暴物語   作:戦争中毒

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侵入者

001

 

~楯無サイド~

 

 

生徒会応接室。

 

生徒会の隣に設置されたこの部屋が、私はあまり好きじゃない。

ここで応対する来客というのは学園長が直接対応しなくていい、する必要がない禄でもない大人ばかり。地位と金の亡者たちが学園に横暴な要求をしてきた際など、正論と邪道を使って追い返すための部屋なのだから、居て心地がいいわけない。

 

今日も私の前には学生相手に傲慢な態度で一方的な要求を押し付けて早く承認しろとばかりに睨みつけてくる意地汚い政治屋。

 

これでも社会の醜いところは散々見てきたけどやっぱり慣れないわね。自分達の金になると思って手を伸ばしてきて、それを咎めれば自分の地位や利権をちらつかせ釣り合いの取れない報復をする、プライドだけが肥え太った愚か者。

尤もそんなプライドをへし折るのは楽しいけどね♪

 

「こちらがあなた方の主張する、“忍野 仁の経歴”に対する矛盾と相違に関する調査結果です。何かご不明な点でも?」

 

血税を無駄遣いした高級なスーツに身を包む政府高官の女性は、顔を真っ赤にして手渡した書類に目を通していってる。

どれだけ探そうとも不備や抜け穴はないわよ♪

 

「さて、まだ彼を自国の民と主張されますか?」

「ッ・・・!! 失礼させてもらいますわッ!!」

 

どうぞ、失礼でも何でもいいので早く帰ってね。

 

織斑くんと違って忍野くんには織斑先生(ブリュンヒルデ)と言う後ろ盾もなければ正確な経歴もない。

各国はそこに目を付け、彼を自国の国民だと主張してIS学園からの帰還を迫っている。それぞれの国が、辻褄(つじつま)が合うように彼の経歴を偽造してそれを証拠とのたまり学園に踏み込んでくる様は、最近では呆れを通り越して感動すら覚えるようになってしまっていた。

 

両親と旅行中に事故に・・・、日本のヤクザに誘拐されて・・・、ホームステイ時の手違いで・・・。彼が日本に居た理由のこじつけを読むのを楽しいとさえ思える。

本来であれば疑う余地さえない完璧な(経歴)になっているんだけど、生憎とそれが全て嘘であると言う事を証明する情報があるので思わず笑ってしまう。

 

「お疲れ様です、会長」

「ありがとう虚ちゃん」

 

政治家と入れ違いで入室して来たのは布仏 虚(のほとけ うつほ)、三年生で同じ生徒会のメンバー、そして私の付き人(メイド)

 

虚ちゃんは持って来たティーセットを机に置くと、手早く準備をして紅茶を淹れてくれた。やっぱり彼女に淹れてもらった紅茶が一番美味しいわ。

 

「ここまで完璧な偽造経歴を作って来るなんて、お国柄を考えれば流石と言わざる負えないですけどそれに国税が使われてると思うと無駄遣いもいいところですね」

「本当よね。しかも今回のはご丁寧に両親の写真まで付けてるわ」

「これは・・・。裏が取れてなければ信用できるレベルですね」

 

虚ちゃんが手に取った資料には彼の両親を名乗る人物の写真があるはずだからその完成度に驚いているようね。

だって、あ~確かにこんな顔かも、って思えるほど彼と似た顔立ちをしていたから本当にこれが偽物なのか疑ったもん。

 

「本当、腹が立つほど完璧ね・・・」

 

無意識の内に力を込めすぎたことで、書類に皺が走った。

 

 

002

 

話は数日前に遡る。

 

 

 

(さぁてと、もう少し頑張ろうかしら?)

 

実家である更識家に帰っていた私は、夕食を済ませてから屋敷の地下にある、“裏”の資料庫に向かっていた。

そこには“暗部”の更識に所属する諜報員や密偵によって集められた、さまざまな資料が保管されている。

 

そしてその部屋の一角に臨時で用意された、現在調査中の資料置き場には、書類の山が出来上がっていた。

その殆どが男性IS操縦士『忍野 仁』の調査資料だった。

 

すでにIS学園に入学してから四ヶ月、ISが動かせる事が知られてからは半年以上経つのに彼の経歴に関する正しい情報が上がってこない。

だから仕事が一向に片付かない。

 

(ん?)

 

部屋へと続く廊下に立つと、真っ暗なはずの廊下の奥に僅かな光が見えた。

この先にある資料庫の灯りなのは間違いないが、(・・)が居るのかだ。この時間に家の者が訪れることはまず有り得ず、灯りの消し忘れということもない。

 

だとすると・・・。

 

(どこの誰だか知らないけど、好き勝手は許さないわよ♪)

 

襲撃などに備えて壁に隠してある刀(この屋敷には至る所にある)を取り出してから、気配を殺しながら静かに部屋に入る。するとやはり部屋の奥にある机の前で何かをしている、家の者ではない人物が居たのでその背後へと忍び寄る。

思ったよりも背が低いわね、本音と同じくらいかしら?

 

そして、

 

「人様の家で何をやってるのかしら?」

 

抜き身の刃を突き付けて訊ねる。

 

『あら? 気づかれちゃった?』

 

返ってきたのは変声機によって歪められた声。

けれど職業柄、この位なら解析機がなくてもある程度は分かる。

 

(女の、まだ20代の声・・・)

 

そんな女性一人がどうやって侵入してきたのか気になったけど、まずは拘束しないと。

 

「とりあえず両手を上げて此方を向いてくれるかしら? もちろんゆっくりよ」

 

振り返った彼女は一切の露出のない黒ずくめ、顔には真っ白で目の部分につり上がった黒いレンズが光る仮面を付けていた。

そして膨らんだ胸部とくびれた腰つきが女性であることを裏付けている。

 

しかしまるで人の気配を、存在感を感じられない。目の前にこうして居るはずなのにまるで人形と向き合っているようにさえ思う。

 

「いったい何をしてるのかしら?」

『そうね。プレゼントを届けに来た、とだけ言っておくわ』

「サンタクロースにしては来るのが四ヶ月ほど早いんじゃないかしら♪」

『そう? だったら赤い服を着てくれば歓迎されたかしら?』

「隠密には向かない色合いね」

『そうよね。それにあれって炭酸飲料メーカーが経営戦略のために黒服を赤服にしたのが始まりって言われてるから、やっぱり黒い服の方がいいわね』

「どっちにしても、あなたはサンタクロースじゃないわよね。いったい何者かしら♪」

『ただの情報提供者よ』

 

肩を落とすように気楽に応える彼女。

一応、話は訊いた方が良さそうね。

 

「どんな情報を持ってきてくれたのかしら?」

『忍野 仁に関する経歴の一部、と言えば信じてくれる?』

「・・・どういう事?」

『え~っと、どこだったかしら? まぁ何処でもいいんだけど彼を自国の人間だって主張する傲慢な国から政府高官が来日する予定があるでしょ? その時に向こうが開示する経歴が偽造である事を証明したいだけよ』

「表立って公開すれば良いだけなのに、何でわざわざ、ウチに侵入してまでそんな情報を持ってきたのかしら?」

『あなたに警告をするためよ』

 

すると、彼女からやっと人間らしい、禍々しい程の殺気が放たれる。

あまりの殺気に呑まれまいと気を強くたもつけど、まるで底が知れない。これだけの殺気を放っていながら彼女が戦闘体勢を取ろうとしない所を見ると、私を敵として見ていないのかもしれない。

まるで、道端に居る虫を悪意をもって踏み潰すかのように、殺そうと思ってもわざわざ武器を構える必要がない。そんな感じがする。

 

『忍野 仁を調べるな。アレは戦略核兵器並みに危険な奴よ、下手に手を出せば身を滅ぼすことになるわ』

「大げさじゃないかしら? 確かに彼は織斑 一夏と並んで不確定要素ではあるけど単体ではそこまでの危険性はないはずよ」

 

ISを動かせる男性の出現で世界は緊迫した状態で危険ではあるけれど、それはあくまでも彼らを取り巻く情勢であって、彼ら自身は男と高性能なISを所持している点以外は普通の専用機持ち。どんな評価をしても彼ら自身が最終兵器と同列に並ぶ要素がない。

 

警告というのはそれだけなのか、殺気は収めてくれたわね。正直あんなに殺気をまき散らされたらこっちの身が保たないからちょうど良いけど。

 

『お嬢ちゃんがそう思いたいのならそれでいいわ。私は彼を他国へ連れ出されないために情報を置きに来ただけだから、そろそろお(いとま)させてもらうわ』

 

見ると彼女の後ろにある机には見覚えのないファイルが置かれているのが見えた。ここにある資料は全てナンバーの振られたファイルに収める決まりになっているけど、あれにはナンバーがない。

 

(このタイミングで持ってきたと言うことは、中身は本物そうね・・・)

 

しかしだからと言って彼女を帰すわけにはいかない。

 

「そんな事言わずにお茶でもして行かない♪ 来客(侵入者)もてなす(尋問する)のはどこも一緒でしょ?」

『それじゃ押し通るわ』

 

そう言って臨戦態勢をとるかと思ったけど、彼女は右手の人差し指を私に向けただけ。

 

(でもあの殺気は尋常じゃない。先手必勝!)

 

彼女と真っ向勝負するのは危ないと感じた私は、態勢を低くくして刀を地面と平行にする、所謂『牙突』と呼ばれる構えを取った。

元は簪ちゃんが読んでいた漫画の技だけど、使ってみたら思いのほか実用性があったのよね♪

特にこの部屋みたいな刀や人の動きが制限される場所なら、下手に振るよりも回避の難しい技の方が有効になる。

 

そして全力で踏み込み刀で突いた。

けれど刀がまるで見えない糸(・ ・ ・ ・ ・)によって操られたかのように、私の牙突に合わせるように彼女が振り下ろした右手に従っているかのように、私の意に反して不自然に軌道がズレて床に突き刺さった。

 

「えッ!?」

『驚いている暇はないわよ』

 

突然起こった目の前の不可思議に驚いて身体が硬直している間に、彼女は左手を私の額に伸ばして中指を親指にかけ、力を溜めてから一気に指を弾く、

 

デコピンを放った。

 

けれどそれはデコピンなんて呼べるほど可愛いらしいものではなく、まるでISの戦闘中に弾丸が直撃した時ような衝撃が私の脳髄を襲った。

あっ、織斑先生の出席簿アタックと同じくらいかも・・・。

 

「いっ、痛いわね! お返しよ!」

 

そう言って歯を食いしばり反撃しようとしたところで、糸が切れた操り人間のように私の身体が床に倒れた。

必死に動こうとするけれど手足が痺れて上手く動かせない。

 

『無理よ。今ので脳が揺れたからしばらくはまともに動けない筈よ。尤も、あなたなら5分としない内に動けるでしょうけどね。それと、これは返すわ』

 

床に転がり、自分を睨む事しか出来ない私を嘲笑う・・・もとい、見下(みお)ろすようにしている彼女。そしてその手から私の目の前に投げ捨てられたのは、私の専用機の待機状態の扇子だった。

っていつの間に取ったのよ!?

 

『それじゃ、縁があったらまた逢いましょ』

「ちょ、待ちなさい、ッ!」

 

そう思っても指一つ意志通りに動かせない。ほんの数㎝先にある待機状態の扇子にすら届かず、ISを展開することが出来ない。

 

ちょっとだけ悔しくて泣きたくなってきた。

IS乗りとして国家代表にまで登りつめ、暗部の当主としても努力を怠ったつもりはないのに、まるで子供の相手をされていたように呆気なく惨敗したことが堪らなく悔しい。

 

『あ、そうそう。お詫びとして一つ教えてあげるわ』

「何を、教えてくれるのかしら?」

『彼は純然たる日本人よ。両親、生まれ、育ち、どの観点から見ても日本人で、他の国の人物であることは有り得ない。そして同時に、日本人とは呼べない』

「それはどういうーーー

『じゃあね』

 

有無を言わさず彼女は廊下の闇へと消えていった。

 

 

 

003

 

それから程なくして回復した私はすぐに彼女を追いかけようとしたけど屋敷を出た形跡すら見つけれず、私の完全なる惨敗が確定した。

 

そして彼女が持ってきたファイルを確認した所、確かに偽造経歴であることを証明する情報は書かれていたけど、肝心の彼に関する情報は何一つ書かれていなかった。

 

結局、彼に関する調査はふりだしに戻る。

本人に直接問い詰めた方がまだ早いかも知れない。

 

(そう言えば簪ちゃんや一年の専用機を持ってる子達、みんなお祭りに行ってるのよね)

 

窓から見える夕焼けに何か言い表しようのない虚無感を感じながら呟く。

 

「私もお祭り、行きたかったなあ・・・」

「そんな時間は有りません。この後も稽古が控えてます」

「分かってるって。でも今の感じならきっと勝てるわ」

「頑張って下さいね。お嬢様の計画ではまず彼に勝てないと頓挫してしまいます。そうなると一から練り直しになり次のイベントにはーーー」

「ちゃんと勝ってみせるから安心しなさい♪」

 

直に私個人は殆ど休めなかった夏休みは終わり、新学期が始まる。休んでる暇がなかったことに一言二言あるけれど、これでやっと計画が実行できるわね。

 

この時私は自分のシナリオに根本的な間違いがあることを知らぬまま、ほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

004

 

所変わって北アメリカ大陸の西部。

 

そこは国民には知らされず、都市伝説としてのみ世間で語られる極秘軍事施設、通称『地図にない基地(イレイズド)』のひとつ。第十六国防戦略拠点。

 

その施設は今現在、かつてない緊張に包まれていた。鋼鉄とコンクリートで出来た冷たい通路には警報が鳴り響き、侵入者の存在を告げる放送が流れ続けていた。基地の守備兵は血眼になりながら捜索を行い、施設内を駆けずり回る。

 

しかしそんな緊迫した施設にありなが不相応にも優雅に歩く少女が居た。

 

『いい? あなたの身体には監視用ナノマシンが注入されてるわ。命令に従いつつ、殺さずにミッションを遂行しなさい』

「言われなくても分かっている」

 

耳元で念を押すように聞こえてくる女性の言葉にうんざりしつつ、しかし上司としての心配だと思いながらも少女は聞き流す。

 

「!! 居たぞッ!」

 

通路の交差点にやってきた数人の兵士は少女を見つけるとすぐさまアサルトライフルを発砲する。

 

「用もないのに殺すほどーーー」

 

しかし少女は地面を蹴ると通路を縦横無尽に駆けまわり、兵士達を翻弄しながらハンドガンで反撃する。

兵士達は鉛玉の雨を浴びせるが少女には掠りもせず、逆に彼女からの弾丸で一人、また一人と仲間が倒されていく。飛来する弾に当たらないように走り続け、致命傷にせず確実に無力化できる箇所に一発たりとも外さないその射撃の腕、無事な兵士は戦慄すら覚えた。

そして一人の兵士が仲間が居るにも関わらず、スタングレネードを投げようとした。自分達よりも強い少女を無力化するには道ずれにするしかないと思ったのだろう。

 

私達(・ ・)は暇じゃない」

 

けれども少女は兵士の手を撃ち、それを阻止した。

当然投げそこねたスタングレネードは彼らの足下に落下。逃げる間もなく炸裂し、自滅してしまった。

 

「・・・・・・」

 

こいつら馬鹿か、と言った様子で若干呆れてしまう少女だが、すぐに気を引き締める。

 

通路の奥から数機のISが出てきたからだ。

第二世代型IS『ラファール・リヴァイヴ』の米軍仕様カスタム。カスタムと言っても外観が少し異なるだけで基本性能的にはあまり変わらないが、少女ひとりに対しては過剰過ぎる戦力だ。

 

「目的はなんだッ!?」

「この基地に封印されているIS、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』をいただく」

「な、なにッ!?」

「来い」

 

少女が光を纏うと薄紫の蝶を連想させるISが現れた。

それはつい先日イギリスが国連に警戒対象として報告した、強奪されたと述べた新型のIS。そしてその組織名も判明していた。

 

「まさか、亡国機業(ファントム・タスク)!?」

 

IS兵の動揺を嘲笑うように、少女は展開した長大なライフルの引き金をひく。

 

「サイレント・ゼフィルス、迎撃行動に入る」

 

 

 

 

 

 

数時間後。

米軍は銀の福音を守り抜くことには成功したが、防衛に参加したリヴァイヴの1機を強奪されたと国連へと報告した。

 




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