ここはアインクラッドの五十層アルケードの郊外にある一つの食堂。
食堂と言っているが大体は飲み屋だ。
配置は深夜食堂のそれだ。
カウンターの前で暇そうにしている二十代くらいの男がいる。
この店の店主バールである。
おっと客が着たようだ。
「やあ、大将空いてる?」
黒いコートを着た中性的な顔立ちの少年が入ってきた。
「よう、キリト君。空いてるよ客来なくて暇でしゃあねぇとこだったんだ」
「良かった。人多いの苦手なんだよな」
キリト君はそう言って苦笑するとドアから入ってすぐの席に座った。
「またまた、よく女の子引っ掻けてるって鼠っ子から聞くよ?」
「アルゴめ。そんなことないよ大将」
「さて、キリト君注文はなんにするんだい?作れるもんなら何でも作るぜ?」
そうこの店では作れるもんなら何でも作るんだ。
「そうだな....ん?大将この臭いなんだ?」
醤油の香りがしている。
「ああ、今日は酒飲む奴用に煮物作ったんだ」
「食いたかったけどお通しなら貰えないな」
「いや、普通におかわりなら単品だから頼んでもいいよ」
「そうなのかじゃあ貰うよ」
「ちっと待ってな少し暖めっからよ」
俺はそう言って仕入れておいたキリト君がいつも飲むオレンジのような味がするジュースの瓶とグラスをキリト君の前に置いて裏手の厨房に入っていった。
「ああ」
十分後。
「ほらよ」
俺はキリト君の前に煮物と白米を置いた。
「あの、大将俺ご飯は頼んでないんだけど...」
「キリト君は見かけによらず以外と大飯食らいだからな。しかも旨そうに食ってくれる作るこっちとしては嬉しい限りだ。だからサービスってやつよ」
「ありがとな大将」
「おうよ」
「うまっ!飯が進む!」
そう言ってキリト君はガツガツと煮物と飯を食う。
それを俺は旨そうに食ってくれるのが嬉しくて笑顔で見ていた。
「ご馳走さま!いやー食った食った」
「そうか、旨かったかい?」
「ああ!すげぇ旨かった!何か懐かしいと思ったら味付けがさ妹のと似てたんだ」
「へぇ、キリト君妹さんが居るんだ」
「ああ、一個下なんだ。剣道やってんだ」
「ほう、強いのかい?」
「ああ!俺が最後に会ったときは一年だったけど新人戦で県大会行ってたし!」
「へぇ、仲良しなんだなキリト君とその妹さんは」
「いや...そうでもないさ」
さっきまで楽しそうに話してたキリト君の顔に影が射す。
「何か溜まってる物があんだったらよ。話してみ?膿は腐る前に出すもんだぜ?」
「誰にも話さないって約束してくれるか?」
「おうよ、いつか現実で店開いた時もキリト君にしか話さねぇって約束するよ」
「俺とその妹...スグは本当の兄妹じゃないんだ。スグは愛称な」
「って言うと?」
「俺にとってスグは本来なら従妹なんだ」
「従妹?」
「ああ、俺の本当の両親は事故で亡くなってるんだ」
「それは...」
「それで引き取ってくれたのがスグの両親だったんだ。俺は物心ついて直ぐだったから全く覚えてなかったんだ」
「じゃあ何でそんなことを知ったんだい?普通ならもう少し...せめて高校卒業してからだろう?」
「それは、八歳の頃だったかな俺が家のパソコンの削除メモリを適当に弄ってたら見つけたんだ」
「おいおい八歳でパソコンの削除メモリ弄んねぇだろ」
「やってたんだから仕方ないだろ」
「んでそれからは?」
「ああ、それからはスグと顔会わせるのが何か出来なくなっちゃったんだ。それで一緒にやっていた剣道も辞めちまった」
「何となく分かるがそこまで顔会わせるのが辛くなるか?」
「一番の理由は...俺とスグの爺さんがさ凄く厳しい人でさ俺が剣道辞めるって言ったら凄い剣幕で俺を叱ったんだ。その時スグが「私がお兄ちゃんの分まで頑張るから。だからお兄ちゃんを許してあげて」って言ったんだ。多分俺がスグと顔を合わせられなくなったのはスグに負い目を感じてるからだと思う」
「そうかいでもスグちゃんは剣道が素で好きなんだと思うよ」
「え?」
俺が突然そう言ったらキリト君は少し唖然とした。
「嫌いだったらそんなに頑張れないよ?俺も料理が好きだから料理スキルをマスター出来たんだし」
「大将料理スキルマスターしてたんだ」
「まあな、キリト君」
「なんだ?」
「スグちゃんのこと嫌いなのか?」
「そんなことない!好きだよ!あ、likeの意味でな」
「あはは、likeでもloveどっちでもいいけどさ。好きならよ正面から見てやんな」
「うん」
「分かってりゃいいんだ。これでキリト君には向こうに帰る理由が出来たな」
「ああ」
「よく頑張ったな」
「...え」
俺はカウンターの中から手を伸ばしキリト君の頭を撫でる。
キリト君は訳が分からず固まっている。
「キリト君はこの店に着た中でも頑張ってる人の顔をしているんだ。現実でもこのSAOの中でも俺じゃ想像できねぇような辛いこと味わってんだろうな」
「うっうっ」
キリト君は涙を堪えようとしている。
「たまには俺のような歳上にも頼っていいんだ。もう一回言うよ...よく頑張ったな」
「うわぁぁぁ」
キリト君は抑えていた感情を剥き出しにし泣き出してしまった。
その一言でキリト君の中の何かが決壊したのだろう。
数十分くらいにはキリト君は泣き疲れ寝てしまった。
俺はキリト君に毛布を掛けて食器を片付けると暖簾を外し厨房より裏にある自分の部屋で眠った。
「ん、ふぁーあれ?俺寝ちゃったのか?」
「おはようキリト君」
「うわぁ!大将!?」
「あはは、キリト君はおもしろいね」
「何か複雑です」
「いい夢でも見たのかい?何かスッキリした顔だね」
「ああ、スグと無邪気に遊んだ子供の時の夢を見たよ。ありがとな大将」
「おうよ、これから攻略かい?」
「ああ」
「そんならこれ持ってきな」
俺はキリト君に一つの箱を差し出した。
「これは?」
「攻略中の弁当だよ。昨日の煮物余っちゃってさ。卵焼きも入れてあるよ。完全保温だから冷めないから安心だ」
「え?それって結構高くないか?」
「大丈夫だよ。常連の中に腕のいい職人がいるんだ。お銚子一本やると安く売ってくれるんだ」
「ははは、大将いったい何者だよ」
「俺はただの食堂兼飲み屋の店主バールだよ」
色々な人が来て色々な物語が生まれる。
人はここを仮想食堂って呼ぶよ
反応が良かったら他の客も書こうと思います。