魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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第89話 悟空先輩、手本見せるってよ

 

 

「あの、わたし!」

「いやぁ、いまのはちぃと不味いなぁ」

「え、あの」

「さっきのあれだろ? おめえの使い魔ってやつだな?」

「あ、はい……すみません」

「うーん、あのレベルはあいつらには少し速いな……どうすっか」

 

 龍となったフリードを武空術で追いかける悟空。 だが、その表情に焦りはなく、むしろこれから起こるであろうハプニングに期待すら持っているかのよう。 あまりにも不謹慎なのだが、如何せん何があってもどうにか出来てしまう余裕が本当にあるのだからタチが悪い。

 そんな、ピッコロが見たら頭を抱えそうな孫悟空に対して、今回の当事者はもう気が気では無い。 先ほどの不可思議な能力、もしかしたらこの教官は自分たちが考える以上にとんでもない実力を秘めているのでは……? そして、あの状態になったフリードすらも上回る力を持っていたとしたら……?

 最悪の状況を思い浮かべると、涙目になって少女は訴える。

 

「あの! ふ、フリードはいま混乱してて……だからその!」

「え? あぁ、正気じゃねえってんだろ? 大ぇ丈夫、実は昔オラも経験あってさ、そういうのは大体覚えて無くて、気がついたら辺り一面焼け野原にしちまうんだ。 だから、速くとめないとな」

「あ……え、そう、なんですけど……」

 

 やけに物わかりが良すぎる悟空に、少女はあっけにとられてしまう。

 想像すら出来ないだろう、まさかあの龍が引き起こした暴走と変身、その一連の流れをすべて“彼自身が親子共々”経験しているだなんて。 考えすら及ばない少女だが、ここで悟空が進路を変えていくことに気がつく。 まさか、この期に及んで狼狽えたとでも? 小さな疑念を晴らすべく、彼女は上目遣いながらに口を開く。

 

「か、カカロット……さん」

「どうした?」

「あの、飛んでく方向が微妙にずれている気が……」

「あぁ、このまま行くとそのフリードって奴に追付いちまうからな」

「どういうことですか? ま、まさか――」

「――へへ、あの二匹、新入りだけでどうにかできっか確かめねえとな」

「…………………はい?」

 

 凍り付く。

 今度こそ少女はこの男の言動を疑った。 あの、巨龍状態になったフリードと、山の怪物がかち合って居る中に新人をぶち込む? 確かにそう言ったのか? いや、もしかしたら先ほどの事故で自分の頭がどうにかなってしまい、聞き間違えているに違いない。 そんな好意的解釈をした少女は、改めて悟空に聞き直す。

 

「なにを、確かめるんですか?」

「そりゃあ、あの2匹に良い勝負が出来るかかな」

「……ひょ?」

「勝てれば及第点かな」

「あばばばばば」

 

 どうやら頭がどうにかしているのは教官の方らしい。 信じられない言葉の連続、勝てて及第点とはこれ如何に。 速くも少女の許容量は限界を超える。 アレを、どうにかする? どう見たって厄災級の、それも国一つを滅ぼせる戦力に新人10人で?

 

「あれくらいなんとか出来るようにならねえと、この先やってけねえぞ」

「…………わたし、とんでもないところに来ちゃった」

「どうした? 怖じ気づいたか?」

「はい、とっても」

「そうか……」

 

 などという悟空はとてもじゃないが落ち込んでいる風には見えず、ソレがなんとも不安をかき立てる。 そして、それは正しい。

 

「大ぇ丈夫」

「え? あ、――」

「すぐに、出来るようにしてやっさ!」

「…………アッハイ」

 

 少女の目から光りがなくなると、後悔の感情が呪詛のように吐き出されていく。 

 もとはと言えば自身の未熟からくる大失態。 それを尻ぬぐいしてもらうだけなのだが、どうにもその代償がとんでもないことになる予感がひしひしと、彼の眩しい笑顔から伝わってくる。

 実際にその予感が的中はするのだが、それはひとまず後回しだろう。 いまは、暴走した龍をどうにかするのが先決だ。 そう言わんばかりに悟空がフレアを巻き上げると、彼はいきなり音速の壁を突き破るのであった。

 

 

 

 

 

 

 悟空到着まで、あと5分。

 

 知らず知らずのうちに決戦の地となった山の中で、新人達はいま地獄をさまようこととなった。

 ティアナ発案、それをもとに作戦を立てた彼等。 部隊を半数に分けて、一方を陽動にしつつ背後から強烈な一撃をかますという奇襲に打って出たのだが……だが。 彼等は考えもしなかったのだ。

 

 奇襲とは、戦力が高い少数が居てこそ発揮できる代物なのだと。

 

 故にいまだ幼少期の悟空すら超えていない甘チャンに、あの山の怪物を相手に一撃離脱などあり得ないわけで。

 

「行くぞ! 必殺――――」

「グォォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「え、気づかれた!?」

「やべえ! コッチ向かって何か跳んでくる――うぉぉぉぉ!!?」

 

 野生の勘か、はたまたこの怪物にも気を探知する術があるのか、陽動に見向きもしなかった龍は、一発の駆けに出ようとしていたスバルを眼下に納めた途端、一気に口を開いたのだ。 瞬間、高熱が迸ると閃光が駆け抜ける。

 

「ブレス来るぞ!」

「プロテクション、いける人速く!!」

「もう準備してるって!!」

「間に合え、間に合え!!」

 

 阿鼻叫喚の中でなんとか張られた防御魔法。 だが、その壁のなんと脆弱なものか。 おそらく界王のこさえた特製道着の方がまだ機能するのではないかという障子紙ぶりに、あっけなく龍の閃光を素通りさせてしまう。

 

 山の一片が爆散し、辺り一帯が灼熱の地獄へと変わり果てる。

 

 その中で幸運にも生き残った新入り達。 しかし焼け焦げた大地はカラダを焼き、昇る煙に視界が遮られ、轟く怒号が正常な思考を奪い去っていく。

 

「けほ、けほ……」

「大丈夫?……ティア」

「えぇ、アンタが最後にムリヤリあの化け物へ放った一撃が、攻撃を反らしてくれたみたい。 あれがなかったらいま頃焼死体よ」

「よかった」

「……あんまりよくもないけどね」

 

 奇襲作戦が頓挫し、痛恨の一撃をもらった新人一同にもはや勝ちの目はない。 だが、それでも立ち上がる者が居るのだ。

 

「負けて溜まるか……こんなところでボクは立ち止まれない……」

「あ、あの子」

 

 それは、槍の子供であった。

 その少年は無謀にも怪物の前で立ち上がるのだ。 瞳に映る焼け焦げた世界を見た上で、震える手足で立ち上がって見せたのだ。

 

「い、いくぞ……!」

「よし、アタシも!!」

『うぉぉぉおおおおおッ!!!』

「あぁーもう! どうしてあたしの周りはこうも根性が決まったやつしか居ないのよ!!」

 

 釣られてガントレットを回転させていくスバルと、残り僅かな魔力を弾丸生成に廻すティアナ。 ここで立ち上がる気概は良い物の、ソレが逆転の鍵になるかと言われれば、違うだろう。

 十分に理解出来ているティアナは、突撃兵二名の首根っこを掴んでにらめっこの体勢に入る。

 

「あんたらが元気なのはよくわかった。 でも勝手に突っ走らない」

「は、はい!」

「えーそれはないよティア。 もう凄い勢いでやる気出てきたってところだったんだよ?」

「やる気と死ぬ気であの怪物を倒せるんだったら、アンタの最初の一撃で終わってんのよ! いい? そう言うことが出来るのはよほど鍛錬を積んだ達人が、追い込まれて追い込まれてようやく出した一撃なの! あたしたちじゃまだ無理なの」

「……うん」

「もう、なにしょげてるのよ。 そりゃ“あのひと”みたいに出来れば良いとは思うけど、何事も順序ってのがあるでしょ?」

「そうだね。 わかったよティア」

「あんたも、いい?」

「はい、すみませんでした」

「よろしい」

 

 ようやく収まってくれた気合の塊2名。 その様子を見たティアナがこっそりと胸をなで下ろすと、この状況をひっくり返す策を探していく。

 

 全長18メートル、体重はおおよそ一般的なトレーラーの重量20トンは超えて居るであろう巨体。

 山岳地帯から動かない習性。

 遠距離から撃たれるブレス。

 

 一連の行動はこの身ですべて体験した。 一挙手一投足を見逃さず、奴の戦力はアタマにたたき込んでやった。 

 

「ティア、どうするの?」

「どうするって、そんなもの決まってるじゃない」

「なにか良い考えがあるんですか?!」

「……あれだけデカいならさぞ景気のいい落ちっぷりが拝めるわよ」

「??」

「ちょっと、ティアまさか……」

「あの怪物を山から突き落とすのよ!!」

『……えっ?』

 

 それは奇しくも大昔になのはがひらめいた作戦であった。

 

 言ってしまえば滑落作戦である。

 事前に足場を弱くしておいた崖っぷちに奴をおびき寄せて、そこを全戦力で集中攻撃。 その攻撃で倒せれば御の字だが、それでもダメなら足場ごと奈落に落ちてもらう。 

 

「あの巨体が崖から落ちて無事で居られるとは思えない。 というかこの戦力じゃこれが精一杯よ」

「うまくいくのかなぁ。 なんだか行き当たりばったりな予感がする」

「さっきまで突撃脳だったアンタに言われたくない! というか、他に案があるなら是非ソッチに行かせてもらいたいわよ」

『…………』

 

 無言の満場一致は、皆の心に不安しか残さなかった。

 だがここでいつまでもじっとしていても問題が解決する訳でも無い。 残された手段に皆が心を決めると、彼等はすぐに行動に移った。

 

 奴が居る頂上手前、そのすぐそばにある崖付近で彼等のウチ3人が地面へと攻撃を撃ちだしていく。 地盤にまでは届かないかも知れない、だが、表層を切り崩してはその上に砕いた岩を振りかけて、さらに時限式の爆破魔法を仕掛けていく。 工事現場も驚きな突貫作業を終えた彼等は既に魔力枯渇寸前。 息も絶え絶えにのこりをティアナとスバル、さらに槍の少年にたくした。

 

「……二人とも、準備はいい?」

「心の準備だけなら」

「右に同じく」

 

 こっそりと、怪物の居る山頂手前に辿り着くティアナたち。 巨体を前にして一瞬だけ足が止まるが、ここまでの道のりで身を粉にした人達の顔が浮かび上がると下唇を噛む。

 

「…………やるわよ、覚悟して」

『了解』

 

 息を吸って、吐き出す。

 たったそれだけの動作すら数十秒の間隔を置かなければならない程の圧迫感は、あの怪物を本能的に畏れているからだ。 ティアナは密かに震える手を押さえつけて、奴を睨む。 正念場だ、ここでもしもあきらめてしまえば……あのヒトには、届かない。

 その言葉を飲み込み、銃器を握りしめるとティアナは開始の合図を撃ち放つ。

 

「行くわよ、みんな!!」

『おう!!』

 

 スバルが走り出す。

 怪物との対峙と、数日間のサバイバル生活で体力は限界のはずなのに、ソレすらも置いていく加速で彼女は怪物の視線を切る。 その後ろで少年が槍を構えると、光りとなって奴の真横を駆ける。

 

「切り裂け!!」

「打ち砕く!!」

「グォォオオオオオ!!?」

「よし、効いてる……!」

 

 体表を傷つけただけの攻撃。 それはティアナもわかっているが、たった二人の突撃であの怪物を前にしてそこまでの傷を付けさせたと言うべきだろう。 しかも注意を引くには十分な攻撃である。

 彼等は踵を返すとあっという間に撤退していく。

 

「へーい! こっちこっち!」

「こっちに来い! おまえの相手は僕たちだ!!」

「グオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 言葉がわかるのか、それとも頂点に君臨するもののプライド故か、小さき魔導師の挑発に乗っかる怪物は、尾を振り乱しながら彼等の後を追いかける。

 一歩踏みしめるごとに揺れる山に、ティアナは内心ほくそ笑む。

 

「す、スバルさん! あいつ思ったよりも足が速い!!」

「しかもなんだか口が赤くなってきてるし、ブレスが来そう。 もっと速く――」

 

 風のように駆け抜ける二人だが、迫り来る怪物はまるで重機関車の如く。 風を切り裂きながら突撃をする怪物は、やがて空気を焼き尽くす程の熱気を帯びる。

 

「スバル、あと10メートル」

「うぉぉぉおおおお!!」

 

 ブレスが来るまであと2秒。 放たれる火球は直撃すれば只ではすまない。 

 

「グォオオオ!!」

「来た、ブレス!!」

「スバル!!」

 

 間に合わなかった陽動。 攻撃が彼等を襲う数回の刹那に、スバルの瞳孔が一気に開かれる。

 

「……先に行って! ここはアタシが!!」

「ちょ、スバルさん!?」

「はぁぁぁぁ…………」

 

 急速反転。 身の丈ほどの火球を前に、むしろスバルは反撃に出る。 回転をはじめるガントレットに魔力を注ぎ込み破壊力を底上げしていく。 腕を弓のように引き絞り、大地を踏みしめると彼女は火球に向かって咆える。

 

 蒼い魔力光があたりを照らす。 それは彼女が知るよしもない“彼”の色と酷似した代物。 その輝きが決壊したとき、ブレスが彼女を呑み込まんと大地を破砕する。

 

「でりゃあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 瞬間、火球は霧散する。

 

 スバルが撃ち放った拳は、ガントレットの回転力により火球を撃ち貫いたのだ。

 

「す、すごい……」

「呆けちゃダメ! 速くコッチに!!」

「え、あの――!?」

 

 その輝きに目を奪われた少年の手を引き、スバルは即座に撤退を再開。 そうだ、彼等はようやく任務を完了したのだ。

 脆くなった地面、その上でさらにいま起きた衝撃が加わり、そしてそこにはいまから特大の攻撃が落ちてくるのだから。

 

「クロスファイア…………」

 

 いままで隠密に徹していたティアナの周囲にオレンジ色の魔力功が漂う。 それは、一つ一つが強烈な一撃を生み出す弾丸である。 彼女の詠唱と共にその数を10、20……おおよそ80もの弾丸を生み出すと、照準を定め心でトリガーを引く。

 

「シュート!!」

 

 その名の通り、十字砲火となって降り注ぐ80もの魔力弾。 しかし数発が怪物に当たるだけで大部分が的を外れる。

 蒼白となって言葉を失う少年、だが、その横でスバルは確かに言い放った……成功だ、と。

 

「キシャアアアアアア……………グォオオオオオオ!!?」

「よし! そのままおちろぉおおおおおお!!」

「いけえええええ!!」

 

 あらかじめ仕掛けておいた地雷と、クロスファイアの弾丸とが炸裂し、怪物を爆炎に包む。 大地が隆起し、崖が崩壊するとそのまま地の底へと奴を誘う。

 

「…………すごい、やったんだ」

 

 自由落下の中ですら咆える奴を眼下に、いまだ震えがやまぬ腕を押さえながら少年が息を吐く。 皆で考え、立ち向かった壁を乗り越えたのだ。 これほど達成感に満ちあふれた瞬間はない。

 槍を杖代わりにしながら、彼はゆっくりとティアナの方へと歩いて行く。

 

「み、みなさん――――」

「…………うそ」

「う、うごかないでよスバル。 さすがにこれは……」

「…………………………え?」

 

 そんな少年を迎え入れたのは、絶望に染まった二人の表情であった。

 

 何故そのような顔をするのか少年にはわからなかった。

 奴は確実に奈落の底へと沈んでいったし、間違いなく落下音も捉えた。 ならどうしてそんな顔をしてしまうのか? 思った彼の真上に、特大の影が落ちる。

 

「…………な、に……これ」

 

 巨大。 見下ろしたその影は夜にもかかわらずその闇よりも深く、おぞましく見えた。 既に呼吸すら出来ない張り詰めた空気の中、少年はついに振り返る。

 

 

 

「………………………グルゥゥゥ」

 

「あ、あ…………」

 

 真上には絶望が広がっていた。

 巨大な翼を広げ、暗闇の中ですら存在を主張するソレは、先ほどの怪物が小物に見えるほどの力強さで大地に降り立った。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「――――ひっ!?」

「まずい、まずいまずい――――」

「考えろ、考えろ……なにか在るはずだ……ナニカ…………!!」

 

 すぐそばに居た少年は既に戦意を喪失し、遠く離れたティアナは頭をかきむしる。 あまりにもあんまりな事態に、ここに居るすべての人間から正気が消え失せる。 ティアナもスバルでさえも、すべてを出し切ってしまい、もう、次なんて相手に出来ないのだから。

 眼下を睨む龍と目が合う。 その瞬間少年の運命は決まった……巨大な影が少年に落ちる。

 

「あ、ぁぁ……ああああああああああああああ!!」

「や、やめろーー!」

「くっ――!!?」

 

 地響きと共に、巨大な足に踏みつけられた少年。

 崩れ落ちた少女二人は、呆然とひび割れた大地を視界に納めることしか出来ない。 なざ、このような事になってしまったのか。 後悔が心を満たしていくと、彼女タチの瞳から涙がこぼれ落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 これは、流石にやり過ぎだったろう。

 

 

 

 

 

「おめぇたち、頑張ったな」

「グルゥウウウ!?」

「………………え?」

「――――――あっ!」

 

 ひび割れた大地の中心が、何故か異様にきれいな円を描いていた。 そこから聞こえてくる声は、少女2人には途轍もない安堵感を与えるものであり、信じられない事態に又夫呆然となる。

 だって、信じられるだろうか? 先ほどよりお巨大な怪物の足が、その意思に反して持ち上がっていくのだから。

 

「いやぁ、でもおめぇたち、まさかアイツをぶっ飛ばしちまうとは恐れ入ったぞ」

「こ、これは……どうなって……ボク」

 

 少年は信じられないモノを見た。

 圧倒的な質量をもつ龍の、ソレも体重をかけた踏みつけをあろう事か荷物の片付けのような気軽さで持ち上げる男が居たのだから。

 試験場には遅刻してきて、情報伝達は出来ないし、なんだか締まりの悪い説明会もやっていた。 そんな人物が、まるで冗談のような光景を展開していくのだ。

 

「グウウウウ!?」

「にしてもコイツは流石に無理があったな。 でも大丈夫、すこし修行すればこれくらいどうって事ねえぞ」

「あ、え??」

「なんだおめぇ、オラのはなし聞いてねえのか? そうか、これがはやてが言ってたアレだな“モンスター新人”って奴だな」

『いや、真のモンスターはアンタだろう!?』

「え?」

 

 この状況でとぼけていられるこの人物を、すべての新人局員が声を上げた。 力尽きたモノ、負傷で立ち上がれなかったモノもみんなだ。 その声に、何だかよくわからんと呟いた悟空は、上げた片腕をそっと払う。

 

「よっこらしょ」

「グギャアアアアアア!!?」

「あのドラゴンが足払い駆けられたみたいに……」

「夢でもみてるのかな……」

「ボク、死んじゃったからこれは走馬燈なんだ……ははっ」

 

 気軽にドラゴンを持ち上げてしまった彼は、既にこの山の雰囲気を塗り替えてしまう。

 

「あの、教官さん」

「ん? どうした、えっとおめぇはたしか……」

「キャロ……です。 教官さん、大丈夫……なんですか?」

「オラか? オラがどうかしたんか?」

「え、あの……いえ、なんでもないです」

 

 悟空に抱えられた龍の友、キャロと名乗った少女はこの時点でカカロット曹長を人外認定。 瞳からハイライトを消しながらニッコリと微笑みかけるのであった。

 それに笑顔で返した悟空は、そのままゆっくりと龍を放り投げる。

 

「ぎゃおうッ!?」

「おめぇたち本当によくやった。 でも、もう少しだけうまくやれたかもな」

「――な?!」

「……この人、何言ってるの」

「でた……“おじさん”の無茶苦茶」

 

 いきなりのダメだし。 いや、あの、なに言ってるのかわかんないんですけどと言いたげな新人達に対して、悟空は素知らぬ顔で特別講座へと勝手に進めていく。

 

「まずは、こんな巨大な敵が来たときの対処法だけどな」

「ぐ……ぐぉぉおおお!!」

 

 そう言った悟空に向かって龍が立ち上がり、突撃する。 大質量の攻撃に対して、悟空は基礎中の基礎を言い出した。

 

「まず、避ける」

「ぐおっ!?」

『ぶ、ブンシンした!!?』

 

 いきなり悟空の姿がブレて、龍の周りを取り囲む。 悟空が繰り出す残像拳に翻弄されるこの場に居る全員。 そのリアクションを無視して、彼の教育は進む。

 

「いいか? どんなに強力な攻撃も当たらなければ意味はねぇんだ。 だから、こうやって避ける」

「ぐお! ぐおおお!!」

「次にだけど」

「わ、わ!?」

「危ない!!」

 

 いちいち新人達に振り向いて解説する悟空に、巨大な尾が迫る――!!

 

「相手が予想外な攻撃を仕掛けてきたら、冷静になって受け止めるのもいいかもな」

「…………ねぇ、あのヒト棒立ちであの攻撃受けてるけど」

 

 爆音が当たりに響くが、肝心な悟空には一ミリも響いては居ないようだ……

 

 そろそろ龍の方が事態の深刻さを察し始め、悟空に対して警戒心を持つようになる。 ジリジリと足を動かすと、今度はなんと口から高熱を吐き出す。

 

「おっ、ほら、こんな感じで攻撃がくる」

「ブォォオオオオ!!」

「んで、こうやって受ける」

「…………あの、教官さんの手が眩しく光って炎が避けていくんだけど」

「………………ぼぇ」

「おじさん……やり過ぎ……」

 

 軽くかざした手の平を、まるで避けるかのように通り過ぎていく龍の火炎。 それをお口全開で眺めているティアナは残念ながら言葉すら忘れてしまっている。

 

「よし、相手の攻撃が切れたら次はコッチのバンだ!」

「ぐぉ!?」

「いま明らかに怪物が後ずさりしたけど」

「たぶんおじさんの恐ろしさを野生なりに理解したんだと思う……」

「ぼぇ…………」

 

 悟空が思いっきり腕を掲げ、そのまま振りかぶって居る。 ソレに立ち向かうべく、龍が尾を振り回そうと頭を低くした。

 

「………………こんな感じでフェイントいれて」

「――ブモ!?」

「あ、あれー?」

「なんか姿がブレたとおもったらーー!!?」

 

 振りかぶった先に、何故か悟空の満面の笑みが浮かんでいて……どうやら高速移動で奴の鼻っ面に現れたらしい。 驚愕する前に、悟空の拳骨が炸裂する。

 

「一気に殴りぬける!!!!」

「ブモ――――――――!!??」

『あぁ! 怪物が吹き飛んだ!!』

「いやぁぁあああ!! フリードーーーーーー!!!」

 

 巨体が浮き上がり、ドサリと倒れ込む。 既に怪物への挑戦だったはずが、孫悟空の“強いモノいじめ”とかした山頂で、彼等はついに朝日を拝む。 その、黄金の頭髪とあいまってまるで彼が後光を発した人外魔境にも思えてならない。

 そんな光景を見せられて、彼等が思うことは少ない。

 

「ば、ばけもの……」

「ちがう、アレは悪魔だ……」

「ううん、たしか戦闘民族って言ってた」

「…………ぼぇ」

 

 こうして孫悟空による新人研修は終わることとなった。

 今回、様々なアクシデントが起こったが、なんと死傷者ゼロ、軽傷者10人という悟空曹長史上最高の快挙を成し遂げた。

 

「よし! 今日はきちんとアドバイスも出来て、完璧だったな!」

『ぬーーん……』

 

 そのあとほぼ半分以上が転属願いを出したのは言うまでも無いだろう。 

 だがそれでも残ると言い放ったツワモノは居たようで、ソレには直属の上司であるはやては大きく安堵のため息を吐き出したのであった。

 

 

 これにて、第三回、孫悟空の新人研修を終了とするッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 3日後 病院のベッドで……

 

「…………はっ!?」

 

 目が、醒めた。

 少女は上半身を起こすとそのまま周囲を見渡す。 自身は先ほどまで地獄に居たはずだ、ならば速く逃げなければならない。 ……しかし、どう見渡してもここは平和な楽園にしか見えないのだ。 しばし首をかしげると、騒々しく医者が入室してくる。

 

「よかった! 患者が目を醒したぞ!!」

「あぁ、もうダメだと思ったのに」

「あの、どういうことですか……?」

『………………』

「え、なんで黙ってるの? こわい……」

 

 自身はどうやら相当危険な状態だったらしい。 しばらく問診を受けた後、退室した医師を見送る彼女はすぐさま思い出す、そう言えば大変なことになったのだ……と。

 

「…………わたし、とんでもないとこに就職しちゃったんだ」

 

 ため息交じりに吐き出した言葉は、聞くだけならばそんなことかと済まされる問題だ。 しかし実際に見てみればまぁ、なんと彼女に賛同したくなる現実か。

 

 まさか、入社早々幻想種2匹と死闘を演じる羽目になるだなんて誰も思わないだろう。

 

「そりゃ、はやく強くなりたいって思っては居たけど」

 

 性急すぎるし、難易度EXハードな訓練が実は只の研修だったなんて誰も信じてくれないだろう。 でも、あの出来事は確かに少女の子於呂をゴリゴリ削っていったのだ。

 ため息の一つ出して、なんら罰は当たらないだろう。

 

 そうやって時間だけを潰していくと、またも病室に誰かがやってくる。

 

「ごめんなさぁいッ!!」

「え、だれ!?」

 

 開口一番いきなり頭を下げはじめたのは、管理局の制服を着込んだ女性だ。 知り合いではないし、おそらく面識もない、無いのだが、どうにもどこかで見たような、知っているような……

 

「ごめんね、わたしの部下が無茶ばかりさせちゃったみたいで。 あのヒト普段はやる気が無いのに面白い人見つけるとすぐにちょっかい出しちゃう悪癖があって。 最近、ソレはなくなってきたと思ったんだけど……」

「あ、あの……いったいなにがなんだか」

「……カカロット曹長」

「――――」

「あぁ、気をしっかり!」

「大丈夫、です」

「PTSDには行ってないようやけど、兆候が見られる……どないしよ」

 

 おろおろしている上官の上官。 無理もない、ティアナは心の中で静かに呟いた。 なにせ自身の上司はあのカカロット曹長であり、あんなシッチャカメッチャカが部下になれば、誰だって胃薬を常備薬にするくらいのストレスを持つのは確定的だから。

 

「はは、大丈夫です…………きっと」

「うん、うん。 ごめんね、わたしからもキツく言っておくから」

「え? あ、はい」

 

 などと、少女達がお互いの苦労を察しながら心で涙を流していると、ドアも開いていないのに、室内にそっと、空気が入り込んでくる―――――…………

 

「おっす! ティアナ、元気してっか?」

「あ…………」

 

 入り込んだのは空気だけではない。 高い背丈に、あまり手入れのされていない黒い髪、それに、いつか見た山吹色の胴着姿。 そう、いま風と共に“孫悟空”はそこに居たのだ。

 

「悟空さん!!」

「お? なんだティアナ、随分げっそりしてんなぁ、風邪か?」

「何言ってるんごくう! これはもともとごくうが厳しいからやで」

「え? でもあのメニューははやてがウキウキで作ってた奴だろ?」

「そこにワクワクしながらあれこれ書き足したんはごくうや」

「あ、はは。 そういやそうだったな」

「え、まさかあの地獄……いや、あのじご……ううん、あの地獄のような――あうう」

「そうそう、あの修行はオラとはやてが考えたんだ。 どうだ、随分といい肩慣らしになっただろ?」

「……ノーコメントで」

 

 肩を慣すどころか、身体ごとほぐされてしまいそうだった。 想像以上のスパルタにティアナが頭を抱える。 抱えるが、その後に悟空がやらかした言葉を聞いて、その背筋はピンと、伸びることになる。

 

「でも、おめぇの友達だってあれくらいはガキんころには経験済みだもんな」

「え? あたしの……ですか?」

「あぁ、確かスバル、だっけか? あいつ、むかしオラに連れられていろんなとこに旅したもんだ」

「え? スバルが!」

 

 ……正確には次元世界で遭難して、ティアナの兄に保護してもらったのだが。

 

「ついでに言うと息子の悟飯なんか5才のときにはピッコロっちゅう昔大魔王だった奴と荒野で修行してたかんな」

「大魔王……? え? あの」

「あぁ、ごくうは仲間にいろんな人がおんねんな。 盗賊のヤムチャさんに、殺し屋の天津飯さん……とか」

 

 今更ながら、聞くだけでとんでもないメンツだ。

 このほかにはさらにとんでもない交友関係が有ったりするが、まぁ、それ以上は脱線するのでまた後日。 悟空はポカンとしたティアナの肩を叩き、ニカッと笑顔を飛ばして見せた。

 

「どうだった、修行!」

「え? あ、その」

「とんでもなかっただろ?」

「……はい」

 

 反して、ティアナの表情は優れない。 だって、あんなにいい笑顔をしている悟空に対して、自身はあの訓練でなにが出来ただろうか。 

 

――――あぁ、なんて情けない。

あの、とんでもない高見に居る存在に対して、自分がどれほどちっぽけなのか、痛いほど理解出来たティアナ。

 しかし、そんな彼女の心境、この男が把握など出来るはずもなく。

 

「あいつ相手にまさか一晩で決めちまうんだかんな。 オラがガキん頃なんてテンでたいしたことなかったって言うのに、すげえぞ」

「え……?!」

「いやぁ、流石ティーダのいもうとだ。 ガッツがちげえぞ」

「あうあう……!」

「オラ亀仙人のじっちゃんとこで修行してた時なんか、蜂に刺されたり恐竜に追いかけられて逃げ回ってるんだか牛乳配達してるんだかわかんなくなってさ、全然だめだめだったもんな」

「……え、なんですかその拷問は」

 

 無自覚の褒め殺しに照れるティアナだが、その後がよろしくなかった。 自身が思い描いていたこの男の強さの秘訣と言う奴が、かなり度を超えていたというのが、まぁ、わかった。

 

 しかし、だ。

 

「そんでさぁ、そのクリリンって奴が、オラのこと欺して――」

「え!? せっかく手に入れた課題の石を盗られちゃったんですか!?」

「けどそのときのメシがさ……はは!」

「そっか、その仙人さんのところで出された料理って、フグやったんやね」

「おかげで一ヶ月修行は中止だったもんな、あんときは退屈でどうにかなっちまいそうだった」

「あはははっ」

「でも、ごくう。 あの修行だけは絶対にダメやからね? ほら、重力室で」

「あれか……かめはめ波でひたすら痛めつけてく奴だろ? あれはやらねえよ、もうそんなに効果ねえし、つまんねえかんな」

「どういうことです?」

「そのまんまやね」

「……いや、よくわからないんですけど」

 

 この男が笑うと、自然と周囲も騒がしくなるのは確かであって。

 

 ソレに引っ張られるように、ティアナ・ランスターの憂鬱は終わりを迎えたのであった。

 

 …………そう、憂鬱だけなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぎゃああああああああああ!!」

 

 あれから、一週間後の昼下がり。

 ティアナは絶賛断末魔の練習中だったりする。

 

「はいそこ! 集中力切らすとえらいことになるぞ」

「無理! 無理です曹長どの!!」

「何言ってんだティアナ。 たかがこれくらいで根を上げちゃ、この先やってけねえぞ」

 

 金髪碧眼、カカロット曹長による『一週間で自分の殻をやぶれる!? スペシャルハードコース超絶修行編』 を慣行する事になった新人一同。

 悲鳴を上げているティアナの背中には真っ黒の亀甲羅が被さっており、アンダー、リストバンド、ブーツそのすべてが黒曜石のような光沢を出していて、しかも、それらを装備した上で彼女達はいま、森の中を駆け抜けているのだ。

 

 どうしてこんなことになったのか。

 なぜ、自身はこのような地獄を体験しているのか。

 断末魔の次にやってきた走馬燈を見ながら、彼女は過去回想に移るのであった。

 

 

 

 

「えっと、結局残ったのがおめぇ達4人になるわけだけども」

「は、はい!」

「よろしくお願いします」

「…………」さっ

「やっほーおじさーん!」

「スバル、いまちょっとだけ真剣な話だから、静かにな」

「はーい!」

 

 緊張でガチガチになったり、模範的な挨拶を入れたり、傍らにいた小動物をそっと隠したりと、様々な反応をする悟空教室改め、カカロットスクール。 あの、地獄のような修行というなのサバイバルを装った“ふるい”に残った精鋭達に、今日から悟空の本格的なレッスンが始まろうとしていた。

 

 場所は教室。

 またあのときのように荒野だったりしたらキャロあたりが泣きわめく訳だったが、今回は平気そうだ。

 

 

「よし、ちょうど良いから自己紹介やっか!」

「え、今更……?」

「まぁな。 こういっちゃ何だけど、オレは人の名前覚えるの苦手でさ。 しょっちゅうはやてに怒られるから大変なんだ」

「…………えぇ」

「だから、ここに居る4人はきちんと覚えるからな。 だからそんな顔すんな、ティアナ」

「………………ぁ」

 

 さっき覚えきれないと言っていた男に、いきなり自身の名前を呼ばれ困惑する。 そう言えば先ほどスバルの名前をきちんと言えていたし、もう既に、ここに居る4人は覚えたのだろうか?

 

「んで、コッチのドラゴン連れたのが…………タロ!」

「キャロ・ル・ルシエです」

「えぇ……」

 

 どうにも半分以上うろ覚えらしい。 しかも、女の子に対してその名前はあんまりである。

 

「そんで、ここで唯一男一人になっちまったな。 えっと?」

「エリオです。 エリオ・モンディアル。 あの! よ、よろしくお願いします!」

「ん? あぁ」

 

 緊張気味に差し出される右手。 ソレが好意的な挨拶だと、なんとなく雰囲気で受け取った彼は、そのままゆっくりと握り返す。

 

 何だか、見覚えのある光景で、ソレが随分と置くに見た、この世界で初めて出来た友人の姿を想起させると、彼はついつい、口を滑らす。

 

「オラ孫悟空だ、よろしくなエリオ」

『………………???』

「あ、おじさん」

「ん? どうかしたんかスバル?」

「いや、その。 名前って隠してるんじゃないの? お母さんがたしかそう言っていたような……」

「あ、やっべ!」

 

 孫悟空、痛恨のミス。 若干慌て、でも、すぐさま後頭部を掻くとしっぽが垂れ下がる。

 

「ま、いっか」

『いいの!?』

「まぁいいだろ、おめぇたちどう見ても悪人とかじゃねえし。 それに、ここで絶対頑張るぞーって、言う気合は十分見せてもらったしな」

「……ぁ」

「その……」

「あはは……」

「おじさん」

「てな訳で、ここじゃもう隠し事は無しだな。 もしかすっとあとでリンディ辺りにどやされるかもだけど、どうでも良いだろ」

 

 そういうと、全身から気を抜き、そのまま頭髪が垂れ下がる。

 

「え、黒髪……?」

「というか、あれって……しっぽ?」

 

 瞬間、スバルのよこで床にすっころがる音が。 慌てて助け起こすと、その人物は顔を真っ赤にして息を荒げていた。

 

「おいどうしたティアナ? 風邪でも引いたか」

「な、な、な――なんで悟空さんがここに居るんですか!? え、あの、と言うよりさっきの変身魔法って……でも悟空さんは魔法が絶対に使えなくてでもでも!!」

「いやまぁ、プレシア風に言えば超サイヤ人も魔法みてぇなもんか?」

「いったいどうなってるの」

「さ、さぁ……ボクにもわからない」

「……ティア、気がついてなかったんだ」

 

 悪名高き新人潰しのカカロット曹長が、まさかあの孫悟空だったなんて…………

 そんなティアナの中での一大スクープが現在進行形で流されていく中、普通に今日の予定を読み上げていく悟空。 あの厳しい新人研修を終えた新人達に、入社初めての仕事を与えなくてはならないのが今日の彼の任務である。

 

「んじゃ、今日から本格的な修行に移るわけだけど」

「あ、あの!」

「よし、エリオだな。 なんだ?」

「さっきから修行とかっておっしゃってますけど……あの、ソレってどういう意味なんですか?」

「なにって、不思議なこと聞くんだな。 修行は修行だ。 おめぇ達、基礎も出来てねえから、これからまずは身体作りからやってもらうかんな」

『………………』

「悟空さん直々の、特訓」

「ぐぁー! おじさんと!? ま、まずいよそれは……ど、どうしよう」

 

 キャロとエリオは目が点に。 ティアナはもうその瞳を燦然と輝かせて握り拳を作っている。

 そのなかで、最も正解なリアクションを作っていたのは、言うまでも無くスバル出会った。

 

「んでだ、おめぇ達には基礎中の基礎を固めてもらうつもりだけど。 そうだな、いきなり厳しくしすぎると全員やめちまうだろうからって、リンディが色々考えた奴があるんだけど。 まぁ、そいつは要らねえよな?」

「はいはいはーい!!! アタシソッチがいいデェェス!!」

「え? でもこれ、随分とつまんねえぞ?」

「滝を割ったり水面を走ったりしないなら別に何でも!」

「ふーん。 ま、いっか」

 

 スバルの熱い提案に、ナニカを察したキャロとエリオも同じくプレシアが用意した妥当なコースを選ぶ。

 しかし、しかしだ。 ここには一人“手遅れ”が存在していた。

 

「あたしは、要らないです!!」

「ちょ、ティア――」

「お! そうか、おめぇはやる気あんなぁ」

「当然です! 悟空さんに鍛えてもらうためにここに来たんですから!」

「そっかぁ、ティアナはやる気満々だなぁ」

『…………』

 

 そのときの笑顔は、この間フリードを文字通り瞬殺したあとの顔とまったく一緒だった。 子供達が背筋に汗を流すと、そうとも知らずにティアナの瞳にはメラメラと炎が燃え上がるのであった。

 

 

 

―――――――――――――結果。

 

 

 

「はーい! そんじゃその装備でこの崖昇ってみっか!」

「ぐぎぎ……重い…………」

「いや、ちょっとまっておじさん。 ティア一歩も動けてないんだけど」

「それにアレを僕たちも登るの?」

「いや、おめぇ達は向こうの林から頂上目指して、んで、またここに帰ってくるのは……そうだな、100週すっか」

「是非10分の一でお願いします!!」

「ダメだ」

「ひぃぃぃ」

「フリード、わたしもうだめかも……」

「キュルルル」

 

 新人達が既に限界である。 まだ始まって5分と経っていないのにこの様である。

 

 ……若干、厳しくしすぎたか?

 

 いつかの失敗を思い出した悟空は、ここで少しだけ一計を案じる。

 

「わかった、すこし予定を変更すっか」

「な、何ですか!?」

「…………おめぇ達がやる気出せるように、ちぃとな」

 

 そういうとティアナの装備を気合で吹き飛ばす。 若干だけ残った手かせ足枷、ソレに亀甲羅3分の一は、それでも常人に過度な重量を与える。 さて、そんな少しだけ身軽になったティアナと、その他3人に対して、悟空は少しだけ、そう、本当に少しだけ“気”を使う。

 

「な、なに……!?」

「わ、わからない……なんだか身体中が重くて」

「おじさんの気合砲? ち、ちがう只睨んだだけ……」

「これ、あのときオオカミを追い払った…………うぐ」

「よし、おめえ達なにしてもいいからなんとか立ち上がって見せろ」

『え!?』

 

 悟空教室入門編。

 放出……と言うにはあまりにも微弱な悟空の気が彼等を押さえつける。

 いきなり出された無茶な注文に、ティアナをはじめ4人が全員次々に地面に手を付けてしまう。 それほどの重圧、人を押さえつけてしまうほどの縛りを只の睨みだけでやり遂げた彼の恐ろしさを、ようやく思い知り、自分たちがなにを目指そうとしたかを改めて知らしめる。

 

「なんて圧力……こんなの立ち上がれるわけが――」

「うぐぐぐッ!!」

「お? やっぱ最初に立ち上がったかスバル」

「……!」

 

 その中で立ち上がる者が居た。

 彼女が持ち前の気合で無理矢理ながら膝を立てると、握り拳を軋ませつつ悟空の束縛を破る。

 

「うぉぉりゃあああああ!!」

「いいぞ! まずはスバルがゴールだな」

「やった……!」

「………………うくっ」

 

 スバルが立ち上がって一番喜んだのは悟空。 そして、一番悔しい思いをしたのは……

 

「ま、ける……かっ!」

「…………ん」

 

 ランスターの妹だ。

 幼少の頃、兄を生き返らせる為に見せたガッツは、ここに居る誰よりも強いのを悟空は知っている。

 だから、何も言わない。

 彼女に対して労りは、むしろ邪魔になると確信しているからだ。 その証拠に、彼女はいま、折れた膝を懸命に立ち上げようと歯を食い縛るのだから。

 

「ぎぎぎ――」

「……」

「こ、の……!」

「す、凄い」

「ティアナさん、一人だけ重量のある装備を付けてるのに……!」

 

 食い縛った歯が砕けるかのようにこすれ、全身の血流が一気に跳ね上がり、彼女の限界値を一気に振り切れる。

 全身が体験したことのない激務に悲鳴を上げるも、そんなことお構いなしにティアナは泥臭く、しかし猛然と悟空の束縛を破壊する。

 

「コンニャロウ!!!!」

「良し! 合格!!」

「はぁ……はぁ……!!」

「ティア!」

「ちょ!? いきなり抱きつかない! もう、アンタっていつもそうなんだから……」

「えへへ」

 

 なんとか乗り切った二人に対し、後から続こうとする年少2人組。 しかし、地に着いた手が持ち上がることなく、そのまま彼等は悟空が気を解くまで叫ぶことさえ出来なかった。

 

「――――ここまで」

「うぐっ……はぁ、はぁ……」

「きつい……」

「おめえ達は、あの二人よりもまだ身体ができあがってねぇみてえだな」

『…………』

 

 事実上の失格宣言に子供二人が落胆する。 ソレは、悟空から駆けられた言葉というより、ティアナとスバルにここまで差が付いていると言う自身への不甲斐なさだ。 明らかに苦い顔をした彼等に、しかしそこは悟空。 彼は誰もが思い着かない発言をしたのだ。

 

「おめえ達、運が良いな」

『……ふぁ?』

「おめえ達は身体ができあがってねぇ。 つまり、今が成長期って事だ」

「…………ぁ」

「そ、それは――」

「そうだぞ。 おめえ達を鍛え上げるんなら今がちょうどいいって事だ」

『!!』

「これからみっちり修行すれば2週間で今の二人は抜けるかもな」

「……え?」

「それは言い過ぎですよ、カカロットさん」

「なんでだ? あれくらいちぃと修行すればすぐだ」

「…………彼はボク達になにをさせる気なんだ」

 

 だから、修行させる気なんだって。

 

 悟空がぼやきながらも、エリオのアタマに手を置いてみせる。

 成人男性の、それも数十年もの間、戦いに身を置いてきたまさしく無骨な手の平。 でも、その手にはいい知れない暖かさを感じ、明らかに子供扱いな今の状況も、自然、エリオは平然と受け入れていた。

 

「あの、カカロット……いいえ、悟空さん」

「どうした? 質問は全然構わねえけど、オラあんまし答えられる自信ねえぞ」

「いえ、その……」

「なんだ?」

「何でも、ありません……」

「ふーん、そっか」

「……すみません」

 

 なぜ、謝るのか。 悟空には彼の心情など理解出来ないし、しようとも思わないだろう。 だってエリオはまだ悟空に何も言おうとしないのだから。

 だから、彼は待つことにした。

 無理矢理に責めるのは修行と戦闘の時だけでいい。 呟いた悟空は、最後にエリオの頭を2回さすり、そのままもう一人の年少に向き直る。

 

「おめえは、身体作りもだけど、まずは精神の修行からかもな」

「え?!」

 

 意表を突かれた、そんな顔をした少女に周りが首をかしげる。

 

 いま一番体力が無いのはきっとキャロ。 ならば、いの一番に悟空教室で走り込みをしなければならないのは彼女のはず。 誰も悟空の真意がわからないなか、キャロだけが、彼の瞳の奥を伺い知る。

 

「わたし……できるでしょうか……?」

「精神の修行は一番難しいかんな、オラにもわかんねえ」

「……」

「そんな顔すんなって。 なにも見捨てる訳じゃねえし、出来ないとは言ってないだろ?」

「で、でも……わたし、またこの間の時みたいにフリードを……」

 

 心配事は山のように。

 少女が胸を押さえるように、強くつかみ、視線を下げる。 何度だって頑張った、必至で抑えようとした力を、いまさらどうやって操れば良いのだろうか。

 ついこの間だって、悟空が居なければティアナもスバルも、それにエリオもみんな大変なことになって居たはずだ。 それが、怖い。 彼女は、何より他者を傷つけるのが怖いのだ。

 

「練習あるのみだろ」

「……でも」

「大丈夫だって。 ほら、オラさっき金髪だったろ? アレになると気が一気に膨れあがるけど、そわそわして落ち着かなくなるんだ」

「そわそわ……?」

「あぁ、言っちまうと、平気で相手、殺しちまおうって気になったりな」

「!?!?」

「でも修行して、今の状態まで出来るようになったんだぞ?」

「たしかに昨日までそんなそぶり。 ……そ、そんなことが……だったら、わたしも……」

 

 そして、彼自身も知らないが、それ以上の凶暴性を見事乗り越え、自身の力に変える事にも成功したことがある。 そんな精神修行のプロがこうまで言ってくれるのだ、心なしかキャロの表情から不安が薄れていく。

 

「ティアナ、スバル。 おめえ達は普通に修行だぞ、覚悟しろよ」

「は、はい!」

「ぅぅ、やっと乗り切ったと思ったらまた一大事に」

「安心しろスバル。 もうサバイバルはやんねえからな」

「……ほっ」

「明日からはオラと延々組み手だ」

「いやあああああああああああああ!!!」

 

 スバルの絶叫が木霊しつつ、今日の修行が始まってしまう…………

 

 

 彼女達は知らなかった。 この、朗らかそうで人畜無害な男が、どれほどの地獄をこの世に持ち込むだなんて。

 

 そして、その結果まさか、管理局がひっくり返るだなんて。

 

 様々な思惑が交錯する彼等の修行はいま、ようやく始まろうとしていた。

 

 




悟空「おっす! オラ悟空!!」

ティアナ「負けるか……負けて成るもんですか!!」

キャロ「わたし……もう……だめ……」

悟空「なんだおめえ達、もうへばったのか? まったく、おんな連中はみんなだらしねえなぁ」

女子連中『……む』

悟空「見て見ろ、まだあっちは勢いおちてねえぞ」

エリオ「すみません! おひつおかわりで!」

スバル「んー! ごはんおいしー!!」

ティアナ「悟空さん、一応片方は女子なんですけど」

悟空「え? あ、そっか! そういやそうだったな! あまりにいい食いっぷりだったからつい」

キャロ「フリード、コッチのニンジンあげる」

フリード「……けふっ」

悟空「あ! 好き嫌いはダメだぞ? ……そっちの方もおいおい修行だな。 んじゃ次回!!」

ティアナ「魔法少女リリカルなのは~遙かなる悟空伝説~ 第90話」




なのは「ちょっと、頭冷やそうか……?」



全員「………………ひぇっ!!?」

悟空「お!? おめぇ随分見違えたな! ははっ! そうか、おめえがなぁ」

なのは「…………」

悟空「ん? おーい! どうかしたんかー?」

なのは「…………しらないもん」

悟空「しらねえって事はねえだろうに。 ま、いっか!」

スバル「あれ絶対良くない」

ティアナ「次までになんとかしてください悟空さん!!」

キャロ「で、ではまた……あ、はは……」
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