001
『タッグトーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上ーーー』
学食のテレビはトーナメントの中止の報道が流れているなか、学食はたくさんの生徒たちが夕食のために訪れ賑わっています。
「ふむ。シャルルの予想通りになったな」
「そうだねぇ。あ、一夏、七味取って」
「はいよ」
「ありがと」
一夏とシャルルは特にすることがなかったのでのんびり夕食を食べている。
しかし学食の一部はひどく重い空気が漂っていた。そこにいる女子一同が落胆しているのが原因だ。
「・・・優勝・・・チャンス・・・消え・・・」
「交際・・・無効・・・」
「・・・うわああああんっ!」
何人かが走って学食を出て行くが何が理由なのか知らない一夏とシャルルは首を傾げるばかりだ。
「どうしたんだろうね?」
「さあ・・・?」
それよりも、とシャルルは視線を移す。
「忍野くん、何でここにいるの?」
「ん?」
そこには医務室に居るはずの忍野が、さも当然のように食事をしていた。メニューはたこ焼きである。
・・・それは食事か?
「医務室に居なくてよかったの?」
「だぁれがあんな薬品臭いところにいるか」
「でも忍野、よく出てこれたな。二日くらいは医務室に缶詰めだと思ってたぞ」
「そうなるだろうから抜け出してきた」
((抜け出してきたのかよ))
忍野が抜け出してきたことに飽きれる二人。
そんな二人を無視して忍野はたこ焼きを口に放り込む。
「大体、腕が斬り落とされた訳でもないのに大げさなんだよ」
「いや、十分大怪我だよね?」
現在忍野は包帯だらけの左腕を首から吊って、体中を湿布と包帯などで覆っている。
見て分かるのは左腕と左頬のデカい絆創膏だけだが。
「あれ~? おっし~のだ」
「忍野さん、もう動いて大丈夫なのかにゃ?」
そこへやってきたのは本音と真宵、その後ろに隠れるような簪だった。
「やぁ、お昼ぶり。今から晩飯かい?」
「そうだよ~」
「忍野さんのお見舞に医務室に行ったんじゃが入室禁止なってて戻ってきたところなんじゃよ」
すると真宵と本音の後ろにいた簪がゆっくり近寄ってきて忍野の右手を握ってきた。
簪がなんでそんなことをするのか分からない忍野はたじろいでいる。
「え、あの、簪、さん?」
「・・・心配、したんだから」
消えてしまいそうな弱々しい声で訴えてくる簪に気まずくなったのか、忍野は天井に視線を向けている。
本音と真宵はそれを見てニヨニヨしている。
そんな忍野達から視線を移した一夏は俯いている箒を見つける。
なんだか色彩が薄く見えるが多分気のせいだ。
「よう、箒。あの約束なんだがーーー」
「(ピクッ)」
少し反応したのか、垂れている髪が微かに揺れた。
「付き合ってもいいぜ」
「・・・・・・なに?」
「だから、付き合ってもいいって・・・お わっ!?」
突然、勢いよく一夏に詰め寄る箒。 その目がランランと輝いていた。
「ほ、ほ、本当、か? 本当に、本当だな!?」
「あ、ああ、そうだっつてんだろ!」
「コ、コホン。な、なぜだ? り、理由を聞こうではないか・・・」
腕組みしながら、一夏に尋ねる箒。 その頬は赤みかかっている。
なぜかこっちを見ている忍野は一夏がどんな返答するのかわかってるような顔してその様子を見ている。
「そりゃ幼馴染の頼みだからな。断る理由がねえ」
「そ、そうか!」
「買い物くらい、いつだって付き合うぜ?」
「・・・・・そんなことだろうと・・・」
箒は俯き、身体を震わせ、
「思ったわっ!!!」
「ぐはぁっ!?」
腰のひねりを加えた正拳を一夏に叩き込んだ。彼女の怒りの籠もった一撃に、一夏はその場にくずおれる。
けして“クズ折れる”ではありません。
「一夏って、わざとやってるんじゃないかって思うときがあるよね」
「な、なに? どういう、意味だ、それ?」
「さあね」
シャルルはぷいっと視線を逸らしてしまう。
「ハッハー、一夏は鈍感だな痛い! 簪さんや、なぜ抓るんですか!?」
「イラッとしたから」
「なんで!?」
一夏の鈍感っぷりを笑う忍野だが簪に抓られてしまう。忍野には簪がなぜ抓るのか本当に分からなかった。
「おりむーもだけどおっし~のも鈍感だね」
「じゃね」
“人の振り見て我が振り直せ”と言うことわざがあるが鈍感朴念仁に関しては当てはまらないようだ。彼らの場合は、
“人の振り見ても我が振り気づかず”
002
簪たちと別れて寮に戻ってきた忍野。サッサと寝ようと部屋へ行くと扉の前に佇んでいる千冬が見えた。
「どうしたんだ千冬? 人の部屋の前で」
「勝手に医務室を出るな」
「嫌だね。それに大した怪我じゃないから別にいいだろ?」
「かなりの出血だっただろうが、安静にしてろ」
「ハッハー、心配でもしてくれてるのかい?」
「だとしたらどうする?」
まさか千冬が自分の事を心配してるなんて思ってもいなかったので呆けた顔をする忍野。
「驚いた。まさかあんたに心配してもらえるなんて嬉しいねぇ」
「嬉しいなら医務室に戻れ」
「そのセリフは教師としてですか? それとも一夏の姉としてですか?」
「・・・・・・」
「まぁ、心配しなくても大丈夫ですよ。いつもあんたをからかって制裁を受けてるんだ。そこらの奴よりはよっぽど丈夫だよ」
そう言って部屋に入ろうとして千冬の横を通ろうとしたら右腕を掴まれた。
「・・・・とう」ボソ
「ん?」
「その、ラウラを助けてくれて、ありがとう」
ラウラの事にお礼を言ってくる千冬。
見ると顔を紅くしそっぽを向いている。
「助けてない。あの子が勝手に助かっただけさ」
「・・・ひねくれ者」
「よく言われるよ」
そう言って忍野は部屋に入っていた。
千冬は若干言いたり無い顔をしてから自分の部屋へと戻っていった。
003
~一夏サイド~
翌日、朝のHRだが、クラスの中にシャルルはいなかった。
『先に行ってて』と言ったきり、会ってないな。
そんな思考の中、ようやく山田先生が現れた。
けど、なぜか疲れた様子を見せている。
「み、みなさん、おはようございま す・・・」
朝になにかあったのか?
貧血とか有り得そうだよな。山田先生、苦労人だし。
「今日は、ですね・・・・・。みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいます か・・・・・。見た方が早いですね。どうぞ、お入りください」
また転校生か。しかし、この短期間で来すぎじゃねえか?
「失礼します」
ん?この声はーーー
聞き覚えがある声が聞こえた。
入ってきた転校生は女子生徒だがその顔を見たクラスメイトは固まってしまった。
って言うか俺もだ。
「シャルロット・デュノアです。皆さん、 改めまして、よろしくお願いします」
「「「「「え?」」」」」
「デュノア君はデュノアさんでした・・・。はあぁ・・・また寮の割り当てを組み立て直す作業が・・・・・」
・・・お疲れ様です、山田先生。
シャルルはシャルロットとして無事編入できたのか、良かった良かった。
・・・って待てよ?
「え? デュノア君って女・・・?」
「おかしいと思った! 美少年じゃなくて、美少女だったわけね」
「って、織斑君、同室だから知らないってことはーーー」
ザワッとクラス中が騒ぎ出す。
その瞬間、俺の勘が働いたーーー嫌な予感がした。
「一夏ぁ!!」
教室のドアが勢いよく開き、ISを纏った鈴がその場に現れた。
「死ね!!!」
間髪入れず、衝撃砲が火を噴いた。
俺はとっさに隣にいた忍野を引っ張って身代わりにした。
「口寄せ、人間防壁!」
「まじかよ!?」
ドゴォンッ!!!
「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」
鈴が呼吸を整えてるようだ。一方、俺には何も衝撃が来てなかった。
忍野、お前の犠牲は無駄にしない。
そう思って目を開いたら、忍野と鈴の間にISを展開した、ボーデヴィッヒさんがいた。 ・・・てか、なんで?
~忍野サイド~
「あれ? ボーデヴィッヒ、さん?」
「大丈夫か?」
その体にはシュヴァルツェア・レーゲンらしきISを纏っている。だが部分的に違うな、カノン砲もない。
「お前のISもう直ったのか? 壊しておしてなんだけど」
「・・・コアはかろうじて無事だったからな。予備パーツで組み直した」
「そうか。そいつはよーーーむぐっ!?」
チュ
はて? 何でボーデヴィッヒの顔が目の前にあるんだ? それになんか顔が紅いし。
あれ? 唇になんか柔らかいものが・・・。
そうか、ボーデヴィッヒが俺に口づけ、キスをしてきたのか。
ハッハー、なぁんだそういうことか。
はぁぁぁぁぁっ!?
意味がわからん! 展開が早すぎて、頭が追い付いていねえ!
え、何、どうゆう事!?
「お、お前は私の嫁にする! 決定事項だ! 異論は認めん!」
「拒否権くらいくれ! ってか嫁!? 俺は男だから普通は婿だろ!?」
「日本では気に入った相手を“嫁にする”というのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を嫁にする」
「全然、違ぁぁぁう!」
誰だよそんなデタラメ教えたやつ! 日本を舐めてんのかよ!?
「そんな事より何故“ラウラ”と呼んでくれないのだ? 夫婦だろ?」
「そんな事でもないし夫婦でもないだろうが!」
「試合の時は呼んでくれたではないか!?」
「それはそれ! これはこれだ!」
ダメだ、まったく話が進まねぇ。
だがとりあえず、
「一夏テメェ、人を盾にすんな!」
「いいじゃん、女の子とキス出来たんだし」
「ケルディムで防げよ!?」
「あ、その手があった」
「気づけよバカ! お前には罰を受けてもらうぞ!」
「罰?」
「一夏ぁぁぁ!」
俺の陰から飛び出した鈴は再び、一夏を捉え衝撃砲から火を噴こうしている。
って言うか俺を誤射したことを少しは気にしろよ。
ビシュンッ!
「うおおっ!?」
おっと、逃げようとした一夏の目の前をレーザーが通過したぞ。
危ねぇな。
「ああら、一夏さん?どこに行かれるのですか? 私、実はどうしてもお話したいこととがありますのよ? ホホホ・・・・・」
「セ、セシリア・・・」
おやおや、ISを展開したセシリアが“スター ライトMkⅢ”の銃口を一夏に向けているぞ。
ご立腹だね~。
「私もだ。一夏、何があったか説明してもらおうか」
「ほ、箒・・・」
後ろを振り向いた一夏が見たのは絶対零度の視線を向けながら木刀を構えた箒の姿だ。
これは怖いな。
さて、ざまぁーねぇな一夏! と思っていたら、
ガシッ!
肩を掴まれた。しかもこのまま肩を砕かんとしているのかと疑うほどの握力だ。
恐る恐る振り返るとそこには笑顔ではあるが明らかに怒っている千冬がいた。
俺まだ何もしてないぞ!?
「忍野、私もお前に話があるんだが?」
「え、えっと、何のご用で?」
「なぜ私の前でキスをしているんだ? 見せつけか?」
「俺は被害者側じゃないかってあれ?」
天の助けか携帯電話にメールが受信された。
このまま話を逸らして逃げよっと。
「え、えっと、メール見ていいですか?」
「・・・・・・」コクコク
無言で頷くな、怖ぇよ。
にしても誰からだ?
『From:クロエ
本文:忍野さま? なに人の妹に手を出してるんですか? ラウラを助けてとはお願いしましたがそこまで許した覚えはありませんよ?
すぐにでも水鏡にいらして下さい、お話をしましょう。
PS,逃げても無駄ですよ』
怖ぇよ! どっから見てんだよクロエ! しかも俺が手を出したわけじゃないだろうが!
「さて、最後のメールは見終わったな? 話を聞こうか?」
「最後!? なんでそんなに怒ってるわけ!?」
「んん? 私は怒ってはいない。お前が、例え、どんな、女と、キスを、しても、怒りは、しない!」
「痛い痛い痛い痛い痛い! 俺の痛い肩を痛い万力のように痛い潰す痛いつもり痛いですか痛い痛い!」
肩からメキメキって音が聞こえてくるぞ!?
なんで怒ってるんだよ!? 訳分かんねぇぞ!?
「「「「さて、覚悟はいいか?(いいですわね?)(いい?)」」」」
「「ギャーーー!!!!?」」
その日のホームルームは男二人の悲鳴と制裁の音で終了した。
「あ、僕はシャルロット・デュノア。改めてよろしくね、ラウラさん」
「さん付けはしなくていい。“ラウラ”でいいぞ」
「なら僕のことも“シャルロット”でいいよ」
おいそこの二人、無視するな。
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