魔法少女リリカルなのは~遥かなる悟空伝説~   作:群雲

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第93話 それはサイヤ人に恨みを持つ一族の末路

 

 

 

「おーい! おめえ達早く来いよー」

「すばるおねえちゃーん! てぃあなおねえちゃーん! どこー!」

「まって悟空さん、ヴィヴィオちゃん!」

 

 敵地へ無造作に入り込んでいったドタバタ武道家とイタイケな魔導師。 何も知らずに地獄へ突入した彼等は、悟空に導かれる、いいや、引き込まれるかのように奥へ突き進んでいく。

 

「まって悟空さん! 勝手に行っちゃダメです、せめてみんなに連絡――」

「――おわっちち」

「きゃ!? もう、突然止まってどうしたんですか……悟空さん?」

 

 突き進んだ先で悟空が急停止する。 ぶつかり、倒れそうになる身体をなんとか踏ん張ったキャロは、異常な光景に声を殺した。

 

「あぅぅ」

「ヴィ、ヴィヴィオちゃん? 大変、こんなに震えて……」

 

 全身総毛立ち、尾を激しく揺らしている彼女は、咄嗟に悟空の背中に隠れていた。 ソレが、その姿が今までの天真爛漫からは想像も付かない“弱者”に見えたキャロは、今度こそ異変を認識した。

 なにか、居る。 それは自身ももちろん、悟空にも分かっていただろうに……

 

「キャロ」

「ど、どうしたんですか……?」

「おら、すこし先見てくるから、ヴィヴィオ連れてもと来た道戻ってろ」

「あ、え……?」

 

 その言葉が信じられなくて。

 その、今までの子供だった彼からは間違っても出てこないであろう言葉に、キャロは呆けてしまう。 だが事態は待ってくれない。 遂に悟空の尾すら張り詰めると、彼は不意に“キャロをヴィヴィオごと蹴り飛ばす”

 

「――あぐっ!?」

「あ、ぁぁ……!」

 

 遠く、出来るだけ遠ざけられた彼女達は見る。 いま、自分たちが対峙しようとしている存在、その正体を。

 

「ぐ、この……!」

「サイヤ、ジン……」

 

 

 人形だ。 憎悪を纏う鋼鉄の機械が彼等に、いいや“彼”に追付いたのだ。 銀の装甲に走る破壊跡。 まるで爆心地から引きずり出されたスクラップのような存在。

孫悟空に足刀を振り下ろすが、それをクロスした両腕に防がれている。 いつの間にかそこに居て、でもキャロには一切関知でいない速度で孫悟空と一合交えているのだ。

 

「やべぇ……コイツ」

「コロス……コロス、コロス……コロス」

「悟空さん!?」

「おめえ達、さっさとエリオのとこ戻れ! おらがなんとか食い止めてるうちに速く!」

 

 悟空が叫ぶやいなや、機械の身体がぶれる。

 ソレと同時に悟空が地面を蹴り、独特な歩法でキャロの視界から消え……否、増える。

 

「ざ、残像拳だ……此れなら」

「――――ぐふっ!?」

「悟空さん!?」

「サイヤジン……ミナゴロシダ……」

 

 始めから無かったかのように、悟空の本体を撃ち抜く機械。 鳩尾にかかる強力な圧で、悟空の意識が飛びかかる。 止まった呼吸を無理矢理吹き返し、浮いた身体で反動をつけ、亀裂の入った装甲目掛けて蹴りを穿つ。

 

「だりゃあ!!」

「……」

「こいつ、効いてねえんか……!」

 

 微動だにせず受け止める奴はそのまま悟空の足首を掴み上げ振り上げた。 ちからのベクトルが横から縦に強引に変えられると、そのまま彼は固い地面にクレーターを作らされる。

 

「シッ―――――――」

「―――――――ッ!?」

 

 止まる呼吸、走る激痛。 声帯が叫びを上げる間もなく、悟空の身体に機械の足がめり込む。

 

「ギィヤアアアアアアアア!!?」

「ご、悟空さん!!」

 

 ようやく吐き出された声はキャロの鼓膜を貫くほどの声量。 あまりの声に思わず目を背けた彼女は、見る。

 

「…………………………ぐ、ぐぅぅ」

「ヴィヴィオ……ちゃん?!」

「ギヤァアアアアアアアアアア!! ぐああああああああああああ!!」

「や、や……」

 

 悟空の叫びに呼応するように、その小さな手を握りしめ、剥き出しとなった怒気を、彼女は遂に解き放つ。

 

「やめろーーーー!!」

「ヴィ、ヴィヴィオ……」

「え、あ!?」

「おにいちゃんを……おにいちゃんを! いじめるなぁぁああ!!」

「――――!?」

 

 一瞬、ナニカが悟空達のあいだをすり抜けたと思えば、銀色の躯が粉々に砕ける。 何事かと目を見開いたキャロだが、次の瞬間、床に転がるヴィヴィオの姿を見れば嫌でも分かってしまう。

 いまの閃光のような一撃は、あの幼子が“やってしまった”のだと。

 

「――ナ、ゼ」

 

 圧倒的な疑問。 この世界で、自身のターゲットなどただ一人なのに、それと同等の力をいま、あのサイヤジン以外から観測されたのだ。

 あってはならない。 そんな危険な力は、今ここで摘まなければならない。 既に大破した銀色の機械が、最後の演算を開始する、いや、しようとしたのだ。

 

「だぁああああ!!」

「――――ギッ!? グギギ!?」

 

 幼い拳が、ソレに見合わぬ轟音と共に打ち出されていく。 荒削りどころか、構えもなって居ない荒れ狂う拳なのはキャロから見ても明らか。 だが、逆にソレが機械の演算をことごとく外し、奴を困惑させるには十分すぎるパワーをもって、ついには機械を後退させていくのだ。

 

「はぁああああああああああ!!」

「こ、この感じは!」

「ヴィヴィオ、おめぇ……」

 

 一瞬の隙。 その両掌と共に大地へ深く腰を落としたヴィヴィオは、青色の輝きに身を包む。 彼女の内側を駆け巡る、その、“最強の遺伝子”からあふれ出る力を圧縮し、凝縮し、溜め込んだ力が限界を迎えた瞬間、彼女は叫びと共に力を放出した。

 

「いやぁあああああああああああッッ!!!!」

「コイツ――グッ!? グォオオオオオ!!?」

 

 銀色の躯が、青い閃光に呑み込まれる。

 至るところに駆け抜けていく損傷の亀裂は、遂に奴の頭部にまで届き、その身を砕いてしまう。 だが彼女の勢いは奴を叩き潰すだけでは止まらない。 爆発した感情そのままに、ヴィヴィオの閃光は施設の隔壁を貫通し、建物を揺らし、壊し、ついには大空へと駆け抜けていく。

 

「……」

「……ヴィ、ヴィヴィオちゃん」

「あぅ、あぅ……ぅぅ」

「ヴィヴィオちゃん!?」

 

 光りの終息と同じく、怒気が消えたヴィヴィオは目を回しながら地面に倒れ伏してしまう。 

 先ほどからは考えつかない程の穏やかな寝息に、思わず呆けそうになるキャロだが、彼女は魔力の籠もったグローブ型のデバイス“ケリュケイオン”を構えると、淡い桃色の光りをもって、ヴィヴィオを可能な限り回復させていく。

 

「はい、悟空さんも」

「お、おらはあとでいい」

「だめです、悟空さんも一緒に回復しましょ?」

「ヴィヴィオの奴、あんなめちゃくちゃな気の使い方したんだ、相当消耗してるはずだ、だから――」

「悟空さん!」

「…………あ、あぁ。 たのむ……」

 

 なんだかんだでキャロが放つ謎の気迫に圧倒される悟空。 こんなに強きなヤツだったか? などと眉を動かしつつ、彼女の治療魔法に身を委ねることにする。

 

 暖かな光りが悟空の躯を包み込むと、腹部を走る激痛が鳴りを潜めていく。

 

「だいぶ楽になったぞ、わりぃなキャロ」

「え? そんなはずは……だってまだ傷だってふさがってないですよ……?」

「いや、いいんだこれで」

 

 突如、悟空が立ち上がる。 すると奥の方からユラリ、キャロは人ならざる気配を感じ、瞬間的にヴィヴィオを抱えた。

 

「………………サイヤ、ジン……」

「うそ……」

「さっきのヤツじゃねえ、まだ居たみてぇだな」

「そんな……!」

 

 2体目の登場は聞いていなかった。 普通、あんな危険な代物を複数所持など考えようはずも無く、そうと知っていればのこりはすべて廃棄処分のはずだ。 ……知らなかったのだ、この世界の暢気な人間達は。

 自分たちが何と遭遇し、どれほどのモノを使役しようとして、如何に身の程を知らずにいたのかを。

 だから男達は残らず消され、機械は自身の復讐を原動力に動き始めた。

 

「ソン……ゴクウ……!!」

「ハハ……こいつ、意識がはっきりしてねえか?」

「そんな冗談みたいに言ってる場合じゃないですよ!」

「そうだな、大ピンチだ」

 

 悟空は満身創痍。 ヴィヴィオは燃料切れ。 つまり戦えるのは……?

 

「フリード!」

「きゅるる!!」

「よ、よせ! おめえ達が敵う相手じゃ……!」

 

 立ち上がり、構える。

 小龍フリードですら、今の現状を理解し、普段からは想像も付かないたくましい姿を見せている。

 戦う覚悟は、悟空が激痛に耐えていた瞬間から既に完了している一人と一匹は、ここで遂に銀色と対峙するのだ。

 

「ジャマダ……!!」

「――ぐっ!?」

 

 吹き飛ばされて、床を転がる。

 瞬きすらもなかったはずなのに、正面からの不意打ちはそれだけレベルが違うから。 これほどの相手に、孫悟空は数回の打ち合いを可能としていたのか……? 今更の認識違い、だが、彼女はそれを逃げの良いわけには使わなかった。

 

「フリード!」

「ぎゅるッ!!」

 

 キャロのデバイスが光り、フリードに同じ光りが注ぎ込まれる。

 彼女が特異とする補助魔法が、小龍の各種機能を底上げしていくのだ。 素早さから攻撃力、さらには体力と頑強ささえもだ。

 だけど……

 

「シッ――」

「ぎゅる!?」

「フリード!?」

 

 ……それが今更なんだというのだ。

 足りない。 圧倒的な実力差を埋めるには、魔力が“足りていない” 力を出そうにも、有る一定のラインを踏み越える事が出来ないのだ。

 それを自覚したとき、彼女は四肢に巻かれている鎖を見下ろし、そっと歯を軋ませる。

 

 一瞬の思考、だが、ソレは機械にとっては圧倒的な隙でしか無く、フリードは即座に吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ!」

「キサマハ……ジャマダ……」

 

 次にキャロに攻撃の手が届くが、彼女は腕を交差させると、なんとヤツの攻撃を防ぐ。

 

「ナンダ……?」

「はぁ、はぁ」

「キャロのヤツ、自分に魔法かけてるんか……!」

 

 だがそれも焼け石に水。 機械との実力差は依然として変わらず、フリードとの連携を取ったとしても“今の”彼女にはどうしようもない。

 

 また見えない攻撃が来る。

 いいや、ちがう。

 “この攻撃は見えているのだ”

 ただ、意識に躯がついて行けていないだけで。

 

 そのもどかしさを自覚したとき、彼女は遂に決意した。 故に彼女はヤツの攻撃を“甘んじて受ける”のだ。

 

「はう!?」

「ナゼダ……」

「うぅ!?」

「ナゼ、タオレヌ……」

 

 どれだけの攻撃を浴びせようとも、キャロがもう膝を付くことは無かった。 ただ、その“両手足に巻かれた装備”には確かにダメージが蓄積していくだけ。

 

「はぁ、はぁ」

「キャロ!」

「ソウカ、ソレノ、セイデ、タエラレテイル、ノダナ」

 

 それを冷徹に分析した機械。 狙いを的確に絞る……などとこざかしい真似をせずに、纏わせた紫色のエネルギーによる右ストレートが炸裂。 両腕から嫌な音が響けば、砕け散り、床に残骸が散らばる。

 

 キャロを押さえつけられていた枷が外れる。

 

「フリード!!」

「ぎゅっ!!」

 

 瞬間、彼女は駆け出す。

 孫悟空を背に、彼女は全身から魔力を迸らせ、桃色の輝きに包まれる姿は、かの超戦士を彷彿とさせる。

 

「はぁああああ!!」

 

 全身を駆け抜ける魔力。 ソレは、彼女が使う補助魔法なのだが、その効力は先ほどまでとは桁が違う。

 

「コイツ、サキホドマデトハ……ナニガ、アッタ」

「手助け、ありがとうございました。 おかげさまで魔力リミッターが外れて、重いからだが翅のように軽い」

「こ、これがあのキャロなんか!? さ、さっきまでとはまるで別人だぞ……!」

 

 もう、泣きムシ少女はそこには居なかった。

 ここに立つのは、竜召喚師 キャロ・ル・ルシエ。 あふれ出さんばかりの魔力を、自身で循環を終えると、その方向をフリードへ向けた。

 

「きゅぅうーーーー!!」

 

 フリードの躯が輝くと、その体積を肥大化させていく。 見上げるほどに巨大化していくフリードは、天井を突き抜け、大空にその身をさらしていけば咆哮を上げる。 いつか見た、暴走形態への変化とまったく一緒のプロセスを踏むが、彼から聞こえてくる雄叫びは、決して理性を手放した物ではなかった。

 

 遂に。 キャロルは遂に、自身の力を完全にコントロール下においたのだ。

 

「フリード! 巨竜モード!!」

「ギュル!!」

「ホウ、ムシケラ、ダト……オモッテイタ……ガ」

 

 言うなり悟空達を背に乗せ空高く舞い上がる。

 同時、機械が片手を上げるとエネルギーが迸り、彼等に追尾弾を3発打ち出した。 それをみたキャロが声を上げると、フリードの後部が灼熱に染め上がる。

 莫大な熱量と共に放たれたのは一派との炎弾。 ソレが追尾弾にかすめると、蒸発し、消失したのだ。

 

「…………」

 

 それを見届けた機械。 頭部が忙しなく音を立ててカタチを変えると、まるでバイザーを付けたかのような形状へと変わっていく。 躯は依然と変わらぬ、ボロボロのままで有るが、そうと感じさせない程の精密な動きで、彼は音も無く空を飛ぶ。

 

「追いかけてきた! ……フリード、迎撃!」

「グォオオオオ!!」

 

 竜の咆哮をモノともせず、機械は全身の亀裂箇所からケーブルとワイヤーを伸ばすと、それをフリードへ這わせていく。

 一瞬の接触に、しかしその接触をむしろフリードは力強く歓迎する。

 牙が伸びる口で使い上げると、それを引きちぎり、振り回す。

 

「やっちゃえフリード!!」

「ガァアアアアア!!」

「――――」

 

 遠心力を思う存分に加えた叩き付けが機械に炸裂する。 全身の骨格がきしみを上げ、至るところの部品が不具合を起こす。 かみ合わせのズレたギア、油圧の漏れたシリンダーに、冷却効率を落とした放熱器官。

 その、ボロボロの状態でもヤツはフリードを観ている。 その翼から声から体躯から声帯はどうに居たるまでをまさしく監察しているかのような姿に、キャロは言いしれぬ不安を感じる。

 

「なに……? まるで戦っているだけで、こちらを負かそうっていう感じがしない」

「きゃ、キャロ……」

「悟空さん、どうしたんですか」

「あいつはまずい。 ありゃ、なにか奥の手をもってんぞ」

「え!?」

 

 長年の戦闘感を持つ悟空が、無自覚ながらヤツの“強み”を理解していた。

 

 このまま戦闘を長引かせるのなら、ここは引いた方が良い。 そうで無いのなら速くケリを付けるべきだと。

 

 だがそんな警告むなしく、ヤツは遂にその本領を発揮した。

 

「ガ……ガガ――」

「な、なんだ!?」

「……………………ようやく、見つけたぞソンゴクウ!!」

「あいつ!?」

「言葉を!!」

 

 ソレは身を凍らせるほどの声で、キャロの魂を掴むかのような怨嗟の言葉だった。

 

 幾多もの辛酸を飲まされたものにしか出せない、悔恨の叫び声が彼女を確かに怯えさせたのだ。

 

「ぎゅる!!」

「……あ、ごめんフリード。 うん、負けちゃダメだ」

 

 竜からの叱咤激励に我を取り戻したキャロは、いまだ傷の癒えていない悟空とヴィヴィオを見ると、キツく唇を結んだ。 なんとしてもここを乗り越えなくてはいけない。 ヤツが勢いを取り戻す前に、決着を付ける。 もしくはスバルたちと合流しなくては……

 

 いまだ追いかけてくる機械を眼下に納めると、しかし、キャロの頭上に突如影が落ちる。

 

「――――…………ふん、そんなに虚勢を張るのが楽しいのか?」

「……え?」

 

 “先ほどまでいなかった空間に、瞬時に現れた”かのよう。 キャロの背筋が凍り付けば、その異変をいち早く感じ取っていたフリードが取ったのは急制動でも無く旋回でも無く、爪による迎撃だ。

 

 巨竜モードとなり、圧倒的な質量を誇るフリードの右爪がヤツの胴体を直撃する。

 

「こいつ、予想以上に厄介だ」

「いいぞ、フリードの攻撃が効いてる」

 

 想像を超えたフリードとキャロの成長。 ソレは機械を僅かに手間取らせたが、だからこそ彼女達をさらなる窮地に追いやる事になる。

 

 機械が視線鋭くフリードの翼を射貫く。

 

「-―――キッ」

「ギャアアア!!?」

「フリード!?」

 

 突如苦しみだしたフリード。 その翼は痛々しいほどの火傷があり、そのダメージは飛行に支障をきたし、彼を空から失墜させる。

 

「まず、キサマからだ小娘!」

「うくッ!?」

 

 ばらばらに落下していく悟空達。 その中で今まで邪魔立てしてきたキャロに狙いを定めると、機械はその手を伸ばし手刀を作って彼女へ振り下ろした。

 戦士達をいとも簡単に倒す機械の繰り出す手刀は、どんな刀剣よりも鋭くよく切れる名刀。 そんなものをキャロが受ければただではすまない。 なんとしても防がなければならない。 悟空は空の彼方へ叫び声を発し、しかし、その行為が機械の凶行を止めるには圧倒的に時間が足りない。

 

「死ねッ!!」

「きゃ、キャロ!!」

 

 そうして振り下ろされた手刀は……だけどそれがキャロへ届くことは無かった。

 

 

 オレンジの弾丸が、機械の刀剣を弾く。

 

 

 抜群のタイミングと、ジャストな狙いで敵意を撃ち抜くその攻撃の主は…………

 

「――――外した!?」

「ティアしっかり! みんなのなけなしの魔力で、なんとかティアの装備を壊せたんだから。 絶対に決めちゃってよ!」

「んなもん言われなくても!」

 

 ティアナ・ランスターが、銃身に追加オプションを装備した、長距離射撃モードのデバイスで銀色を狙撃し、次の弾丸を生成していた。

 彼女もキャロ同様に鎖を解き放ち、エリオとスバルからひねり出した魔力を上乗せして、機械人形を破壊せんと撃鉄をあげる。

 

「スバルさん、ティアナさん! きゃ、キャロたち落ちてますよ!?」

『ソレがどうした!?』

「え……え!?」

 

 構わず攻撃を続ける二人に、遂に正気を疑い始めたエリオ。 だが彼は知らなかった。 この二人の行動こそが、今現状出来る最大限の援護であり、孫悟空に対する絶大な信頼の証なのだと。

 彼女達は知っている。

 あの男は、こう言う局面には何度だって直面し、いつだって困難をくぐり抜けてきたのだと。

 

 そうだ。 いまの孫悟空は確かに空を飛べない、地を這う猿だ。

 

 だがぞれがナンダというのだ。

 

 彼が孫悟空だというのなら。 彼が、あの悟空だというのなら――――

 

 

 

 

「来てくれー!! 筋斗雲――――!!」

 

 

 

 

 ソレは、やはり存在するのだ。

 

 

 遠い彼方。 地平線の向こうからやってくる“雲のマシン”

 青い空に黄色いラインを引いてやってくる神器の一つ。

 音速を超えて飛来するソレは、自由落下を慣行中の悟空に、体当たりのように衝突したかのように見えた。 いや、したのだ。

 

 だがそのマシンが持つ独特な感触と、言い表せないクッション的なものによりショックは限りなくゼロとなり、見事彼を救い上げ大空を飛翔したのだ。

 

 

 

 

「な、なんだあれは……!」

「あ、あれはいったい……!」

 

 奇しくもエリオと銀色の機械とが、同じ感想を持つに至った。

 

 どちらもアレのデータはほとんど無い。 片方は初見、もう片方は記憶の欠落か、そもそも気にもかけていなかったのか。 見たことも無い非現実なカタチの乗り物に一瞬だけ呆けてしまう。

 

「行くぞ! お返しだ!!」

「し、しまった!?」

 

 筋斗雲に着地した悟空は、空を駆けながらその身体を青く輝かせていく。 

 

「かぁ! めぇ!」

 

 弾丸飛行の最中、筋斗雲がキャロをキャッチすると、それを見届けたフリードが、近くに居るヴィヴィオを背に乗せ直し空中で制止。 その口を紅蓮に染め上げる。

 

「はぁ! めぇ!!」

「くっ! まだパワーがもどらんか……!」

 

 機械がボロボロの腕を伸ばし、来るであろう攻撃に対して楯を作る。

 その楯の真下には、青と橙の魔力がブレンドされ閃光を発している。

 

「スバル! エリオ! ありったけよこして!!」

「こんなことならこっちの装備も壊しておくんだった」

「も、もうこれ以上は……!」

「死にたくなかったら出し切りなさい! やり方は、それこそ死ぬ気で教わったでしょ!?」

「は、はい!」

「アタシが狙う、スバルはナックルで“収束”エリオは属性付与で“威力”の底上げ!」

『うぉぉぉおおおおおおッ!!』

 

 

 今現状出せる最大の攻撃力を持って、彼等はいま、一斉に光りを解き放った。

 

「ディバイィィィィン! バスタァァアアアアアアアアアア!!!!』

「波ぁーーーーーー!!」

「ガアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ぐ、うぉ!?」

 

 極炎と、螺旋の閃光と、気の塊が機械人形に襲いかかる。

 

「こ、こんなモノ……!」

 

 受けて立ち、受け止める。

 極光となった彼等の攻撃が、機械の楯を打ち破らんと激流のように襲いかかる。

 

『こんのぉおおおおおおおおおおおおおお!!』

「こ、こんな……こんなヤツラに!!」

 

 押し返す。

 あんな超戦士ですら無い雑魚相手に、いくら弱り切ったからといって……

あのときの焼き直しだと自覚する間もなく、機械がもつ楯は爆音と共に砕け散る。

 

「いまだ!!」

『波ぁぁあああああああああああああああああ!!!』

「――――」

 

 最後の一押しだと悟空が叫ぶと、断末魔すら許さない攻撃は、見事鋼鉄の身体を砕いた。 

 そのまま空の彼方へ押し出すように光り達は消えていく。 それを見送った悟空は、崩れるように筋斗雲の上に倒れ込んだ。

 

「…………し、死ぬかと思った」

「ご、悟空さん! 大丈夫ですか?」

「へ、へへ……もうすっからかんだ」

 

 そういって筋斗雲の上で寝そべる悟空の背中を、キャロはそっとなでる。 この、自身とそう変わらない体躯であそこまでの力を使い、放出したのだ。 あの光りを目に焼き付けた彼女は、労るように悟空へ回復魔法をかける。

 

「ぎゅる!」

「おにーちゃん!」

「おー、フリードにヴィヴィオ! おめえたちも無事だったんか、よかったぞ」

「うん!」

「きゅる!」

 

 巨体に見合わぬかわいい声で返答するフリードと、いつにもまして甘えてくるヴィヴィオに、悟空は横たわりながら手を上げ、彼等とともに地上に降りていく。

 

「お、おじさん!!」

「わぷっ! い、痛えよスバル、急に締め付けてくんなよ」

「抱きしめたの! もう、心配したんだから!」

「意味わかんねえぞ」

「装備を外したコッチはへとへとなのに、どうしてあんたはそんなに元気なのよ……」

 

 鬼教官の教え通りに、持てる力のすべてを出し切ったティアナはすでに立ち上がることすら困難であるところを見ても、如何にスバルがスタミナ馬鹿なのかが分かるであろう。 しかし、今はその疲労ですら心地よい。

 ティアナは、はしゃぐスバルが眩しくて、思わず目を反らした。

 

「―――――――」

「……え?」

 

 …………その先に、いてはならない存在が、居た。

 

 くすんだ銀色がティアナの視界に入った。 あり得ない……そう声を出して、皆に危険を知らせようとした彼女は、しかし脳が思考を終えた瞬間に、ヤツの攻撃は既に終わっていた。

 

「ティア!!」

「あく!?」

 

 伸ばされたワイヤーからティアナをかばうのはスバルだった。 

 肩口から血が流れているが、その程度で倒れる柔な鍛え方はしていない。 彼女は、奥歯を噛みしめながら立ち上がる。

 

「お、おまえ……生きて」

「いや、お前達の攻撃は確かにオレを砕いた、それは間違いない」

「じゃ、じゃあなんのよアンタは!」

 

 構えたスバルの後ろで、魔力切れで震える指先を隠しながらティアナが問う。 だが、答えはあらぬ方向から飛んできた。

 自身の背後、孫悟空達が居る場所よりも遠くから……

 

 

「――そう、先ほどのオレは性能不足により敗れ去った」

「だからオレは直前までのデータを参考に、機体のアップデートを開始したのだ」

「“この躯”がお前達をいたぶるのに、十分な力を持てるように」

 

 

 信じられないことだ。 ティアナの目には、あの銀色が三体に映り込んでしまっている。

 

 頭を振り、慌てて隣のスバルを見たが、残念なことに彼女も自信と同じ顔をしていた。

 

「う、ウソだ……なんでこんなことが」

 

 思わず零したあきらめの声に、皆が一斉に言葉をなくす。

 

 いいや、この事態でもただ一人、戦意を失わない“男”が居た。

 

「な!?」

「お、おじ……!」

「どうして……」

「悟空さん!」

「はぁ、はぁ……! まだ、だ!!」

 

 気力は使い果たし、身体はボロボロ。 しかし闘志はいまだ萎えず。

 

「い、行くぞ……クウラみたいなヤツ! “オラ”が相手だ……!!」

「サル野郎め、ようやくお目覚めか」

 

 悟空の口調が先ほどのモノから雰囲気が変わる。 あの、純真無垢な子供の声に、歴戦の勇士を彷彿とさせる力強さが乗せられたのだ。

 だが、ソレは声だけ。

 身体は依然と弱く、機械にすら勝てない様相を呈していた。

 

 当然そんな悟空の事情など機械はお構いなしだ。 都合良くここから離れるわけも、修行をし直す時間を与えることもない。

 ただ殺す。 自身がそうされたように、この憎きサイヤ人を完全に消滅させるまで、ヤツの執念は消えない。

 

 だから戦う……訳じゃ無い。

 孫悟空が戦うのは、そんな大層な理由では無い。

 

「む、無理だよおじさん!」

「んなことねえ……お、オラこんなところで止まってられるほど暇じゃねえんだ」

「ご、悟空さん、でも――」

「さっさとおめえ倒して、ヴィヴィオのヤツ鍛えてやりてえからさ……!」

『……へ?』

「――――」

 

 この男は、既に今の先を見据えている。 たかだか機械の残骸相手にかき乱されるほど、彼の道は退屈ではない。

 

「ほざいたなサイヤ人。 だが実力の伴わない言葉は、無意味だとおもわんのか?」

「そうだな、実力がなけりゃあな。 だから今のオラには無理だ」

「……ぬ?」

 

 残念そうに、だけど、どこか不敵に笑う悟空に、クウラと呼ばれた残骸は一歩、距離を詰める。

 ここまで追い詰めた。 普通ならば終わりな状況もサイヤ人、否、孫悟空という要素が絡むと逆転への布石に繋がるのは、身をもって思い知っている。

 

 だから油断はしないし、ヤツを叩くのに何ら躊躇もない。

 

 的確な判断は、しかし先に時間のほうが訪れてしまった。

 

 

 

 

「―――――――――…………そうだな、実力が伴わなければただの悪あがきだ」

「お、お前は!?」

 

 

 

 

 漆黒の堕天使……否。 傷つき、倒れ、それでも立ち上がるモノへの祝福の風がいま、この地に舞い降りた。

 一瞬でクウラの一体を吹き飛ばすと、彼女は翼をはためかせ大空を飛翔する。

 

「はぁあ!!!」

『―――!?』

「さ、さすが夜天だぞ……ナイスタイミングだ」

 

 右手をかざしたかと思えば、悟空たちより少し離れたクウラを、上空より重力魔法で押さえつける。 同時、左手に雷電が迸ると、クウラの身体に落雷が直撃する。

 

「こ、こいつ!?」

「このオレの身体を……!」

「うごかん!?」

「貴方からは魔力反応を拾えませんでしたから、魔力炉心を使っている可能性はありません。 そして動かすのに電気信号を使うのは、壊れた箇所から出てくる放電現象を見て確信しました」

 

 だから、一番効率の良い攻撃で、機械をフリーズさせたのだ。

 

「だが狙いが甘いぞ闇の書!!」

「……あ、あいつ! 一体だけ免れてる!」

「悟空さん!!」

「…………来い!!」

 

 孫悟空は逃げない。 回避すらもせずに、その場で大地を踏みしめ、駆け抜ける機械と対峙するのだ。 その姿はあまりにも無謀だが、彼は避けるわけにはいかなかった。

 

 だってその背に、視力を尽くし頑張った弟子が居るのだから。

 思わずティアナが叫ぶ中、クウラの貫手が悟空の喉元に迫る。

 

 一瞬のそのあいだ。 リインフォースですら間に合わないその瞬間だが、彼女の表情はなんら曇りが無い。 なぜなら彼女の役割は完全に終えているから。

 

 説明口調のあいだに、周囲へ散らした自身の羽根が一斉に悟空へ向く。 それを見た彼はただ見上げたまま“甘んじて彼女の羽根に全身を貫かれる”

 

『!!?』

「同士討ちか……?」

「……」

 

 まさかと誰もが驚愕した。 エリオもキャロも、スバルも、そして、冷静につとめようとしていたティアナでさえも。 あの教官の実力は嫌と言うほど知っている、そんな人の攻撃を、今の悟空が受けてしまえばどうなるか。

 

 あんな“馬鹿みたいに強力な魔力の塊を受けてしまえばどうなるか”

 

 彼等には想像も出来なかった。

 

「狙いが逸れたか! ならばトドメだ死ね! ソンゴクウ――――」

「――――――はぁぁああああああああああああああああ!!!!」

「なに!?」

 

 全身を魔力刃で刺し貫かれたはずの悟空。 だが彼は咆哮と共に、全身にたぎる気を解放していく。

 今までの少年の身ではあり得ないほどのちからの解放は、いまその瞬間に自身を殺そうと迫っていたクウラを弾き、彼は黒い光(魔力)蒼い光り()に変換する。

 

「だりゃあ!!」

「ぐっ――!?」

 

 男の拳が、機械の身体を砕く。

 たったの一撃で、スバル達の放つ何十、何百もの攻撃すら霞んで見える威力。 そんな物を受けてしまった機械の身体は、その半身を消し飛ばされ、既に機能停止寸前である。

 

「ご、悟空さんが……」

「ほんとうに……」

「ど、どうなってるの」

 

 青いリストバンドに、山吹色の胴着。 そして、背に“孫”と書かれたあの姿を、彼は遂に取り戻す。

 

「待たせたなクウラみてえなやつ」

「みたいとは随分だな。 まさか、オレの顔を忘れたとでも?」

「忘れらんねえさ。 けど、おめぇの事、オラは知らねえぞ。 ……何もんだ?」

 

 拳を突き出しながら、それでも違うと言う悟空に、クウラはその口をつり上げけたたましく嗤う。

 滑稽だと。 まさか、一番自身が憎んでいる存在が、一番速く自身の事を見抜くだなんて。 

 

「オレ自身、自分が何者かなど覚えてはいない。 あるのはキサマへの恨みと、創造主の悲願だけ」

「……?」

「そう、サイヤ人に滅ぼされた、我が“ツフル人”の同胞の怨嗟の声!! 今のオレはただ、それだけに突き動かされ地獄から這い出てきた!!」

「ツフル……人?」

 

 聞いたこともない単語なのは、あのリインフォースですら同じだ。 サイヤ人、フリーザ一族、そのなかのどれにも含まれない言葉は、当然だろう。 なにせ彼等は既に滅びた存在だからだ。

 だから皆が忘れた。 故に、ヤツ等の復讐の炎は激しく燃え上がっている。

 

「く、ふふ……こうやって、蘇ってやったからには……必ずキサマを殺す。 オレが受けた屈辱と怒りを与えた上で、地獄よりも深い場所にまで叩き落としてやる……!」

「……やらせると思うのか?」

「いまは、出来ない………力がないのはオレが一番理解している。 だが、覚えて置くが良い、キサマの後ろには、常にこのオレが殺す機会をうかがっていることを!! クハッ! ガハっ! ふ、ふはははは―――――――」

 

 叫びにも似た嗤い声を上げた機械は、そこで機能を完全に停止した。

 既に動かない機械。 それを確認して、孫悟空は一瞬だけ睨み付けると、爆発音をもってその機械を完全に停止させることとしたのだった。

 

 

 

 なんとかクウラを、いいや、クウラのガワを利用した何者かを退けた悟空部隊。 彼等はリインフォースが張る結界に身を置くと、そろって盛大に張り詰めた空気を崩す。

 

「も、もうダメかと思った……」

「よく頑張ったなおめぇ達。 特にキャロ、遂にやったじゃねえか」

「あ、はい!」

 

 あの暴走ばっかりさせちゃうダメ召喚師が、よもや巨竜とコンビネーションまで出来るようになったのだから、その成長力はこの部隊で軍を抜いていた。 流石、いまが成長期と太鼓判を押されただけ有る。

 そんな彼女を、若干後ろめたそうに、複雑な心境で見ていた少年に、悟空はいつの間にか背中を叩いてやっていた。

 

「おわっぷ!?」

「今日は良いとこ無しだったなエリオ」

「あ、うん……はい……」

「仕方ねえさ、なのはと夜天がしくじって、その重てえヤツ外せなかったんだからさ」

「けど、これが無かったとしてもあそこまで動けていたかどうか」

「…………それは」

 

 エリオの質問にも近い呟きに、すこしだけ考えた悟空。 彼にしては珍しい長考だが、言ってやることはいつもと変わりはしなかった。

 

「出来なかっただろうな」

「うくっ」

「だったらどうする? やめっか?」

「……いやです」

「どうしてだ?」

「だって、……ここで逃げたらかっこわるいじゃないですか」

「ははっ! そうだな、確かにその通りだ!」

 

 少年の答えがよほど気に入ったのだろう。 悟空は笑顔でエリオの背中をもう一度叩く。

 

「おわっぷ!!」

「男だもんなぁ、いつまでもオンナに良い恰好されちゃ、いやだもんな?」

「は、はい!」

「エリオ、強くなりてえか?」

「はい!」

「帰ったら修行やり直すか」

「はいっ!」

「元気良いな。 良し、だったらオラも一緒に修行だな」

「はい!!!」

「じゃ、あとでオラとみっちり組み手だな」

「はいッッ!!!!」

「オラもいい加減、超サイヤ人3への変身に身体ならさないと行けねえ頃だ、まずはがっつりと超サイヤ人2でやんぞ」

「……………………ふぁっ!?」

 

 聞き捨てならない発言にエリオの精神が殺されるのだが、悟空にもう一度背中を叩かれたショックで現世に強制送還させられた。 南無。

 

「あーぁ、エリオくんご愁傷様だね」

「何言ってんだスバル。 おめぇもだぞ」

「……………………ふぇっ?」

「おめぇ、あの程度の相手に遅れ取ってるようじゃ、この先やってなんか行けねえ。 今度はオラがみっちり修行付けてやるから覚悟してんだぞ」

「な、なななな!!」

 

 とばっちりの交通事故。 と言うか、この部隊の新人達がまだ先があるとして修行を練っていくところを見るに、将来性ありすぎである。

 

「基礎、体力、技。 最後の方はまだまだですが、そろそろ実践の修行に写った方が良い頃合いですね」

「え!? ちょ、ソコはリイン散が止めに入るンじゃ無いの!?」

「私を何だと思っているのですか?」

「……きょ、教官さんです」

「そうです。 だから貴方たちが強くなるために出来るだけの手を打ち、やれる精一杯を課すのです。 大丈夫、ここは医療設備も回復魔法も完備しています。 閻魔界手前ならば引き返し可能です」

 

 ついでに悟空の口効きならばその先の向こうで(界王神界)での修行も出来る。 うむ、至れり尽くせり。

 そんな地獄みたいな発言をされてしまい、出口を立たれた子羊たちは思う。 ソウカ、自分たちはもう、後戻りは出来ないのだと。

 

「今回遭遇したクウラのような機械。 便宜上“ツフルクウラ”と言いましょうか。 アレを相手にするのです。 もう、中途半端は許されない」

「そうだ。 オラだって、ここ最近身体の調子が悪ぃし、いつまた子供の姿になっちまうかわかんねえかんな」

「た、確かにそうですよね。 ……フリード、わたしたちも頑張らなきゃだね?」

「キュー!」

「お? なんだなんだ? キャロにフリード、随分立派になったなぁ」

「…………それだけ、暴走する自身を抑えられたのが嬉しいのでしょう。…………わかります」

 

 感慨深く零した女神様。 まぁ、あれだけの惨事を引き起こした彼女だ。 キャロの気持ちはここに居る誰よりも分かるし、共感も持てる。

 

 そんなリインフォースを知ってか知らずか、悟空がやや真剣な顔をした。

 まるで刀剣のような鋭さで見つめてくる彼。 一瞬。 本当に少しだけ心が揺らいだリインフォースは若干の気後れ。 彼女は、あまりにも無言で立ち上がる悟空に後ずさりしながら、ようやく口を開き、その行動の理由を問うた。

 

「どう、したのですか?」

「なぁ、夜天」

「悟空?」

 

 

 

 

「………………オラ、しょん便行きてぇ」

『だぁあ!!』

 

 

 ………………ただただ限界を超えそうだった顔であった。

 そんな彼のぶちこわしに皆がずっこけるのだが、あまりにも彼らしいのは、もう、キャラクター故に仕方が無いのだろう。

 

「そんじゃ……よし、ティアナ、これ持っててくれ」

「荷物ですか? でも、そんなものいままで……って!?」

「それな、さっき見つけたんだ。 じっちゃんの形見だからな、しっかり持っててくれよ?」

「あわわわわわ!! す、スーシンチュウだ!!!」

 

 悟空が何でも無いように渡してきたそれは勇気の証(ドラゴンボール)であった。 しかもその星は4つ。 孫悟空が“特別”だとするその奇跡の球に、ティアナは興奮を通り超えて混乱してしまう。

 ど、どどどどうしたら良いかしら! あ、暖めた方が良い? なんてニワトリみたいな思考回路になって居る彼女。 それだけ、ティアナにとってドラゴンボールというのは特別な存在なのだ。

 

 だから託した。 おねがいした。

 

 孫悟空が、ニッコリと笑うと、そっと遠くの茂みに消えて行ってしまう。

 

「あ、あのリイン教官」

「こ、これ……」

「悟空がお願いしたのです、貴方が持っていなさい」

「で、でも。 やっぱり上長であって、戦闘能力もある教官が……」

「ダメです」

「そんなぁ!」

 

 などと、ドラゴンボール輸送という、割と責任重大な任務を押しつけられたティアナは、そこから、なのはの居る部隊本部に戻るまで、延々と挙動不審となっていたのは言うまでも無い。

 

 おそらく、今後世界に大きな波紋を起こす出来事はあったモノの、なんとか無事に彼等は帰ることが出来たのだった。

 

 ドラゴンボール、まず一個目………………捜索完了。

 




悟空「オッス! オラ悟空」

ティアナ「右良し、左良し……あ、遠くから人が来る……」

スバル「そんなビクつかなくても、別に誰も取りになんか来ないって」

ティアナ「て、敵ね。 このドラゴンボールを狙っているに違いない……そこを動くな! 管理局よ! いい? 動いたらこちらのデバイスのトリガーを引いて、弾丸が出てきて貴方を殺すわ」

スバル「ご、悟空さんティアが!?」

悟空「大丈夫だろ」

スバル「ちょ!?」

悟空「ソレよかもう時間だ。 ほれ、次回!!」

夜天「魔法少女リリカルなのは~遙かなる悟空伝説~ 第94話」

スバル「消える 宝」

ティアナ「ぎゃー! アタシのせい!? アタシのせいなの?!」

悟空「そんなことねえぞ。 悪いのは、アイツだかんな」

夜天「いい加減、気を失ってもらおうか……もうすこし様子を見ましょうか。 ではまた」

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