001
忍野との生身での試合から一夜明けた次の日。
一夏は朝食をとるために食堂に着くと何やら騒がしことに顔をしかめた。
「いったい何があったんだ?」
女子が三人集まれば姦しいと昔から言うが、今の雰囲気はどう考えてもキャッキャウフフみたいな明るい感じではない。もっと暗く、疑心感のようなものが蠢いてるような、そんな感じの空気が食堂を覆っていた。
すると、一夏に気が付いたセシリアが近づいてきた。
「おはようセシリア。いったい何があったの?」
「箒さんの部屋で盗難事件が発生したらしいですわよ」
「盗難事件? 何が盗まれたんだ?」
「ケーキですわ」
「へ?」
「ですからケーキですわ」
「いや分かっているから」
若干の頭痛と共に、ふと視線を向けると騒ぎの中心にいる人物が目に映る。
「だから誰か他の人だって!」
そこで声を荒げていたのは
箒のルームメイトで、ショートカットに両側ヘアピン。生真面目な少女。
彼女は犯人捜しに躍起になっている様子だ。
「でも~、それって変じゃない~?」
「鷹月さん落ち着いて」
「一度冷静になって!」
のほほんさんこと、本音をはじめとした数人が否定するが熱くなっていく一方だ。同室である箒も困った様子だ。
「お待ちなさい!!」
部屋に響き渡る声。その声に気圧されて静まり返った一同が見たのは、
「この事件! わたくし、セシリア・オルコットが見事解決してみせますわ!!」
鹿撃ち帽にインバネスコート、手にはパイプと虫眼鏡、まさに探偵のイメージを体言するかのような恰好である。
この学園の生徒はどこからそんな小道具を用意してるんだ?
「お~、せっしーがまるでホームズみたい何だよ~!」
何やらのほほんさんが感激といった様子で目をキラキラさせながら喜んでいる。
「ホームズってシャーロック・ホームズの事?」
「そうだよ~。小説家アーサー・コナン・ドイルが19世紀から20世紀に出版した推理小説の『シャーロック・ホームズ』シリーズの主人公。言わずと知れた名探偵でフルネームはウィリアム・シャーロック・ホームズなんだよ~?
名探偵の代名詞とされていてーーー」
「もういいですよく分かりましたもうお腹いっぱいです!」
いつもと同じ間の抜けた喋り方ではあるが、ホームズを熱く語りだす彼女。
どうやらのほほんさんはシャーロック・ホームズのファンだったようだ。
「で、では一夏さんは助手として是非ともワトソン役に!!」
「分かった分かったから!!」
「本当ですか!?」
こうして小さな事件の捜査劇が幕を上げた。
002
~一夏サイド~
「捜査の第一段階は現場検証! 犯人へと繋がる痕跡を捜し出すのが基本です!」
セシリアは部屋の中を虫眼鏡で探索を始める。
しかしいきなり窓際を念入りに調べ始めて、問題の冷蔵庫には見向きもしない。
あ、もしかして“任せたよワトソン君”的な流れだったのか?
ならやるとしますかな。
冷蔵庫は各部屋に備えつけの物で、上下2ドア式の中型サイズ。俺達の部屋のと違う点と言ったら、扉にはマグネットでメモが貼り付けられてるのと、身嗜みをチェックするためと思われる鏡が上の扉に付けられている点だけ。
どちらも事件には関係なさそうだ。
「冷蔵庫の中身は触ったり位置を変えたりした?」
「いや、中身は触ってないがケーキの箱だけは動かした」
冷蔵庫を開けた瞬間に思った感想は、この部屋での私生活が伺えるようだった。
扉部分には飲みかけのコーラとミネラルウォーターのペットボトル、牛乳瓶。梅干しの入ったタッパに謎の缶と・・・乾電池?
棚の方には上から薄紫色の包みに卵。ケーキの箱に野菜類とハム。
(これが件の品か・・・)
騒動の原因となった箱を手に取って中を覗くと、無惨に食べられたケーキの跡が残されていた。
僅かにスポンジの欠片が残されている下紙。生クリームが付着したフィルム。そして、それらに包まれてたであろうケーキを食すのに使われたと思われる、どこの店でも貰えそうなプラスチック製のフォーク。
「それでケーキの箱は最初からこの位置にあったのか?」
「いいえ、それは確認の為に取り出した時にそこに置いたの」
「それじゃあ最初はどこに?」
「えっとねーーー」
鷹月さんの指示に従って本来あったと思われる場所に納められるケーキの箱。
一番下の棚の奥にしまわれた小さな蓋。こうして見ると箒、鷹月さんの背丈では随分と見難い位置になる、170以上ある俺だと尚更だ。鈴なら、いやもっと背の低い奴じゃないと目視は無理だな。
そうなるとこの高さでケーキの箱をだけを取り出したって事は、最初からケーキがどこにあるか知っている奴じゃないと犯行は無理だな。
証拠らしい証拠はこのフォークだけ。DNA鑑定が出来そうだが、たかがケーキでそんな事は出来ない。残念ながら使えないな。
他に手掛かりがないか物色してみるが何にも見つからない。
だけど薄紫色の包みを動かした時、甘い香りがした。
「この包みは何?」
「私のだ。昨日買ってきたおはぎだ」
「おはぎか。季節的には水羊羹じゃないか?」
「い、いいだろ別に///!」
どうやら箒はおはぎが食べたかったようだ。
しかし水羊羹に比べておはぎのカロリーはいかほどのものか? おはぎの方が高いと思われるが彼女の体重などは大丈夫なのだろうか?
「何か失礼な事を考えてないか?」
「いや別に何にも」
忍野もそうだけど何でみんなして人の考えていることが分かるんだ?
まあともかく、包みの中が分かった以上、冷蔵庫の中に手掛かりになる物はもうないな。
「一夏さん、いったい・・・、何をなさって、ますの?」
あ、セシリアがやって来た。部屋の調査は終わったのかな?
なんて思っていると、彼女の表情が見る見るうちに悲しげなそれへと変わっていき、涙腺が決壊しかかっているかようだった、ってなんでだ!?
「わたくしが・・・、最後に調べようと、思ってましたのに、ヒドいですわ!!」
(((ええ~~~~!?)))
涙ぐんで訴えるセシリアに思わず唖然とする。
まさか任せたから冷蔵庫を調べなかったのではなく、メインディッシュとして最後に調べるつもりだったらしい。
「ほっ、ほら、探偵の仕事と言えば推理だろ? だからセシリアの名推理を是非とも拝聴したいなっ!!」
何としても話を逸らさねば。もしここで泣かせようものなら在らぬ噂が立ちかねない。
「ですが、グスン、まだ事情聴取をしてませんわよ?」
「ならすぐにしよう今すぐしよう!!」
「・・・わかりました。お二方、今から事情聴取をしますわよ!!」
「「あ、はい」」
一応成功したのかな?
003
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。さて、警察よろしく事情聴取を開始しましょう。まずは鷹月さん、お願いしますわ」
一夏から淹れたての紅茶を受け取り、セシリアは一口飲んでから取り調べを始める。
取り調べ室として提供されたのは男子部屋、つまり一夏と忍野の部屋。箒はともかく、セシリアや鷹月は異性の部屋に入るのに免疫がないのか、落ち着かない様子でキョロキョロとしている。
「はい。昨日の夕方、私はケーキを買って部屋の冷蔵庫にしまいました。しかし次の日、今日の朝冷蔵庫を開けてみると・・・」
「ケーキが無くなっていたと?」
「はい・・・」
「ふむ。それでケーキを最後に確認したのはいつ頃ですの?」
「ええっと、ドラマを見た後だから・・・22時頃かな?」
「それで朝に確認したのは何時ですの?」
「起きてすぐなので6時です」
頷きながらメモを撮っていく。
「それでは箒さん、その間のアリバイをお願いします」
「と言われても同室なんだが・・・、えっと昨日の夜は寝たのは10時半ごろだったはずだ。それで起きたのは5時だ」
「5時? 早起きですわね」
「朝の鍛練のためだ。鷹月さんも私が部屋を出る前には目を覚ましていたぞ」
「本当ですの、鷹月さん?」
「本当です。篠ノ之さんが部屋を出てくのを見送ってます。でもその後二度寝しちゃって」
照れくさいそうに頭を掻きながら箒の証言の裏付けをする鷹月。
「つまり犯行時刻は昨日の夜11時以降から今朝5時までに絞られますわね」
「約6時間、誰にでも犯行は可能だな」
「しかし二人部屋で鍵が掛かっていた以上、外部犯の可能性は極めて低いですわね。けれどもお二人共、食べてないと申されますし・・・」
「どちらかが嘘をついていたとしたら不自然だしな」
一夏の言うとおり、不自然である。
仮に鷹月さんが嘘をついているとしたらその理由は? 自分でケーキを食べて、それを箒のせいにしようとしているのなら分かる。しかし盗難事件として大騒ぎしてまで擦り付ける理由がない上に、彼女は始めるから外部犯説を唱えているため嘘としては不自然。
箒が嘘をついてしらを切ろうとしているならケーキを食べた理由は? 彼女は自分が食べる用におはぎを購入し、同じ冷蔵庫の中に入れていた。にも関わらずケーキに手を出すのは不自然だ。
セシリアはすでに冷たくなってしまった紅茶を喉に通し、現時点で集まったピースを揃えるように目を閉じて長考に入る。
その姿は彼女の容姿も相まって、まさにイギリスの名探偵に見えた。誰もが不足しているピースを補った名推理が出てくると期待した。
そして、
「犯人はこの中に居ます!!」
((((あ、ダメだこのヘッポコ迷探偵))))
自信満々に堂々と宣言するセシリアだが、やっぱり素人には名推理は出来なかった。
「せめてカメラでもあれば・・・」
「そんな都合のいい物あるわけーーー
「そうですわ! 紅椿の記録映像に何か残っているかもしれませんわ!」
ーーーあったね」
突然立ち上がるセシリア。
「専用機には常時撮影型の記録システムがありますの。不正運用など防止のために一方向ではありますが、待機状態でも常にカメラが起動してますわ」
「つまりその記録を確認出来れば・・・」
「自ずと犯人が分かると?」
「そう言う事ですわ!!」
ついに事件解決の決定的な証拠の目処がついた。
しかし、
((((そんな方法があったならもっと早く思い出してよ))))
悦に浸っているセシリアだが、彼女にはもう二度と探偵役を任せまいと、その場にいた全員が誓ったのであった。
004
早速一同はISの記録システムにアクセスする専用の機材を借りてきてパソコンに繋ぐ。
「これでいいのか?」
「説明書通りならこれでOKのはず」
「この線はいったいどこに繋ぎますの?」
「オルコットさん、それどこから持ってきたの?」
一部不安な所もあったが、一応接続が完了し、一夏はすぐに記録の引き出しに掛かる。
「えっと、昨日の日付でにして・・・っと、時間は・・・どうする?」
「手首から外した所からに出来るか?」
「出来ると思うけどなんで?」
「一夏さん? 女性のプライベートを覗き見するようなご趣味があって?」
「うわぁ織斑不潔~」
「誤解だっ!!」
心に傷を負いながらも作業を進める一夏。
映像の引き出しが完了したのですぐに再生を始めると箒の希望通り、待機状態の紅椿を手首から外し、サイドテーブルに置いて照明が消えた所からスタートした。
置き方が悪かったのか映像には箒の姿は映っておらず、鷹月の寝顔が映し出されている。
その顔は緩みきった笑顔を浮かべており、普段の彼女の表情とはすぐに一致させる事が出来ない。
「や、ちょっと、織斑くん見ちゃダメ////!!」
まさか自分の寝顔がアップで出てくるとは思ってもいなかった鷹月さんは、慌てて一夏の視界を塞ぎにかかる。
「可愛い寝顔だな」
「かかか、可愛い////!!!?」
しかしそこは鈍感朴念仁織斑一夏。
自分が思った率直な感想をストレートに言ってしまったため、
「ふんっ!」
「おっとッ!」
箒の肘鉄が脇腹にクリティカルヒットし、セシリアが足を捻りながらくい込むように踏みつける。
「悪いな一夏。厄介な虫が居たからつい肘が出てしまった」
「あらごめんあそばせ一夏さん。悪い虫が居たものでつい踏んでしまいましたの」
一夏に謝る二人だが、その視線は非常に冷たく、そして怒りの炎を宿したもので見る者によっては思わず土下座をくり出してしまう、そんなレベルのものだ。
「えっと、何を怒っているのでしょうか?」
当然その恐怖はひしひしと伝わったようだが、肝心な部分が伝わらない一夏はオドオドした態度で質問するが二人は答えてはくれなかった。
「待って、何か光ってる!」
突然の声に慌てて画面を確認すると、映像の背後、箒のベッドのある方で光が発生している。眩いばかりの閃光は画面を白く染め、その後には何事もなかったかのように暗闇に戻った。
「何の光だろ?」
「携帯・・・?」
「それにしては強すぎる」
すると映像に変化が起きた。
突然画面が動き始め、ベットから離れていく。どうやら紅椿を持って移動しているようだ。
「これで犯人は箒さんで間違いありませんわね」
「そんな・・・、私が・・・ケーキを?」
自分の知らぬ事とは言え、友の物を奪い、そして嘘をついていた自分に絶望し、膝をつく箒。
いやいや、たかがケーキだよ?
「待って。この映像、何か変よ」
そこへ異を唱える鷹月。
すぐに画面を一時停止して辺りを見回す。
「篠ノ之さんは手首に紅椿を着けてるよね?」
「ああ、そうだが?」
「なら何でこんなに映像の位置が高いの?」
「「「え?」」」
「篠ノ之さん、そこで起立!」
「は、はい!」
突然起立を指示されて驚きながらも従う箒。すぐにみんなが集まり映像に映っている物と、箒の手首の位置から見える物を比較してみる。
すると、
「やっぱり」
「何と!?」
目測数十cm近くの誤差があった。
見えていた物が見えない、見えなかったの物が見る。天井が遠くなり床が近くになる。
見間違いや気のせいでは片付けられない程の違いだ。
「待てよ、映像のブレ方も変だ」
一つの不自然な点に引かれるように、一夏も映像にあった違和感に気が付いた。
多少の動きはあるが、画面からは人が歩く時のような腕の動きは感じられない。普通なら前後に大きくブレる筈だがまるでお盆に載せられているかのように水平な動きだ。
「と言う事は・・・」
「犯人は他に?」
「しかしそれではこの映像自体に不審な点が残りますわ!?」
ここまでの映像の内容をまとめると、犯人はケーキの場所を知っていて、二人の部屋に侵入し映像に映らないようにて紅椿を入手したと言うことになる。
世界のパワーバランスを担うIS。それを入手までしたにも関わらず置いていき、さらには今後の警備体制が厳しくなると分かっている筈なのに“ケーキを食べる”という侵入した痕跡を残した説明が、この場にいる誰にも仮説すらたてる事が出来なかった。
「あ、冷蔵庫の前に立ったわ」
先ほどの現場検証のときに、冷蔵庫に鏡が設置されているのは確認していた。
“もしかしたら犯人の顔がわかるかもしれない”
誰にも気づかれずに犯行をこなしている犯人がそんなミスをするとはあまり思えなかったが、全員が食い入るように画面を見つめ、その時を待った。
そして、冷蔵庫が開き、中の光に犯人が照らされ、
「八九寺ーーーーっ!!!!!」
箒が吠えた。
鏡に映った人物。
それは箒でも鷹月でもなく、ツインテールと八重歯が印象的な少女の姿だった。
005
「つまりカメラに映っていたのは紅椿のサポートAIですの?」
「・・・そうなるな」
犯人が分かったところで状況整理に移ったが、全員が頭痛に悩まされた。
まさか犯人が小学生、しかも紅椿の中に居た存在だったなんて夢にも思っていなかったのだから仕方のない事だ。
因みに、馬鹿正直に“紅椿に取り憑いていた幽霊だ”なんて言うわけにもいかないので悩んだ結果、箒はサポートAIと答えた。(実際にサポートしているので間違いではない)
「ISが人の姿になるなんて前代未聞ですわ」
「だがそうとしか言いようがない」
「私、ISが何なのか分からなくなってきた」
「それは大変ですねっ」
「「「ハァ~、んん?」」」
愚痴をもらしたところで聞き覚えのない声が聞こえてくる。驚いて声の先を向くと、
「は、八九寺!?」
そこに当たり前のように、箒の横に居たのは八九寺真宵、その子だった。
「こうしてお会いするのはお久しぶりですねっ、篠ノヶ原さんっ」
「人を口の中にホッチキスを突っ込む毒舌キャラみたいに呼ぶな。私の名前は篠ノ之だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「噛みまみた」
「わざとじゃない!?」
「蟹をみた?」
「私は蟹に遭ってない!!」
夫婦漫才のようにツッコミ続ける箒の姿に、セシリアや鷹月は唖然としていたが、やっとの思いで声をあげた。
「「あのっ!!」」
「ッ! ちょっと失礼!!」
だが箒は何か訊かれる前に八九寺をひっつかむと部屋の隅まで移動する。
女と言えど、高校生である箒に小学生の八九寺が抗えるわけがなく、引っ張られていく。
「お前、何で身体があるんだ!? と言うよりいつから出てこれるようになった!?」
箒は隅までくると、矢継ぎ早に質問していく。
「何でと言われましても、私には理解しかねますよ篠ノ之さん。小学生五年生に物理法則を答えろと言っても無理な話ですっ。それに私は紅椿の機能を使えても、そのシステムまで理解していないのですから最初から説明できません」
「それなのに出てきたのか?」
「はいっ。せっかく身体を手に入れたのですから失った青春を取り戻そうと思いまして」
「重ーーーーいっ!!」
「あっ、出てこれるようになったのは昨夜ですよっ」
「何でケーキを食べた!?」
「復活祝いにいただきました」
「人の物を食べるな!?」
「失礼ですよ篠ノ之さんっ!! その件に関しては断固抗議します! 私はちゃんと鷹月さんの承諾を得て食べたましたよっ!!」
「どんな風にだ?」
「私は小さな声で真摯にお願いして、鷹月さんが頷くのをお手伝いさせていただいて、承諾を得たんですっ!」
「それはつまり気づかれないよう頼んで無理やり頷かせたという事だよな!?」
「そうとも言いますね」
「やっぱりか!!」
八九寺の暴挙に対するツッコミで疲弊していく箒だが、さらに困らせる声が聞こえてくる。
「ねぇねぇっ! 篠ノ之さん、いい加減に紹介してよ!」
八九寺の姿を見た鷹月さんが紹介しろと催促し、その周りには他の生徒たちの姿が見えた。
どうにか隠せないかと考えたが、
「篠ノ之さんっ、私は青春を謳歌したい、今を楽しみたいのですっ。ですから一緒に居させて下さいっ!」
「ッ・・・ハア、迷惑は御免だぞ」
「はいっ! これからも宜しくお願いしますねっ、篠ノ之さんっ」
友達として、パートナーとして、二人は手を繋いだ。
006
「それが事の概要ってわけか?」
「そうなるな」
その夜、食堂に来た忍野が八九寺に気が付き、一夏に状況を聞いている所だった。
ふと向こうを見ると、無邪気に笑っている八九寺と、呆れながらも笑みを浮かべている箒の姿、それを囲む多数の生徒たち。
顔立ちや印象はまるで違うのに、並んでおはぎを食べている姿は束が嫉妬しそうなほどに姉妹に見えた。
「それにしてもあの八九寺って子、“迷い牛”の子だよね? 何でまだ現世に居るんだ?」
「分からない。本人曰わく、成仏し損ねてISに取り憑いたらしい」
「はいぃ?」
呆れてるのか驚いているのか分からな返事をする忍野。
しかし本気で驚いているようで、表情は驚愕の一言に尽きる。が、すぐにいつものやる気のない顔になり一夏を見据える。
「ISが絡むと俺の常識が通用しないなぁ」
「お前に常識なんてあったか?」
「酷いなぁ。それで、学園側は何だって?」
「“ISの自己進化により擬体を得た”って事にして委員会に報告する事にしたらしい」
「だよなぁ、もう技術公開をしちまったから元々あった機能なんて言えねぇし」
結果から言えば学園は再び騒動の種になりかねない荷物を背負わされた事になる。自ら行動する為の身体を持つIS、そのシステムが解明出来れば難航している無人機開発に大きく貢献する事は間違いない。
もし悪用されれば・・・、
「そんな事させるものか」
「よう千冬。お疲れさん」
いつの間にか後ろにやってきて、人の腹の内を理解していたかのように否定の宣言をする千冬。
「あの子が何であれ、子供を争いの道具として利用する奴らに渡すものか」
八九寺を中心に集まった生徒を見守る彼女。その姿は美しく、そして凛々しく、見る者すべてを魅了してやまないものだった。
「格好いいなぁ。一夏の姉じゃなけりゃ惚れていたかもな」
「今からでも遅くはないぞ?」
「冗談言うな。俺とアンタはそんな関係じゃねぇだろ、
「分かっているさ、
互いに認め合いながらも同時に相容れない二人は壮絶に、獰猛で、猟奇的な笑みを浮かべ牙を研ぐ。
「箒や八九寺を狙った奴ら、殺されるな間違いなく」
『あの小僧とお前様の姉上を敵にしようものなら虐殺もいいところじゃの』
・・・周囲に居た者に恐怖を与えながら。
はい、八九寺を復活させました!
今後、一夏や忍野、その他のキャラクターとのイベントが発生して箒の胃が荒れるかも知れない・・・。
ご意見、ご感想お待ちしております。