婚約者は魔界のプリンセス〜これって逆玉ってやつですかい?〜 作:kokon
夕食の席で、借りてきた猫の様に縮こまる我が妹、よく見ると小刻みに震えてるのがわかる。
マナーモードか?必死に視線で俺に助けを求める椿だが、悪いな、俺は助けにはなれないんだ。
「アッハハハ、どうだ椿殿?我が城の晩餐は気に入って頂けたかなぁ?ん? 」
「はい……とっても美味しいです 」
「そうか、そうか!こっちも中々、美味い。椿殿、ほれ、あーんだ 」
「ひいぃぃ、つ、椿は自分で食べられますから 」
椿が座るのはリリのお父さん、つまりは国王の膝の上だ、とんでもないVIP待遇である。
食事が始まる前に、一通りの挨拶をリリのお母さんとお父さんに済ませた。
お父さんは椿の姿を見て、満面の笑みを浮かべる。
俺はお父さんの笑みに、気絶しそうな怖さを受けるが、ぐっと堪えた。
お父さんってロリコ……子供好きなんだな、
食事が始まると椿を自分の膝の上に乗せ、ご満悦だ。
「お父様、いい加減にして下さい!椿ちゃんが怖がっています!! 」
「なに?!そんな事は無いだろう、椿殿はどう思っているのだ? 」
「え?あ、こ、怖くない、です 」
「アッハハハ、そうだろう、そうだろう! 」
だから、こっちを見るな椿、俺が巻き込まれる。
さすがに、妹を女として見ているなら、止めに入るが、純粋に子供として可愛がっている様なので放っておく事にした、どうせ止めても俺が怪我をするだけなのは置いとくが。
「貴方、いい加減にしなさい 」
静かに、だが逆らう事を許さない。
そんな口調でリリの母が助け舟をだす、お父さんも渋々だが従い、椿を本来の席に座らせる。
席に戻ってきた椿は、緊張が解けたのか少し、涙目だ。
確かに、ムキムキの大男の膝の上は怖いだろうな、迫力もあるし。
「ごめんなさいね、椿さん。妾の旦那様は子供が好きで、目の前に小さい子がいると、どうも螺子が飛んでしまうみたいなの 」
「椿は子供じゃないもん 」
ボソボソっと椿が抗議しているが、隣に座ってる俺以外は聞こえて無いだろう、お母さんには愛想笑いを返しておく。
「ところで兜太さん。魔力を操るのに大分、苦戦しているようだけど試練までには間に合いそうなのかしら? 」
「そうですね。魔法を使う事は正直、全然駄目なんですが、肉体強化や魔法剣の方は教官にも褒めて貰ってます。試練迄には形にしてみせます 」
「今日はハートン教官に剣を当てたんですよ!お母様!!流石は兜太様です 」
駄目!そんな事言ったら黙ってない人がいるから!!
「ほう、ハートンに……少しは成長したと伺える。良し!塩を送る訳ではないが、明日の朝、稽古を我輩直々につけてやろう!!ハッハハ!」
「お手柔らかにお願いします 」
ほらね、リリが俺を褒めるとお父さんは黙ってない、今も鼻息荒く、血走った眼で此方を見ている。
お願いします、こっちを見ないで下さい。
明日の朝、俺が酷い目に合うことが確定した所で、夕食は終了となった。
この後は森へ魔物狩りに行く予定だ、さて準備しますか。
森に入ってから一時間程経つだろうか、俺はリリと二人で狩りをしている。
「普通に狩りをしても詰まらないじゃないですかぁ?だからぁ、競争にしましょう!」
ムーの意見で二手に別れて狩り競争をしている。
俺、リリチームとムー、椿チームだ。
一時間程で小鬼二匹と野ネズミ五匹、それに人面樹を一匹狩った。
リリが戦うのは殆ど見たことは無かったが、これが中々凄まじい、魔物が可哀想になるぐらいだ。
「兜太様!追加で小鬼が一匹です!! 」
「おー、流石はリリ。頼りになります 」
実際、俺が狩ったのは戦果の四分の一にも届かない数、危ないと言ってはリリが狩ってしまう。
あまり訓練になっていない気がするが、俺には注意出来ない理由がある。
リリは召喚魔法を使えるが、ここではオーバーキルになってしまう為、使用していない。
詠唱時間や、魔力を練り上げる時間もかかるらしく、狩りには不向きなのだ。
そこで、肉体強化をして、太ももに装備している短刀で狩りをしているのだが、これがいけない。
リリは動きやすさを意識してかドレスアーマーを装備している、上は軽鎧、下はスカートなのだ。
そう、リリはスカートで飛び跳ね、走り回っている。
ここで俺が練習にならないから手を出すな、と言えばこの姿を楽しめなくなってしまう。
それは駄目だ、非常に良くない、俺はスカートから覗く太ももや、見えるか見えないかとドキドキしてしまうこの状況を、もっと堪能したい。
「兜太様どうかされましたか? 」
おっと、自分の世界に入り過ぎたらしい。
なんでも無いとリリには返事をしておく。
俺と椿はリリに兵士用の軽鎧を借りて、狩りに来ている、着慣れないせいか動きにくい。
「集合時間まで後、二時間ぐらいか。ムー達には負けられないな! 」
「私と兜太様なら大丈夫ですよ!頑張りましょう 」
狩りを再開しようかという時に、椿の悲鳴が森の中に響く。
「兜太様、今のは?! 」
「椿の声だ、リリ、行こう!! 」
俺は声がした方向へ走る、どうせ気持ち悪い虫がいたとかだと思うが……最悪の事態も覚悟しておかないと、万が一の時に行動出来ない。
進行方向に火の玉が打ち上がる、椿かムーが魔法を放ったのだろう。
「兜太様、恐らく非常自体かと思います。私が先行しますので、兜太様は近くに潜伏していて貰えますか? 」
「ごめん、リリ。足手まといになるかもしれないけど、俺も行く。リリだけ行かせる事は出来ない 」
先程までの戦いぶりを見ると、リリの方が俺の何倍も強いだろう。
だけど、女の子だけ行かせて男の俺が残るなんて選択肢はありえない。
リリが首を縦に振った事を確認して、腕輪の石を三個解放し、更に加速する。
「無事でいてくれよ、椿、ムー! 」
もう少しで魔法が打ち上がった場所に到着すると言った時、暗闇から人影を確認する、椿だ。
涙で顔をグチャグチにした椿が駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、ムーさんが! 椿のせいで!黒ちゃんが!! 」
「落ち着け、何があった? 」
椿の背中を撫ぜ、椿を落ち着かせる。
話を聞くと椿に怪我は無く、ムーも今すぐ死ぬ様な事は無いようだ。
「椿とムーさんで二手に別れて狩りをしてたんだけど、木の根っこみたいな感じの魔物に椿、捕まっちゃって。黒ちゃんが助けに来てくれたんだけど、魔物に噛み付いた途端に動かなくなっちゃって 」
少し考える様な仕草をするリリ、ハッと思い出したかの様な顔に変わる。
「マンドレイク……マンドレイクだと思います、兜太様。人面樹の親株です。マンドレイクも人面樹も魔力を餌にしまから魔法は余り効果がありません。黒ちゃんは魔道具ですから、魔力を吸われて動けなくなったんだと思います 」
ムーは魔力を吸収され尽くされ、生体魔道具が壊れてしまうのを嫌がり、マンドレイクに魔力を与え続けているらしい。
ムーの指示で椿が俺達を呼びに来た様だ。
「椿ちゃんの話を聞く限り、ムーは大丈夫だと思います。いくら魔法が効きにくいといってもムーの敵ではありません 」
「椿、とりあえずムーの所に案内してくれ 」
俺達はムーの所へ走りだした、この先で起きている、予想もしない事態に向けて。
「ムー、大丈夫か?! 」
椿に案内された俺はムーを見つけ声をかける、余りに悲惨な状況に眼を背けてしまう。
「ムー!! 」
木の根の様な触手に絡め取られ、両手を左右に開き宙吊りにされているムー、上半身は溶解性の液体を浴びせられ、焼けただれている、何故かローブのみ。
「いいからぁ!助けて下さいぃ!! 」
「いや、だって、その、見えてるし 」
胸がね、その、ね?
ムーは立派な胸をお持ちだ、それはもうメロンの様な。
それが惜しげも無く、バーンっと披露されてるものだから眼を背けずにはいられない。
「兜太様、緊急事態です。ふざけてないで、助けてあげましょう 」
「お兄ちゃん、最低ー 」
女性陣からは非難の声が上がっているが、しょうがないじゃないか。
気を取り直し、なるべくムーを見ない様、意識して救出活動に移る。
マンドレイクは巨大だ、俺の剣で切り裂く事は難しいと思う、リリの短刀では尚更だ。
椿やムーに、燃やしてはどうか?と聞いてみるが
「黒ちゃんまで燃えてしまいますぅ!絶対に駄目ですぅ!! 」
とムーが言う、どうしろって言うんだよ。
剣を抜いたまま固まっていると、リリが自分の召喚魔法で倒すと言う。
「兜太様、椿ちゃん。五分程、時間を作って貰えますか? 」
「わかった、頑張ってみるよ 」
「椿も頑張る!ムーさんを助けないと。椿のせいだし 」
詠唱を始めるリリ、魔力を感じたのか木の根がリリを襲おうと向かってくる。
俺は五分間、リリに向かってくる木の根を切り裂き続ければ良い訳だ、わかりやすくていい。
俺が何本目かの木の根を捌いていると、椿の詠唱の声が聞こえる。
「風よ、壁となりて守りたま、えっ?! 」
「あっ!馬鹿!! 」
椿が魔法を唱えた途端に、ムーと同じく木の根に絡め取られる妹、なにがしたかったんだ、あいつ。
ムーの隣に磔のキリスト像がもう一体出来上がった、徐々に鎧を溶かされてる様で金属が溶ける独特の匂いがする。
俺に向かってくる木の根が単純に倍になり、捌ききれなくなってくる。
「あー、もう。仕方が無い!! 」
俺は四個目の石に触れ、腕輪を解放する。
身体が嫌な音をたて軋む、これ大丈夫なんだろうな?だが、剣速が速くなり、襲ってくる木の根も少し遅く感じる、これならなんとかなりそうだ。
四方から襲ってくる根を、切り裂き、叩きつけ、時には蹴りを入れ捌く。
多少、俺の身体に根も当たるがダメージは殆ど無い、触れた所の鎧が溶けてはいるが、俺の鎧が溶けた所で誰も得をしないので無視する。
「兜太様。お待たせしました! 」
リリの声に合わせて根を上に跳ね飛ばし、前方を空け、俺も横に避難する。
詠唱が終了したリリがマンドレイクに両手をかざし、最後の一節を唱える。
「私に逆らう者を締めつけよ、ハゲタカの娘! 」
マンドレイクの太い幹の中程に内側に棘が付いた輪が顕現する、アルファベットのCの様な形をしていて輪の切れ目には万力の様なものが見える。
キリキリっと、マンドレイクを締めつけていき、棘が幹にめり込んでいく、完全に棘が幹に入り込んだ後も締め付ける事をやめないハゲタカの娘は最後にはマンドレイクをへし折ってしまった。
この召喚魔法を自分に使われたらと考えるとゾッとする、リリには逆らわない様にしようと思った。
まだ予定の時間には早いが、マンドレイクの後で狩りを続ける元気もないので、帰路に着く、身体もだいぶ痛いしね。
椿とムーは予備のローブを魔法鞄から取り出し着ている。
ムーは助けて貰ったお礼にしばらくローブを着ないであげましょうか?と言っていたが、リリの眼が笑っていなかったので遠慮した。
「ムーさん、リリトさん、お兄ちゃん。ごめんなさい、椿のせいで迷惑かけました 」
「気にすんな!最初は失敗するもんさ 」
「そうですよぉ、兜太さんも猪に追いかけられましたしぃ 」
ぐっ、忘れようとしてたのにムーの奴め。
リリも笑っている所を見ると、気にする事は無いだろう、黒豹の黒ちゃんも椿に頭を擦り付けている。
魔力をムーから補給され、すっかり元気になった黒ちゃんは俺の事を背中に乗せ歩いている。
身体が痛くてしょうがないので正直助かる、黒ちゃんからのお礼かな?動物の背に乗るのはワクワクするしね!
城に着くとメープさんが待っていてくれた様だ、全員分の夜食を準備してくれていたので、俺の部屋で頂く。
「今日はお疲れ様!みんな明日な! 」
各自、部屋に戻り身体を休める事にする。
俺も軽くシャワーを浴びてから寝床に入る。ウトウトしてきた所で、部屋の扉が開き椿が顔を覗かせる。
「お兄ちゃん、あのね? 」
「いいぞ、早くベットに入れ。風邪引くぞ 」
怖い映画を見た後、椿は必ず布団に潜り込んできた。
今日の出来事も椿にとっては怖かったと思う、これも兄貴の仕事だな。
モゾモゾっと椿が布団に入ったのを確認して眼を閉じる。
嫌だなぁ、明日はお父さんとの朝稽古か。
生きて帰れる事を祈ろう。
マンドレイクの百倍は危ないからな、少しでも身体を休める為、俺は眠りについた。
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