶられたフライパンがそこにある。 もう、あまりの熱さに湯気が出ているそれに、考えもなしに一枚の肉を落としてやる。 するとどうだろう、その生肉はどんな音を立てて焼かれていくだろうか?

 とても、激しい音を奏でるのではないか?

 

 

 

 

「うぅぅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―――――――――――――――ッッ!!!!!!」

 

 

 

 …………きっと言葉にしたらこんな感じの焼かれ方かもしれない。

 

「……あちゃー」

「えぐぅ……ひっぐ……おにいさん死んじゃったよぉ……」

 

 手のひらから光線を出した少年は只口を広げて、遠くから処刑現場を見ていた幼子はただただ悲劇を涙で表現することしか出来なかった…………

 

 それから数秒間誰も口を開く事は無く、しかし、それでもいずれは動かなければならない。

 

 だから悟空は恐竜の手前、なにやらボコリと膨らんでいる地面に向かって歩き出し、脚で慣らす。

 

「ちくしょう! 死ぬかと思った!!」

「はは! よかった死んでねえや。 お? 服がぼろぼろだ」

「おかげさまでね! バリアジャケットがなけりゃとっくに消滅してたよ!!」

「すごい、いまの絶対……」

 

 スバルの常識が一段と削り取られ男が生きていたことに喜びは……まだ顔にすら出せなかった。 衝撃が強すぎる、今回ばかりはしばらくかえってこれないだろう。

 さて、悟空が男をこんがり焼いたその後ろには、先ほど襲いかかってきた恐竜が一匹。 これまたいい具合の音を鳴らしながら湯気を上げる姿は一品の一言だろう。 ソレを見て、悟空の腹が鳴らないはずがなかった。

 

「少し早ぇけど晩飯にすっか!」

「……そうだね」

「……うん」

 

 あんなことがあったばかりなのに。 危うく人を殺しかけた直後だというのにいつものペースを崩さない彼に戦慄を隠せず、思わずうなずいてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 同時刻 ナカジマ家リビング

 

「え? 転属命令ですか?」

[2、3日中には正式に辞令が下るはずよ。 あなたにはとある場所の調査をお願いしたいの]

「どうして私に? そもそもその調査だけでどうして転属だなんて……」

[理由が多いし、あまり大声では言えないことだから掻い摘まんでだけど、そうねぇ悟空君絡みだと言えばいいかしら?]

「悟空、さん?」

[そうよ]

 

 いきなりの事ではある、だが彼の名前が出てしまえば状況は別だ。 そこまでに孫悟空の存在は大きく、そして強固なものだという実感をようやくクイントに与えた。 そこに付け加えるように電話相手のリンディは、一呼吸置くと伝える。

 

[彼、この世界の人間じゃないって伝えたわよね?]

「えぇ、まぁ。 次元世界という物を一枠にするとして、その枠外の存在……一種のパラレルワールドから来たと思っていいんですよね」

[そう、たぶんソレで問題ないはずよ。 それでね、つい最近あっちの世界から連絡をもらっていたのだけど]

「悟空さんの世界ですか? 誰からです」

[…………神様]

「え?」

[世界の創造神]

「…………ファッ!?」

 

 クイントへ本日最大のダメージが入る。 さて、いまリンディ様はなんとおっしゃられたのでしょうか? それは上様? あぁ、領収書を切るときに使う名前の事だろう、一瞬逃避したカノジョにたたみかけられた言葉はなんとも壮大(ファンタジー)過ぎた。

 

「せ、かい?」

[そうよ。 何でもこの世で一番正しき神様なんですって]

「そ、そんなひとからなんで連絡が来るのですか……?」

 

 正確にはビデオレターの残りから、後でこっそり見つかった物らしい。 だからほかの人間はおろか悟空でさえこの内容は知らない。

 さて、そんな極秘事項はいったい何なのか、クイントは戦々恐々しながら踏み込んでみる。

 

[今でこそ抹消されているけど、以前あなたには話したわよね? 悟空君のはなし]

「え、えぇ。 ソレがどうしたんですか?」

[ドラゴンボールという物があるのだけど、ソレを探してきてほしいの]

「ドラゴン、え? それってあの?」

「聞いてるみたいね、だったらなおさら貴方に適任よ」

 

 願いを叶えるというおとぎ話にしか聞こえない代物。 戦いが終わり、病魔に苦しむとある人を救ったのだが、いまさら何を願おうというのか……リンディの目的が読めず、クイントは少し思考にふける。

 だが、どうやらカノジョの心配はいらない物であったらしい。

 

[別に全部集めろだなんて言わないわ]

「へ? でもあれって」

[そう、7つ集めないとその効力は発揮できない。 そう、全部集めてしまえば願いが叶うの。 死者蘇生ですら]

「……」

[これは将来争いの種になるわ。 まぁ、運がいいことにこの世界にやってきたボールは世界中に散らばるという性質を“この次元世界”と変えられたらしくて、今も遠い異世界に散っているはず]

「だったら……」

[でも装置と人手があれば見つけられるのはこの間の件でわかったわ。 そして、ソレが出来る組織はいま、わたしのなかで最も信頼のならないところ……]

 

 “組織名”を言わないのはおそらくリンディがこの通常回線すら疑っているとみて、クイントはすぐさま口を紡ぐ。 聞きたいことはたくさんあるのに、むしろ下手な言葉が言えない。

 だが、しかしだ。 彼女、リンディはちがっていた。 彼女はここ一番で言いたいことを言う女性だったとクイントは後に語る。

 

[その組織がこれ以上に下手を打たないように、いっそあそこが無くなってしまえばいいのだけど……]

「ぶーーーー!!?」

[さすがにそれはムリだから、まず一番の問題解決として来年の冬から貴方にはドラゴンボールの捜索を手伝ってもらいます]

「じ、次元世界中をさがせと……? それに上層部に絶対ばれるのでは……」

[そこはきちんと考えてあるし。 それに……わたしたちがやるのは何も物探しだけではないわ]

「どういうことですか?」

[人捜しのついでにお宝見つけたけど、実はソレが誰かの物だったから遠くの次元世界に飛ばしちゃったー…………って、だめかしら?]

「大丈夫ですかそれ……」

 

 リンディらしくない突拍子もない作戦にも聞こえるが、管理局相手にウソを通せるかと言えばムリだろうと言うのは、おそらく彼女にだってわかる。 だからこその強引な方法であり、仕方が無いので力押しなのだ。

 リンディ自身、結構頑張った方なのである。

 

[彼の世界に返却し、尚且つその世界の誰にも手が届かない場所に安置する。 そうすればいかに管理局でも手が出せないわ]

「その、誰にも手が出せないところってあるのですか?」

[えぇ、まず人間が出入り出来ないところに置いてもらおうと思うの。 あなた、聖域って言葉は知ってるかしら?]

「え? えぇ」

 

 その言葉の意味だけならば知っているクイントだが、それが今回の話にどう関わってくるかなんて、いまはまだ思いもしなかった。

 まさか、その言葉通りの意味だったなんて、彼女はまだ想像も付かない。

 

 

 

 

 場所は再び悟空の場所に戻る。

 

 早い晩飯を終えた彼等は背中を大地に預けると、億千万の星々が輝く夜空を見上げ今日という激動の時間を思い返していた。

 

「初めて走った……」

「次元世界」

「知りたくなかった……」

「恐竜の丸焼き」

「知る必要の無かった……」

「断末魔の叫び方」

『…………はぁ』

 

 男がつぶやくとスバルがため息のように返す。 あの頃の天真爛漫さが一日悟空に振り回されただけでコレだから困った物である。

 さて、そんな彼等の横では悟空がなにやら笑顔で転がっている。 なにか、いいことがあったのだろうか?

 

「今日の晩飯、結構いけてたな。 また今度やろうな!」

『け、結構です』

 

 コレばかりは同意を得られない。 孫悟空のスペックのおかしさに、男が今日で一番疲れた顔をした。

 

「結構うめぇと思ったんだけどなぁ。 ま、いいか」

「そうそう、ああいうのはしばらくいい」

「うん、大変だもんね……ふぁーあ」

「あ、スバルあくびか? でけえな」

「うん……ねむくなっちゃった」

「きちんと寝ろよ。 明日もめいいっぱい身体動かすかんな」

「はーい…………むにゃ」

 

 一息つかぬ間に深い眠りに入ったスバル。 ソレをほほえましく見る管理局の男は、視線を夜空に戻して、少しだけ独り言を語り出す。

 

「今日、いろいろ助けてくれてありがとう。 本当ならこっちがやらなくちゃいけなかったんだけど」

「なんだ? 変なこと気にするんだな、別にいいのに」

「そう言うわけにも行かないよ。 コレでもこの世界の平和を守る組織の一員だから、気にはするさ」

「ふーん、そっか」

 

 視線を合わせられないのにも理由があって、でも、それを男は言うことが出来なくて。 だから星空に向かって言葉を漏らして、今日の礼を言ったのだ。 大人が、子供に助けられたという事実は、彼にとって大事だったのだ。

 そんな彼に対して悟空はというとかなり興味なさげ。 でも、その黒い瞳はどことなく優しく見えた。

 

「おらそろそろ眠くなってきたぞ」

「そうか、そうだよね、今日はいろんな事があったし」

「明日も忙しいんだろ? おらそろそろ寝るぞ」

「うん、俺ももう寝るよ」

「それじゃおやすみ……えっと……?」

「どうした?」

「そういえばなまえを聞いてなかったなって」

 

 スバルからはずっとおじさんと呼ばれていた少年。 そのことに付いての疑問が完全に消え去ったこの瞬間にようやくわいた問題だ。 ようやく思い起こされたそれに、少年は何ら迷いもなく口を開く。

 

「おら悟空だ、孫悟空」

「ソンゴクウ……えっと? ソンくんでいいのかい?」

「ん?」

「ど、どうしたんだい?」

「なんかおめえブルマみてえな呼び方すんだな」

「は、はぁ……?」

 

 

 

 

 互いに言うとすぐさま目を閉じる。 その先に映るのは今日の出来事、昨日の思い出、そして明日以降に訪れるだろう波乱の予感。 思惑それぞれに、今日という時間は終わりを迎えた。

 




悟空「おっす! おら悟空!」

スバル「かめかめ……は!」

悟空「ちがうちがう! かめはめ波だ」

スバル「う-」

悟空「こうやって、こうだ! ほれ、もう一回やってみろ」

男「はは、まったくのどかなもんだ。 頑張れスバルちゃ--」

スバル「波ぁぁー!」

男「ぐぇぇぇぇ!!?」

悟空「お、出来たじゃねえか! いえい!」

スバル「いえーい!」

男「う、うそだ……そんな馬鹿な……これは夢に決まっている…………」

悟空「スバルすげぇなぁ、おめぇ良いモン持ってるぞ」

スバル「えへへ」

悟空「よぉしそんじゃさっさと次に行くか! 次回! 魔法少女リリカルなのは~遙かなる悟空伝説~ 第79話」

男「闇、激昂」

スバル「おじさん達をいじめるなー!!」

???「な、なんだいこの子供!? いきなり力を上げるなんて?!」

スバル「許さないぞ!!」
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