咲-saki- 採掘編   作:ワンダ

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タイトルの意味は次話でわかると思います。


第1話

「君たち清澄の大将宮永さんがまだ試合会場に来てないんだが、何かあったのかな?」

 

大将戦の審判を務める中年の男性は控え室にいる清澄メンバーに咲の所在を尋ねた。インターハイ準々決勝が大将戦まで来たところ、「行ってきます!」と普段の臆病な性格には似つかわぬ威厳を見せながら控え室を出た矢先に早速迷ったのである。生放送である以上、試合時間に遅れるのは非常にまずい。部長の竹井久は「みんなで手分けして探すわよ!」と部員達に命を発した。しかし中学から咲の迷子癖に慣れていた京太郎は、

 

「いや、俺だけでいいんで部長達は座ってていいですよ。」

「でも咲っていつも予想のつかない所で迷子になっているからみんなで探さないと時間がないわよ?」

「部長の言う通りだじぇ!」

「だからこそですよ。あいつが迷子したときの場所がわかるのはこの中じゃ俺ぐらいですし。」

 

そう、清澄メンバーが初めてインハイ会場に来た時にボイラー室に迷子になった咲を一発で見つけたのが他でもない京太郎である。

 

「それじゃ試合時間までには必ず連れ戻すんで。」

 

と特に慌てた様子も無く控え室の扉を開け、咲を探しに行く京太郎。

 

 

(流石にまたあのボイラー室にはいなかったな。じゃあ次にあのポンコツが迷う場所といえば…)

♦︎

 

「うう…ここどこぉ…」

 

清澄大将宮永咲が次に迷っていた場所は会場の地下駐車場だった。京太郎から試合会場までの簡易地図をもらっていたのにこの様である。

 

「京ちゃんがくれたこの地図明らかにおかしいよ〜」

 

しかも自分ではなく、あくまで地図が悪いと思っている始末。前回の迷子も道に迷ったのではなく、道が迷った、などと世迷い言を京太郎に言うあたりすでに末期である。

 

「俺があげたこの地図は何もおかしくないと思うんですがね咲さん。」

「あっ!京ちゃん!」

 

京太郎が迎えに来て安堵の表情をこぼす咲。

 

「地下駐車場なんか迷おうとしたって迷えねーぞ。全く…部活に入って少しはマシになったと思ったら、やっぱり咲はダメなまんまだなぁ。」

「むっ!」

 

咲にとって清澄メンバーの中では唯一軽口が言い合える京太郎に馬鹿にされるのは何時ものことなのに何故か今日はその言葉を咲は受け流せなかった。

 

「私だって日々成長してるんだからね!てゆうか個人戦で無様に一回戦落ちした京ちゃんに言われたく…」

 

「はっ」と口に手を押さえ咲は己の失言を撤回しようとするが、時すでに遅し、

 

「き…京ちゃん違うの!あのね…」

「……ああ…そうだよ。俺は無様な奴だよ。」

 

普段の明るく温和な態度は消え去り、憎しみの篭った目で京太郎は咲を睨みつける。

 

「俺はな咲。実は今の自分の立ち位置にずっと疑問に思ってたんだ。部の雑用係か便利屋みたいに扱われることに対してな。」

「違うの…京ちゃん聞いて…」

 

涙目になりながらも必死に京太郎に弁明をする咲。しかし京太郎は構わず、自分の今の本音を咲にぶつける。

 

「だけど試合で活躍しているお前達の役に立てるなら、このままでもいいと正直思っていた!でもお前が俺のことを無様な雑用係にしか思っていないんなら、俺がここまでやってきたことは何だったんだよ⁈俺はただのピエロだったてのか?!」

 

地下のため京太郎の声が反響して響く。咲はもう完全に涙腺が崩壊している。京太郎と言い争いをしても最後にはいつも京太郎の方から折れてくれる。少なくとも今まで京太郎から怒鳴られたことのない咲は初めて京太郎が心の闇を一人で抱えていることを知った。

 

(私いつも京ちゃんの優しさに甘えていて知らなかったんだ…京ちゃんがこんなに辛そうにしているところ…)

「あ…すまん咲。言い過ぎた。さっき言ったのはほとんど冗談だよ。冗談!ほら会場行くぞ。遅れたら洒落にならん」

 

咲の頭を撫でながら、咲を試合会場まで連れて行く京太郎。しかし咲の涙は止まらない。

♦︎

 

「ほら着いたからもう泣き止めって…冗談だったって言ってんだろ。お前をちょっと脅かしてみただけだよ。」

「ぐす…嘘だよね京ちゃん。私を脅かすんなら京ちゃんは怒鳴ったり怒ったりなんかしない人だもん。」

「はあ…それならあの時のお前の言葉は本心から出た言葉なのか?」

「ぐすん…違うよ。確かに京ちゃんは麻雀はヘタッピだけどそれ以上にいつも雑用とか色々してくれて部を支えてくれているんだもん。それに京ちゃんが麻雀部に誘ってくれたから、私はみんなに会えたんだもん。」

「それを聞けただけで俺は満足だよ。ほらここから10m先くらいに扉があるだろ。あそこまで真っ直ぐ行ったら、今度はその扉を手前に引けばな…」

「子供じゃないんだから、そこまで丁寧に説明しなくてもわかるよ!京ちゃんの馬鹿!」

「その元気があるなら、もう大丈夫だな。ほら行って来い!ちゃんとした仲直りは試合が終わってからにしような。」

「うん…それじゃあ行ってくるね京ちゃん…」

 

扉が閉まり終わるまで咲を見送った京太郎は控え室に戻ろうとしたら前方にモップを持った清掃人が掃除をしているのが見えた。無視するのは流石に感じが悪いため軽い会釈をしようと頭を下げようとしたら、清掃人はスッと京太郎の学ランの裾に紙切れを忍ばせた。どうしたのか問い詰めようとしたら、その清掃人はモップを置いたまま、素早く階段から降りていった

 

「なんだよ。気味がわりーな。」

 

仕方なく紙切れに書いてある内容を確認してみる。

すると京太郎は見る見る神妙な顔つきになっていきそして昆虫のように生気のない目をしながらボソリと何かを呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然その呟いた言葉は誰にも聞かれていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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