001
~千冬サイド~
デンドロビウムが発進してから、私と麻耶は束に提供してもらった臨時の作戦司令室に移動した。
壁のモニターに全員のISの現在地などが表示され、福音の予測現在地も映されている。
すると束が申し訳なさそうな顔をして部屋に入ってきた。
「やっぱりダメだったよちーちゃん。コアネットワークから切り離されていて呼びかけることも出来なかったよぉ~」
「そうか。後はあいつらに託すしかないか」
しかし私の内心は、言葉ほど穏やかではない。
嘗てこれほどまで
・・・いや、あったな。
「いっくんたちが心配?」
「当然だろう」
軍用に調整されたIS。今まであいつらが経験したことのない闘いとなるだろう。全員が、無事に帰ってきてくれればいいのだが・・・。
「織斑先生っ! 織斑くんと忍野くんの反応が消えましたっ!!」
「・・・なんだと!!?」
002
さて、水鏡の船内で大騒ぎしてる頃。
一夏と忍野はピンピンしていた。
「これ絶対後で怒られるよな?」
「でもセンサーが生きてたら下手に被弾できねェぞ?」
二人の反応が消えたのはバイタルチェックなどの外部から確認出来る操縦者のセンサーを全て切ったからだ。これで水鏡や中間地点に残った者にはISが動いているかどうか以外、二人の状態を確認する手段がなくなったのだ。
「もし死んだのに
「普通に誤作動でしたでいいんじゃね?」
「心電図や脳波が点滅したら山田先生ェがスッ転ぶだろうなァ」
「それは見てみたいかもしれない」
《お主らは緊張感がないのう。ほれ、見えたぞ》
忍に促されて正面方向に意識を向ける二人。
そこには銀色に輝く一機のISが飛翔していた。
『
何より異質なのが、頭部から生えた一対の巨大な翼だ。本体同様銀色に輝くそれは、大型スラスターと広域射撃武器を融合させた新型システムだった。
「魔を祓うは銀の使者ってかァ?」
《儂らからしたら目の毒じゃな》
「いや、今は関係なくね?」
「有効射程に入った。先制攻撃を仕掛ける!」
折り畳んだ砲身を連結させロングライフルを発射した。
ロングライフルから発せられた光は真っ直ぐに目標を射抜かんと鋭く進んだが、
「クソッ! 掠っただけかよ!?」
福音は予想外の急加速をし、粒子ビームは翼の端を掠めただけに留まった。
どうやら軍用故に、
「まぁこれで決まるようならとっくに捕獲されてらァ」
《トランザム終了、GNドライヴの出力が落ち始めたぞ》
GNアーマーの光が消え、駆動系の回転数が落ちていく音が響く。
「一夏ァ! 手筈通りに行くぞォ!!」
「忍! シールドビットで援護だ!」
忍野は乗っていたGNアーマーを蹴って福音に肉薄せんと飛翔し、忍はシールドビットを指揮し援護と防御のためにアルケーの下へ飛ばした。
(今のうちに粒子の補給だ!)
一夏と忍野が考えた作戦は、GNアーマーを中核にし、その火力にものを言わせた戦術とも呼べるか怪しい野蛮なものだった。
まずはGNアーマーで遠距離からの先制攻撃。トランザム後の弱体化が始まったらアルケーガンダムが接近戦を仕掛け、その間に粒子貯蔵タンクから粒子を補給し、GNドライヴが正常化を待つ。
出力が回復してきたら再びGNアーマーの火力で圧倒する。
相手が軍用でなければ確実にオーバーキルな作戦だ。
「がら空きだァ!」
アルケーは機体を捻りながら急加速で福音に接近、体の回転を加えた大質量の大剣を福音の頭上に叩き付ける。
だが福音その攻撃を紙一重で避ける。わずか数ミリ、かなり難度の高い操縦だ。
「お上手ゥ、ッてなァッ!」
すぐに刃の向きを変え体を反らすように切り上げ、その反動を利用して片脚で蹴り、もう片方の脚からビームサーベルを展開して追撃の蹴り。
だがその全てをひらりひらり、それはまるで泳いでるかのような、踊っているかのような、そんな動きで回避してみせる福音。
そこから忍野は三つの刃で一気に攻め立て、忍はビットによる射撃を行ったが福音は一切防御をせず、回避だけで被弾を避ける。
(おかしいィ。近接装備を一向に出しやがらねェ)
忍野は攻撃を回避されたことより、この距離で何故格闘戦を仕掛けてこないのが気になった。
既に数十の斬撃を放つが一太刀すら当たらない。完全に忍野を翻弄していた。
(誘ってみるしかァねェな・・・)
格闘戦をしないなら“させればいい”。
忍野は意図的に、両手持ちしたバスターソードを大振りの一太刀で浴びせようとした。
剣を大きく振るとどうしても隙が出来る。この距離ならその隙を突いて格闘を仕掛けて来る、と忍野は踏んでいた。
思惑通り、福音はその隙を見逃さなかったーーー、だがそこからが違った。
福音は思惑とは外れ接近をせずに距離をとり、その銀色の翼を前へと迫り出し、装甲の一部が開いた。
「La・・・♪」
福音から発せられた甲高いマシンボイス。
「ッ!?」
忍野が咄嗟にシールドを正面に向けGNフィールドを展開した直後、
幾重もの光のエネルギー弾がアルケーに降り注いだ。
息をつかせる暇も与えない光の雨。
忍はシールドビットを忍野の元へ飛ばそうとしたが弾幕はそれすらも飲み込み、そのまま押し流さんと次々と襲いかかる上に、光弾は着弾すると爆発を起こし、その衝撃が更に忍野の自由を奪った。
(なんてェ火力だ! 近づけねェじゃねェか!)
アルケーガンダムはファングによるオールレンジ攻撃が可能ではあるが、基本は格闘機なので接近を許さない攻撃で攻められるとどうしても不利になってしまう。
「交代だ、忍野!」
粒子補給の完了した一夏は、GNフィールドを展開して福音からの攻撃を完全に防いでいる。
「一夏ァ! あいつは武器のリミッターが外れてやがるぞォ! 一発でも致命傷になりかねねェから気ィつけろォ!!」
「わかってるよ!」
緑色のフィールドに包まれた状態で忍野の前に出る一夏。
両肩にある砲門に光が灯り、左アームのコンテナが左右にスライドし、その隙間にぎっしりとミサイルが整列してるのが見える。
GNアーマーの攻撃準備が整った。
「狙撃で落とせないなら・・・、圧倒させてもらう!!」
2門のGNキャノンが火を吹き、左のコンテナから濁流と見紛うほどのミサイルが発射された。それだけにとどまらず、ケルディム本体はGNバルカンを撃ち右肩のライフルビットを装着したまま発射させた。
忍野もアルケーのバスターソードをマウントし、ライフルモードで射撃を行った。
互いに弾幕の応酬。
福音はその機動力で避け、ケルディムとアルケーはGNフィールドで防ぎ、互いに応戦する。
何百発もの攻撃が飛び交う中、粒子ビームの一発が福音の装甲を掠めた。
装甲の表面を焦がす程度のダメージ、しかしその一発で福音の動きが怯んだ。
「やれェよ一夏ァ!」
「終わりだ!」
一夏は怯んだ隙を見逃さずロングライフルを撃ち込もうとした。
しかし次の瞬間、目に飛び込んできたのは大型ライフルが爆発する光景だった。
「「《何!?》」」
三人とも思わずそう声を上げながら一夏はロングライフルをパージする。 爆発の仕方からして、明らかに整備不良だ とかそういったたぐいで引き起こされる不具合からの物ではない。
敵からのビーム攻撃によるものだ。
《GNフィールド発生装置に異常発生! フィールド展開不能じゃ!》
「ちっ!!」
ライフル発射のためにフィールドを解除したのが仇となった。
防御手段を失ったGNアーマーに次々と飛来し突き刺さるレーザー。
なんとか回避を行うも、何発も当たってしまいGNアーマーは満身創痍となっていた。それでもケルディム本体に被弾がないのは奇跡とも思えた。
ケルディムのレーダーには、ビームやレーザーが放たれた方角から「
「福音と未確認の敵にGNミサイルを有りったけバラまけ!!」
GNアーマーは最後の一仕事とばかりに、その左のコンテナから夥しい量のミサイルを発射した。
しかし福音はその機動力で避け、謎の敵はビームとレーザーで迎撃し、ひとつとして命中する事がなかった。
ミサイルを撃ち終わった直後、GNアーマーは次々と小さな爆発が起こし機体の至る所から煙が上がり始めた。
《お前様、そろそろアーマーが限界じゃ》
「仕方がない、GNアーマーを捨てる!」
新たに爆発が発生したところで一夏はGNアーマーをパージした。
その直後、GNアームズは大爆発。その基部が崩壊し、それぞれのパーツがバラバラになって落ちていった。
「あ~あ、勿体ない・・・」
《そんなこと言っておる場合か! 来るぞ!》
正体不明の敵は福音への接近を阻止するようで、それでいて攪乱するような不規則な動きで周囲を飛び回り、その姿を捉えさせない。
だが微かに解る機影から自分達を襲撃した者が分かった。
「こいつァ!?」
「無人機の発展型か!?」
クラス対抗戦の時に学園を襲った無人型IS。色や形状が少し違うことからその発展型だろうと推測ができた。
一夏と忍野は背会わせに追い詰められ、それを無人機が取り囲んだ。
「おいおい、冗談キツいぞ・・・」
「ハッハー、ヤベェなァ・・・」
本当に冗談であって欲しかった。
自分達を取り囲む無人機は全部で四機。改めてその姿を見ると、以前に比べてスマートな印象を受ける。
非固定装備は円柱型で大きな推進ノズルがあり、ミサイルに似た形状をしている。どうやら高速戦闘用に調整されてるようだ。
砲門が大小二種類あり、大きいものはビームを、小さいものはレーザーを放つ。
頭部や胴体は人に近くなっていたが、しかしその両腕は細くはなっていたがより武器として、人の命を奪う兵器として精錬しているように感じられた。
《で、どうするんじゃ? 白旗でも振るかの》
「それで見逃してくれるような相手にァ見えねェな。一夏はどうするよォ?」
「ぶっちゃけ撃つ気満々だ」
《かかっ、血気盛んじゃのう》
一夏と忍野がまず恐れたのは福音からの攻撃だった。
しかし無人機を巻き込みかねないその広域射撃武器を撃ってこない。本当に暴走しているのか疑わしく感じた。
束の間の静寂。
一夏にはその静寂が重く、そして苦しく感じた。
もう何時間もこの状態だったのではないか、と錯覚する。
静寂を破ったのは無人機だった。
四機すべてがビーム砲を構えた瞬間、一夏と忍野は一気にスラスターを吹かして別々の方向へ離脱、包囲網を突破した。
すぐに無人機はレーザーを連射しながら二人を追撃しようとするがそう簡単には当たらない。
「目くらましだ、GNミサイル発射!」
ケルディムのフロントアーマからGNミサイルが発射され無人機へと飛翔。無人機は迎撃しようとしたがその眼前でミサイルが自爆、単なる機械には何が起こったのか理解できず爆炎から離れるように、二人とは反対の方向へと距離をとった。
「福音はどこに行った!?」
「知らねェよ!!
無人機を一旦振り払い二人が合流すると、
「La・・・♪」
「「《!?》」」
再び響いたマシンボイス。
無人機に気をとられていた二人の頭上には銀翼を広げた福音がいた。
すぐに攻撃範囲から逃れようとしたが、モニターに表示された情報を見た忍野と一夏は驚いた。
「生体反応!?」
《どういうことじゃ!?》
突然、反応を示したセンサー。
操縦者が乗っている福音からの反応なら驚きはしない。
問題はその反応が“下”からしたことだ。
「密漁船か!?」
海面にいたのは旧式の漁船だった。
軍事機密に関わる問題だから海域封鎖の理由を発表しなかったのが原因だろう。でなければ自殺志願者でもない限り、戦闘中の海域へ密漁には来ない。
見ると密漁船は慌てて回頭、この場から逃げようとしている。
だが無情にも、光の弾は放たれた。
「シールドビット展開! あの船を守れ!!」
《了解じゃ!!》
一夏と忍はケルディムを攻撃範囲から離脱させつつ、すぐさま左肩と両膝のシールドビットが光弾の斜線に滑り込み、その攻撃を防いでいく。
だが攻撃の質も量もシールドビットの許容量を越えており、何発も防御を通り抜け、攻撃に耐えきれず次々とビットが爆発した。
弾幕が終わり、船の様子を確認する一夏。
シールドビットで防ぎきれなかった光弾は密漁船に命中したようだが、轟沈は免れたようだ。
(良かった・・・。損傷はしたようだけど船員はーーー)
だがISのハイパーセンサーは捉えてしまった。
海面に浮かぶボロボロになった船、
その甲板に落ちてる肉片と、船内から生体反応が消えたことを。
“福音が人を殺したことを”
そして福音は、まるで人を殺して満足したかのように翼を戻し、空域からの離脱を始めた。
それを守るかのように集まってきた無人機。
「・・・忍野。無人機を四機の相手をしてくれ」
「はァァッ? 何言ってんだよォ!?」
「福音は俺が落とす!」
一夏は怒りに身を任せ、スラスターから粒子を吹かして福音に突っ込んで行く。
突然加速して接近してきたケルディムに、無人機は回避を選択したが、福音の追跡を許してしまった。それを妨害するために一機がすぐにケルディムを追って飛翔し、それに続いて残りの三機も追おうとしたが、
「行かせねェよォ、ファング!!」
真っ赤な尾を引く“狼”が三機の追撃を妨害した。
「せめて三機は何とかしてやらァ」
十機の“狼”とその主は人形の前に立ちふさがり、その刃を抜いた。
「いくぜェ、トランザム!」
この空域から逃げていく福音。しかしそれを許さない、と追尾するケルディム。
一夏は必死にスナイパーライフルで狙いを付けようとしたが敵の動きは素早く、狙いが上手くつけれない。
そうこうしている内に、忍野が捕り逃した無人機が追いついてきて発砲。レーザーが装甲を掠めた。
「(忍野の野郎、一機逃したな!?)邪魔すんじゃねぇ!! 忍、ライフルビット!」
臀部から切り離されたライフルビットは複雑な動きはせず、空を切りながら一直線に進み、無人機に
だがライフルビットにはファングのような刺撃武器としての機能はない。
理屈は簡単だ。ライフルビットが敵に衝突する直前で射撃をさせれば、敵の装甲に穴が空き、その穴に真っ直ぐ突進したビットが納まるというものだ。
ビットを使い潰すのを承知の戦術ではあるが・・・。
忍が突き刺さったビットに攻撃指示を出した次の瞬間、火ぶくれのような内部からの爆発痕が出現、無人機は一瞬でアップルパイのような有り様になった。そして突き刺さっていたライフルビットが吹き飛び、そこから余剰エネルギーが吹き出したのきっかけに崩壊、爆発。焼けただれた鉄屑となって海へと消えていった。
「次はお前だ!!」
無人機を破壊した勢いのまま、福音に向けて残った右肩のビットによる射撃で牽制を仕掛けながら接近しようとする。
「貴様だけは許さねぇ!!」
《冷静になれお前様! 訊いておるのかお前様!?》
忍の静止の声をかけるも一夏は聞く耳を持たない。余程、人を殺したことが許せないのか、取り憑かれたかのように福音だけを睨みつつ突き進む。
だが福音はそれをあざ笑うかのように光弾を振り撒く。
「ぐぁぁぁっ!!」
頭に血が上り、冷静さを欠いた一夏は反応が遅れてしまい、光弾の直撃を受けてしまった。エネルギー弾は絶対防御を貫き、ケルディムの右足を太もも部分から、“中身”ごと吹き飛ばした。
片足を失い、装甲の下で苦悶の表情を浮かべる一夏。傷口からは血で流れ出ている。
(
すると一夏の傷口が“再生”を始めた。
まるでビデオの巻戻しかのように、ゆっくりと、しかし確実に傷が元に戻ろうとしている。
“人間”では有り得ない現象。
一夏本人には見慣れてしまった、しかし常識では有り得ない事。
(全く、自分がいかに踏み外した存在なのか、思い知らされるよ・・・)
一瞬、暗い気分を思い出す一夏だが、それを振り払い傷の回復も待たず福音へと迫る。
今失った足が再生しても、その足を守る装甲が無ければ再び苦痛を受ける為の物にしかならない。空中で使い道のない足だったら回復を待つ必要がないと判断したのだった。
しかしだからといって戦況が大きく変わりはしない。福音の攻撃手段を奪うには一撃で翼をむしり取ることが絶対なのだが、止むことのない段幕で最大火力であるスナイパーライフルでの狙撃を出来ない。
一瞬でいい、動きが止まる瞬間が欲しかった。
(直撃して足が千切れる程度なら・・・、!!)
何かを思いついた一夏は回避するのを止めて、バルカンを撃ちながら真っ直ぐ進む。
福音は真正面から突っ込んでくるケルディムに銀翼の砲門すべてを向けると、
「La・・・♪」
一斉射撃を行った。
だが一夏は真っ直ぐ進んで行き、光弾を直撃を受けた爆炎に呑まれてしまった。
漂う黒煙。
ケルディムを撃破した福音はこの場から離脱するために背を向け、
「どこを向いているんだ!!」
「!?」
その背後の爆炎を突破して現れたケルディム。
機体の装甲はボロボロで肩のライフルビットも腰のミサイル発射管もない。だがそれ以上に酷いのは左腕だ。その左手は肘の先から欠損しており、肉と骨が見えて血を流している。
一夏は左手を盾にする事でその広域射撃を防ぎ、福音の懐に入り込んだのだ。
「貰った!!」
格闘をするには少し届かず、翼の武器を使うには近すぎる距離でスナイパーライフルを構えた。
福音はその距離に対応出来きなかったようでろくに回避を出来ず、放たれた粒子ビームはその左翼を食いちぎった。
だが福音は一瞬の硬直が解けた途端、すぐ距離を詰め、手を突き出しケルディムの頭部を抉り、スナイパーライフルをも同時に破壊した。
辛うじて顔面への直撃は回避した一夏だが、顔の右半分を抉られ、眉辺りから唇付近までが血を噴き出す穴と化していた。
「痛ッッッ!! デフォだったら死んでるっつうの」
手足同様、ゆっくりと再生を始める傷口。
しかし手足に受けたダメージが回復していないのが原因か、頭部の回復速度は遅く、右目が潰れたままだ。
「忍、トランザムは!?」
《1セコンドだけなら可能じゃ!》
「上等!」
一夏は残った唯一の武器を手に取り構える。すると福音はそれに応じるかのように反応し、一直線に突進してくる。
ケルディムはGNピストルで、福音はその鋭く尖った爪で、互いに交錯する一瞬に相手へ攻撃を叩き込んで、離れた。
敗れたのは、一夏の方だった。
福音の攻撃によって右の脇腹を抉られていた。
「ゴハァッ!!」
《お前様!?》
こみ上げてきたものを抑えきれず、血反吐を吐く一夏。
ケルディムの装甲を貫いた爪は、骨を砕き内臓を焼き、一夏の体内を一瞬で蹂躙し、通常なら致命傷になりかねないダメージを与えた。
しかし福音は待ってくれない。急転し、弾丸のような速度でケルディムへ襲いくる。
だがそれは一夏にとって
(チャンスは一度。ミスるなよ俺!)
自分に言い聞かせながら敵を見据える。
やっと見えるまでに回復した右目を開け、両目の動体視力でタイミングを計り、それを実行した。
「トランザム!!」
銀色の爪が頭上に振り下ろされたと同時にたった一秒間のトランザムを発動させ、急激に跳ね上がった機動力をもっての後背に回り込み、残っていた最後の武器である右手に握っていたGNピストルを福音の胴体に押し付ける。
トランザム後の出力低下が起こるが最早関係ない。
思いっ切り福音の装甲へぶつけた銃口は、その頑強な装甲に亀裂を発生させていた。あとは引き金を引くだけ。
躊躇わず引き金は引かれた。
次々と撃ち込まれた光弾は、福音の装甲を貫き、内部で暴れ回り、システムを蹂躙した。それが限界に達したとき、各部から小さな光球が生じはじめ、それが結合しあって巨大な光芒へと膨れあがった。
一夏は爆発から逃れるように距離を取ろうとしたが、最後の手段であるトランザムを使用したあとでは十分とはいかなかった。
爆発にあおられ、巻き込まれ、吹っ飛ばされて落ちていく。
一夏は残った力を振りしぼって、煙を上げながら金属片と共に墜落していく福音を確認した。
「言っただろ・・・、貴様だけは・・・許さ、ない・・・って」
そこで一夏は意識を手放した。
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