・・・って、ずいぶんと遅くなりました戦争中毒です。
本来なら長々と新年のご挨拶や、今年の抱負などを述べる方がいいのでしょうが、そう言った生真面目さがないので一言だけで済ませていただきます。
傷物語の続編が夏って前編忘れちゃうだろ!!?
・・・こほん、本編どうぞ。
001
八月。クソ暑いったらありゃしない。昔から、この国の夏は嫌いだ。
ビキニの上にホットパンツ、エアコンを入れていてもまだ暑い。これで何本目のアイスになるだろうか、と考えながらも次のアイスを咥える。
「あっつぅ・・・」
八月、IS学園は遅めの夏休みに入った。そのせいで、世界中からやってきた学園生は現在ほぼ帰省中でセシリアも同じく。
あたしも本当は国に帰って両親に会おうかと思ったんだけどーーー
「無理ね・・・」
でも、やめた。
両親は離婚してからたまにしか会えないが、その分昔以上にラブラブになって、娘であるわたしですら砂糖を吐きそうに桃色全開である。
こんな暑い時期にそんな空間に一緒にいたら間違いなく死んでしまう。
コンコン
「はぁ~い、誰~?」
『あの、私・・・』
聞こえてきたのは簪の声ね。
別にこのまんまでもいいかな。
「ああ、簪? いいよ入って」
「お願いがあるの」
「お願いって?」
「その、忍野くんの好みとか、趣味を教えて欲しい・・・」
なるほど。
確か簪とラウラで忍野を取り合っているんだったけ。もの好きと言うか、血迷ったと言うか、とにかくラウラと差を付けておきたいわけか。
「報酬は払う」
「報酬?」
「今月できたウォーターワールドのプレミアムチケット。勿論ペア」
「何でも訊いて頂戴!!」
昨日発売された雑誌のデートスポットランキング一位を飾った場所のチケット。
これをみすみす逃すてはない。
「と言ったいいけどもあんまり知らないのよね~」
そもそも忍野ってあんまり自分の事を話さないから分からないし。
「分かる範囲でいい・・・」
「そう? えっとアイツは読書と古書を集める趣味があるわね」
「読書は分かるけど古書って?」
「博物館に展示されてそうなほど古い、カビ臭そうな本よ。昔天日干ししてるの見たけどリアルで教科書に載ってそうなやつだったわ」
一夏の家に行った時にリビングで干してたからよく覚えてるわ。最初はゴミかと思ったほどだ。
「あと馬鹿ね」
「馬鹿?」
「そうよ。昔の話なんだけど忍野の奴、ガラケーを“これなに?”って訊いてきたのよ」
「タッチ画面の前の?」
「そうそう、それを真顔で訊いてきたから大爆笑したからよく覚えているわ。それ以外にも知識の偏りが多いの」
そう言えばアイツ、最近の物は知ってるけど古い物は知らないのよね。今じゃ当たり前の電気自動車は知っていてもそれより前のガソリン車は知らなかったし、どんな生活してたのかしら?
「なら、好きな食べ物とか?」
「ん~、甘い物じゃないかな?」
「意外・・・でもないね」
昔もそうだったけど、まともな食事をしている所を見た事がない。いっつも軽食か甘味しか口にしてない。
そのうち病気で死ぬかもしんないわね。
「それで、えっと・・・」
なんか次の質問に移ろうとしてるけど、顔を赤くしてモジモジしながら
何この可愛い生き物。
「その、お、忍野くんの、好みの異性はっ!?」
ストレートに訊いてきたわね。この子の雰囲気なら奥手だと思っていたけど、意外に積極的。
ああ、良いわねぇ。
好きになった相手が違うから両手を挙げて応援できるわ。中学時代、どれだけクラスメートから一夏の事を訊かれた事か。
恋敵に塩を送るような事はしたくなかったけど秘密にしてたら罪悪感も湧いて、けど自分は一夏の事を知っているって優越感もあって、黒歴史な事しちゃったのよねぇ。
・・・やめよ、考えるの。
「忍野の好み、好み? ええ~っとぉ・・・」
ん~、一夏もだけどアイツも好みのタイプが分かんない。確か忍野曰わく、一夏の“意識し易いタイプ”が年上って事は覚えてるけど、忍野に関しちゃ“し易い”どころか異性に興味があるかも分かんないわね。(一夏に関しては“し易い”じゃなくストライクゾーンを聞きたかった)
! 悪いこと思いついちゃった。
「簪、あのねッ!」
「な、何?」
「あのね、忍野はね」
「忍野は!?」
「ホモよ」
「・・・え?」
「だからホモよホモ! BL、ゲイ、薔薇!」
「そ、んな、事って・・・」
ニヒヒ、うまく引っ掛かったわね。
ちょっとしたイジワルだけここまで効果テキメンだと逆に凄いわね。あとはドッキリ大成功の看板があったらカンペキね。
「ってあれ?」
ちょっと、簪の様子が変よ!
なんか目のハイライトが消えてオーラらしきものが出ちゃってるんだけど!?
「生産性なしーーーラウラと一緒ーーー教育ーーー」ブツブツ
「じょ、冗談だから落ち着いて!!」
怖い怖い怖い!
所々聞き取れなかった部分は精神衛生上、知らない方がいいんでしょうけど絶対不穏なこと言ってる!
「・・・冗、談?」
「そう冗談! だから落ち着いて、ね?、ね!」
「嘘つかないで」
「ごめんって。でも忍野の好みに関しては何も分かんないのよ」
ふう~、ひと安心。
けどこの子、一歩間違えたらヤンデレになるんじゃないかしら?
それから情報交換(恋愛相談)をしている時、ふと報酬のことが気になった。
「それにしてもどうやって手に入れたのよ。前売り券が完売するほど人気なのにその上をいくプレミアムチケットなんてほぼ入手不可能じゃない」
「えっと、実家が投資してて、それで・・・」
・・・別に金持ち嫌いってわけじゃないけど何だか何とも言えない気分になっちゃった。
あの不吉な男の被害に遭わなければいいけど。
002
~箒サイド~
夏休みのIS学園図書室。
窓の外ではセミが暑苦しいほど鳴いているが、空調の効いたこの部屋では汗一つ流れない。
だが私は汗・・・と言うより脂汗を流していた。
「ぬ~、頭が痛い」
私は第三世代ISに関する知識が乏しい。
たしかに代表候補生ではあるが、専用機を持つなんて、ましてや第三世代の機体を持つなんて夢にも思っていなかったからテスト範囲しか勉強していなかった。
ところが姉からの誕生日祝いに『紅椿』を貰ってしまったためさあ大変、大慌てで知識を詰め込む。二学期までの約一ヵ月間に他の第三世代持ち達に追い付かなければ、と教科書に向かう。
向かうが・・・、
「ダメだ、全く進まない」
まるで頭に入ってこないし、入ってきても理解出来ていない。
そして、私の勉強を妨げる奴らがいる。
それは・・・
「
「パスなんじゃよ」
「あ、私出せるよ~。はい
「甘いですよのほほんさんっ、
「「「やっぱりか!」」」
机を挟んだ反対側で、呑気にトランプで大富豪に興じる四人、忍野に三組の片瀬真宵さん、のほほんさんに八九寺だ。
忍野やのほほんさんは分かる。いや分かりたくはないが、納得出来る、出来てしまう自分がいる。悪名高き片瀬真宵さんも噂通りだから分かる。
だが八九寺、お前は一応私の専用機なんだからちょっとは気を使ってくれてもいいんじゃないのかあ!?
「おい箒もやらないか?」
「忍野は私の邪魔をしたいのか!?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「確信犯か! 少しは困っている学友に教鞭をとろうとは思わないのか!?」
「いやだよ」
「少しは悩め!! 断るにしても一瞬で返事をするな!!」
断るまでの間がコンマ単位などあってたまるか!!
そう思いながら再び机に向かうと、忍野は私の開いている教科書を覗き込んできた。
「へぇ、“脳量子波の利用と応用法”か」
「分かるのか!?」
「あぁ一応な。専門じゃないから基礎程度だがな」
はっきり言って意外だった。
授業態度はお世辞にもいいとは言えず、期末テストでも赤点だけは回避したと言っていた彼が、まさか上級知識である脳量子波について知っているとは。
出任せじゃないだろうな?
「ISの第三世代特有のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵装に深く密接しているのが“脳量子波”だ。こいつの特殊な脳波を持つ者は空間認識能力・攻撃回避能力・反射能力に高い数値を示し、それに比例して高い戦闘を発揮するとさせるんだとさ。その数値の最終点に到着した奴は千里眼と言われる程の空間把握に予知能力に匹敵する回避を持てるらしい」
本当のようだ。
それにご丁寧にも説明まで始めた。
千里眼に予知能力、人間の限界を越えてる・・・って割と近くにいたな、
「脳量子波の運用だがセシリアのビットがいい例だ。あれは脳量子波による思考の送受信で直接制御している。だからこそイギリスのは使い難いんだけどねぇ」
「何故だ?」
「う~ん、悪い表現になっちまうけどシステムが簡単なのに複雑なんだ。解るかな? 簡単に言えば攻撃のスイッチ、右旋回のスイッチ、左旋回のスイッチ、加速のスイッチ、減速のスイッチってな感じでそれぞれ決まったスイッチがあるとするだろ? 操作はスイッチを押すだけで簡単だが数が多すぎて複雑。細かい制御をする分ならいいが大きく動かすには不向き、いらない所に思考を使ってしまうから多量の集中力を必要としてしまう。必然的に脳量子波の強い奴が必要になるって寸法さ」
「なるほど・・・」
確かに使い難い。そんなにスイッチがあったら私には使いこなせないな。
と言う事は・・・。
「ではお前や一夏はセシリアよりも脳量子波の数値が高いのか?」
二人はセシリアよりも多くのビット兵器を、自分が動きながら自由自在に操っていた。だとすると数値はセシリアを上回っているはずだ。
「さぁどうだろうね。持っている人物の探し方が確立してないから優劣がつけられない。それと、俺や一夏が多量のビットを操れるのは思考の無駄遣いを避けるために多少のAIによるサポートを受けているのさ。分かりやすく言えば、ラジコンコントローラーで動かしている感じかな?」
なるほど分かりやすい。
確かにそれなら他の事も出来るし、それ一つに集中する必要がないな。
「そう言えば脳量子波の発現に条件はあるのか?」
「あのねぇ、持ってる人間を見つける方法が定まってないのに発現条件が分かるわけないだろ? 人為的に発現させた“
「ちょっと待て! 超兵とはなんだ!?」
何やら聞き捨てならない単語が聞こえた。
“人為的”“超兵”“失敗作”、どれをとっても明らかに平和的ではない単語ばかりだ。なのに言った本人は少しも表情を変えていない。
「ん? ああ、あそっか、こりゃ完全な失言だったね。悪い忘れてくれ」
「忘れてくれって、ふざけーーー」
「ふざけないよ。それに教えている時間がない」
「それはどう言うーーー」
私が忍野を問い詰めるのを邪魔するかのように突如、轟音を響かせて開かれる図書室の扉。そこには明らかに憤怒の表情を浮かべた
八九寺を含め、周囲の全員が怯えきっている。
「見つけたぞ忍野ぉぉおッ!!」
「元気いいなぁ、何かいいことでもあったのか?」
「ふざけるな! 人の机をビックリ箱にしただろうが!!」
「あれ、そうだっけ? 覚えがないなぁ」
「とぼけるな! 机を開けたらロケットパンチが飛来してそのまま天井に突き刺さったぞ!!」
そんな危ない物を仕掛けるな!
そしてよく無事でしたね!
ん? 片瀬さんが青ざめている、と言うか冷や汗を流しているが大丈夫か? 確かに千冬さんは怖いが私達には被害があるわけじゃーーー、
「まさか忍野さん、私の作ったあれを・・・」ボソ
先生、共犯がここに居ますよ!!
「今日こそ、その頭をかち割ってやるッ!!」
「やれるもんならやってみなってね!」
言うや否や、忍野は窓から飛び降りて、千冬さんはどこから取り出したのかIS用ブレードを構えて同じく飛び降りて行った。
・・・ここ四階ですよ?
結局その日、私は忍野に超兵の事を訊くことが出来なかった。
そして次の日、校舎の壁に貼り付けになっている人物を見掛けたが夢だと思って無視した。
003
~ラウラサイド~
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。階級は少尉。現在はISの試験操縦士」
薄暗い部屋。不快な湿度と空調とは関係のない冷気が、ここが地下であることを物語っている。
私の記憶の中でも特別暗い部分。軍隊の訓練、その中でも一二を争う負の訓練『尋問に対する耐性訓練』
その訓練場所でもあり、数年前まで実際に尋問・・・いや、拷問にも使われていた場所。
水滴の音。時折落ちてくるそれが、無性に苛立ちを駆り立てる。
「気分はいかがかな? ふふ、顔色が良くないね」
このおぞましき部屋の主であろう女は、しかし顔が見えない。こちらからは逆光になる位置で立ち、腰の後ろで手をくんでいる。
「さて、三日間の不眠と断食はいかがだったかな、ラウラくん。ん?」
答えるのも嫌だ。体力を使う。
「これはねえ、典型的な尋問なんだよ。大昔から使われている手段だ。時間の概念が停止した部屋で眠らせず、食べさせず、そして延々と水滴の音だけを聞かせる」
カツカツと、硬質のかかとを鳴らして女が歩く。ヒールだと? こいつ軍人なのか?
「かけさせてもらうよ?」
勝手にしろ、と心の中で呟いて現状把握に勤める。
まず自分。体力、気力を消耗している。緩く拘束されているのか、腕や脚の動きが鈍い。だが指の自由はある。
そして目の前の女。口調や声質からいつもの訓練官ではない事はわかる。軍服を着ていないから軍人どうか怪しい。
(そうだな、まずはーーー)
「まずは、拘束を抜け出して機会を窺うーーーというのは、難しいだろうからおすすめしないな」
(!? な、なぜーーー)
「なぜ考えていることがわかった、かい? それはねぇ」
逆光の中で辛うじて見える口元。
美人と思われる彼女の唇が、ゆっくりと言葉を刻む。
「 」
読唇術を習得している私にとって、たとえ無音であっても言葉は理解できる。
しかし、なぜか今回ばかりは言葉を言語化することができなかった。
(ああ・・・、なるほどな)
だが、ひどく納得がいってしまう。
それならば仕方がないかと、思ってしまう“何か”があった。
「さて、それじゃあ尋問を始めようかな。ラウラくん、愛国心はあるかな?」
「ああ」
「ふふ、簡単に嘘をつくんだね、君は。愛国心なんて、かけらも持ち合わせてはいないだろう」
「そんなことはない」
まあそれはいいんだよ、とどうでもよさげに言ってから、女はなにやら手帳を取り出して開く。
・・・どうでもいいなら訊くな。
「さて、仲間はどこにいる? 規模は? 装備のレベル、それにバックアップは?」
「言うはずがないだろう」
「そうだね。では、こういうのはどうかな」
にやり、女の口元が笑みに歪む。
気に入らない表情だが気にしてはいけない。今はどうやって目の前の相手を制圧するべきか・・・。
「好きな人はできた?」
・・・・・・・・・。
「なに?」
「名前は忍野じーーー」
「なっ!? ば、馬鹿! 言うっ、言うなぁっ!」
「あははっ! 顔を真っ赤にしちゃって、可愛いねえ」
「こ、こっ、殺す! 殺してやるっ!」
疲労も脱力も吹き飛ばして、私は女の喉笛に噛みつくために飛びかかった。
そしてーーー
「あ、あのー・・・ラウラ?」
「う・・・?」
ラウラの目に映ったのは、自分に押し倒されているルームメイトのシャルロットだった。
場所はIS学園一年生寮の自室。
「えーと、あのね? ラウラがうなされていたから声をかけようかなーと思ってたんだけどね」
「
ラウラは寝汗をびっしょりとかいており、彼女を包んでいる物は洗濯しないと駄目なほど湿っていた。
「・・・で、いつまで僕の袖を咥えてるのかな?」
「・・・すまない」
噛み付いていた袖から口を離し、そのままシャルロットの上から転がり落ちる。
何故ラウラが“噛み”ついて、“転がり落ちた”のか?
ラウラは今現在、布団で簀巻きにされているからだ。随分と犯罪的な単語だが、別に拉致されていたとかそう言う訳ではない。
理由は『買い物と迷子“日曜日の朝”』を参照。
「ん、別にいいよ。気にしてないから」
「そうか。助かる」
そう言ってラウラはもぞもぞと、何とか起き上がろうとするが床を転がるだけで徒労に終わる。
これを見ていたシャルロットはある計画を実行に移すことにした。
「ところでさあ、ラウラ?」
「なんだ?」
「今度、一緒に買い物に行こ。それでパジャマを買おうよ」
「必要ない。余計な
芋虫状態で何を言ってるのやら。
すると、シャルロットとは今までの可憐な笑顔とは打って変わって、意地悪げな悪どい笑みを浮かべ始めた。
「ふう~ん、ラウラはそんな事を言うんだあ」
「な、なんだ?」
「ラウラは今、と言うかいつも誰の布団にくるまれて寝ているのかな?」
「何を今更、
「そうだよねえ。いつも忍野くんの布団に“簀巻き”にされているよねえ」
「それがどうしたと言うのだ?」
「その布団、ラウラは自分で
「無理だからいつもシャルロットにーーーッ!?」
ここまで余裕な態度を示していたラウラの表情が凍る。シャルロットが交渉の材料に用意したものがたった今、理解出来てしまったからだ。
「ま、まさか・・・」
「うん♪ 一緒に買い物に行ってくれないと、
ラウラに選択の余地は無かった。
004
~セシリアサイド~
「やはりこの白のレースの方が・・・」ブツブツ
夏休みを利用してイギリスの自宅へと帰省したわたくし。
オルコット家での溜まった職務、国家代表候補生としての報告、専用機のオーバーホール。それ以外にもバイオリンのコンサート参加、オペラ鑑賞、旧友との親交と、慌ただしいながらも充実した休暇を過ごしています。
そんな中、わたくしは自室のパソコンでとある通販サイトで品定めをしております。
「ふふふっ、あとはこれで・・・」
二時間も再考を繰り返し、選び抜いた至極の品の会計を済ませる。
はあ~、この
『お嬢様』
ーーーっ!?
扉の方から聞こえてきた声に、私は慌てて別のサイトを開いてパソコン画面をカモフラージュする。
「ど、どうぞ」
「失礼したします。紅茶をお持ちしました」
部屋に入って来たのは幼なじみであり専属メイドのチェルシー。
18歳とは思えない落ち着いた雰囲気を身に纏っていて、幼なじみと言うよりはお姉さんのような人。
そんな人に先ほど購入した品の事を気取られてはならない。わたくしは多少乱れはしたものの、平静を装った。
「落ち着かないご様子ですが、どうかなさいましたか?」
・・・ダメでした。
あっさりと平常心じゃない事を看破されてしましました。
「い、いえ。そ、それにしても、困った事になりましたわね」
偶然開いていたサイトはイギリスのニュースサイト。そこに記されていた見出しは“弾薬コンテナは発見されず”。
数日前、軍の補給物資を輸送していた輸送艦が転覆、沈没は免れたものの弾薬などの爆発物を収めたコンテナが海に転落したと言う事件。中身の危険性から辺りは封鎖され、必死の回収作業が行われている、と言うもの。
しかしこれは表向き。
コンテナの中身は研究所から搬送中だったイギリス最新作の第三世代型IS『サイレント・ゼフィウス』。
わたくしのブルー・ティアーズの基礎データと稼動データを元に作られた二号機。
完全な上位互換機で一夏さんの物とは別方式のシールドビットを装備されており、開発主任曰わく“操縦士の実力が同レベルでの対決なら、一号機ではいいところ相討ち”と言わしめるほど。
(ISコアを未搭載時に起こったのが不幸中の幸いですわね)
イギリスIS管理局でコアを受領するための輸送中に起きた事故。
研究所のコア=機体のコアではなく、開発用に使用するコアと配備する機体に使用するコアを別々にしていたため、事故当時のサイレント・ゼフィウスは空っぽ、つまりコアがない状態。もし何者かの手に渡ってもすぐに悪用されることは回避されました。
(単なる事故であるならそれでよし、しかし何者かによる強奪事件だとしたら・・・)
「失礼ながらお嬢様、眉間に皺がよっております」
「あら?」
平静になるために振った話だったはずが、思いのほか感情移入してしまったようですわね。
まあどうしても、自分の愛機以上の性能がある機体の行方が分からないと言うのは快く有りませんわね。せめて演習でもよいので一度手合わせをしたいものでしたわね。
「難しくお考えになるのはお止め下さい。お嬢様は学生、学業を優先して下さいませ」
「そうですわね。まだ一学期が終わった所ですし、まだまだこれからですわね」
「くすっ、新学期が楽しみですわね。それはそうとお嬢様。先日お電話いただいたお料理の件ですがーーー
「それなら問題ありませんわ。一夏さんはわたくしのケーキを美味しいそうに食してくださいましたわ」
ーーー失礼、今なんと?」
なぜ驚愕と恐怖が入り混じったような表情をなさいますの?
「ですから、一夏さんはわたくしが作ったケーキを一人で完食してくださいましたの。よっぽど美味しかったのか他の方の分にまでフォークを伸ばされて、一夏さんだけに食べていただくことが出来ましたわ!」
ガシャンッ!!
今度は持っていたお盆を落としてよろけますわ。本当に一体どうしたのでしょうか?
「お嬢様、申し訳ありませんが今から同じケーキを作っていただけませんでしょうか」
「何故ですの?」
「失礼ながら申し上げますが、お嬢様の料理は独創性に優れており万人受けする物ではありません。ですからわたくしめが確認をさせて頂きたくーーー
「何を言いますの!? 一夏さんは何度も美味しいとわたくしの手料理を食べて下さっていますのよ!? それを今更、確認する必要はありませんわ!!」
想い人の評価に酔いしれていたわたくしは、そこまで言ってから後悔をしました。
今まで優しげな笑みを浮かべて頭を下げ、丁寧な言葉使いをしていたチェルシーがゆっくりと頭を上げ、マフィア顔負けのメンチを切って、
「いいから作れって言ってんだよこの汚染物質製造機が!」
・・・完全に忘れていました。
チェルシーは学生時代、マフィアが道を譲り警察が逃げ出すほど恐れられて街最恐の“不良娘”だった事を・・・。
イヤーーーーー!!
チェルシーの不良化ですが、
主を守るにはどうする?
⇨力(物理)を手に入れる。
そのためにはどうすればいい?
⇨とりあえずその辺の不良をぶっ潰す。
それより強い相手が来たら?
⇨とりあえずぶっ潰す。
と、まぁこんな忠誠心の暴走で最終的に不良の頂点になってしまったという感じにしました。
よく考えたら専用機持ちのお嬢様の専属メイドが、家事をこなすだけのメイドで収まる訳がない!
ご意見、ご感想お待ちしております。