引っ越と転入生
001
「織斑くん、忍野くん。お引っ越しです」
「「はい?」」
一夏と忍野は部屋にやってきた山田先生の言葉に耳を疑った。
「え、えっと、あのですね、明日転入生が寮に入りますのでお二人のうちどちらかにお引っ越ししてもらう事になったんですよ。ごめんなさい」
「別にいいですけど、転入生が入るからってなんで俺たちなんですか?」
「転入生って言っても女でしょ?」
ふたりの質問に何やら考える山田先生。
すると内緒話をするかのように顔を近づけてきた。
「ここだけの話なんですが、転入生は二人いて一人が“男性”なんだそうです」
「男!?」
「へぇー、男ねぇ」
『お主らの他にもおったのか』
一夏は驚いたが忍野と忍は全然驚いてない。
リアクション薄いぞ。
「あ、絶対しゃべっちゃダメですよ! でないと私、織斑先生に怒られちゃいますから!」
山田先生は慌てて口止めに走った。確かに、こんな情報を流したら女子生徒がどんな反応をするか、そしてそれがバレたらどんな目にあうか想像したのだろう。
若干、顔が青くなっている。
「それで忍野、どうする?」
「じゃんけんでもするか?」
「それでいいぞ」
「負けた方が部屋を代わる」
「望むところだ!」
「「じゃんけん、ポン!」」
「それではこれが新しい部屋の鍵です。荷物の準備ができたら移動してくださいね」
負けた忍野は鍵を受け取り、一夏と山田先生に手伝ってもらい部屋の片付けを済ませると部屋を出た。
002
~一夏サイド~
忍野が山田先生と部屋から出ていくと忍が影から出てきた。
「どんな奴が転入してくるんだろうな?」
「我が主様は気楽じゃの。じゃがそんな事よりせねばならんことがあるぞ」
「え? 何か忘れてたっけ?」
「お前様、同居人が変わるのじゃぞ? 儂これからいつ影から出るのじゃ?」
「あ・・・」
そうだった。同居人が忍野だから好き勝手に影から出てこれたけど他の人の前で出てくる訳にはいかない。そうなれば学園にいる間、休みで学園から外出しない限りずっと影の中に居ないといけない。
「考えておらんかったようじゃの。我が主様が忘れておることは・・・儂への謝罪じゃろ?」
黙って土下座しました。
とりあえず忍に許してもらって寝る準備をしていると、
コンコン
『一夏、今いいか?』
箒がやってきた。
「今開けるよ」
忍が影に入ったのを確認してから扉を開けた。
「どうしたんだ箒? まあ、とりあえず部屋入れよ」
「いや、ここでいい」
「そうか」
「そうだ」
何が言いたいんだよ!?
「・・・箒、用がないなら俺は寝るぞ」
「よ、用ならある!」
声が大きいぞー。鬼寮監がやってくるぞー。
「ら、月末の、学年別個人トーナメントだが・・・」
どんどん顔が赤くなってく。風邪か? 大丈夫だろうか?
「わ、私が優勝したら、つ、付き合ってもらう!」
それだけ言いきると箒は走り出した。
「あ! おい!」
慌てて部屋から出て箒を呼び止めようとしたけどもう見えない。足速いな!
「優勝したら付き合って、って買い物くらいいつでも付き合うのに」
『鈍感じゃのう』
鈍感ってなにがだ?
003
~忍野サイド~
以前使用した予備の寮監室に来た。
山田先生は部屋の前まで荷物を運ぶのを手伝ってくれたが用事があると申し訳なさそうな顔をして行ってしまった。
さて、部屋に運び込みますかな。
「あれ? 忍野くん」
声をかけられて振り返ると、そこには手に小さいダンボール箱を持った簪がいた。
「どうしたんだい?」
「荷物、取りに・・・忍野くんは?」
「訳あってお引っ越し、この部屋になったんだ」
「ここ、寮監室」
「すぐに使える部屋がここだけだったらしいよ」
「ここが・・・忍野くんの」
あれ? 黙っちゃった。
すると扉の前に置いてある荷物を見ている、どうしたんだ?
「片付け、手伝う」
「これくらい大丈夫だよ」
「いつも、手伝ってくれてるから」
「いや、でも・・・」
「手伝う」
・・・強い眼差しを上目遣いで向けてくる。
そんな顔されたら断れないよ! てか断ったら罪悪感わきそう!
「それじゃ、お願いするよ」
「うん!」
ん?
なんだか嬉しそうに、そして元気よく簪が返事をした。
その後、簪に手伝ってもらって予定より早く片付けが終わった。
簪が俺の私物を興味深々で見ていたような気がするが気のせいだろう。
004
「私はやっぱりハヅキ社製が良いかな」
朝、食堂で合流した一夏と忍野が教室に着くとそんな言葉が聞こえた。
「ハヅキってデザインだけっぽいじゃん」
「デザインが私は気に入ってるの」
どうやらISスーツの話らしい。 スーツに関しては生徒の中でも、デザイン重視派だとか機能性重視派だとか色んな派閥があるらしい。
「私は・・・ミューレイかな~」
「でもミューレイって高いんだよね~」
値段に関しても企業や国によって差が大きく、学生の懐には厳しい品だ。
しかしこの学園の一般生徒が着用するスーツは、入学時に制服と共に学園デザインの物が用意される。 その後、生徒たちが学園スーツを使うか、希望のスーツを注文することになってる。
費用の9割以上が学園持ちだからって安いものではないが・・・
すると、
「織斑くんと忍野くんのISスーツって、何処の企業のものなの? 見た事が無いんだけど」
と聞いてくる生徒がいた。
「俺達のは特注品だよ。今までは男性用のスーツなんて必要なかったからな。確か、元は宇宙服の試作品だって聞いてるよ?」
一夏は思い出しながら答えた。
女子のは水着のようなデザインだが、二人のISスーツは全身タイプのウェットスーツのようなもので、黒ベースに専用機のカラーリングがされて、露出部分は頭だけという物だ。ISスーツ基本的機能の他に、対G制御とバイタルチェック機能などがついている。そして従来のスーツよりも防弾能力が高い。
一夏のスーツは深緑色の、忍野のスーツは赤色のツートンカラーである。
「宇宙服か~、そんなのも有るんだ~」
「特注品だからねぇ、男性用って事も含めて二つと存在しないよ。余程の事じゃない限り、他の企業じゃ作ってもらえないよ(もっとも、束にしか作れないだろうが)」
忍野もスーツの話に交ざる。
一夏たちがそんな風に話をしていると、山田先生がISスーツの事をスラスラと説明しながら入ってくる。
その後、千冬もやってきてHRが始まり、その内容としてはIS実戦訓練の開始と、ISスーツの注文だとかに関してだ。
「スーツを忘れた者は代わりに学園指定の水着を着用、それも無いものは・・・そうだな、下着で構わんだろう」
((何言ってんだよ!?))
千冬の発言に、心の中でツッコミをいれる男子二人。
男の前でそんな事させようとするなよ。
連絡事項を言い終えた千冬は山田先生にホームルームを引き継いた。
「ええとですね、今日はなんと転入生を紹介します。しかもふたりです!」
「「「ええええぇぇぇっ!」」」
予想通り、女子たちはざわつく。それも仕方がないだろう。転入生の噂などは基本的にすぐ流れる(鈴がいい例だ) しかし今回は事前情報がまったくなかったのにふたりも現れたから驚きもする。
教室内がざわつくなか、教室の扉が開いた。
「失礼します」
「・・・・・・」
教室に入ってきたふたりの転入生を見て、女子たちは静かになった。
転入生のひとりが、“男子”だったのだから。
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