(・∀・)たまご!
朝起きた時から、その予兆はあった。
確かに、昨晩はアリスと一緒にワインを2ボトルほど空けたが、それくらいで二日酔いになるような体ではないし、そもそも二日酔いとはまた違った倦怠感。
平な地面のはずなのに、どうしてかまるで坂道に立っているように感じてしまう。
いったい何事かしら?とは思いつつも、お店の方へ行き、店を開けるための準備を行う。先日、鶏卵が手に入ったので、今日のメニューは玉子料理にしよう。
卵。栄養のバランスが非常に良く、完全栄養食品なんて言われるね。食物繊維やビタミン類なんかは少々不足しているけれど、それでも豊富な栄養を持っていることは間違いない。
加熱して食べられることが多い食材。でも、生の卵をそのまま白米へかけ少しの醤油なんかをかけてから食べるのも美味しい。流石に殻を食べることは少ないけれど、多くの料理へ使われ、どんな料理にだって合ってくれる優秀な食材。
そう言えば、たまに卵を割ってみると黄身が二つ入っていることがあるよね。二黄卵とか、にこたまなんて言われるけど、あれは産卵期間もない若鶏が産む卵らしいよ。
また、卵の殻の色は主に白と赤。赤色の方が値段は高い。けれども、赤と白で栄養価の違いとかそう言うのはなく、ただ卵を産む鶏の種類が違うだけみたい。
さてさて、そんな卵だけど何の料理を作ろうか。オムレツとかお洒落で良いよね。
うむ、それじゃあ今日はオムレツにしよう。久しぶりだから上手く作れるのかはわからないけど、きっと大丈夫なはず。中身がトロットロのオムレツ作ってやんよ。
そして、卵を一つ手に取ろうとしたとき異変が起きた。
「おろ?」
卵へ伸ばしたはずの手が空を切った。何故か上手く卵を掴むことができない。視界もボヤけ始め、目の焦点が定まってくれない。一つの卵が二つに見える。
おお、卵が増えた。
「ん~……うん?」
なんでしょうか、これは。頭はボーっとするし、暖かい季節なはずなのに、寒気もする。
――そして急に景色が傾いた。
「あ、れ……?」
ホントどうなっているんだ?先程まで僕の足元にあった景色が、今は目の前にある。立ち上がろうとしても、手足に力が入らず起き上がることができない。
ボヤけていた視界はさらに酷くなり、まるで世界が回っているようだ。くるくる、くるくると目ま苦しく回る世界。これは目が回りますね。
ははーん。
なるほどこれは……風邪だな?
其処で、僕の意識は途切れた。
――――――――
風邪をひいた時とか、身体が弱っている時に見る夢には禄なものがない。真っ暗な世界をひたすら歩き続けたりとか、何かに追われていたりとか……
今だって、どうしてなのかはわからないけれど、僕は転がってくる大きな石からひたすら逃げているところだ。
これは夢。
そんなことはわかっている。
けれども、今の僕にはその夢から逃げるだけの体力がないのです。風邪ひいてるもんね。仕方が無いね。
だから、できることなら早く、自然にこの夢が終わってくれることを願うのです。
目が覚めると、そこは何故か僕ベットの上だった。何かの夢を見ていた気もするけれど、覚えてはいない。まぁ、忘れてしまうような夢なのだから、大したことではないんじゃないかな。
それにしても、どうして僕は此処で寝ているんでしょうか?誰かが此処まで運んでくれたんだろうけれど、それが誰なのかわからない。
しっかし、風邪かぁ……もう何年も風邪をひいたことなどなかったから、何事かと思い随分と慌ててしまった。そう言えばこんな感覚だったね。
「おはよう。気分はどう?」
そんな声をかけれられた。重い頭を動かし、其方を向くと青と赤の独特な服を着た少女が一人。君が僕を運んでくれたの?
「や、おはよう。永琳」
さてさて、今は何時なんだろうか?相変わらず身体は怠いし、気分も悪いから店を開けることはできないけれど。
「驚いたわよ。店の中へ入ったら貴方が倒れているんだもの」
「そりゃあ、迷惑かけたね。ああ、此処まで運んでくれてありがとう」
まぁ、驚くだろうね。家の中へ入ったら人が倒れているとかホラーでしかない。もし僕が死んでいたら、永琳が第一発見者。警察からの事情聴取は待ったなしだ。
「それにしても、貴方でも風邪をひくのね。何か欲しいものとかある?」
「人の温もりが欲しいです」
「莫迦言わないで。水は?喉渇いてない?」
軽くあしらわれた。寂しいね。
「別に喉は乾いてないよ」
「食欲は?」
「そんなにないかな」
う~ん、食生活を乱した覚えもないし、風邪をひく理由が思い当たらない。季節の変わり目ってことでもないしなぁ。まぁ、こういうこともあるのかね。
「そう、わかったわ。ちょっと厨房借りるわよ。何か料理を作ってくるから」
「えっ?」
「……何よ、その顔は」
だってねぇ、永琳が料理作るとか想像できないもん。いつも鈴仙に作らせているイメージ。それに、嬉しいことではあるけれど、あまり迷惑をかけるのも申し訳ない。どうせ寝ていれば、そのうち治るだろう。
「失礼ね。別に料理くらい作れるわよ。じゃ、できたら起こしてあげるから寝てなさい」
「ホ、ホントに大丈夫?包丁は逆手で持つ物じゃないからね?お米を研ぐとき洗剤を入れちゃダメだよ?それと、生卵をレンジで温めると……」
「いいから寝てなさい!」
怒られた。大丈夫かなぁ……
心配ではあったけれど、残念ながら起き上がる元気もなく、寝ていることにした。それに、もし起き上がったら永琳怒りそうだし。変な薬とか入れてないと良いけど……臨床試験は遠慮したいところです。
「って、やっぱり寝てないのね……」
心配に胸を凹ませ、うだうだ考え事をしていると、小さめの器と蓮華を持ちながら永琳が帰ってきた。
心配だったんです。寝られなかったんです。仕様が無いね。
器からはゆらゆらと湯気が立ち上り、微かに鰹出汁の香り。お粥かな?
「とりあえず食べなさいな」
「ありがとう」
どうやら永琳が作ってくれたのは、玉子粥らしく綺麗な黄色のお粥がちらりと見えた。簡単な料理ではあるけれど、ホントに料理できたんだ。正直、意外です。
栄養もバッチシだし、弱った身体にはよく効きそう。
「自分で起き上がれる?」
「ちょっと厳しいです」
相変わらず身体には力が入らず、情けないけれど起き上がることもできない。風邪ってこんなに辛かったかねぇ?本当に久しぶりだから、これはこれで新鮮な気分。
ま、当分は遠慮したいけどさ。
永琳の手を借りながら、なんとか体を起こす。色々と助かります。
「すまないねぇ、婆さんや」
ついつい、口からそんな言葉が落ちた。
永琳を見ると、右手を振り上げている様子。ヤバい叩かれる。
そう思って、ギュッと目を瞑ったけれど、なかなかその拳は振り下ろされない。
じ、時間差攻撃ですか?
恐る恐る目を開けると、はぁ、とため息を落とし、呆れたような永琳の顔。
「ほら、温かいうちに食べる」
おろ、今日は優しいんだね。いつもこんな調子なら良いのに。
永琳から器と蓮華を受け取り、卵粥を少しばかり掬って息を吹きかけ温度を下げる。仄かに香る出汁はいつもならきっと食欲を唆ることだろう。うん、美味しそうです。
もう充分冷めたかなと思ったところで一口。
熱い……
ふむ、今の僕には手に負えそうにないな。また今度挑戦しよう。
「諦めないの。莫迦やってないでちゃんと食べなさい。薬だって飲まなきゃいけないのだし」
怒られた。しかし、熱いものは熱いのです。
やっぱり猫舌って損だよね。
その後、ゆっくりと時間をかけながら、永琳の作ってくれたお粥をどうにか食べきった。薄い塩味と玉子の甘さがなんとも良い感じに混ざり合い。なかなかに美味しい料理でした。
最初は料理なんてできないんじゃないかと疑ってごめんよ、永琳。これで、僕の中の永琳の評価は一気に上昇しました。
「薬だけど……粉薬と座薬、どっちが良い?」
「粉薬に決まっているでしょうが。なんですか?永琳さん僕の尻見たいの?」
流石に叩かれました。優しくだったけど。
そして、渡してもらった粉薬を水と共に喉へ流し込む。
「……苦い」
「薬なんてそんなものよ」
良薬なんとやらと言うやつだろうか。本当の良薬なら苦くなく、美味しい物にしてほしい。それが本当の良薬ってものだろう。まぁ薬とは毒の裏返し、頻繁に口へ入れてもらっても困るかもしれない。
さてさて、お腹も満たされ今は幸せな気分。目蓋は下がり始め、今にも寝てしまいそう。
「うん、そのまま寝なさい。起きるまで傍に居てあげるから」
別に居なくても大丈夫だよ?
まぁ、居てくれるのならそれは有り難い事ではあるけれど。風邪をひくとどうにも心細くなるものね。
「永琳」
「うん?」
「ありがとう」
「……どういたしまして」
色々言ったりはしたけれど、ちゃんと感謝しています。目が覚めても一人ではないのは、やはり嬉しい。
それじゃ、おやすみなさい
読了、お疲れ様でした
季節の変わり目で体調を崩しやすい季節ですね
お体には充分お気をつけてください
卵のお話が少なかったですが、文字数増えるのも嫌でしたしこうなりました
では、次話でお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております