魔法少女リリカルなのはstrikers~幻想から、尊き人たちへ~   作:瀬津

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今更こんなの誰が見るんだよと思いつつ投下します。なお、エリキャロが非常に空気な感じがしますが、だからと言って二人のことは嫌いではございません。リリカルキャラでは割と好きです。

本当だよ!


泉下の戦い 2

「其は耐え無き息吹、フォトンブレイズ!」

 マリクの術の詠唱が終わると同時に、ティアナに向かって牙を剥けていた竜の魔物が爆ぜる。二メートル離れた距離から、彼女の肌を一瞬だけ熱が襲う。そうして怯んだ隙に、ティアナは対象との距離を引き離した。そこまで規模の大きい爆発ではないが、威力はあるらしい。その暗色系統で色づけされた鋭利なフォルムの顔面は、醜く焼け爛れている。

「ありがとうございます!」

「気にするな、次が来るぞ」

 短く言葉を交わし、思考を戦場に引き戻す。

 

 端的に言って、経過は非常に良い物となっている。魔物は基本的に黒い霧を放つあの機械のところに集まろうとする。つまりティアナたちが居る岩場に雪崩れ込んで来るはずなのだが、連中は目の前に敵が居ると、どうやらそっちを優先したがるらしい。上空で旋回を続けるキャロとエリオ、そしてその二人を乗せるフリードに標的を絞る。そこをティアナたちが魔法で狙い撃つのである。

 

しかし、この方法で全ての魔物を処理できるわけではない。その他の真っ直ぐ突っ込んで来ようとする連中は、アスベルとヒューバート、そしてスバルの方へと飛んでいく。それでも、先程のようにこちらに向かう奴らは、各々で処理をするという事になっている。

 

 ここでティアナが驚いているのは、この形が全て「何の相談も無しに決まった」という事だ。不思議な事に、エリオは自分たちに近づく魔物を追い払う程度しか攻撃しない。キャロはキャロで、フリードに飛行に関する指示以外は出していないのか、まったくあの白竜のブレスは吐き出されない。マリク、シェリア、リチャードの三名はひたすら魔法を行使して、敵を撃ち落とす。

 

「来たれ安息無き剣、連なるは悲痛!レストレスソード!」

 リチャードが唱えると、上空で黒々とした闇が円状に、今まさにキャロ達に向かって火球を吐きださんとする魔物の足元に展開される。即座にターゲットの頭上から、次々と漆黒の大剣が打ち出され、闇を縁取り、彩る。その刃の落着地点から次々と黒い衝撃波が発せられ、円の中心部に居る魔物を絶命させる。

 

 リチャードたちが使う魔法は、ティアナが知るようなベルカ、ミッドのそれではないようだった。彼らの放つ魔法はあの暴星魔物と同じだ。その形式は、基本的に魔法陣の展開が必要無い。代わりにというべきか、殆どの場合に於いてその力を行使するには、使用したい魔法それぞれに予め決められた呪文を唱える必要があるようだ。

 

「ティアナ、右から来るぞ!」

 声に誘われ、三時方向に意識を向ける――同時にデバイスに備えられたカートリッジを二個消費し、魔力スフィアを展開する。

 彼女のデバイスのサポートもあり、オレンジの魔力球が滞りなく造り出される。その数十。対象は、接近してくる翼竜型の魔物。速度がある。時間がない。肉薄されればひとたまりもない。

(確実に、そして最速で全弾撃ち込む……!)

「クロスファイア!」

 敵の正面に銃口を突き付け、引き金となる単語を言い放つと、魔力スフィアを一瞬でデバイスの洞に束ねる。

「シュート!」

 そして、砲撃。殺傷力を持った魔力が恐るべきスピードで黒い翼竜を貫く。

(ただの魔物ならこれで終わりだけど!)

奴らはこの程度では沈まない。少女は再び得物を持つその手に力を入れる。

「やあああぁぁぁぁ!」

 勢い任せに、クロスミラージュの銃身から連続十五発の弾丸を叩き込む。一発一発の重みは然したるものではないが、それなりのダメージにはなるようだ。魔物はティアナの抵抗に対して激昂し、頭をもたげてその鋭い嘴を裂いた。

(ブレス系の攻撃……!)

 変にゆったりとした動作からそう判断した。走り回らず、水面を背後に立つ。

 数秒と経たずに吐き出される、エネルギーの塊。正しく紙一重といったところでそれを右側に振り切るように回避する。

「きっつー……」

 なんとかいなせたが、心の中ではてんやわんやだ。一撃一撃が致死級のそれは、間髪入れずにティアナを責めたてる。

 第二撃が放たれようとしたそんな折、その魔物に素早く近づく人影を見た。

「……おおっ!」

 リチャードだ。引き抜いた細剣を魔物の表皮に突き立てる。その刃は弾かれもせず、烈風を纏って対象を貫いた!

――グオオオォ!

「追撃を!」

大きくノックバックしながら、黒い翼竜が怒号を響かせる。リチャードがティアナに後を託すかのように叫ぶ。

 慄く暇もなく、ティアナは再びカートリッジを消費して魔力を増大させる。今度はその全てを銃身に押し込み、まっすぐ銃口を対象に向ける。

「ファントム……」

今ある魔力のほとんどを、この一撃にぶち込む!

「ブレイサアアァァァァァァ!」

 叫びと共に、彼女の最高瞬間火力が打ち出される。翼竜の全身を飲まんとするほどの魔力の塊は、防御の暇すら与えない。

 跡には既に、亡骸となった化け物の姿しか残らなかった

 

 *

 「……これで、最後か?」

 肩で息をしながら、アスベルは周囲を見回していった。

「そうでなければ困るのですがね……」

「ねー……」

 満身創痍といった感じのヒューバートに、疲労困ぱいといった感じのスバルが同調した。

 今先ほど自分たちの目の前から落ちていった一つ目の魔物は、十メートルほど落下したのち、派手に水音を立てて水没した。

 

「……こんなに動いたのは久しぶりだよ……げほっ」

あまりにも息を切らせてしまったせいで、少し咳き込んでしまったようだ。

「兄さん、少し運動不足なのでは……がほっ」

「とにかく下にもど……げーほげほ」

『少しわざとらしいですねマスター』

 ちょっとノッてみたら、デバイスから突っ込みが入った。なんか最近冷たい気がする。

 しかしながら、スバル自身も全く消耗していないわけではない。魔力はカラカラだし、背中は火傷の痛みでひりひりする。どうにもバリアジャケットでも熱までは完璧にシャットアウトできなかったようだ。

「あれ、今声が聞こえたような……」

 マッハキャリバーの突っ込みが聞こえたのか、アスベルが何事かと周囲を見回した。

「えっと、この子が話したんだけど……」

 そう言って、スバルは自分の足元の相棒を指差した。案の定、二人とも「はぁ?」みたいな顔をした。

「靴が……?」

「そう」

「ふん、バカなことを言わないでください。いくらなんでも靴がしゃべるなんて……」

『残念ながらしゃべります』

「ほ、本当にしゃべった!?」

 などと言いながらのろのろと空の道を降りていく。

「しかし、すごいな」

「何が?」

「この道だよ」

そういってアスベルはつま先でトントンと足元のウィングロードをノックした。

「あの一瞬で、ここまでの足場を即席で作れるなんて…… 俺は、輝術には大して詳しくないけど、君たちの世界の人々は皆こんなことができるのかい?」

 アスベルは本気で感心しているようで、その表情はまるで面白い手品でも見せてもらった子供のような顔をしていた。

「んー、この魔法は少し……何て言うか、ニッチなモノなんで、使える人はそんなに多くないです。私の知り合いにもコレが使えるのは数人しかいませんし」

 ニッチなモノなんて言ってしまったが、事実主流にある魔法か言われれば否と答えざるを得ない。何て言ったって、ほとんどこの魔法はスバルのオリジナルだ。

「へー、すごいなぁ! そんな魔法を使えるのかスバルは!」

「え、ま、まあそうですよ。ははは……」

 あんまりにも臆面なく誉めそやされるので、思わずたじろいでしまった。自分より4歳くらいは年が上だろうに、全くそんな感じがしない。それはきっと、このアスベルという人物の素直さのせいなのだろう。

 

(何か、今までにないタイプの人だね、アスベルさんって)

(どうしたのよ急に? さっさと戻ってきなさい)

 

 友人に同意をもらおうとこっそり念話で話してみたが、にべもなく通話を切られた。何となく切ない。

 

 そうこうしているうちに、小島までたどり着いた。

 みんな往々にして疲れ切ってしまっているようだ。二人ほど座り込んでいるが、元々スタミナの無いキャロや、殺到する魔物を必死こいて捌いていただろうティアナの二人はぐったりしてても仕方ない。

 

「みなさんおつかれさま……」

「おつかれさまー……」

「本当に疲れてしまったよ。マリク、僕はもうそろそろ有休を使いたいのだけど」

「寝言は寝てから仰ってくださいよ陛下……まだ何の問題も片付いてないんです」

「ああ、それもそうだったね……」

 

 などと金髪王子とナイスミドルが小芝居を打っているが、おおむね平気そうだった。何かしらの治癒魔法のおかげか、今来たばかりのスバルたち三人以外の肌には、かすり傷一つついていない。

「キャロ、もうみんなに治癒魔法かけたの?」

 そうキャロに聞くと、キャロはふるふると首を横に振った。

「わたしがかけようとしたんですけど、シェリアさんが代わりにやってくれたんです。ね、フリード?」

 キャロの膝の上で小さくなったフリードは、きゅうと鳴いて主人に答えた。

「そうなんだ」

「凄かったわよ、シェリアさんの治癒魔法」

不意にティアナが口を挟んできた。

「私、さっきの戦闘で二の腕の辺りざっくりやられたんだけど、あの人のおかげできれいさっぱりよ。世の中、すごい使い手もいたものね」

そういうティアナの腕は、確かに傷一つないようだった。

「へー……」

何の気なしに話している風に言ったが、彼女は本気で感心しているように思えた。わざわざ自分に話したのがその証拠だ。

「あなたは、ケガはないかしら?」

噂をすればなんとやらというのだろうか、シェリア自身がスバルに声をかけてきた。

「え、えーと、ちょっと火傷はしたかなー……みたいな?」

「あら、それは大変ね。どこかしら?」

「せ、背中……」

「そう、じゃあ失礼して……」

 そういってシェリアは、スバルの背中の服を捲り上げた。男性陣がいる方とスバルの間に挟むように位置を取る。自分よりおよそ10センチくらい背が高いので、姿は見えないはずだ。

「あっ、つつつ……」

「ごめんなさい、少し我慢して……水ぶくれになっているわね。潰さないようにすれば数日で痕もなく元通りのはずよ」

「え? 潰しちゃダメなんですか?」

「水ぶくれの中は、傷を治す物質で満たされているの。それに頼るだけで十分な治療になるわよ。冷やすだけ冷やした方が良いけど」

「じゃあ、氷嚢ですか?」

「氷嚢よりも水ね。とりあえず外に出たらお風呂で……」

 てきぱきと答えるさまが、看護師か何かみたいだった。ひょっとしたら病院か何かの関係者かな、などと思っていた時。

――ヒィオオオオオン

 どこかで、獣の鳴き声がした。

「まだ敵が残ってたぞ!」

 マリクの声が響く。その場にいた全員が、鳴き声の方向に視線を向けると、そこには、今までの魔物の何倍もの大きさを誇る漆黒の巨鳥が、自分たちを上空から睥睨していた。

 

「お、大きい……」

「どこに居たんだ……!」

エリオがキャロを背にするように槍を構えながら言った。

「おそらく水中に潜んでいたのでしょう。まったく、手間のかかる……!」

 

 ヒューバートはそう呟いて、得物をその手に取る。よく見れば、双翼の端からポタポタと水滴を垂らしている。

『水中での行動もできると考えていいでしょう』

「そうね……また潜られたら厄介よ。さっさと片を付けましょう」

 クロスミラージュと、ティアナが言うよりも速く巨鳥は行動し始めていた。高度を高くし、さらにそこから恐ろしいスピードでこちらに向かって滑空、突進をしてきた。

 

「みんな、下がって!」

アスベルが叫んだ。全員に退避を命じたのだ。しかし、そういった本人は敵の進行ルートに立ちふさがった。

「アスベル!」

「俺が受け止めるから、その間に倒すんだ!」

「馬鹿を言わないでくださいよ! 兄さん一人で止められるわけが……」

「やってみなきゃわかんないだろ? 安心してくれ、どうにかしてみせる」

 アスベルは剣を抜き、目の前の目標と向き合った。1秒も満たない内に、アスベルが魔物と接触する。

 鉄と鉄がぶつかり合ったような音が響いた。

「ぐ、うううううう!」

 

アスベルは見事に敵を受け止めきっていた。しかし、この金縛り状態はいつまでも持たないだろう。

「アスベル、早く退いてくれ! そこに居たら、君も巻き添えに……」

「ダメだ、ここで離れたらこいつを逃すことになる! それならここで早く倒すべきだ!」

 

 アスベルの言う通りかもしれない。先ほどのスピードだと、おそらくキャロのフリードでも捕まえられないし、自分のウィングロードでは移動の融通が利かなさ過ぎる。かといってティアナの射撃魔法では残念ながら仕留められるかどうかも怪しい。ほかの人の魔法については未知数だが、反応からみると、自由にした状態では厳しいものがあることは明白だ。そうなればバインドで捕えればいいのかもしれないが、サイズが大きすぎてどうにもならない。

 

 この場にいる人間の一瞬の逡巡を察したとでも言うのか、魔物がにわかに輝きだした。

『マスター、魔力の増大反応です!』

「なんだって!?」

 

 マッハキャリバーが告げた時には、すでに遅かった。敵の輝きが収まった瞬間に、スバルたちの頭上から大量の黒い稲妻が降り注ぎ、自分たちを打ちのめした。

 

 痛みに意識が消え入る間際の光景は、それでも立ち続けるアスベルの背中と、低く唸り声を上げる魔物の姿だった。

 




終わり方がまたもやフワフワでもやもやするかと思いますが、今回はここでカットです。
ちなみに、技名叫ぶのはもはや様式美だと思うので叫ばせています。詠唱とかかっこいいですよね!え、むしろサムい?

次回が何時になるかはわかりませんが、まったり続けていきたいと思います
それでは

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