婚約者は魔界のプリンセス〜これって逆玉ってやつですかい?〜 作:kokon
十四夜
食堂に着くと既にリリが待っていた。
「リリ、女王様と、お、お父さんは? 」
「すぐに来られると思いますよ?父も、兜太様と会うのを楽しみにされている様子でしたから 」
「そ、そうなんだ。それは嬉しいな 」
狂気の王、殺戮の神に愛された者。
こんな異名を持つリリの父親、そんな父親が俺と会うのを楽しみにしている、だと?
可愛い娘を取られて、俺の血を啜るのを楽しみにしている、の間違いだろうさ。
ハハ、武者震いってやつかな?膝がわらってやがる。
震える足をなんとか抑えつけ、席まで足を運ぶ。
「顔が青くなっていますけど、調子が悪いんですか? 」
「そんな事ないよ。ちょっと寝不足だから、そんな風に見えるんじゃないかな?」
無理しないで下さいね、と、いつも通り優しい言葉をかけてくれるリリ。
言えない、君の父親と会うのが怖いからだよ、なんて。
扉の近くで待機していたメイドさんが、音もなく扉を開く。
来る、奴がくる!
「待たしてしまった様ね。旦那の準備が遅くて 」
「ハハハ、まぁそう言うな。娘の婿となるかもしれない者と会うのだ。準備にも気合が入ると言うものだろう 」
女王様に続いてお父さんが扉を潜る。
デカイ、それがリリのお父さんの第一印象だった。
食堂にある扉は、城の扉だけあって立派だ。
その扉を、居酒屋の暖簾を潜る様に身を屈めて入ってくるお父さんは、山の様だった。
身体つきは筋肉質を通りこし、肉の塊。
世紀末な街で、黒い巨大な馬を乗りこなす覇者にそっくりだった。
椅子から急いで立ち上がり、お父さんに挨拶する。
「は、初めまして!お、鬼城兜太です。宜しくお願い致します!! 」
「貴殿が・・・・。ハハハ!そうか、そうか。我輩はハイド。ハイド=ミドラーシュだ。宜しく頼もう 」
あれ、意外とフレンドリーな感じだ。
見た目は怖いけど、リリが言っていた様に優しいのかも知れない。
すーっと、お父さんと目があった、全てを察したよ、俺。
違う、フレンドリーな訳じゃ無い。
王として、娘の父親として我慢しているんだ。
血走ったその眼が全てを語っていた。
「さぁ、立ち話をしてないで。席に着きましょう。妾は空腹で倒れそうだわ 」
気をきかせてくれたんだろう、素直に女王様の言葉に従った。
緊張で何を話せば良いかわからない、家族で談笑している横で黙々と食事をしていた。
これではいけない!そう決心して皿から眼を離して上を向く。
そこには、談笑しながらも血走った眼で俺を見る、お父さんの姿があった。
もう、どうすれば良いの?!頭を抱えたくなったが我慢だ。
「兜太さん、それで気持ちは決まった?リリトとの事。三日、この国で過ごして、どうだったのかしら 」
女王様、それは火に油で御座います!
ほら、お父さんが肉と一緒に皿まで両断してるじゃないですか!
俺の答えを待つ様に、ミドラーシュ一家が鎮まりかえる。
「えっと、その。リリトとは三日間の短い間でしたが、楽しく過ごせました。それで僕には勿体無いぐらいの娘さんですが・・・・ 」
「貴殿、兜太殿と言ったな。ハハハ、貴殿は男だろう。ハッキリしたまえ 」
声だけは笑っているが、眼が笑って無いんだってば!!
えーい、もう知らん!そこまで言うならハッキリ言ってやろうじゃ無いか!
「俺は、リリの事が好きです。短い間ですが、その優しさ、心の強さ、国民を思う心。何より俺に向けて微笑んでくれる、その笑顔が好きです!娘さんを俺に下さい!!」
言った、言ってやった!もう怖くてお父さんの顔が見れない。
後悔はしてないが、もう少し長生きしたかった。
ハハハ!っと声が聞こえ、俺に声が掛けられる。
「兜太殿、顔を上げよ。貴殿の気持ちは良くわかった。我輩の前で良く言った!ハハハ、婿候補の、一人の男として認めてやろう!! 」
「ありがとうございます。お父様! 」
俺はリリの父親の言葉に胸を撫で下ろし、言ってしまった。
お父様っと。
「ハハハ、勘違いするなよ小僧。我輩は婿候補として認めただけだ。貴殿に父と呼ばれる筋合いは無い 」
席に座ったままの姿勢だが、それでも俺の身長より大きい、リリのお父さん。
その有無を言わせない存在感が、俺に全て向けられる。
正直、気を失いそうだった。
「いい加減にして下さい!お父様、悪ふざけが過ぎます!私が選んだ旦那様になんて事を言うんですか! それに、婿候補とは言ってはいますが 、私は兜太様意外と、結婚する気はありませんから!!」
「ハハハ、リリトよ、そう言うな。それに婿候補は候補だ。リリトは勘違いしている様だな。ハハハ! 」
「どういう事です?お父様もお母様も私が結婚する相手は、自分で選んで良いと言ったじゃ無いですか? 」
ん?なんか話が拗れてきて無いか?
リリは、自分で結婚相手を決めて良いと思っていた。
だが、お父さんは俺の事を候補と認めると言った。
そうだ、お父さんは俺の事を、あくまで婿候補だと強調している。
「すいません、女王様、王様。リリも待ってくれ 」
再度、鎮まりかえる食卓、俺に集まる視線。
つい、口を出してしまったが、少し後悔している。
「つまり、俺を候補に加えて頂けるって事は、他にも候補がいるんですよね?
その中からリリは好きに、結婚相手を選んで良いと、そういう事では無いですか? 」
「察しが良い殿方は妾は好きよ 」
ありがとうございます女王様、だけど、その言葉に反応している、察しが悪い人が二人、この食卓にいますのでやめて下さい。
お母様!とはリリ、お前まで此奴を!!とはお父様だ。
はぁー、似てるな、この親子。
「そういう事よ、兜太さん。あくまで私達が選んだ人からリリトには選んで貰うわ 」
「でしたら、私は兜太様を選びます!問題無いですよね? 」
ハハハ、とお父さん。
わかってましたよ、まだ何かあるんですよね。
「リリト、構わない。兜太殿と結婚すれば良い。だが、この国の王族になるのならば力を示さなくてはならない。国民はパワー、強さについてくるのだから 」
この、脳筋お父さんは俺に、何をさせるつもりなんだ!嫌な予感しかしない。
「婿候補には、王家に伝わる婚約の品を、我輩達の前に持ってきて貰う!兜太殿、まずは力を示せ。詳細は五日後、我輩が選んだ婿候補が到着次第、伝えよう 」
「妾の選んだ婿候補はもう、到着しているわ。リリは兜太さんを推薦しなさい。問題無いわね 」
程なくして、食事会は終了した。
リリは怒っている様子だったが、王女としての立場か、国民が納得する為だと両親に言われて渋々だが、納得している様だった。
大変な事になってきたな、と他人事の様な感想が出てきて笑ってしまう。
自室に戻ってきて、ベットに寝転がり、先程の事を思い出していた。
リリと、女王様、王様であるお父さん。
各、一人ずつ婿候補を推薦し、試練を与えるとは、かぐや姫の様じゃ無いか。
あ、かぐや姫は結婚したく無かったんだけ?どっちでも良いや。
様は、婚約の品を取ってきて、力を示す、そうしなければ話にならない。
腕輪を撫でながら、つい考えこんでしまう。
俺は弱い、それはもうすごく弱い。
魔族と比べれば、肉体的にも最底辺に属しているんじゃないか?
正直、試練とか不安しかない。
でも、リリの為なら頑張れる気がするんだよな。
「兜太様、いらっしゃいますか??」
夕食後にリリが訪ねてくるのは珍しい、きっと食堂の事だろう。
いや、夜這いか、夜這いなのか?なんて事は無いな。
「どうぞ、鍵は開いてるよ 」
扉を開け、入ってくるリリは風呂に入ったのか、湿った髪を縛りあげていた。
いつに増して艶ぽっく見えるのは、俺が童貞だからかな?
ベットから起き上がり、部屋にあるソファーにリリと二人で腰掛ける。
「遅くにすいません。先程の事です 」
やっぱりね、予想通りだ、期待なんてしてないから、本当だから。
リリは申し訳無さそうに俺の顔を覗き込む。
「気にしなくて良いよ、リリ。どこの馬の骨かもわからない男に、娘を預ける親なんていないさ 」
「ですが!ですが兜太様にはご迷惑を。それに、聞いた事があるんです。母と父が結婚する際に、三人の候補者が選ばれて試練を行ったと。帰って来たのは父だけだったそうです 」
「アハハ、それはまた、物騒な話だね 」
俺は肩をすくめながらも、笑ってみせる。
リリを不安にさせない為に出来る事を、今の俺にはこれぐらいしか思いつかなかった。
「兜太様、私は兜太様が危ない目に合うぐらいなら、この話を無かった事にしても良いと思っています。兜太様の事は好きです。だからこそ、私の為に、無理をさせたくありません 」
優しいな、リリは。
俺は、重くなってしまった空気を変える様に、明るく声を掛けた。
「リリ、プレゼントがあるんだ! 」
「プレゼントですか? 」
武器屋で買った、剣の柄に付ける為の組紐を取り出す。
「こんな物で悪いんだけど。この国にきて、初めての稼ぎでリリには何か買いたかったんだ。」
「ありがとうございます。私、一生大切にします 」
こんな物でも大切にするっと言ってくれるリリ。
そんな優しいリリが、俺は好きなんだと思う。
「次はさ。リリに、もっと凄い物をプレゼントしようと思っているんだ!必ず、持ってくるからさ、お父さん達が言ってた物を 」
「ですが、兜太様の身に何かあったら! 」
「リリ、鬼城家の家訓は女は泣かせるな!なんだ 」
えっ?とビックリした様な顔をしているリリ。
確かに意味がわからないだろうね。
「俺が帰って来なければリリが泣くからさ。必ず帰ってくるよ!」
言葉の意味を理解したリリは、さっきまでの顔が嘘の様に笑ってくれる。
「はい、私。兜太様を信じます。泣かせないで下さいね 」
なんとなく、二人で笑ってしまった。
なんとなく・・・・リリと唇が重なった。
数秒だったけど、今の俺達にはそれぐらいが丁度良かった。
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