とある武田の足軽大将   作:織田上総介信長

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まさか、ここまで放置しちゃうとはね………


すみません。かなり気長に更新します。


第一話

 

 

高遠城を陥落させてから数日が経った頃――

 

 

俺と馬場殿は、晴信様が向かわせた五千程の本隊との合流するべく城内の改修作業に力を入れつつも次の林城や深志城といった南信濃を治めし小笠原長時が拠点を落とす為に兵達を休ませながらも敵に関する情報をかき集めたり、領内の治安維持に見廻り等を行わせたりとそれなりに忙しい日々を過ごしていた。

 

 

まぁ、次の戦では福島城より木曽義昌が小笠原側の増援として出陣するという忍からの情報もある。

 

 

「………要は、小笠原攻略をさっさと進めにゃ村上も含め逆に高遠城も攻略されかねん。その上、此方も御館様の本隊も未だ到着が怪しいと見なきゃならんか………これならハナっから敵の出方を探って討って出たいが………さて、この資金と紙切れ一つで何処まで数を増やせようか………」

 

 

俺は、領内の農民等にゃ戦が起きたら直ぐにでも城へ来たら出来るだけの資材をばら蒔いてやるといった書状を見せてみたんだが、これを半信半疑に見つめつつ試しに城内から持ってきた資財を二〜三百貫ほどばら蒔き様子を見る。

 

 

まぁ、ハナっから大して期待しちゃいないとこでもあるせいか四〜五十くらい集まれば多少は、土地勘のある奴等でも来てくれりゃ何かと敵と戦う勝機も見つけやすい。

 

 

ただ、こういったやり口を主君の中じゃ民草を戦に巻き込むからと嫌う者もいるらしく中でも長尾景虎とかいう者は何でも神憑りな力を得て戦に挑んでいるという噂が信濃のこんな田舎でもちらほらと聞こえるのが、ここ最近妙に気になって仕方ない。

 

 

「小笠原や木曽を黙らせといた後にでも越後にでも行ってみるか………」

 

 

ただ一人呟きつつも農民等に面を出し終えた後の帰りにふと越後の長尾景虎めの噂を気にしつつも俺は、城へ帰還した。

 

 

それから数日後の明朝にて、甲斐本国からの増援が駆けつける前よりも敵の隊がいよいよこの高遠城へと向かってくるという報せが馬場殿の耳に入ったせいか、彼女は直ぐにでも城内にいる三千程の戦える兵をかき集めたのだが、対する敵はおよそ一万もの大軍らしくこのまま戦っても勝ち目などハナっから無いと彼女を止めてる時だった。

 

 

城には金をばら蒔いた農民等が軽く二〜三百はいる村中の者等を集めてくれたお陰かその状況に驚く馬場殿に対し俺は手勢の兵達に幾らか用意した五百貫ほどの銭を連中へ配らせながらも土地勘ある連中から敵が来そうな道筋から連中しか知らない裏道のありかまで案内してくれたお陰もあってか、その状況を未だ掴めて無い彼女に対し簡潔に今後の流れを報告する。

 

 

「さて、民草の協力を求めて正解でしたよ。後は連中の話に嘘偽り無いか忍の連中にも探らせときますんで事がハッキリとしたら直ぐにでも迎え討つ支度もしなくては、敵さんも増援を求めてるでしょうからあまり呑気にされちゃ折角の戦で勝機を逃しちゃいますよ」

 

 

「いゃ、無暗に民草を戦に巻き込むなんて知られたら御館様に怒られちゃうと思うのですが………」

 

 

「地の利も解らぬ我等だけで戦ったところで敵に敗れる事は必定ですがな。それとも、ここで、本隊と合流する為に隊を退きここの民達を見捨てておきますか?まぁ、そうなれば、領内で敵兵に好き勝手やられて最終的には使い捨てるかのよう捨てられる若い女共や無理矢理、子達が売られるのが目に見えるでしょうけどな」

 

 

「それは許せないです!ですけど、敵さんだって何もそこまでする道理が無いと思われるです!」

 

 

馬場殿は、意地でも領内の民草をなるべく巻き込みたく無いとこっちに主張しちゃいるが、彼女も武田に仕えてまだ二〜三年経ったかどうかで日が浅い上に他国じゃ侵攻してきた勢力の兵達が人身売買をしていても目を瞑る連中がいるのは何処でも当たり前みたいなもんだ。

 

 

また、此方が協力を要請して乗り気だというのもここで負けられたら自分達の家庭が滅茶苦茶になりかねん可能性も高いと考えてちょっとばかりの資金をばら蒔いてくれたのをきっかけに乗り出してくれてるのだからなるべく集められる人手は多いに越した事は無い。

 

 

「それに、民草を巻き込みたく無いと言ってもこの乱世で日々、前線で戦い抜いている連中なんて殆どが元々は田畑を耕して生きてる連中って事を忘れちゃいませんかぁ?遅かれ早かれ俺達は既に領土拡大が為に戦を仕掛けてる時点で民草の生活を脅かしてる側でもありますし、敗けたら連中の生活がより苦しくなるんです。それを肝に命じとかなきゃ…………国なんて滅びますよ」

 

 

「うっ…………解りましたです。正直、私の兵達も疲弊が残ってますしお馬さん達も満足にご飯を食べられない状況です。なので、走れるお馬さんの数も限られてますからあまり長期戦には持ち込みたくはないのです」

 

 

志願してくれる領内の民草を兵として扱っても構わない代わりに短期戦で勝ってくれなきゃこの先は無いと言いたいのだろう。

 

 

まぁ、高遠城にある兵糧もあまり期待は出来ないんで仕方ないといえば仕方ないだろう。

 

 

なので、それを承諾した俺は早速、領内に詳しい民達を集め連中の知ってる道筋を地図で描いて貰いつつも武田の忍びから得る情報と照らし合わせながらもこの林城の支城からこの高遠城までの間には峠がある。

 

 

だが、そこから小笠原・木曽連合軍が駆け付けるとなりゃ今の戦況だと籠城策が得策だろうし、何より本国から援軍で五千程の兵を率いてる奴もこれぐらいの状況くらいは何とかしてくれるだろうと考えつつも俺は、五百の手勢と領内でかき集めた連中を含めた千足らずの兵で上原城へ向かう事にした。

 

 

まぁ、これに対しちゃ馬場殿も無謀過ぎると反対していたが何よりこの上原城も諏訪の残党等が小笠原と組み守りに徹している。

 

 

その上、信虎様の代に小諸城を攻略しちゃった勢いに警戒している北信濃で力を蓄えている葛尾城主の村上義清が越後との境目に領土を持つ高梨政頼と組みその裏では山内上杉家がいるせいで信虎様も当時は、周りに当たってかなりキレてたなぁ………

 

 

「まぁまぁ、それを乗り切れば今の小笠原の連中等なら仕留められるでしょうよ。昔に比べて我等に裏で牙を向けてた山内上杉も北条に手を焼いてるそうですし、村上も村上で小諸城の攻略に手を焼いてるそうですからなぁ………」

 

 

「だからってここで小笠原に一泡吹かせるってのが無茶なんじゃないんですかねぇ。康景さんの言う通りでしたら確実に向こうも油断しないと思いますが…………」

 

 

「ハハッ、痛いとこをつきますな。ですが、信虎様より仕えし我等の実力には及びませんよ。という訳で我が千の手勢で上原城を陥落させてやりますから安心なされよ」

 

 

「あっ、あちゃ………意外と康景さんも猪みたいなとこがありますけど大丈夫でしょうかねぇ………それにしても勘助殿は康景さんと虎繁さんには功績こそ上げないようにと念を押されましたけど何であんなに行動が早いんですかねぇ………」

 

 

高遠城から出る際にて信春様が溜め息を漏らしてた気がしてたが………

 

 

大方、山本殿の入れ知恵だろう。

 

 

現御館様の武田四天王はまだ出来て日が浅い。

 

 

山県殿みたいな先代の頃から仕えし宿老格を筆頭に未だ健在の我が武田家中の宰相的な立場である飯富虎昌殿の力を警戒しつつも裏で山本殿が武田にいる古くからの猛者である板垣信方殿と甘利信泰殿等の動きに目を向けてたな。

 

 

で、今回の村上攻めにあの二人を先陣に任せ信春様に知られぬよう戸石城の攻略へ向かわれたと忍からも朝の内に聞いた気がしたのを思い出す。

 

 

まぁ、こういう戦況下でなくちゃこんな策はしないだろうがな。山本殿と共にいる内藤殿の隊に潜ってる虎繁もそろそろ功を切らして上原城にて明日の晩近くには合流するのが我等が目的………その上で高遠城を掠め取ろうとする小笠原の拠点を陥落させるのが此度の功を挙げる最大の狙いであり上手くいけば虎盛殿が待たんとばかりに発言力を強くするきっかけにしようと俺達は狙っていた。

 

 

「山本殿はあの老将二人を捨て駒にするだろうが…………此方はこれを利用して小笠原の拠点を掠め取り現御館様を再び屋敷へ閉じ込め信虎様が命通りに信繁様を迎え入れれば良いだけの話よ」

 

 

だがこの時、山本殿が上田原にて二人の老将を失わせただけならまだしも我が義父上も戦死させながらも村上側に大きな痛手を負わせるなど正直、予想外な結末を昔ながらの虎繁から聞かされる事になろうとは想像も出来なかった。

 


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