この大空に、翼をひろげない   作:四季式

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プラスチック・プロローグ。

 『事実は小説よりも奇なり』

 

 それはまさしく今の僕の状態を表すのにピッタリな言葉だ。

 

 僕は、いわゆるニートだ。

 

 親の脛をかじり、惰眠を貪り、ただただ怠惰に生きてきた。

 

 そんなお先真っ暗な僕が、いつものように昼過ぎにのそのそと起きたら、そこは僕の部屋であって僕の部屋ではなかった。

 

 だってそうだろう。

 

 僕の部屋に見知らぬ美人なお姉さんがいて漫画本を漁っているなんて、僕の部屋で起こる現象ではない。

 

「ん? 起きたかい?」

 

 はは、声まで聞こえたよ。

 

 きっと幻聴だ。もしくはたちの悪い夢だ。

 

 夢の中で寝ると現実に戻れるんだっけ?

 

「ああ、失礼。勝手にお邪魔させてもらっているよ…っておいおい、人が話しているのに寝ようとするとはさすがに失礼じゃないかな?」

 

「…誰ですか。僕の夢に勝手に登場しないでください」

 

「むーん、夢ではないのだがな。まあそう捉えたならそれでもいい。これから君は夢のような体験をするのだからな」

 

 ニヤリ、と彼女は妖艶に嗤った。

 

「これだけの量の漫画を読んでいるのなら『二次創作』というものを知っているな?」

 

 二次創作。

 

 それは既存の漫画や小説を下書きにして『自分ならこうする』などの妄想を書き散らすことで満足感を得る自慰行為の末できる作品のことを言う。

 

「その意見はかなり偏見が入っているが、大まかに言うとそうだ。そしてその中に『神様転生』という使い古された介入方法があることも知っているな?」

 

 神様転生。

 

 それは二次創作において最もメジャーで、かつ陳腐な始まり方である。バージョンは様々だが、基本的に神様が手違いで、もしくはワザと殺した人間を物語の世界に送り込む、というのが一般的である。ちなみに神様の容姿は老人か幼女が多い。

 

「そうそう、その神様転生。全く、ちょっと考えれば分かるだろうに。神様が存在していると仮定しても、60億超いる人間をひとり殺したくらいで何とも思わないよ。世界のバランスが〜とかいう設定もあるけど、それも無理があるよね。人ひとりでバランスが崩れるような世界が今まで成立してきたなんて、それこそ神の奇跡だよ。ま、そんなわけで私は人間ではないけど神様でもない、ってことはなんとなく話の流れ的には理解できたかな?」

 

 まあ、僕の思考を読んで話してるし部屋に不法侵入してるし、人間ではないなぁとは思った。

 

「神じゃなきゃ、悪魔か何かだろう」

 

「その認識で構わないよ。まあ私は末端の末端の、更に末端の仕事をしていてね。要するに実働部隊。直接人間の所へ出向くのさ」

 

「別に人間でなかろうと来るのはいい。漫画を勝手に読んでいたのも構わない。問題は『何をしに来たか』だ。悪魔なら魂でも狩りに来たのか?」

 

「まあ、似たようなものだね。君にはこの作品に酷似した世界、つまりパラレルワールド的なところに行ってもらう」

 

 そう言って彼女が手に取ったものは、さっきまで持っていた漫画……ではなく、部屋の片隅に置いてある『18禁』の丸印がある箱。

 

 

 

 

 

 この大空に、翼をひろげて

 

 

 

 

 

「なんとまあ、マイナーな…」

 

 すなわちエロゲである。

 

 どうせなら隣にあるFateでいいじゃん。

 

「あんな死亡フラグしかない世界に行って何をするんだい? まあ、どうしてもと言うのならそちらに変更しても構わないが?」

 

「すみません、こっちでお願いします」

 

 おっと、ついつい敬語が出てしまった。

 

 これは僕のモットーである『媚びない、へりくだらない、ただし逆らわない』に反するな。

 

 嘘だけど。

 

「はいはい、みーくんごっこはやめてこちらを見なさい」

 

 よく今のネタ分かったな。

 

 最近の悪魔は二次元に精通しているようだ。

 

「で、なんでそんなマイナーな作品世界に行かなきゃならないんだ? もしこの世が二次創作だったら誰も読まないぞ?」

 

 というかタイトルすら知らない人が大半のはずだ。

 

「いやね、最近私らの中で感動モノのエロゲが流行っててな。私はユニゾンシフト派なんだが、多数決でプルトップの『この大空に、翼をひろげて』に決まったのさ」

 

 やれやれだぜ、みたいに肩をすくめるこの女の頭はイかれてるのか?

 

「ま、そんな感じで、準備なし特典なし、おぼろげな原作知識のみで青春を謳歌してみな。引きニートの君でも何か得られるものがあるかもよ?」

 

 パチン。

 

 彼女が指を鳴らすと、僕の意識は暗転した。

 

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