魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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第80話 ティーダ死す

 

 

 

 

「へぇ、センニンっていうのがお前の師匠なのか」

「そうだ、亀仙人のじっちゃんにはいろんな事教えてもらったんだ」

「センニン……たしかどっかの資料で見たような聞いたような」

 

 あれから数日が経った。

 悟空とは荒野を共に駆け回った間柄だし、そもそも、彼自身が放つ独特の雰囲気がティーダの警戒心その他をいきなりゼロにしていたのが大きかった。 あっさりとなじんでしまった彼は、とある問題を置いておけば、ほどよくランスター家になじんでいた。

 

 そう、ある問題を除けばだ。

 

「さってと、おらそろそろ行くぞ」

「そうか、気をつけて行ってこいよ」

「ほーい」

 

 ささっと駆け足で走り去っていく悟空。 それをなんら問題なく見送った彼はつい数日前のことを思い出していた。

 

――メシは、自給自足で頼む。

 

 こと、コレに関して最初は文句を言い放った悟空だが、ランスターの家で碌な(金銭的な意味で)物が出てこないと知るや、自身のお気に入りの怪獣のしっぽを求めて管理外世界を勝手に闊歩する生活を繰り返していた。

 

 当然、転送ポートの人間にはティーダの尽力の甲斐あって協力を付けてある。

 

 このことに関して、ティーダ自身腑に落ちないことの連続だったが“こちらの都合が悪くなると、なぜか向こうに緊急の連絡がはいって意見が通る”のだ。 そんなことを三回も繰り返せば、ティーダにだって状況を察することも出来た。

 そう、つまり……そう言うことなのである。

 

「悟空の後ろには結構な人物が居るんだよな、そういえば」

 

 あの堕天使……もとい、祝福の女神さまを見てしまえばそういった結論にもなる。 そして、あの悟空という男の子の仲間が彼女だけとは到底思えない。 きっと、影ながら彼を支える人物がさらに居ると考えたティーダは、都合良く回った状況にあえて身を任せたのだ。

 

 彼が晩飯を狩りに行っているあいだ、ティーダはというとやることが一切無い。 いや、決して彼が仕事をサボタージュしているわけではなく、なぜか都合良くいままでため込んでいた有休消化の案内が自身に来てしまったのだ。

 別に、とるつもりもなかった休み。 このまま年度明けに消滅させても良かったし、こういうのはいざというときのためにとっておくもんだと自負している。 まだ幼い“家族”を持つ彼にとって、緊急事態を見過ごすと言うことは、即一生の後悔に繋がるからだ。 休みは、いつでも取れるように保険をかけたかったのだ。

 だからとるつもりのなかった休みを、いきなり消化しろと言われた際にはひどく困惑した。 なにしろなんら計画もないのだ。 旅行どころか遊ぶ予定すら組めやしない。 そんな寂しさの積もった自身の人生に少しだけ目をつむると、彼はそのまま家へと戻っていく。

 

「ただいまー」

 

 良くあるマンションの、良くある一室。 決して広くない部屋に帰ってきた彼を迎える声は一つだけ。 この世で只1人の最愛の人物の出迎えを思い描き、少しだけ頬を緩ませた彼は手荷物を床に置きながら足音が近づいてくるのを待ち続けた。

 

「お帰りなさい、おにいちゃん」

「ただいま。 留守番できたか?」

「うん」

 

 パタパタとスリッパを鳴らしてやってきたそれ。 ティーダの膝下にギリギリ届いた背丈はまだ、幼さを強調させるには十分。 あまりにも幼いそれは、いいや彼女は、帰ってきたティーダに満面の笑みを見せると、そっと背後に視線を伸ばしていた。

 どうした? ティーダが聞くも、彼女はすぐに口を開くことが出来ず少しの間があく。

 

「あ、あのヒトは?」

「ん? ……あぁ、悟空か」

「帰ったの?」

「いいや、晩飯の調達だってよ」

「そ、そうなんだ……」

 

 少しだけ肩を下げたのを、ティーダは決して見逃さなかった。

 だが彼はそれをとがめようとは思わない。 誰にだって不得意はあるし、それは人間関係だって同じだろう。 偶々今回、彼女と少年とで相性が悪かった……というには、少女の反応はかなり微妙だ。

 しばらく天井を見上げたティーダは意を決したように座り込み、小さな背丈の彼女と視線を同じにする。

 

「その、だな。 何かあったのか? まさかとは思うが、アイツに意地悪でもされているのか?」

「え? そ、そんなことはないんだけど」

「じゃあどうしたんだ? 悟空が来て数日、なんだか様子が変だと思うぞ」

「…………だっておにいちゃんと二人っきりだったのに」

「え? アイツが来て数日、結構賑やかになったとは思うがな」

「…………そうじゃないんだよ」

「うーん、よくわからんが仲良くやってくれよ? アイツ、女の子に対して……というか、女の子の扱い自体わからん野生児だが、悪い奴じゃないんだ。 ただ、物の加減を知らないところがあるというかな」

「うん……それは大丈夫」

「ようし、一段落したところでこっちも夕飯の準備にかかろう。 ティアナ、お風呂の用意よろしく」

「わかった。 まかせて、おにいちゃん」

「おう」

 

 少女……ティアナと呼ばれた彼女は、兄からの願い事に息巻くと、お風呂場にかけだしていく。

 後ろからその光景を眺めるティーダの表情は若干の曇り模様。 そのさまは兄妹げんかを仲裁している父のようであった。

 

「はぁ、どうしてこうなったんだ?」

 

 重いため息が出るのは、仕方が無いことだった。

 孫悟空は本当に何かをしたわけではない。 その証拠に彼はティーダの言いつけを忠実に守り、指示されない限りエサは自分でとってくるし修行だって兄妹を巻き込むだなんて事はしなかった。

 彼にしては、本当に気が利いているし、コレにはティーダも予想外に驚いてはいる。

 

 だがそれでも妹の様子が変なのだ。

 

 いいや、理由はわかっている。

 

 ティアナは良い子で、気遣い上手だ。 それに奥ゆかしいところもある。 だからアレは――

 

「珍しく同年代の男の子に遭遇して照れているんだな? ははーん、もしくは惚れたか?」

 

 …………などと己給う姿は、意地悪な兄を通り越してゲスイ親戚のおじさんであった。

 

 おそらく間違っている解答のなか、なにやら思いついた彼。 スポンジ片手に風呂場で格闘している我が妹を眺めて、そっと微笑んた。

 

 

 

「だりゃあ!!」

 

 荒野の世界に子供の叫び声。 野生児が恐竜に拳をたたき込んでいた。

 こんな世界になぜ子供が? 疑問が浮かぶ光景も、その人物が孫悟空であるならば納得がいく。

 彼は見慣れた景色の中、やはり慣れた手つきで恐竜を火であぶり始める。 今夜は、丸焼きのようだ。

 

「へっへー。 ここの肉、結構うまいな。 もう3匹目だけど全然あきねえぞ」

 

 ……今夜“も”丸焼きのようであった。

 

「んっぐ! むぐむぐ!!」

 

 むさぼり、食らいつく彼。 残った骨を背後に放り投げつつ、あたりを見る。 地平線が見えるほどのだだっ広さ、そこに落ちていく真っ赤な夕焼けが少年の目を焼いた。 眼を細めながら、最後の肉を食い終わるとその場で立ち上がる。

 

 さぁ行くか。

 つぶやいた彼はこの世界の中心に向かい出す。

 中心。 それは彼が勝手に思っているだけで、別になにか超常的なものが存在しているわけではない。

 

「こんな変な機械ですんごい遠くに行けるなんてな。 どうなってんだろ?」

 

 いや、地球の一般常識からすれば目の前の“転送ポート”などかなり超常ではあるが、とにかく、あの程度彼の感覚からすればわけない物であって。 少しの疑問の後、どうでも良さそうにしっぽをうねうねと揺らすと大声を上げた。

 

「おーい、ティーダのとこにつれてっておくれよー!」

 

 悟空が優しく機会を叩くも、返事などしてくれる訳がない。 しかし今の悟空にはこれ以外に頼れる物などないし、帰還方法だって現状使えない。 だから、ここで待つしか無いのだ。

 

「少し早く来過ぎちまったかなぁ。 ティーダのヤツ、いつまで待っても迎えに来ねぇぞ」

 

 そう、孫悟空には魔法を使う術がない。 体内のジュエルシードが持つ莫大な魔力はある物の、それを彼が使いこなす日など訪れることもないだろう。 ならば、この転送ポートはどうやって使うか……

 誰かが迎えに来る以外にあり得ないだろう。 だから彼は待つしか無い。

 

 悟空が装置の前で待機して何分経っただろうか? あまりにも退屈で、つまらなくて。 危うく近くの恐竜に組み手を願う直前。 それはようやくやってきた。

 

「――――……っと、もう居たのか」

「あ、ティーダ!! おめえ随分遅かったな、おら待ちくたびれちまったぞ」

「わるいわるい。 わざとじゃないんだ……ていうかお前、日に日にメシの時間が短くなっては居ないか?」

「そうか? 確かにアイツの相手にも慣れてきたなぁ」

「……武道家というヤツはみなこうも短期間に恐竜の動きを見切れる物なのか?」

「ん? どうかしたか?」

「いや、なんでも」

 

 ティーダが転送ポートのコンソールに情報を入力していき、最後に魔力を注ぎ込めば彼等を元の世界に帰還させる準備が整う。 それを腕組みしながら待って居た悟空はしっぽを一振り。 ようやくと言った面持ちでティーダの後ろに移動すると、彼の作業終わりをじっと見続ける。

 その姿を見ることなく、男は独り言のように話しかけた。

 

「なぁ、悟空」

「なんだ?」

「ティア……あー、ティアナ、居るだろ?」

「……だれだ?」

「おいおい、同居人の名前くらい覚えてくれよ!? ……たく、ウチの妹だよ。 あのかわいい女の子」

「…………うーん、そういやなんかいた気がするなぁ」

「こいつマジかよ……」

 

 贔屓目抜きでも結構美少女なんだがなぁ……と思うティーダであった。

 

 まるで道ばたの小石程度の扱いに驚きを隠せず、妹の初恋が砕け散ったと思っている過保護気味なお兄さんは暫し、悟空の今後について考えたり妹のかわいさを思い出したりしながらコンソールをゆっくりと指で弾いた。

 

「ティアとさ、なにかあったのか?」

「なんでだ? おらアイツとは戦ってねえぞ」

「あいや、そうじゃなくてだな――というかおまえ、基準がそれってどうなんだ」

「でも少しだけ話したと思う」

「へぇ? 何話したんだ」

「あんな? おらがどこから来て、いつまで居るのかーって」

「なんて返したんだ? まさか命を狙われてるだなんて言ってないだろうな?」

「“おめぇの事”は話してねえからなぁ大丈夫なんじゃねえのか?」

「…………そ、そうだな。 そういえばそうだった。 で? 何話したんだ」

 

 悟空の発言で少しだけ冷や汗。 すかさず切り返したティーダは、知る。

 

 彼が……

 

「おら、パオズ山ってとこにいたんだ」

「異世界だな。 聞いてたとおりだ」

「そこでじいちゃんと2人で暮らしてたんだ。 武道もそこで習ったんだぞ」

「……へぇ」

 

 自分たちに近いと言うことを。

 素っ気なく、あまり食らいつかないように見えるのは外面だけだ。 内心では彼に対する興味が一気に吹き出してしまい、続きをせがむ言葉が喉元までせり上がる。 拳を握り、空いた手のひらでコンソールをもてあそぶと、ティーダはしばらく黙り込む。

 

「な、なぁ悟空。 おまえさ」

「どうした? なんか急におとなしくなったなぁ」

「別に何でも無い。 ……明日の晩飯はウチで食うか」

「え?」

「いや、たまには良いかなって」

「ふーん。 くれるってんならもらうぞ」

 

 少しだけそらした視線は、少しだけうれしそうなティーダであった。

 

 …………それが、まさかあんなことになるなんて。 このとき誰一人として想像していなかった。

 

 

 

 

 

 孫悟空が来てから、1月が経過する頃。

 

 あれから劇的な変化は、残念ながら無かったりする。

 ただ、以前に増してティーダが悟空に気安くなったり、悟空の修行風景を見学したりと、多少の変動はある。 だが、そこまでは只の日常だ。 悟空にとっての非日常はまだ訪れることがなかった。

 

 そんな、ごく普通の生活をしているなか、彼等は街に買い物へ繰り出していた。

 

「あいつらこねぇなあ」

「え? 誰か来るのか?」

「何言ってんだ。 おめえの命狙ってる奴らだろ? そろそろ襲いかかってきても良いんじゃねえのか?」

「…………そういや居たな、そんな奴ら」

 

 あまり印象にない。 自身が死にかけたはずの事だが、それは仕方が無いだろう。 なぜなら……

 

「あの人、インパクト強すぎたモンな……」

「あのひと?」

「いや、漆黒の堕天使……って表現で良いのだろうか」

「???」

「あぁ、ほら。 俺等助けてくれた女の人」

「おぉ! めっちゃ強かったあいつか!!」

「……お前の覚える基準はそこなのか」

「だって強かったろ? 一撃だもんなぁ」

「……お前も十分すごいけどな」

「んなことねえぞ。 おらなんてまだまだだ」

「そ、そうか」

 

 恐竜相手に無双する存在をまだまだと言う彼の世界に、言いしれぬ恐怖を感じたのは間違いない。

 ティーダが冷や汗かいている中、悟空は少しだけよそ見。 しっぽをユルユルと動かすと、今度は足を止める。

 

「なぁ、アレなんだ?」

「あれ? ……なんだ、人だかりが出来てるな」

 

 とあるショッピングモールの駐車場。 その敷地はざっと見積もって200メートル平方に及ぶだろう。 だが、そこにあるのは車ではなくヒト、人、ひと……集まる物達は皆、建物の方へなにやら叫び声を上げていた。

 

「祭りか?」

「まつり……じゃあうまいモンあるんか!?」

「思考の直結はやすぎるだろう……しかし、こんな時期に祭りなんてあったか?」

 

 ここに生まれ育った訳ではないが、数年はここに居るティーダ。 だからこそ、この特になんら情報も無い群衆に疑問を持つ。

 

「きっとみんなでメシ食ってんだ、早く行くぞ!」

「あ、ちょっと待てよ悟空! おいったら!」

「おーい! おらにも分けておくれよー!」

 

 走り出した悟空は止まらない。

 サーベルタイガーすら晩飯に変えるその脚力で走り出せば、ティーダに留める術などありはしなかった。

 

 悟空が走り出して2秒。 彼は群衆の最後尾にたどり着くと、その場で軽く跳ねる。 大人達の背丈で何をやっているのかがわからないのだ。

 

「連……盗……ですって」

「それで……こも……物騒だな」

「管理局は何やってるんだ」

「……お、おい大丈夫かよあの子」

 

「ん? こいつら何やってるんだ?」

 

 今の話を聞いたとしても、あまりぴんとこないのは悟空が目先のエサに釣られているから。 訳がわからない彼はただ、後ろに伸びたしっぽを緩やかに動かすだけである。

 そんな少年におくれて2分半、ようやく男が追付いた。

 

「おーい悟空……おまえ速すぎるんだよ」

「はは! 何言ってるんだ、おめえが遅いんだろ? だめだぞ、もう少し足腰鍛えないと。 基本だぞ?」

「あー、そうですね。 ブドウカさんのキホンですよねー」

「おうおう!」

「で、だ。 この人だかりはなんだったんだ? 大食いだのなんだのでも、ましてや祭りでもないそうじゃないか」

「んー、おらにもよくわかんねえ。 なんでもレンコンゴボーとかヒキコモリなんだってよ。 おめえの住んでるとこの祭りって聞いたことない名前だなぁ」

「……ばっちり聞いてるじゃないか、このバカ」

 

 悟空からの伝言ゲームを即座に解読したティーダは顔を上げる。 群衆と同じ視線の先には、固く閉められた窓が一つ。 どうやらあそこが、今回の事件の焦点らしい。

 

 そっと、ゆっくりと歩を進めると、ティーダは群衆の先頭に出る。

 

「4階建て。 ホームセンターとフードコート、その他が混じった最近よくある建物だな。 食料と道具がそろっている分、立て籠もるには最適ってか? される方は堪ったモンじゃない」

「フードコートってうまいのか? 食い物か?」

「いいからだまっててくれないか? いや、お前の活躍はもう少しだから、準備運動でもしててくれ」

「腹ごなしは食った後だろ?」

「……あぁ、お前はそう言うと思ったよ。 まったく、こっちは休暇中だぞ……いい加減にしてくれよな」

 

 なぜ、休みを取ってやったとたんにこんな仕事が来てしまうのか。 なにか騒動を引き起こす呪いでも浴びてしまったのかと不安になる男だが、横にいる悟空を見るとなぜだか自身の不幸がちっぽけに思えてくるのはなぜだろう。

 

「今度、もう少し突っ込んだ話をしてみるか……よし! 行くぞ!」

「お、店に入るんだな! おらわくわくしてきたぞ」

 

 男と少年が、周囲の疑問の視線を浴びながら、悠然と事件現場に入店していく――そのときである。

 

「おい、そこのお前達!」

 

 群衆からではない声に、悟空とティーダは声の方を向く。

 少しだけ遠くから聞こえた気がしたそれは、ショッピングモールの3階からの物であった。 彼等は、その窓枠から一個の人影を発見する。

 

「そんなに近づいて何をしようってんだ!?」

「なんだ?」

「……あ」

 

 そこには見たこともないような肌の色をした……コビトが居た。

 赤と青で彩られた中華帽をかぶった男が、窓枠に足をかけて身を乗り出しているのだ。

 

「さては貴様等、我々の計画をジャマしにきたのだろう!」

「あ、あーまぁ、そう言うことになるのかな?」

「…………」

 

 後頭部をボリボリかいているティーダは、まさに拍子抜けだった。 こうもあっさり顔を出してしまったお粗末な犯人。 その容姿も相まってなんというか……

 

「おまえ、バカだろ?」

「な! なんだと貴様―!! 我らがバ、バ……バカだとぉおお!!?」

「いやいや、だってそうだろう? お前等はいま籠城してて、不釣り合いなくらい大層な建物でかくれんぼと来たもんだ。 それがどうだ? こんな只の一般人に向かってキャンキャン怒鳴り散らして、しかも顔を出すなんて。 いまどきリトルスクールの3階生だって真似しない」

「ぐ、ぐぬぬぅ!」

 

 青い顔が真っ赤に沸騰したのは言うまでも無いだろう。

 男の馬鹿丸出しだ! という挑発に綺麗に乗っかった小男はここで懐に手を伸ばした。

 

「なんだ? 正解したからお菓子でもくれるのか? 良かったな悟空、ハラ減ってるんだろ?」

「アイツ案外良い奴だな」

「なに勝手に落ち着いてるんだバカどもが!! そんなわけあるか!!」

「ティーダ、違うってよ」

「……ふーん、そうか」

 

 良くある展開だと、慣れさえ感じさせるのは彼の職業柄仕方が無いだろう。 そして隣で不思議そうに小男を見上げている悟空もしかり。 というか、ティーダはまだ対処に徹している物の、悟空は完全に歯牙にもかけていない。

 相手を、脅威だと認識できていないのだ。

 

 ……する必要すら無いのだ。

 

 悟空の強さを知るからこそ、丸腰だろうがここまで余裕を見せていたティーダ。 だが、その涼しげな態度も、次に小男が見せた手札によって崩される。

 

 奥から、女の子の悲鳴が聞こえてきた。

 

「た、たすけて!」

「な!?」

「……あ、おんなだ」

「ぐふふ! そうだ、こっちには人質もいるのだ! どうだ! これで先ほどまでの余裕もなくなっただろう?」

「なんてことを……」

 

 それは小さな女の子だった。 階下から見ても低いとわかる背丈は、おそらく自身の妹と同じかそれ以下であろう。 それをまるで、見せびらかすかのように尽きだした小男は、ここで口元を歪めて見せた。

 

「汚いぞ!」

「へへーん! 卑怯もらっきょも大好物なのだー」

「……くっ。 小物の癖しやがって」

「えぐ……えぐっ」

「大丈夫だよ! すぐ助けに行くからな!」

「助けるぅ? どうやってぇ? ここから一歩も動けないのになぁ!?」

「な、に!?」

 

 驚愕、それと同じく展開される大型の機械。

 建物の一部が高速で展開すると、物騒な兵器へ構造を組み替えていく。 のどかだった場所には不釣り合いなそれは大型の砲身と、それを囲むように並び立つ小銃が10ほど。 一気に劣勢になった男は、だが、驚いたのはそこではなかった。

 

「し、質量兵器だと!?」

「驚いたか、なら貴様は魔導師だったのだな? どうだ恐れ入ったか!!」

「こんな物どうやって調達したんだ。 ミッドの管轄下では禁止されている物をいったい……」

「ぐふふふ……わーはっはっは! その顔が見たかったのだん! おーと動くな、コイツがどうなっても良いのか?」

「ひっ……」

「く、なんてヤツだ」

「…………」

 

 小男の挑発と、警告に先ほどまでの勢いを消されてしまったティーダ。 彼は歯ぎしりするとそのまま腰に剥けていた手をブラリと下ろしてしまう。 歯を軋ませると、未だ高笑いしている男をただ、睨み付ける。

 

 そもそも、なぜ男が重火器の前に屈したかと言えば、それは魔法が発達した故のルールがこの世界にできあがっているからだ。

 

「…………魔力の弾丸程度ならバリアジャケットで弾けるし、よほどのバカでなければ非殺傷を外すこともないだろう。 だが、まさかそれ以上のバカが居るとは思わなかった。 誤算、だった……」

「この世界ではお目にかからん火力が今、我々の手中にある! その意味をよぉく考えて、次に何をすれば良いかしっかりと考えるんだなぁ!」

「…………うーーん」

 

 ティーダはそれなりに腕は立つが、少しばかり成績の良い管理局員でしかない。

 マンガの主人公のように銃弾より速く動けないし、悪党を蹴散らし弱きを助けるなどという立派なことを平然と成し遂げられるかと言えば……NOだ。

 

 ここで一回引けば女の子の命だけは助かるだろう。 しかし、この状態で背中を向けると言うことは奴らの集中砲火を浴びると言うこと。 あんな物を斉射されれば自身の貧弱なバリアジャケットなどすぐに貫通させられるだろう。

 ……どう、すればいいか。 男は自問自答を繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 その苦労を果たして少年はわかっていたのだろうか。

 

 

 

 

 

「随分久しぶりだな。 おめえこんなところで何してんだ?」

『…………は?』

 

 事もあろうか、暢気に挨拶を繰り出したのは当然我らが孫悟空少年である。 彼は窓枠に身を乗りださんとする小男に対して、片手を上げて“いつもの”を見せると、まるで数年来の共に話しかけるような気軽さで近付いていくのだ。

 

「くそう! 馬鹿にして! 撃てー!」

「ん?」

「バカ! 悟空!!」

 

 一瞬で頭を沸騰させた小男は悟空の続きを聞かないままに銃口から火を吹かせた。

 

 少女の絶叫をBGMに、ティーダが苦悶に顔を歪める。

 いくら悟空でも、さすがにあの銃弾の嵐を前にしてはひとたまりも無いはず。 それは、次々にえぐられていくアスファルトを見て明らかだった。 あんな物を受けてしまえば“只の人間では塵も残らないだろう”

 

 ……そう、ただの人間だったなら。

 

「あ、あぁ……そんな」

「あいつ」

「ふは……ふはははは!! はぁぁあああああああああ…………ぁぁあああ!!??」

 

「おー、イテテ」

 

『どうして生きてるの!!?』

 

 煙幕の中から姿を現した男の子を中心に、ハチャメチャが波打ち広がっていく。

 耳をつんざく銃声は確実に本物だった。 ちゃちなトリックだとか、敵が手加減をしていただとか、狙いが奇跡的にそれていただかは決して無いのは、この場にいる誰もが見ても明らかだった。

 なら、なぜ彼は生きている?

 

 皆が驚愕しているさなか、この場で只一人、別の感情を抱く物がいた。

 

「お、おい……貴様……」

「なぁ、今のなんだ?」

 

 背筋を流れる汗が、とても冷たい。

 今まで感じたことのない寒気の中、小男は半年前の出来事を思い出していた。

 

「その、黒いツンツン頭に……変な色の胴着……」

「久しぶりに見つけたと思ったらやってることは変わんねえなおめえ」

「あ、あぁあああああのときの……ガキどもを攫ったときのオジャマムシ!! その姿、わかるぞ! 変身魔法とかそう言うので我らの目を欺こうとしたのだな!!」

「なんの事かわかんねぇけど、おめえまた悪いことしてるみてえだな“ピラフ”」

「あ、がが……相も変わらずマイペースなヤツめ……ワタシはイタメシだッ!!」

 

 青い顔を激怒の赤に変貌させた小男。

 知り合いか? などとティーダが悟空に聞くも、“ちょっとな”という返答が来るだけ。 まぁ、腐れ縁の一種だろうと流したら、今度はこちらの質問タイムだ。

 

「えっと、こっちにはお前の天敵が居るわけだが……どうする?」

「ど、どうする? ……そ、そりゃあどうにかしないといけないんだけど……って、貴様に関係なかろう! コレは我々とそのオジャマムシの問題だ!」

「……おまえ、いま完全に目的が変わってんだろう」

「うるさーい! 我らの野望達成にはその小僧は最大の障害なのだ! 予定が完全に狂ってしまったが、ここで始末出来ると思えばむしろ好都合だ!」

「悟空、どうする?」

「ん? 悪いことやってんならやっつけるしかねえだろ」

「お、おう。 そうだな」

 

 速攻で握り拳を作る悟空に、小男は一気に後ずさり。 あの、孫悟空という存在の恐ろしさはその身をもって思い知っているのだから仕方がない。 前は拳一発で大空の彼方にまで吹き飛ばされてしまった。 次はどんなお仕置きが待ち受けているのかなど、想像も出来ない。

 恐怖に身を支配された彼は既に片腕に拘束した人質の存在すら失念していた。

 

 だが、何より失念していたのはそんなことではなくて。

 

「え、ええい! このイタメシさまをなめるなよ! シュウ! マイ! こっち来て手伝え!!」

「どうしたんですか? ボス……って!」

「あ、あああの頭! まさかあのガキは!」

「リアクションは後だ! アレをやるぞ!」

 

 一気に窓枠から居なくなった、例の三人。 その姿にどこか懐かしさすら感じてしまうのは、記憶が無くても悟空の見に染みついた感覚というヤツだ。

 

「悟空! 奴らが逃げるぞ」

「いや、まだ逃げねんじゃねえのかな」

「なぜそう言いきれる?」

「まだロボットに乗ってねえしなぁ」

「ろ、ろぼ?」

 

 この少年、既にこの手のギャグは経験済みである。

 次に奴らの起こす行動を頭に思い描くと、ティーダと群衆を引き連れて少しだけ現場から離れる。

 そうして、悟空以外の皆が疑問の思いで建物を見つめること……50秒のことだ。

 

「ぐああああ! わ、わたしの店がぁぁああ!!」

「すげぇ、木っ端みじんだ」

「……アイツラ派手だな」

「ていうか籠城してたのに施設を自分でぶちこわすって……」

『バカだなぁ……』

 

 様々な声が聞こえる中、目の前の店をぶちこわしながら、悟空なじみの戦闘メカがその姿を現した。

 丸っこい胴体に細長い手足が2本ずつ。 うむ、まごう事なきピラフマシンである。

 

「がーはっはっは! これぞイタメシロボ! どうだ、驚いたか!!」

 

 ……少しだけ名称が違うのは、異世界の同一人物ゆえの誤差なのだろう。 だが、そんな些細なことは気にならなくて。

 

「ふーん」

「り、リアクション低っ!? いや、悟空、アレは俺の目から見ても結構なテクノロジーだと思うぞ?」

「そうかな? いままでとなんら変わらねえように思うけどなぁ」

 

 ティーダから見ても、いいや、この魔法世界から見れば目の前の戦闘ロボは明らかにロストテクノロジーに片足突っ込んでいる。

 目測だが、その装甲は通常の魔導師が使う射撃魔法は通さないだろうし、機動性もバカに出来た物ではない。 しかも、どうやら操縦が簡略化されているようで、まるで己が身体のようにコメディチックなリアクションすらとってみせる。 ……よほど、優秀なOSを積んでいるに違いない。

 

 ……などなど、ティーダがまじめに考察しているのだが、それでも悟空は驚きの表情を見せない。

 

「なぁ、もういいから女の子離して帰れよ」

「いいから!? バカにしよって! このイタメシメカはとっても強いんだぞ!? 借金に借金を重ねたトンでもメカなのだぞ! それに女の子だぁ? あんなモン、コックピットに入るわけ無いだろう、一機につき一人乗りだぞコレは! 狭いんだぞ?!」

「ふーん……」

「我が科学力、しかとその身に刻みつけてやる!」

「よくわかんねえけどそこまですげえこと出来るんなら、もっと別のことが出来るんじゃねえのか? ブルマみてぇに」

「世界征服以外の目的などあるわけがなぁーい! もうお話の時間は終わりだ! 行くぞお前達!」

『はい!』

 

 ピラフマシン、もとい。 イタメシロボが三機、悟空を一瞬で取り囲む。 マイ機がその腕を伸ばすと、一気に悟空へ殴りかかったのだ。 

 

「ご、悟空!?」

「あらよっと」

「……やっぱりよけるか、あいつ」

 

 むなしく何もない空間を通り過ぎた攻撃だが、そんな物は承知の上。 シュウ機が悟空の背後に回り込むと、今度は回し蹴りを見舞いする。

 

 ……などなど、いろいろと奮闘していく三人。

 明らかに対悟空戦闘を想定した動きは見事の一言に尽きようか。 それは、この場面を見ていた群衆が言葉を失っていることからも明らかである。

 ロボを操る特性上、どうしても出来てしまう視界の隙は、それぞれの視界でカバーしあい、一人が隙を作ってもう二人がこうげきに専念する。

 

 本当に見事なチームワークだ。 ……が。

 

「よっと」

「ええい! ちょこまかと! あたりさえすれば……!」

「ほほい!」

「こいつ本当にニンゲンなんですかボス! オイラなんだか信じられませんぜ」

「でりゃあ!」

「ウソ……タングステンカーバイトで覆った装甲がひしゃげた!? ど、どういう腕力なの!!」

 

 サーカスより曲芸で、F1よりも最速で、雷よりも強烈な一撃を見舞う少年に、並の攻撃など意味を成さない。 どんな山よりも高く、空気の薄い“あの塔”で延々と壺盗りを繰り返していた悟空にスタミナ切れもあり得ない。

 彼等の敗色は濃厚である。

 

 だから小男は、ここでさらなる奥の手を講じるのだ。

 

「よぉし、こうなったらアレをやるぞ!」

「あ、アレですか!? でもまだプログラムが完全では……」

「そうです、無茶ですよ!」

「そんなモン! やってみなけりゃわからん! いいからやるぞ!」

『は、はい!』

「なんだかアイツラの方が主役じみてきたなぁ」

「ん? なんかするんか?」

 

 いきなり動きに変化が加わる。 

 円の動きだったのが、いきなり一直線に変わると、奴らは背部のバーナーを点火。 そのまま上空に舞い上がった。

 

「ま、まさかアイツラ!!」

「お、わかるのか? ティーダ」

「ロボットが三機いて、お前みたいな強敵に出会ったらやる事なんて一つしか無いだろ普通!! やつら、やる気だ――」

 

「シュウ、マイ! 合体だ!!」

『はい!』

 

 フォーメーションは縦一列。

 上からイタメシ、マイ、シュウの順番に機体をそろえると、各部に変化が起こる。

 マイ機の足が格納され、その下にシュウ機がドッキング。 足のかかと部が伸長、大地をたくましく踏み込む。

 

 その二機の上からイタメシ機が着地。 三つの心が一つになり、いま新たな力がこの地上に産声を上げる!!

 

「完成! グレートイタメシ…………ロボォォオオオ!!」

「かめはめ……波ぁぁああ!」

『ギィィアアアアア!!』

「こいつ、迷いってモンがないな」

 

 まさかの一撃必殺に周囲が沸く。

 何だかえらく迫力を醸したが、それ故に一撃という名で下した悟空の強さが引き立ってしまう。

 

 ……というか。

 

「おめえたち、なんでいちいちひとまとめになっちまったんだ? ばらばらの方が狙いにくくて、手こずったのにな」

「な、なんてこった…………がく」

 

 えらく残念な理由で本領を発揮できなかったイタメシメカはコックピット以外は消滅。 手のひらから煙を出している悟空を眼下に、ティーダはメカの残骸に足を運ぶ。

 もう、戦闘力も残っていないイタメシに対して、彼は非常な判断を下した。

 

「時空管理局だ……その、誘拐、窃盗および器物破損にあぁ~そういえば質量兵器も使ってたな。 とにかく現行犯で逮捕だ!」

「お、おまえ管理局員だったのか……ガク!」

「まずは救急車か。 おーい悟空、ちょっと手伝ってくれ!」

 

 悟空の腕力で壊れた機械群と、そこら辺の取り合えずの整地を終わらせると、おくれてきた武装隊にイタメシの身を預けてやるティーダ。 その後ろで小さな女の子が救急車に乗せられていくのを見送る悟空は、ハラに手を添えた。

 

「ん~」

「どうした? まさか、怪我でもしたのか?」

「ハラ、減ったぞ」

「……まぁ、そうだと思ったけどな」

 

 何か食いに行くかと、つぶやいたティーダだが、財布を開けた途端に表情が曇り空。 すぐさまあたりを見渡すと、デカデカと張られた“大食い”“時間制限”と言う表記のポスターが貼られた飲食店に向かい、悟空を見事誘導することになったのだ。

 

「すんませーん、一食いいですかー?」

 

 その言葉を最後に、店主の記憶は無い。

 あるのは大量に開けられた在庫と、採算の合わない調理の後だけであった……

 

 しばらく後、そこら周囲一帯の看板から大食いという単語が消えてしまうのだが、それは今後悟空には関係ない話である。

 店を出て行き、食後の運動と言わんばかりに歩き出す彼等。 いや、ティーダの方はほとんど口にしないで居たが、なにぶん悟空の摂取量が分けわからない。 とりあえずの意味も込めて、必要かどうかわからないが、少しの運動をすることにしたのだ。

 

「などと、言い訳がましく述べたが、実はこれから買い物です。 悟空君、荷物持ちの方よろしく」

「メシおごってもらったしな。 おらは良いぞ。 何買うんだ?」

「ウチの洗濯機がうなり声を出すようになったからな、奮発して新しいのを買うんだ」

「あぁ! あの勝手に服とか綺麗にしてくれるヤツだろ? 亀仙人のじっちゃんところで、よくランチが使ってたな」

「ランチ……なんというか、お前の居たところは随分と」

「なんだ?」

「特徴的な名前が多いなと」

「そうか? そんな事ねえと思うんだけどな」

「いやいや……」

 

 この男がカプセルコーポレーションにたどり着いたとして、いったいどのような顔をするのかは興味が尽きないが、おそらくこの先そんな機会はない。

 男の興味がそれた頃、孫悟空はおもむろに空を見上げた。

 大きな雲に青い空。 ご機嫌な陽気に恵まれた本日だが、いろいろなことが起きた。

 

 久方ぶりの“うんどう”だった物でいささか気分転換になっただろう本日。 そっと両腕を上げるとのびのポーズ。 しっぽも伸ばして何だか気持ちよさそうだ。 その姿がどことなく野生動物のソレに見えてしまったのはティーダだけの秘密にしておくとして、彼等は目的の家電ショップに向かう。

 

「値段は8万までなら……もうすぐボーナスだし……うむむ」

「買い物長引くならそこら辺で待ってるぞ。 おめえ考え込むと長いからな」

「あ、あぁ。 それじゃあ30分ぐらいで戻って来てくれ。 ソレまでには終わらせておくさ」

「おう、わかった。 んじゃ」

「気をつけてけよー!」

 

 退屈しのぎで適当に闊歩しはじめた悟空。 目的地はないのだろうが、彼の本質的に一所にとどまる事が出来ないのは、この数週間で嫌と言うほど思い知っている。 だから、適当にうろつかせる事を即座に選ばせたティーダの悟空への信頼度もなかなかの数値である。

 

 男の買い物が始まり既に25分。 たった一機の洗濯機だが、男手一つで二人分の家庭を支える身となれば家電一つとっても長考が必須。 彼の選択は困難を極めた。

 

「あの、店員さん。 もう少しお値段を相談できないですかね?」

「これ以上は……はい、申し訳ありません」

「そ、そうですよね」

 

 極めた上で、なんと値切り交渉を15分にかけて行っていたとは誰も思うまい。

 一目見て、コレだと思いそれでもほかと比べること10分の格闘。 そこからネチネチと“おはなし”を続ける彼を相手する店員の笑顔もそろそろ限界だろう。

 そろそろ引き時か……管理局で鍛え上げた戦術観が彼に告げると、財布を取り出し中身を確認した、そのときである。

 

「――――ッ!!」

「ん? なんだ?」

 

 不意に聞こえてきた不協和音。 怒声とも悲鳴とも付かない叫び声だと認識したときには、一人、何者かが通り過ぎていった。 

 

「ひったくりだ! だれか止めてーー!」

「…………最近は物騒だな。 強盗の次はこそ泥ってか? ――まったくよ!」

 

 取り出した財布を懐にしまうと、ティーダは過ぎ去った人影に全力疾走をかました。

 いくらスタートが遅れようとも、こちらは現職の管理局員。 伊達に訓練など重ねては居ない、素人の俊足程度ならば対応は容易い。

 

「待て、管理局だ! 今すぐ止まれば罪は軽いぞ」

「…………っ!」

「3、2、1……はい、窃盗罪と警告無視っと」

 

 懐から銃器を取り出すと照準を合わせる。 走りながらだと盛大に手ぶれを起こすのだが、そこはやはり鍛えられた局員。 犯人が走るリズムと、自身の振動、手ぶれ、反動その他を一呼吸で一致させれば、すかさずトリガーを引く。

 

 ――犯人の右足横を魔力弾が通り過ぎる。

 

「クソ、撃ってきやがった」

「外したんじゃない、今のは威嚇射撃だからな?」

「……く、ハッタリに決まってる」

 

 かすれる声。 呼吸もままならないと言った犯人に対し、次弾発射の準備を終えたティーダ。 魔法の設定は当然非殺傷、多少の衝撃はあるが、これでおとなしくなるはずだ。 彼は犯人の右肩を狙い引き金を引く。

 

「くっ!」

「ちっ。 曲がり角!」

 

 “運悪く”発射のタイミングでコーナーに突入。 壁が銃弾を遮る。

 悪態をつきつつも走る足に気合を入れ直すティーダ。 前を行く犯人と違い、構えながらの走法は普通よりも体力の消耗が多い。

 立ち止まれば狙いやすいが、今のように曲がり角を何度も利用されれば見失う恐れもある。 止まることは選択しに入れられない。 ティーダは一度照準を外して両腕を振った。

 

「待てコノヤロー!」

「へ、へへ……もう少し……もう少しで……」

「あぁちょこまかと。 いいとこで銃弾が壁に当たる」

 

 走り続けて1分強。 決定打と思い撃ち出した弾丸のことごとくを無力化されていけば焦燥に駆られる。 食い縛る歯、荒くなりつつある呼吸。 全身に酸素が供給されず、逆に堪っていく乳酸はティーダから精密さを消し去っていく。

 ランスターの弾丸は、犯人を追えなくなっていた。

 

 さらにもう一分、今度はY路地にたどり着く。

 

「こっちに――」

「いくんじゃねえ!! 左だ!」

 

 犯人の進路上に弾丸を乱射、無理矢理左へ走らせる。

 そう、曲がりなりにも自宅近所の、しかも裏道を走っているのだ。

 

「はっ、はっ、ぐっ!」

「右右左! 今度も左ィィッ!!」

 

 ティーダは自身の土地勘を総動員させながらヤツの進路を段々と操っていく。 ……そう、確実に弾丸をぶちこめるその場所へと。

 

「く、くそ! 行き止まりか!!」

「デッドエンド。 どうだい、次はロッククライミングでもしてみるか?」

「このやろう……」

 

 路地裏、いわゆる袋小路へと追い詰めたティーダは今度こそ標的に照準を合わせた。 どこに当たろうが確実に気絶させてやると息巻いているその表情は鬼だが、殺そうとしないあたりまだ有情……だろうか?

 散々手間をかかせた問題児に、今度こそ最後通告を言い渡す。

 

「とりあえずくたばっとけ!」

「ちょ、おまっ! 仮にも管理局員が銃持ってその発言はいいのかよ!?」

「うっさい! こちとら休暇中にだ、既に誘拐事件を解決したその午後にもう一件遭遇してんだ! なんなんだ!? 普段は無駄に雑務処理させてくるくせに肝心の休みに働かせるってのは!!」

「そんなのオレには関係ねえ!」

「お前のせいだろうが!!」

 

 叫んだティーダがトリガーを引けば、犯人の側頭部に魔力弾がかすめる。

 絹を裂くような叫び声の後、ガクリと膝から崩れてしまう彼。 そんな光景を見たとしても、上がりに上がったティーダのボルテージは決して冷めない。 ……エンジン全開である。

 

「さぁ、さっさと逝ってもらうかぁ!」

「て、てめぇ! いま非殺傷の――」

「解くわけねえだろてめえみたいなこそ泥相手に。 少し魔力を込め過ぎただけで、当たっても3日間目が覚めない程度だ」

「おっ、おまえそれ十分やり過ぎだろうが!? ……っく、こうなったら――」

「なんだ?」

「センセー! 助けてください、センセー!!」

 

 犯人のタスケを請う叫びに、どこか時代劇な雰囲気を思うティーダ。 こんな下っ端の、そしてこのようなお粗末な事件にわざわざ助っ人を……? 一瞬の疑念だが、どうでもいいと切って捨てた彼は……

 

 

 即座に後悔した。

 

 

「……ふむ。 貴様、どこかで……?」

「お、おまえ…………」

 

 今度は自分が、旧知の顔に遭遇するだなんておもいもしなかった。

 思い起こされる、たった一月前の光景。 あの赤茶けた大地と生い茂る緑との境界で遭遇した、自身を殺した影。

 あの時の女が、殺意のない顔でこちらを視界に入れているのだ。

 

「……ど、どうして、こんなところに」

「……なんだ? おまえ、この姐さんと知り合いなのか?」

「…………」

 

 ――盗人の言葉など既に耳に入らない。

 ――その手に握る銃のリミッターは既に切り落とし。

 ――心を氷のように冷徹に、目の前の障害を排除する決意を固め。

 ――何らためらいもなく、その手の凶器を現れた女に突き出した。

 

 あまりにも激変した雰囲気に、盗人は既に心身が凍り付き、身動きの一つもとれずに息を潜めた。 ソレとは正反対に、たかが魔導師の男一人に牙を向けられた女は、どうしてか首をかしげる。

 

「どうかしたのか? 初対面の相手に非殺傷を解くなど。 それでも管理局員か?」

「……どういう神経したらそんな言葉が出るんだ、てめぇ。 一回は人のこと殺しているくせによ」

「ほう? わたしがか? ソレは面白い誘導尋問だ」

「残念だが現行犯だぜ? 何せ殺した相手は………………」

 

 視線が合えば臆してしまうだろう。 だから、相手の心臓に照準を決めると即座にトリガーを引いた。

 

「オレだからな!!」

「……訳のわからないことを」

 

 あのときの仮を返さんとばかりの猛攻。 両手に持った銃から吹き出す魔力弾は、あのときとは違い一切の迷いがない。 だが、いくら心を氷に変えたとしても、対峙した相手が悪かった。

 彼の弾丸は、すべて当たらず躱されてしまう。

 

「動きの変化、相手の挙動に対する正確な射撃。 躊躇のない武器選択……いいセンスだ」

「コイツ……くそ、やはり俺程度じゃ話にならんか!」

「しかしコレではますます腑に落ちない。 これほどの腕を持っている相手を一度は殺した……わたしが? ライブラリにすらないこの男をか?」

 

 よけつつ、思考を続ける彼女。 右目が妖しく光るさまはコンピューターのインジケータランプのようでいて、全く人間性を感じさせない。 だがソレを気に出来るほどの余裕がないティーダはとにかく“弾丸を走らせる”

 

「撃て……撃つんだ」

「当たらないな。 ……精度が少しずつ落ちている。 幕切れか」

「もうすぐ……もうすぐだ」

 

 男が精密射撃から乱射に切り替わったとみるなり、彼女はその鍛え上げられた身体を駆使して、なんと乱射された弾丸を縫うように動き始めた。 一歩、また一歩とこちらに近付いてくる彼女に、猛攻を仕掛けながらも、確実に押されていくティーダは、左手に持ったデバイスの先端を変形させる。

 

「ダガー!」

「魔力刃? ……粋な真似を」

 

 ナイフほどの魔力刃を形成した銃を懐まで振りかぶり、横に凪ぐ。 不意の戦術変化に女はバックステップ。 距離をとらされた。 男の些細な反抗に若干の舌打ち、だが、ソレと同時にわき上がってくるのは好感である。

 

「なかなか面白い」

「いまのでダメージ無しかよ、化け物め」

「一応、女性に向かってその発言はどうなんだ?」

「心にもないことを」

「……ふふ」

 

 ただ、その好感というのが歪な物打というのは、お互いにわかっていた。

 

 双方がにらみ合っている間、すっかり蚊帳の外に置かれた盗人だが手に持ったバッグを抱きしめるように這いずり回ると女の影に隠れていく。 自身を追っていた存在の戦いを見て、ようやく自らが置かれた状況を理解したのだろう。

 そして、自身の盾になった彼女の強さを見て、勝利を確信してしまったのだろう。 ……彼はここでいらない茶々を入れてしまう。

 

「へ、へへあんな奴倒して、さっさとこの宝石を届けちまいやしょうよ」

「……」

「宝石? お前、いったいその男に何をさせたんだ」

「……余計なことをベラベラと」

「あ、姐さん?」

 

 彼女の持つ雰囲気ががらりと変わる。

 ティーダに対する視線とは真逆な、途轍もない冷たい視線に、男が凍り付く。

 

「一目見たときから思っていたんだが、貴様のよう下郎は……目障りだ、もういい消えろ」

「…………あえ?」

「な、バカ! アイツ!!」

 

 そこから女が何をしようかだなんて、盗人には想像できなかった。 そう、所詮使いっ走りの自信が目的を果たせばどうなるかなど、くだらない報酬に眼が眩んでいる今ではわからないのだ。

 哀れな男に振り落とされるのは一撃必殺の威力を持った手刀。 女は容赦なく盗人の命を奪った――

 

「――うぉおおおお!!」

「ぐあ!?」

「……助けただと?」

 

 目の前で行われる殺人を、黙ってみていられる性分ならば、この男は時空管理局で訓練など積まない。 ほとんど反射的に動いた身体で、ぶち当たり、壁に激突しながら盗人を助けたティーダは即座に銃口を女へと向けた。

 自身のすぐ横で茫然自失になりかけている男の顔をはたきつつ、怒りに燃える表情で、怒声に近い言葉を投げつける。

 

「何も殺すことはねえだろうが! そこに、どんな事情があったとしても!」

「……その男の口の軽さは、我々にとって不利益でしかないと判断したまでだ」

「あ、あ……おれ、いま殺されたのか……?」

「んなモン決まってんだろ。 お前がなにしでかしたかわからんがな、あの女は人をその手にかけるのに躊躇しないヤツだ。 現に俺も瀕死の重体にされたことがある」

「お、おれ……そんなやばい奴らと……ひっぃ!」

「いいからそこを動くなよ」

「は、はぃ!」

 

 明らかにうろたえている盗人を見て今の言葉がウソでないと確信した。 あの女がどういった経路でこんなことをしているのかはわからないが、これでティーダのやることが定まった。

 

「この間は遅れをとったし、アンタがあの悟空よりも上手なのはわかってる」

「ほう、ソレなのにどうして?」

「ここで引いちまったら、俺は一生あんたという悪夢に怯える事になる。 それに、そんな姿“アイツ”に見せるわけにはいかないんだよ!」

「……ふふ」

 

 眼に活力が燃え上がるティーダを声に出して笑ったソレは嘲笑ではなく、確かな賛美が含まれていた。 この笑いの意味することがいまいちわからないが、察する時間など無い。

 トリガーを引けば弾丸が走り、女はソレを足運びだけで回避する。

 それはさっきの焼き写し。 彼の銃が女に通用しないと言うことを証明したと言うこと。

 だけど彼は撃つことをやめなかった。 魔力が全身を走ってくれる限り、女への攻撃をやめない。

 

「遅い、遅いぞ!」

「無茶苦茶だこの女、銃弾をよけるなんてよ!」

 

 それでも銃を撃ち続ける。 幸い質量兵器とは違い魔力が続く限りは弾切れの心配は無い。 だが、それでもこの女相手にはジリビンだ。 彼は少しずつ、確実に追い詰められていく。

 女は足下に転がっていた小石をかすめ取ると、そのまま勢いを殺さずティーダに投擲したのだ。 あの悟空と対峙できるほどの存在が放つ投擲は、比喩でなく銃と同等の速さと威力を与えた。

 ……ティーダの右手にある銃が、遠くに吹き飛ばされていく。

 

「取った!」

「――」

 

 圧倒的な隙を作らされた。

 だから懐に潜り込まれて、いつかの時と同じように腹部を鋭い衝撃が貫く事を彼は覚悟した。

 覚悟して、準備を完了していたのだ。

 

「あはははは!!」

「か、管理局の野郎が……あ、ぁぁ」

「…………」

 

 狭い空間に木霊する笑い声。 守ってくれていた存在を失って、悲観に暮れる盗人。 そして、腹部を貫かれたティーダ。 急所を的確に貫かれ、喋ることもなくただ、腹部から鮮血のしぶきを上げるのだった……

 

 上げる、はずだった。

 

「あはははは…………は、なんだ、これは?」

「…………」

「急所を貫いたが、普通ここまで無反応なものか? ショック反応すらないのはどういうことだ」

 

 痙攣も無く、それどころか血の一擲すら流さないのはどういうことか。

 この手は確かに男を貫いた、感覚もある。 だけど、その結果に対して女の疑念は膨らむばかりだ。 なぜだ――女が口にしようとしたとき、アラートが鳴り背後を警戒するシグナルが映し出された。

 

「な!? お前――――」

 

 振り返る寸前、その瞳が背後の人物を映し出そうかというそのとき。 彼女の身体に熱せられた銃口が押し当てられる。

 

「この距離ならよけられないな!!」

「なぜ!?」

「うぉぉぉおおおお!!」

 

 チャージされた魔力弾の接射は、見事女を貫いていく。 通常兵器では無い、非殺傷武器である弾丸は彼女の身体を傷つけずに“衝撃だけを与える”

 まるで亜音速で飛んでいく拳銃とほぼ同性能を誇る彼のデバイスを、威力を上げ、さらに至近距離から放たれた彼女のダメージは絶大である。 壁に叩きつけられ、静止した彼女に死にかけたはずのティーダが銃を突きつけた。

 

「幻惑の魔法だ、油断したな」

「あんた、そんなことが出来たのかい。 しかしなんであの姐さんはぼうっと立ってたりしてたんだい」

 

 盗人が驚愕してティーダを見上げる。

 幻惑は所詮錯覚に過ぎない。 視覚情報を騙すだけなので、触られたりすればソレが偽物だというのはすぐにわかる。 だが女はティーダを貫き、確かな感触をその手に掴んだはずだった。

 なぜ、そんな事が出来たかと言えば、決して彼が特別な才能があったわけでは無く……

 

「まぁ、言ってしまえばアイツ専用の幻術ってヤツだ」

「はぁ……?」

「……あのひとには感謝してもしきれんな。 本当に」

 

 影ながらに、そして悟空にでさえ秘密にしていた助力が今の彼を支えていたのだ。

 

「さて、俺というエサに食らいついた……訳じゃ無いが、半々で狙い通りだ。 このまま連絡して連れてってもらうか」

「そ、そうっすね。 こんなおっかねえ姐さん、ほったらかしには出来ねえっすよ」

「何言ってるんだ、もちろんお前もだからな」

「……そういえばそうか、まぁ死ぬよかいいっすよ」

「そうだな。 死ぬよりいいはずだ」

 

 腕ごと胴体をバインドで縛ると、そのまま中空に窓枠を作る。 光り輝くソレは通信用の魔法である。 ティーダは、つい最近自身のアドレス帳に登録した、とある番号へと連絡を入れた。

 

「………………うむ、出ないな」

「管理局の増援ですかい?」

「いんや、ソレよりもっと心強いところだ。 詳細は秘密だが」

「管理局より? そんなの、この世界どこを探しても無いでしょうに」

「……ま、普通はそうなんだけどな」

 

 ティーダにだって否定しきれる根拠は無かった。

 黒い翼がよぎってしまえば、根拠の無い自身は確信にだって変わってしまうのだから、あの女性は途轍もない影響力がある。 

 倒した女を渡して、どうなるのかはわからないが自身の手に余のは確かだと考えていたときだ。

 

「あれ?」

「……? どうかしたのか」

「あ、あの……そこに居た姐さんは?」

「は? ――な!?」

 

 居ない。 ほんの少しだけ、比喩で無く瞬きをした間に縛られた女が姿を消していた。 出入り口はティーダが今立ちふさがっている。 後は……あり得ないが空を飛ぶか転移魔法を使うしかない。

 混乱する状況に、なんとか気を落ち着かせると彼は意識を銃に集中した。

 

「ヤツめ、どこに行った? 来るなら来い……今度こそ仕留めてや――――」

「……そうそう同じ手を喰らうと思っているのか?」

「!!?」

 

 後ろ!

 今度はティーダが振り向きざまに吹き飛ばされる番だった。 ぐるぐると回る世界と、体中を駆け回り暴れる痛覚。 ケリか拳か、それとも武器で殴打されたのか、とにかく全身が激しい苦痛を訴えかける。

 不意打ちを見事に受けた彼は、波を噛みしめながら女を見上げる。

 

「今度は幻覚じゃないようだな。 だが驚いたぞ、まさかあれほど高度な術を使うとはな」

「や、やられた……のか」

「誇るがいい、只のニンゲンが我らに太刀打ちできたのだ。 ほんの少しといえな」

「はぁ……はぁ……」

 

 意識がぼやける。 どうやら一回の打撃では無く複数の連撃をもらったたらしい。 腹部、頭部、右腕。 それにあごを打たれて脳を揺らされたのか、下半身がいうことを効かない。

 

「楽しい時間はここまでのようだな。 あのソンゴクウ以外にここまで楽しませてくれる人物が居るとは思わなかった」

「あぐ……」

「残念だが……お別れだ」

「――――うっ!?」

 

 本当に、本当に別れを惜しむような悲しい顔を作ると女は…………ティーダの腹を貫いた。

 

「ティ……ア……ごめ………………」

「あ、アンタ!!」

「さて、次はお前の番だが……」

「ヒィィ!!」

 

 沈黙したティーダに、ただ悲鳴を上げることしか出来ない盗人。

 今度こそと、女がヤツの首を掴み、持ち上げると、ゆっくり手刀を引く。

 

「死にたくねぇ! 死にたくねえよぉ……」

「…………こんなつまらぬ命を守ってコイツも救われないな……消えろ!」

「ヒィィィイイイイ!!」

 

 男の断末魔が、響く。

 

 

 …………はずだった。

 

「おい、何やってんだおめえ! そいついやがってるだろ!」

 

 皆が振り向いた。

 黒い髪、茶色い尾を持つ少年が、なぜか息を切らせながらオンナを睨み付けていた。

 

 途轍もない嫌な予感が胸をかきむしったのだろう。 彼は一切の笑顔もなく、ついにこの現場に現れた。

 

 孫悟空はそこに居た…………

 


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