横島の道   作:赤紗

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“横島忠夫”抹殺指令

『“横島忠夫抹殺”を指示しているのが美神美智恵じゃ!!』

 

この一言に一同は凍りついた。

横島忠夫はアシュタロス戦において真の功労者であり美神美智恵にとっても娘に対する恩人といえる。彼なくしてあの戦いに勝利はなく、娘の美神令子もコスモプロセッサーから復活できなかったであろう。

 

「…どういう事ですか? なぜ美智恵君が横島君の抹殺を!? …何かの間違いではありませんか?」

 

「残念ながら間違いではない。 …自己保身と自らの地位の為にな」

 

唐巣神父の問いに答える猿神は嫌悪感を隠そうともしなかった。

 

「美神美智恵は文珠の事をアシュタロス事件までは隠匿していたが、事件の際には積極的かつ大々的に情報を公開している。 …娘の暗殺を食い止める手段の一つとしてな。その結果、権力を持つクズ共は横島の文珠に興味を惹かれ、文珠の量産、兵器利用する事を考え密かに横島忠夫捕獲命令を出した。 表向きは『魔族』として指名手配されている」

 

「ちょっと待つワケ。私はそんな情報聞いた事がないわ」

 

「お前達には秘匿されたのだろう、横島と関わりが強いGSからな…」

 

「……」

 

これはヒャクメが調べ上げ分かった結果である。横島忠夫捕獲命令は正式な政府の命令によって下されたことであり、、GS協会、オカルトGメンの両方が関わっていること。

そして捕獲対象が魔族としてであるということ。

捕獲後の実験内容は横島忠夫の洗脳、及び人工的文珠の生産機への転換。

彼らは文珠が狙いであり彼を文珠を作る機械に仕立て上げようとしていた。

この事実を知ったヒャクメは激怒した。文官である彼女ですら自ら神罰を下そうとしに行こうとした所を老師に止められたのだ。膿は出し切らないと意味がないからと。

 

「この状況は美神美智恵にも都合が悪いのだろう。 …万が一にも他が人工的文珠の生産に成功すれば、英雄の指揮者として無理を押し通し疎まれている彼女の秘密が露見する場合も有りえなくは無いからな」

 

「そ、そんな理由で… 殺そうとしているんですか」

 

ピートは全身から妖気が漂っていた。怒りのあまり制御ができなくなっているのだ。

雪乃丞とエミの目には殺気が満ちており、愛子とタイガーは怒りより気持ちの悪さで顔色が悪くなっていた。

カオスと魔鈴は見た目は冷静だが内心、不快感を覚えていた。

 

「無論そんな事を許すつもりは無い!」

 

デタント推進派の神魔にとって横島忠夫という人物は、恩人にして英雄ですらある。故にその安否は最重要視されている。

そんな中で人間側の抹殺指令と捕獲命令は見過ごせるものではなく、神魔合同部隊で横島に護衛監視が付けられていたのだ。当初は神魔過激派から護るための措置だったが最高指導者達はこの事態も予想しており人間達にも注意を欠かさなかった。

 

「そして美神美智恵も野放しには出来ぬ。すでに天界の逮捕リストに入っておる。アヤツを放置すれば人間と妖怪の戦争に発展するであろうからな。それだけは避けねばならん! 今は監視させておるが、関係者全員を拘束する!!」

 

本来、神族は基本的に人界に介入しない。だが無差別に大量の妖怪や魔物を乱獲し両者の間に溝をつくり広げている南武グループや美神美智恵は摘発の対象となった。

魔族側も美智恵の思想と行動を危険視しており協力体制をとる事が決定。

 

妙神山に来るまではワルキューレを筆頭に魔界正規軍が影で護衛していた。横島は出歩く際に文珠で隠密に動いていたが不足と考え、正規軍も横島の周囲に対し認識阻害の術で万が一にも見つからないようにしていた

 

この対応は魔族側にしてみても神界同様、あの惨事はデタント派の魔族にてみれば恥以外の何者でもない事件の功労者である横島だからこそである。

実力社会の魔界では横島忠夫は純粋に実力者と恩義のある人物と評価されており、加えて彼を優遇しているワルキューレは正規軍内でも有数の実力者であり、その彼女が人間の横島に対し“戦士”と言わせていることからも横島の軍内部で評価が高くなっている。

 

「ただし、この件は横島には内密にだ! これ以上奴に負担を掛ける必要は無いからな。」

 

ワルキューレは彼女は自身が軍人であるが故に感謝も恩義も感じられない猥雑な美智恵を憎悪、侮蔑していた。彼女の信念とは真っ向から対立する行為“裏切り”だったからだ。

“仲間(同族)は裏切っても戦友は裏切るな” 魔族、とりわけ軍人は“戦友”を裏切らない。何故なら戦友は背中を任せる相手であり、任せられる相手だからだ。そんな相手を魔族は蔑にはしない。

 

「御主達にも黙っていようか考えたのじゃが、…そこに居る机妖怪の愛子殿やダンピールのピート殿は無関係では無いし、特に愛子殿には美智恵の手の者の監視がエミ殿の事務所に行くまで付いていたからのう」

 

「「えっ?」」

 

「奴らは妖怪を捕獲している。そこの半吸血鬼や机妖怪も狙われる可能性が有る。…最も机妖怪の方は横島に対する人質の可能性も否めんがな」

 

その話に真っ青になる2人、共に妖怪で有るこの身を忘れたわけではないが、狙われると聞けばまた違う。特に愛子は監視まで付いていたのだからなおさらだ。

 

「愛子、安心しなさい! ウチの事務所に来た以上、オタクは私の身内なワケ。何処の誰であれ手出しなんかさせないワケ!!」

 

「ワシもおるケン。まかしてくんシャイ!!」

 

「エミさん、タイガー君」

 

その言葉に不安だった愛子は涙が溢れて止まらなかった。仲間として扱ってもらえる事が何より嬉しかった。

 

 

「…先ほど話した美神令子の護衛だが正規軍の護衛は事実上不可能なのだ」

 

若干、気まずそうに話すのはワルキューレである。だがこの話もまた重要事項であるからだ。

 

「先の抹殺命令が出る間際に姿を消した者がいる。それが美神令子と氷室キヌの2名だ!」

 

「令子達が!?」

 

「軍内部でも調査を続けているが、今は横島の周囲が最優先な為結果は芳しくない。…最悪、美神美智恵と共謀で動いている可能性も否定できぬ!」

 

「イヤ、しかし幾らなんでも…」

 

「なら何故このタイミングで姿を消す必要が? 我々は万に一つも許されないのだ!」

 

「ヒャクメ様は何と?」

 

「直接的な繋がりは見えなかったそうだが、美神令子は横島の文珠を所持している可能性が高く隠匿は簡単だ。」

 

その言葉に一同は再び暗くなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、地方の人里離れた谷山で銃声が鳴り響き、少女と少年は死に物狂いで逃げていた。

 

 

「はあ…、はあ…、はあ…」

 

「ケイ、もうちょっと頑張って! …この先に谷があるわ! …私達なら獣化したら降りられるわ」

 

「うん!」

 

道なき道、獣道をあえて進みながらも、少女は肩を撃たれ周囲に血が付き、追跡者を道案内をしているようなものであった

 

「いたぞ囲め!!」

 

そんな中、遂に二人を追っていた連中が周囲を取り囲んでいく。

 

「ケイ、私が囮になるからアンタは逃げなさい!! お母さんの分まで何がなんでも生きるのよ」

 

周囲には自分達を追う複数の人の気配を獣の感知能力で気が付くと少女は少年の為に自らを囮にして逃がすことを決意。

幸いにも少年は無傷であり自分が時間を稼げば少年が逃げれる確率はあがる

 

「ね、姉ちゃん? イヤだよ おいらも戦う!」

 

少年の母は目の前で2人をかばい、捕えられた。銃で撃たれているので生死すら不明な状況だ。そんな中で家族になった、この姉を見捨てて逃げ出すことは出来なかった

 

「貴方は生きなければいけないのよ。美衣母さんの為にも、私の為にも! お願いよ生きて!!」

 

少女は殺生石から復活したばかりで弱っていた処をこの親子に助けられ、家族として迎え入れてくれた美衣やケイに深い恩義を感じていた。力及ばずに美衣を助けられなかったが、せめて息子のケイだけは守らねば、あの世で会う顔すらない

 

 

 

 

「イヤだよ―― タマモ姉ちゃん!!」

 

 

 




タマモ登場。原作無視した展開に!

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