今代の三条小鍛冶宗近、参る   作:うすらい

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非常に遅くなり、まことに申し訳ございません
リアルが忙しかったのと、文字数がやたら多くなり、かなり内容が濃くなったのが、遅れた原因です
本当に申し訳ありません


ついに! 敵襲終わりです


三月の途方もない考察

 「あなた方の傲慢、この鬼切安綱が切り捨てて差し上げましょう」

 

 

 凛と響いた声は嫋やかであるが、強く、確かな殺気を感じさせた。

 紺地の質の良さそうな布に銀で装飾が施されたマントは風でなびき、透き通っていると勘違いするほどに、磨き上げられた刀身は月光に照らされ、目に痛いほどに眩しかった。

 今剣は鬼切安綱の広いようで、狭い背中を見上げながら、心の奥底で安堵するのを感じた。自分は助かったのだ、と。

 

 

 

 守りを捨て、速さを選び取ったことが分かる彼の戦装束は鎧の類が見当たらなかった。鎧とうものはあるだけで、心強いものなのだが、逆に言えば無いと怖くて懐に飛び込めやしない。そんな代物だ。

 だが、鬼切は恐怖など感じないと言わんばかりに、敵の槍の懐に飛び込み、横一文字に源氏重代の太刀と謳われたその刃を薙ぎ、たった一発で、検非違使を沈めた。

 たったの一撃だ。しかも、僅かばかりの抵抗すら許さずに仕留めた実力に、畏怖を感じずにはいられなかった。

 

 

 大原安綱が打った双剣は未だ衰えていない。

 今剣は生唾を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 

 

 

 「兄様! ご無事ですか!?」

 

 

 「ああ。童子切。あなたも無事ですか?」

 

 

 

 夜の闇の中で目立つ銀髪を振り乱しながら、童子切と呼ばれた少年は鬼切に飛びついた。銀髪なのは鬼切も同じであるが、肩の上で切りそろえられたショーットカットの髪型と銀細工の揺れものの髪飾りが兎に角目を引いた。

 幼さが残る可愛らしい顔立ちと、腰に下げた長めの太刀がアンバランスであった。

 

 

 

 「いきなり俺を振り切って、一人で敵陣に突っ込まないでくださいませ!! 何度もその様なことをされては、この童子切、命が持ちませぬ!!!」

 

 

 「何とも大げさな。私が負けないのは、あなたが良く知っているでしょう?」

 

 

 「だとしてもですぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!」

 

 

 

 鬼切は童子切の切実な懇願を、綺麗な笑顔で流した鬼切は辺りを見渡した。

 そして、その凄惨な状況に美しい顔を顰めた。

 

 

 

 「……これは想像以上に酷いですね。今剣、あなた方の主は何処(いずこ)へ?」

 

 

 

 鬼切は未だに小刻みに震える、今剣の薄い肩を撫でながら、問うた。刃の様に怜悧な美貌からは想像できない、暖かな手のひらだ。

 今剣の冷えた肩にその温もりは染み渡った。

 

 

 

 

 「……ととさま、ぼくらのあるじさまはしゅうげきまえは、かじばにいました」

 

 

 「襲撃前? ということは、今の所在は不明ということですか?」

 

 

 「鍛冶場……そうなると、まずいですね」

 

 

 童子切は口に手を当て、思案する様子を見せた。

 恐らく、他の刀剣も自分たちの陣営が保護しているはずだ。だが、審神者らしき霊力の気配は二人には一つしか感じられなかった。

 今剣たちは二人の様子に、焦燥を感じた。

 

 

 

 「童子切。我らの主はいったい何処にいる?」

 

 

 「うげっ……三日月の爺さん」

 

 

 

 童子切は顔をしかめ、自身の腕を掴んでいた三日月から距離をとった。

 その反応に、鬼切たちは首を傾げた。

 

 

 

 「……三日月殿。三条殿は恐らく、私達の主が保護されていると思います。ですので、ご安心ください。私達の主は強い」

 

 

 「あ。それと、この本丸の刀剣から犠牲者は出ていません。負傷者はいますが、手入れで直る範囲ですので、安心していいですよ。というか、あなた方が一番重症です」

 

 

 「そう、か……」

 

 

 

 三日月は憑き物が落ちたかの様な顔で、小さく呟いた。右目から一筋の涙が流れ、顔の輪郭を伝い、地面へ落ちた。

 安堵で力が抜けた体は容易に崩れ落ち、三日月は地面に手をついた。

 心にどれだけの負担がかかっていたのだろうか。鬼切は優しく、震える背中を撫でた。

 

 

 

 

 

 「()()()()……父上を守ることができたのだな…」

 

 

 

 

 

 ゾクリと、背中が粟立った。

 何か……恐ろしいことが起こっている気が、したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 

 

 

 

 ジャックは殆ど炭化した鍛冶場の前にいた。

 鍛冶場だけではなく、土も燃え、酷い有様ではあったが緑が芽吹き始めている。恐らく、霊力による自動修復機構が機能し始めたのだろう。これなら、心配はいらない。

 昨夜まで半壊であった本丸は妖精さんの力により、新築同様となっていた。ジャックは新築はこんなにも綺麗なのかと、どこか見当違いのところに感心していた。

 

 

 「それにしても……随分と広い本丸だ」

 

 

 通常、審神者の霊力本丸は塀の中までしか具現化されない。それはどの本丸にもいえることだ。

 だが、三月の本丸はその堀を越えた先まで、三月の霊力のみ作られているのだ。さきほど、塀の回りを一周してみたが、山だけではなく滝まで作られていた。とんだ想像力と霊力の質の高さだ。人間の域を軽く超えてる。

 

 

 

 「あ。ここにいたんですか、主」

 

 

 「童子切」

 

 

 

 童子切は幼さが良く目立つ、にこやかな笑みをジャックに向けた。

 昨夜とは違い、帯刀していない姿はただのか弱い少年のようである。

 

 

 

 「報告します。本丸の復旧は約七割完了です。刀剣達の手当ても、全員完了しました。三条殿は未だ目を覚ましていませんが、恐らく大丈夫でしょう。重度の霊力の枯渇が原因なので、しばらく眠れば、必ず回復します」

 

 

 「そうか……悪いな、疲れているところ」

 

 

 「そう思うなら、敷地の中にいてください。勝手にフラフラ歩かれたら、困ります」

 

 

 「はいはい」

 

 

 「絶対、反省してないじゃないですかぁ!!」

 

 

 

 ジャックは適当に手をヒラヒラと振りながら、童子切に背を向けた。

 そして、妙なことを尋ねた。

 

 

 

 「なぁ、童子切。三条宗近って、どんな人だったんだ?」

 

 

 「三条殿……ですか? 私達の刀工よりも若い方でしたが、立派な方でしたよ。彼の作品を見れば分かることですが、自身の打った刀に深く愛情を注いでました。

 ……素晴らしい方でしたよ。あれほど神格の高い付喪神が、五振りも顕現が確認されているんです。三条殿の魂が神に近しいものであったのでしょうね」

 

 

 

 「……なるほどな」

 

 

 

 ジャックは遠くを見やり、思考した。

 唐突な敵襲。しかも、一番硬いセキリュティの本丸がいくつも被害を受けた。確かに、今の戦況は歴史修正主義者に対して、優勢とは言えない。だけど、そこまで進退窮まっていない。

 

 

 昨日の光景を幻視した。ちょうど、京都の池田屋に出陣していたから、たまたま夜戦部隊で駆けつけることができた。ミツバからのいきなりの連絡に戸惑ったが、あいつも一応役人だ。あれでも、審神者に死なれるのは不味いんだろうな。

 だが、それ以上に驚いたのが三月のことだ。

 一瞬にして、三十人以上はいたであろう兵が一瞬で消えたのだ。消える前、検非違使と繋がっている細い糸が切れる幻覚をみた。縁を断ち切ったと青江は言っていたが、人間如きが縁なんて大層なものを切れるはずがない。

 それに、不自然に塞がった右肩の傷とあの目。特に、あの目は……

 

 

 

 「なぁ、六花……どうして、あんたと同じ目をした奴がこの世にいるんだよ」

 

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 

 一寸先は闇とはよく言ったものだと、三月は感心していた。

 伸ばした手すら見えなくなるような濃い闇でも、己の精神を正常に保っていられるのは強靭な精神力か鈍感なだけなのか……

 兎も角、三月は騒いでも仕方ないと、その場に座った。

 

 

 

 「……しかし、暇とは人を狂わすものだ。独り言でも言わなければ、やっていけん」

 

 

 

 そう言い、瞳を閉じた。

 まぶたの裏側に広がるのは正しく、闇だ。微かに聞こえる音は自分の鼓動だけで、風の吹く音も、誰かの足音も、声も何もしなかった。

 気でも狂ってしまえば、楽になるのだろうか。三月は鼻で笑った。

 

 

 

 「誰か、蜘蛛の糸でも垂らしてくれんかなぁ……」

 

 

 

 そう言い、三月はせせら笑った。

 他力本願では決して、この暗闇から抜け出すことはできないだろう。ならぱ、自力で出口をこじ開ける。

 三月は立ち上がり、右手を掲げた。己の精神世界に近い場所ならば、操れない道理はない。

 

 

 

 「それでは、さらばとでも言おうか。いやはや……二度とこんなところには来たくないなぁ、うん」

 

 

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 

 

 ガクンッと三日月の頭が大きく揺れた。目の下には酷い隈があり、ここ数日寝ていなかったのだろう。座っていることすら、危うげだ。

 岩融や石切丸は自分が看病を交代するから、寝て来いと何度も言ったが、それでも三日月は首を縦に振らなかった。

 まるで、目を離した隙に三月が死ぬことを恐れているかのようだった。鬼切や童子切が死ぬことはないと再三言い聞かせても、三月の右手を側で握り続けた。

 昨日の出来事など無かった様に安らかな寝顔がせめてもの救いであった。

 

 

 

 「……父上」

 

 

 

 か細く、消え入りそうな声で三日月は呟いた。

 普段の威風堂々とした様子とは打って変わり、迷子の子供のようにその姿は頼りない。

 離したくない、離れたくない。そう思い、さらに強く三月の手を握った。

 

 

 

 

 「……ッ…」

 

 

 

 突如、小さな息遣いを三日月の耳は捉えた。

 そして、今まで力なく握られているだけであった三月の手が微かに動いた。

 

 

 

 「父上?」

 

 

 「……カハッ!! ゴホッゴホッ!!」

 

 

 「ち、父上!?」

 

 

 

 いきなり、激しく咳き込んだ三月の背中を慣れた()()()手つきで擦った。世話をされるのは好きだと言っていたが、その手つきは幾度と無く背中を撫でたことが一目で分かるものだった。

 苦しいのか、三月は更に背中を丸め、咳き込んでいた。

 三日月は自分の胸が不安でざわめくのを感じた。このまま三月が死んでしまうのではないか、在りし日の記憶が蘇る。

 そう、あの時、自分はまだ子供だった。刀として生まれて、一年にも満たなかった頃だろうか。父であった三条宗近は肺病を患っていた。それは今で言う職業病の様なもので、当時の刀工は高確率で患っていたのではないだろうか。

 三日月宗近は三条宗近の最期の刀であった。名だたる名剣名刀はいたが、俺が生まれた頃には誰も居なかった。俺だけがいたのだ。

 今でも偶に夢に見る。父の最期を。

 体は弱り、満足に動けぬまま、炎に焼かれ死んだのだ。そして、その火をつけたのは歴史修正主義者であった。きっと、父を殺せば、俺たちの歴史が改変されると思ったのだろう。

 だがしかし、三条派は不滅。我らは死なず。

 敵を討つまで、俺の戦は終わらないのだ。

 

 

 

 「……()よ、どうか死なないでくれ。俺はまだ、伝えてないことがあるのだ」

 

 

 

 確かに、父上は父上だ。だが、三条三月は三条宗近とは厳密には違う。三月は三月なのだ。ただ、巻き込まれてしまっただけなのだ。

 あの日の老婆に手を引かれていた少女は、もう何処にもいないのだ。

 

 

 

 

 「…ッ……そう易々と死なんさ。だから、泣きそうな顔をしないでくれ」

 

 

 

 「主……!!」

 

 

 

 「ただいま、三日月」

 

 

 

 「!! 帰って…来るのが遅いのだ……!! この大馬鹿者がッ!!」

 

 

 

 

 抱きついた時に聞こえた三月の心音は力強く、そして優しかった。

 

 

 

 

 

 

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で? もう話しても構わないのか?」

 

 

 「話すことを、私は禁じてはおらんよ。ジャック」

 

 

 「流石の俺でも、空気ぐらい読めるぞ」

 

 

 

 ホケホケと笑う三月にジャックは疲れた様にため息を吐いた。

 三日月が三月に縋り、泣いていた場面をバッチリ見ていた為、三日月とOHANASHIをしていたのだ。もちろん、平和的に和睦()出来たそうだ。

 ちなみに、三日月は恥ずかしかったのか、別室に篭っている。

 

 

 

 「して、ジャック。此度の敵襲……どこの手のものだ?」

 

 

 「……前々から思ってたんだが、あんたと三日月、そっくりだよな。前にも増して」

 

 

 「そうか? まあ、魂の根源が変わらぬのだから、さして不思議なことでもないだろう」

 

 

 

 「そういうことにしとくぜ。それで、今回の敵襲の犯人だが……まだ不明だ。昨日の今日だし、政府にもかなりのダメージがあったそうだ。最高レベルのセキリュティの本丸が二つ、それに順順ずるレベルのものが四つ襲撃されたそうだ。

 今回の襲撃で、政府お抱えの術者が三人死亡、六人が重症。……これで、新しい本丸の建設が延期になった。新しい本丸だけじゃなくて、既存の本丸にも次元の壁を構築する術式に揺らぎが生じているところもあるそうだ。

 犯人は分からねぇが、歴史修正主義者に優勢の座を明け渡しちまったことは確かだ。取り返すのには、時間がかかるぞ」

 

 

 

 「なるほどなぁ……」

 

 

 

 三月は曖昧に返事をして、考え込む様子を見せた。

 寝起きで頭は働きそうにもないのだから、理解に時間がかかっているのだろう。

 しかし、三月の口から出てきた言葉は予想外のものだった。

 

 

 「なぁ、ジャック。この襲撃、歴史修正主義者は全く関係ないのではないか?」

 

 

 「!? どういうことだ!!」

 

 

 

 三月は先日、ミツバから言われたことを思い出した。

 『政府は一枚岩じゃない』

 まさにその通りだ。

 

 

 

 「政府の術者の力を過信しているわけではない。だが、本丸の結界は一番下のものでも、一人の霊能力者が易々と崩せるものではないことも確かだ。

 そして、襲撃の実行犯は歴史修正主義者ではなく、検非違使だった。敵陣へ直接殴りこむのなら、己の兵を使えば良い。なのに、奴らは使わなかった。そればかりか、敵対しているはずの検非違使が実行犯だった。敵の敵は味方とも言うが、奴らが結託しているとは思えん。

 ……歴史に介入しているという点では、我々も奴らも変わらん。故に、検非違使は双方に敵対するのだろう。まるで、時の神の番人の様ではないか」

 

 

 

 「……それで?」

 

 

 

 ジャックは三月に続きを話す様に促した。

 “神”の番人。この言い方に、ジャックは違和感を覚えた。

 

 

 

 「例えば、検非違使を操ることの出来る者が、政府内部にいたとしたら? 歴史に介入する者を良しとせず、双方を亡き者にしたいと願うものがいるのならば……恐らく、奴らも襲撃されているだろう。

 何故、今この時に仕掛けたのかは分からぬがな」

 

 

 

 ジャックの背筋に一筋の冷や汗が流れた。

 恐らく、三月の言っていることは正しい。直感的に理解した。だが、到底、納得することは出来ない。

 自分たちは過去を、これからの未来を守る為に戦ってきた。それはこれからも変わらない。そう覚悟を決めている。それは、全うな審神者なら誰でも持ち得る覚悟だ。

 だが、三月の仮説は自分たち(審神者)の存在を全否定している。

 

 

 

 「じゃあ……審神者なんて存在は元からいらなかったのか?」

 

 

 「……私は人によって歪められた歴史は、人によって正さねばならないと思っている。確かに、検非違使がいれば、歴史の改変はなくなるだろう。

 だが、そこには何一つの慈悲はない。何せ、奴らは人間ではない。

 それに、厄介なことが人間を軽視している。奴らは歴史修正主義者や刀剣男士を狩っていくうちに、こう思うだろう。

 『人間の存在そのものが、歴史を歪めている。ならば、狩りつくせ。駆逐しろ。一匹も残すな』とな」

 

 

 

 「……!!」

 

 

 

 「そもそも、検非違使という呼称が悪かったのだ。まるで、奴らを人間の様だと錯覚させる。

 一時期、今剣が闇墜ちするなんて、根も葉もない噂があったことがいい証拠だ。

 なぁ、ジャック。検非違使という呼び名にしたのは……誰だったかなぁ」

 

 

 

 三月は儚げな笑みを浮かべた。

 そして、ジャックの思考回路はとある結論へ達した。

 

 

 

 有り得ない。そんなことって、有りなのかよ。

 ジャックは崩れ落ちそうになる体を叱咤して、何とか平静を装い続けた。




謎解き難しすぎた……

今回、良く三月が喋りました
というよりか、登場人物がこんなに喋るのが初です


次回から、長編に入ります!と言いたいところですが、ちょっと番外編に入ります
敵襲のせいで影の薄くなった雪海のお話です
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