暴物語   作:戦争中毒

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シャルルアイ 其ノ弐

 

003

 

 

~一夏サイド~

 

 

「よぉ一夏、遅かったな。待ちくたびれたぞ」

 

あの後シャルルを落ち着かせた俺と忍は忍野の部屋を訪ねたが、開口一番にそんなこと言われた。

いろいろ言いたかったけどとりあえずシャルルの出来物のことを話した。

 

 

 

 

 

 

 

「“百々目鬼”」

 

「とどめき?」

「なんじゃそれは?」

 

忍野の口にした名前を俺と忍は聞き返した。

 

「憑きものの類さ。“目”のような出来物で潰しても消えないならまず間違いない」

「その百々目鬼ってどういう怪異なんだ?」

 

俺が話を促すと忍野はため息をはいてから話し始めた。

 

「百々目鬼は、鳥山石燕作の『今昔画図続百鬼』に記されてる妖怪なんだ。

 

「解説文を要約すると『盗癖のある女性の腕に、盗んだ鳥目の精が鳥の目となって無数に現れたのでこれを百々目鬼と呼んだ』との意味だ。要は、盗人が憑かれて妖怪化したんだ。『鳥目』っていうのは昔のお金の異名で、銅銭は中央の穴が鳥の目を髣髴させるためにそう呼ばれてたんだ」

 

忍野はそう言ったが信じられなかった。

盗人? シャルルが?

 

「『百目鬼』『百目貫』『百目木』などと書いて『どどめき』『どうめき』と読む地名が日本各地にあることから、百々目鬼はこの銅銭と地名から石燕が連想した創作妖怪と解釈されているんだけどそうでもないんだ」

「それはいったいどういうことじゃ」

 

忍が質問した。創作された妖怪じゃないならいったいなんなんだ?

 

「『百目鬼伝説』って言うのがあって平安時代中期、百の目を持つ鬼がいたんだ。その鬼は他の伝説同様、悪役らしく、鬼退治に来た人の弓で最も力のあった急所の目を貫かれてしまったんだ。鬼は山に逃げてそして動けなくなったんだけど体から炎を噴き、裂けた口から毒気を吐いて苦しんだため、退治人も手がつけられなくなってその日は帰ったんだ。

 

「翌朝、退治人が鬼の倒れていた場所に行ったが、黒こげた地面が残るばかりで鬼の姿は消えていたから死んだものと思われた。これで鬼退治伝説は終わったとされた。

 

「それから400年の時が経って、室町幕府の時代、寺の住職が怪我をして寺が燃やされる事件が続いた。そこで智徳上人という徳深い僧が問題の寺の住職となると、その説教に必ず姿を見せる歳若い娘がいた。

 

実はこの娘こそ400年前に退治されたと思われた鬼の仮の姿で、娘の姿に身を変えては寺の付近を訪れて、邪気を取り戻そうとしていたんだ。寺の住職は邪魔であったため襲って怪我を負わせたり、寺に火をつけては追い出していたという。

 

「智徳上人はそれを見破り、鬼は終に正体を現した。鬼は智徳上人の度重なる説教に心を改め、二度と悪さをしないと上人に誓ったのであったとさ。おしまい」

 

鬼の伝説を話し終わった忍野、でも何が言いたいのかわからない。

 

「その伝説とどう関係あるんだ?」

 

忍野は首を傾げながら再び話し始めた。

 

「俺はこの『百目鬼伝説』の鬼が盗みをする人に憑いて百々目鬼にしてしまうんだと思ってるんだ。盗人を懲らしめるために妖怪にする、神ならざる鬼がやってるとしたらその不可解さも説明できるからね。あくまでも私見だけどね」

「不可解さ?」

「言い方は悪いけどたかが盗み程度で怪異化するのは罪としては重すぎるからだ。神はいい加減だけどその辺のバランスは守っているよ」

 

バランス、か・・・。

 

「それで、どうすれば退治することができる?」

 

そう聞くと忍野はため息をはきながら俯いた。

なんでそんな呆れたみたいなリアクションするんだよ!?

 

「やれやれ、ずいぶんと乱暴だな。なんかいいことでもあったか?」

 

顔を上げた忍野は心底どうでもいいみたいな顔をしながら教えてくれた。

 

 

 

「はっきり言おう。百々目鬼は退治するまでもない怪異だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

004

 

 

「あ、おかえり、一夏」

「ただいま」

 

部屋に戻ってきた一夏は気分が重かった。今から“お前は盗人なのか?”と聞くようなことを言わなければならないのだから。

だけど意を決して言うことにした。

 

「それは、その“目”は“百々目鬼”っていう怪異なんだ。盗みをする人に、憑くらしい」

「盗みを・・・」

「シャルル、この怪異を退治する方法は“盗人がその罪を告白する”ことなんだ。だから、話してくれないか?」

「・・・・・・」

 

忍野曰わく、“罪を告白することで消えるもんだからわざわざ退治なんて乱暴なことする必要がない”らしい。

 

 

 

 

 

 

「・・・一夏、少しだけ後ろを向いてて」

「・・・わかった」

 

シャルルに言われて後ろを向く一夏。

衣擦れの音だけが部屋の中に響き、少しの時間が流れた。

 

「もういいよ」

 

もういいと言われたので向き直った一夏は言葉を失った。先ほどと服装は変わっていないが、目の前にいるシャルルには男にはないばずの胸の膨らみがあった。それはまるで“女の子”のような・・・。

 

 

「僕の本当の名前は、シャルロット・デュノア。見ての通り女なんだ」




毎度のように裸を見れると思うなよ一夏。

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