今回は皆大好きなおじいちゃんの回です。
ようやく冬を越したと、あの人は安堵の息を吐いた。
空気の冷たい冬は息をするのが辛いと文句を言っていたから、早く暖かくなったのかと、冗談を言った。
俺はその冗談に笑いながら、いつにない血色のいい頬を撫でた。
あの人も俺に釣られて笑う。
何時もと変わらぬ朝だ。心地の良い、二人の時間。
あの人が今日も苦しげに空咳をした。
心配で背中を擦るが、一向に良くならない。
こんな時、どうしたら良いのだろうか。
このまま血を吐いて死んでしまうのではないかと、不安で、不安でしかなかった。
『大丈夫だ』と優しく微笑むが、その顔は酷く弱弱しく、息は荒い。
こんな時、人であったら。
永遠にあの人の隣に入れたのなら、何も望まない。
栄誉も、名声も、力も、美しさもいらない。
だから、その人を生かして欲しい。
だが、幸せな時は長くは続かない。
覚えているのは、業火に飲み込まれた屋敷。
そして、涙を流しながら笑う、あの人。
『その美しさを……天下に轟かせ…ッ!!!!』
三条宗近は、最期まで刀工であった。
三日月宗近はガラスに覆われながら、そう強く思った。
~・~・~・~・
三度目の瞼の裏の湖畔を見ながら、三月は心臓が嫌な鼓動をするのを感じた。
鞘に入った三日月宗近を、強く握り締めながら、三月は桜が舞い降りるのを見た。
背筋が粟立つ。思い出すのは幸せだった日々ではない。三日月に全てを押し付けてしまった、忌むべき日。
「ッ……‼︎ 聞し食と申す‼︎」
頼むー…‼︎ 三月は柄にもなく、強く願った。
ただ会いたいが為に、自分の目的の為に、引き摺り下ろす父を恨んでいるのかもしれない。
嫌われるのは恐ろしい。嫌だ。本当は会うのだって怖い。自分をどう思ってるか、聞きたくない。だが、逃げは許されない。
「嗚呼……」
シャラリと、金飾りの鳴る音がする。
びくつく内心とは反対に、瞼はすぐに開いた。
目に入るのは、見覚えのある三日月の意匠が施された青の狩衣。
紺碧の夜空の様な黒髪、三日月の浮かぶ瞳、記憶より成長した美しい青年の姿。
「お会いしとうございました。俺を作り上げた父よ。」
優しく微笑む姿に、憎しみの影など見えない。
「嗚呼……ッ!!」
喉が震える。歓喜に心が躍る。
喜びとは、まさにこのことだ。
「私も、今生で会えるとは思っていなかった。我が魂を分けた息子よ。」
恐怖など、とうの昔に消えうせていた。
~・~・~・~・
久しぶりに目を開けると、そこには見覚えのある少女がいた。
人の世で十年近く。時の流れとは早いものだと、場違いに感心していた。
老婆に手を引かれ、歩いていた幼さはどこにもない。
「嗚呼……」
「……!!」
少女の感嘆の声を聴いた瞬間、己の内側が強く揺さぶられるのを感じた。
自分の魂魄に強く鳴り響く声を、間違うはずがない。
幾星霜の時を超え、それでもなお愛おしい父を忘れるはずがない。
「お会いしとうございました。俺を作り上げた父よ。」
跪き、恭しく顔を見上げる。
すると、黒曜石の様な瞳には、千年前では終ぞ見ることは叶わなかった涙がゆらりと揺らめいていた。
自分が何か粗相をしたのか……不安に心がざわめいた。
「私も……今生で会えるとは思っていなかった。我が魂を分けた息子よ。」
「……!」
その声は歓喜に震え、小さな手は優しく俺の頬を撫でる。
昔と変わらない優しい手つきは、父のものであった。
「三日月宗近。父上が為に、我が剣を振るいましょう。」
無事におじじが出ました
ニキは次回になります
今回のアップデートの折に、無事に備後サーバー民となることができました
初期刀は加州と迷いましたが、ログインボイスがまんばだったので、まんばにしました
とりあえず、今はもう一本太刀が欲しいです