暴物語   作:戦争中毒

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らんスネイク 其ノ貮

008

 

「蛇か・・・」

 

爬虫鋼有鱗目蛇亜目(はちゅうこうゆうりんもくへびあもく)の爬虫類の総称。

円筒形の細長い身体と、その身体を覆う鱗が特徴。

 

そして、毒を持つ種が多い生物。

 

「毒蛇にでも噛まれたって言いたいわけ?」

「いや。貝木が蛇って言っただけで蘭はそんなものは見てないんだと。それらしい傷もなかったし」

「じゃあなんだって言うのよ!?」

「それが分からないからお前に恨み言を言ってから話そうと一夏に連絡したんだよ。俺、忍野さんの連絡先知らない」

「何でそこで忍野が出てくるのよ? しかも“さん”付けで」

「・・・あの人、幽霊とかそういうオカルトに詳しいから、見えない蛇なんてモロにオカルトじゃん?」

「まあ、そうだな。とりあえず電話してみるか」

 

そう思い、普段はあまり使わない番号へと繋ぐ。

しかしいつまで経ってもコールが終わらず、最後にはお留守番サービスへと繋がってしまった。

千冬姉、もしかして()っちゃった?

 

「仕方がない。勝手に調べるか」

「調べるって、心当たりがあるの?」

 

「・・・忍野の部屋」

 

009

 

「いったい何をするのよ。貝木をとっちめればいいじゃない!」

「その貝木って野郎がどこに居るのか分かれば苦労しないだろ!」

「喧嘩するなよ!? 何にしてもまずはその“見えない蛇”の解決だろ!?」

 

何度も言い争いをする鈴と弾を叱りつけること数十回、俺の喉が枯れかかった所で自宅に到着。

数時間前に掃除したばかりの家に上がり、忍野の部屋のドアノブに手を掛ける。

 

「よ、よし開けるぞ?」

「「いや、何で緊張してんの?」」

 

緊張もするだろ。

もし開けて、千冬姉みたいに腐海(ゴミだらけ)にしてたら怖いじゃん!? そうなってたら蛇退治どころか最悪の場合、(ゴキ○リ)退治の幕開けだぞ!?

でもそれならまだいい。最もヤバいのは開けた瞬間、トラップが発動してドッカァーンッだ。それだけは無いとは思いたいが、確信をもって無いとは言いきれない。

 

千冬姉の部屋に勝手に入る(過去にそれをやってボコられた熊のぬいぐるみと酷似した姿にされた)の以上に緊張しながらゆっくりと扉を開ける。

・・・トラップはないようだ。

 

何も仕掛けがなかったことにひと安心してから部屋の中を見て、不気味だと、端的に一言だけ思い浮かんだ。

 

部屋には埃除けのカバーに入れられた布団が一組、そして小さなテーブル。この2つだけなら“不”気味ではなく“無”気味なのだろうが、それ以外の物が異常なのだ。

部屋に張られた糸にはまるで洗濯物を干すかのように何枚もの御札が干されおり、風がないはずなのに微かに揺れている。テーブル付近の床にはいつの時代の物かわからない長方形の木箱が転がっていて、それと一緒に白い粘土の人形も落ちている。

そして俺が目当ての本棚も、やっぱり不気味だ。

棚自体は今時の物だが納められている本が、背表紙がない物や木で出来てる物、果てや巻物までが突っ込んであり、納まりきらない分は床に積まれている。それも無造作に。

 

・・・正直な話、調べようとは思ったがいざ現物を前にするとバカげた事を考えていたと思ってしまう。怪異と関わった今、これらの物がどんな意味合いを持つのか分かってしまうので触るのが恐ろしい。

これらの物が呪われているとは言わないが、何だかこう、言いようのない恐怖がある。

端的に言うなら未知に対する恐怖だ。

 

しかしそんな事を言ってる場合じゃないので勇気を振り絞り、手近にあった一冊を開く。

 

「ここにある“蛇”に関する本をとにかく探すんだ」

「ウゲッ、全部古文かよ」

 

手近にあった一冊を手にとり、ペラペラっと中身を見た弾は、まるで大学の教本を見たかのように嫌そうな顔をする。

無理もない。古文は授業で習ったからと言って読めるようになる代物ではない。そもそも“字”が読み取れないものが多く、内容を知る以前の問題だ。

結局、携帯アプリの古文解読ソフトを使ってタイトルを一つ一つ、虱潰(しらみつぶ)しで読み解くしかなかった。

携帯電話さまさまだよ。

 

万物百科(ばんぶつひゃっか)? 絶対違うな」

「ええっと、図彙百鬼夜行(ずいひゃっきやこう)ってこれマジもん!?」

「こっちには解体新書(かいたいしんしょ)があったわよ」

「いや、蛇の文献を探せよ」

 

「これ何て書いてあるんだ?」

「漢字も読めないの、って英語?」

「ロシア語だな。とりあえず後回し」

 

「これは? 法華経(ほけきょう)

「お経を持ってきてどうすんだ」

「見ろよ、機功図彙(からくりずい)だぜ」

「からくりなんて探してないよ」

「これは・・・、六道阿頼耶呪書(りくどうあらやじゅっしょ)?」

「呪って書いてあるよな? あきらかに危ないやつだよな!?」

「何々? 淀鯉出世滝徳(よどこいしゅつせのたきのぼり)?」

「それは人形劇の演目!」

 

~30分後~

 

「蛇はあったか~?」

「ねえよ、ぶっ飛ばすぞ」

「そんな元気ないくせに」

 

死屍累々。

みんな疲れ果て、諦めモードになっていた。だっていくら探してもそれらしい物がないんだから。

 

「えっと次は、っわッ!」

「何してくれてんのよ!?」

「ああ、めちゃくちゃだ」

 

新たな書籍を取ろうとした弾が、せっかく調べ終わった書物の山を崩してしまった。

なんてこった。どこまで見たから分からなくなっちまった。

 

と、思ったら散らばってページが開いている一冊に蛇らしき物の絵が描かれている。とりあえず手に取り表紙をみると、

 

東方乱図鑑(とうほうみだれずかん)

 

となっていて、開かれていた所から数ページ捲ると“蛇”の文字が書かれているページがいくつもあった。

 

「ビンゴだぜ!」

「見つかったの!?」

 

ようやく見つけた蛇の文献。

そこから“見えない蛇”と“高熱”という条件にヒットするページを探して数分、目的の怪異のページへとたどり着いた。

 

柄蛇(ひじゃく)

 

解説の内容としてはこうだ。

 

安土・桃山時代の怪異。

度重なる戦乱で夫や息子を亡くした女達の怨念が怪異化したもの。刀や槍の(つか)などの円筒形の物が見えない蛇となって持ち主を襲い、噛まれた者は高熱にうなされ続ける。

そして最後には、死に至る。

 

 

「そんな・・・」

「ざけんなよッ!」

「最悪だな」

 

説明を読んで最初に思ったのは、蘭のことよりも、怪異の存在。これまでの俺が経験してきた怪異(って言っても片手で足りる程度だけど)とは全く違っていた。

 

鬼は、自らの意志で人を襲う。

狐は、自他全てを()かす。

猿は、近づく人から掠め取る。

蝸牛は、人が近寄ることで迷わす。

行灯は、領域(テリトリー)に入った人を隠す。

 

だけど今回の蛇はどうだ?

本来、蛇は臆病な生き物で狩り以外では他の生物を襲わない、と、何かの本で読んだことがある。

その事と“怨念”という点で考えられるのは、この怪異が、人為的な悪意によって遣わされる呪術的な類だという事だ。

これまでの経験がまるで役にたたない。

 

こんな事を言ってたら、忍野に呆れられるんだろうけど・・・。

 

「ねえ一夏! 蘭を助ける方法はないの!?」

「そ、そうだぜ! 何か手はないのか!?」

「そう()かされても、って!? あったぞ!」

「「本当!?」」

「解毒じゃなくて症状の悪化を抑える方法だが書いてあるぜ。えっと、毒された者の髪を使った藁人形(わらにんぎょう)を土に埋める。って藁人形!?」

 

マジかよ、って思ったが説明が書いてあった。

昔からある民間伝承で、蟲や植物の毒に侵された時は身体を土に埋め、その毒を大地に流して浄化するという治療法があるそうだ。

怪異の毒に対しては毒された本人ではなく身代わりとして人形を埋めることで同じ効果を得られるそうだ。

 

医療技術の進歩した現代では迷信のされる解毒法だが、迷信の中から産まれる怪異の毒には効くようだ。

 

「思いっきり呪いのアイテムじゃない!!」

「藁人形だな? すぐに作ってくるぜ!」

「「行動はやッ!?」」

 

いつもの弾にしてはまず有り得ない速さで部屋を出て行った。妹である蘭のことが心配なのはよく分かる。

分かるが・・・。

 

「ここに藁も作り方の冊子もあるんだけど」

「そもそもこの辺りで藁って穫れた?」

 

もう少し周りを見ようぜ。

 

 

010

 

 

結果から言えば、柄蛇の毒を完全に取り除くことは出来なかった。

上がり続ける高熱は下がりこそはしたけど未だ高いままで完治とはほど遠い状態だ。それでも40度越えの熱が38度台に落ち着いたことで、待ち受けていたであろう最悪の結末は、辛うじて回避できた。

 

このまま貝木の捜査にのりだそうと鈴はごねたが、辺りはすっかり暗くなっている上に、手掛かりがないので今すぐに動いても無駄骨になるという結論になり、弾は家に一旦帰っていった。

 

鈴は学園に戻ろうとしたけど既に終電になっていたので、“ウチに泊まるか?”と訊いたら凄くキョドった後にビジネスホテルに泊まると逃げていった。なんでだろうか?

 

そして俺は一人で自宅に戻り、荒らしてしまった忍野の部屋の片付けをすることにした。

その途中であることを忍に質問する。

 

「忍、あの柄蛇って怪異の毒。お前に喰えるか?」

『残念ながら。あの高熱はただの結果じゃからのう、蛇そのものは美味しく食えても、蛇に噛まれた結果なぞ食えんよ』

「やっぱりな」

 

熱がひいただけで解毒が完全でない以上、いつぶり返すか分からないので出来れば忍に毒を食ってほしかった。しかし影からの返答はある程度予想していたもので、完治させるのは無理そうだ。

だが毒の件が片づくと、最初から気になってはいた案件が浮上してくる。

 

「でも貝木って奴は何者なんだろう? ただの詐欺師が、怪異を(つかさど)るなんてどう考えてもマトモじゃないし」

『かかっ。マトモじゃないのは確かじゃな。マトモではない、つまり人を外れた半人前、これはまっこと愉快じゃ』

「愉快でも誘拐でもないだろうに。あれ?」

 

忍のくだらない言葉あそびに相づちをうっていると、持っていた古書の一冊から一枚の紙がすべり落ちた。

どうやらしおりのように挟まれていたようで、拾って裏返してみると、それは古ぼけた写真であった。

 

そこには忍野が軽薄な笑い方をして立っており、その他にも人が映っている。

まずは一方的に忍野と肩を組んでいるように見える金髪にグラサン、無精ひげを生やしたアロハ姿のチャラそうなオッサン。

そして濃藍(こいあい)の長い髪を束ねた、少したれ目ぎみのメイド服の女性。

三人に囲まれている薄い茶髪に赤みの強いつり目の、勝ち気そうな笑顔を向けて忍野と手を繋ぐ女の子。

 

民家を背景に女の子を中心にして撮影した記念写真、と思われるその一枚。

何か引っかかりを覚えたがその正体が分からず、俺は写真を本のページに戻した。

 

この写真が、今後なにを意味するのかも知らずに。

 

 

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