「ル…ルシ…オラなのか?」
「…ヨコシマ。また逢えた」
「夢なのか?いやそもそも俺はサルに…殺された…のか。じゃあ此処は死後の世界なのか?」
「違うわ。落ち着いてヨコシマは生きているわ」
これが私の罪なのか。ヨコシマの顔には死んだかもしれないと言いながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべている
「大丈夫よ。私はもう何処にもいかないわ。」
私はもう貴方と離れない。だから…お願いだからそんな顔しないで!!
「ヨコシマ!!!」
気がつけば私は彼を抱きしめていた
◇
何時からだろう。現実の時間がどこか曖昧になったのは
寝ても起きても目が覚めない夢の中にいるように感じられ始めたのは
だからこそ――
「ル…ルシ…オラなのか?」
最愛の彼女が現れても現実味が感じられないのは
「…ヨコシマ。また逢えた」
彼女が喋った。声が聞こえた。ああそうか、俺は
「夢なのか?いやそもそも俺はサルに…殺された…のか。じゃあ此処は死後の世界なのか?」
そうか俺は妙神山のサルと戦って死んだんだな…
なんでメドーサが出てきたのか分からないが、アイツ実は髑髏の死神で俺がメドーサに見えていただけなのかもしれないな。…どうでもいい。死んだとしてもルシオラに逢えたんだから
「ヨコシマ!!!」
呼ばれたような気がすると彼女に抱きしめられていた
ルシオラの体温が、鼓動が、息遣いが、涙が…。そして俺の頬にも涙が流れていた
「俺は…お前を死なせちまった…俺は…お前に…何も…」
「そんな事は無いよ。ヨコシマは頑張ったわ。」
「でもお前を…」
「それにヨコシマも私も死んでなんかいないわよ」
「えっ…だって」
「生きているわ。貴方も私も」
抱きしめられたているからこそ伝わるトクンという心臓の鼓動
生きて・・・いる ルシオラが生きている!
「生きている!?」
「そうよ。私たちは何も失ってない。失っていないのよ」
「あぅっ…あああっ…」
「大丈夫!! 今度は護るから。私が貴方の心も体も …もう貴方を独りになんてさせないから」
◇◆◇◆◇◆
「体が重い、妙神山から供給がなくなっている。…成功したのね」
神界で生まれた神族。そして魔界で生まれた魔族はそれぞれ人間界に来るにあたり神魔界との間にチャンネルを作り力の供給を受けている。神界なら神気を魔界なら瘴気を、それぞれ吸収し生命エネルギーとして活動している
しかし人間界とは物質界と呼ばれ、神魔界のように霊子で構成されている霊界とは違う理の世界。故に人間界ではチャンネルが閉じてしまえば供給のない世界でありアシュタロスが利用したのもこの点である
「目覚めたようじゃな」
「老師」
「まだ無理をするでない。」
「2人は」
「小僧がまだ目覚めてはおらぬ。ヌシも暫し休め」
「ですが…」
「小竜姫よ、今のヌシは妙神山とのパスは切れておる。小僧との契約すら不完全、そんな状態では霊力も消耗するだけよ。せめてヤツが起きて契約するまでおとなしくしておれ」
契約とは本来は双方の意思が伴わなければ成立しないもの。それを私は、彼の生き血をすすって一方的にラインを繋いだだけの云わば仮契約
当然ながら供給があるわけもなく、蓄積された霊力が尽きれば私は活動できずに以前と同じく休眠状態となるだろう。そして横島様が契約をしてくだされなければ…私はいずれ消滅するだろう
「覚悟の上です。それよりも老師、魔の気配が近かづいてますね」
「うむ、近況を報せると新入りの正規兵士を寄越すと一報が入っている。名は確か…」
「横島様の敵ですか?」
「なに?」
「魔族の正規兵であれ神族であれ横島様の敵なら斬ります。見て参ります」
そういうと私は超加速を刹那の間、発動して門へと向かう
◇
「あの未熟者めが。視野の狭さが悪化しておるの…」
制止する間もなく飛び出して行った小竜姫におもわず溜息が出てしまう
敵かどうかを自身の眼で見て判断するというのは現状間違いではない。が何故消耗の激しい身で超加速などを使ってまで焦るのか?
以前からであるが小竜姫には固定概念ともいえる己の正義をもっており、それが自身の視野を狭さに繋がっていた
「正義とは極論、自分視点での義でり概念である。そして強すぎる概念はときに悪とも呼ばれる。…理解するには若すぎるか」
理想と正義感が溢れる姿は若さゆえか。猿神は小竜姫の頭の固さとともに、その姿勢はかつての自分にも思い当たるところがあった
「…未熟者めが」
それ故にこれ以上指導できぬことが口惜しく歯がゆかった
◇
「ここが日本にある世界でも有数の霊山、妙神山。人であった時に来たかったわね …ところで何時までそうしているつもり? 門番さん!?」
「気が付いていたか」
「何用だ魔族よ!? ここは神族の拠点。許可なきものを通すことは出来ぬ!!」
「一応許可証は持っているけど、やっぱりここは戦うのがセオリーかしらね。右の鬼門さん、左の鬼門さん!?」
「「 貴様何故我らの名を? 一体何者だ!? 」」
「あら? 気が付いていなかったの? つれないわね、香港で会っているじゃない」
「香港だと?」
「…貴様まさか!?」
「ならこの姿なら分かって貰えるかしら?」
そう言うと男の顔は般若のようになり体も一回り巨大化した
「生きていたのか?」
「てっきり死んだものと思っていたのだが…」
「…貴方達だって似たようなものでしょ? お互い死にぞこなったわね。
さぁお喋りは終わりにして始めましょう。伝説の修行場の門番さん、その真価みせてもらうわ!!」
「よかろう!! 我らは門を守護する鬼。この“右の鬼門”」
「そしてこの“左の鬼門”」
門の左右にそびえるクビなしの石造が門前に移動した
「「 妙神山守護鬼神の誇りにかけて貴様を倒す!! 覚悟せよ鎌田勘九郎 」」
「あらいいじゃない。そういうノリ好きよ♡」
「何事ですか、騒々しい」
その言葉と共に門が内側から開けられ中から小竜姫が姿を現した。
「小竜姫様、敵にてございます。どうぞ我らに任せてお下がりください」
「…貴方は確か」
「小竜姫!? なら先に貴方の首からもらっ…」
門から出てきた小竜姫に勘九郎が狙いを変えて襲い掛かろうとするも
「ぐふッ」
いつの間にか手にしていた彼女愛用の神剣。その柄頭が勘九郎の鳩尾にめり込んでいた。
一瞬呼吸が止まり、意識すらも途切れそうななかで反射的に後ろへ飛んだ。
その刹那の間、小竜姫から意識がそれてしまう。だがその隙は致命的だった
「何処を見ているんですか?」
鞘から抜かれた剣が自身の首にあてがわれていた。
「私相手に余所見とは随分と舐められたものですね。その愚考死をもって償いなさい」
「まっ…」
剣から迸る神気のみで魔族である勘九郎は滅られようとしてた。
そこには圧倒的なまでの格の差があった。
「…っと本来は言いたいのですが残念ながら連絡が来ています。鎌田勘九郎。任務で来ているのでしょうから今回だけは特別に不問しておきます。」
その言葉とともに瞬時に剣から神気が散っていき鞘に刃を収めた
「ですが今度おふざけが過ぎるようでしたら解っていますね?」
「…はい。申し訳ありませんでした。それと此方が渡された許可書になります。」
「よろしい。ではこれより妙神山の敷居を跨ぐことを許可します。改めて貴方を歓迎します」
侮っていたわけでも油断していたわけでもない。
以前の上司と共に敵対していた当時の時点で敵わないと理解していた
だがそれでもいずれは倒せる、届く範囲程度の神族だと思っていた
今では当時より強くなっている自負もあり、多少なら敵わないまでも相手になると考えていた
…だが今の彼女は
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません。短い間ですがお世話になります」
決定的に以前とナニかが違っていた