これをやらんと、なのはが悟空を……
そんなこんなでりりごくも8話。 末広がりの良い数字の話数です、そんな話で彼女は少年に何を見るのか……では。
「悟空くん! そっちいったよ!」
「わかってる! くらえー ジャン! 拳!!」
月村家を訪れ、黒衣の少女……フェイトという名の女の子との熱戦を終えた悟空となのは、彼らはその後2日間の休息を取りながらも今後について話し合っていた。
その結果、このままジュエルシードを発見し次第、悟空となのはは“一緒に”それにまつわる事件を解決することと相成ったのである。
そして月村邸宅訪問から五日あとの午後。
学校が終わったなのはを悟空が迎えに行く“ついで”にジュエルシードの事件を解決している今現在である。
「グー!」
「ギャアア!!」
悟空たちが相手取ってるのは巨大な狼……の様でいて背に翼をもつという奇怪な生物。
俗にいうキメラと呼べるそれは、原生生物を取り込んだジュエルシードの暴走態らしい。
「チョキ!」
「グアア!!」
そうこう言っている間に繰り広げられていく悟空の『ジャン拳』は怪物の頬、目にヒット。 それらを深く抉りながらも彼は最後の仕上げに、怪物の横っ腹に向けて手のひらを勢いよく仰ぎ撃つ。
「パー――!!」
「ギィィアアアアアァァァ――――」
衝撃音が周辺に轟き……モミジの手跡が深く怪物のアバラに刻まれては、遠くに吹き飛ばしていく。
まさに小型の台風の様な快進撃を見せる悟空の、そんな準備運動にも満たない彼の動きですら。
「すっごい……たったの3回で倒しちゃった……」
「悟空さん、5日前よりも明らかに強くなってる……こんな急激なレベルアップができるものなのか……」
彼らにとっては、非日常的で常識はずれな光景なのである。
難なく……本当に何でもないように怪物を倒して見せた悟空に驚くなのはとユーノ。 悟空の戦闘能力が飛躍的に上がっている気がしてならないユーノは悟空を見つめ深く考える……のだが。
「まぁ、悟空さんだし……できないわけじゃないか!」
という結論で、その思考に幕を下ろすのである。
しかし彼は知らない。 あの戦闘を経験したことにより、悟空はなのはたちが学校に行っている間中ずっと神の神殿での修行方法を繰り返していたことを。 そしてそれ以外の要因があることを……
「悟空くん、ジュエルシードそこに置いといて。 今封印するから」
「わかった」
「……なのはも戦うことについては慣れてきたみたいだ。 悟空さんが一緒に居るっていうのも大きいかもしれないけど……とにかくこれで当面の心配は解消されたのかな」
「なんだよユーノ、さっきからブツブツとさぁ」
「え! あ、なのはが戦闘慣れしてきたなって……」
独りごとをつぶやくユーノに、すり足で寄ってきた悟空。 その悟空の質問に一瞬キョドリながらも返事を返すフェレットの絵がそこにあった。
そんな彼に悟空はうなずき返す。 なんといっても最初は大変だった……本当に……
「魔法ってやつを使わねェと、なのはのやつテンで動けねぇんはビックリだったぞぉ。 ブルマの方が全然マシかもしんねぇ」
「ブルマ……(なのはが体育の授業で穿いてるアレ?)」
「そだぞ、オラがドラゴンボールさがすのを手伝ってやったやつでよ。 運動音痴だし、筋斗雲にものれねぇし、やかましくってわがままな奴でよ」
「は……はぁ……(あ、人の名前でしたか……はは!)」
「でも、よくオラの事助けてくれるいい奴なんだ」
「…………そうなんですか」
歩けば転び、走ればすぐに息を切らす(悟空のすぐは1キロ程度の感覚……らしい)そんな彼女に呆れるを通り越し……
「なのはおめぇ“びょうき”なんじゃねぇのか?」
「そんな!?」
などと、リアルな心配をし始めた悟空は恭也に相談。
後頭部を掻きながら、苦笑いをする彼から言われたのは――
「頑張ってくれ! 俺も不肖な長女を鍛え上げている最中だから!」
「ちょっと恭ちゃん! それはひどいよ!! あ、悟空くん? 今度わたしとも組手してね。 じゃね!」
只の応援。 そのあとに聞いた『うれしいこと』に元気よく返事をした悟空はそのまま自分だけで修業を開始する。
その間にユーノと相談し、解決したことと言えば、魔法を使わないとなのはは悟空の様な戦いができないという事実だけ。
「あれから一応、自分なりのやり方っちゅうのを見つけたみてぇだしな、これで『アイツ』みてぇに出来るようになれば完璧だ」
「あいつ……あのフェイトって名前の魔導師の事ですか?」
「そだ、アイツもたぶん“なのはと同じ”だと思うかんな。 だからよ、魔法を使いこなせるようになれば、あっちゅうまにオラより強くなっちまうかもしんねぇぞ」
「悟空さんより……強く……(悟空さん、普段からじゃとても考えられないくらいに……どうして?)」
だからそこを強くする。 そういう方針へと導いていく悟空の提案は至極『的』を射た内容である。
どこか人を指導するのが慣れている感じがするのは気のせいだろうか……だがあまり人の事をとやかく言うのはと気遣うユーノはそこで疑問符を取り下げる。
「おまたせー あれ? ふたりしてどうしたの?」
「うんん、なんでもないよ?」
「暇だったかんな、少しだけ話してたんだ」
「おはなし?」
そこにようやく帰ってくるなのは。 彼女は白いバリアジャケットのままに悟空たちのもとへと小走りで近づいてく。
手には赤い宝石が目立つ杖……レイジングハートを掴んだままに。
「おめぇが運動音痴だってはなしだぞ」
「運動……て。 悟空くん、それって本人に向かってストレートに言うものじゃないと思うんだけど……」
「でも事実だろ?」
「そうだけど……もう~~」
「なに牛みてぇに鳴いてんだよ?」
「むっ! なんでもないもん!!」
「なのは、悟空さんも……はは……」
こんなやり取りがもう、ここ2日くらい繰り返されているだろうか。 既に軽口を叩けるほどにまで距離を縮めている彼等3人は今日もいつもの通りを繰り返す。
悟空がとぼけて、なのはが怒って……それをユーノがたしなめて。 どこか兄妹にも近いその流れはとても――――朗らかさを感じさせる。
とても戦闘後のやり取りではないこの空気の、一番の原因はやはり彼だろうか……戦うことを何よりも楽しいといい、しかしそこには邪気というか暗い感情がなく、清々しいまでにあふれ出る戦闘に対する欲求……戦闘欲は、ジュエルシードの事件に対して、戦闘にたいして及び腰だったなのはをここまで引っ張ってきたのだ。
「そんじゃ帰ぇるか! モモコがよ、おやつ作って待ってるからって言ってたんだ」
「え、おやつ? でも今日は“翠屋”に居るはずだから……」
「みどりや?」
「うちはね、お家とは別の場所にお店をやってるの」
「みせ? 食い物屋かなんかか?」
「悟空くん正解! んっとね? 喫茶店っていって、お菓子やコーヒーとか……それに紅茶とか、そういったものを提供する……たしか――」
ここでなのはは思いにふける。 たしか昔、父士郎が軽やかに語っていた翠屋のイメージフレーズ。
なんとなくクラシックでいて、どことなく皆の心に安らぎを与える……そう、あれは
「たしか、オリエンタルな味と香りの~~~~」
「なのは、それは多分違うお店だと思うよ? そしてあのお店には特製カレーなんて置いてないから、悟空さんは口元をきれいにしてください!」
「んぐ?」
「ふぇ?」
どことなく悟空のように、笑顔が似合う別の世界のヒーローが入り浸っている、そんなすてきな喫茶店の事を知らず知らずのうちに口走るなのはを、戒めるユーノは若干顔が青い。
「なんだカレーは無ぇんか……ま、いっか! モモコの飯はみんなうめぇもんな!」
「そうそう! お母さんが作るものはみんなおいしいもんね」
「二人とも…………ふぅ」
なんとなく、そう、なんとなく思考が悟空寄りになりつつあるなのはに気持ちを大きく揺らされつつ、心からおおきな息を漏らすユーノであった。
「みんなのったな?」
「はーい」
「乗りました」
悟空が召喚した筋斗雲に乗ったなのはたち。
別になのはは魔法で飛べるからいいじゃねぇかという悟空の言葉を大きく引き裂いては“二人乗り”を強く強調するなのはに悟空はタジタジ……
なんでそんなことすんだろうな……などと呟きながらも、筋斗雲と共に大空へと飛び立つこととなる。
さぁ行こう無限の空へ。 そこにはきっと夢と希望が~~などというフレーズが頭をよぎる中で、彼女たちは失念していた……
「んぐぐぐぐぅ~~~」
「ご、悟空さん! もう少し発射スピードをををを~~~~」
「ん?」
なにかに夢中となった悟空の考えのなさに、同じ愚行を繰り返している彼らに悟空は無関心。 そういえば前にもこんなことがと思い……もせずに、ひたすら桃子が勤める喫茶店へと進路を決めて走り出す。
「もう……だめ……――視界が真っ暗に……がく……」
「あぁあ!! なのはが! なのはがまたブラックアウトを――ううっ!! ボクも……もう……キュウ~~」
彼と彼女の意識を、深い深い地の底に忘れていって……
PM4時丁度
ここは海鳴のどこかにある商店街。 さらにそのいずこかにある小さくもなく、大きいわけでもない、けれど繁盛という嬉しい忙しさに迎えられている喫茶店。
――――喫茶翠屋。
洋菓子兼喫茶店を看板に掲げるその店は、今日も今日とて大いに賑わいを見せていた。
「あ、いらっしゃいませ~~」
チーフウェイトレスの女性の声が響く。 とても軽やかなその声は、どこか湖の上でさえずる小鳥のような綺麗な旋律を浮かばせて。
「オッス!! モモコー! ハラ減ったーー!」
「え……? えっとぉ~~」
そんなもんをぶち壊すように轟かせた悟空のあいさつは、例えるならばジャングルのざわめきだろうか。
はい、まったくそんな感じで喫茶店に入場めされた悟空はとてもご機嫌みたいである。
「あら? 悟空くん! それになのはも……もう帰ってきたの?」
「おう! あさ言ってた“おやつ”を貰いに来たんだ」
「にゃはは……わたしもなのです」
「キュウ~~(ぼ、ボクも……)」
ウェイトレスの女性が困惑する中、どこかで聞いたことがある大声に、厨房から小走りで駆け寄ってくる女性が一人。
それはなのはと同じ色のセミロング風な髪をたなびかせた、きれいなお姉さん……高町桃子その人である。
彼女は悟空たちを迎えると、外を一瞥してはウェイトレスに耳打ち。
すると耳打ちされた彼女の表情が真っ青になると共に、まるでサーキットのマシンよろしく。 厨房へと駆け抜けていくのである。
「団体様一組! ごあんなーい!!」
そんな、喫茶店とはどこか間違った出迎える声を響かせながら。
「あっと、そうだ! なのはと悟空くん……それにユーノくんも」
『え?』
「一応、うちはペットの御同伴は禁止なの、だから……」
「わかった。 そんじゃユーノは裏でネズミを捕まえてくんだぞ?」
「ギュッ!!?(そ、そんな! あっさり見捨てた!!)」
「そうじゃなくって……」
走り去ったウェイトレスを横目に、『団体様』と銘打たれた悟空たちに桃子はとある席を案内する。 その中で、悟空がユーノを外に追い出そうとするのをなのはが“まぁまぁ”となだめているのは、最早お約束の域なのであろう。 保護者の桃子はあまり焦りの色を出していなかったりする。
「みんなは、外のテラスでお願いしたいって言いたかったんだけど……えっと?」
「キュキュウ!!(ボクだって楽しみだったのに!)」
「でもおめぇが居ると食えねんだろ?」
「きゅ、キュウ~~(そんなぁ~)」
『あはは!』
結局は最後でみんな大きく笑いだす。 そんなことがわかっているからこそ、彼女は決して焦ることはなかった。
「はー! 食った食ったぁ!!」
『ごちそうさまー』
時刻はもう4時半。 カラスが大空に舞いあがり、『嗚呼』と鳴いては闇夜に向かって翼を羽ばたかせていく。
いまだ日没が早いこの季節は、悟空たち“子供”に帰宅を迫り急がせる。
「なのはー! 悟空くん! そろそろ家に帰ってなさーい!」
「はーい」
「ん? もうそんな時間か?」
それは悟空たちも例外ではない。 子供であるなのはと、その彼女よりも背の低い悟空に帰るように言い放ったのは、店の窓から顔をだしてはオープンテラスに声を響かせている桃子。
「あれ? なんでおめぇが……」
「…………」
そんな彼女に促されるように席を立っていく悟空たちに、一人の男が立ちふさがる。
その男は二つの包みを持った身長176センチの大学生。 彼はなのはの前に立つと、ゆっくりと右手を彼女の頭の上に持っていき、乗せる。
「わぷ!? お、お兄ちゃん! いきなり――」
「すまんすまん。 ちょうどいいところに乗せやすそうな頭があったもんだったからな、つい」
「むぅ~~」
其の人物は乗せた手を左右に動かしながらも、軽い口調でなのはの文句を華麗に受け流している。 その男、その青年の名は――
「キョウヤじゃねぇか! あれ? おめぇミユキのやつと修行してたんじゃなかったんか?」
「よ、悟空。 いろいろあってな……休憩がてらに“こいつら”の手入れをな」
「こいつら……? その手に持ってるやつか?」
「まぁな……ところで……」
悟空にキョウヤと呼ばれた人物。 高町恭也は、手に抱えた二つの包みを見せるかのように上下に揺さぶると、悟空にそっと近づきコソコソと会話をし始める。
「もしかして今日“も”あの石……ジュエルシードを集めてたのか?」
「そうだぞ? 今回はなのはの奴もちゃんと混ざってやってたんだ」
「……そうか……なのはが……」
その内容は自身の妹を気遣う優しい兄の言葉。 だったら自分も手を貸してやれというところだが、それはとある出来事……悟空が高町家にすみこんだ第一夜の士郎との会話が原因であり……
「…………」
「どうかしたんか?」
それは……まだ語られることではない物語である。
そっと手を拳の形にする恭也を見上げながらも、特に配慮のない声色で彼を呼びかける悟空の声に、ふと我に返る恭也は悟空を見ると小さく笑い。
「いや、なんでもない」
「???」
「お兄ちゃん?」
なんとなく、お茶を濁した
「さて、空も暗くなってきたことだし。 このまま家まで帰るか……なんといってもうちのなのははドンくさ……」
「……お兄ちゃん」
「…………正直ですね、言いすぎだと思っています……すいません(なんだ!? この怒った時の“かーさん”にそっくりな雰囲気は……)」
夕日が真っ赤に空を焼き尽くしているかのような時間帯。 なのはに異形の影を見出しながらも腰を直角に曲げている兄は少しだけ冷や汗。
彼は間が悪かった。 普段ならこんな言葉ではそこまで行かないなのはちゃんは、しかし悟空によって彼女のそっち方面での精神力……というか、我慢てきなモノが限界を迎えようとしていたのである。
――――――おめぇ足おせぇから邪魔だぞ。
――――――なんで今のが避けらんねんだ?
――――――すんげぇ“うんどうおんち”だなぁ……こまっちまうぞ。
などなど。
悟空の思った通りの、思いやりという名のフィルターを通さない文句の数々は――「ふぎゅ……」――彼女を涙目にしつつ。 だが、事実なものだから言い返せないなのはの心を徐々に軋ませていった。
例えるならば、くしゃみをしそうになっている『ランチさん』
いつ爆発する……いつ爆発する……!! である。
そんな地雷原でブレイクダンスを踊ってやると言わんくらいに、女の子に対しての配慮がないのはひとえに悟空の生い立ちが原因であるのだから仕方がないだろう。
「なのはの奴、最近ずっとツンケンしちまってよぉ。 なんかあったんかなぁ?」
「悟空さんが一番の原因だと思うんですが……」
「あぁ、悟空がいけない」
「…………むぅ」
「オラがいけねんか? なんでだ?」
仕方がないとはいえ、そのようなことを知らない者たちからすればそんなものなど考えようもなく。 少しだけ悟空に対しての好感度が下方に向かっていくなのははむくれっツラ。
それを訳が分からんと後頭部を掻いている悟空に、少しだけ冷ややかな視線をする恭也とユーノは、なのはに深く同情したとかどうとか……
あまりにも無神経な彼に果たして届いたかどうかはこの際おいておくことにするべきか。
彼が今現在起こっている意味を理解するには、きっと5年……8年の歳月が必要になることであろう。
「…………ねぇ、悟空くん」
「ん? なんだなのは……まだ食い足りねんか?」
「悟空くんじゃないんだから……そうじゃなくってね。 悟空くんって、どうしてそんなに強くなったの? わたしよりも年下なのに……」
歩き出したなのはたち一行。 そのなかで少女は少年に向かってぽつりとこぼす。
今まで……まぁたったの五日だけだが……その中でなのはが見た悟空の強さは常軌を逸していた。 まさにテレビの中でしか起こりえない事柄の連続に、空を見上げては驚き、地を駆け巡る姿に目をまわす。
そんなことがザラだった、自分とあまり背丈が変わらない彼をいつも見ていたからこそ……彼の事を知りたくなるのは至極当然なのだろう。
「へ? おめぇオラより歳食ってんのけ……へぇー!」
『???』
そんな悟空の意味深とも取れる返しに疑問符を浮かべながら……彼女たちの歩は止まらない。
家へと向かっていくなのはたちには、いまだ多くの時間がある。 だからこそ聞いてみよう……決して深い意味はなかったし、悟空が拒むのならば潔く引き下がる気でいた。
だけどとっても気になるという相反する自身の思いは……しかし、その少女の望みは……
「オラな、いろいろあってよ? 3年後の天下一武道会までに、今よりウンと強くなんねえといけねんだ」
「天下一……前に話してた大会だよね? たしか命を狙われてるって……でも」
「そうだ、だからよ? 早く石ころ集め終わらせて、神様んとこに戻ってみっちり修行すんだ」
「え……もどる……?」
すこしだけ、自身の予想外の答えが返ってくることとなる。
もどる……戻る。 つまりは家を出て、悟空がもと居たところに帰るということ。
それを頭で理解しては、ゆっくりと口から吐き出すようにつぶやいたなのはから表情が……消える。
「この調子で行けば、1か月かかんねぇだろうしなぁ……そしたら今度こそ“ミスターポポ”に一撃当ててやるぞぉ!!」
「…………」
「なのは?」
「こいつは……どうしたものか……」
ひとり燃え上がる悟空を余所に、一言もしゃべらなくなったなのはと、それに気づきはしたが意味を理解するまでに至らないユーノと。
さらにはすべてを理解し、それでも手出しをしようとしない恭也。 4つの異なる考え、想い、願い……それはいまだに交じりあうことはなく。 それでも彼らは歩んでいくことを“やめられない”
時は只、進んでいくことしか――しないのだから。
既に暗闇となっていく海鳴の街を歩いていく彼らは、それ以上の話題があがることもなく、ついに高町の家に到着してしまうのであった。
――――帰宅後……2階、なのはの部屋
レイジングハートを定位置に置き、すぐ横にはいまだ収納されていない“今日の成果”を置いておき、なのはは今日の出来事を整理し始める。
「悟空くん、今日もすごい食べっぷりだったなぁ……」
一足先にお風呂に入って、悟空くん達が上がってくるまで先に自分の部屋に戻ってきたわたし……高町なのはは、最近何となくやっている一人反省会という名の回想に思いをふけることにしてみました。
「今日は……んっと……」
今日は昨日よりもうまく動けたと思う。 いつもみたいに「なのはーうしろだ!!」みたいなことは言われなかったし。
ジュエルシードの怪物相手だったら、もう一人でもやっていけるかもしれない。 もちろん、レイジングハートのちからは貸してもらわないといけないけど……
いつの間にかベッドの上で寝転んで、いままでの事、これからのこと――いろいろ考えてしまうけど、今気になってしまうのは……
「あの子と……悟空くん……」
悟空くんが“フェイト”って言ってたあの黒い魔導師の女の子……きっとこれから先もあのときみたいな目をしながらわたし達と対峙していくんだろうな。
でも……
「もどる……帰るってこと……?」
それと同じくらい……うんん。 それよりも気になってしまうのは悟空くんが言っていた話の内容。
確かに、突然現れて……いきなり家に住むことになって、いろいろ無茶苦茶な男の子だったけど。
それでも今は、いつの間にかいるのが当たり前になっている。 最近は気付けば悟空くんの背中を目で追っているのが多くなっている気がするし……それに――
「そうだよね、悟空くんだって“帰るおうち”があるんだもんね……それに“家族”だって」
もしもわたしが悟空くんの立場だったら……
きっと不安で押しつぶされちゃって、ユーノくんのお手伝いなんて言っていられなくって。 周りのみんなに当たり散らして、勝手に騒いで……そんなことも想像することしかできなくて。
だから悟空くんを見ていると、つい忘れちゃう。 ここに来たときは彼は一人ぼっちだったんだ……て。
それでもあんな風に何かのために……誰かのために一生懸命になれるってすごい素敵なことで……それで……それで…………あれ?
「…………ん。 わたし、さっきから……」
気付いたら今日の反省会から、悟空くんの事に考えが偏っちゃった……どうしてだろ?
「まぁ……いっか」
ちょっとだけ悟空くんみたいに「い」の部分にアクセントをつけてみた今の言葉。 結構な事態に出会ってもよく耳にするこの一言は、きっと悟空くんを表しているひとことなんだろうな……んん~~なんだかまぶたが重たくなってきたかな……
「学校に行く準備も終わってるし……あ、そうだ……机の上のジュエルシード……」
思ってたより疲れがたまってたのかな……もうベッドから出られそうにもないかも……
ジュエルシード……封印すれば害はないってユーノくん言ってたし、大丈夫だよね。
「もう……寝ちゃおう……」
そう思った途端に、一気に睡魔が襲ってきたのかな? とっても重くなっていく身体に、うすれていく周りの景色と自分の意識。
その気持ちのいい感覚の中で……わたしは最後に思い出してしまいました。
悟空くんの……最初の夜に言っていた一言――
「…………大事なもの……たくさん取られちゃった……どういう――――」
悟空くん、あの時とっても辛そうな顔してた……なんで……どうして……
聞いてみたい気持ちもあるけど、“デリケート”な話題は誰にでもあるってお母さん言ってたし……でも――でも……ん~~
「悟空くんの事……知りたい……かも。 んん…………」
まぶたが開かない……
もう駄目……かも。 一足お先に……おやすみなさい…………ZZZ。
「なのはーー! お? 部屋が暗ぇ……なんだよなのはの奴、先に寝ちまったんか」
「あはは……今日も悟空さんのうしろをずっと追いかけてたから、とっても疲れてたんでしょうね」
少女が意識を手放してから数分が経った頃。 少年たちは少女の部屋に音を立てて入ってくる。
悟空はともかく、比較的女子に対して普通の感覚を持っているユーノですら、どこか慣れている感じがするのは既にこの部屋に入るのが日常になっているからである。
初日の一件以来。 なのはの部屋で寝ることが定着してしまった(あまりにも無害なので恭也ですら“いいんじゃないか”と賛同したほど)悟空とユーノは、今日も今日とてなのはの部屋に入り込むのである。
「ま、いっか! そんじゃ、オラたちも寝るか!」
「あ、はい!」
布団を敷き……ちなみに、悟空のふとんはなのはの部屋の片隅で、簀巻き状に丸められては放置プレイされている……枕をどこぞから取り出して、二人一緒にごろりと寝転ぶ。
一日の終わりの至福の時間。 一日を普段から精一杯生きている悟空に、睡魔がやってこないわけがなく。
「ぐごごごごごぉぉぉ…………んん……ははっ! んむぅ……」
彼はすぐさま、小うるさい鼻息……吐息……いびきと、順にクラスチェンジさせながらも深い眠りについていく。
それはユーノも同じであり、当初はうるさかった悟空の寝息も今は只の子守歌……
彼も悟空に続くような形で寝息を立てては今日という日に幕を閉じるのである。
――――そんななか。
「…………んん」
既に喋るものが居なくなった部屋に、小さく漏らされた吐息。
その息の
「…………どうして……」
すでに夢の中に居るはずの彼女はいまだに、彼……悟空が抱えるナニカを考え……悩んでいるのであって……
そんな彼女の吐息が止む……ソレと同時に……部屋が薄暗く輝きだす。
その光はほのかなもの。 気にしなければどうってこともなく、捨て置ける程度の弱い輝き。
薄ぼんやりと光るそれは、なのはの机に置いてある宝石『レイジングハート』ではなく……その隣に置いてあるジュエルシードからのものである。
既に封印済みのその石がなぜ輝き始めたのか、それはわからない。 わからないのだが……
「んん……」
【――――――】
まるでなのはの吐息に呼応するかのように……少女の心にわずかながら芽生えた“願い”に答えるように。
その青い宝石は、ほんの少しだけなのはに『夢』を見せる。
見たい、知りたい、わかりたい……その少女が奥深くに仕舞い込もうとしていた感情。
彼は言わない。 自分から言いふらすようなことはしない。 こっちから聞けば答えるだろうが、少女にそんな踏み込んだことをさせる勇気はいまだなく。
だから……少女はさらに知りたくなってしまう。――――だったら……そうだ。
すこしだけ話しをしよう……少年が、この小さな男の子が辿った――走り抜けてきた。
険しくもワクワクするというお話を。
――――いま、少女の意識は……より一層、闇に沈んでいく。
深夜 ???
少女の知らない
「――――え!?」
ここ……どこ?
さっきまでベッドの上で眠ろうとしてたのに……
「なんだろう、すごく開けた場所……石畳があって……あ! まわり、水で囲まれてる」
そこはわたしが知らないところでした。
奥に大きな建物……少しだけインド風っていうか、アラビアンナイトに出てくるような建物があって、そのすぐ前には大きな舞台みたいなものがあって。
「でぇああ! はっ! はあ!!」
「ふっ! く―― だりゃあ!!」
「誰か二人……たたかってる」
その中央では知っている男の子と、見たことない狐のお面を付けた人がたたかっていました。
知っている男の子……その子は、しっぽを生やしている彼は、ひと目見て悟空くんだってわかったけど。
悟空くんが戦っている相手がわからない……というより、どうしてこんなことになっているのか。
わからないだらけのわたしは、とても混乱していて……でも。
「あれ? 景色が“とんだ”の?……え? あのお面の人、降参しちゃった」
そんなわたしを、本当においていくように周りの景色が“流れていく”と、舞台の上での出来事はどうやら収束に向かっていて。
良くわからないと……自分が置かれた状況に戸惑うわたしは、取りあえずこのまま状況に流されることにしてみました。 「ま、いいか」 なんてつぶやいてしまったのは、きっと悟空くんの言葉が移ってきているんだろうな……
「あれ? 悟空くんなんか変……? どこかすっきりしたっていうか……」
跳んだ景色で思ったのは違和感でした。
別にどこもおかしいところはないはずなんだけど……う~~ん。
「悟空。 弱点の尻尾を鍛えるのを怠ったようじゃのぅ」
『え?』
お面の人が悟空くんに言った言葉に、そろって疑問の声を上げてしまったわたしと悟空くん。
けど、それはお互いに違う意味が込められていたみたいで……だって……だって……
「あ……あのひと……ご、悟空くんのしっぽ……! え!? 悟空くんしっぽが!!」
普段から生えている悟空くんのトレードマーク? の茶色い尻尾が、あのお面のひとの手に握られていたからなのです……そしてさらに。
「じ…………じいちゃーーーん!!」
「しっぽが……え!? じ、じいちゃん!!?」
「ほっほ……これこれ――」
お面をおもむろにとったその人……おじいさんを見た悟空くんから聞こえてくる声に、わたしはさらに驚き、はためくのでした。
「じいちゃん……あいたかったよ……~~~~~っ!!」
「あ……悟空くん、泣いてる……」
「お~~よしよし」
大声を上げて、駆け出して……おじいさんに向かって飛びついて行った悟空くんは、普段からは想像できないくらいに“子供らしい”姿でした。
どうしてだろ、よくわかんないけど……こっちまで涙が出てきそう……
あんな悟空くん見たことない。 うちのお母さんにだってあんな風に抱きついて、甘えた声なんか出さなかったのに……とっても、大事なおじいさんなんだ。
「あ、あれ!? またなの?」
そこで景色はまた動きました……さっきは早送りのように動いていった景色が、今度はリモコンでチャンネルを変えたように切り替わる感じ。
「あ、もとにもどった……こんどは……え?」
終わったと思った景色の切り替え。 そして次に映りこんでくるのは倒れたひと……
青い背広を着て、悟空くんよりもほんの少し背が小さそうで、あたまを丸めたお坊さんみたいな人。
「なんだか様子が……」
でもその人……目を開けたまま倒れてる。
それになんだかわたし自身の身体の自由がきかない。 まるで映像だけを見せつけられているような……いったい何が起こっているの?
「クリリン!!」
「え? 悟空くんの声……?」
突如として聞こえてくるのはよく知った男の子……悟空くんの声。
その声と共に、映り込んできている景色は激しく揺れ、映像の真ん中である倒れたそのひとが大きく映し出されていって……
そっかこれって――
「悟空くんが見てる光景……」
そう気づくのに時間はかかりませんでした……だって…………
「クリリン!! あ……あぁ」
「こ、このひと……うそ……」
「………………死んでる……」
「~~~~ッ!!」
手の感触が、漂ってくる血の匂いが……そのままわたしに伝わってきたから……
「クリリンが…………ころされた……――――っ!!」
「え!? 悟空くん、まって!!」
いきなり立ち上がる悟空くん。 そして悟空くんの仲間だと思う人からなにか丸い機械を受け取ると、誰かが止める声を無視して……そのまま走っていきました。
だめ……だめだよ。
「お、おまえか!! クリリンの仇! おまけにじっちゃんの形見をとってった!!!」
「また……映像が……」
「ゆるさねぇぞおお―――!!!」
こんな悟空くん……見たことない。
初めてジュエルシードの事件に遭遇した時も、怒った表情は見たことあるけど……こんな……こんな悟空くん……見たことない…………
やめて……こんなの悟空くんじゃない……
「――――ぶっ殺してやる!!!!」
「…………え」
さらに聞こえてくるのは怨嗟の声。
それと同時にわたしの中に流れ込んでくるのは深い悲しみと……怒り。
執念という言葉はこの時の悟空くんのためにあるのではないか。 それくらい全身を駆け巡る熱い感情は、それだけ悟空くんが怒っているから。
お願い……おねがいだから…………もう……
「悟空くん……だめ……」
目の前に居る怪物に向けられる悟空くんの怒声。 けれどその声は虚しく……次に悟空くんは――
「…………フン!」
「うああ!!」
「あ!! 筋斗雲さんが――!?」
またも大事な“友達”をうばわれてしまいました。
怪物から放たれた光線に貫かれて、霞のように消えていく筋斗雲さん……
もうやだ……これ以上みていられないよ……どうしてこんなことに――――
「ち、ちくしょ……カタキ……クリリンの……クリリンのぉぉおお!!」
「立たないで!! 悟空くん!! もう……もう無理だよ……」
空から地上に落ちていった悟空くんは全身ボロボロで……だめだよ! これ以上はホントに死んじゃうよ!!
「ちくしょう……ちくしょおおおおおお!!」
叫んだ悟空くんの声が響く中で、わたしはあまりにも悲痛な声に耳をふさぎこんで……起こった事実から目も耳もそむけて……そんなことをしているわたしを無視するかのように、場面はまたも切り替わっていきました。
流れていく映像……その中で悟空くんは『毒』を呑むことを選択しました。
強くなれると言われたその毒は、でもそれで強くなったものはだれ一人いなくて……
「これを飲んだものは……皆、引き出す力がなくてのぉ。 全員死んでしまったのじゃ」
「…………」
「そんな!! 飲んだひとみんなって――――」
只の劇物……それはたった一杯のコップに入れられた黒い液体。
聞えてくる声の主の風貌よりも、そっちの事が頭を埋め尽くして……
「悟空くん! そんなの飲んじゃだめだよ!! 死んじゃうよ!!」
「…………オラ……のむ!」
「悟空くん!!」
でも悟空くんは……とんでもなく頑固で……会話をしているわけじゃないのに、意思が通じ合っているわけじゃないのに。
わたしは思わず悟空くんを掴みかかってでも止めようとして……止められなくて。
「ぅぅぅぅううううううあああああああああああああ!!!!」
「~~~~っ!!」
いままで一度も聞いたこともない、どんな騒音よりもおおきくて、地の底から響くような唸り声にただ両手で耳をふさいでる事しかできませんでした。
ついに閉じてしまった目、でも次にその目を開けた時は周りは青い空。
けれどそこに広がる光景は血みどろな“死闘”と形容するべきものでした。
「ぐあああ!!」
「―――!!」
左腕を……
「うあああ!!」
「~~~っ!!」
左足を……
四肢のほとんどを撃たれ……地面に這いつくばっているのは……悟空くん。
それでも……それでも……
「ついに終わったな!! ピッコロ大魔王さまの勝利だ!!」
「悟空くん……」
「失敗したなあああああ!!」
『!!』
彼はあきらめませんでした。
それはまさに“不屈の闘志”を絵に描いた行動で……悟空くんに残された武器はたったの右腕一本の筈なのに……それなのに――――!
「腕を一本残してるぞおおお!!!」
それでも彼は立ち向かうことをやめませんでした。
右腕から放たれる青い光……それは悟空くんを大空に打ち上げると……
「オラのすべてを……この拳に賭ける!――――貫けええええ!!」
「~~~~~~眩しい!?」
わたしの視界に突然、巨大すぎる光が差し込んできて……そこでわたしは意識を手放してしまいました。
どうしてこんなものを見たのかはわかりません。 だけど、わかってしまいました……あのとき、最初に出会ったときに悟空くんが言ってた“大切なもの”
「悟空……くん」
もう消えてしまいそうな意識の中で、わたしはただ、絶望に立ち向かっていった男の子の名前をつぶやくだけでした。
「……のは……なの……!!」
「う、う~~ん?」
「あ! やっと起きた! おめぇ今日も“がっこう”行くんだろ? おーい?」
「はへ……? 悟空くん?」
目覚める、高町なのはの“夢”はそこで途切れる。
そして目に映りこむ日の光。 それは先ほどまで居た夢の中などよりも強い光であり、彼女にここが現実であることを嫌でも思い知らせる。
「はやく着替えて降りて来いよ? オラ先にいってるかんな!」
「あ……悟空くん――いっちゃった」
部屋から駆け足で出ていく悟空。 それをただ眺めながら見送ったなのはは、先ほど見たことを思いだす。
妙にリアルで、それでいて自分の感覚がほとんどなかったあの夢。 本当にただの夢なのか? そんなふうにさえ思ってしまう彼女に、しかしあの時感じた悟空の怒声だけは彼女の耳から離れない。
「悟空くんの大切なもの……あれって物じゃなかったんだ……」
起こした身体をそのままに、彼女は独り思いにふける。
あのときの悟空の表情に隠された真実。 友を文字通りに失った彼を知ってしまったなのははここでやっと――――
「~~~~~~!」
身震いをする。
とても人に言えない事実。 それはなのはの心に縛り付けるような感覚圧迫感をもたらしていく。
「悟空くん……友達だった人が……」
夢で見たその感触はほとんど残っていない、だがそれでも少女にはきつすぎる死の感覚はイヤに鮮明に脳裏に刻まれて離れようとしない。
もし自分が―――― 一度でもそう考えてしまったが最後。 彼女は震え……動けない。
いつも通りにするということさえ浮かんでこない。
その“いつも”の風景が、何の前触れもなく崩れてしまったら……そんなことばかりがよぎって彼女は掛布団を握る。
「…………怖いよ……もしもあんなことが起こったら……」
自分にも特に仲の良い友達がいる……いつも学校では一緒で、大体遊ぶ時も一緒。
友達はと聞かれて、最初に頭に浮かんでくるのも彼女達だ。 もしもそんな彼女たちが……
「やだよぉ……」
その先を考えることすら出来もしない。
弱々しく吐かれる心の内。 それは誰もいない部屋に響き……「なにがイヤなんだ?」……廊下に居る少年へと聞こえてしまう。
「悟空……くん……」
「ん?」
いくら待っても降りてこないなのはに、まさか2度寝してるのではと駆けてきたのは悟空である。
そんな彼は、掛布団を握っているなのはを見て……首を一回傾げる。
「なんだなのは……おめぇ」
「……え?」
「ふとんから出たくねんだろ?」
「…………ちがうもん」
ノウテンキを絵にかいたような彼に、なのはは体育座りでぼそりと答える。
座り込んだ彼女の膝元までかけられた掛布団。 その上にちょこんと頭を置いては『ここから動かない』をアピールしている彼女。
そのすがたは普段感じさせる歳不相応な落ち着きを微塵にも感じさせず、
「なぁ! 早くメシにしねえんか?」
「…………」
またも呼び掛ける声、けれどなのはは声を出すこともしない。 ついに顔をうずめて横に振り『イヤイヤ』をする子供のように、その場を動こうとしなくなる。
「ん~~こまったなぁ……どうしちまったんだ?」
「…………悟空くん」
「ん?」
八方ふさがりかと思われたところである。 ベッドからなのはの声がひとつ。
それはあまりにも小さく発せられた問いかける声。
「悟空くん……どうしてそんなに笑ってられるの?」
「え?」
それは、どこか理解ができないと……少年のことを罵るかのような言の葉。
「殺されちゃったんだよ……お友達……」
「ともだち……?」
「クリリンくん……あの怪物に殺されちゃったんでしょ……なのになんで……」
「え……なんでおめぇクリリンの事知ってんだ?」
段々と強くなる少女の言葉。 だが言われた本人は、その言葉よりも思いもしなかった人物の名前が出てきたことに大きく動揺する。
そしてその人物の末路まで言い当てた彼女に、悟空は少しだけ戸惑い……逆に質問をすることとなる――その質問も……
「夢で見たの……どうしてかは分かんないけど……」
「ゆめ?」
「うん……」
「そっかぁ夢かぁ……」
返ってきた答えはよくわからないけど、それでも腕をあたまの後ろに組んでは笑顔でなのはに相づちをうつ悟空。
彼はよく考えてみる……こんなふうになってしまった子をどうすればいいか……足りない頭で考えて……考えて……
「ん? ん~~心配ねえぞ」
「…………え?」
とりあえず、彼女に“教えてみる”ことにする。
「クリリンや亀仙人のじいちゃん、殺されちまったんは確かに悔しいけどよ。 でも…………」
「でも……?」
「今頃きっと、ブルマたちが“ドラゴンボール”で生き返らせてくれてっからな。 だからオラ、そんな“しんぱい”とかしてねんだ」
「……生き返る……?」
「そだぞ? “神龍”はな、なんだって出来んだ」
「シェン……ロン……?」
それはむかしむかしの物語
見るものを畏怖させるが、どんな願いでも叶えてくれる巨大な龍。
そしてそれを呼び出すために必要な7つの奇跡の球。
さらには世界中に散らばりしその奇跡を集める壮大な物語……
なぜか夢で語られることがなかったその事実は……悟空の拙い説明によってなのはに伝えられ……
「じゃあ……悟空くんの友達は……」
「ああ! まだ生き返ったクリリンには会ってねぇけど……きっと元気にしてると思う」
「そう……なんだ……」
「おう、そうなんだ!」
不安と悲しみで押しつぶされそうだった彼女の心から、そっと“おもし”が消え失せていく。
暗い表情から、だんだんと明るい顔に戻っていくなのは。
悟空の突拍子もない、奇想天外な話はすぐに信じられるものではない……無いのだが、夢で“悟空を見た”彼女だから信じることができる。
数多くの苦難を乗り越えた、そんな少年のまっすぐで綺麗な黒い瞳を……まっすぐに見つめることができる。
「悟空くんって……すごいんだね」
「ん? いきなりどうしたんだ?」
「わたし見たよ? どんなに大変で、どんなに苦るしくても立ち上がっていって……」
「???」
そんな悟空の瞳から少しだけ視線をそらすと、なのははうつむき、悟空に喋りかける。
もう忘れることができない悟空の戦いの数々。 いくつか見落とし、うすらぼけているシーンもあるものの、それでも彼のすごさは薄れず……深く印象に残る。
そんな彼がとても――――
「とっても……かっこよかった……」
「そうなんか? はは! ちっとばっかしテレちまうぞ」
「…………ふふ」
勇ましく……大きく見えて。
そして笑い出す悟空。 それに釣られるかのように、ほんの少しこぼした笑みはなのはのモノ。
ようやく彼女から出てきた微笑み。 それを見た悟空は、なんだかとっても嬉しそうで……
「やっと笑ったな! そんじゃ飯食いに行くぞ? オラもう腹ペコで……」
「あ……うん!」
「早く着替えて来いよ? オラ先にいってっかんなーー!」
「…………悟空くん」
そして彼は部屋を出ていく。
そんな彼を追うように、なのはは先ほどまでうずくまっていた布団の中から抜け出し、クローゼットを開け、学校の制服を取り出す。
それは最近、放課後に身にまとうこととなる“あの服”にそっくりで……
「ユーノくん、わたしのイメージが具現化したものって言ってたっけ……」
少し前に言われたことを思いだし、何となくあの時の自分を思い出し。
「ん~~」
彼女は少し物思いにふける。
あの服を着た時、自分は何を思って杖をふるっていたのか……
「たたかう……そう、いつかは“あの子”とぶつかる時が来るんだよね……」
きっと何も思っていなかったのではないのか……?
悟空が居た、ユーノもいる。 そんな彼らのうしろでただ手伝い気分で……そう、どこか軽い気持ちでいたのではないか。 だから初めてあの黒衣の少女と目が合って、空気に触れた時に動けなくなってしまったのではないか――――
「悟空くん……戦っているとき、いつも笑ってたけど……でも……」
その目はどこか、決意を感じさせる鋭い目をしていた。
特に最後の方の“死闘”らしき場面の悟空は、普段から……ジュエルシード集めの時ですら見たことがないほどで。
「いつも……そうだよ。 いつも誰かのために……」
本人が言うように、戦うのが楽しいというのもあるかもしれない。
ワクワクして仕方ないという時があったのかもしれない……けれど、あの時見た彼の顔は間違いなく誰かのために怒っている顔だから……
「本当に優しくて……明るくて……裏表っていうのがどこにもなくて」
だから少女は思う。
「わたしも……悟空くんみたいに……できるかな…………」
自分も、誰かのために“たたかう”ことができるのであろうか……と。
ケンカなどではない、本当の意味での戦い。
「わたし……頑張ってみよう――――!」
そう呟いた彼女は、持っていた制服の裾をゆっくりと握るのであった。
太陽が昇り、部屋の窓から日の光が差し込む午前の空気。 少しだけ肌寒く、意識をクリアにしてくれるその気温の中で、少女は少年から見出した“不屈な心”を内に秘め、そっと衣服を脱ぎだしていく。
今までの自分を脱ぎ捨てるように、そしてこれからの自分を身に着けていくように、彼女は肌着を脱いでは制服にへと着替えていく。
最後に髪を両サイドで束ね、小さなツインテールに結び……キュッと音を立てて締めていく。 ほんのちょっとだけ、帯を結んだ時の彼に似せてみたのはみんなには内緒。
少女は、少女らしからぬ気合を入れ……部屋を――――
「なのはー! 大ぇ変だーー! “ちこく”だってよーーーー!」
「ぇぇええええ! うそーー!!」
一気に駆け出していく。
迷いを振り切るように、新しい自分にへと走り出すように。
悟空「おっす! オラ悟空!!」
恭也「なぁ悟空? お前、温泉って知ってるか?」
悟空「おんせん? 知ってるぞ! 前にどっかの村で入ったことあんぞ」
恭也「どっかの……村? まぁいい、ならば話は早い! 悟空、明後日からみんなで湯治を兼ねた小旅行に行くぞ!」
なのは「あ、もうそんな時期なんだ……すずかちゃんたちに電話しておかないと」
悟空「”りょこう”かぁ……じゅるり! うめぇもんいっぱい出っかなぁ、オラ楽しみだぞ」
???「ふん! そうやって面白おかしくやっていられるのも今のうちだよ!」
悟空「?? いま、なんか声が聞こえたぞ……ま、いっか!!」
???「え! ちょっとまって―――」
悟空「次回! 魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~第9話 犬猿の仲? 旅館で出会った二匹の獣!」
???「アンタねぇ! 人の話くらいちゃんと――――」
悟空「ん? なんだおめぇ、ケモノくせぇぞ?」
???「え!? あ、いやぁアタシは……くぅ! また来るよ!!」
悟空「変な奴……んじゃ、またな!」