暴物語   作:戦争中毒

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いちかガンマン

001

 

 

山登りから数日後。

 

期末試験の赤点補習者が決まり、終業式まで半日授業となったある日。

無事に期末試験をクリアした一夏は昼以降の補習授業には出席する必要がなく、暇を持て余しており、食堂で少し遅めの昼食をとっていた。

 

「御馳走様でしたっと」

 

暑い季節にピッタリの涼味溢れる品を完食し、食休みのように緑茶を飲んでいると、

 

「あ、おかえり。千冬姉、箒」

「織斑先、いやどうでもいいか・・・」

「久しぶりに一夏を見た気がする・・・」

 

ここしばらく学園を不在にしていた二人に出会った。

 

二人とも元気がなく、いつもなら“千冬姉”と呼んだ事に対し主席簿アタックと共にお説教を受けるはずなのだが、今回に限ってそれがない。

出張でよっぽどお疲れのようだ。

 

さて、何故ここまで千冬と箒がお疲れなのかはその出張の内容が原因だ。

 

「あのクソババア共、いつまでもネチネチと同じ事ばかり繰り返しやがって、コアの所有権は日本に譲渡されてるのにーーー」ブツブツ

 

出張の用件は篠ノ之束が妹である箒に譲渡した専用機、紅椿を巡ってだ。

 

ISの生みの親直々に開発された専用機。

機体性能や使用技術が未知数の機体とあり、各国は何だかんだ理由をつけて自国の物にしようと揉めに揉めた。そのため日本政府とIS学園長の発案により、IS委員会立ち会いの元での一週間に及ぶ公開性能試験が行われた。

要は試験と称して、紅椿の性能と技術を全部公開して争いの種を潰そうって魂胆なのだ。

 

しかしこれが千冬の苦労の始まり。

元々、箒に付き添いの『教師』として赴いたのだが、各国の著名な技術者が集まっていると言う理由で『警備責任者』を押し付けられ、さらに各国技術者の護衛として来ていた専用機持ち達から戦闘指導を頼まれて『教官』をするはめなった上に、学園長が体調を崩してしまったので『IS学園代表代理』として一時的に会議に出席することになってしまったのだ。

明らかにオーバーワーク過ぎる。

 

箒はと言うと、件の機体の所有者として朝から晩までひたすら紅椿で指定された制御を行い続けさせられたが、その間は八九寺のサポートは一切なく、終始機体性能に振り回される事になった。

 

そして結果から言えば、紅椿の公開性能試験は吉と出た。まず性能は現行の第三世代よりは高い基本性能を持っていたが、八九寺がリミッターをかけ直したために単一仕様能力は表向きには存在せず、基本装備は刀だけ。これがパイロット達の興味を削いだ。

技術面は現行の物よりもコンパクトになっているエネルギージェネレーターや、少量のエネルギーで高出力運転をするスラスターはあったものの、コレと言うほどの目新しい技術は見つけれなかった。これで技術者達も研究対象として見なくなった。

(最もこれに関しては、彼らよりも遥かに高い技術力を持つ束の技術偽装術が優れているだけの話である)

 

結局、最後に揉めたのは『紅椿』ではなくそのコアの所有権。

そこは高度な政治外交により何とかなったが、千冬はその時の抗論を思い出し、怒りが蒸し返されているようだ。

 

「えっと、お疲れ様?」

「クソ、何故こういう時に限ってアイツが居ない」

「いや、生徒をストレス発散の道具にしちゃダメだよね」

「一夏、私にもお茶を貰えるか?」

 

辺りを見回しながらとある生徒を捜す千冬。アイツとは勿論、忍野仁である。

少々呆れながら席に着き、お茶を啜る一夏と箒。するとそこへ山田先生がやってきた。

 

「あっ、織斑先生っ、おかえりなさい。織斑くんっ! 忍野くんを知りませか?」

「はい?」

 

てっきり千冬を捜しに来たと思っていた一夏は、まさか自分に話をふられるとは思ってもおらず、聞き返すような返事をしてしまった。

 

「あのですねっ、さっき校内放送で呼んだですけど来てくれなかったんですよ」

「忍野なら第二アリーナの整備室のはずですけど、呼んできましょうか?」

 

先ほど聞き流していた放送で彼が呼ばれていたのは一夏も知っているが、まさかボイコットしているとは思わなかった。

 

「ほう。教師の呼び出しを無視するとはいい度胸。教育的指導だな」

「で、では皆で行きましょう」

 

どこからともなく主席簿を手に取ると、生き生きと、それでいて悪い笑みを浮かべた千冬。

山田先生は一夏と箒に対して、暗に“織斑先生を一緒に止めて下さいね?”と訴えてきたが、二人は全く同じ答えを内心唱える。

 

((絶対に無理です))

 

しかしする事のない二人は暇つぶしのつもりで一緒に忍野を呼びに行く事にした。

 

 

 

 

 

002

 

 

第二アリーナの整備室。発進カタパルトのすぐ横の作られた部屋で、本来なら機体の微調整や応急修理に使われるが今は違う。

その部屋を占拠するように鎮座し、まっ黒に焦げた痕や高温で溶かされた穴が戦いの中に身を投じてきた事を物語っている、空の火薬庫があった。

 

オーキス。通称デンドロビウム。

 

IS用の支援装備ではあったが福音事件で中破に追い込まれ、破損したままIS学園に運び込まれてこの部屋に格納されたのだ。

 

デンドロビウムは大小6基ある推進器の2基を破壊され、上部にあった右コンテナを失った。防御の要であるEシールド発生装置も臨界運転で故障、それら以外にも小さなダメージがちらほらと見える。

か細い着地用の脚で鎮座する姿は戦いの退いたモノの姿そのものだったが、忍野はこれを最低限、飛ばせる程度には修理をしようとしていたのだ。

 

そのため、部屋に入った一同を出迎えたのは思わず耳を塞ぐほどの工具の作業音だ。防音処理された部屋だからいいが、もし他の部屋でやろうものなら苦情殺到間違いナシなほどうるさい。

 

「一体何の音だ!!?」

「わかりませーんっ!!?」

「うるさ過ぎる!!!」

「おーい、忍野ーッ!!」

 

あまりにも五月蝿いのでサッサと用件を済ませようと、一夏は大声で忍野の名を呼ぶが、騒音にかき消されてた。

すると千冬は一歩前へ出ると、

 

「スゥー 忍野ぉぉッ!! 出て来いッ!!」

 

力いっぱい怒鳴りつけるように呼びかけた。腹から出された作業音に負けないほどの大声に驚いて、山田先生と箒が尻餅をついていると、デンドロビウムの陰からラウラが出てきた。

どうやら手伝いにでも来ていた様子だ。

 

「ーーーーーー!」

「おい、忍野はどこにいる!!?」

「?」

「だから忍野はどこだ!!?」

「??」

「忍野だ、お・し・のッ!!」

「! ーーーーー!!」

「理解してくれたようだが何を言ってるかサッパリわからん!!」

 

ラウラと千冬は互いに会話をしようとするが、騒音にかき消されて意思疎通すら難しく、身振り手振りでやっとこちらの言葉を理解してもらえた様子だが、返事が聞き取れないのでそれすら怪しい。

 

「ーーー? ーーー!」

 

だがラウラは千冬の言葉をちゃんと理解したようで、デンドロビウムの方を向くと、なにやら喋りかける。

 

すると唐突に騒音が止み、機材を押しのけるようにして忍野が出て来た。

 

「いったい何のーーー

「「「「何故だ(なんで)!?」」」」

ーーー用の前に、それはヒドくない?」

 

「・・・どうしたの?」

 

ラウラが忍野を呼ぶ時に出した声は明らかに会話レベルだ。なのに聞き取れたに一同は不思議でならない、というより納得いかない様子。

そして、今部屋に機材を持って入ってきた簪は何が起こっているのか分からなかった。

 

「ごめんね、雑用任せちゃって」

「いい・・・別に。それで・・・何があったの?」

「それがーーー

「何で俺や千冬姉が呼んで出て来かったのにラウラに呼ばれて出て来るんだ!?」

「あれか、無視をしていたのか!?」

「教師を無視するとは何事だ!!」

「忍野くんっ、酷いですっ!」

ーーーらしいよ」

「・・・なるほど分かった」

 

それぞれ思い思いに文句を言う一同と、それを聞いて何となく状況を理解した簪。

 

「別に無視していたわけじゃないんだけど・・・と、言うかよく見ろ、嘔頭マイク着けてるだろうが」

「あっ、そうですね」

「山田先生、嘔頭マイクって何ですか?」

「えっとですねっ、嘔頭マイクと言うのはーーー」

 

山田先生と箒はサッサと怒りを静めたが、

 

「「ギギギ・・・」」

 

結果だけ言えば大声を出したのに無視された二人(千冬と一夏)は、理由がちゃんとしているので怒るに怒れず、引きつった顔をしている。

 

「それでみんなしてどうしたんですか?」

「あっ、そうでしたね。ちょっと職員室までにてもらえますか?」

「忍野くん宛に不審な荷物が届いているんですが、確認してもらいたいんです」

「不審な荷物?」

 

世界でたった二人の男性IS操縦士である織斑一夏と忍野仁には、日々世界中の女尊男卑団体から爆弾だったり、動物の死骸だったり、首を落とされた男の人形が送られてくる。

しかし二人はIS学園の寮で生活している以上、外部から届く荷物は必ず学園の受付を通るのでそういった類の荷物は全て処分されているのだ。

 

にも関わらず、わざわざ確認してもらう必要があるという事は教員側では判断に困るような品が届いたのだろう。

 

「いいですよ。ちょうど修理も一段落つきましたし、一旦片付けをしたら行きます。あ、それ貰うよ」

「ありがとう・・・」

「嫁よ、これはどこに置けばいい?」

「だから嫁じゃない、そこのモニターの下にお願い」

「では私も手伝いますっ! 先生ですからっ!」

 

三人+教師一人の力で片付けはあっという間に完了し、ラウラと簪を引き連れて忍野は山田先生のお供?に就いた。

・・・あともう一回、生徒や教師がついてくるイベントが発生したら、山田先生が主人公のRPGゲームだっただろう。

 

ここまでのぼうけんをセーブしますか?

▶はい/いいえ

 

ってやかましいわ!!

 

 

 

 

003

 

 

「これがそうです」

 

職員室に到着し、山田先生が一同が囲む机に置いて見せたのは、何の変哲もない何処にでもありそうな銀色のアタッシュケースだ。

 

「危険物反応はないんですが見るからに怪しいので一応確認を、という事になったので呼んだのですっ」

「まぁ確かに怪しいですよね」

 

ダンボールとかならいざ知らず、高校生宛にアタッシュケースが送られてくるなんて不自然極まりない。

 

「何か心当たりはありますか?」

「ええ。ありますよ?」

「一応、安全確認の為に中身をあらためないといけないんですが・・・」

「その必要はないですよ。信用できる相手からの荷物ですし、俺が頼んでいた品でーーー」

 

忍野は躊躇いもなくロックを解除してケースを開くと、一夏の方へと滑らせた。

 

「こいつはお前の得物だ」

 

アタッシュケースに収められていたのは黒光りする二丁の大型拳銃。

見たところオートマチック拳銃のようだがその大きさとデザインが異質だ。

通常の拳銃よりも銃身部分が長く、短機関銃の見間違うほどの大きく見え、一瞬IS用の拳銃なのではないかと思えてしまう。

そしてそれ以上に目を引くのは、銃全体に及ぶ十字架の装飾だ。片方は白銀の十字架、もう片方は紅の十字架。

(しん)と魔を彷彿とさせている。

 

「なっ!?」

「バケモノ銃!?」

 

箒やラウラはその銃に驚くが、それ以上に驚く事が起こった。

 

何の警戒もなく一夏は二丁の拳銃に手を取り、まるで曲芸のように銃を振り回して見せる。その動きは流れるような動作であまりにも自然体で、明らかに使い馴れている事がうかがえた。

 

「おっ、織斑くんっ、その銃は!?」

 

ついに山田先生が皆を代表するかのように忍野に問い詰めた。

 

「一夏の愛用の骨董品、大型二丁拳銃『阿吽(あうん)』です」

 

トリガーの引き具合など、一通りのチェックを終えた様子の一夏。その表情は心なしか喜々としていた。

 

「よし、忍野、勝負しないか?」

「元気がいいねぇ。山田先生、第二アリーナって今使えますか?」

「えっ、あ、はいっ。今日のこの時間は使用申請がないので使えますよ」

「じゃあ俺達使います」

「なら部屋から“ウルスラグナ”取ってくるから先に行っててく」

 

そう言い残し忍野は職員室を後にし、

 

「俺も行こっと」

「あ、私もっ!」

「行こう、簪」

「うん」

 

一夏と観客もアリーナへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ聞いた?」

「うん聞いちゃった。すぐにみんなに教えてあげよ」

 

彼らとは別に職員室に来ていた来ていた生徒を残して・・・。

 

 

 

 

 

 

004

 

 

一時間ほど経過してやっと第二アリーナの出撃ピットに姿を現した忍野。

激励をするつもりで待っていたが、待ちぼうけをくらってしまったラウラと簪は若干ご立腹のようすだった。

 

「まだ準備を済ませてないのか?」

「今来たばっかりなんだから」

「織斑くん・・・、待ってるよ?」

「だから慌てているんだよ」

 

言うほど慌てた様子のない忍野は持っていた縦長の木製ケースを置き、中から納められていた得物と、専用のホルスターを取り出す。

 

「それは?」

「大筒『ウルスラグナ』」

 

ウルスラグナと言われた銃。

大口径の散弾銃のような外観で、大きな銃身にグリップ、銃床が一直線に並んでおり、銃身の付け根付近に引き金が付いている。

銀色の銃身に金で装飾が施された漆黒の銃床。それを見た瞬間、ラウラと簪は驚いた。

一夏の持っていた二丁拳銃のように見たことないような代物ではないが、どう考えても1対1の対人戦に使うような武器ではない。

 

「グレネードランチャー?」

 

そう。忍野が手にしているのはどう見ても中折れ式のグレネードランチャー。

本来は銃身を折って、その後部から榴弾(りゅうだん)などを一発装填して撃つ武器で、攻撃力がある分、連射能力がない、面制圧用の兵器だ。連射能力の高いオートマチック拳銃相手には手数が圧倒的に不足している。

 

「そんな銃で勝負するつもりか?」

「そんなとは失礼だな、これでも俺の相棒だぜ?」

「実弾じゃ、ないよね?」

「・・・俺を何だと思ってるの?」

「「バーサーカー?」」

「ア、ソッスカ」

 

受け答えをしながらもホルスターを背に結びつけ、気の抜けるような音を響かせ初弾の装填が済んだ銃を背にしまう。

 

「よしっ! 行きますかな」

「「頑張って!!」」

「おうよっ!」

 

久々の生身での勝負とあり心踊るものがあるのだろうか、いつもより機嫌の良さそうな顔してアリーナへの階段を下りて行った。

 

 

 

 

005

 

 

一夏と忍野の対決の話はすぐに広まり、第二アリーナの観客席には何人もの生徒が、男性操縦士同士の戦いを見物にやって来ていた。もっとも、“ISを使わない”と言うのも広がっているのか、観客の人数はクラス代表決定戦に比べて10分の1ほどであったが・・・。

 

千冬や山田先生は、一応念のためにアリーナを一望出来る管制室で勝負を見守る事にした。

そして箒と簪、ラウラの三人も管制室から観戦する事にして仲良く座っている。

 

「意外に集まっているな」

「皆さん刺激に飢えているんでしょうね、つい先日まで期末試験でしたから」

「まったく、お前達もだろ?」

 

「おもしろそうなお話が聞こえてきましたので」

 

突然後ろにいる人物に話かける千冬。

其処にはたった今、管制室に入ってきた楯無、そして彼女に連れられて鈴とセシリアとシャルロットもやってきた。

先頭に立つ楯無の手には達筆で“風の噂”と書かれた扇子が広げられていた。

 

「お前も気になるか?」

「ISを使わないのにアリーナを使う模擬戦。興味をそそるには十分だと思われますよ」

「それはお前個人か? それとも()()としてか?」

「ふふ、どうですかね?」

 

一年生同士が集まって談笑を始めたところで千冬は楯無に、その思惑を訊ねるように話かけるが楯無は扇子で口元を隠して笑っているだけ。

 

「まあいい。だがあの二人に手を出すならそれなりに覚悟しておけよ」

「それは、織斑千冬が敵にまわる、と言う意味でしょうか?」

「違うな」

 

危惧した事をあっさり否定されてしまう楯無だが、それ以上に気分を害すものを見てしまった。

 

「アイツらは生身でも強いぞ」

 

二人を自慢するようにニヤリと笑う千冬の姿は、妹のそばにいる男によく似ていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

先にアリーナに来ていた一夏はストレッチをしたりして時間を潰していたが、忍野の姿が見えるとすぐに文句を言った。

 

「遅いぞ忍野!」

「いやぁ悪いね。久しぶりなんでどこにマガジンを片付けたのか分かんなくてぇ」

「はぁ~、だからあれほどお前のと一緒にしとけって言っただろ?」

「文句は後で聞くよ。ほら、マガジンだ。ゴム弾を装填済みだぜ」

「って投げるなっていつも言ってんだろ!?」

 

投げ渡された四つの弾倉を怒りながら、危なげな手つきでキャッチする一夏。すぐに二つを銃に詰め、スライド部分を引いて発射準備を整える。

 

「試合時間は?」

「10分」

「攻撃は?」

「何でもあり」

「ダメージ判定は?」

「鼻血、打撲まで可」

 

通過儀礼のように試合の確認問答を消化していく二人。その問答はまるでカウントダウンの進めてられ観客の緊張は高まっていくが、当の二人に目立った動きはない。

 

しかし、両手の銃をしっかり握り、自然体を繕ってはいるがいつでも攻撃が出来るように構える一夏。

背に武器を担ぎポケットに手を突っ込んだまま、余裕の姿勢ではあるが獰猛な双眸で相手を見据える忍野。

 

二人の戦闘準備は完了していた。

 

「それじゃあ、先手は貰うぜ!」

 

先に動いた一夏は忍野目掛けて一気に駆け出す。

接近戦を仕掛けようと走り、十数mの距離はあっという間に縮まったが突然、一夏は急ブレーキを掛けて大きく後ろに跳ねた。

 

 

すると先ほど立っていた場所に轟音を響かせて()()が衝突、それはそのまま跳ねて一夏の横を過ぎ去っていった。

 

「避けるな!」

「そんなデカい砲口を向けられたら誰だって避けるっての!」

 

地面に衝突していった物の正体は、一瞬のうちに忍野の手に握られた銃から放たれたゴム弾だ。

 

忍野は銃身を折り、空薬莢を捨てると腕を大きく振り、袖から次の弾を滑り出した。

だが装填をのんびり待っている一夏ではない。阿吽の銃口を向けると引き金を絞る。

 

「チッ!」

 

忍野は爆転をしながら一夏の放つゴム弾を避け、砂煙を上げながら着地。装填を済ませた銃を向けた。

 

「遅い!」

「ッ!?」

 

その引き金を引くのよりも早く、攻撃を潰しにきた一夏。

阿吽をクロスに構え振り抜くが、忍野は左右から近づく銃身を、伏せて回避、脚払いをし、肘鉄を打ち込もうとする。

 

「がら空きだァ!」

「やらせるか!!」

 

ガァン

 

思わず耳を塞ぎたくなるような音を響かせて、一夏は銃身で忍野の肘鉄を防いだ。

 

「痛ッてぇぇっ!!」

 

さすがに肘鉄を鋼鉄に打ち込んだのは痛かったようだ。若干涙目になっており、観客である千冬達も無意識に自分の肘に手を当てている。

 

一夏は忍野が痛みに怯んでいるところにガン・カタによる連続攻撃を繰り出す。

左右から変幻自在に叩き込まれる連続攻撃。右で殴れば左で撃ち、右で撃てば左で突き上げる。残像すら生み出す連撃は、その衝撃で忍野の体を宙に浮かした。

 

「これで (とど)めだ!」

 

未だに宙に浮いている忍野に二つの銃口を突きつけ、引き金を引こうとした。

 

「甘ェよ!」

 

だが忍野はウルスラグナの銃身でアッパーカットを決め、怯んだ隙に着地、一夏の間合いから離脱する。

鋼鉄の銃身で空中コンボのたこ殴りにされていたにも関わらず、忍野は平然としていた。

 

「今度はこっちの番だ!!」

 

相棒を背に戻しながら駆け出した忍野は、前転するかのように跳躍すると両の手のひらで着地。逆立ちの姿勢になると脚を一直線に開き、あたかも竹とんぼのよう回転して蹴り技を繰り出す。

一発一発が重く、銃で防いでいる一夏は弾かれないよう握る手に力が込もる。

 

「相変わらず脚癖悪いな!」

「悪いのは脚だけじゃねェよ!」

「グハッ!?」

 

突然、一夏の腹部を襲う衝撃。見ると逆立ちの忍野は片手で自重を支えながら蹴り技を放ち、もう片方の手でグレネードランチャーを放っていたのだ。

まるで軽業そのものだ。

 

腹部への攻撃で動き止まった一夏に、起き上がった忍野は続けざまに、脚を鞭のようにしならせて攻撃を加える。

 

「チョイサァ!」

「ぐッ!!」

 

辛うじて防御の取れた一夏だが、今の一撃の痺れが全身を駆け抜け、もし直撃を受けていたら、と冷や汗が流れる。

 

「喰らえ!!」

 

いつの間にか装填を終え、次射を放ってくる忍野。

しかし一夏は慌てず、しっかりとその両目で攻撃を見据えると、

 

「狙い撃つッ!!」

 

ウルスラグナのゴム弾を()()した。

 

「流石だなァ、ならこういうのはどォだ!!」

 

すると、一夏の走り方とは違う、変幻自在の足運びで一夏の周りを駆け回る忍野。

直接攻撃に向かうのではなく、牽制とも違う、縦横無尽に走り回る。

 

「確かに俺は動く的に当てるは下手だけどな、そんな動きですべての弾丸を避けきれると思うな!」

 

阿吽を構え直す一夏。

銃口はまっすぐ相手に向き、乾いた炸薬音が連続して響いて忍野へと弾丸が撃ち込まれる。

 

「な!?」

 

しかし、驚愕の声をあげたのは忍野ではなく、一夏の方だった。

数十発の弾丸を撃ち込んだ直後、忍野が一夏のすぐ直前にまで、懐に這入り込んできたからだ。

 

「ハッ!!」

 

阿吽の射程内の更に内、超近距離。

忍野は拳ではなく手のひらを打ち込む、所謂“掌底(しょうてい)”と呼ばれる技を腹に叩き込み、そのまま吹き飛ばす。

咄嗟に腹に力を込めてダメージを軽減させた一夏だが、内臓に伝わった衝撃までは殺せず、肺の空気を吐き出してしまい少し咳き込んでいる。

 

「ケホッケホッ、デタラメだな、全部避けたのか?」

「避けた? 違ェよ、()()()()()()()()ぜ?」

「! そう言う事か」

 

“半分ほど食らった”、この言葉で一夏は目の前の人物が何をしたのか理解した。

ただ忍野は、発射される弾丸を散らさしたのだ。

動き回る忍野に対し避けられないように、投網のように面攻撃を一夏はしたつもりだったがその攻撃が仇となり、一点辺りの弾幕密度が薄くなった。

その薄くなった点を、忍野は最低限の被弾で突っ切ったのだ。

かつて、福音戦の際に自分も同じような事をしたにも関わらずすっかり忘れていた一夏は、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「さァて、そろそろ時間もいいから決めるかァ?」

「もうそんな時間か。なら、次で最後だ」

 

言うやいなや、腰を落とし、まるで抜き身の刀を持つかのように阿吽を構える一夏。

忍野もまた、それに応じるかのように三度(みたび)ウルスラグナを背に戻し、両手の指を広げ、獣が爪を立てるよう指を起こして構える。

 

断罪円(だんざいえん)!」

散魂鉄爪(さんこんてっそう)!」

 

一瞬で互いの間合いにまで接近する織斑一夏と忍野仁。

接近戦、そして接戦。見ようによってはふたりで演舞を行っているように、しかし間違ってもそんな美しいものではない確実に相手を“狩り”にいく攻撃。

骨を砕く銃身と、肉を抉る爪の衝突は互いに一歩も譲らず、お互いを封殺しあい、完全なまでに拮抗している。“肉を斬らして骨を断つ”と言う言葉があるが、互いに大人しく肉を斬らせも骨を折らせもしない。相手の攻撃に自分の攻撃をぶつけて潰す、その繰り返し。

響いてくる音は金属音なのか打撃音か判別できないほどだった。

 

そして、

 

ピーピーピー

 

突如なり響いた小さな電子音。

 

「時間切れだな」

「また決着がつかなかった」

 

電子音の正体は一夏の腕時計のタイマー。その合図を聞き、二人は戦意を消し、それぞれの武器を下ろした。

 

勝者の決まらないあまりにも呆気ない幕引きは、クラス代表決定戦の焼き直しのようだった。

 

 

 

 

006

 

 

「凄い・・・」

「なかなかの腕前ですね」

「わたくし・・・、今とっても入学時の自分を殴りたい気分ですわ。機体以前に根本的実力からして負けてましたのね」

「うん。僕も一夏に銃の指導をしてたのが無性に申し訳なく思えてきた」

 

管制室から観戦していた者たちはそれぞれ思い思いの感想を述べ、二人の実力を改めて認識し直した。

 

「どうだ? 強いだろ」

「見た限り、では強いですね」

「負けず嫌いだな」

「そうでないと生徒会長の職務を二人のどちらかに譲らないといけないので。それでは失礼します」

 

千冬に挨拶を済ませ、にこやかに部屋を後にする楯無だったが、

 

(あっれー、予想よりも大分織斑くんが強いんだけど。虚ちゃん、作戦変更しないといけないかも・・・)

 

何やら思惑が外れ、計画の練り直しをするはめになっていた。




武器&技の紹介


◆大型二丁拳銃『阿吽』

イメージは『ガングレイブ』に登場する主人公、ビヨンド・ザ・グレイブの愛銃ライトヘッドとレフトヘッド。

一夏が所有する武器で、全長が約40cmにもなり非常に重い、十字架の装飾が施された拳銃。オートマチック拳銃の形をしていながらマガジンは銃身下部に装填する。
装填数は30発。
十字架が赤色の銃は右手用で『阿形(あぎょう)
十字架が白銀の銃は左手用で『吽形(うんぎょう)


◆大筒『ウルスラグナ』

イメージはM79グレネードランチャー、映画『ターミネーター2』で有名な武器。

忍野が所有する武器で、外見は装飾の施されたグレネードランチャー。単発式ではあるが銃の構造が簡易なため余程の事がない限り故障しない。
異常な強度を誇り防具の代わりとして使えるが、銃自体が比較的軽いのでガン・カタのような打撃武器として使うのには向かない。


◆断罪円

『刀語』に登場する真庭鳳凰(まにわほうおう)が使用する技。
手刀で行う接近戦攻撃の技だが明確な描写がなく、アニメ化された類似する技から推測するに“手刀による高速斬殺術”だと思われる。


◆散魂鉄爪

『犬夜叉』に登場する主人公、犬夜叉が使用する技。
敵陣に爪で突撃する技で、悪く言えばただのひっかき攻撃。しかし鉄骨を突き破るほどの威力がある。
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