魔法少女リリカルなのはstrikers~幻想から、尊き人たちへ~ 作:瀬津
最近の魔物騒ぎには、管理局の誰もかれもが辟易している。
三人の仲間と一緒に遺跡を探索しながら、ティアナ・ランスターは一人勝手にそんなモノローグを展開していた。
独特の意匠を施した壁は、過ごした時の長さを主張するかのように苔むしており、おまけに日光は届かない。空間は、宙に浮く謎の発光体でなんとか光度を保っている。故に薄暗く、ただでさえ最近、忙しすぎてうっぷんが溜まりがちで暗くなっていた彼女の気持ちを薄暗くさせる。つい一人モノローグするくらいにはおセンチになっていた。
そもそも、何でこんな所に居るのだろう――足取り重いまま、ここまでの経緯を思い出していく。大体、転移の時にトラブルが発生し、こんなよく解らない建物らしい物に誤転移したのが……ではない。
(あの時、八神隊長が……)
*
『エフィネア?』
「そ。そこに行って、色々な調査をして欲しいんよ」
午前の仕事が終わり、さあこれから窮屈と退屈のデスクワークだ、と覚悟を決めたところで我らが部隊長八神はやてに呼ばれたフォワード陣――ティアナ、キャロ、スバル、エリオの四人は驚きの意を込めながら揃って声を上げた。
全員、聞いたことが無い名称だった。いや、それ自体は別に大したことは無いのだ。この管理局に勤めている以上、知らない世界に行く事なんてざらにある。しかし、だ
「八神隊長、失礼かもしれませんが、言っても良いでしょうか?」
「どーぞ」
「この大変な時期に私たちをそこに行かせる意味はあるんでしょうか?」
今、ミッドチルダは魔物襲撃事件で混乱の極みにあった。
つい一週間前からである。突然異形の化け物が、この第一管理世界各所で突発的に出現し、そして暴れてはその場にいた人間とともに消えるという事件が多発していた。原因は不明。犯人は不明。そもそも犯人がいるのかも不明。ついでに消えた人間の行き先も不明。不明不明不明不明……何にせよ、人的被害も随分なものなので、管理局本部も看過できずに、最近やっきになって対処に追われている。
そして、問題なのはその現れる魔物だ。
まず、強力な魔法攻撃を放ってくる。一体で炎、凍結、電気の変換魔法を行使するものは掃いて捨てるほどいるし、突然何も前触れなく広範囲殲滅級の魔法を出してくるのだからシャレにならない。挙句、それらはバリアジャケットでは軽減できない。調査によると、技術体系が人間の使っているベルカ式やミッドチルダ式とは全く違うせいで近代ベルカ、ミッドチルダ式のバリア類が適応しないというのだが、そこら辺の話は置いておくとしよう――続いてやたらしぶとい。例を挙げれば、我らがライトニング部隊隊長のザンバーを喰らってもまだ平然と立っていたのだから、驚きを通り越して呆れたものだ。
倒せなくはないのだが、それなりの数の魔導師を向かわせなければ一体倒すのに時間が掛かり過ぎる。そもそも変則的且つ威力の高い魔法を持つ手強い手合いなので、そんじょそこらの魔導師では焼け石に水。これだけでもげんなりするのに、奴らには更に厄介なものがある。それは――
こちらの攻撃を、完璧に無効化する手段を持っている個体が居る事である。
魔物たちは大方二種類に分類される。一つは、我々がよく知っている熊や狼などの動植物を二倍から三倍ほど肥大化させ、更にごてごてとした突起やら爪だとかが目立つ外見特徴を持つタイプ。これらは前述した魔法攻撃、ふざけた耐久力以外には脅威となるモノは無い。
しかし、もう一つの方が厄介なのだ。
そいつらの特徴としては、まず、全体的に黒い体躯をしているのが挙げられる。サイズはそれほど大きくなく、魔法もそこまで強くない。基本的な耐久力は同じくらいであるが、問題なのが、やつらが気まぐれに張る紅いバリアだ。
このバリアは、一種の防御魔法らしく、魔物の身体を包み込むように展開される。そして展開されたが最後、全ての物理的衝撃、および魔法全般が効かなくなり、もはや成す術が無くなるのである。
このバリアを持つ黒い魔物のせいで、管理局員は毎日毎日魔物を追っ払ったり一般人を避難させたりそれらの報告を纏めたりと非常に忙しい。タダでさえこの前のあのマッドサイエンティストの事件で、色々な後始末をやらされて多忙を極めていた時空管理局員は、地獄の底の責め苦のような苛烈な忙しさに追われているのだ。現に、目の前に居るはやても大量の報告書類を読み進める手を止めないまま話している。
「まぁ、ティアナの言ってる事ももっとも何やけど、どうにも今回の“魔物事件”に関係がある世界らしいんや」
「……どういうことですか?」
スバルが聞いた。頭脳労働より肉体労働なわが親友でも、まだ話にはついていけるらしい。
「その世界を偶然発見した艦船の報告やと、その世界にも例の魔物と同種のものが確認されたそうなんよ」
「あの、その世界は、どんな世界でしたか?」
「人口は推定十一万六千人程。三つの国からなる自治体系を取っている。まあ、争いとかは起こってないみたいやから、比較的平和な世界や……」
エリオの問いに、はやて部隊長は語尾を濁した。
「どうしました?」
「あんなぁ……この世界、“魔物”一杯おんねん」
『えぇ!?』
「黙っててもしゃ―ないから言っとくけど、“魔物”の数がバーゲンセールもびっくりの量らしいんよ。お陰で、本局のお偉いさんは『んな死地に自分の部下送れるかっ!』とか言うて盥回しして、結局うちまで調査任務が回ってきたんや……」
機動六課という部隊は、あらゆるゴリ押し裏技ちょろまかしを使い、作られた部隊だ。大方、そこらへんのことをつつかれて封殺されたのだろう。両肘を机に付き、指を組みうなだれる彼女の姿に、中間管理職特有の哀愁と気苦労が垣間見えた。
ちなみに、その場に居た者――部隊長の隣のミニデスクで報告書のチェックを鬼の形相で捌いていたちっちゃい上司も含む――は
(あぁ、上の人にごり押しされたんだなぁ)
と全員そろって彼女の気苦労を察した。
*
「はぁ……」
「ティアナさん、どうしました?」
「いや、なんでここにいるんだろう、と」
「……そんなこと言ったって、選択肢なかったですよ僕ら……」
「……あんな状態の八神隊長に言われたんじゃ、断れないわよねぇ」
「あそこまで憔悴したはやてさん、始めてみましたよ僕は……」
「私も……」
ちびっこ二人は当時を思い出し、どこかショックを受けたような顔をしていた。仕方ない、だって私も何とも言えない気分になっちゃったもの。
この状況の始まりは、どうしようもない物で、結局のところ、誰も恨めない恨みたきゃ自分の運命を恨めばーか、という結論にティアナは至った。
「ねぇティア~? 何時になったら外に出れるの~」
「うっさいバカスバル私に聞くな」
親友のねっとりした口調に対して毒を吐く。正直、誰かに聞けるものなら聞きたい気分だった。
もうどれくらい歩いただろう。歩けども歩けども、変な移動床とよく解らないオブジェが点在しているだけ。それらを使って離れた足場を移動し、時にはキャロが従える白竜フリードに運んでもらいながら(フリードに乗って移動するというのも考えたが、残念ながら彼(?)は基本二人乗りなのだ)ひたすら下に下に進む。運がいいことに、あの『魔物』たちとは未だ出会っていない。居るのは、なんだか野生生物にちょっと毛が生えたみたいな可愛い連中ばかりだ。
「何にせよ、外に出ないとね」
「これだけ縦に空間を取れる建築物なんて、結構技術力のある世界なんですね」
「案外、古代遺産だったりして」
そんな他愛もない話をする。危険地帯に特攻させられ、その後もトラブルで踏んだり蹴ったりな状況だと、こんなどうでもいい話が癒しになるだ。ちなみに、誰がどう見てもここ古代遺跡だから、スバル。
*
しばらく歩いた結果、開けた場所に出た。そこは、どうやら地下水源か何かがあるらしく、視界いっぱいに真水が溜まっている。その馬鹿でかい水たまりの真ん中には、誰かの手で丸く切り取られたかのような岩石が浮き上がっていた。
地下に潜ってしまったようだ。内心でものすごい絶望感と虚無感を感じつつ、ティアナ達一行はその広間を見た。
「あそこに何かありそうだね」
「どうしますか?」
「……言うまでもないわ。行きましょ」
元々、今回は調査任務だ。幸いにも道は続いており、人一人がやっと通れる程度の細長い道が続いている。
「警戒してね。スバルが先頭、エリオはキャロと一緒にフリードに乗る。私が殿」
手早く隊列を指定し、慎重に目的地に向かう。
警戒したが、特に大したこともなく浮島に着いた。皆がほっとした顔をしたのは言うまでもない。何も起きない所為でうっかり忘れそうだが、何せここは例の魔物が跳梁跋扈する死地。いつ絶体絶命のピンチになってもおかしくない。
「ティア、何か見つけたよ」
「ん、どれどれ?」
先頭を行くスバルの向こう側を見やる。
そこには、何かの制御装置のようなものがあった。とても大きく、何人もの人員を投じて操作することを前提とした設計のようにも見えた。
「何なんでしょうね、これ」
「キャロ、むやみに触っちゃダメよ」
未知の世界の未知の技術だ。そこまで文明が進んでいなくても、それは変わらない。ヘタに触って大惨事ではお話にならない。警戒は最大限するべきなのだ……さっきまではだいぶ緩んでいた気もするが。
軽く注意すると、キャロはいそいそと装置から離れる。ティアナは、全員が離れたのを確認すると、事前にインストールさせていたデバイス用の解析ツールを起動させた。
「お願いね、クロスミラージュ」
《了解》
機械的なミッドチルダ言語の後に、銃型の白いデバイスからスキャン用のレーザーがその正体不明の装置に向かって照射される。
待つこときっかり十秒。光は途絶えた。どうやら解析が終わったようだ。
《マスター、終わりました》
「何かわかった?」
《はい。どうやら何らかの供給装置の制御システムのようです》
クロスミラージュが、よどみなく答えた。
「制御システム……」
「供給って、なんのだろうね」
《これ以上の解析は一デバイスの出力では不可能と判断しました。何十にもわたるプロテクトでプログラムが保護されており、その一つ一つも相当複雑です。プログラムへの深い干渉には相応の時間とマシンパワーが必要でしょう》
これまたよどみなく結論を言い放つ。
彼女(?)の意見から鑑みるに、おそらくこの装置はかなり重要なものなのだろう。なら、これ以上の深追いは現状では無用だし、不可能だ。
「ん、ありがとう」
《お気になさらず》
そう言った後、クロス・ミラージュはカード形態に戻った。ティアナはそれを腰のポケットに無造作に突っ込む。
(このくらいしかわからないか……)
事前に調べられていた文明レベル程度なら、自分たちのデバイスの解析ツールで十分なはずだ。報告漏れがあったのだろうか?それならば、どう考えても情報課のミスだ。
これでは調査も何もあったものじゃない。なんだか行き当たりばったりである。
「……どーしよ」
昇るか……またはフリードとキャロを使いに出して、この空間を調べてみるか……どれも正しい判断とは思えない。
「ティア、ちょっといい?」
「なに?」
スバルに語りかけられ、振り向く。すると、スバルは後ろで待機している年少組をこっそり指さした。
「キャロとエリオが、もうそろそろ限界だと思うんだ。いい加減、休もうよ」
「……あー」
見れば、二人共かなり消耗している様子だった。キャロに至っては、へたり込んでぼーっとしている。
「……そうね、ここいらで休憩にしましょうか。焦っても仕方ないし」
数々の仕掛けを解きながら、五人組の集団が下に下にと進んでいく。
一人は四十代そこそこの男、あとはまだ成人もしていないであろう若者だ。
空間には、五人の足音、それとたまに交わされるささやかな会話のみが響く。
周囲は大昔のアンマルチア族が設置してそのままだという発光体で何とか光度を保っている。
「アスベル」
誰かに呼ばれ、声の方へ振り向くと、その主は静かな、しかしどこか威厳のある物腰の中年男性だった。
「どうした、さっきから上の空だぞ」
「あ、すいません」
指摘され、思わずハッとした。確かに注意が散漫になっているのは否めない。
「……色々思うことはあるだろう。が、思考に浸かり、それが元で命を落としてはシャレにならん」
「わかっています……」
「もういい加減、切り替えろ。今回の任務が終わった時、じっくり考えてやればいい」
簡単に片付くものでもないだろうが、と付け加え、男性――マリク・シザースはそれきり口を閉じた。
無二の友人にして若き国王に、この星の重要なシステムである大輝石の管理装置の調査を頼まれる前、青年――アスベル・ラントはある問題に直面していた。今まで考えてもいなかったような問題だった。指摘されるまで、自覚することすらなかった。
(ソフィ……お前はどうしているんだ……? 俺は――)
今ではどこにいるのかもわからない彼女に思いを馳せる。
どう言えばよかったのか?先程から、彼の頭の中はそんな自問自答で埋め尽くされている。おかげで剣を振るう動きは鈍り、無用な怪我をしては世話焼きの幼馴染と利口な弟に注意と心配ばかりさせている。
情けない気分だった。
「皆、ここの昇降機で最下層まで一気に行けるよ」
背中ほどまである長く煌びやかな金髪を靡かせた青年が声をあげ、知らした。
*
水で満たされたその空間は、中央に岩石でかたどられた浮島以外は何もない、非常に殺風景な場所だ。
「結構長い道のりでしたね」
メガネを指で少し押し上げながら言ったのはアスベルの実弟であり、異国ストラタの将官であるヒューバート・オズウェルだ。蒼いストラタの軍服に身を包んだ彼は今回、彼の国が送ってきた調査団の団長として参加している。ちなみにマリクは北国のフェンデルの使いである。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「陛下、楽しそうですね……」
かなり楽しそうに呟いたウィンドル現国王リチャードに小声でツッコミを入れたのは、アスベルの幼馴染であるシェリア・バーンズ。立場としては一般人も同然なのだが、彼女自身が優秀な治癒術師であるが故、この魔物がはびこる地下遺跡の調査に協力してもらっている。
「! 皆、待ってくれ」
アスベルは中央の岩場を見て、あることに気づき、全員に声をかけた。
「なんだ、あれは……」
「人だ……ね。どう見ても」
そう、人が居る。四人だ。遠目には、同系統の白い服を着ている程度しか判らないが、この場に居るのはどう考えてもおかしかった。
この遺跡の一番下にある制御装置は、大輝石の機能を調整するという非常に重大な役割がある。故にこの空間に立ち入るための唯一の転送装置は厳重に警備されており、王であるリチャードが容認した者以外は入れない。
「どうやって入ってきたのかしら……?」
「とりあえず、直接聞くしかないだろう」
マリクはそう言い、武器も構えずに中央部までスタスタと歩いていく。
「ちょ、マリク教官!」
ヒューバートの静止の声も聞かない。残された四人――内、一人だけはいつでも応戦できるように、武器を取り出してから――走り出した。
次回からは名ばかりのクロスオーバーも終わりだぁ!
……はい、次回も年内には更新できたらな、と思っております。
それでは