暴物語   作:戦争中毒

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トラブルだらけの秋
学園祭 其ノ壹


001

 

「皆さんおはようございます。朝礼をはじめますねっ」

 

暦の上では夏が終わり、秋が始まった日。

山田先生の挨拶で、二学期最初の朝礼が始まる。

彼女の前にある席は全て埋まっており、誰ひとり欠けることなく新学期が迎えられた事を内心喜んでいた。

 

しかしそんな彼女の真ん前で。

 

「・・・・・・」ZZZ

「おい。いい加減起きろって」ヒソヒソ

 

忍野は爆睡していた。

まるで入学式当日の朝礼のようだ。

 

「ええ~っと、連絡事項ですが、まずこの後全校集会があるので体育館へ移動して下さいね。それから今日の放課後は学園祭での出し物を決めるのでみなさん案を考えておいて下さいっ」

「「「は~いっ!!」」」

 

さすがトラブルだらけの一学期を過ごした山田先生と生徒達。

忍野が寝ていても多少気にしながらもスルーしてしっかりと朝礼を進行し、クラスメイトの全員が先生にちゃんと返事をした。

 

おいっ、ガチでいい加減に起きろよ。

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

さて、それからほどなくして忍野も起床(強制起動)し、全校集会のために体育館へ移動する。

 

体育館にはすでに数クラスが所定の位置に整列しており、一組も素早く列に加わる。

 

(イベント多いな。さすが金持ち学校)

(はぁ、めんどくせぇ)

 

毎月のように学年、もしくは全校単位での学園イベントがやってくるIS学園。

しかし今年だけは、“イベント=IS事件発生”の方程式が完成しつつあり、完全なフラグになってしまっていた。すでにクラス対抗戦とタッグマッチ、臨海学校ではISに関係した事件が起こっている。

二度あることは三度ある。ならばその先は?

 

“三度あったらもう絶対”でいいと思います。

 

 

「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」

 

進行役の紹介をうけて更識 楯無が登壇し、マイクの前に立つ。

すると騒がしいを通り越して姦しいほどだったのがすぐに静まり、楯無の言葉に耳を傾ける。

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは、」

 

(あっ、これゼッテーめんどくせぇ流れだ)

 

忍野の予感は的中する。

彼女は自分のトレードマークとも言える扇子を取り出し、横へスライドさせる。それに応じて巨大な空間投影ディスプレイが浮かび上がり、

 

「名付けて、『各部対抗男子生徒(織斑一夏・忍野仁)争奪戦』!」

 

二人の写真がデカデカと映し出された。

 

その瞬間、割れんばかりの叫び声がホールを震わした。震度計があれば間違いなく反応するほどだ。

 

「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い、織斑一夏と忍野仁を、一位の部活動に強制入部させる事に決定しました!

さらに! クラスで一位になった場合は、上級生なら実習の授業に参加。一年生ならそのクラスへ編入させます!!」

 

再度、雄叫びが上がる。

 

「うおおおおおっ!」

「素晴らしいわ会長!」

「会長を称えよ!!」

「秋季大会? ほっとけ、あんなん!」

「今日の放課後から集会するわよ! 意見の出し合いで多数決取るから!」

「何が何でも一位をとるわよ!!」

 

ブレーキの壊れたF1カーのように加速を続けるテンションのゲージ。限界値がないかのか先ほどから一切安定しない、沈静化など夢のまた夢だ。

 

(あぁあ、余計なことしてくれちゃってまぁ)

 

忍野は顔に手をあて、その呆れ顔を隠す。そうでもしなければこの言いようのない脱力感に抗えず、立っているのすら怠くになっていた。

 

(楯無先輩、俺たちの意識は?)

 

一夏は現状もっとも捨て置かれる考えをわざわざ拾ってきて内心問いかける。彼自身、今回の件がほぼ強制の事後承諾であり、今自分が考えてることが現実逃避だと十分理解してはいた。

けれども一言だけ、後で絶対言おうと心に誓った。

 

(賛否関係なく、せめて本人には声がけして下さい)

 

 

 

002

 

同日の放課後、各クラスでは出し物を決めるために集会が行われた。

一年一組でも同じ。

 

「えーっと・・・」

 

クラス代表として教卓の前に立ち集会の進行を行う一夏だが、彼にしては珍しく、人前であからさまな頭痛に悩まされるポーズをとる。

さすがの忍野も力無く苦笑いしか浮かべれない様子だ。

原因はここまでに挙がった出し物の内容。

例を挙げるなら、

 

『男子生徒とポッキー遊び』

『男子生徒と王様ゲーム』

『男子生徒と夜の補習』

 

一つ方向性の違うものが混じっているが、基本的には“男子生徒と○○”といった二人を商品にするような企画ばかりたった。

 

「「却下」」

 

男二人は却下するがクラス中から大ブーイング。

 

「誰が嬉しいんだ、こんなもん!!」

 

「私は嬉しいわね!」

「男子は共有財産である!」

「他のクラスにはないステータスを使わなければ!!」

「そ、そのまま押し倒して既成事実・・・」

「ここにヤバいのが居るー!?」

 

一夏は助けを求めて視線を動かすも、千冬はおらず、山田先生は顔に手をあてクネクネしてる。

・・・え~っと、こう妄想がピンク過ぎて赤面してるようにしか見えない。

この企画に関して訊いたら絶対に地雷だ。

 

(忍野~!! サッサとアイデア出せ!!)

(無茶言うな! 俺のアイデアは縁日の屋台レベルだ!)

(この骨董野郎ッ!)

(ンだとォこの乱射魔ッ!)

(なら俺達がネタにされない方法考えてくれ!

(今考えてる! ・・・あっ思いついた)

(早ッ!?)

 

「あのねぇ、君たち少しは人の苦労を考えようよ。俺達は二人しか居ないんだぜ? 二人でこの企画を実行したんじゃ一位なんて絶対に無理だよ。もし実行したいって言うのなら、君たちは一時の楽しみのためにクラスメイトを売り飛ばすって事になるけどいいのかなぁ?」

 

忍野の一言に、教室は、静寂に包まれる。

先ほどまで吹き荒れていたブーイングの嵐が一瞬で収まったところを見ると、クラスメイト皆、指摘されて事の重大さに気がついたようだ。

今あがっている企画は全て一夏か忍野が1対1での接客物ばかり。だとすると開催時刻から閉めまでフルに対応しても捌ける人数は限られてしまい、一位を穫れるとは到底思えない。

どこかの部活が一位になるのならまだいい。もし他のクラス、それも同じ一年生のクラスが一位になればそこへ編入してしまう。そうなれば彼女達の言う“男子と同じクラス”というステータスが失われる。

 

「もし負ければ男子が居なくなる!!」

「まさか、ここにきて共有財産の危機?」

「天は私を見捨てたかッ!」

「まだだッ! 他のクラスが一位を穫らなければッ!」

「だからそれが危ないのよ!!」

 

今度は阿鼻叫喚(あびきょうかん)の嵐。

すぐにマトモなアイデアを出そうとするが、つい直前まで欲望丸出しの案しか出してこなかった彼女達には、それは難しい要求だった。

 

地獄絵図のような集会がしばらく続いた。

もうダメだ、と忍野が諦めかけていた時。

 

「喫茶店はどうだ」

 

やっとマトモな意見が出てきた。

それを言ったのが、いつもはズレている(原因の九割以上が彼女の副官)ラウラだったのでクラスメイト全員が黙ってしまう。

だけれどそこからすぐに全員が賛同。男子二人は内心大喜び、女子達は盲点だったとばかりにトントン拍子で可決された。

・・・君達どれだけ自分の欲望に従っていたんだい?

 

 

003

 

~忍野サイド~

 

どんな衣装がいいか。メニューは何を出すか。男子には何を着せようか。セシリアは厨房に立つなと白熱し、しかし最終的には無難なサンドイッチなどの軽食を出すメイド喫茶に着地した。

個人的にはメイド服を着ているからとわざわざ店の呼称をメイド喫茶とするのがよくわからない。喫茶店とメイド喫茶の違いって服以外は何だろうか?

現代文化は相変わらずよくわからん。

 

とりあえず完成した大まかな計画書を提出するために俺と一夏は職員室へと持っていく。山田先生が持って行ってくれりゃ楽だったんだが、まぁ文句を言っても仕方がないな。

 

だがそんな事よりも。

 

「なぁ一夏、お前箒となんかあったのか?」

「い、いや、別に・・・何も」

 

ふむ。何かあったな。

学級会の最中、一夏は何度となく箒のことをチラ見しては慌てて視線をズラしていた。

それ以外にも新学期に入ってから一夏は箒に対してだけやや過敏に反応している。それは異性を意識している時のものと酷似するが、問題なのはそれが鈍感で名高い織斑 一夏が行っている点だ。

 

「まぁあんまり詮索するつもりはないが、女の子を意図的に避けるのはどうかと思うぜ」

 

観てたら箒は一夏に避けられて哀しげな顔をしていて居たたまれなくなってしまう。あの様子だと彼女が行動した結果とは思えないし、だとすると原因が一夏の心境の変化だというのは明白。

 

「忍は何か知ってるのかい?」

『思い当たる節はあるのじゃが、儂もよう分からん。そもそもこやつが異性を意識するなど怪奇にしか見えん』

「酷い言われ方だな・・・」

 

ツッコミにもキレがない。

だからと言ってあまり踏み込むべきものではない。悪意でない人間関係の歪みは当事者のみで解決する方が自然な形で治まるんだから俺は黙っておこう。

 

そう考えていると職員室の前に到着したので手に持っている計画書に不備がないことを確認し、扉を開けると、

 

「おいでやす♪」

 

なぜが京都弁で会長さんが出迎えてくれた。

 

「「おはようございますこんにちはさようなら」」

「適当に挨拶を並べない」

「「さいならさいならさいなら」」

「別れの挨拶をしないの。それと、なんで三回言うの?」

 

どうやらネタが伝わらなかったようだ。

 

「それで楯無先輩。なにかご用意ですか?」

「ちょっとそこまで付き合ってくれないかしら? 勿論、忍野くんもよ」

 

まじかよ。勘弁してくれぇ。

会長さんは俺の事を探ってるようだし、関わりたくないんだよなぁ。

 

「って言われても千冬に計画書(これ)を提出しに来たんだけど・・・。一夏、先に話訊いといてもらえるか?」

「分かった。ちゃんと提出しといてくれよ」

「それじゃあ生徒会室で待ってるわ。女の子をあまり待たせないようにね♪」

「へいへい」

 

楯無は一夏を連れて廊下に出て行った。

・・・待てよ。生徒会室って“ちょっと”って言うほど近くなかったよな? まぁいいか、行かないと騒がしいし。

 

 

その後すぐに千冬に計画書を提出。その経緯を含めて大ざっぱに説明することにした。

 

「ってなわけで一組は喫茶店になったぜ」

「また無難なものを選んだな。と言いたいところだが、どうせ何か企んでるんだろう?」

「何だっけか? 仮装じゃなくええっとあれだ。コスプレ喫茶とか言うのになった。女子はメイド、俺と一夏は執事だとよ」

「立案は誰だ? まあ田島か、それともリアーデか? まあ、あの辺の騒ぎたい連中だろう?」

「ラウラだよ」

 

きょとんと固まる千冬。

だがゆっくりと言葉を理解したのかそれから盛大にため息を吐いた。

 

「・・・クラリッサの奴、また何か吹き込んだな」ボソボソ

「まぁ今回ばかりは助かったがな」

 

どうやら今回も心当たりがあったようだな。

と言うか、そのクラリッサって奴は何者だよ。軍属のくせに自分の上官に次々と嘘八百、とは言わないが間違った知識を植え付けてるとか。

ここまで来ると実際に会ってみたい、と思ったがすぐに四散させた。下手に考えるとフラグになりそうだ。

 

「まあいい、確かに受け取った。それにしても、ククク」

「どうした?」

「お前が、執事の恰好をして、接客を、ハハハ!」

「笑うんじゃねぇよ」

 

おい、笑いを堪えきれてないぞ。

見ろよ、あんたが珍しい声に出して笑っているから何事かと職員室中から視線が刺さってるぞ。

 

「ケッ、確かに提出したからな」

「あっ、そうだ。忍野、学園祭は生徒一人につき入場チケットが一枚ずつ配られるから渡す相手を考えておけよ」

 

適当に手を振ってから職員室を後にする。

チケットねぇ、誰に渡すとするかな?

 

 

 

004

 

~一夏サイド~

 

職員室から出た後、楯無先輩を狙った襲撃の数々を交わして生徒会室に到着した。

話に訊くと、IS学園の生徒会長は学園最強が就任するそうだ。それで投票決戦を不利だと感じた部活や先輩方が楯無先輩を倒して自分たちが会長になり、自分たちの部活に俺と忍野を入部させようとしたらしい。

しかし楯無先輩は一撃どころかかすりも受けることなく華麗に撃退してみせた。学園最強ってスゲー。

 

生徒会室に入ると忍野命名のほほんさんこと、布仏 本音さんがいた。あんまり話した事ないんだよなあ。それとのほほんさんのお姉さんの布仏 虚(のほとけ うつほ)が自己紹介してくれた。

ふたり一緒だと凸凹姉妹といった感じなのかな?

 

それから忍野が来るまでお茶会が始まった。

あ、紅茶がうまい。素人には真似できない味だな。

 

「うええっ、いたぁ・・・」

「本音、まだ叩かれたい? ・・・そう、仕方ないわね」

 

布仏先輩がケーキのフィルムを舐めるのほほんさんにお説教のため拳骨。第二射が装填完了していると、のほほんさんに助けてがきた。

 

「失礼しまぁす」

 

脱力感全開で入室してきた忍野。

するとのほほんさんが忍野のもとへ走って行く。

とっても遅い。

 

「うわ~ん、助けておっし~の~」

「俺は助けない、のほほんさんが勝手に助かるだけだよ。って言うか何でここに居るの?」

 

うん、ドラえもんに助けを求めるのび太くんみたいなセリフだ。そして混乱をきたす忍野。

来客に泣きつく妹により怒りを募らせているご様子の布仏先輩。

来るのは良いけど間が悪い奴だな。

 

「とりあえず話は聞くけど、何で泣いてるの?」

「あのね~、あのお姉ちゃんがグーで叩いたあ~」

「はいはい分かったから。それでそこのいじめっ子の眼鏡お嬢ちゃんの言い分は?」

「いじめ・・・、お嬢、ちゃん?」ボソッ

 

目の錯覚か?

布仏先輩の眼鏡がやりてのOLが部下のミスを見つけた時のように光った気がした。

 

「私は布仏 虚(のほとけ うつほ)。本音の姉で、三年生です。以後お見知りおきを」

「おっと会長さんより上か、これは悪かったね。自己紹介はいるかな?」

「結構ですッ!」

 

なんかこめかみをヒクヒクさせながら三年生って所を強調していた、年下扱いされるたのが気に触ったのだろうか。尤も忍野の実年齢ならここの生徒会室に居る全員(忍を除いた)の歳を合計しても足りないだろうけど。

そして何故か言葉を交わしてより怒りが増している気がする。先輩は忍野が嫌いなのだろうか?

 

とりあえず楯無先輩が間に入って双方、と言うか布仏先輩をたしなめてから忍野もソファーに座り、ようやく今回呼ばれた本題に入る。

 

「一応、最初から説明するわね。一夏くんが部活動に入らないことで色々苦情がよせられていてね。生徒会はキミをどこかに入部させないとまずいことになっちゃったのよ」

「それで学園祭の投票決戦ですか・・・」

「はた迷惑な話だねぇ」

 

と言うか入部するにしても文化部しかないでしょ。運動部に行っても公式戦には参加できないし、マネージャーって柄でもない。

 

「でね、交換条件としてこれから学園祭の間まで私が特別に鍛えてあげましょう。ISも、生身もね」

 

「大体、どうして指導してくれるんですか?」

「ん? それは簡単。キミが弱いからだよ」

「・・・それなりには弱くないつもりですが?」

「ううん、弱いよ。だから、ちょっとでもマシになるように私が鍛えてあげようというお話」

 

さすがにムカッときた。

地獄のような冬休みを経験して、夏休みにも時空旅行先で地獄を見てきたんだ。おおっぴらに言うことも、ましてや誇る事も許されないが、それでも弱いなんて言われない位には強くあろうとしてるつもりだ。

 

だから売り言葉に買い言葉で言い返そうとした所で、

 

「ハッハー、会長さんは元気がいいねぇ。何か良いことでもあったか?」

 

いつもの道化のように、しかし楯無先輩を見下すように、忍野が嘲る。

 

「そんな恩着せがましい建前なんていらないから、腹を割って話そうじゃないか。それにねぇ、俺は中身のわからない善意は受け取りたくないんだよ」

「何が言いたいのかしら?」

「偽善者面が気に食わねぇつってんだよ」

 

唐突に辛辣な言葉を忍野は放った。

そして、そう指摘された楯無先輩は笑顔のまま黙る。にこやかに表情は作っているけれど、その目は凍えるほど冷たい。

この場合、忍野は何を指して、楯無先輩を偽善者と称したのか分からない。もしかして指導の話に裏があるのか?

 

「俺達は会長さんの勝手な計画ですでに迷惑してんだ。迷惑料として正直に話すほうが、俺個人としてはいいと思うぜ?」

「お、おい。楯無先輩は何を隠しているって言うんだよ?」

「思い返してみろよ。入学してから遭遇したISの事件には必ず俺かお前が巻き込まれている。意図したかどうかはともかく、周辺での事件発生率が高い以上、学園側も何らかの対策を取らなきゃならない。

そんな時に近づく学園祭。そしてこのタイミングでの指導の申し入れ。それが意味するところはーーー」

「!? 俺達の監視と護衛、ってことか」

 

以前、忍野から聴いた話では学園と臨海学校に現れた無人機は束さんが設計・製造したものではなく、また束さんが調べても出所どころか所属すら分かっていないそうだ。それ以外にもVTシステムや軍用ISの暴走など不穏な流れがある。

だが共通点として俺達のどちらがその場にいた。

 

俺達の居るところに敵の襲撃や事件が起きるのなら話は早い。最初から監視をしていれば予防策として十分に役割をなし、もし起こっても護衛としてその場に居合わせていれば素早く解決出来るからだろう。

 

「・・・確かに護衛というのは正解よ」

 

ようやく沈黙を保っていた楯無先輩が、諦めたように口を開いた。

 

「織斑先生は非常時の対策司令としての権限は持ってはいるけれど、必ずしも適切な指示を出せるとは限らない。クラス対抗戦の際にはシステムの制御を奪われて何も出来ない状態に陥ってしまっていたの。

ならばと軟禁同然で護衛を付けたら今度は学園の防衛能力に支障が出ちゃうのよ。それにあなた達は専用機、ガンダムがあるから戦力として見ると動かせなくなるのは学園にとって痛手になるのは目に見えている。

さっきは弱いって言っちゃったけれど、本当のところはそんな事思っていないわ。だからこそ、あなた達には織斑先生が指示を出せない状況でも身の安全と学園を守るため戦力としての独立した指揮系統が必要なの」

 

言ってる事は分かるけど、生徒だけの独立した指揮系統って・・・。

一歩間違えたら愚連隊じゃん。

 

だけど忍野はその説明で納得したのか、いつものやる気のない気配に戻っていた。

 

「まぁ俺たちに損はないからその建前に従った方がいいだろうからな、と言うわけで一夏。会長さんと勝負してきな」

「ちょっと待て!? 今の話の流れなら勝負する必要ないだろ!?」

「でもなぁ、会長さんは弱くないって言ってくれたが実際、お前の対人戦()弱い部類だろうからなぁ」

「じゃあお前はどうなんだよ!?」

「俺はパワーごり押しで戦うから指導するだけ無駄なんだよ。それによく話を思いだしな。会長さんはお前に指導するとは言ってるが、俺の名前は出してないぜ」

 

・・・あっ、本当だ。

それどころか忍野は、俺は交換条件という支払いが提示されたけど、あいつは投票決戦に巻き込まれ損をしてる。だから迷惑料って言ってたのか。

 

「それじゃあ交渉成立ね♡」

 

楯無先輩が広げた扇子には“結果オーライ”と達筆で書かれていた。

・・・その扇子ってどこに売ってるんですか?

 

 

005

 

一夏と楯無はそれぞれ白胴着に紺袴の、古来からの武芸者の姿に着替え、畳道場で向かい合う。

審判として忍野はいるが、他には誰もいない。

 

「さて勝負の方法だが、先に相手を三回床に倒す、または続行不能にしたら勝ちでいいな?」

「いいわよ?」

「いいけど、三回って微妙な回数だな」

「長々とやっても意味がないだろ? こういうのはパパッと終わらせるのが一番いいんだよ」

 

(でもなあ、お前みたいに殴るわけにはいかないしなあ・・・)

 

彼はISでの戦いならともかく、素手で女性と戦うことに抵抗があった。古き風習とも言える人間社会での昔からのイメージである“男は女を守るもの”と言うのが根強いからだ。

(因みに忍野は敵対するなら男女平等)

でもだからと言って戦わない訳にはいかないので悩んだ末、一夏は中学の授業で習った柔道技で戦うことにした。

うろ覚えではあるが・・・。

 

「お二人さん準備はいいかい?」

「いつでもいいわよ」

「同じく」

 

確認をしたあと忍野は右手を上げ、

 

「んじゃ、始めッ!!」

 

振り下ろし試合開始の合図を出す。

 

 

「行きます!」

 

一夏は先手必勝とばかりに一気に掴みにかかる。

が、

楯無は彼の手を難なく掴み取るとそのまま流れるような動作で手を捻り、一夏はその場で縦に一回転させられてしまった。

なんとか畳に落ちる前に受け身を取ってそこから楯無との距離を置く一夏だが、予想外の反撃に驚いていた。避けられたり背負い投げをされてしまうパターンは考えていたがスッ転ばされるとは思ってもみなかったようだ。

 

「合気道ですか?」

「半分正解。私が使うのは柔道や空手、合気道などの日本武術を中心とした総合格闘術よ」

 

つまり殴る蹴る投げる絞める何でもありと言う事だ。

 

「今度はおねーさんの番!」

 

楯無は鋭い拳が空気を裂いて迫る。

対する一夏は数発は手で軌道を逸らしたり払いのけ、当たると思ったものは身を捩り体の前に拳を避ける。

けど避け方を間違えた。

 

「つっかまえた♪」

 

捻った時に伸びてきた楯無の手が体の正面に来ると、固く握られていた拳が突然開いて一夏の胴着の胸倉をひっつかむ。そして有無を言わさず脚払いをして一夏の背中を畳に叩きつける。

 

「まだダウンするには早いわよ」

 

え? っと彼女の方を見た一夏に迫るのは袴の裾から伸びる色白で綺麗な脚の甲。血色のいい肌艶で爪も綺麗に整っており光沢を持っている。

だがそれは決して遅くない速度で加速しながら襲ってきた。

 

「シュート!!」

「危なッ!?」

 

エースストライカーになれそうな綺麗な蹴りが、慌てて逃げた一夏が先ほどまで居た場所を通過する。

忍野の蹴りに比べれば劣るが顔面を狙っているあたり質が悪い。

 

「顔面狙いってありですか!?」

「文句を言う暇があるなら一撃でも入れてみなさいな!」

 

再び始まる拳と手刀による連続攻撃。

防戦一方になる一夏だが、攻撃の中に僅かな隙があることに気がついた。彼女ほど実力がある者にしては若干の違和感が拭えないが、彼が反撃するための糸口はそれしか見つからなかった。

 

(正攻法でいくしかない!)

 

虎穴に入らずんば虎子を得ず。

一夏はタイミングを計り、楯無の隙が生まれた瞬間に前に踏み込む。そして驚愕と思われる表情を浮かべる楯無の胴着を掴む。

 

ここまでは良かった。

 

当然、彼はそこから投げ技へと派生させようとした。

 

「いやん♡」

「あり?」

 

だが不自然なほどに胴着が緩み、掴み掛かった彼の手に引かれるがままに胴着は両肩からずり落ちて楯無の上半身が露わになる。

綺麗な肌に美しい曲線を描くスタイル。引き締まってはいるが女性らしい柔らかそうな腹筋や二の腕、ブラに包まれた豊満なバスト。

状況次第なら生唾ものの光景が一夏の目の前に広がってはいるが、そんな状況ではない。

どうやらあの隙は罠だった様子だ。

 

「一夏くんのえっち」

「なぁっ!?」

 

いくら一夏が鈍感や朴念仁などと言われようと男子。女性の下着姿を、しかも自分が脱がす形で目の当たりすれば動揺もするし隙だらけになる。

そして楯無は笑顔のまま彼の手を払い、そのまま流れるように宙に浮かし、空中コンボを決める。

 

「おねーさんの下着姿は高いわよ?」

『そんなに乳がいいか!?』

「まっ、自業自得かな」

 

薄れゆく意識の中、三者三様のコメントを頂いた一夏であった。

 

 

 

006

 

 

「やり方がセコいねぇ」

「あら? 何のことかしら?」

 

楯無ははだけた胴着を着直しながら惚けた口調で忍野の呟きに答える。

ちなみに一夏は畳の上にボロ雑巾のように打ち捨てられていた。彼にしては珍しい敗北の姿だろう。

 

「その胴着、ちゃんと着てなかっただろ? 掴まれたら簡単に脱げるようにして相手の動揺を誘う、青春真っ盛りの男子高校生には禁じ手もいいところだぜ」

「本当は使いたくなかったけどね。一夏くんと素手の真っ向勝負は分が悪いからおねーさんは策を講じてみました♪」

 

反則にはならないが姑息と言われて仕方がない策だ。

 

「んじゃ、一夏を保健室に放り込んでくるから後お願いしますね」

「おねーさんが手伝ってあげようか?」

「自分との体格差考えな。会長さんの背丈でこいつを運ぶのは骨が折れるますよ」

「会長権限、ISによる負傷者の搬送♪」

「・・・それじゃあ千冬を呼ぶとするか」

「待ってそれはやめて。さすがに怒られちゃうから!!」

「ご自慢の会長権限はどうした?」

「織斑先生にそんなもの通用しないからね!? ルール違反したらすぐお仕置きされるのよ!?」

「なら強権発動させようとすんなよ」

 

その一言を言った瞬間、楯無は“かかった”とばかりに、にっこりと笑う。

 

「それじゃあ強権を使わずに一つ聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

 

忍野は返答しないが、ジェスチャーで“答える”と返事をする。表情から読み取るに、どんな質問をされるか分からないから断りたいが答えないと後々面倒になるから仕方がなしに、と言った感じだろうか。

 

「何で誰もあなたの名前を呼ばないの?」

「ずいぶんと変な事を訊くねぇ。俺は寧ろ名前でしか呼ばれないぜ?」

「苗字でね。少し調べさせてもらったけど、誰か強要した訳でもないのに学園内で、あなたは苗字でしか呼ばれない。これはどうしてかしら?」

 

フム、と悩んでるような表情をする忍野。

けれども彼に何らかの“裏”があると睨んでいる楯無には、それは彼にとって拙いことを指摘されたのだと見た。

 

「単に字面の響きが原因なんじゃないかな? 俺の名は最後が『ん』だから無意識にそこで一旦言葉を区切ってしまうから言いにくいんだろうよ。それに比べりゃ『忍野』は発音し易くなってるからねぇ」

「・・・それもそうね」

 

楯無は一応は納得してそれ以上の追求をしなかった。しかし話の中にあった違和感には気づき、目の前の彼が何を隠そうとしているのか、これから自らの観察眼をフルに発揮して調べなければならないと内心の計画リストに加えた。




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