暴物語   作:戦争中毒

70 / 80
らんスネイク 其ノ参

011

 

「貝木に会いに行くわ」

 

翌日、蘭の見舞いに行った後。

織斑家での昼食中、鈴がとんでもない爆弾発言を放り込んできた。弾なんか驚きのあまり鼻からカップラーメンの麺がはみ出してちゃってるよ。

 

「見つかったのか!?」

「ええ。今日の夕方に町外れの公園で会う約束を取り付けたの。それより鼻、何とかしなさい」

「・・・ッ!」ズズズ

 

弾は速効で食い終わると鈴に向き直る。

 

「俺も連れてけ!」

「正気なの? 相手は呪いなんてオカルトを遣う詐欺師よ」

「妹が被害に遭ったんだぞ。兄貴として落とし前つけなきゃならないんだ!」

 

怪異を知らない二人からすれば、貝木はまさに化物にでも見えているのだろう。

けれどあいつは人間だ。だからこそ危険だ。

 

「貝木と話をつけるなら、俺も一緒に行く」

「駄目よ」

 

案の定、鈴は俺が行こうとするのを拒否する。

だけど退くわけにはいかない。

 

「あいつには一度会って確かめないとならないことがある。それにお前も、蘭も被害に遭ってる。知らないふりなんて出来ない」

「言ったでしょ。貝木には関わってほしくないって」

「もう関わってる。それにお前、貝木を殺さずにいれるのか?」

「・・・さあ、どうかしら?」

 

無理だ。

鈴は俺が貝木に会った事を知った時、過剰なまでの対応策として監禁することを考えた。もともと気の早い彼女が、恨みの対象である貝木と対峙して冷静でいられるとはとても思えない。

武力(IS)がある以上、余計にだ。

 

「俺はお前に犯罪を犯してほしくないんだ」

「罪を犯すつもりはないわよ。罰を与えるだけ」

「現代社会においてそれは同じことだ」

 

忍野や忍の時代ならそれは英雄的に語られる行動だろうけど、現代では許されない。それだけは避けなければならない。

 

「鈴。友達が、仮に俺が人を殺そうとしていたら黙って見過ごすか? 俺はそんな事は絶対にしたくない」

「・・・・・・」

 

客観的に自分の状況を言われて理由はできるが、納得はしたくないといった様子だ。けれども彼女は誰かのために怒れる心優しい女の子。

正義感があるのであれば、俺の言い分を無視できない。

 

「ああ~、鈴? 俺は一夏の同行に賛成だ。ISなんか使われたら止めようがない」

「賛成2の反対1だ。どうする?」

 

弾の援護のおかげか、鈴は表情を二転三転してから呆れたようにため息をはいた。

 

「はあ、分かったわよ。三人で互いに守りながら行きましょ」

 

・・・貝木に会うのってそんな魔王ダンジョンに挑むような感じなのか?

 

 

 

012

 

貝木との面会場所は、高台にある公園。

蘭が返り討ちにあったので密室や人気(ひとけ)のない所は危険、だからと言ってどこかの茶店で話せるような案件でもない。なので人気がある程度ありながら会話が聴かれるほど近くには居ない所のチョイスしたらしい。

 

そして俺達が到着すると、昨日と同じように辛気くさい喪服のようなスーツ姿の貝木が居た。

 

「織斑は昨日ぶりだな。そこのお前は初見だがその髪の色。なるほど、妹の意趣返しか。今時随分と珍しい、男気のある子供だ」

 

重い口調で弾に向けて言い、凰のほうを見て、

 

「久しぶりだな、凰。随分と大きく、いやあまり成長はしていないようだ」

 

そう言い放った。

うわ、忍野と同じ煽り方だよ。

 

「アンタには二度とどころか一度たりとも会いたくなかったわ。でも今だけはこう言ってあげるわ。

会いたかったわよ、貝木さん」

「俺は会いたくなかった。しかし周到に、獰猛かつ沈着に、罠のように網を張って俺の行動範囲を狭め、避けようのないこの面会をセッティングした。まともな人間にできる事ではないな」

「まともじゃない奴に協力してもらったのよ」

 

おそらく、と言うか十中八九、忍野だな。

あいつの事だからこの町に何らかの網を張っていてもおかしくない。どんな奴を探しだせる。

 

「協力か。しかしあの娘は他人任せにして失敗していたな。凰、お前だろ。あの娘を断崖絶壁へと突き落としたのは」

 

一歩踏み出し、鈴が貝木との距離を詰める。

臨戦態勢に入るつもりか、いや、この場合はとっくに臨戦態勢に入っていた鈴が思いとどまったのが正しい。今すぐに貝木をぶちのめしたい激情を、一歩踏み出すことで妥協し、抑えたのだ。

 

「よせ、話し合おう」

 

貝木は、そんな鈴を制す。

 

「俺は話を聞く、そのために来た。お前達も話をしに来たのだろう。違うか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

ここで俺達は貝木に対し、罵詈雑言と要求をぶつけた。

最初は要求9:罵倒1の割合で話が進んでいたがいつの間にか3:7、5:5になっていき、最後には1:9になってしまってまるで話が前進しない。せめて要求を言い終わってから罵倒してくれよ、お二人さん。

 

「よろしい、わかった。もう中学生を誑かすのはやめよう。これ以上のおまじないを広げることはもうしない。あの元気のいいお嬢さん、あの娘の事なら心配することはない織斑。あれは瞬間催眠というやつだな。崩れている体調も、三日もすれば治る。それから凰。お前の両親の店のことについては、正式に謝罪しよう。巻き上げた金銭に関しても、出来るかぎりの返却に勤めよう」

 

肩透かしだった。

貝木の口から出てきたのはあっさりしていて、しかし俺達が最も望んでいた、得られるとは思っていなかった回答。

 

「・・・随分と潔いわね」

 

鈴は歯軋りするように唇を歪め、あきらかにイラついているのが分かる。確かに蘭が被害に遭った時の状況を考えるとあまりにも潔過(いさぎよす)ぎる。

 

「そんな言葉を、信じられると思う? アタシにはあんたが反省しているようには見えないとても見えないわ!」

「そうか。そう言えば謝罪の言葉をまだ口にしていなかったな。それに命乞いの言葉もだ。悪かったな、実にすまない、お前達。とても反省している、悔いるばかりだ」

「そんな感情のない薄っぺらい謝罪の言葉を、信じろって言うの。あんたの言うことなんて、全部嘘じゃない。今すぐにでも八つ裂きにしたいのを我慢してるんだからイライラさせないでよ」

「そのようだな。そしてそのあたりは成長したようだな。昔のお前なら飢えた獣のように、絶対に我慢などしなかった」

「今更お金を返して欲しいとは思わない。アタシの家は、両親がこの町で築き上げたものは、そんなことでは戻らない」

「そうか。それは助かる。俺は金遣いが荒くてな、蓄えなどほとんどない。お前に金を返すため、新たな詐欺を働かなくてはならないところだった」

「・・・この(まち)から出てって。すぐに」

「わかった」

 

やはり、あっさりと要求を呑む貝木。

気持ち悪いほど従順だ。

 

「どうした織斑? なぜ俺をそんな目で見る。お前は俺に友人を傷められている、もっと怨みに満ちた視線をこそ俺に向けるべきではないのか?」

 

貝木は、多少なりと興味をもったかのように俺に訊いてくる。そして、俺の思っていた事を代弁するように弾が答えた。

 

「あれは蘭の自業自得だと思ってる。あんたみたいな人間に関わるのが、そもそもいけない」

「それは違う。あの娘のミスは、ひとりで俺に逢いに来たことだ。俺を吊し上げたかったのなら、今お前達がそうしているように複数名で来るべきだった。

それ以外の点において、あの娘は概ね正しい。それとも五反田。お前はあの娘を愚かだと断定し、あの娘を愚かだと否定するのか」

「正しいとは思う。けど、」

「強くはない、と。確かに強くはない。だがあの娘の優しさは否定すべきではなかろう。それにーーー」

 

ここで初めて。不吉に、さながらカラスのように、貝木が笑ったように見えた。

 

「それにああいう娘が居ないと、詐欺師としては、商売上がったりだ」

「・・・その詐欺師が、どうして俺達みたいなガキの言いなりになっているんだ。口八丁で言いくるめればいいんじゃないのか?」

「織斑、お前は誤解しているな。いや誤解ではなく、むしろ過大評価と言うべきか。お前達が相対するこの俺は、ただの冴えない中年だよ。詐欺師としても至極小物の侘びしい人間だ。それともお前には俺が化物にでも見えたか?」

「まさか。あんたはただの人だ」

「そう、その通り。俺はただの人だ。そして大した人間ではない、そしてお前も大した人間ではない。俺は劇的ではなく、お前も劇的ではない」

 

劇的ではない。

貝木は諭すように、そう繰り返した。

 

「織斑よ、お前はどうなのかな。俺はお前に質問してみたい。お前の人生は劇的か? 悲劇的か? 喜劇的か? 歌劇的か? お前の影からはどうも、嫌な気配を感じるのだが。そしてその腕時計にも、なぜか嫌悪感を感じてならない」

 

・・・何だろ。最後のだけは前世的なメタ発言のような気がする。ロックオン何とかって名乗っていそうな。

それよりも問題なのは、この男はやっぱり・・・。

 

「あんたは・・・一体、どっちなんだ?」

「? どっち、とは」

「偽物だっていうわりに、蘭をあんな目に遭わせてる。お前は怪異を、()()()()()()()?」

「ふん。これは思いのほかくだらん質問が来たな。興が削がれるな。織斑、たとえばお前は、幽霊を信じるか」

 

貝木は呆れているかのようで、乗り気ではないといった様子で、どうでもよさそうに語る。

 

「幽霊を信じはしないが幽霊を怖がるという人間の心理はわかるだろう。俺も似たようなものだ。オカルトを信じるつもりはないが、しかしオカルトは金になる」

「・・・・・・」

「だからお前の質問にはこう答えよう。怪異など俺は知らない。しかし、怪異を知る者を知っている。それだけの事だ。正確には、怪異を知ると思い込んでいる者を知っているだけのだがな」

 

貝木はまたもや笑った。

見間違いであれば良かったかもと思う、烏のような笑みを俺達に向ける。

 

「柄蛇」

 

そして突然に、知らないとする怪異の名を言った。

 

「柄蛇のことを、お前は知っているか」

「・・・戦国時代たが何だかの怪異だろ。刀や槍が持ち主に襲いかかる、死の呪い」

「正解だ。ただし間違っている。江戸時代に(あらわ)された文献『東方乱図鑑』の六段に記載されている怪異(たん)だ。しかし根本的な話、そんな呪いが桃山時代に流行っていたという事実はない」

「え?」

「そんな呪いがあったのなら、複数の怪異書に記載されてしかるべきだろう。だが柄蛇は『東方乱図鑑』以外には載っていない。つまり『武器が持ち主を殺す呪い』は最初から存在していなかったのだ」

「・・・ってことはつまり、」

「そう。偽史(ぎし)という奴だ。その作者の書いたでたらめを、愚かにも後の世の人間が信じてしまったのだよ」

 

なるほど。

原因も、結果も、経過も存在しない。

全てが嘘の、偽物の怪異。

 

「・・・妹のこと」

「ん?」

「だからその・・・柄蛇ってのに噛まれた俺の妹のことだ。何もしなくとま治るっていうのは本当か?」

「当然だ、柄蛇など存在しない。怪異など存在しない、ならばその被害も存在してはならない。お前達があると思うから、そこにある気がしているだけだ。はっきり言おう。お前達の思い込みに俺をつき合わせるな、迷惑だ」

 

弾の質問にぬけぬけと返答する貝木。

 

こいつは偽物だ。

本人が言う通り、劣等感と一生向き合うことを決めている、誇り高き偽物だ。

 

 

「・・・携帯電話」

 

鈴は手を出して、それが当然であるかのように言う。

 

「携帯電話をよこしなさい」

「ふむ」

 

言われるがままに、スーツから取り出した黒い携帯電話を鈴の手の上に置く貝木。

鈴はそれを、部分展開した甲龍の握力で握りつぶし、破壊してしまった。そして見せつけるかのように、床に捨てた残骸を踏みにじる。

・・・部分展開ってアウトだろ。

 

「酷いことをする。これでは中学生の子ども達に対するケアも出来ないな、顧客の連絡先が分からなくなってしまったのだから」

「被害者のケアなんて、アンタはそんなこと出来ないでしょ。やったとしても、もっとえげつなく騙すだけ」

「騙すだろうな。俺は詐欺師だ、償いだって嘘でする。お前らは理解したくないだろうがな、俺にとって金儲けとは損得ではないのだ」

「損得じゃないなら真っ当に生きてみなさいよ」

「ならば金を払え。五千万から考慮くらいはしてやる」

「死ね」

 

鈴は毒づいて、貝木に対して背を向けた。

もう話は終わったから顔も見たくないといった様子。現に此方の望んだ回答は得られたわけだし、蘭の身の安全も保証されたわけだからいつまでもこの男に関わる必要はない。

目を背けるのは、早く消えろと言う意思表示だった。

弾もこれ以上、この男と話をするのは危険だと感じているのだろうか。鈴が貝木を見逃すのを黙っている。

 

「この県からは黙って消えよう。二度と立ち入らない。明日には俺はもういない。それでいいだろう、凰」

「いいから早く消えなさい」

「では、さらばだ」

 

貝木は鈴の意図を理解していながら、念のためとばかりに確認をし、何の感情のこもっていない言葉を叩きつけるように言って、立ち去った。

 

 

013

 

後日談、と言うか今回のオチ。

 

一週間後。

弾の部屋に集まった俺達三人は、ゲームに興じながら今回の最終報告のようなものを行った。

 

蘭の体調不良は二日とせずに回復、一週間も経った今では全快以上に元気だそうだ。

鈴の話では確かに貝木はこの町を去ったらしい。やっぱり手を貸したのは忍野だった。

そしてあまり関係ない事だが、何故か俺と鈴が“大人の階段を登った”的な噂がIS学園に広まり、箒とシャルが妙に攻撃的になった。セシリアからは真夜中に質問責めの電話がかかってきた、イギリスとの時差を忘れていたようだ。

 

けど中学生の間で流行った“おまじない”だけはどうにもならなかった。

噂を流して操作していた者が居なくなって鎮静化に向かうか、はたまた尾ひれが付いてひとりでに広まり続けるかは分からない。もしかしたら貝木に噂の歯止めを掛けさせなかったのは俺達のミスかもしれない。

けど現時点では判断できないのだから黙って観ているしかない。

 

「なあ、俺達は貝木に勝ったんだよな?」

「そうに決まってるでしょ。そうだと思ってなさい」

「だけど、何かモヤモヤするんだよ」

「こっちだって一緒よッ!」

 

貝木は、自分が負ける前に適当な謝罪をして俺達に怒りの矛を収めざるおえなくした。だから二人は貝木を倒した、勝ったと思えずしこりのようなものが残った。

詐欺の中断とこの県への立ち入り禁止は受けたが無傷で去っていった。望んでいた結果にはなったが求めていた結末にならかった。

 

俺達はまんまと貝木に逃げられたのだ。

此方の要求に従っているようで、良いように誘導して最も自分に都合のいい流れにしてたのかもしれない。

 

「本当の悪党と言うのは、負ける前に適当な謝罪をする奴じゃよ」

 

隣でコントローラーを握る忍が唐突に呟いた。と言うか忍はあの時、俺の影に居たんだから何か思ったのかもしれない。

 

「お前様の目的は詐欺師をブッ飛ばすことではなかったのじゃろ? 故に、お前様たちは謝罪の言葉に惑わされ、のらりくらりと交わされたんじゃよ」

「踊らされたってわけか」

 

何とも世間ズレした生き方だ。

 

「それにしてもアンタもなんだかんだ言って、蘭のことを可愛いがってるじゃない」

「そう言えばそうだな。いつも蹴られるか睨まれているのに」

 

鈴と俺の言葉に、弾はふてくされるような顔をして言った。

 

「当然だろ。可愛い妹だ」

 

ここから普段は仲の悪い妹に対する、誰も望んでいない兄のデレトークが始まるかと思われた。

 

思われた、と言うことは、

 

「ゲハッ!?」

 

実際には始まらない。

何かを言おうとした所で、突如として扉をブチ開けて飛来した脚に後頭部を蹴られ、弾は前のめり突っ伏した。

 

「ちょっとお兄! 忍ちゃんが来てるなら何で教えないのよ!?」

 

犯人は当然のように五反田 蘭。

蘭は追い討ちにもう一蹴り加えてから、忍の了承を訊かずに抱きかかえるとさも当然のように部屋から出て行く。

 

「さあ~忍ちゃん♥ お着替えをしまちょ~ね~♥」

「い、いやじゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

赤ちゃん言葉と忍の悲鳴と共に。

 

 

 

「・・・なあ二人共。前言撤回していいよな?」

「好きなだけしなさい」

「俺、知ーらない」

 

 

「ふっ、

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり妹は可愛くないッ!!!!」

 




ご意見、ご感想、ダメ出しお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。