横島の道   作:赤紗

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覚悟

 バキッ!!

 

「…っく」

 

突如激昂したエミにルシオラは殴り飛ばされる。

 

だが――

 

「アンタ!?」

 

「これが私の覚悟の …答えです!!」

 

バチバチッ

 

その瞬間ルシオラの身体からスパークが走った。

 

「ルシオラ君…きみは」

 

この場で気が付いたのは殴ったエミと唐巣のみだった。

 

「一体どういうことですか?」

 

「文珠ね。…その身体は文珠で具現化した偽者ってワケ?」

 

気が付かなかったピートは傍にいたエミに問いかける。

 

「えっ…それは」

 

「私も触ってから気が付いたわ。アレは偽りの身体で本体は別の場所に居る。そうなんでしょう!?」

 

「えぇ、そうです。そしてコレが私の覚悟!!」

 

「どういう意味かしら?」

 

「この姿はエミさんの言うとおり文珠の力で顕現したあくまでも仮の身体!! …そして本体ともいえる私の魂は既にヨコシマの魂と融合したわ」

 

「なっ…融合!? そんな事をすれば…」

 

「分離はもう不可能です。そしてヨコシマが死ぬ時は私も共に」 

 

 

 

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 『魔族には生まれ変わりは別れじゃないのよ』

 

 ……大丈夫、私のかわりは居る。千年もあきらめずに待った人が居る

 だから大丈夫だ。―――たとえ私が消えても彼は大丈夫…だ 

 

 『今回は千年も待ってたひとに譲ってあげる、パパ』 

 

 ……もう未練はいはずだ。あの時、千年待ったあの人に譲った時に 

 

 今の私にはもう彼を抱き締めてやることができない。 ―――抱きしめたい

 

 彼と口付けを交わすこともできない。        ―――キスをしたい

 

 自分の温もりを彼に感じさせてあげることもできない。―――肌を重ねたい

 

 『私たち、何もなくしていないわ』       ―――違う、嘘だ

 

 さようならヨコシマ。私の一番愛し人。大好きだった人。

 

 

 

 

 

――――本当に、これで良かったのですか?

 

「何者? …私を覚醒させたのは貴方?」

 

――――この結末で本当に良かったのですか?

 

「コレは私と彼が選んだ道よ。他人にどうこう言われたくはないわ」

 

――――なら貴女は彼を地獄のような現世に一人ぼっちにするのですね

 

「一人ぼっち? …そんな事には」

 

――――ならない? 本当に? 

 

「何が言いたいんですか!」

 

――――貴女は自らの罪を自覚せねばなりません

 

 

 

 

その言葉をきっかけに世界が切り替わる。それは大戦後の横島の現状と彼の心の悲鳴だった…

 

 

 

 

 

ヨコシマの絶望を知った

 

何故気が付かなかったんだろう

 

あの優柔不断で優しすぎる男が傷つかない筈ないのに

 

彼がどんなに凄くっても心は普通の10代の少年だったんだ…

 

そんな彼に私という恋人と世界を天秤に乗せ選択をさせてしまった

 

否、強要させてしまったのだ“世界をえらべ”“恋人を見捨てろ”と…

 

 

 

 

なのに…世界は …人は優しくはなかった

 

周囲の冷たい眼差し。…なんだコレは 

 

敵意を持った人々。…なんだコレは

 

腫れ物を扱うような、おキヌさん。フォローもせずに彼を避けている美神さん

 

…なんだコレは?

 

なんなんだコレは? 私はそんな世界にヨコシマを独りに

 

ごめんなさいヨコシマ。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい

 

あぁ…っ、ヨコシマの心が凍りついている ――否、ヨコシマの心が死んでいく 

 

 

「ダメ―――――ー!!」 

 

 

それだけは駄目!! 何があってもそれだけは…… 

 

 

―――彼を救いたいですか?

 

「貴方何者!? いい加減に姿を現しなさい!!」

 

―――もう一度聞きます。彼を救いたいですか?

 

「救いたいに、…決まってるじゃない!!」

 

 

その場にすさまじい神霊力が溢れて人影があらわになる

 

 

「我が名は小竜姫!!」

 

「小竜姫って…、まさか音に聞こえし『神剣の使い手』!?」

 

「こうして顔を見合わせるのは初めてですね。改めて自己紹介をしましょう。私は貴女達に妙神山を落とされた無能者の元管理人です」

 

私は息を飲んだ。妙神山…人界にある108しかない神魔族の霊的拠点の一つ。…その妙神山は逆天号の断末魔砲で私達が落としたのだ。

そして管理人の小竜姫とは魔族にも名が通っている実力者。

 

 

「…それで何の用かしら? 私に対する復讐でもしに来たの?」

 

「いいえ。貴女も本当は解っているはずです」

 

「…ヨコシマ?」

 

あの映像を見せる意味は、それ以外考えられない。だが…

 

「彼の心は今、闇に囚われています。故に貴女を蘇らせます」

 

「なっ…無理よ。私はもう…」

 

私の霊的質量はすでに維持できないはずだ、現状もヨコシマの中で眠っている残りカス。

美神さんが言った転生すらおそらく不可能。彼に希望を持って欲しかったから黙っていたが。

 

「彼が人間であるうちは魂の分離は不可能でしょう。ですが…」

 

「まさか魔族化? …言っておくけど不可能よ。ヨコシマ側に取り込まれ吸収されて消滅する。そして神族化はそもそも相反する因子。拒絶されて消滅するだけよ」

 

「そうですね。ですが彼の霊体をそのまま増幅し分離に耐えられるようになれば話しは違います」

 

「霊体を増幅?」

 

「人の肉体を捨て霊体を強化し、神魔と同じ霊的生命体。神族でも魔族でもない人の霊体のまま神魔の域になれば…」

 

「ちっ…ちょっと」

 

「貴女の霊質に影響を与えずに分離が可能でしょう」 

 

「待ちなさい!!」

 

「……」

 

「貴女、自分が何を言っているのか分かっているの!? 人間の魂を管理、導くのが神族の役割。 その人間を神魔の域まで高めるなんて真似は明確なルール違反よ …神界を追放されかねないわ」

 

ルシオラは寒気を覚えた。

小竜姫は神族として、あまりに常軌を逸した考え方であった。

 

「だから何ですか?」

 

「だから…!?」

 

「私は神族として横島さんを救いたいと言っているんじゃありません。

 あくまで私個人の意思で彼を救いたいと言っているんです」

 

「……その意思でヨコシマを殺すの? 肉体の神魔化なんかとは違い、その方法ではヨコシマの…肉体は」

 

「はい消滅するでしょうね。人としての生。 …彼が生きる筈だった人の幸せは私が殺します。」

 

「あ…貴女ねぇ!?」

 

「彼の心が救えるのであればその罪その咎、喜んで受けましょう!」

 

「……貴女…狂っているわ」

 

「それは貴女も同じでしょう? 愛に狂った魔族なのですから」

 

「……そうね。でもコレだけは答えて? 何故そこまでしてヨコシマを?」

 

「それは今話すべき事ではありません。」

 

「…」

 

「私がこの場に来たのは貴女に聞きたい事があったからです

 貴女が蘇ったとして、また同じようになら無いといえますか?」

 

「それは…」

 

「回答しだいでは貴女の蘇生はしません。いえ…このまま滅します。たとえ横島さんに怨まれようとも…」

 

小竜姫から殺気が出ていた。その殺気におもわず怯むが

 

「私は彼を愛している!!」

 

「回答になっていませんよ」

 

緊迫した空気の中、ルシオラが口を開く。確認するかのように。

 

「私は彼と出会い、彼に恋をした。道具でしかなかった私達に温もりを与えてくれた」

 

彼と生きていたい。――本気でそう思った。

そんな事を考える必要なんて今まで無かった、何故なら私達は道具だったから…

でも違った。“私達にも意思がある”それを教えてくれたのは彼だった。

 

「……」

 

「彼の優しさに惹かれた。彼の弱さに救われた。彼のおかげで希望が持てた」

 

「それで…」

 

「私は……彼と共に生きていく為なら躊躇わない!! 例えそれがヨコシマの望んだ形に成らないとしても」

 

「……それが貴女の答えですか?」

 

「えぇ。そうよ」

 

「いいでしょう。では私は見届けると致します。貴女の覚悟を!!」

 

 

そしてまた景色が変わる。今度は一面が真っ黒な世界だった。

 

 

「此処は?」

 

「横島さんの内面世界、その最深部です。そして絶望が内包された結果です」

 

そう言う小竜姫の姿は見えない。どうやら誘導されたらしい。

 

「こんな景色……あいつには似合わないわ」

 

「後は貴女しだいです」

 

その言葉を最後に気配すら消え去って行った。

 

「…ヨコシマ!!」

 

 

彼女は願う、ヨコシマに逢いたいと真摯に純粋に――

 

あぁ認めよう確かに私は狂っている。

生命を持つものとしての自身の生存本能すら否定して挙句には愛する彼に普通の幸せすら願えずにいる。…だがそれでも

 

 

 

「メドーサのヤツ、一体なにを…」

 

「…ここは貴方の、…ヨコシマの内面世界。その最深部よ」

 

「え…っ…」

 

「この場所に呼んだのは私よ。久しぶりね ……ヨコシマ!!!」

 

 

 

 

―――この再会に後悔は無いのだから

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「あっ…アンタ まさか!?」

 

「私は…二度とヨコシマにあんな想いを味あわせたくない!!

 もう二度とヨコシマを置いて逝かない!! …そして置いて逝かれたくもない!!」

 

 だから迷わない。死が2人を別けるというのなら一緒に終わろう。

 どちらかが欠けても片方に傷が残り、やがて壊れるだろう…

 

「これが私のヨコシマと共に生きる覚悟。その為になら魔族の肉体すら不要よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 


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