婚約者は魔界のプリンセス〜これって逆玉ってやつですかい?〜   作:kokon

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十二夜

大猪に襲われ、ムーのお陰でなんとか帰って来れた訳だが、災難というのは重なるものらしい。

朝食まで時間も無かったが、仮眠ぐらいは取れるだろうと部屋に戻って来たのは良いが、ドアを開くと般若を背負っていると錯覚させる程、怒ってらっしゃるリリがいた。

鬼の形相って聞いた事あるだろう?俺も実物を見るのは初めてだよ。

 

「申し開きがあるなら聞きますが、どうですか? 」

「いえ、御座いません 」

「では、最後に言い残す事があるならば、どうぞ 」

 

えっ?嘘、俺、殺されるの?!

流石に、やり過ぎでは無いでしょうか。

 

「私の言いつけを守らず、ましてやムーと二人きりで出掛けるなんて・・・・。兜太様は悪い子ですね、悪い子には、お仕置きしなきゃいけないですよね?フフフ 」

 

口では笑っているが、瞳は全く笑っていない、瞳のハイライトは完全に消えている。

大猪が愛玩動物に思えるぐらい、今のリリは迫力がある。

ゆっくりと俺に向かってリリが歩いてくる、ユラリユラリ。

俺の目の前で止まると、ゆっくりと右腕を伸ばしてくる。

怖い、怖い、怖い!俺は思わず目を瞑ったが覚悟していた痛みが無い。

代わりに、俺の身体を包む暖かさを感じた。

 

「馬鹿です。なんで私に黙って魔物狩りなんて行ったんですか!どれだけ心配したと思ってるんですか!! 」

「ごめん、ごめんね。リリ 」

「私、兜太様に何かあったと思って!本当に怖くて。勝手に死んだりしたら、一生許しませんから!! 」

 

リリの頭を撫でなから、ごめんと繰り返す事しか出来なかった。

ぐすん、ぐすんと言いながらリリは腕の中で啜り泣いている。

しばらくして、リリが鼻と瞳を真っ赤にしながら立ち上がる。

 

「次からは私も行きます。必ず声を掛けて下さい、約束です! 」

「その、良いのか?そりゃ、魔物狩りに行っても良いなら俺は嬉しいけど 」

「勝手に行かれるよりはマシです。それに城で心配してるより、着いて行った方が安心できます。私、強いんですからね! 」

 

冗談めかしてそう言ったリリは、さっきの泣き顔が嘘の様に笑っていた。

早く魔法を覚えて、せめてリリに心配をかけない様にしようと俺は思った。

そういえば、何故リリは狩りに行った事を知っていたんだろう?

 

「それは、マールに頼んで。その、監視を・・・・ 」

「あー、大丈夫。大体わかったから 」

 

心配症のリリは俺の事をマールに監視させていたと、そういう事だろう。

そんな事を想像していたら、リリの様子がおかしい事に気付いた、瞳のハイライトが消えている、だと?!なんだ、まだ何かあるのか?!

 

「それで、何故ムーなのですか? 」

「何故と、おっしゃいますと?」

「ムーと二人きりで、私を置いて行ったのは何故か?と聞いています 」

 

クソ、ムーと狩りに出掛けた事しか伝え無かったな。

マールの奴、やってくれたな!

俺の少ない仮眠時間は、リリへの言い訳に消えていく事になった。

 

 

 

 

 

朝食も食べ終えて、リリと二人で兵士の訓練学校にお邪魔している。

ここは、城の兵士を目指す訓練学校として国が運営している施設との事で、この学校で三年の訓練を終えた者が、城の近衛兵になったり、街を守る兵士になったりとする様だ。

 

「よくぞ、いらっしゃいました。リリト王女様、どうぞこちらへ 」

 

俺達を校長自ら来賓室に案内してくれて、筋肉の塊の様な兵士が紅茶を淹れてくれる。おそらく訓練兵だろう、エプロンが似合わなすぎて腹が立つ。

 

「こんな野蛮な所へ、王女様自らいらっしゃいますとは。訓練校ゆえ、給餌も雇っておりませんが味は良いのでお許し下さい 」

 

そう言って人好きのする顔で笑いかけてくるのは、学校長のアーガイルさんだ、背丈は小さくリリと同じくらいで、細身の初老ぐらいの見た目だ。

肌が緑色な事以外は見た目は人間と変わりが無い。

どうぞ、と勧められた紅茶を啜ると本当に美味しくて笑えてくる。

「それで、今日はどの様なご用件ですかな? 」

「この方を学校に体験入学させて頂けないかと思いまして 」

「失礼ですが、この方は? 」

「私の夫になって頂きたく、地球の日本からお連れした鬼城兜太様です 」

「ほぅ、王女様もその様なお年頃ですか 」

 

そう、そういう事なんです。

朝、ムーと二人で出掛けた事をリリに詰問された俺はつい、大猪に襲われてムーのお陰で助かった事を報告してしまった。

その際、魔力を操作して肉体強化が出来れば逃げる事も可能だったかもしれない、とリリが思い立ったらしく肉体強化を覚えるべく学校にやって来た次第だ。

普通、魔界に住む住民は生活の中で肉体強化を覚えていく事になるらしいが、日本から来た俺にそんな経験がある筈も無い。

そこで、手っ取り早く学校で習ってしまってはどうか?となった訳だ。

昔、リリが世話になった人が校長をやっているから丁度良いとなった。

 

「わかりました。兜太さんの体験入学を認めましょう。どうぞ、満足されるまで訓練に参加して下さい 」

「ありがとうございます!俺、頑張ります! 」

 

リリに迷惑をかけない為ならば、頑張ろうじゃないか!やってやるよ、いつまでも情けないところを見せる訳にはいかないからな!

と決心したが、その決心は一時間後にはへし折れていた。

 

「どうした、兜太!もう家に帰りたくなったのか!良いぞ、帰って母ちゃんのおっぱいでも飲んで慰めて貰え!! 」

何度目かわからない木刀の打撃で俺は地面に伏している。

どうしてこんな惨めな格好かというと、肉体強化の初歩も知らない俺に特別講師として、ハートン教官が付いてくれた。

だが、このハートン教官、剣を握ると人が変わる。

身体は兵士らしく逞しく、半獣人と言うのだろうか、顔は人間だか頬にいくに従って毛深くなっていき、頭には片方が千切れた山形の犬耳が並んでいて、額には古傷が大きく残っている。

最初は怖かったが、爽やかな笑顔で挨拶するハートン教官は頼れるお兄さん的な感じだった。

だが、俺の実力を見る為と簡単な模擬戦を行う事になり、剣を握ると性格が変わった。

優しそうな笑顔は無くなり、眼がすわり、口調も荒々しく変化した。

 

「おい!いつまで休憩してるんだ、俺は休憩を許可した覚えはないぞ!!さっさと立てゴミが!俺はお前を特別扱いするつもりは無いぞ!立って!! 」

「サー、イエス、サー! 」

 

何かを喋る時には、言葉の頭と終わりにサーを付けろとはハートン教官の命令だ。

離れた所で治療の為、待機しているリリは何故かナース服だ。

頑張って下さい!兜太様!と応援をしてくれる。

この厳しい模擬戦はこの後、一時間続いた。

「いやー、中々面白かったですよ、兜太さん。剣筋は素人のソレですが飲み込みが早い。教えがいがあると言うものです 」

「サー、ありがとうございます、サー」

「訓練中以外は普通に話して頂いて結構ですよ 」

「そうですか?では、ありがとうございました、ハートン教官 」

 

いえいえ、と言いながらも丁寧な言葉で話し掛けてくるハートン教官は最初に挨拶した時となんら変わりは無いようだった。

剣を置くだけでこの変わり様、二面性があるにも程があるだろう。

俺は、リリに治療をして貰う、擦り傷は消えたがまだ、そこら中が痛い。

昼の鐘がなり、ハートン教官とリリと一緒に学食へ向かう事にした。

 

 

 

 

 

学食でパスタらしき物を頼む、国が経営している学校だけに、食事は無料で好きなだけ食べられる様だ。

パスタを受け取り席に戻ると、ハートン教官とリリは先に席に戻っていた。

ハートン教官はカレーの様な物を、リリはから揚げらしき物を頼んでいる、街の食堂でもから揚げ頼んでたし、から揚げが好きなのかもしれない。

 

「さて、肉体強化ですが。兜太さん、魔力値はどれぐらいですか? 」

「えーと、10,000Pです。」

「ほう!10,000Pですか!!それは、それは 」

 

ハートン教官が驚いてる所を見るとやはり、俺の魔力はかなり多いんだろう。

魔力を腕輪で抑制している事、魔法は初級レリーフがやっと使える程度だという事も説明した。

 

「魔法が使えないのでしたら、肉体強化を早急に覚えた方が良いでしょうね。魔法で身を守る事も出来ますが、それ用の魔法が必要になります。肉体強化ならば、単純に身体の強度を底上げ出来ますから、特別な魔法を覚える必要もありません 」

 

成る程、馬鹿でもなんとかなると言う事か。

 

「兜太様は魔力を多くお持ちですから、普通の者より強く強化出来るはずです 」

 

とは、リリの意見だ。

そんなに都合良くいけば良いんだか。

食事を終えて、模擬戦をした校庭へ向かう。

「さて、肉体強化習得の方法ですが、この木の実を指先で割って貰おうと思います 」

「木の実ですか?」

「この木の実は試しの木の実と呼ばれています。肉体強化を身体に施し、適切な力を加えると木の実は二つに綺麗に割れます。力を入れ過ぎると砕けますし、足りなければ割れません 」

「懐かしいです、私も子供頃やった事があります。難しいですよね、これ 」

「へー、リリでも大変だったんだ 」

「私の場合、肉体強化しなくても砕けてしまって・・・・ 」

「な、成る程ね 」

 

試しに一個受け取り、力を加えてみるがピクリとも反応しない。

これを素面で割るって、リリさん半端ないな!

 

「肉体強化は身体の末端に行く程難しくなりますから、この訓練は兜太さんに丁度良いと思います。時間がある時は木の実に触れる様にして下さい。これが出来るようになれば、魔力のコントロールも上達する筈ですよ 」

 

俺にとっては一石二鳥だな!これは頑張ろう。

剣術も学校に来れば教えてくれるとハートン教官は約束してくれた。

剣さえ持たなければ、優しくて良い人なのに。

本日はこれで終わりにしましょうとハートン教官に言われて素直に従う事にした、昨日から寝てなくて、正直辛い。

最後に注意点なんですが、とハートン教官に言われて振り向く。

 

「兜太さんの魔力だと、コントロールを間違えると身体が爆発するかも知れませんので注意して下さいね 」

 

えっ?爆発、なんだって?!

 

 




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