暴物語   作:戦争中毒

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学園祭 其ノ肆

017

 

~一夏サイド~

 

「着きましたよ」

「ハァハァ、ど、どうも・・・」

 

誘導されるがまま、セットを脱出して更衣室へとやってきた。

 

「えっと・・・」

 

ここまで誰に連れられて来たのか分からなかったが改めて見ると、熱心に武装のパンフを押し付けてきて忍野に追い出された巻紙 礼子(まきがみ れいこ)さんだった。

 

「あ、あれ? どうして巻紙さんが・・・」

「はい。この機会にガンダムをいただきたいと思いまして」

「は?」

「いいからとっととよこしやがれよ、ガキ」

 

先ほどまでの人当たりの良い優しげな表情が一変、人を見下し悪意が満ちた顔になり、身を翻すのと同時に回し蹴りを喰らわされ、その衝撃でロッカーに叩き付けられてしまう。

彼女の蹴りは異常な威力をしていて、痛みを堪えようとするが脂汗が垂れ下がり蹴られた箇所は焼け石を乗せたかのごとく熱を帯びているような錯覚がある。なんでこんな威力の蹴りを、と彼女の足を見るがそこにあったのはヒールを履いた女性の足ではなく、鉤詰めの付いた鋼鉄製の金属の足。

ISの部分展開だ。

 

「おら、いつまで平和ボケした面してんだよ」

 

安い挑発を売ってくる巻紙。

明らかに女尊男卑主義者が“男がIS持つな”と取り上げようとしているのとは違う、純然たる悪意による強奪。

まったく、なんで渡せと言われた時点で警戒しなかったんだ、俺は。

 

「くっ・・・『サバーニャ』!」

 

生身での強奪ならともかくISを持っているのならISで立ち向かうしかない。こんな狭い場所での屋内戦は初めてだが、四の五の言ってる場合じゃない。

 

「待ってたぜ、それを使うのをよぉ」

 

そう言うと彼女も自分の機体を完全展開する。

 

その機体は黄色と黒が目立つ配色の機体で、頭部にはフルフェイスのヘッドギア。下半身には彼女本来の脚とは別に、細長く形状が異なる脚が8本。腰には他のISでは見られない大型コンテナらしき物体。

上半身は人、下半身は昆虫を模したと思われる機体。

その姿は・・・。

 

「アラクネだよ。こいつの毒はキツいぜ?」

 

アラクネ。

たしか蜘蛛の額に女性が生えた姿をしたモンスターだったよな? 忍野なら“怪異”としてのアラクネに関する講釈の一つや二つ述べるだろうけど、今はそんな時じゃない。

 

「そぉらよぉ!!」

 

アラクネの脚先がこちらに向き、一斉に火を噴く。

装甲脚にはアサルトライフルと同性能の内蔵火器が搭載されているようで、軽視できない威力で絶え間なく発砲が繰り返される。

サバーニャを横滑りぎみで回避しながらライフルビットを1丁手に取り、残りのビットを展開する。

 

「ピストルビット、展開!」

《防御は引き受けた。シールドビット展開じゃ!!》

 

銃と盾を4機ずつ、蜘蛛のIS目掛けて飛翔させる。

巻紙と名乗っていた女(もう巻紙でいいや)はビットが展開されるのを見ても動揺した素振りすらなく、それどころか嘲笑うかの如く言い放つ。

 

「へッ! 噂のビットか、だがてめぇは大馬鹿だなあ!!」

 

最初は何の事なのか分からずハッタリだと決めつけたが、その意味はすぐに分かり始めた。

 

展開したビットが次々と被弾したのだ。

ピストルビットは回避させることも出来ず悉く破壊され、シールドビットも鋼鉄の雨に煽られまともに動かせない。

 

(くそ、ルートが読まれてる!)

 

何とか背後を突こうするが、柱の隣接し天井の低い屋内ではビットの動きが制限されてしまい、軍用機をも翻弄したビットがいとも簡単に封じられる。

 

ビットを展開するには、ここは狭すぎたのだ。

 

「どうしたよおい! 機体は良くてもお前の腕はイマイチのようだなあッ!!」

「くっ! まだだあっ!!」

 

持っていたライフルビットからアタッチメントを外し、両手にピストルビットを構えてスラスターを吹かして一気に肉薄する。

 

「別に無傷で手に入れようなんて思ってねえ。そっちから来るんなら、切り刻むだけだッ!!」

 

そう言って彼女は刃渡り1m程の、ISの武器としては短刀にあたる近接ブレードを両手に展開して突進して来る。

二度三度と刃が火花を散らし、鍔迫り合いになると互いに押し切ろうと力相撲となり硬直する。

 

「アンタは一体何なんだ!?」

「テロリストだよ!! それとなあ、スナイパーは遠くからコソコソ撃つのがお似合いなんだよ!」

 

ここで俺はまたミスを犯していた事を知る。

アラクネの装甲脚は俺のピストルビットと同じ、近接戦闘が可能な複合装備になっており、脚先にはIS用ナイフと同サイズもある鋭い爪が備わっていたのだ。

“見た目に騙されてはいけない”とはよく聞く言葉だが、その“見た目”から予想される攻撃に警戒しないのは大きな間違い。

 

彼女の両手ばかりに気を取られていると左右から装甲脚が襲いかかって来た。

咄嗟に後ろへと飛ぶが、持っていたピストルビットの銃身部分を破壊されてしまう。すぐに捨てると次のピストルを手に取る。

 

「何丁持ってやがるんだ」

 

彼女は悪態をつくがその手(いや脚か?)は止まることなく繰り出され乱舞が襲いかかってくる。両手の短刀は俺のブレードを防ぐのに専念し、8本の脚は死角や回避し辛い所を執拗に狙らわれ、変幻自在にの攻撃に防戦一方になる。

 

「そぉ~ら、喰らえ!!」

 

苦戦していたところに突如アラクネの手から放たれた捕獲ワイヤー。

気づいた時には既に遅く、忍がシールドビットを展開して防いでくれようとはしたが、ワイヤーはシールドの直前で巨大な網となり、シールドごとサバーニャに取り付きそのまま壁に叩きつけられる。

ワイヤーは本物の蜘蛛の糸さながら、高い粘着性を帯びていて壁にぶつかった姿勢のまま機体が張り付いて動けなくなってしまった。

 

「くッ! 外せよッ!!」

「クク、やっぱガキだなぁ。んじゃあ、そろそろ終いとしよおぜ」

 

笑いながら、敢えて精神的にいたぶる為かゆっくり歩いて迫ってくるアラクネ。

焦りを感じながらサバーニャを動かそうとするが、四肢と胴体はひっ付いたワイヤーで殆ど身動きがとれない。ビットも機体から分離できずアラクネの接近に何の反抗も出来なかった。

 

眼前へとたどり着いたアラクネの指が、サバーニャのヘッドパーツにのびた。

 

「もったいないからその機体、オレによこせよ」

 

ヘッドパーツが掴まれ、引き剥がされるように軋む音を立てる。モニターに映る警告メッセージが恐怖心を煽り、神経がすり減る。

 

《なんて握力だよ!?》

《このままでは顔を剥がされるより先にお前様の首がもがれるぞ!》

《分かってる! ミサイルは!?》

《蓋が押さえられておる!》

 

発射管が開かなければミサイルは使えない。

ビットも展開できず、先ほど捨てたビットも動かない。万策尽きたと諦めそうになった時。

 

「おいたはそこまでにしてもらえるかしら」

 

場にそぐわぬ楽しげな声。

頭を鷲掴みにされているのでその表情までは見えないが、部屋の真ん中を威風堂々と歩いてくる楯無さんが見えた。

 

「お前は・・・確か更識 楯無か、どこから入った? まあ見られたからには殺すが」

 

サバーニャの頭から手を離し、楯無さんへと向き直る巻紙。だが楯無さんは一切の構えをとらず、それどころかISも展開せずにいる。

 

「いいのかい? ISも展開させず近いて。気でも狂ったか?」

「私はこの学園の生徒達、その長。ゆえに、このように振る舞うのよ」

「その心構えは評価するがーーー」

 

アラクネの片腕が目にも留まらぬ速さで楯無さんの胸を貫いた。

 

「ーーー死んだら元も子もないぜ?」

 

 

 

018

 

「楯無さん!! てめぇ、よく・・・も?」

「・・・・・・」

 

アラクネの脚に腹を貫かれた楯無さん。けれども彼女の背中に生えた装甲脚には一滴たりとも血が付着していなかった。

 

「なんだ、手応えがない・・・?」

「うふふ」

 

にっこりと巻紙に微笑みかける楯無。そして次の瞬間には彼女は見慣れた液体になって崩壊した。

それは水だった。

 

「ッ!? 水分身か!?」

「ご名答。水で作った偽物よ」

 

傍観者視点だった俺すら気がつかない間にアラクネの背後でランスを構えていた楯無さん。必中の間合いで強力な突きを放ったが、巻紙はそれを紙一重で回避した。

 

「くッ!!」

「あら、今のを避けるなんて、なかなかの腕前ね」

「ガキに誉められても嬉しかねぇよ!! にしてそれがてめぇのISか!?」

「この(IS)は『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』、覚えておいてね♪」

 

楯無のISは今まで見てきたどの機体とも異なる、幻想的に映る機体だった。

アーマーは面積が狭く、小さな高機動デザイン。それをカバーするように透明な液状のフィールドが、まるで水のドレスのように形成させている。

非固定装備のクリスタルパーツからはマントのような水のヴェールが展開されていて、手に持つ大型ランスにはドリルのように水の螺旋が表面を流れていた。

 

「けっ! じきに動けなくしてやる。オレのアラクネでなぁ!!」

「うふふ。なんていう悪役発言かしら」

 

そのまま交戦状態に陥る二人。

 

だけど俺は何か違和感を感じた。

原因は分かっている、楯無さんの突きを避けたあの動きだ。

 

《お前様よ、今のどう見る?》

《驚いていた割にその後の回避がスムーズだと思った。忍は?》

《儂も同意見じゃ。テロリストと言えど戦いのプロと言うことかのう》

 

本当にプロの一言でいいのだろうか?

背後から不意打ちで必中の間合いだったのに、それをまぐれや偶然じゃなく見切ったうえで避けれるだろうか? 

 

でも今は人の事より自分の心配だ。

 

《さっき捨てたピストルビットは動かせそうか?》

《待っておれ。 儂からの制御はまだ生きておるようじゃ》

《それじゃあこの網を切ってくれ》

 

忍に頼んで脱出の算段はついた。

 

再び二人の戦いに意識を戻す。

アラクネはと言うと、両手に握った短刀で切りかかり装甲脚は射撃と格闘に役割分担して援護をする。

楯無さんはランスをバトンのように回して襲いかかる刃物に凌ぎ、飛来する弾丸は水のヴェールが全て受け止める。

弾は水に触れた途端勢いが衰え、貫通する前に完全停止してそのままヴェールの中を下へと沈み、足下に投棄されていった。

 

「あらあら、水すらやぶれないのね」

「ただの水じゃねぇだろうがっ!」

 

巻紙は自分の攻撃を全て潰され次第に苛立ちを露わにしていき、対照的に楯無は涼しげな表情のまま。

だがその手数(脚数?)にものを言わせた押し潰すような攻撃に、次第にだが楯無さんが押されはじめる。

 

「楯無さん!」

「一夏くんは休んでなさいな。ここはおねーさんにお任せ」

「余裕ぶるんじゃねぇよ!!」

 

左手に持っていた短刀を投擲し、同時に一気に距離を詰めるために跳んだアラクネ。楯無さんはアラクネの動きにも慌てずに対処すべく、まずは飛来する短刀を弾いた。

 

「あらら?」

 

だが短刀には俺を捕まえた捕獲ワイヤーが繋がっており、短刀を弾いたランスと右手にはしっかりとワイヤーが引っ付いてしまう。

 

「くらえ!」

 

そしてそれは次の攻撃のための布石。

突進するアラクネはその腕力で捕獲ワイヤーを引っ張り、機体をさらに加速させて跳び蹴りを喰らわせた。

その衝撃でミステリアス・レイディの水のウェールは弾け飛び、楯無さんも壁に蹴り飛ばされた。

 

「コホ、普通女の子のお腹を蹴る?」

「ああ”ん? お遊戯やってんじゃねぇんだぞ。今から死ぬのに将来の心配か?」

「いいえ。私は死なないわ。あなたが負けるのだから」

「良いねぇその自信。グチャグチャにしたくなるぜ」

「・・・ねえ、この部屋暑くない?」

「あぁ?」

「温度ってわけじゃなくてね、人間の体感温度が」

「何言ってやがる?」

「不快指数っていうのは、湿度に依存するのよ。ねぇ、この部屋って湿()()()()()()()?」

「!?」

 

巻紙と俺はハッとすると部屋一面に漂う霧に気がつく。水源もないのに発生している霧は、アラクネに纏わりつくように濃くなっている。

いや、水源もそれを操作している人物が目の前に居る。

 

「この機体はね、水を自在に操るのよ。エネルギーを伝達するナノマシンによって、ね」

「し、しまっーーー」

「遅いわ」

 

楯無さんが指をならす。

するとアラクネの機体各部で小規模な爆発を次々と起こし、それが連鎖反応の末、機体を丸ごと飲み込む爆発へとなった。

 

「霧を構成するナノマシンが加熱しておこる水蒸気爆発『清き熱情(クリア・パッション)』。お味はいかが?」

 

その問いに巻紙の声は聞こえない。終わったのか?

 

俺が何とかワイヤーよ拘束から抜け出すとちょうど爆煙とミステリアス・レイディの霧が晴れてくる。そこには懸命に立ち上がろうとするボロボロのアラクネの姿が。

しかし装甲の隙間に入り込んだ霧が爆発したことにより、見た目のダメージ上回る大ダメージを受けたようで、至る所からスパークや部品の落下が発生している。

 

「ぐ・・・がはっ・・・。まだ・・・まだだ!」

 

勇猛果敢に吠えるが、楯無さんはランスを振り抜き、

 

「チェックメイトよ。大人しく投降しなさい」

 

右側にある装甲脚の付け根を突き刺した。

ミステリアス・レイディの力が凄いのか楯無さんの技量が凄いのか、ランスは巻紙の身体を傷つけずに機体を貫き、その矛先は地面にまで達している。

 

「まだ続けるのかしら♪」

 

機体はボロボロ、何か武器を展開するにしてもそれより先に楯無さんの反撃がくるのは明白。ランスで縫い付けられているから逃げることも出来ない。

 

だが巻紙は、予想外の、そして想像しえなかった行動を実行した。

 

彼女は自分の手と装甲脚で機体に深々と突き刺されたランスとミステリアス・レイディの脚を掴む。バイザーの向こうに見える巻紙の唇が、その両端がニヤリとつり上がり、

 

「チェックメイトなのはてめぇだ!!」

 

そう叫ぶと彼女の姿が変化する。

機体を含む全身が部分的に不規則な膨張が起こり、身体が膨らみ始めたのだ。まるでポップコーンの調理過程の様に、袋に入れたコーンが弾けてボコボコと膨らんでいってる風にも見える。

 

楯無さんは何がおきているのか分からずに、ランスを引き抜こうとするがアラクネの腕はピクリとも動かない。

 

不可解な現象が現在進行形で進んでいるのに、脳裏には何故か唐突に、忍野と出逢った時の事を思い出していた。

場違いにもほどがあると頭を振り、アラクネを注視するが“ポップコーンの調理過程”と思えたあの膨張の終点がどんな現象なのかなど容易に想像がつく。

急いで二人のもとへ飛んで、

 

「楯無さん!!」

「えっ、ちょっと////!?」

 

楯無さんの後ろから抱きしめる。

そしてアラクネから引き剥がすように楯無さんを抱いたまま後ろに跳び、背をアラクネに向け自分が盾になるようにする。さらにその上にホルスタービットが重なるようにして集まりきったのと同時に。

 

ーーー喝!!

 

強烈な閃光とともに巻紙の身体が破裂して大爆発、その火球は周囲にある物全てを吹き飛ばし、二人もその爆発炎に巻き込まれていった。

 

 

019

 

 

「楯無さんッ! 大丈夫ですか!?」

「えっ、ええ、大丈夫よ。その、ありがとう////」

 

爆発から守るためとはいえ、サバーニャの装甲越しとはいえ、男性に抱き留められたことに鼓動が早くなる楯無。その表情は恥ずかしいのか嬉しいのか判断し辛いもので、やや赤みを帯びていた顔のまま放心状態になっていた。

 

そんな彼女に目もくれず、一夏は辺りを見回す。

部屋には爆煙と塵が蔓延して視界が悪く、爆心地の天井には大穴が開いて瓦礫が散乱し、そばにあった支柱も根元からなぎ倒され爆発の威力を物語っていた。ロッカーやベンチなどは潰れたアルミ缶のように吹き飛ばされ、物によっては壁や他ロッカーに突き刺さっていたりしている。

アラクネに刺したまま捨てたランスも原形を留めていなかった。

 

「高性能火薬・・・じゃないな」

《あれは・・・何じゃったかのお。ああここまで出掛かっておるのじゃが》

 

授業で習った爆発の仕方とは違っていたことを思い出す。忍には何か心当たりがある以上、マトモな爆発物ではないだろうし、そもそも人間が膨張して肉片一つなく自爆する兵器など、()()では存在しない。

 

「怪異・・・」ボソッ

「よく分かったな。さすが、()()()()()()()()()()()()()()なだけはあるぜ」

 

破壊されていない支柱の影から姿を現したボロボロのISを身に纏う女性、それは先ほど爆散したはずの巻紙だった。

だが格好をつけて現れた途端、アラクネの装甲脚が煙とスパークを発して動かなくなった。『清き熱情』のダメージと先ほどの偽物の自爆が原因なのであろう。

 

「もうイカレたのかよ・・・。関節脆過ぎんだろ」

 

愚痴りながら彼女はISから降りるが、一夏はそんな声が聞こえない程に、彼女の一言が頭の中で繰り返し再生される。

 

“ハートアンダーブレードの眷属”

 

彼にとってそれは聞き捨てならない言葉。今まで隠してきた自分の正体を知る人物である事を示し、自分(怪異)を狩る側である事を名乗るに等しい台詞。

 

自分は“専門家”であると。

 

「そう殺気立つなよ。てめぇとの勝負(殺し合い)はまた今度だ!」

 

そう吐き捨てると巻紙は偽物が自爆した時に崩落した天井の穴から、ISから抜き取ったコアを片手に逃げようとした。

まずは目の前の女をとっ捕まえなければならない、と頭より先に身体は動きだす。逃がしてはいけないと本能的に理解していたのだ。

 

「ほら駄賃だ! 受け取んなガキ!」

 

彼女はそれを嘲笑うかのように、手に持った何かを一夏目掛けて投げる。

 

その何かはボンっと白煙を纏った直後、煙の中から羽ばたかせ燕となり飛来する。しかしそれは白一色で無機質な姿をしており、まるで粘土で作った人形に見える。

その人形はホルスタービットの隙間をかいくぐり、サバーニャ本体に最接近したところで。

 

「喝ッ!」

 

巻紙の声に反応して爆発する。

撒き散らされる爆炎は手榴弾クラスでバーニャへのダメージは軽微だったが爆風に煽られ転んでしまう。

 

「一夏くんッ!?」

 

爆発音にようやく現実に戻って来た楯無は一夏に駆け寄り、その無事に安堵するが、当の一夏は冷静さを欠いていた。

 

《絶対逃がさねえぞ!!》

《しかしお前様。追撃しようにもあやつの方が上手じゃ。見てみい》

《うん?》

 

忍に促されて顔を起こして見ると、追跡を阻むように、蜂を模した粘土細工が網のように点在していた。

大きさは先ほどの鳥に比べれば小さく、その場でホバーリングしているだけだが数が多い上に、人の通り抜ける隙間がないように配置されている。

 

(ビットだけなら何とか抜けれそうだが・・・)

 

これ全てが爆発するのであれば、下手に近づけない。最悪、巻紙が残した蜘蛛のような機体も自爆するかもしれない。

 

一夏と楯無の二人は、彼女が逃げていくのを黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

020

 

 

~セシリアサイド~

 

「ラウラさん!」

「分かっている! 本部、これより爆発地点へ急行します」

『敵の増援があるかもしれん、全周警戒を怠るなよ』

「「了解!!」」

 

学園の上空で待機していたわたくしとラウラさんは、ハイパーセンサーが爆発を検知しました。

 

すぐさま煙の上がっている地点へ向かうと、アリーナ横の地下施設が爆発されたようでそこには大きな穴が開いています。綺麗に整えられていた並木道は見るも無惨に破壊されいました。

 

(あそこには更衣室があっただけの筈ですが・・・?)

 

破壊工作が目的なら学園の中枢などを狙うはず。しかしあそこは学園本館からは遠く離れて壊したところで何のメリットもないはず。

 

!! しかし離れていると言うことは人目につかない場所で、誰かを襲撃するのには持ってこいの場所。今連絡が取れていない専用機持ちの方は一夏さんに忍野さん、そして生徒会長の更識 楯無さんのお三方のみ。

 

誰かが襲われているのならすぐに助けに行かないと。そう思い立ち崩落した穴を拡大投影すると、そこから明らかに学生や学園関係者とは思えない女性が這い出してきました。

 

(あの方が襲撃者ですわね!)

 

この非常時に爆発現場から出てくる不審者となれば、それは犯人であることはほぼ確定で、そうでなくとも重要参考人と見なされるのは当然の判断。逃げられる前に拘束しようと降下すると。

 

「セシリア!!」

 

ラウラさんの声と、高熱源を感知したセンサーのアラートがわたくしの耳に飛び込んできました。

 

身を翻して接近する熱源のコースを回避すると、通過したのは高出力の収束レーザー。

敵襲!? すぐに向き直ると、蝶を彷彿とさせるデザインのISが接近してきていました。しかしそれは、わたくしの良く知る機体で、ここに来てほしくなかったIS。

 

「サイレント・ゼフィルス!?」

 

先日起こった輸送中の事故以来、行方知れずになっていたブルー・ティアーズの後継機にあたるBT(ブルー・ティアーズ)二号機。エネルギーシールドを展開するシールド・ビットを試験的ながら実用可能なレベルで搭載したイギリスの最新鋭機。

強奪されたとも囁かれながらそんな事はないと願っていましたが、ここに現れるとは・・・。

 

ですが今は襲撃者として対象しなければ。

 

すぐさまレーザーライフルで狙撃を試みましたが、まるで狙っている場所が分かっているかのようにシールド・ビットで防がれて命中しません。

ラウラさんのレールカノンはさすがにビットでは防ぎませんでしたがやはり命中はしません。

 

ならばと射撃ビットを射出しましたが、ゼフィルスの持つレーザーマシンガンの餌食となり全滅。逆に4機の射撃ビットを射出されて一気に窮地に立たされてしまいました。

わたくしを上回るビット6機の同時制御をしながらもその動きは滑らかで隙がなく、狙撃やラウラさんの砲撃は壊すことが叶いません。

 

「それなら!」

 

現状を打破しようとミサイル・ビットを発射し、大きく迂回させて本体であるサイレント・ゼフィルスの死角から突進させました。

しかしビットから放たれたレーザーが孤を描いて()()()、砲口よりも後方にあったミサイルが撃ち落とされました。

 

(これはっ・・・偏光制御射撃!?)

 

BT兵器の高稼働時に可能となる発射したレーザーの弾道制御。しかしそれには高数値の脳量子波とBT適性が必要とされ、現在はわたくしが最高値のはず。

それが、どうして!?

 

 

「貧乏クジを引いたのはイギリスとドイツの餓鬼か」

 

ゼフィルスの横に並ぶように飛んできた容疑者の女性。

 

先ほどまで地上に居た彼女は、巨大な白い鳥らしき何かの背に立っていました。ですが現実に人が乗れるほど大きな鳥は存在しませんし、何よりその鳥は彫刻か人形のように無機質で生気を感じられません。

 

「IS・・・ではなさそうですが、何でしょうか?」

 

鳥を模した飛行装置が開発されたなんて聞いたこともありませんし、あれだけの巨体が何故先ほどまでその姿が目視できなかったのか気になります。

しかし彼女を捕まえるには迎えに来たと思われるサイレント・ゼフィルスに勝利しなければならず、今のわたくし達二人にはほぼ不可能な条件。

 

サイレント・ゼフィルスが再びわたくし達に

レーザーマシンガンの照準を向ける。

負けたくない。ブルー・ティアーズ(この子)の妹も呼べる機体を奪い、あまつさえそれを悪事に利用する彼女には負けたくない。そんな気持ちばかり先走るが、何も出来ないまま互いの睨み合いが続く。

 

いざとなればオルコット家の威信を賭けて、差し違えてでも・・・。

そう覚悟を決めようとした時。

 

「ッ! まずッ!」

 

鳥の女性が突然慌てだし、手を突き出して体を捻るように引き戻すと、サイレント・ゼフィルスは見えない糸で繋がったその手に引っ張られたとしか思えない、跳ねるような動きで後ろへと大きく下がった。

 

その刹那。

紅く禍々しい巨大な光の束がわたくし達と襲撃者を分断するように伸び、ゼフィルスの手にあったマシンガンを飲み込みそのまま雲を貫く巨大な柱と君臨しました。

 

その膨大な熱量で発生した暴風の乱気流がゼフィルスの展開していたビットが全て吹き飛ばし、かと思えばわたくし達の機体は姿勢制御に勤めなければ引き込まれるほどの引力。

 

「何ですのこれはッ!?」

「引き込まれたら終わりだぞ!!」

 

最初は忍野さんの援護かと思いましたが、すぐにわたくしはそれが誤りだと気づきました。

確かにあの方の使われるビームは紅い色。けれどもこれほどまでの高出力火器は装備されていなかったはずですし、今目の前を通過しているビームとおぼしき光線は赤黒く、そして悪意を凝縮した気配のようなものを撒き散らしています。

 

僅か数秒、しかし体感では何分も経過してから光は弱く収束していき、最後は束としての形を失って霧散しました。

光が消え発射点が確認出来るようになると、わたくし達は戦慄しました。そこには学園の天井が見えていましたがそこには内側から破壊されたとわかる大穴がポッカリ口を開いており、辺りには瓦礫が散乱、穴の断面は高温に晒されマグマの如く、赤くドロリと溶けているのが見て取れます。

 

「下手くそな砲撃だな。退くぞ」

「・・・離脱する」

 

声を耳にして視線を正面に戻しますと、鳥の女性とサイレント・ゼフィルスは離脱を始めており加速していました。

 

「待ちなさい! ブルーテーーー

「追うなセシリア!」

ーーー分かってます! 分かってますが、それでもッ!!」

 

逃走する二人を追いかけたいのは山々でした。しかし先ほどの砲撃と思われるビームが、はたしてどちらを狙ったものか分からない以上、最悪の場合挟み撃ちにされる危険性がありました。

 

だからラウラさんはわたくしを行かせまいとしてくれたのは分かっています。

けれどもあの機体は、わたくしの愛機を否定する物で、それがテロリストの手に渡ったなど許せません。

 

敵が目視困難なほどに飛去った後、漸く先生方の機体が上がって来ましたが、わたくしはずっと雲の向こうを睨み付けたままでした。

 

 

 




ダラダラと下手くそな話を書きはじめてもう二年目。いつも読んでくださっている方々に感謝しつつ、これからも読んでいただけるように頑張らせてもらいます。

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