ほのぼの日常系からの路線変更の影響がこんなところで、でてくるとは……
本丸にて始動
何故、そのお役目を引き受けたかと聞かれれば、理由は無いと私は答えるしかない。拉致当然に連れて行かれたのだから、無くても仕方がないだろう。
ただ、もう一度合わせてやると言われたから、何も言わずに従っただけだ。
兎も角、私の理由などどうでもよい。
今日は記念すべき、お役目の初日だ。
陰陽師の式の様な面妖な狐に連れられて来た本丸は、酷く閑散としており、退屈である。
庭の桜は爛漫と咲き誇り、散り乱れる様は大層美しい。
しかし、私は元より花を愛でる趣味を持たず、雅を解する心も持ち合わせてはいない。
酷く、暇だ。
あの面妖な狐は、私を放りだして何処へ行ったのだろうか。
暇だから、歌でも詠もうかと思ったが、実直に鉄を打ち続けてきた私にはそんな事は出来なかった。
本当に何もすることが無いので、滅多に使うことのない端末を使い、書いたこともない日記を書いているのだが、それにしても暇だ。
そうだ、自己紹介の文面でも考えておこう。うん、それがいい。
私は三条三月……いや待て。確かに私の名前は三月であるが、それはつけられた名であって、本来の名ではない。
しかし、あの名を不用意に出してしまってもよいのか……確かに、襲名し、真の名を取り返したが、変に疑われても面倒臭い。
うん、私の名は三条三月だ。今日から、おぬしの主だ。
……こんなので、かまわないだろうか。
しかし、これではあまりに素っ気無い自己紹介だ。
相手の出方を見るとしよう。
ちょうど、狐が戻ってきた。
うむ、何故やら一振りの刀を咥えている。
あれでは、涎がついてしまうではないか。
とにかく、今日の分の日記はここまでだ。
~・~・~・~・
「こちらが山姥切国広です」
面妖な狐…もとい、こんのすけは咥えていた打刀を少女に差し出した。
少女は刀に涎が付いていないかどうか確認してから、刀を受け取った。
こんのすけが運んできたこの刀は、堀川国広と呼ばれる刀工が、山姥切と呼ばれる備中長船長義の刀を写して作ったもので、堀川一門の最高傑作と謳われている名刀だ。
少女はまじまじとその刀を見定めた。
その目は名工と謳われる刀工のそれで、こんのすけは少なからず驚いた。
「こんのすけとやら。これに命を吹き込めば良いのだな?」
「は、はい。そうです」
「ならば、さっそくやろう」
少女は両手で刀を持ち、目を閉じた。
精神統一をする為に、軽く深呼吸をし、山姥切国広に祈りをこめた
そして、祝詞を唱えるべく、口を開いた。
「天清浄地清浄内外清浄
六根清浄と祓給う
天清浄とは
天の七曜九曜二十八宿を清め
地清浄とは
地の神三十六神を清め
内外清浄とは
家内三寳大荒神を清め
六根清浄とは
其身其體の穢れを
祓給い清め給ふ事の由を
八百万の神等諸共に
小男鹿の八の御耳を振立てて
聞し食と申す」
凛とした声が、響いた。
祝詞を紡ぐ清らかな声は、弛まず流れ続け、山姥切国広に宿る魂を振るわせた。
祝詞を紡ぎ終わった瞬間、少女の瞼の裏に青い、青い湖畔が現れた。
ヒラリと桜一輪、舞い降りた。
「山姥切国広だ。・・・・・・何だその目は。写しだというのが気になるのか?」
現れたのは金糸の髪と蒼穹の瞳を持つ、年若の青年であった。
とても整った顔立ちをしているのに、ぼろきれを被り、自分を隠す姿が少女には不思議であった。
「三条三月だ。これから、私がお前の主だ」
「審神者様! いけません!」
「何だ、こんのすけや。そないに可笑しな自己紹介であったか?」
「刀剣男子に名を名乗ってはいけません! 彼らは付喪神、真の名を教えてしまっては危険です!」
少女はこんのすけの言葉に、ポカンと口を開けた。
しかし、次の瞬間、少女は恐怖に屈した表情ではなく、大胆不敵な笑みを浮かべた。
「山姥切や。私に仇をなす心はあるか?」
「……ない」
「それはよかった。心優しいのだな、お前は」
少女は打って変わって、優しげな微笑を浮かべた。
その笑みは十五の少女が浮かべるようなものではなく、人生に満足した老成の物のそれであった。
だが、少女の十五には見えない大人びた容姿と声色と合わさり、とても美しいもので、山姥切は目を見張り、見惚れた。
「…あんたが俺を呼んだんだな?」
「いかにも」
「あんたの祝詞、すげえ綺麗だった・・・・・・写しの俺なんかには勿体無いくらいに」
山姥切はそう言い、顔を背けた。
少女はぼろきれに隠れた顔が、苦渋に満ちたものだと気が付いた。
“写し”とは贋作とは違い、作風を真似て作ったものだ。作られた時点では、立派な作品である。
それは、少女も理解している。
だが、山姥切は写しであることを疎んでいる様にも見える。
『写しは本科を超えられない』という言葉に縛られているのだろうと、少女は思った。
「山姥切や」
「なんだ?」
「お前は堀川一門の最高傑作として、自分が有名であることは知っておるか?」
「……そんなの、ただの皮肉だろ」
「そんなことあるまい。刀は本物か偽者かではない。どう働き、主人の役に立ったかどうかだよ。
お前は役に立ったからこそ、この現に名を馳せているのではないか? ん?」
「そんなことッ……! そんなこと……」
山姥切は少女の言葉に、頬に熱が集まるのを感じた。
俯いて顔を隠す山姥切が可愛らしく、少女はコロコロと笑った。
「山姥切や。可愛らしいものを見せてくれた礼に、このじじいの真の名を教えてやろう。」
「は? あんた、女だろ? じじいって……」
「三条小鍛冶宗近。お前も聞いたことあるであろう?」
「は……? その人はとっくに死んでるぞ…」
冗談は止せと、山姥切は少女に眼で訴えた。
しかし、少女は笑って首を横に振った。
その瞳に、嘘の色は見えない。
「五十八代目三条宗近、ならびに三条派の始祖、三条小鍛冶宗近の魂を持って生まれたのは三条三月だ。」
生まれ変わり……
そう理解する前に、山姥切はキャパオーバーで倒れた。
一話にして、まんば陥落
次回から、三条派の刀剣が続々出てくるので、楽しみにしててください
ちなみに、次回出てくる予定の子は『とんだりはねたりおてのもの!』だそうです