横島の道   作:赤紗

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変わりゆく未来

「パピリオ殿 どこですかパピリオ殿」

 

広い宮廷内に男の叫び声が反響していた。

 

(マズイ。うたた寝しちまうなんてとんだ不覚。また職務怠慢で追放なんてなったら殿下の顔に泥を塗っちまう)

 

男は焦っていた。お目付け兼監視役を任されていた少女とお茶を飲んでいたときに急に眠気が襲い、気が付いたら少女は居なくなっていたのだ。

 

「お願いですから出てきて下さい。パピリオ殿ーー。」

 

当然ながらそんなに大声を出して周囲に気づかれない訳がなく間違いなく、後に竜神王の耳にも入る結果になるのだが男はそんな事にも気が回らないほどパニックになっていた。

 

 

 

イームが探している少女パピリオは敷地内のとある湖に居た。自分を監視しているイームに対して燐粉で少々眠って貰ったがさすがに脱走する気は無かった。

 

それに――

 

「ここに居たのか、母屋に居ないので皆が心配しておったぞ」

 

この男の監視の目を出し抜くのはパピリオには無理と理解していた。

 

「そうでゅね。パピは一応人質でしたから勝手に監視の目を潜り逃げてしまってはアンタの立場が悪くなるでちゅ」

 

「今日はいつになく毒舌だな…」

 

「ルシオラちゃんが蘇ったでちゅ」

 

「…そうか今日であったか」

 

アシュタロスによって産み出された自分達三姉妹は魂の深い所で繋がっている。

だからこそ、その繋がりが突然途絶えたルシオラの危機にもパピリオだけが気が付けたのだ。

故に復活したらどれほど離れていようが姉妹には感じることは出来る。

 

「アンタ達、神族はあの2人をどうするつもりでちゅか? …これ以上あの2人に要らぬちょっかいを出すようならこっちも考えがあるでちゅ!」

 

パピリオは目の前の青年を睨みつけながら忠告する。

 

「何、悪いようにはせん。アヤツも一応余が初めてとった家来なのじゃからな」

 

 

 

 

 

ヴァチカン宮殿

 

カトリック総本山のヴァチカンはローマ法王を元首とする独立国家である

一般には極秘扱いになっているが宮殿の地下には人類が出会った様々な災厄が封印されている。

その扉の前に国家元首であるローマ法王と宮殿管理最高責任者でもある枢機卿、そして褐色肌に銀髪の女性がいた。

 

「この場所は我々が考えうる限りの最強の結界を施しております。人類には破壊不可能な魔具や除霊不能な悪魔が封印されています故に」

 

「問題ありません枢機卿。懐の通信機も不要です」

 

「わかりました。100年間の予言を書かせる法王の日記は後日で構いませんのでお願いします」

 

「では開けてください」

 

重厚な扉が開くと同時に瘴気があたりを覆うが女は気にも留めずに進んで行く。中には様々な悪魔や魔獣が檻に閉じこまれていたが誰しもが女と目を合わさない。

ある者は震えており、またある物は死を覚悟したのか身動きすらとらずにいた。

 

「人界で最も不浄な場所の一つだな」

 

そんな中で彼女の来訪を歓迎する者もいた。

ガラス張りのような部屋で閉じ込められながらも彼は笑いながら出迎えた。

 

「キミが来るとは …くっくっくっ。面白いね」

 

「戯言を、貴方なら私が来る未来も予知していたのでしょうに悪魔ラプラス」

 

悪魔ラプラス。別名 “全知魔” 完全な予知で未来を見通す悪魔

 

「…さて何用かね? 分霊とはいえキミが来るとは日記を書かせに来ただけではなかろうに」

 

「聞きたい事があります。貴方の予知で見えたという状況と現在の状況。この誤差はどう説明しますか、薄汚い悪魔」

 

「大筋では変わっていないはずだがね? アシュタロスは予知したとおりの結末になったし」

 

「ならアレはどういうことですか?」

 

「アレとは」

 

「とぼけないで下さい。貴方は予知していたのでしょうアレの復活を …そして今現在の魔界勢力図も」

 

「ほう、魔界側で何か有ったのかね?」

 

「貴様っ! まだとっー」

 

「私は本当に知らないのだよ。そもそも私の予知では今日キミは来ていなかった」

 

「っ!?」

 

「100年前の予知では今日此処に来るのは外部のGSだったのだよ」

 

「馬鹿なっ!! この任務に外部のGSが任されるわけがない」

 

法王の日記

それは100年単位でプラスに占いをさせて未来の危機を回避させる為の物。ただし事前に知っていたとて回避できるとは限らずに前回予知してあった二回の世界大戦は阻止できずに終わっている。

だが人間には回避不可能でも未来を知るという事には大きな意味がある。

…特にここカトリック教会総本山のヴァチカンでは。

 

「任されていたよ。今日ここに来るはずだったのは美神令子だったからね」

 

「なんですって?」

 

「干渉して呼んだのは私なんだがね。くっくっくっ。」

 

悪魔は嗤いながら告げる。可笑しそうに、嬉しそうに、楽しそうに。

 

「なんという事を」

 

「だが呼べなかった。それがキミ達のせいかとも思っていたが違うようだ」

 

(遊べなかったのは残念だがそれ以上に嬉しくもあるものだな)

 

ラプラスが100年前に予知した時にはこの場にいたのはGS美神事務所のメンバーだった。

それはラプラス自身が干渉しようがしまいが関係なく来るはずだった。今回来させようと干渉したのは、あくまで暇つぶしだった。自身が干渉した方が面白く遊べると踏んだからだ。

 

その為、ローマ法王に自身が指定した人物でなければ占わないと告げてS級のGS美神令子を召喚状のもとに強制召還させようと目論んだ。

法的にも社会的宗教的にも、とんでもない権力を持つ法王の勅命書である。依頼額からも彼女に断るという選択肢は存在せずに今日来るハズだった…

 

そして彼女が来るのなら横島忠夫も付いてくる。この二人をそろえれば彼らの日常のドタバタをデバガメし遊ぶ気満々のラプラスだった。

例え監獄の中でも敷地内ならリアルタイムで予知できるので、二人の騒動を近くで観賞するつもりだったのだが。

 

「美神令子の失踪。聞かされたとき私は歓喜したね」

 

ところが法王から聞かされた結果は不可能の一言。

なにがどう変化したのか美神令子はS級などに昇格されておらずそれどころか現在は行方不明。

 

「これは私が見た未来ではないのだから」

 

ラプラスは観測した時点での未来を予知するが、あくまで観測した時点。本来ある数多の未来、その何処にも美神令子の失踪などない事態だった

 

「それは貴方の予知を超えた存在が居るということですか? 全知魔ラプラスの未来予知でも見えなかった可能性の一つとして!?」

 

女性の目に始めて驚愕の色が浮んだ。

 

「あぁその通りだよ。そしてキミがそんな表情をしたのも驚きだね。くっくっくっ。」

 

「何が可笑しい!!」

 

女性の怒気で地下牢全体に神気が発生、すぐ傍にいたラプラスは後ろの壁側まで吹き飛ばされ押し潰れそうになっていた。

 

神魔族の肉体は霊体に近く、人間界の物質をすり抜けようとすれば可能なため牢獄の壁側には逃走防止の結界が幾重にも貼られており、その威力は悪魔にとって脅威だ。肉体は焼けただれ霊気構造にも影響が出ていた。

 

――だが

 

「くっくっくっ。面白いさ、不測の事態ほど心躍るものはない」

 

「ちっ!」

 

自身の肉が焦げる臭気の中ラプラスは気にも留めずに笑っていた。

女性は険しい表情を隠せなかったが神気は収めた。

 

「用事は終わったので失礼します」

 

「日記はいいのかね? 建前とはいえ必要だろう」

 

「……外れた予知に価値などありませんよ。もう二度と会うことは無いでしょう。さらばです“全知魔ラプラス” 貴方と過ごした時は有意義であり無意義でした」

 

「いいやキミとは必ず再会するよ。全知魔ラプラスの名にかけてね。また会おう“神の左に座す者”よ。今宵は楽しい一時だったよ」

 

 

女性はきびすを返してもと来た道を帰るも悪魔の嗤い声が耳から離れなかった。

 

 

 




お久しぶりです
ようやく話がまとまり投稿できました。
そろそろ美神やおキヌちゃんの話も書きたいと考えています
次回もどうぞよろしくお願いします。

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