魔法少女リリカルなのはstrikers~幻想から、尊き人たちへ~   作:瀬津

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明けましておめでとうございます。予想よりだいぶ遅れましたが、続きを投稿します。別にGジェネやってたから遅れたんじゃありませんええ決して。


泉下の戦い 1

「何、これ……?」

 装置の設置が終わったと聞いて、ティアナが放った第一声がそれだった。

 まず、ソレはよく分からん黒い土台の上で、ぴょんぴょん跳ねている。緑色の丸い体に、申し訳程度に細長い『目』のようなものが付いている。時折両サイドの羽のような耳のようなよく分からん部分をパタパタさせているが、それでボディを浮かせているのだろうか?それと、もう一つ特徴的なのが、時折何か言語を発していることだ。ただ、これも何かおかしい。

『ネライウツゼ! ネライウツゼ!』 

『ウッソ、ヒトゴロシ! ウッソ、ヒトゴロシ!』

『ワカゲノイタリ! ワカゲノイタリ!』

 こんな感じである。なんか物騒なセリフも聞こえる。設計者は何を思ってこんな声を録音したのだろうか。あと、ウッソって誰だ。

 このように見た目は可愛らしいっちゃ可愛らしいが、何かすごくイケナイモノのような感じがするのである……著作権的に。その存在に、フォワード陣は一人を除いて怪訝な顔をし、アスベルたちは『またこういう……』みたいな顔をしている。

「可愛いー! これ、すごいですね! 何て言うんですか?」

 無邪気にスバルが設置した人たち――例のリチャード陛下とマリクのことだが――に聞いている。ツッコミよりも先にその他の感想が浮かぶのかあんたは。

「ああ、そいつの名前なんだが、取扱説明書の最後に書いてあったぞ。確かハ……」

「それ以上はイケナイ!」

「モガッ」

 マリクがソレの名前を告げようとした瞬間、ヒューバートが大慌てで口を塞いだ。マリクがそれを振り払い。

「何をするんだ、ヒューバート」

「いえ、よくわからないのですが、ソレの呼称を言ってしまうと、こう……抗議行動が起こる予感がして……」

 先程まで、随分はっきりものを言いまくっていたヒューバートにしては、いまいち明確ではない態度に、周りの人間はもれなく首を傾げる。

「何だ? お前らしくない、はっきり言え」

「あ、いえ大したことは無いのですが……ともかく」

 と、そこで一つ咳払い。

「それで、これがいったい何の役割をするんです」

「じゃあ……そこは僕が説明しよう」

 そう言って、リチャードはそのピョンピョン跳ね跳んでいる球体を手に持った。

「これは中にあるダークボトル用の液体……まあ、解らない人の為に説明すると、魔物をおびき寄せる効力を持つ物なんだけど、それを散布する機械なんだ」

「要するにスプリンクラーですか?」

 エリオの発言に、リチャードは少し困ったような顔をした。

「すぷりんくらー、というものが何なのかは知らないけど、まあ、好きにイメージすればいいさ」

 どうやらスプリンクラーを知らないようだった。

「あの……」

 次に声を発したのはキャロだった。そういえば、いつまで彼女はフリードを帽子の中に入れているつもりなのだろう。気になりはするが、ここで言う事でもないだろう。

「どうしたんだい? キャロ」

 リチャードが一層優しげな声音で聞いた。整った顔立ちと相まって、どこか色気があるような感じがする。まあ、男の色気など、ティアナにはよく解らないが。

「あのバリアを張る魔物のこと『暴星魔物』って言いましたよね?」

「ああ、それが?」

「……あの魔物がバリアを張ったときの対策は、あるんでしょうか?」

 キャロが聞いたことは、今回の件に於いては一番の肝心要だった。

 

 実際問題、ティアナたちにはバリアを破る術は無い。こちらに来る以前は『張られる前に殺る』という至極単純な応急案を実行していたが、タダでさえしぶとい敵を数秒で倒そうというのは、中々実現しないもので、討伐率は半分にも満たない。残りの半分以上の時は、その魔物たちが猛威を振るうのを、ただ見送り、それが過ぎて行くのを待っているだけになるのだ。何度何もできない悔しさと不甲斐ない己に憤りを感じたか解らない。

 

「私たちの世界には、バリアを割る方法が存在しませんでした。誰かが抹消したのか、そもそも、そんなものが最初からあったのか、それすら解りません……」

 ティアナは一呼吸置いて、目の前の五人に問うた。

「だから、私は一縷の希望を持って聞きます。皆さんに、あの暴星魔物のバリアを打ち破る方法がありますか?」

 

 そう言った後、我ながら大仰な言い方をしたものだ、と思った。だが、それが今の気持ちに不相応なものとは思わなかった。

 管理局、ひいてはミッドチルダの運命は、この人たちに掛かっていると言っても過言ではない……そう考えているからだ。

 彼女の問いに対して、口を開いたのはアスベルだった。

「……その様子だと、君たちの世界は、大分ギリギリの所にあるみたいだね……」

「はい……」

「安心してくれ、俺たちにはその力はあるし、君たちの世界の事も、頑張って助けて見せる」

 一見どこまでも優しいそのアスベルの物言いは、それでもどこか毅然としていて、力強いものだった。そして、そんな彼から放たれる雰囲気は、歴戦の勇士のそれを彷彿とさせた。

 

「……ありがとう、ございます」

 ティアナは思わず、一礼していた。何故かは自分にもよく分からない。けれども、必要に思えたのだ。

 彼の言葉に、ティアナたちはある種の光明を感じ取っていた。

 最も大きな問題点であるバリアの対抗策。それをアスベルたちは持っている。そんな彼らが協力をすると言っている。

 これで、魔物事件に進展が――なら、何としても。

「生き残りましょう。私たちも出来る限り努力します」

 スバル以下三人は一様にはっきりと頷いた。

「……いい心がけだ」

 そう言ってマリクは、口の端を少し吊り上げた。

「さあ、陛下。そろそろおっぱじめましょう」

「ああ……さて、頼むよ」

 リチャードが球体の裏側にある蓋を外した。そこには何かを調節するつまみだけが引っ付いていた。他には何もない。非常にシンプルだ。

 リチャードは、そのつまみを指先でゆっくり時計回りに約270度回した。にわかに緑のそれの瞳が赤く光る。

『サンプ! サンプ! モンス、カモン! モンス、カモン!』

 

 回し終えると、スプリンクラーはさらに激しく飛び跳ねだした。……羽の部分から、薄く黒い霧を出しながら。

「さぁ、気を引き締めよう。敵は意外とすぐ来る」

 リチャードは腰に下げた細剣を引き抜いた。薄く蒼い刀身に細やかな装飾が施され、一目でそれが上等なものだと解る。

 リチャードに続き、その場にいる全員が得物をその手に掴む。ティアナは、さりげなくフォワードメンバー以外の武器に目をやる。

 

(アスベルさんは普通の直剣。ヒューバートは拳銃二本……両側面についている金属板みたいなのが気になるわね。マリクさんは……ブーメラン? シェリアさんはナイフ)

 パッパと頭の中の人物名鑑に武器の種類を書き足していく。センターガードという、チームの司令塔の役割を持つティアナにとっては、これは癖みたいなものだ。ここから、作戦やフォーメーションを大雑把に決めていくのだが、今回ばかりは予想できない。なにしろ出会って三十分も経っていないような間柄だ。得意な間合いや攻撃方法、回復手段はどれくらいで、そもそも実力は如何程か……

「来た、構えて!」

 シェリアの声でそれまでの思索を打ち止め、ティアナは辺りを見回した――すると

「な、何なのこれ……?」

 ぐるりと上空を埋め尽くすほどの魔物。翼竜のような姿をしたもの、エイのようなもの、童話に出てくるオバケのようなもの……その殆どが、黒々とした体色から察するに暴星魔物だ。

 ミッドチルダの、魔導師や一般人は、暴星魔物一匹に何人も傷つけ――あるいは死んでいった。ある者は焼かれ、ある者はバラバラに引き裂かれ、その身から臓物を撒き散らし、また、ある者はわけのわからない光線のようなもので急所を貫かれた。

(一歩間違えれば、私たちも……)

 首筋に死神の鎌を押し付けられたような悪寒が走った。

 一、二、三、十、二十?いや、もっと――あまりの数に、頭がじわじわと恐怖の色で塗り潰されていく。

 不安に駆られ、つい自分の周りの人達に視線を走らせる。まるで誰かに縋り付くように。しかし、この状況に、危機感あるいは恐怖心を感じていない者はいないようだった。おそらくある程度慣れているであろうアスベルたちも険しい表情で上空を睨みつけている。フォワード陣に至っては、もはや茫然自失の体を相なしている。

 ティアナ自身、この絶体絶命、多勢に無勢の状態を前に殆ど思考停止している。

(ダメだ、落ち着け。まだ死ぬとは決まっていない。冷静に……)

――ぎぃおおおおおぉぉぉん……

 恐怖で凝り固まりかけた頭が動くようになったのは、皮肉にもその恐怖の対象の雄叫びだった。

 ハッとしたティアナは、精一杯肺に息を吸い込んだ。

「恐るな!」

 七割くらい自分に言い聞かせるように叫んだ。そのまま、フォワード陣に向かって矢継ぎ早に指示を出す。

「スバル、ウィングロード。エリオとキャロはフリードに乗って。一撃離脱で行きましょう!」

 ティアナと同じように、今まで硬直していたのか、その声にハッとして三人は指示の通りに動く。

 スバルが地面にリボルバーナックルを叩きつけ、ウィングロードを展開するのと、キャロが帽子から小さな白龍を出し、エリオと共に騎乗するのと、魔物たちがこちらに向かって進行を開始したのは、ほぼ同時だった。

「大したものだな、空中に道を作るなんて」

 マリクはそう言って、ブーメランを振るい、近づく敵に牽制をかける。

「道、使わせてもらうよ!」

 アスベルは剣を引き抜いた状態で、スバルが作った道を駆け上がる。続いて、ヒューバート、スバルがその後を行く。

 戦いの、始まりだ

 

 

 *

 

 

 空中にまるでカーペットのように敷き詰められたウィングロード。その上では、剣士と銃士と拳士が、魔物を相手取って戦っていた。

「覇道、滅封!」

 アスベルが剣を強く振り上げると、刀身そのものから巨大な爆炎の衝撃波を撃ち放つ。その大きさは人を容易く飲み込めるであろう。そして、威力自体もかなりのもののようだ。熱線に触れた魔物は全身にぶすぶすと煙を浮きだたせ、怒り狂ったように雄叫びを上げる。一撃でだいぶ堪えているようだ。パッと見ただけなら、スバルの師匠の得意技にもそうは引けを取らない威力に思えた。

 

「やぁ!」

 スバルは目の前に迫り来る魔物の顔面を殴り飛ばし、すぐにその場から離脱する。スバルたちの『道』は縦横無尽、あらゆる方向に展開されており、足場としては現状充分にその役割を果たしていると言える。

『マスター、九時の方角から炎弾が来ます』

 ローラーブーツ型のデバイス『マッハキャリバー』が敵の追撃を予告する。スバルはそれに従い、九十度真上に飛ぶことでそれをいなす。

「ほいっと!」

 事も無げに着地して、そのまま風の道を駆け抜ける。

「ありがとうー、マッハキャリバー」

『当然のことをしたまでです。さあ、五時の方角、鳥獣型が来ます』

「えっ!?」

 いくらなんでも早すぎる。左側から来たと思ったら、今度は後ろ――

 疑問を浮かべている隙を突いて、漆黒の怪鳥が鋭い鉤爪を紅く光らせ、こちらに突き立てようと上空から迫る。

 

 しかし、スバルは慌てなかった。

「ただのひっかきならさ!」

 魔法攻撃ならいざ知らず、物理的な攻撃は、スバルたちが纏う『バリアジャケット』には全く通じない。このただの布にも思える防護服には、薄く防御フィールドが展開されている。例えビルにものすごい勢いで叩きつけられようが、何されようが、本人にはカスリ傷一つつかない。そんな打算の元、スバルは渾身の右ストレートを相手の土手っ腹に叩き込もうと飛び上がった。

 

 そして、今まさに拳と爪が交差しようとした時――

『! 攻撃を防いでください!』

 相棒から切迫した音声が届いた。

 突然のことで、スバルは突き出していた右拳で怪鳥の鋭爪を、ほぼ反射的に弾いた。そのまま弾いた反動を利用して、先ほど居た位置からさらに内側にある道に着地する。

「どうしたの、マッハキャリバー? ただの物理攻撃なら……」

『妙ではありませんか?』

「何がさ」

『あの爪です』

「爪……」

 目を凝らし、自分の上空五メートル上でホバリングをする怪鳥のシワだらけの足を凝視する。

 その爪は、見るからに殺傷能力が高そうな外形をしている。怪鳥自体も巨大だが、その巨躯に伴って、大きさも相当なものだ。一本でスバルの胴体と同じくらい太さがありそうだ。それが三本。

 

「どこら辺が妙なの?」

『……あの爪の色、はどうですか?』

 色……色は鮮紅色とでも言おうか。見事な赤色で、その光沢のある色彩はまるで……

「暴星バリア……?」

『おそらくは』

 マッハキャリバーが何を考えているのか――スバルには解った。

 

 暴星バリアがどのような力を持つのか、未だにその全貌は解明されていない。もし、仮にこちらの防御を突き破る力があるのだとしたら……あの体躯だ。スバルの大して力の乗らないパンチ一発でそうやすやすと怯んではくれないだろう。致命傷は避けられなかったかもしれない。

「どうする? って言っても……」

『私たちには殴ることしかできないでしょう? 注意はすべきですけど』

「だよねぇ!」

 ウィングロードを力の限り蹴り上げ、怪鳥に接近する。

 難しいことなど考えてみても、この場においては意味がないのだ。自分はただティアナが――親友が導いたものに向かってただ真っ直ぐに突っ込むだけだ。

 リボルバーナックルから薬莢が排出される。それと同時に、装備者に魔力を補填する。

「今即興で思いついた技、行っくよー!」

  目標は、威嚇のつもりか、上空で大口を開けた相手の顔面。跳躍は十分な域にまで達し、平行な目線で敵を捉えた。

 後ろに限界まで引き絞った拳が弾丸のごとく飛び出す。その一撃は若干当初の予定からずれ、敵の横面を捉えた。鉄を殴ったような衝撃とともに、直撃部分の嘴がひび割れる。そこに――

――バチチチチチィ……

 まるでプラズマがスパークしたような魔力の炸裂音。拳の先から、微細な魔力弾を連続かつ超スピードで放出する。弾の威力は砲撃系には劣るだろうが、鉄拳で砕いた部分に直撃する分、ダメージは相当のものだ。怪鳥の顔面は、どんどんボロボロと崩れていく。

あの魔物には、ディバインバスター――砲撃魔法は使えない。強力ではあるが、前動作とモーションの大きさのせいで避けられかねない。それならば、と考えたのだ。

 思いつきにしては良く出来た、と内心得意げになった時――

『熱源反応! 炎熱系魔法! 退避してください!』

 マッハキャリバーの警戒音声が鳴り響く。

「くっ!」

 追撃を諦め、再び元の足場に舞い戻り、上から降り注ぐ四発の炎弾――というよりは、炎柱だが――を巧みにステップで回避する。

「どこから!?」

『先ほどの魔物とほぼ反対側。おそらく誘導制御型の敵です』

 チラと逆方向を見る。その五メートルくらい先には、目玉の化物がふよふよと浮かんでいた。

 

 先ほどの怪鳥は、怒り心頭といった感じか、翼を激しく羽ばたかせている。

 その翼を大きくスバルに向かって振り下ろした。巨大なそれからは、黒々とした羽が、大量に彼女に向かって射出された。

「しまった……!」

 一つ一つに魔力反応がある。バリアジャケットでは防げない。あの量と範囲では躱しきれない。体の頑丈さには自信はあるが、耐えきれるかどうかわからない。

 そう感じた瞬間、スバルは自分が何を相手にしていたのか改めて思い知った。そう、この魔物たちはそこいらの魔道師ではまるで歯が立たない。なのはやフェイトといった教導メンバーが出張ってようやく倒せる……そんな連中だ。それをひよっこの自分が一人で倒そうなどと――

 そんな弱気な考えが、現状打開に対する諦めと共に浮かんだ。

 黒い凶弾が迫る――

 

 

「リヴグラビティ!」

 しかし、その弾丸はスバルの目の前に展開された巨大なエネルギー球体に遮られた。

 バチバチと雷が爆ぜるような騒音の中、そっけない口調が後ろから耳を突く。

「まったく……一人で先行するからですよ。スバル・ナカジマ」

「あ、ヒューバート……くん?」

 突然の事で面食らって、気の抜けた返答をすると、メガネの少年はやれやれと肩をすくめた。

 

「考えなしに突っ込まないでください。身体の頑丈さに自信があるのかもしれませんが」

「い、いや、でもさっき……」

「ああ、スキアーイーグルの羽は非常に鋭利で、しかもちょっとしたバリアくらいでは防ぎようがないんです。失礼ですが、相殺という手段で防いだんですよ」

 イマイチ質問の意図が解りきって無いようだった。スキアーなんとか言う鳥の名前はどうでも良かった。そんなことより――

「さっきの技は?」

 突如現れた幅四メートルはあろうエネルギー球体。あれは一体何なのか。

 スバルの問いに、ヒューバートは手元の二丁拳銃から小さな薬きょうを排出させながら、事も無げに答えた。

「あれが、貴方たちが欲している『暴星バリアを壊せるもの』ですよ」

(あれが……)

 あの感じ。おそらくミッドチルダ式でもベルカ式でもない魔法。自分たちのものとは明らかに異質なもの。その存在に、スバルは、安堵とある種の高揚感を感じずにはいられなかった。

 逆転の機会を得た事に対する高揚感だ。

 




ちなみに、ヒューとスバルが話している間、暴星魔物は律儀に待ってくれています。
この戦闘、あと長くて二、三話程で終了となります。そこからようやく主人公(?)のクラウドに視点が移ることになるでしょう

それでは
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